頭痛が治まって、会話を交わす余裕が出来た頃、彼、ガシキはふと気付いた。
リズはそうでもなさそうだがハルの方から“なんか嫌だ”そんなオーラが出ている。きっとある中だと思われている。
まぁ・・あながち自分はそうなのかもしれない。二人の後ろを歩きながらガシキはフードの下で苦笑いをした。
 もうサドンに着くという時にハルが懐中時計を取り出した。なかなかのいい時計の様だ。リズが素早く飛び付く。
・・・小動物のようだ。ハルは困って怒って呆れて慌てて。リズは弄って眺めて感心して。
 「250!!」
弾き出された金額に現、持ち主ハル自身が驚いている。歩きながら時計とハルについての会話に混じる。
・・ここ数日会話をしていなかったからか、リズから買った酒のせいか、彼にしては喋った。
(たぶん彼にとっての5日分は喋った)そうこうしているうちにサドンに着いた。
人が少ないリザイアでここは活気がある。荷物を運ぶ地竜が行き交う人々。
日がもう傾いてきているからか影が長い。
 「これだけ人出があれば・・・。15分だけ寄り道していい?」とリズ
 「なっ・・ふざけんな俺は依頼の・・・ッ!」髪で隠れていて見えないがハルは目を見開いて抗議した。
腕をめいいっぱい振ってリズから逃れようと必死に。・・・なんだか見ていて気の毒になってきた。
 「・・・構わないが・・」彼はそう言いながらハルへ視線を向けて、でもハル君はどうかな・・・と、身振りで示し、
ハルに取り敢えず助け舟を出した。ハルの方は、そうだ困る!・・と首を横に大きく振りながら
 「いい加減に離せよッ!」・・・苛立った様子でリズに怒鳴る。リズの方は歌う様に、
 「慌てなくても大丈夫だよ。此処から港まで15分もあれば着くよ、ボクの足なら。で、出航が46分後位だから、
今急いで港へ行っても待つ事になるよ。時間は有効に使おう。」それを聞くとハルは舌打ちを一つ。そして黙った。
・・・降参らしい。
 「それじゃあ決まり。行こッ。」リズ楽しそうだ。・・・でも何処へ?彼は首を傾げてリズに問う。(ボディランゲージ)
 「ん?行き先は何処かって?リザイアの商人ギルド。リザイアを出る前にアデュークの商品を
・・特に生物なんかを売り捌いておきたいんだ。」

 ビシ ビシ   リズについて歩く三人の後ろで森からついてきたモノがまた音をたてた。
 
極々小さな音だった。



                                     *                               
 
 
 凄い熱気だ。ギルドへ一歩足を踏み入れると、威勢のいい呼び込みの声やら値切る声。ギルドと言うより市場の様だ。
人込みの中をリズはスイスイと縫って行く。・・・器用なものだな・・。ハルはこの賑やかな空気が不快なのも相まって
不機嫌極まり無いといった様子だ(もっとも彼はハルの機嫌がいい時など知らないが)
 「じゃあボク達はココに居るから、おにぃさんはその辺の店を見てくるといいよ。
10分位したらココに戻ってきて下さい。」
・・・分かったそうさせてもらうよ。彼はゆっくり肯いて、その場を後にした。なんとなくハルに悪いな、と思いながら。


彼の目は自然と食料品や酒類にいった。森に居る間、殆ど乾物ばかりだったため新鮮な物が欲しかった。
旨そうな水梨があったので3個程買う。
 「3個で600ガロだよ。」
愛想のいい店主はそう言って、1つオマケしてくれた。・・・いい買い物したな・・。ほんのり幸せを感じながら
立ち並ぶ店を冷やかし歩いている彼の目が透明な瓶に釘付けとなった。
 ・・・これは・・。
手にとってみる。
 「お、兄さんお目が高いねぇ。そいつぁ今は亡き酒造所主が造った一点物だよ。
7年物で飲み頃だしな。安かぁないが損はないぜ。」
 「・・・幾らだ?」酒瓶から手を離さずに聞く。
 「・・・・9メルと50リザでどうだい?」商人の目がマジだ。
“メル”とはガロの万単位、“リザ”は百単位を差す。つまりこの酒はひとつ
95000ガロする、という計算になる。彼は財布と相談してポツリと
 「・・・・7メル・・」の一言。
 引く気はない。
 「一点物だぜ?妥当だよ。むしろ安いくらいだぞ?」
 「・・・・・・・。」
黙ったまま、しかし酒瓶は離さない。
 「・・・判った。8メル80リザ。これ以上は譲れん。」
 「・・・・・・。」
黙って商人を見つめる。
 「・・・・こっちも商売だ。いいだろう。8メル。」
 「・・・・・・。」
不動のまま商人に目で訴える。
 「・・・・。」
商人も黙る。暫くにらめっことなった。引かない両者。
 「・・・だぁ〜〜〜ッ!わぁかった!わかったよ。7メルで持ってきなッ」
とうとう商人が折れ、爽やかに敗北した。
 「・・・・ありがとう。」
微笑ながら7メルを渡した。去り際に商人から握手を求められた。数分で妙な友情が生まれていた。



 ・・・・いかんな・・早く戻らなければ・・・。にらめっこで時間を使ってしまった。
今から戻るとギリギリ10分かそこらだ。心持ち早足になる。・・・が、程なく後ろから
 「おぅい、おにぃさん!こっちこっち!」リズの声が呼んだ。
人でごったがえして騒がしい中、リズの声はそれ程大きくないのによく響いた。ハルも一緒だ。
人を掻き分けて二人と合流する。人込みを見渡してから視線をリズへ向ける。
 ・・・よくこの中で俺だと分かったな。と、リズに目で話掛ける。(アイトーク)
 「おにぃさんは、他の人より頭一つ分高いからね。」・・・だそうだ。
ギルドを抜け、港への道を急ぐ間もリズは歌ったりしている。
時々スキップになったりするので掴まれているハルはバランスを崩す。
 「あぁ、ごめんごめん。」
分かっているのかいないのか、リズの調子は崩れない。
 「そうだ、おにぃさんは何か買った?」
リズに問われて、さっき買った水梨を二人に差し出して
 「・・・よければ。喉渇いてるだろう・・・。」
リズは「これはこれは、旅の出会いに感謝だね。」と、素直に受け取り、
ハルはかったるそうに「・・・ドーモ。」と、受け取った。


   ピシピシ・・・・ピシリ・・・・

サドンの町を抜けても、それはついてきていた。