ピピピ、と軽やかな電子音がチャッピー型目覚まし時計から流れると、ルキアはすぐにスイッチを押して音を消した。
時刻は朝の6時丁度。
起きようと身動きをしたところで、自分が恋次の腕の中にすっぽりと収まっていることにルキアは気が付いた。
昨日、恋次は仕事が長引いたようで、なかなか家には帰ってこなかった。22時を過ぎたら相手を待たずに寝ること、というのがふたりの間の約束なので、ルキアは先に休んでいたが、昨日は泊まり込みはせずに済んだようだ。
しばらく眠る恋次の顔を見つめて、ルキアは幸せそうに微笑む。
共に暮らし始めて2週間になる。
毎朝布団の中で目を開けると、そこには必ず恋次がいる。それだけでルキアはたまらなく幸せだ。
―――今朝は味噌汁とだし巻き卵と焼き魚、それにほうれん草のお浸しにしよう。昨日浸けたキュウリはもう浸かってるかな。
恐らく日付が変わってから帰宅したであろう恋次を起こさないように、ルキアはそっと身を起こして布団の中から抜け出―――そうとした。
「わ」
「よう」
きゅう、と恋次の包囲網がせばまって、ルキアの身体は恋次の腕の中から抜け出せなくなっている。
「まだ眠っていて良いぞ。昨日は遅かったのだろう、朝食が出来たら起こしに来る故、もう少し休んでいろ」
「朝飯よりお前がいい」
「ば、莫迦なことを言うな莫迦者!」
しかしとうの本人は全く莫迦な事とは思っていないようで、ぽふ、とルキアの胸に顔を埋めている。
「こら、私は朝食の支度を……!」
「まだ6時じゃねえか。ふたりで準備すりゃ速いって」
「駄目だと言ってるだろうが!そ、そんな事したら風呂にだって入らなくちゃいけなくなるしっ」
「それもふたり一緒に入れば間に合うって」
「駄目だって言ってる、……ぁ!」
恋次の唇が、ルキアの耳朶を甘く噛む。
次いで、ルキアの首筋に顔を埋め、その首をぺろりと舌で舐め上げた。
「ずるいぞ、そんなことされたら抵抗できないの知ってるくせに……っ」
「そんな事って?」
「……んっ……今お前がしてる事だ、莫迦!」
「今日も好きだぜ、ルキア」
「うー……」
「遅れて申し訳ございません……!」
隊舎に駆け込んでまずそう頭を下げたルキアに、清音は「まだギリギリ大丈夫だよ!」と明るく声をかける。
それでも遅刻ギリギリの刻限なのは間違いない。ルキアは隊長席に近付くと「申し訳ございません」と頭を下げた。
「お前がギリギリなんて珍しいな、朽木」
「もう朽木じゃないですよ隊長!」
清音の朗らかな声に、対して浮竹の表情はどんよりと曇る。
「そうか、阿散井か……」
ルキアが結婚してからというもの、浮竹はずっと黄昏ている。浮竹にとっては娘のように大事に見守っていた存在だ。それが結婚したとなれば気分は花嫁の父。幸せそうなルキアを見るのは嬉しいが、やはり何処か複雑だ。
そんな微妙な浮竹の気持ちを知らず、清音は、
「新婚だもんね、朝はつらいよねー」
と、にへ、と笑いながらルキアに向かって言い、それを受けたルキアはといえば、途端にぱあっと顔を赤くしてうつ向いた。
「……くっ……」
「あ、たいちょー!どこ行くんですか、何で泣いてるんですかたいちょー!!」
「おはようございます恋次さん」
「っす、理吉」
「昨日はお疲れさまでした、何時に帰ったんですか?」
「あー、日付変わってすぐだったかな」
「ルキアさんきっと待ってたでしょう、申し訳なかったですね」
「いやお前、そこは色々だな」
「え?」
「夜は駄目でも朝にだな」
「は?」
純情な理吉が恋次の言葉を理解せずに「?」を頭の周りに飛ばしている中、ばきん、と背後から何かが折れる音がした。
振り向いた理吉の視線の先、舞い散る桜の花片のただ中で、現在阿散井副隊長の義理の兄でもある六番隊隊長は、丁度その白魚のような美しい御手で斬魄刀を引き抜いた所だった。
「ど、どうしました隊長!?」
「どけ理吉」
「何で斬魄刀抜いてるんですか?!」
「二度とこいつが遅刻せぬよう叩き切る」
「遅刻で死刑ですか隊長!!」
「いや、ルキアも一緒に遅刻するのが許せないんですよねお義兄さん」
でもお義兄さんがワザと俺に夜中まで仕事させるのが悪いんスよ、と余裕の笑みを浮かべる恋次の笑顔が凍りついたのは、その、すぅっと無表情になった白哉の顔を見た瞬間。
「 卍 解 」
「うわ、ちょっ……」
「な、隊長?!」
六番隊隊舎は跡形もなく吹き飛んだ。
「何だ?六番隊、ガス爆発か?……あれ?浮竹隊長、どこ行くんですか……って聞いてねぇ!……ん?今、浮竹隊長泣いてなかったか?」
通りすがりの修兵に事情が解るはずもなく、右手の六番隊隊舎、左手の浮竹隊長の走り去る後姿を交互に眺めて、「何だ一体」と首を捻った。
新婚さんシリーズ第1弾。
好評に付き、しばらく新婚さんシリーズが拍手にありました。
という訳で新婚さんシリーズ、こちらからどうぞ!
新婚さん 1
新婚さん2 (表組)