「…なんだこれ」
 修兵は目の前に揺れているソレが目の錯覚ではないか、と思った。
 まさか。
 まさかコイツがこんなものをする訳がない。
 けれどどんなに目を凝らしても、一旦目を閉じて心を落ち着かせて再び目を開けたときも、それは間違いなく恋次の頭で揺れている。
「……おい恋次」
「なんっすか」
「俺の目の錯覚か、お前の頭に揺れているソレは」
「ああ、これ!いいでしょう、新作ですよ、このチャッピー」
「……へー、そう」
 単調棒読みになった修兵の声に気付かず、恋次は嬉々として話し続ける。
「昨日の休みにルキアと一緒に店に行ったら売ってたんすよ。ルキアが喜んでたくさん買いましてね、今朝出掛けに俺の髪結った時に付けてくれたんですよ、チャッピーゴム」
「……ふーん」
「あ、これからうち来ます?ルキアも会いたがってますよ、俺たちの結婚式以来修兵先輩に会ってないってこないだぼやいてましたし」
「ああ、それじゃ…お前ら何処に住んでんだっけ?」
「六番隊の近くですよ」
 家へと案内する恋次の頭を跳ねる白兎の髪飾りを複雑な表情で見ながら、修兵は歩く。
「ここです。…ルキア!」
「お帰り、恋次!…あ、檜佐木殿!」
「久しぶりだな、お嬢さん」
「いらっしゃいませ、どうぞ上がって下さい」
「お邪魔しま…」
 差し出されたスリッパ。
 …ちゃっぴー。
「……」
「いいっしょ?これ」
「……ああ、そうだな……」
「さ、どうぞどうぞ。上がってくださいよ」
 部屋中全て。
 チャッピー。
 チャッピー。
 チャッピー。
 チャッピ……。
「な、なんだこの家は!」
「ふふふ、すごいでしょう。チャピーミュージアムと言っても過言ではないこの品揃え」
 満足そうな恋次の声に修兵は愕然とする。
「お前、これ見てなんとも思わねえのか!」
「いや俺も最初は引いたんすけどね、いや毎日見ているうちになんかこう、俺もいいなー、とか思い始めてですね」
「……」
「今では俺も大好きなんすよ、チャッピー」
 から、と恋次が開いた扉の向こう。
 新婚の二人の寝室はというと、
 大きなベッドがひとつ。
 シーツも掛け布団カバーもチャッピー柄。
 そして極めつけ。
「白いチャッピーがルキアの枕で、黒いチャッピーが俺の枕なんすよ」
 嬉しそうに笑う恋次の向こうに、修兵は微笑むルキアの姿を見つけて戦慄する。
 
 恐るべし洗脳能力。
 
「檜佐木殿、よかったら今日泊っていきませんか…?」
 ルキアの手にするチャッピー柄パジャマを目にして、修兵は眩暈がした。