教会の状況は、日に日に悪化していくのがわかった。
既にもう、寄付だけでやっていける段階ではないのだ―――シスターの、日を追うごとに切迫していく表情で、恋次はこの教会の状況を正確に把握していく。
食卓に上る食事を見て、それは他の少年達にも伝わっただろう。格段に量や種類の減った日々の食事に、それでも彼らは何も言わず、大事に大切にそれらを口にした。
全員が、何とかしようと心を砕いている。
皆、この教会が好きなのだ。
皆、共に住むこの「家族」が好きなのだ。
けれど、シスター一人の力では、子供のたちの力では、全てを好転させる事が出来ず。
恋次が誰にも告げずに街へ出て、そして持ち帰るその金額では日々の生活を維持させる事しか出来ず。
抵当に入った教会の土地を、買い戻す事など夢のまた夢に過ぎず―――。
「恋次、どこ行くの?」
背後から声をかけられ、恋次は恋次らしからぬ動き―――びくりと身を竦ませる、という動きの後、一呼吸置いてからゆっくりと振り返った。
その声の主、ルキアと向き合う。
「ああ、ちょっと―――街へ。直ぐ戻ってくるから」
「やだ、行かないでよ」
「ルキア―――」
「一人にしないで。恋次が行くならルキアも行く」
「直ぐに帰ってくるよ、街で稼いでくるだけだから」
「ルキアもお手伝いする。いいでしょ?」
引き止めるように恋次の手を握り締めるルキアには、恋次が街で何をしているのか朧気ながら気付いているのかもしれない。
酷く、哀しそうな顔だった。
その表情に、恋次は唇を噛み締める。
そんな顔をさせない為に、自分は街へ行くというのに。
ルキアには、辛い思い、貧しい生活はさせたくなかった。
今まで苦労してきた分、誰よりも幸せにしたかった。
いつでも微笑んでいられるように。
ルキアの笑顔の為ならば、自分の手や身体が汚れても構わなかった。
恋次は再び、以前身に付けた己の能力を最大限に使っている。
流石に犯罪行為は犯してはいないが、それに近いぎりぎりの事はやっていた。
数枚の札と引き換えに、豊かな生活で弛んだ女の身体を、貪欲な彼女達が満足するまで言われるままに抱いた。
決してルキアには言えない。
「ル―――」
何とか誤魔化そうと、ルキアを呼んだ恋次の声が「ルキア!恋ちゃん!!」という少年の声に掻き消された。
ばたばたと走る音と、荒い息遣い。
恋次たちの視界に入った少年は、息を切らしながらもう一度二人の名前を呼んだ後、「大変だ」と震える声で呟いた。
「どうした?何があった?」
ルキアは怯えて恋次の服の裾を握り締める。その小さな身体を抱き寄せながら、恋次は少年を促した。
「今―――岩崎さんが来て」
囁くように、怯えるように少年は小声で二人へ告げる。
この事実が、二人に与える影響を慮って、躊躇いながらそれでも少年は告げた。
この直ぐ後、自分が言わなくても伝わってしまうだろう事実を。
出来うる限り、考える時間を二人へ与えるために。
少年は小さく息を吸い込んでから、言った。
「岩崎さんが―――ルキアを引き取りたいって、先生に」
世界が、音を失った。
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オフ原稿に取り掛かりの中、一番更新したかった「STAY」更新させていただきました!
この5,6話を書いてるときにパソコン壊れてね、水かけちゃってね、起動できなくてね……。データは無事でよかったです。
で、本当は5、6話でアップしようとしたのですが、地味になっちゃうので7、8話も一緒にアップ。8話、短すぎですが。
4話で「第T章は全部で8話」とか言ってますが、伸びました(笑)
そして裏なのに全然裏らしくない現在ですが、U章「ルキア」から裏らしくなり、V、Wと進むにつれハードになりますのでお楽しみに(笑)
うー、はやくW章書きてえ……。
今回新たに「彼」が出演しましたが、こんな風に今後もまだ色んな人が出てくる予定ですので。
「彼」の主人が誰か、まあお分かりだと思いますが(笑)はやく出したいですー。
それでは、また!
2005.11.13 司城 さくら
yassaのイツマさまより、STAYのイラスト、漫画を頂きました!→こちら
ありがとうございます!!甘いですよーv