―――許せなかったのはその行為―――自分以外の女を抱いたという、その行為。
「阿散井恋次」を自分のものにしたかった。自分だけのものに。自分以外の女を抱き、自分以外の女に触れ、自分以外の女に愛を囁くなど―――決して許せる行為ではなかった。殺してやりたい、そう思った。
願望ではなく、殺意。
自分以外の女に触れた、阿散井恋次への一方的な復讐。
けれど、―――今。
白い肌に、誰も触れたことのない白い肌に触れ、誰も見たことのないルキアの裸身を見下ろしているのは―――紅い瞳。
「こうなるかもしれないってよ、全く考えなかったのか、お前?」
ルキアの両手を頭上で押さえ拘束し、恋次は笑いながら舌でルキアの唇を割り入っていく。苦しげな顔を嗜虐的に見つめ、恋次はルキアの口内を侵し甘い唾液を絡め取る。
「いや、考えてたよな?その上で『好きにしろ』って言った訳かよ」
舌を開放し、恋次はルキアの耳朶を軽く咬みながらその耳に低く甘く官能的な声で―――毒を注ぐ。
「お前の同級生が俺に遊ばれるのを見て興奮したのか?元々興味があったのか?初めて会った時、最初はお前全然拒まなかったもんな―――ああもあっさり知らねえ男に身を委ねるお嬢さまがいるとは思わなかったぜ」
淫蕩なんだな、と恋次はルキアの白い胸を乱暴に弄った。恋次の大きな手の中で、ルキアの小振りの胸が苦しむように形を変える。
「ほら―――起ってるじゃねえか」
桜色の突起を舌で煽られ、ルキアの身体はその恋次の舌から逃れようと弱々しく身動ぎした。その身体を押さえつけるように、恋次がルキアに体重をかけ、その胸に顔を埋め激しく胸を責め始める。舌で、手で、指で、吐息で―――荒々しく、激しく、容赦なく―――ルキアの身体と心を追い詰める。
快楽を与えるよりも苦痛を目的とした恋次の動きは、酷くルキアの身体を乱暴に扱った。きつく肌を吸い、乳房を咬み、捻じるように揉みしだく。その痛みをルキアは声には決して出さなかった。
「お前は誰でもよかったんだよ―――ヤれるなら。本当はお前の『兄様』とヤりたかったんだろ?お願いしてみりゃ良かったじゃねえか、きっと抱いてくれただろうに」
ルキアの胸から鎖骨へと舌が移動し、やがて首筋へと異動する。その白い肌に舌を這わせ、恋次は強く肌を吸い紅い花を咲かせていく。
「まあ、お前が迫らなくても時間の問題だったろうな……あの兄貴もそろそろ限界だったろうよ、お前を見るあの目から見ると―――近い内にお前、兄貴にヤられてたぜ。わざわざ俺の所に来なくても大好きなお兄様とヤれたのにな」
「兄様を……侮辱するな」
押さえつけられて初めて、ルキアは言葉を口にした。乱れた絹の黒髪の下、怯えていた瞳が冷たい光を取り戻す。
「貴様と一緒にするな、兄様はこんな―――……っ!」
指が―――侵入する。
思わず身体を硬くするルキアに向かい、恋次は「こんな、何だよ」と笑う。指を沈め内壁を刺激し、ルキアの震える姿を見下ろし。
「兄様は貴様とは違う」
蠢く指に唇を咬みながら、ルキアは頭上の恋次を睨みつけた。指が与える刺激を無視して、「朽木ルキア」の矜持を取り戻す。
自由になるのだ―――この男から。
この支配の絲を断ち切って。
この惹かれる心を断ち切って。
「こんな事で私が傷付くと思ったら大間違いだぞ、阿散井恋次。この程度のことで兄様の生命の無事が保証されるのならば全く安いものだ」
荒い息の下でルキアは笑う―――絹の黒髪は乱れて、白い肌に張り付いている。恋次の右手で自由を奪われながら、恋次の左手の指に女であることを思い知らされながら、それでも冷たく笑って見せた。
「苦痛は耐えられる―――私は一度死にかけた。その時の痛みに比べたら―――あの時の兄様の愛情に報いるためならば。この程度の苦痛は、痛みではない」
「そうかよ」
冷たい瞳で見下ろしたまま、恋次の唇だけが笑みの形をとった。
ルキアの両手を縛めていた右手が解かれる。内部に蠢いていた指が引き抜かれる。
「ならばその自尊心を―――粉々に砕いてやる」
両手で頬を挟み、ルキアの顔を覗きこんで恋次は哂った。
憎まれていると―――心が冷えるほどの、その笑み。
恋次の手がルキアの胸に触れる―――先程とは違う、やわらかな触れ方。
耳朶を甘く咬まれた。
胸の突起をやさしく舌で転がされた。
首筋を舌で辿り、耳に吐息が吹き込まれ、太腿を丁寧に愛撫され、―――ルキアの泉は、見る間に水を湛えていく。
「な、なんだ、これ、は―――!」
身体が、熱く、燃えるように熱くなる。
恋次が何気なく触れるたびに、身体が痙攣したように跳ね上がる。
思考能力が奪われていく、理性が消えてしまいそうなほどの強い刺激。
生まれてから今まで、体験したことのない激しすぎる刺激。
「貴様―――私に、何を」
愕然としながら口にした言葉は、次の瞬間、恋次が口に含んだ胸の頂への刺激によって掻き消される。
「何を―――やめ……っ!私に、何をした……っ!」
「気持ち良くしてやろうと思ってよ?」
苦痛が苦痛でないのなら―――快感を与えてやるよ、と恋次はルキアの耳元で囁いた。
「お前はこれから堕ちるんだよ、自分から快楽を欲しがって―――『俺の』思う通りに、淫乱に猥褻に」
暗闇に響く残酷な声。
「無理矢理俺にヤられるんじゃないんだぜ、お前は自分から欲しがるんだ。強制だったら自分に誤魔化しはきくだろうけどな、でもお前は―――」
恋次の指がルキアの泉に沈み込む。身を硬くするルキアの内部を優しく行き来し、ルキアの最も敏感に感じる部分を探る―――その場所は直ぐに見つけ出し、恋次はそこに指を当てくっと押す。
「ゃぁ……っ!」
びくん、とルキアの身体が仰け反った。初めてその唇から、甘い喘ぎ声が洩れる……それに気付き愕然とする前に、もう一度恋次の指がルキアを煽った。
「ぁ、ぁ!」
ルキアの身体はあまりにも無垢で―――恋次の、幼い頃から身に着けさせられたその知識や技術に対して、ルキアはあまりにも無防備すぎた。
恋次の指が動くたび、恋次の舌が触れるたび、恋次の手がなぞるたび―――ルキアの声は徐々に大きく、ルキアの理性は徐々に快楽を求める本能に消されていく。
強張っていた身体から力が抜け、自分の中に沈む指を離さぬようにと締め付ける。
同じ動きで唇から差し入れられる男の舌に、初めはぎこちなく、徐々に我を忘れて自分から激しく舌を絡ませるルキアに、男の笑みが深くなる。
身体を突き抜ける快感、男の手が触れるたびに熱くなる身体、それと共に溢れ出す透明な雫、絡ませる互いの舌から零れる銀の絲。
何も知らない少女が初めて受けるには、あまりにも淫らなそれらの行為。
忘我の頂にいるルキアには、自分の足を持ち上げ肩の乗せた恋次が何をしようとしているのかもわからない。される儘に身を任せていたルキアは、今までとは比べ物にならない快感に悲鳴を上げた。
声にもならない。言葉にもならずに、恋次の舌がそこに触れるたび、泣き声のような悲鳴を上げて身体を震わせる。自分が朽木ルキアであるということも既に認識してはいなかった。恋次の与える刺激だけが全てだった。
純粋で純真な、無垢な処女の少女に与えるには、あまりにも淫猥で淫らなものだけを選んで恋次はルキアを堕落させていく―――恋次の下に組み伏せられているのは、冷たい瞳の世界有数の資産家の令嬢ではなく―――ただの、与えられる刺激に反応するしかない、無力で無垢な少女だった。
恋次の指が、そこに沈む。
恋次の舌が、そこに触れる。
耳に吹き込まれる熱い吐息、焦らすように軽く咬む耳朶、絶え間なく刺激を与えられる胸―――縋るように恋次へと伸ばされた手は口元に引き寄せられ、指の一本一本を口に含まれ、足の指に到るまで舌で愛撫を受け―――一番敏感なそこを、指で煽られ舌で焦らされる。
薔薇の花弁からとめどなく溢れる透明な蜜―――それを指で掬い舌で掬い、淫らな音を立てて恋次は味わう。
その音にルキアが反応することはもうなかった―――羞恥も既に感じることが出来ず、痙攣するように、恋次が触れるたびに身体を跳ね上げ震わせる。紅い唇からは絶え間なく甘い悲鳴と歓喜の吐息が洩れ、紫の瞳に映る紅い瞳の冷たさを意識することも出来ず―――与えられる悦楽、感じる愉悦、震えるほどの歓喜に身を震わせ声を上げ、自ら足を開き腰を絡め―――。
阿散井恋次の思う通りに。
淫乱に猥褻に。
堕ちていく。
意識する余裕もないまま、激しい急流に流されていく。
「ぁ―――ぁ!」
突然、自分の内部から陶然とするような刺激を与えていた指が引き抜かれ、ルキアは引き止めるように頭上の男を見上げた。
その瞳は、先程まで冷たい光を宿していた紫の瞳と同じと思えないほど熱く潤み―――「何だよ?」と問いかける恋次へ、熱に浮かされたように、ルキアは激しく首を横に振った。
「何だ?言ってみろ」
溢れる泉の入口を軽く指で一瞬触れ、びくんと反応するルキアを見下ろして、恋次は直ぐに指を離す。途端、ルキアは切なそうに小さく声を上げた。
「や、……やめな……で、も、っと」
「もっと?」
「つづき……おねが、……続き、を……―――!」
紅の瞳が嗤う。
同時に、紫の瞳に光が戻る―――理性、という光。
「…………っ!」
大きく見開いた瞳、驚愕と屈辱と絶望と羞恥と―――紛れもない痛みをその紫紺の瞳に見出して、恋次は声を上げて笑った。
「『お兄様』に聞かせてえな、今の言葉をよ?」
自分が口走った言葉に愕然とするルキアを更に傷つける言葉に、ルキアは凍りつく。
「兄様―――……兄、様……」
脳裏に、美しい兄の顔が、責めるようにルキアを見ている。
兄を、朽木家を裏切った自分を冷たく見つめている。
けれど如何することもできなかったのです、とルキアは幻の兄にそう告げる。
―――もう、如何にもならなかったのです。だから、私は―――
何度も想いを断ち切ろうと、何度も想いを捨てようと……けれど。
―――自分は……やはりこの行為を望んでいたのか。
『阿散井恋次』から開放される前に、その存在を失くす前に、ただ一度きりでも抱かれてみたいと―――
初めて言葉を交わしたあの教会の、あの時の歓喜を。
見つけた、という想いを信じたくて、だから最後に一度だけ、と―――
望んでいたのか。
阿散井恋次に抱かれることを。
けれど―――それは、望んだこととはかけ離れた―――その熱を感じることは出来ないほど、冷たい―――行為。
其処に愛はなく。
凍るような冷たさ、虚ろな行為でしか―――なかった。
「……ぅ、ぅ……」
再び指を沈められ、内部で蠢くその指に翻弄される。
女という身体の隅々まで知り尽くした、容赦なく官能を引き出し、理性を失わせ本能だけにしてしまうその動きに、ルキアは嗚咽する。
泣き声のような小さな声に返るのは―――酷く冷たい紅い瞳だけだった。
自分の感覚を、身体を、心を支配するその男は―――あまりにも。
冷たくて残酷で―――美しかった。
その紅い髪の向こうに、白い月。
月が―――見ている。
月が、哂う。
抱かれたいと思った相手に、欠片の愛情も与えられることなく抱かれる行為は―――あまりにも、哀しい。
頭上の月が、愛する男に身体と心を傷付けられる自分を見下ろし、嗤って―――いる。
その月と同じ美しさで、その月と同じ残酷さで、その月と同じ笑顔で、恋次はルキアを見下ろし―――
その月と同じ冷たさで。
恋次は一気にルキアを貫いた。
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