疲労に軋む身体を引き摺るように、恋次は自宅までの道を歩いていた。
恋次の疲労の理由―――それは、この日恋次の所属する十一番隊恒例の行事、半年に一度の大掛かりな虚討伐が遂行された所為だった。
隊長の更木剣八を筆頭に、副隊長草鹿やちる、三席斑目一角、五席綾瀬川弓親という怱々たる顔ぶれが揃う、滅多にない機会だ。その鬼神のような戦い振り、しかも高名な四人の剣技を目の当たりにする機会は滅多にない。
その虚討伐に、恋次は今回初めて随行を許された。
この討伐行は、その過酷さから隊長が許可したものしか同行を許されない。つまりこの討伐に許可が下りたということは、隊長の眼鏡に「ある程度」は適っているという証なのだ。
高揚する心を押さえきれず現世に降り立った途端、まるで計ったかのように虚は一行に襲い掛かってきた。
剣八が望むから現れるのか、事前に一角あたりが調査をしているのか、息をつく暇などない程虚は次から次へと襲い掛かり、仕舞いには群れとなって襲ってきた。
考える暇もない。
蛇尾丸を開放し、右に左にと剣を振るい続けて数時間、気付けば辺りは血の海、虚の屍が累々と積み上げられている。
肩で息をする恋次に「生きてたかよ、上出来上出来」と一角が肩を叩き、弓親が「怪我はないかい?」と労い、「れんれん、力あるね!下っ端だけど」と賛辞かどうかわからない言葉をやちるに掛けられ、「……まあまあだな」と剣八ににやりと凄みのある笑みを向けられ。
尸魂界へ戻ったのがつい先程。
日は既に落ち、夜の闇が空気をひどく冷たいものにしている。そういえば今夜辺り雪が降るかもしれないと弓親さんが言ってたな、と恋次は思い出した。
吐く息は白く、いつ振り出してもおかしくないほどだ。
―――家に帰って風呂を沸かして、夕飯……腹減ったけど作る気力はねえな……
何処かで買って帰るにも、既に店は閉まっている時間だ。
最悪このまま寝ちまえ、と疲れきった恋次は考えながら、やっと辿り着いた自宅の扉に手を掛けて、迂闊にもようやくそれに気が付いた。
―――明かりがついている。
そして、中から感じる暖かい霊圧。
勢いよく開けた扉が、その力の強さに不満を訴えるように大きな音を立てたが、恋次は勿論そんなことを気にする余裕などなく。
「お帰り、恋次」
柔らかく微笑むルキアの姿に、ただ呆然と立ち尽くしていた。
この雪に願えるならば