どくんどくんと身体が脈打つ。
 己の意思でなく、無理矢理感じさせられている身体は、体中に這い回るその手が嫌悪すべき男達の手だというのに、歓喜の波動をルキアの脳へ伝達する。
 違う、違う。
 こんなのは違う、私はこんな事を望んでいない。
 そう叫んでも、身体は熱くなっていく。
 掴まれる手、押さえつけられる手、それすらも―――快感だ。
 自分の体に触れる全ての刺激が、どれも愛撫と変わらない。強烈な感覚。
 自分の吐き出す吐息が、紛れもなく喘ぎ声に変わっているのに気が付いて、ルキアは唇を噛み締めた。
 嫌だ。
 厭だ。
 こんなのはイヤだ―――
 ルキアの瞳から、涙がこぼれる。それは頬を伝って床に落ちた。
 自分の身体すら、自分の敵だ。
 流されるまいと唇を噛む。口の中に広がる鉄の味に、僅か正気に返った次の瞬間、一人の男の指が、弄ぶようにルキアの口内を犯した。
 

 男は笑いながら、指で舌を弄ぶ。
 ルキアの唾液を指に絡めて。
 過分に存分に蹂躙する。
 指自体が何か別の生き物のように、それはルキアの口の中で蠢いて―――ルキアの身体はびくん、と反応する。
 呼吸が出来ずに浮かべる苦しさと、指が与える刺激の悦楽と、混ざり合って混沌としたルキアの表情に満足して、男はゆっくりと指を引き抜いた。
 その指を伝う銀の雫に、他の男達が興奮した声を上げる。
 その歓声に、ルキアの目に新たな涙が溢れた。


 気が遠くなる。
 押し寄せる波に呑まれそうになる。
 楽になるために、自分から男たちを望みそうで―――ルキアは絶望する。
 狂いそうな心と身体を引き止めるために、ルキアは呟く。
 何度も何度も。


 ―――恋次、恋次…………
 助けて。
 たすけて………っ!!






「れんじ?誰だ、それ?」
 小さくこぼれたルキアの呟きを耳にして、男の一人が他の男達を振り返った。
「俺が知るかよ」
「お嬢の男なんじゃねーの?」
「何?そんなのがいるのにお嬢未経験なの?馬鹿か、その男」
 げらげらと笑う男達の会話の内容は、もうルキアの思考では理解できない。ただ自分を食い止めるために、意識を保つ為に、恋次の名前を口にするだけだった。
 そんなルキアの身体を見下ろして、男達は残忍な笑顔を浮かべる。既にルキアは囚われた無力な、男達の欲望の生贄に過ぎない。
「お嬢さーん、今日はね、俺達が『れんじ』だよー、安心してねー、4人もいるからさあ」
「俺、『れんじ1』な」
「何言ってんだよお前、こないだの女ン時、一番にヤっただろーが」
「そうだよ、お前は最後」
「ああ?糞、こんな上玉が次の獲物だって知ってりゃあ、あんな女の一番乗りなんてしなかったのによお」
「ま、一番決めるまではお前が遊んでていいよ。……ぜってー挿れるなよ?」
「へーへー、出来るだけゆっくり決めてくれ」
「冗談じゃねーよ」
「なあ?こんなご馳走前にしてよお」
「とにかく、順番だ。一回で二人だな、口と……と」
「やっぱ……でしょ」
「俺、口でいいから。最初にしてくれよ」
「じゃー、俺かお前か、だな。どうやって決める?」
「いっその事、お嬢に決めさせたら?初めての相手は『れんじ』に似てる方がお嬢も燃えるんじゃねーの?」
 下卑た笑い声。下品な会話。下劣な男達。
 そのどれもが、流佳を満足させる。
 そう、ルキアを傷付ける格好の材料。下衆であればある程ルキアを犯す男に相応しい。
 流佳は微笑むと、映写機を回す男に合図をして立ち上がった。
 このままルキアの汚される様を見ていたいが、とりあえず隊舎に戻らなくてはならない。十三番隊にも複数いる、流佳の言いなりになる男を適当に選んで、万一誰かに疑われた時の為に今日のアリバイを作らねばならない。
 まあそんな事もないだろう、と流佳は確信している。朽木家は家名に傷が付く事を恐れて、公に調査をすることはあるまい。問題は浮竹と志波だが、彼らもルキアの事を慮って口を閉じるだろう。
 そして―――恋次。
 恋次は、どうするだろうか。
 白哉とルキアの関係を信じた恋次だ、今回も恐らく―――信じるだろう。
 そして悟る筈だ。
 男達に組み敷かれ、自ら足を開いて動き喘ぐ女が彼の知っているルキアではないと。
 軽蔑し、顔を見る事すら、同じ空気を吸う事すら厭うだろう―――そしてそれこそが。
 私の、望む事。
 流佳は艶やかに微笑んだ。
「じゃ、行くわ。―――後は宜しくね」
 小さな部屋の、唯一の出口へと向かう。足取りも軽く、小さく声まで洩らして笑いながら、流佳は扉を開けて外へ出た。
 きい、と木の軋む音がする。
 穏やかな空気が頬を打つ。
 微笑を浮かべて顔を上げ、―――
 流佳は凍りついた。


「な―――」


 目の前に。
 あかいいろ。
 その髪と同じ色に全身を包んで―――真直ぐにここへと近づくその姿。
 赤い、紅い―――怒りの化身。
 その姿さえ―――何と美しいことか。


「如何して―――」


 目を奪われながら、流佳は呆然と呟く。
 恋次。
 恋次が、如何して―――


「退け」



 怒りの焔をその目に宿して、恋次は流佳に命じた。





 

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