背後から身体を固定され、ルキアは身動きがとれずに、それでも必死に身をよじった。
 小柄な身体は易々と持ち上げられ、その両足は男の手で大きく開かされている。身に着けているものは黒いワンピースのみで、下着は元より着けてはいない。ルキアのその部分はルキアの意思に関係なく外気にさらされ震えている。
 目の前に、刀の化身。
 男の斬魄刀の具象化。
 その狒々の年経た目が、哀れみの色を浮かべて目の前の少女を見つめている。
「……そんなに帰りたいのかよ?あの男の元へ?」
 その声は優しく、けれど奥底には炎のような激しさを秘め。
「……そんなにここに居たくねえのか、お前は」
 熱の篭った声。
「……俺とそんなに離れてえのか、お前は」
 狂気を含んだ声。
 膝の上にルキアを座らせ、背後から両膝を持ち上げ固定した恋次は、怯えるルキアの耳元に優しく狂った言葉を送る。
「仕方ねえよな、お前が悪い……飼い主に逆らうような奴には躾が必要だ」
 ルキアの身体が、更に持ち上げられた。必死に逃げ出そうと身体を動かすが、両腕は背中で括られ両足は恋次に掴まれ、ルキアの身体はただ揺れただけだった。
「や、やめろ……」
 目の前の狒々の目の色。
「恋次、お前……何をする気だ……」
 弱々しいルキアの声に、恋次は微笑む。
 悪魔のように、美しく邪悪な笑みを浮かべて、恋次は言った。
「蛇尾丸、やれ」
「れ、恋次……?」
 狒々が「すまぬ」と小さく呟いた。
「あれの狂気を儂には止めることが出来ぬ……あれがこれ以上壊れぬように、あれが正気を取り戻すように、あれの気の済むまでやらせるしか儂には出来ぬ……すまぬ、娘」
 狒々は最後にもう一度、ルキアを憐憫を込めて一瞥してから、ゆっくりとルキアに背中を向けた。
 ルキアの顔から血の気が引く。
「……まさか……恋次、お前まさか……」
「俺のだけじゃ物足りねえんだろ、お前は?仕方ねえから特別サービスだぜ」
 目の前に、赤く光る小さな目。
 爬虫類の、無表情な小さな丸い目。
「や、やめろ……!」
 今までの比でなく、ルキアは暴れだした。背中で縛られた腕の皮がこすれて血が滲む。それすら気づかずにルキアは目の前の赤い光から身を遠ざけようと必死で暴れた。
「やめろ、恋次!」
「やれ、蛇尾丸」
 無表情に恋次が命じた途端、目の前で鎌首をもたげていた蛇は、自らの頭を、恋次が高く持ち上げ固定したルキアの両足の間を割ってルキアの内部へと入り込んだ。
「ひ……っ!!」
 ずるり、と中に入ってくる冷たい感触にルキアは背中をのけぞらせた。
 ずるずると、それはルキアの内部へ、奥へと侵入してくる。意思を持ったそれは、ルキアの内部で身体をくねらす。鱗がルキアの内壁をこすり、決してヒトには出来ない、更に奥へと舌を伸ばしルキアの内側から愛撫する。
「や、いやあ……っ!やめてくれ、おかしくなる、気が狂う……っ!」
 がくがくと痙攣する身体と脳天を突き上げる紛れもない快感に、ルキアは気が遠くなりそうになる。けれどその刺激の強さに意識を手放すことも許されず、苦痛と快感を行き交って、うわ言のように何度も、やめてくれ、と泣き続けた。
「狂えよ、ルキア」
 ルキアの口元から零れる銀の雫を舌ですくい取りながら、恋次は命じる。
「俺しか見なくていい、俺の事しか考えるな。狂え、他の何もお前には関係ない。この部屋だけがお前のいる場所だ、俺の元だけがお前のいる場所だ、ルキア」
 耳元に囁きながら、恋次は仰け反るルキアの首筋を舌で辿る。
 ―――俺の元だけがお前のいる場所だ。
 その言葉は、言えなかった言葉。
 あの時、口に出せなかった言葉。
 ルキアを行くなと引き止められず、そして恋次は―――狂っていった。
 閉鎖された暗い檻に、ルキアの悲鳴はいつまでも響く。
 その声は誰の耳にも届かずに、ただ今日も冷たく時間は過ぎていく。


「離さねえよ、ルキア……何処にもやらねえ」
 ルキアを背後から抱きしめる腕は優しく、囁く恋次の表情は穏やかだった。
 それは狂気故の穏やかさ。
 後悔と愛しさと絶望と哀しみとが追い込んだ男の―――狂気。






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