ぎしり、とベッドの軋む音で目が覚めた。
 驚き起き上がろうとした私の上に覆い被さるように重い身体が重なって、声を上げようとした私の唇を黒い影は自らのそれで塞ぐ。
「……っ」
 抗った両腕を掴まれて、そのままシーツの上に縫いとめられる。背けた顔を引き戻されて、舌が更に、息も出来ないほど深くに差し入れられた。
 呼吸が出来ない。押さえつけられた両腕を動かそうと必死になってもぴくりとも動かない。
 抵抗する力も失くして身体の力が抜けた時、ようやく戒めから開放されて、私は咳き込んだ。肺に空気を送り込むために、呼吸は自然速くなる。
 男はそんな私を気にも留めずに、私の身体を抱き上げると、ベッドの上に私がうつ伏せになるように放り投げた。
 ぢゃらり、と金属の音が冷たい部屋の中にこだまする。
 私の足首にはめられた鎖が、音をたてて床をうねる。
 その鎖は長く、私がこの家の中で生活する分には困らないほど、どの部屋にも行けるほど長く取られている。
 ただ、この家から出ては行けない。
 窓も無いこの部屋、恐らく何処かの地下なのだろう、この部屋の中で今が朝か昼か夜かも解らないまま、私はずっと過ごしている。毎日何をするでもなく、鎖に繋がれたまま、ただ一人、この部屋で。



「来い、ルキア」
 あの日突然現れ、そう私に告げた恋次に、無理矢理現世へと連れて来られ……その時からこの生活が始まった。
 何日、いや何ヶ月過ぎたのかも解らない。光の射さないこの部屋で、時間の感覚は既に無かった。
 恋次は時折、恐らく現世へ虚を狩りに来た際に、その度にこの部屋へと立ち寄っていく。
 今日のように、唐突に。
 そうして私を抱いていく。
 足首の鎖の所為で、私が身に付けられるものは頭から被る現世の服……ワンピースだけで、その服を恋次は何処からか調達してくる。その服を今、ベッドの上で獣のように四つん這いにさせられたまま腰までたくし上げられて、私は羞恥と悔しさで必死に抵抗した。
 恋次がそれを着ける事を許さないため下着は無く、剥き出しの下半身が恋次の目の前に曝されているこの状態に、私は唇を噛んだ。
「力抜け」
 弄るような声に、私はシーツを握り締める。身体を強張らせて、恋次に対して、この行為全てを決して許さない事を無言で告げた。
「別にいいけどな」
 次の瞬間、無理矢理侵入してきた恋次のモノに、私は必死で声を押し殺した。
 ぎっ、ぎっ、とベッドの軋む音が部屋に響く。
 服の上から、恋次は私の胸を弄び、私の熱を引き出していく。
 この停止した時間の中、何度も抱かれた身体は、心とは関係なく恋次の与える刺激に熱くなっていく。
「声、出せよ?」
 乾いた恋次の声に、必死に首を振って拒絶の意思を示す。
 恋次の動きが、不意に止まった。
 荒く息を吐く私の耳に唇を寄せ、恋次は言う。
「朽木白哉が、お前を探してるぜ……そりゃもう、必死になってよ」
 くくく、と笑った。
「でも、いくら四大貴族だっつっても見つけられねえよな……現世にいるなんて、思いもよらねーだろうよ」
 なあ、ルキア?と、恋次は優しく……残酷な程、優しく言う。
「それも俺に飼われてるなんてな?誰も気付かねーよ」
 そうして、再び私を突き上げた。
 がくがくと突かれるままに揺れる私の身体と共に、堪えていた涙が頬を伝って落ちる。
 どうして、こんな事になってしまったのだろう。
 朽木家に引き取られ、逢えなくなったあの時から、恋次の中で何が壊れたのだろう。
 いつからこんな風な瞳で。
 いつからこんな風になってしまったのか。
 もう、子供の頃には戻れない……無邪気に笑い合ったあの頃へは、もう二度と。
「ルキア」
 私を呼ぶその声は、昔と同じ声なのに。
 恋次の指に、唇に、私は次第に我を忘れていく―――まさしく私は飼われているのだ、恋次に。
 声を上げ始めた私を満足そうに見下ろして、恋次は行為に没頭する。
 何度も求めて、何度も達して、何度も泣いて、何度も憎んで、何度も―――悲しくなる時間が、始まる……。






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