子供の頃から、いつも恋次は特別だった。
判断力に優れ、力もあり、霊力も所持し、そして何よりその誰にでも好かれる性格が、身を寄せ合うように生きていた子供達にとって―――私にとって、安心できる存在だった。
口は悪いが、その裏には優しさがあった。
時にはきつく聞こえる言葉も、心配しているからこそ発せられたものだとわかった。
解ってはいたけれど、素直になれなかった。いつも意地を張って突っぱねた。
それでも恋次はいつも、「好きだ」という気持ちを隠さなかった。事ある毎に、当たり前のように私に告げる。『お前が好きだ』と。
言葉だけではなく、抱きしめる腕の強さや視線、触れる唇の熱さからもそれは容易に伝わってきた。
愛しいと想う気持ち。愛しているという事。
巫山戯る様に、真剣に、戸惑う様に、困った様に、当然の様に。その言葉を口にする表情や季節や場所は変わっても、それだけは変わることなく恋次は私に伝え続けた。
―――それなのに。
私は、一度も―――その言葉を恋次に言った事はなかった。
『何だ、妬いてんのかよ?安心しろよ、俺が好きなのはお前なんだからよ』
『だっ、誰が妬いてなどいるものか!自惚れるな、莫迦者っ!』
『―――お前、あいつが好きなのか?俺よりも?』
『……何をくだらぬ事を言っているのだ、お前は』
―――思えば、あの時も、あの時も。
如何して伝えなかったのだろう。何故素直に言えなかったのだろう。
私が好きなのは、心を占めるのは、何時だって唯一人お前だけだ、と。
「好きだ」とお前に言えなくなるのなら。
伝える事が出来なくなると知っていたら。
もっと、何度も好きだと言えばよかった。
二度と言えなくなるというのなら―――。
月は静かに部屋を青く染める。
こうして何度眠れぬ夜を過ごしただろう。
幾度となく繰り返される孤独な夜。
それはふたりの距離が拡がってから―――
胸の紅い痕が、消えぬ疵のように残っている。
唇に、自ら触れた恋次の体温。
その行為自体に後悔は無い―――けれど。
あの時―――もし、あの場に朽木家の―――白哉の為と言い切った、あの老人の手の物がいたとしたら。
総てを、見られていたとしたら。
恋次の身に危険が及ぶ。生命が危険に曝される。
注意を促す事も出来ない。逢いに行く、ただそれだけでも老人は許さないだろう。
何も出来ない。
逢う事さえ。
恋次の安全の為ならば、二度と逢わない方がいい。
例え誤解を受けたままでも。
白哉との間に兄義妹としてでない関係があると誤解されたままでも。
「―――それでも私はお前が好きだよ」
呟いた言葉は、今ではもう遅すぎた言葉だけれど。
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