『とりあえず――指輪を買おう』
その言葉が唐突に思えて私は首を傾げる。
見上げた さまのお顔はひどく生真面目で、からかわれているのではないとわかって
私は「指輪ですか?」と問い返した。
『まじないだ』
またも予想外な言葉で、私は一生懸命 さまの意図を考える。
けれど浅慮な私には何も思い浮かばず、「おまじない?」と繰り返した。
『そうだ』
指輪とおまじないの関連がわからなくて「何のですか?」と聞いてみる。
すると さまは僅かに頬を染め――他の誰にもわからない程に頬を上気させ、
視線を私から外された。
『お前が私を何時までも好いていてくれるように』
その言葉、その さまの態度で、ようやく私にも さまの意図がわかった。
指輪を、私に。――左手の薬指に、はめるようにと。
それは私が さまのものだという世界への宣言。身も心も。――何もかも。
とても嬉しかった。
本当は固辞しなくてはいけないのかもしれない。
私は さまのご迷惑になる。そばにいては本当はいけないのに。
けれど――嬉しかった。
さまが指輪を私に下さると、そう仰って下さったことが、本当に嬉しかった。
けれどその後の言葉はほんの少しだけ不満。
だから私は「そんなおまじないなら、必要ないです」と訴えてみる。
聡明な さまなら、私の言いたいことはわかって下さっているはず。
それなのに さまは無言で見つめている。
何故、というその問い掛けの視線に今度は私の頬が、
誰の目にも明らかな程上気して行くのがわかった。
言葉にしてほしいと、 さまは思っていらっしゃる。
それに気付かない振りなどとても出来ない。
時々こんな風に さまはとても意地悪になる。
真赤な顔を見られたくなくて、俯きながら私は小さい声で言葉にする。
「ずっと、 さまが、好きですから」。
俯いたままの私には、その時 さまがどんなお顔をされたのかはわからない。
ただ恥ずかしさに居た堪れない気持ちでいると、
不意に さまの手が私の手をとって――握りしめた。
初めて触れる さまの手に驚いて、私は思わず顔を上げてしまう。
そこにあったのは、笑顔の さま――幸せそうな。
『私もお前を愛している。何があろうと―――永遠に』
とてもとても幸せな――それは。
とてもとても幸せな――
この記 憶は こ れ は 何 ?
――私は、誰?