突然降り出した激しい雨に、恋次は低く悪態を吐きながら走り出す。
季節は冬。その雨は酷く冷たく、大粒の雨は瞬く間に恋次の身体から熱を奪っていく。雨を避けようにも、周りには雨をしのげるような屋根のある場所は何もなく、十一番隊隊舎へと戻れば着替えも風呂もあるが(訓練中に汗をかくことが多いので、それぞれの隊舎には風呂が完備されている)生憎恋次がこの激しい雨に遭遇したのは、隊舎から自宅へ戻る途中……即ちどちらに戻っても距離は同じ、という事だった。
それならばこのまま家に帰った方がいい。恋次は足を速めた。
その足がふと止まる。
そして、先程とは比べ物にならない速度で走り出す。表情も一変し、苦虫を噛み潰したような顔から一転、嬉しそうに微笑んで恋次は走る。
少し先に感じる霊圧。
それは紛れもなく、彼の心を占める、愛しい者の霊圧だった。
水を跳ね飛ばしながらその霊圧に向かっていくと、そう時間の経たない内に、同じ様に雨にずぶ濡れになりながら走る小さな後姿が見えた。
「ルキア!」
声をかけると、前方の小さな姿は驚いたように後ろを振り向き、「恋次?」と返した。足を止めるルキアに、雨は容赦なく叩きつける。その全身を濡らす雨に、既にルキアは諦めたのか立ち止まって恋次を待つと「お前は今帰りか?」と恋次を見上げた。
「ああ、お前は?」
「私は浮竹隊長のご自宅へ書類をお持ちした帰りだ」
「何だ、またお前んとこの隊長は寝込んでるのか?」
「仕方ないだろう、浮竹隊長はお身体が弱いのだ。それでも立派に勤めを果たしているぞ、私は隊長を尊敬している!」
ルキアの口から他の男の褒め言葉が出るのは恋次はあまり嬉しくない。勿論ルキアが浮竹に恋愛感情を持っているとは思っていないが、やはりそこは多少の嫉妬心は湧き上がる。なにせこの恋人とは普段からそう気安く会える状態にないのだ。互いの仕事がある上、朽木家に遠慮しつつ(恋次は遠慮するつもりはないが、「養子である自分の立場」があるから、とルキアが気にしているので、あえて事を公にしてはいなかった)秘密裏に逢っているので、二人でいる時間は圧倒的に少ない。
「わかったわかった、で、今は隊舎に戻る途中なんだな?」
「ああ、隊舎に戻って着替えようと思ってな。流石にこの時期、濡れたまま帰るのは狂気の沙汰だ」
自分の言葉に不意に寒気を思い出したのか、ルキアは自分の両肩を抱き締めてぶるっと身を震わせた。それでようやく恋次も今の状況を思い出す。自分はともかく、ルキアを何時までもこの氷雨の下、立ち話をさせるわけにもいかない。
「うちに寄ってけ」
「え?」
「どーせあとは隊舎に顔出して帰るだけだろ?今は隊長の家に行ってる事になってんだし、少しぐらい遅くなったってお前んちにはばれやしねーよ」
「しかし……」
「風邪引くだろーが、風呂入って着替えていけ。こないだ第一区に着てったお前の着物が置いてあるから、それ着て隊舎に戻って死覇装に着替えて帰りゃ誰も気付かねーよ」
確かにこの時間、ルキアは浮竹の家に行っている事になっているから、多少時間を取っても誰にもばれないだろう。それに身体は芯から冷え切っている。恋次の申し出た乾いた着物と暖かい風呂、というのはルキアにとってかなり魅力的な申し出だ。
それに、恋次と過ごす時間。
見上げれば、恋次の目は心配そうに見える。頷いてくれと祈るような、願うような。
その必死な目がおかしくて、ついルキアは頷いた。
「うん、ではお前の言葉に甘えようかな」
ルキアの言葉に、恋次は嬉しそうに笑った。
あとはもう物も言わずに二人で駆けた。雨は小降りになるどころか、どんどん勢いを増していく。身体中に乾いた所などほんの僅かもない状態で、ふたりは恋次の家に雪崩れ込む。
「るきあ、ただいま」
ルキアは出迎える小さな黒猫に声をかけ、恋次はそのまま風呂場へと直行する。湯船にお湯を入れてるのだろう、風呂場から水の流れる音が聞こえてきた。動き回ると部屋が水浸しになるために、ルキアは玄関で立っていると、猫のるきあがじゃれてくる。
「こら、お前も濡れてしまうぞ。後で遊んでやるからもう少し待て」
にゃあ、と声を上げ、るきあはちょこんとルキアの前に座る。
「久しぶりだな、元気にしてたか?」
指先でるきあの鼻をちょんとつつくと、るきあは喜んで指を甘噛みする。ついついその場でルキアを構っていると、恋次が大きなタオルを手に現れた。
「ほら、とりあえずこれで拭いとけ」
「ああ、すまない」
乾いたタオルを受取って、ルキアは髪を拭いた。ぽたぽたと落ちる水飛沫に閉口する。とてもじゃないが拭いきれない。
「いーよ、そのまま入って構わねえ。もうすぐ湯が溜まるから、もう風呂場に行っとけ」
「お前の湯船は小さいからな」
「うるせー、お前んとこの風呂場がでかすぎるんだろーが。俺んとこのが普通のサイズだ、ちゃんと俺が横になれるサイズなんだからな!」
「とにかく借りるぞ……って何でお前まで付いて来るのだ」
「そりゃお前、一緒に入るからに決まってるからだろーが」
当然のようにさらりと言われて、ルキアは愕然とする。
「何!?」
「真逆お前、俺に待てとか言うんじゃねーだろーな?そんな事したら俺風邪引いちまうんだけどよ」
「それは……そうだな、では私はお前が出るのを待っている」
「何言ってんだよ、そしたらお前が風邪引くだろーが」
「いーや待っている!絶対待ってる!風邪は引かぬ、大丈夫だ!だから早くお前が入れ!」
「あのな……」
恋次が何か言おうとしたその時、扉を叩く音がした。次いで、「阿散井君、いるかい?」という小さな声がする。
「イヅル?」
首を傾げる恋次に、ルキアはびくっと身を竦ませた。今、この場所で他人に姿を見られるのは、出来るならば避けたい。
それを見ると、恋次は風呂場を指差した。
「風呂入ってろ、湯船に浸かってりゃ音もしねえし、イヅルには気付かれねーだろ」
「うん……すまない」
「ほら、早く入ってろ」
「お前も風邪引くなよ?」
背中越しにひらひらと手を振って、恋次は脱衣所の扉を閉める。耳を澄ませば、恋次は玄関の扉を開いてイヅルを中に入れたようだ。言葉を交わしているのが小さく聞き取れる。
とりあえずひとりで入れる事に安堵の溜息を吐くと、ルキアは音をたてないように濡れて重くなった死覇装を脱ぎ捨てた。そのまま、風呂場の扉を小さく開いて滑り込む。
お湯で身体を流す訳にもいかないので、そのまま湯船に身体を沈めた。その暖かさに、思わずほっと息が漏れる。冷え切った身体がゆっくりと解れていく……湯船に背を預けて、ルキアはお湯の気持ちよさに目を閉じた。
真逆恋次が一緒に入る気でいたとは思わなかった……ルキアは目を閉じて考える。
何度も身体を重ねてはいるが、やはり一緒に風呂に入るのは……恥ずかしくて居たたまれない。
吉良殿が来てくれてよかったな、とイヅルに感謝しつつ、ルキアは湯船の中で身体を伸ばす。
先程は「小さい」と評した恋次の家の風呂だが、ルキアには充分大きい。足を伸ばしてもまだ余裕がある。猫のように身体を伸ばして、ルキアは心地良い眠気に誘われる―――が、突然脱衣所の扉が開く音に硬直した。
「じゃ、適当に写してって構わねえよ」
「な……」
慌てふためくルキアの目の前で、風呂場の扉が開く。思わず声を出しそうになったルキアの耳に、イヅルの「わかったよ」という声が聞こえて慌てて声を殺す。
「……なんで入って来るんだ、莫迦!イヅル殿はどうするんだ!」
小声で叱責するルキアに、恋次もこそこそと囁き返す。
「イヅルの用事は大した事ねーよ、書類書き写しに来ただけなんだからな。大体イヅルが言ったんだぜ、風邪引くから風呂に入ってきていいってよ。写し終わったら帰るからって言ってな。ああなんていい奴!」
「しかし……っ」
「そこで風呂入んなかったらおかしいじゃねーか?」
ぐ、と詰まるルキアを眺めて、恋次は「風呂風呂」と楽しそうに呟く。
「しかし、もしイヅル殿が風呂場まで来たらどうする気だ!男同士だ、平気で扉を開けるかもしれないだろう!」
「大丈夫だって、るきあが風呂場の前に居るから」
「?」
「イヅルは猫が苦手なんだよ。だからるきあに、風呂場の前に居るよう言ってある」
確かに摺りガラスの向こうに、小さな黒い姿が見える。扉の前で丸くなっている様子は黒い毛糸玉のようだ。
「という訳で何の心配もするな」
「何の解決にもなっていない!」
イヅルが居る為に風呂から出る事も叶わず、恋次と一緒に入る羽目になったルキアの顔は既に赤い。「見るな、莫迦!」と小さな声で牽制しながら、湯船の端に縮こまる。
「なんでそんな端にいるんだよ?」
「うるさい、見るなって言ってるだろう!」
「何で恥ずかしがるのかわかんねー。もうお前の身体は全部、俺は隅から隅まで知ってるってのに」
「口に出すな、莫迦!」
かああ、と顔を赤くしてルキアはそっぽを向く。確かにそれは事実だが、理性のある時にそれを言われても恥ずかしさに卒倒しそうだ。
「ほら、来いって」
「ちょっ……」
抱き上げられて、恋次の膝の上に座らされ、ルキアは抗議の声を上げる。すると、扉の向こうから「阿散井君?何か言った?」とイヅルの声が聞こえてルキアは慌てて口を閉じる。
「何も言ってねーよ!そっちはどうだ?」
「うん、もう少しで終わるよ」
そうして再びシンとなる。ルキアは息すら殺しながら今のやりとりを聞いていたが、自分が今恋次の腕の中に居るという事に気付いて咄嗟に恋次の目を両手で塞いだ。
「見えねえだろうが!」
「当たり前だ、見えないようにしてるんだからな!」
「いい加減諦めろっての」
「うるさい、お前は黙って目を瞑れ!」
ぽそぽそと喧嘩をしていると、イヅルの「終わったよ、ありがとう阿散井君」という言葉が扉の向こうから聞こえてくる。
「おう、鍵はそのまま開けといていーぞ、どーせ誰も来やしねーんだから」
恋次の声に、脱衣所の向こうで「うん……」と煮え切らない声がして、立ち去る様子は窺えない。ルキアは恋次の目を隠したまま、事の成り行きを見守っていると、暫くしてイヅルは意を決したように「阿散井君」と恋次の名前を呼んだ。
「あー?」
「ちょっと相談があるんだけど」
「今か?」
「出来たら」
「ほらはやく風呂から出て話して来い」とあからさまに恋次を追い出そうとするルキアに聞かせるように、恋次はイヅルに「うーん、俺は風呂はゆっくり入るタチなんだよなー」と、へらっと返答した。
「風呂に入ったままでいいから……僕も面と向かって言うのは気恥ずかしいし」
「なら構わないぜ、なんだよ相談って」
ルキアの手が目を隠すのに任せたまま、恋次は湯船に寄りかかる。斜めになった恋次の身体にあわせて、自然ルキアの身体も恋次の上に倒れこむように横になる。その体勢の危険さにルキアが気付いた時には既に遅く、恋次の両腕はしっかりとルキアの背に回って、ルキアは身動きが取れなくなっていた。
「こら!」
小声で怒ってみても、目隠しをされたままただ恋次は笑う。ぎゅ、と抱き締められて更に身動きが取れない。
「実は……教えてもらいたいんだけど……」
イヅルの声が遠くに聞こえる。風呂場の扉の前にるきあがいるせいだろう、そこに入るためのもう一つの扉の向こうでイヅルは話しかけているらしい。猫が苦手というのはどうやら本当のようだ。
「あー?」
「その……女の子の誘い方……」
ただでさえ小さなイヅルの声が、その言葉を言うには照れていたのだろう、更に小さく聞き取りにくくなる。
「雛森か?」
「え、な、何で雛森君の名前が出るんだよ」
「そりゃお前、そのくらい誰だって解るだろう……いや雛森だけは解ってねーけどよ」
「そうなんだよ……」
頭上でかわされる恋次たちの会話に、ルキアは聞いているのが申し訳なくなる。他人の話を盗み聞きしているようで……実際そうなのだが、それが居たたまれない。
そうか、吉良殿は雛森殿が好きなのか……と、雛森と同じ程に恋愛に関して鈍いルキアは、初めて知った。故に、これ以上聞いているのは吉良と雛森に失礼な気がする。
「私が聞いていたら吉良殿に悪いだろう……はやく風呂から出て話してこい」
こそ、と耳打ちをしても、恋次は全く意に介さず、「雛森の誘い方ねえ……」とのんびりと答えている。
「大体お前、雛森と同じ隊じゃねーか、何で誘い文句一つ出ねーんだよ」
「雛森君、藍染隊長に心酔してるんだ……それも半端じゃなく。もしかして藍染隊長が好きなのかな……」
「ぺーぺーが隊長に心酔するのは良くある事だろ。俺だってうちの隊長好きだぜ」
一番好きなのはお前だけどな、とルキアだけに聞こえるよう呟いて、恋次はルキアの背中を撫で上げる。びくん、と反応するルキアを感じて、恋次の手の動きは更に不穏な行動に出る。
「そうかな……それに、彼女休みの度に実家に帰るんだ、なんだか幼馴染の男に逢いに行くらしいんだよ……」
「随分色々知ってるじゃねーか」
「それは……まあね」
「で、雛森を誘いたい、と」
恋次は何事もないかのように、普通に会話を進めていく。けれどその大きな手はルキアを愛撫し、その動きに比例して、ルキアは恋次の目を隠している自分の手から力が抜けていくのが解る。
内股を撫でられて思わず喘いだその瞬間に、恋次の手がルキアの手を取って目隠しを外した。
目の前に現れた、赤い顔のルキアに悪戯そうに笑いかけると、恋次はルキアの唇を奪う。ゆっくりと味わうように絡めた舌は、互いの唾液を交換して水音をたてたが、それはお湯の揺れる音に紛れて聞こえない。
「うん、今度市丸副隊長が三番隊隊長になるんだ、知ってる?」
「へー、そうなのか」
ルキアの理性を完全に奪うほどには追い立てず、けれど抵抗できない程度に蕩けさせる。ルキアも声を立ててはいけないと、必死で己を保っているのだろう、意識がそちらに向いている分抵抗の力は弱い。
唇を離した恋次は、湯船の背に寄りかかっていた身体を起こし、ルキアの両脇に手を入れて自分の膝に座らせた。そのまま目の前のルキアの胸の、桜色の突起を口に含む。
ん、と息を呑みその感覚に仰け反ったルキアの、恋次の肩に置かれた手がその肌に爪を立てる。ちり、と痛む肌に笑みを浮かべて、恋次は口の中で硬さを増したその突起を舌で転がす。
「そうなんだ、まだ公になってないんだけど。で、僕も三番隊に移動になっちゃって」
「何でまた?」
「何でかな……よく解らないんだけど」
「藍染隊長に邪魔にされてんじゃねーか?雛森の傍に置いとけねー、ってよ」
恋次の上で、ルキアの呼吸が浅く速くなっていく。仰向く首筋に舌を這わせ、仰け反る背中に手を回し支えながら、恋次はルキアの肌に纏わり付く湯の雫を、舌を這わせて絡め取る。
「そ、そうなのかな……」
「冗談だよ、バカ」
「声、が、出てしまう……!いい加減に……しろ、莫迦恋次!」
耳元で囁かれるルキアの言葉に、「声を出したら気付かれちまうぞ、頑張れよルキア」と囁き返して、恋次はその耳を甘く噛む。
「お前がそんな事しなければいいことだろう……!」
「いや、何か燃えねえ?」
「お前だけだ、変態!」
「言いやがったな、コラ」
「や、恋次、やめ……!」
「何?今の、……なんか、変な声しなかった?」
「猫猫。今、猫が鳴いたんだよ」
「あ、そう。でもいつの間に猫飼ってたんだい?―――猫って、やっぱり僕はダメだなあ」
「なんでだよ?こんなに可愛いのに」
恋次は自分の目線のやや上、自分の上にいるルキアの上気した顔を見上げた。必死で声を洩らすまいと目を瞑り震えているルキアが愛しくて、ぺろりとその頬を舐める。
「さっきの事だけど……冗談に聞こえないよ、藍染隊長の事は」
イヅルの言葉に耳を傾けながら、恋次はルキアを煽っていく。今までわざと避けていた、さらりとした湯とは明らかに違うとろりとした液体を湛えるその部分に指を這わせ、一息に奥まで指を入れる。
痙攣するように、一瞬ルキアの身体は棒のように硬直する。息を吸い込み、耐え切れないように「ああ……っ!」と声を上げた。それを見越していた恋次は、それに合わせて水面を波立たせ、声を水音に紛れさせる。
「ま、それは置いといてだな、いい機会じゃねーか、移動になるんならよ」
「え?」
目の前に震える、桜の果実に似たルキアの胸の頂を口に含みながら、恋次は中に沈めた指をゆっくりと掻き混ぜる。指を曲げ、内壁をなぞる様に奥まで入れる。挿入した勢いとは逆に、今度は焦らすようにゆっくりと、弄るようにじっくりと。恋次は指でルキアを味わい、その刺激に乱れるルキアの表情を堪能する。
恋次の肩に置かれたルキアの手が、ぎりぎりとその肌に爪を立てる。
「やめてくれ、もう、自分を……抑えられ、ない……!……声、が……っ!」
絶え絶えにそう訴えるルキアに、流石にやりすぎたか、と沈めた指を引き抜く。けれどルキアの内部は引き止めるように恋次の指に絡み付き締め上げる。その感触に、ルキアは「ん……っ!」と声を洩らした。
ぐったりとしたルキアの身体を抱きとめながら、恋次はルキアの手を口元に持っていき、その指を唇で触れる。緊張と快感と自制とで疲労困憊のルキアは、恋次の肩に頭を預けてそれを受けている。その濡れた髪を指で梳きながら、恋次はルキアを胸に抱え寄せた。
「今までありがとう、僕は五番隊から移動になるけど、これからもよろしくね、ってなもんだろ」
「……ああ!」
「そう言って食事でもして来い」
「そうか、そうだね」
「向こうに行ったら、近況を聞くとかで逢えばいいだろ、今よりは誘いやすくなるんじゃねーか?」
「そうか……!」
「あとはお前の腕次第だな」
「ありがとう阿散井君!さすが君だね、女の子との事は君に聞くに限るね」
「……おい、誤解を招くような事言うんじゃねえよ」
「なんで?本当の事だろ?昨日だって君、八番隊の女の子に抱き付かれてたじゃないか」
腕の中のルキアが、弾かれたように顔を上げる。蕩けるような甘い瞳は、一瞬にして棘を持つ視線へと変わっていた。ルキアはぎろりと恋次を睨みつけ、寄せていた恋次の身体から身を遠ざける。そのルキアの腕を慌てて掴んで引き寄せ、恋次は必死で首を左右に振る。
「………あれはだな、不可抗力だ」
「その前も四番隊の女の子に手紙貰ってたよね?」
ルキアの視線が、今度は冷たくなった。つい、と視線を背けられて恋次は更に焦る。
「貰っただけだぞ、返事なんかしてねえぞ!」
「……何焦ってるのさ?」
「いや別に」
「本当に君はもてて羨ましいよ。そういえば学院でも君確か……」
「いいからお前もう帰れ!」
突然怒鳴りだす恋次に、勿論理由が解らずイヅルは「え?」と狼狽する。
「な、何だよ急に」
「うるさい、さっさと帰れ!」
本気で怒っているらしいと察したのだろう、イヅルは「あ、じゃあ、ありがとう阿散井君!」といそいそと出て行く気配がして、遠くバタンと扉の閉まる音がする。
「…………」
ルキアの視線は恋次から逸らされたままだ。
「えーと?ルキアさん?」
「……抱きつかれたり手紙をもらったり、阿散井殿は忙しい事だな」
「言っとくがな、全部俺からは何もしちゃいねーぞ!不可抗力だって言っただろうが!」
「……抱きつかれた?お前なら避けられるだろう、そうしなかったのはお前がそうされたかったからだ!」
「な訳ねーだろーが!」
「ふん、お前に隙があるからそんな事になるのだ」
ぎろりと冷たく恋次を見遣ると、恋次は……何故か、笑っている。ルキアはかっとして「何を笑っている!」と叫んだ。
「いや、何か嬉しくてよ、お前がやきもち妬いてくれるのが」
「……っ!そんなものは焼いてないぞ!」
「そうか、お前、そんなに俺のことが好きか?そーかそーか」
「自惚れるな、莫迦者!」
「……俺って幸せv」
「だから勝手に話を作るな!」
腹立たしさに、恋次の両頬を摘まんで思いっきり左右に引張る。びよーんと伸びた顔で、それでも恋次は「ふぉれっへひはわへ」と嬉しそうに笑っていた。
「大体さっきのだって……この変態恋次!吉良殿にばれたら如何するつもりだったんだ、莫迦者!」
「ばれなかったんだからいーじゃねーか」
「そういう問題じゃないっ」
はっと自分の体勢に気づけば、怒りのあまり恋次の上に乗っかって、……つまり、あまりにも恋次が喜びそうな体勢だ。
「莫迦とはもう付き合いきれん。出る!」
「待てって、……」
背中を見せて勢いよく立ち上がったルキアへ、恋次は引き止めるように手を伸ばす。その手を、ルキアは払い除けた。
瞬間、時間は突然ゆっくりと流れる。
払い除けた手。
驚いた恋次の顔。
バランスを崩す、恋次の身体。
「「あ。」」
口にしたのは同時だった。
次の瞬間、視界に入る派手に上がった水柱と、耳に入る「ごん」という鈍い音。
そこで「自業自得だ」と見捨てられるほどルキアは冷酷ではなく、酷薄でもなく。
「だ、大丈夫か!?」
慌てて抱き起こし、お湯を飲んだのか激しく咳き込む恋次の背中に手を回し撫でさすっていると、涙目の恋次が何かを言っている。その頭を抱え寄せ口元に耳を寄せると、息も絶え絶えな様子で恋次は言った。
「続き、しようぜ」
耳に舌を挿れられた。
ばっ、と恋次の顔を見れば、ダメージなど微塵もない恋次のいつもの顔。
ルキアは抱えていた恋次の頭を放り出して無言で立ち上がる。
再び、先程よりも鈍い「ごん」という音がして、今度こそ恋次は本気で悶絶した。
突然ですが今回のテーマ。
↓
「一緒にお風呂。」
…すみませんすみません…
「恋ルキ狂お題」から頂きましたタイトル「雨宿り」。
なんか「恋ルキ狂お題」は裏要素ないお題なのにホント申し訳な……っ!(涙)
今回は本当に恋次とルキアがいちゃいちゃしているだけなので、読んで「おいおいあんた達いい加減にしときなさいヨ!」とついおばちゃん風に突っ込みたくなるかと思いますが、苦情は止めてね…(笑)
やきもちルキアを今度は書きたいです、これを書いている途中でそっちの方がメインになりそうになっちゃった。
過去の女性関係を詰問するルキアとかね。で、聞いたら聞いたでルキア落ち込んだり。
……書きたい!(笑)
そう、で、そっち方向に向かっちゃって、いかんいかんと軌道修正。
あくまでテーマは「一緒にお風呂。」!(笑)
イヅルと何事もなく会話しながらルキアで遊んでいるS恋次が書きたかっただけなの、なんて変態ちっくな事はとても皆さんには言えませんよ。いや本当に。
おまけに声を出したくても出せなくて必死に耐えているMルキアが書きたかったなんて、そんな事言えやしない、言えやしないよ…(野口さん風)←解る人いるのか?(笑)
これをアップする直前色々ありまして、その際暖かい言葉を下さった方、皆様に感謝です。
ありがとうございます!
2005.7.10 司城さくら
るきあを撫でるといいことがあるかも?