「待てって……」
 痛む頭を抱えながら、それでも恋次はルキアの腕を掴んだ。「うー、痛え……」と呻く恋次に、さすがにちょっと不安になる。
「……大丈夫か?」
「酷えなあ、頭割れたかと思ったぜ」
「お前が悪いんだろう、私が心配してるのに巫山戯るから」
「巫山戯てなんかねーぞ?」
「大体、そうだ、私はまだ怒っている!……やきもちじゃないが、やっぱりさっきの話は気に入らぬ。たとえお前からじゃなくたって……」
「何もないんだから気にするなよ」
「何もないと解ってたって……お前と他の女の、そんな噂が流れるなんて、私は……」
 俯くルキアを突然抱き上げて、恋次は湯船から上がる。「うわ!」と驚くルキアだったが、ここで暴れてまた恋次が滑って倒れたら、先程とは比べ物にならない危険な状態に陥りそうで……しかも今度は自分の身も危ない。ルキアは思わず恋次にしがみついた。
 恋次(とルキア)は無事湯船から上がると、ルキアを座らせて、その後ろに恋次も座る。
「まあ、そんな話は聞き流せ。俺が愛してるのはお前だけなんだから、何の心配もすることは無ぇ」
 そうあっさりとルキアの言葉を流すと、恋次は石鹸に手を伸ばす。
「さて、身体を洗うか」
 嬉々として石鹸を泡立て始める恋次に、ルキアは嫌な予感がして背後の恋次を振り返る。
「私はもう出るぞ」
 眉を顰めるルキアへ、恋次は穏やかに笑う。
「不許可。」
「お前に許可を貰う必要は無いぞ、それにそろそろ隊舎に戻らないと……」
「うう、頭が痛え!」
「…………」
「何でこんなに痛ぇんだろう、何だか記憶が曖昧だ、一体俺に何が起こったんだろう」
「…………お前は本当にイヤな奴だな」
 ルキアの厭味を聞き流して、恋次はルキアの腕を取る。そうして石鹸の泡をルキアへ塗りつけ始めた。
 身体を這う恋次の手と泡に、何となく落ち着かない気分になったルキアは、恋次の腕を掴んで止める。
「……自分でやる」
「いえ、お嬢さまのお身体を洗うのは私の役目ですから」
「…………やめろ、その口調」
 先日の記憶が甦る。恋次にいいように遊ばれた記憶。その時の事を思い出してルキアの顔は赤くなった。
「さ、お嬢さま、今度は左のお手を」
「だからやめろって……」
 ルキアの言葉は無視して、恋次はルキアの身体を泡で埋めてゆく。
 自らの手で。
 恋次の身体がルキアの肌をなぞる度、ぞくぞくと背中を走る感覚。湯船の中で最後まで達していなかった熱が、不意にその存在を主張し始める。
 背中から恋次の腕が伸びてルキアの胸を包み込んだ。泡に包まれた手で、丹念に洗う。
「んっ……」
「如何しましたか、お嬢さま?」
 耳元で恋次の声がする。低い低い声。その声だけでも感じてしまいそうな、男らしい声。
「な、何でも……ない」
「そうですか、では続けます」
 気に入りの人形を綺麗にする様に、自分の胸に抱え込んで、恋次は腕の中のルキアの身体を丁寧に泡で包んでいく。
 ルキアは感じ始めた身体に命じられるまま、抵抗する事も出来ずに身体を震わせる。
 恋次の手は、まるで壊れやすいものに触れるときのように、繊細に慎重にルキアの肌を滑っていった。
 その手は背中に触れ、腰に触れ、足に触れ、胸に触れ、
 ……そのまま下に。
「ぁっ……」
 びくん、と跳ねる身体を、恋次が後ろから包み込む。
 その侵入を拒むように合わされた膝を難なく割って、恋次の指はそこに到達する。
 逃げようと身体を離したルキアの首に恋次の腕が回り、しっかりと固定されてルキアはぎゅっと目を瞑る。これから自分がどう変化するのか、普段の理性をかなぐり捨てる僅かな未来の自分の姿が頭に浮かんで、それを見たくなくて目を瞑る。
 恋次の背中に寄りかかり、その肩に頭を預けて、恋次の指の与える刺激に翻弄される。耳にかかる恋次の息と、絶え間なく与えられる胸への刺激と、体内に沈められる指に、ルキアの声は大きくなっていき、密閉された風呂場の中に艶めいた声がこだまする。
「お嬢さま、どこか洗い残しはありませんか?」
 耳朶を噛まれて声が漏れる。
 先程の、湯船の中で中途半端に終わった行為の余韻で、ルキアには既に恥ずかしさを感じる理性は無い。
「恋次、もう……」
「やめます?そろそろ上がりましょうか」
「最後まで……」
「最後まで?」
 恋次の指が、ルキアの中に再び侵入する。先程まで翻弄されていたその指の動きも、今のルキアには物足りない。
 もっと……強い刺激を求めて、身体は震えている。
「指じゃなくて、」
「……解りかねますが」
「……お前がいい」
 熱く息を吐き出しながら、ルキアはうわ言のように呟く。
「お嬢様がお望みならば」
 優しく微笑んで、「此処でですか」と恋次は耳朶を噛む。
 僅かな痛みと、強烈な快感に襲われながら、ルキアはその恋次の言葉を必死に頭で反芻する。
 このまま此処で?
 それとも泡を流して、身体を拭いて、寝室へ行って……?
「待てない」
 そんな先まで待っていられない。身体は今すぐ欲しいと叫んでいる。ただでさえ焦らされているのに、これ以上待つのはもう厭だ。 
「此処で、このままで、恋次……っ!」
「はい、お嬢さま」
 脇に手を入れて立たされ、風呂場の壁に手を付かせられる。ふらりとするルキアの身体を恋次は腰に手を当てて支えた。
 立ったまま、という体勢ももうルキアには気にならない。恋次が侵入するその瞬間を待って、身体を震わせる。
 自分に恋次のそれがあてがわれるのがわかった。深く導くために、ルキアは身体の力を抜く。
「……ぅぁぁっ……」
 それは、苦痛の声ではなく歓喜の声。
 疼いていた箇所に求めるものが与えられ、ルキアは逃がさないようにそれを締め付ける。
 一定のリズムで激しく突き上げられる身体を支えるために、壁についた手はかくんと折られて肘で身体を支えていた。
 恋次の動きにあわせて揺れるルキアの身体から泡が落ちていく。その身体を辿って消えていく泡の感覚にも、ルキアは身を震わせる。
 先程は堪えていた分、その反動でルキアはいつもより激しく声を上げる。感じたままを言葉にし、どうして欲しいか尋ねる恋次に素直に答える。
「まだ、終わらせちゃ厭……っ!」
「いや、止めないで……」
 そのルキアの乱れる様が、恋次は愛しくてたまらない。
 ルキアの耳に唇を寄せると、ルキアは首を捻って恋次の唇を求めた。その希望に答えて唇を合わせると、ルキアの方から舌を絡める。
 唇を離して、再び壁に肘を付き身体を駆ける刺激と快感に身を委ね、ルキアは自分の限界を感じる。
「恋次、もう……」
「イきたいんですか?」
「イきたい……っ!」
 畏まりました、と恋次は答えて、ルキアの腰を掴む。
 激しい動きに我を忘れて、ルキアは何度も声を上げた。恋次、と何度も名前を呼んで、どうしようもない自分の中の嵐に涙が零れる。
「ルキア……」
 名前を呼ばれて、その一言に込められた恋次の自分への想いを感じ取って、一気にルキアは登りつめて……耐え切れず一際大きく声を上げた時に自分の中に放たれた熱を感じ取り、同時に到達した事に安堵しながら、ルキアは意識を手放した。















「知ってるか、お前?」
「何をだよ?」
「うちの隊のさ……」
「ああ、あれ?聞いた聞いた……ホントかね?」
「俺、あの日会ってるんだよ、隊舎で」
「あの、急に雨振った日だろ?」
「そうそう、書類渡すだけなら20分くらいで戻るはずなのによ、あの日、彼女2時間もかかったんだよ、戻ってくるまで」
「どっかで雨宿りでもしてたんじゃねえか?」
「でもよ、何故か彼女、死覇装じゃなかったんだぜ、隊舎に戻ってきた時」
「………ホントかよ」
「ああ、俺が見てたの気付いてなかったみたいだけど。隊舎に入って、暫くしたら死覇装に着替えてたけどな。で、俺、その後帰る彼女とすれ違ったんだけどよ……」
「うん?」
「……すごい、石鹸の香りがしたんだ。ついさっき入ったような感じ」
「隊舎で風呂入ったんじゃねーの?」
「そんな時間無かったよ、俺が隊舎で最初に見た時から彼女が死覇装に着替えて出てくるまで、10分かかってねーもん」
「……それじゃあ……」
「やっぱり、どう考えても……」
「……浮竹隊長と、その、ヤッてた……?」
「言うな!お前、そんな事が六番隊の隊長の耳でも入った日には、うちの隊長の命が危ねえ!」
「あ、悪い」
「でも、そうとしか考えられねーよなあ……」
「あの浮竹隊長がねえ……」
「確かに隊長、彼女の事前から可愛がってたからなあ……とうとうそうなったのか……あの人も独り身の時間長かったからなあ……」
「そうだな、そうなってもまあ仕方ないなあ……」





 そんな噂が、慎重に六番隊隊長の耳に入らないように、まことしやかに流される。
 幸いそういった噂に疎いルキアの耳にも入ってはいないようだが、恋次の耳にはしっかり入っていた。
「全然違うじゃねーか!なんでルキアとあのおっさんなんだ、畜生!根も葉もない事言いやがってっ!」
 そう独り家の中で怒鳴って鬱憤を晴らすが、しかし流れる噂を止める手段も持たず、恋次はその噂に腹を立てながら、ただ黙って耐えるしかなく。 
 恋次と他の女の噂が流れる事を、あんなに嫌がっていたルキアの気持ちが、ようやくわかった恋次だった。











こちらもご覧戴きましてありがとうございます!
こちらのテーマは
「下僕恋次再び」(笑)
「お姫様と下僕」の慇懃な恋次が結構好評だったので、再登場していただきました。


泡がね、身体を自然に落ちていく感覚はなんと言うかこうえろてぃっくでアレだと思います、思うよね!みんな!(同意を求めてみる)
まだ未体験の方は今日のお風呂でやってみましょう!(嘘ですごめんなさい)


ちなみに恋次はちゃんとルキアを送っていきましたよ、十三番隊隊舎経由自宅近くまで。
そこはちゃんとしないとね、彼氏ならね!


猫のるきあはずっと扉の前で聞いてたんでしょうかねえ…。
「飼い猫は見た!」(笑)


では、ここまで読んでくださってありがとうございました!


2005.7.10  司城さくら