「紅茶は?」
「飲み物の中では一番好きですが」
「勉強は?」
「知識を得ることは好きですね」
「裁縫は」
「好きだと言っていいでしょうね」
「では」
ネムはソファの上で本を読んでいる雨竜の横から覗き込むようにして、言った。
「私は?」
「す」
一文字だけ口にして、はっと息を呑み雨竜は絶句した。横を見れば期待に満ちた瞳でネムは雨竜を見上げている。
「……なんですか、その質問は」
「私のことは、雨竜?」
「いや、突然そんなことを言われても」
「嫌いなんですか?」
「大体、紅茶と勉強と裁縫と同列に並んで君は嬉しいんですか」
メガネを右手で押さえるお決まりのポーズで雨竜は表情を隠しながらそう言った。ネムはきょとんとしながらも「はい」と頷く。
「雨竜、私は?」
「……本当に心から好きな場合、簡単にはそうと言わないものです」
その言葉が既に「好き」と言っているようなものなのだが、ネムにはそんな謎かけのようなことは通用しない。え、と目を丸くし「そうなのですか」と息を呑んだ。
「では私も、もう二度と口に致しません」
「……え」
「ええ、二度と、決して、何が起きても、雨竜が好……あ、危ないです。その言葉はもう二度と口には致しません」
「いや、それは」
ややうろたえたように雨竜は視線を彷徨わせた。何か言おうと口を開けては、何も言えず口を閉じる。
「雨竜?」
「いや、君は言ってもいいんだけど……」
「私だけですか」
「その方が僕としては」
「でも、私の雨竜が好……その言葉の意味を疑われるのは心外です。私は雨竜を本当に心から好……心から、そうなんですから」
「疑いません」
「でも」
「疑いませんから」
「そうですか?」
ネムはにこりと微笑んだ。「私、この言葉を雨竜に言うのが、実はとても幸せなんです」と、こてんと雨竜の肩に頭を乗せた。
「好きです、雨竜」
「…………はい」