貴方の名は万人が知る。
貴方の姿を万人は知る。
言葉を交わすことを望むどころか、
視線を合わせることさえ許されない。
想うこと自体が、罪。
それでも貴方を想い続けてしまう。
密やかに、誰にも覚られず、貴方にも覚られることのないように。
この想いを胸に秘め、私は貴方の姿を追い続ける。
正面から見ることは出来ず、ただ遠くから見つめるだけの私の想い。
それでも私は幸せだった。
貴方を見ることは出来ません。
私は貴方の住む世界の住人ではないから。
その筈だった、のに。
「お前の名は―――?」
月の光のようなその声が、私に尋ねる。
決して私が見ることの出来ない筈の貴方が、私の顔を見つめている。
その手を私に差し伸べて。
現実感のまるでないまま、私は差し出された手を取って―――
次の瞬間、私の身体は、貴方の腕の中に在った。
貴方を見ることは出来ませんでした。
遠い世界の、高貴な貴方。
けれど、今は―――
貴方の胸に抱き寄せられて、貴方の胸に顔を埋めて、
私は……貴方を見ることが、出来ません。
SIDE「緋真」
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