[58] エヌジアズ15
07/22(Tue) 17:06:19 えせばんくる
新たなメンバー―――サプリが加わり賑やかさが増した一行。目指す目的の地まであと少し…。
『もう少しのはずが結構歩いてねぇか?』
アークと名乗る人物に言われた通りに進んだつもりだった。
なのにも関わらず辺りが暗いせいなのか一向に見えてくる気配がない。
『また…道、ずれたの?』
メルシーが眉間にしわをよせ不安げに呟く。
そんなメルシーを横目にウサギを抱いた少女がふんっと不満そうに口を開く。
『あんた達がしっかりしてないから悪いのよ。この方向オンチ白頭』
『なっ!!?俺だけかよっ!!!』
パーティーは俺一人じゃねーんだぞっとでも言いたげにハルは反論する。
遠まわしな名指しで呼ばれたことに怒っている。
『そうよ、そうよ、そうに決まってるじゃない。あんたが先頭にいるんだから。ねぇ?紫闇お姉様』
確かに―――ハルは先頭をずんずんと突き進んでいる。確かにこれは動かしがたい事実だ。
だが流石に紫闇も完全な鬼ではなかった。
「まぁそう言うな、どうせこの付近には違いないのだから焦らなくてもすぐ着ける」
『まぁ…紫闇お姉様がそうおっしゃるのなら…』
期待と違った紫闇の返答に少々がっかりした様子の少女。
そこへメルシーが話しかけた。
『ねぇ。その大事そうに抱きかかえている人形、なんていう名前なの?』
大事そう――縫い目がボロボロなところから相当使い込んでいることが伺える――な人形…ではあるが、彼女の趣味か否か、淡い水色の包帯がくりっとした小さな目と左腕のあたりに巻かれている。
『その包帯は自分の趣味で巻いたんか?』
前にそんな感じのぬいぐるみをどこかの特殊な店で見た事があった。
そこには眼帯、包帯、安全ピン、白黒のレースをふんだんに使った――こういうのをロリータ服というのだと知人に聞いた覚えがある――ふわふわ感のあるドレス、はたまた注射器のモデル(もちろん偽物)など様々なマニアうけしそうな物が置いていたような気がした。
サプリが身に纏っているドレスが丁度そんな感じのロリータな服装だったため、彼女もそのような類のものが好きなのかとユネは思った。
そのユネの問いかけに“怒”のマークをこめかみに浮べながらサプリは答えた。
『違いますぅ!この大阪弁男っ。そりゃあこの服装は好きですけど?むにちゃんは私が自分で頑張って治したのっ!!』
ただ裁縫苦手だから応急処置しか出来なかったけど…。
『むにちゃんて言うんだね、可愛い』
ユネがムキになるサプリに向って笑っている横でメルシーがにこりと微笑んだ。
『もちろんむにちゃんは可愛いわ。だって私の大切なパートナーですもの。可愛くないなんて言ったら私承知しないわよ、赤毛男』
赤毛男――この言葉に苦笑いしながらメルシーは自分の名前は“メルシー”だという事を教えた。まだ名前を教えていなかたから。
『あ、まだ名前教えてへんかったか。自分ユネ言いますねん。以後よろしゅうに』
さんざん笑い倒した後でユネは自分の名を名乗った。
『赤髪のあんたがメルシーで、人の事をさんざん笑ってくれたあんたがユネ。そちらにいらっしゃる素敵な女性が紫闇お姉様で…』
彼女は指差し確認しながら各々の名前を確かめる。
『んでもって、白頭はハルね』
『白頭言うんじゃねぇ』
拳を振るおうとするが後ろから紫闇が羽交い締めにしたおかげでそれは妨げられた。
先が思いやられる。紫闇は一人小さなため息をついた。
[59] Re:エヌジアズ15
『お、あそこに寝そべっとんのリズやないか?』
ユネが指を差す方を見やると小柄な少年が焚火の横に、小さめの丸太を枕にして寝そべっているのが見えた。
だがその少年はぴくりとも動く様子を見せない。
「――リズっ!?」
自分達の声がこんなにも近くで聞こえるのになんの反応も見せないのはおかしい。小さな不安がよぎった紫闇は慌てて少年の元へ駆け寄った。一同後に続く。
「リズっ」
紫闇は少年の左肩を軽く揺さぶる。
『びっくりした?ここに来るまでに随分時間かかったね。あんな簡単な地図で分からなかったの?』
パチっと瞳を開かせ、いたずらっ子のような笑みをたたえながらリズはたずねた。
「……この馬鹿者」
紫闇はホッと胸を撫で下ろした。
07/22(Tue) 17:07:21 えせばんくる
[60] Re:エヌジアズ15
それは、少年と呼ぶにはいささかおかしなものでもあった。語弊、とでも言うのかもしれない。
少女とも少年とも見える、奇妙な存在。見た目の年のせいで13、4歳程度なため、性別がよく判らないのかもしれない。
ただアークと双子であるとすれば、どちらかの年齢が見た目と違う事になる。
少年、と呼ぶには大きなくりくりとした瞳、何かと言えば可愛らしい類のその顔立ち。細い体。
少女、と呼ぶには平すぎる体、やや低めな声。
中性的な存在。
もちろん『細い女顔の少年』とも『発育遅れの少女』ともとれる。
ただ、リズに今ぴったりと当てはまる表現は『中性的な子供』であった。
07/22(Tue) 17:55:26 闇空鴉擁躬
[61] Re:エヌジアズ15
パチ…パチパチ…
焚火がはじける音。夜独特の涼しげな空気に響き渡る虫の叫び声。何種類くらいいるのかなんて分からないくらい、様々な音色が飛び交っている。
『それにしてもさ、誰?そのコ』
―――まぁ“ボク”は知ってるけどね。
でも彼等はボクが彼女の事を知ってるなんて少しも思っちゃいないから、ちゃんと訊ねた方が自然だよね。
『はじめまして、あたしサプリっていうの』
どうも話し方からしてボクの事を覚えている風ではない。
忘れてるみたいだね。
『ボクはリズ。リザイアの恵みはいらんかね?』
いつもお決まりの名台詞もだいぶ型についてきたでしょう?
…男?女?
サプリは少々困惑していた。
顔立ちは童顔で、どうも自分とあまり歳は離れていなさそう。まぁ1、2歳は年上に見えるけど。
でも女として出ていなきゃならないところが出ている風でもない。
発育が遅れている、といえばそうもとれる。でも果たしてそうか?
自分の年の頃は12。それでもたしかにふくらみは徐々に大きくなりつつある。だから自分より歳が上な彼女――彼かもしれないけど、あまり考えたくないからいちお彼女――の胸が少しのふくらみも見せていないことには少し戸惑いがある。
そりゃ遅いコは遅いけど…。
このあたしが男女を見分けられないなんて、滅多にない事だった。
現に紫闇お姉様だって――気付くのに少し遅れたものの――すぐに女性だって気付いたのに。
(むむぅ…)
眉間に小さなしわを寄せた彼女に気付いた紫闇はどうしたと声をかけた。
すると彼女は紫闇に小さな声でコソコソと訊ねる。
『紫闇お姉様、この方って、女性?男性?どちらなのでしょうか…』
紫闇はキョトンとした顔をしたが――おそらくそんな事をいきなり聞かれるとは思っていなかったのだろう――、小さな声でその質問に答える。
「…さぁ、どっちだろうな」
少し意地が悪かったかな。わざと遠まわしにいってみる。
実際自分にも本当のコトはよく分かっていないし。
『なにコソコソしゃべってんの?』
『あ、なんでも、なんでもございませんわ』
サプリは慌てるものだから口調が少しどもっていた。口元に手を当ててうつむいてしまう。
『なぁなぁ、さっきから思ってたんだけどよ。そんな猫かぶりな喋り方(&態度)やめろよ。キモチワルイ…』
すると彼女の口元はたしかに一瞬引きつったがすぐに笑みを含む。ただし裏のある笑みを。
『なっ、し…失礼だと思わないのですかぁ?』
ちょうど他のメンバーには見えない死角を上手く使い、ハルの足に自らの踵を勢い良く叩きつけた。
07/25(Fri) 19:29:14 えせばんくる
[62] Re:エヌジアズ15
足の痛みに転げるハルを尻目に、サプリはふむ、と頷いてリズに向き直った。
「…それじゃ、あー………あなたのことはそのまま、リズと呼ばせてもらいます」
一瞬“あんた”と“あなた”で迷ったらしい。
口元に手を当ててにっこり微笑み、
「よろしくお願いしますね?」
リズも負けず劣らず美しい笑顔を浮かべ、
『こちらこそ?』
「『ふふふふふふふふふ』」
『…こ、怖ぇ…』
少し離れたところで、ハルが呟いたのはまた別の話である。
『そういえばサプリ、こんな夜中にこんなところで、一体何をしていたんだ?』
ふと紫闇がたずねる。
至極もっともなその問いに、サプリは少し考えた後答えた。
「あたしは―――旅の途中で、この森にちょっと寄ってみようかな〜…とか…」
『…どーせ迷ったんだろ』
「うっさいわねッ」
ハルのこれまたもっとも(?)なツッコミに、カッと頬を紅潮させてサプリが怒鳴る。
が、すぐにハタ、と我に返り、オホホホホホと猫をかぶった。今更かぶる必要もない気がするが。
「そ、それで…紫闇お姉さまたちは?そちらの、リズをお探しにこの森へ?」
今度はサプリがたずねた。
この疑問も、今しがた現れたばかりの彼女にしてみれば当然のものだろう。
一同はしばらくだまりこみ…
『正確にはボクのいるこの場所に来るために、ね』
リズが口を開いた。
そう、地図を渡したのはリズ。
ここに来るよう言ったのもリズ。
ハルは、そうだ、とリズを見やった。
『お前宝探しっつったよな』
地図を渡されたとき。
結構記憶力が良いのか、ハルはそのことを覚えていた。
リズは薄く微笑んで、あぁ、と呟く。
『そうだね。その地図は…“宝の地図”だもの。
たどり着く場所は 宝。』
『?』
もう一度、にこりとリズは微笑んだ。
07/30(Wed) 23:30:17 うさぎばやし [Mail]
[63] Re:エヌジアズ15
そこで、リズはふと気付いた。
おもむろにハルを鷲掴んで胸元に顔を寄せる。
『!? お前までなにすんだよッ!?……?』
抗議の声が終わる前に、リズは顔を離した。
しかしその顔は顔面蒼白。手は、微かに震えている。
「あいつに、誰かに、会ったの?」
微かな声。
だがそれは何故か皆の耳に届いた。
『あぁ、なんや、お前の双子とかゆうた奴に会ったんよ。ようわかったなぁ』
感心したようなユネの声。
リズはそれにゆるゆると首を振った。
「…魔法使い、ってのにはさ。他人の魔力とか、嗅ぎ別けられる奴、てのがさ、………いるん、だよ」
それきりリズは俯いて、何も言わなかった。
07/31(Thu) 12:09:52 闇空鴉擁躬
[64] Re:エヌジアズ15
『・・・・・・』
屈伸運動をしたり、キョロキョロと辺りを見まわしてみたり――とうぜん暗いので何が見えるというわけでもない――、適当に身体を捻ってみたり。
骨がパキパキ軽い音をたてて、スっとする。
ハルは何からはじめたらいいかわからなかった。
どんな宝物かまでは分からないけど、今自分らの手にある地図はいちお何かの宝の地図だって事はわかった。
自分は今からでも探す気満々なのだが…。
「・・・・・・」
『・・・・・・』
『・・・・・・』
リズを気遣ってなのかなんなのか、誰一人として口を開いてるものがいない。
そのリズも一向に俯き姿勢を崩そうとはしない。黙りこんだままだった。
『ん〜〜〜〜…』
大きく伸びをする。何か面白い事でも始まらないか、そんな事を考えながら。
『・・・。』
はたと思い出す、とある知人のことを。
彼ならこんな時どうするだろうか。
お祭り好きの彼の事だ、自分の興味のあることとなったら絶対に行動を起こすはずだろうな。
逆に自分にあまり関係のないことは気にしない性格らしいが。
『なぁなぁ、どうすんの?』
考えるの止めた、俺様流じゃない。
なんせ俺様体力派だから。“待機”じゃなくて“行動を起こす”に決めた。
「どうする…って?何を?」
『何をって、宝探しだよっ』
――今からでも少しは探索できるんじゃねーの?
紫闇は少々考えると隣にいるリズに大丈夫そうか訊ねた。
彼曰く『ボクはココにいるから行ける人だけで行っといでよ』とのこと。
「じゃあ私が残るからメルシーとユネの3人でこの近くぶらぶら見てきたら?サプリはどうする?」
――俺達にゃ選択権ないんかい。(By:ユネ&メルシー)
『あたしは紫闇お姉さまと一緒にいます。三人の方が安全ですわ』
するとハルは決定とばかりにすくっと立ち上がった。もう行く気満々。
『じゃあ決まりっ。行こうぜユネ、メルシー!』
「でもあんま遠くまで行くと路頭に迷う事になると思うのでお気を付けて…」
08/04(Mon) 17:51:51 えせばんくる
[65] Re:エヌジアズ15
紫闇の忠告もそこそこにハルは嬉々とした様子で森の中に入っていった。
『あ、ち・・地図ッ!』
荷物を手荒につかみ、メルシーは慌ててハルを追う。
ユネもやれやれとその後に続いた。
『・・お宝、とは何なのですか?』
暗い、まったくの闇が続く森は見通しが利かない。サプリは3人の消えていった方を見据えるがその姿は今や形すらつかなかった。この様な所で、その様な中で
――――宝。初耳であった。
元から何を目的としていたかなど詳しく聞いた覚えなどない。しかし、検討がつないはずはなくあの時は、
そう、皆この“リズ”を探しているように思えた。それは外れていたわけではなかっただろう。しかし、目的は意外にも宝というモノで別に枝分かれしていた。この地に宝などと呼ばれるモノがあるという話は聞いた事がなかった。
それは一体・・。
サプリは少し、その小さな胸に期待を募らせ視線を紫闇に向けた。
『――うーん・・ちょっと想像がつかないな』
しかし、それに反するが如く紫闇は曖昧な言葉を返す。
『・・?』
『実は、私達もよくわかってないんだ』
サプリの気持ちを察してか少し苦笑し、申し訳なさそうに頭をかいた。そしてその視線はユルユルと未だ俯き気味のリズに向けられていた。
―――私達は。
“この人は、その中に入っているのだろうか”
『お姉さま達は・・この宝の為に集まったのでは・・?』
『いや・・』
――違うな。
『では、何の為に?』
『別に意味なんてないよね』
今まで口を閉じていたりズがそう云いつつ顔を上げた。
そこにはふとした笑顔が浮かぶ。
『なんかまぁ、転々として此処にいる、みたいな』
『――そんな感じだな』
旅は道連れ
そうサプリは独り呑み込む。
自分とて何の目的があって此処にいるわけではない。
そんな思いが特に共感として頷け易くさせていた。
ゆらゆらと独りでに揺れる焚き火が、赤い。
『そういえば、リズはいつからあいつ等といるんだ?』
紫闇は何か思いついたようにリズに問いかけた。
『うーん・・いつからっていうか』
――話すほどでもないけどなぁ
ハルといて。メルシーがいて。
君と逢って。
『なんか昔のことみたいだね』
改めて開いていく記憶のページが何か、古く
懐かしく思えた。
『そんな、時間はたってないんだがな』
思わずほころぶ。
それは少なからず今までのモノが甘酸っぱい思い出だったからだろうか。
『お話、して欲しいです』
サプリは心なしか無邪気にそう2人にふった。
今までのこと。
“冒険”のこと。
『そうだな――』
そして、出来れば。
これからのこと。
『んじゃぁ、僕から話そうか』
笑いを交えて、少し話をしてみよう。
08/17(Sun) 10:18:31 メケ太