[47] エヌジアズ13
06/12(Thu) 20:45:41 メケ太代理の闇空
日と闇の間に侵食の時間がある。
明るくもなく暗くもない、日出と日没の時間にほんの30分ほど見られる空の色だ。それは晴天の空の様に淡くはない。
闇空の様に濃くはない。中途半端な時間に中途半端な色。
中途半端だから何色とも云えない。
昼のあの色が青空というならこれは青ではないか。
月夜を群青とするならそれもまた違う。
第一この色は青空よりも濃く、群青よりも淡い。
―――一体。
何なのだろう。
『なぁ、ハル』
「ん?」
君が青に染まる。染まっている。
その肌の上から、髪の上が。
その黒さがない、白さがない。
―――――侵食。
『ハルはなんでこんな旅をしているの?』
目的地までの5km。
地をとぼとぼと歩きながらふと思った。
「旅じゃねぇよ」
そんな軽い会話に疑いもなく答えた。
「冒険」
そして意地悪臭くニッと笑う。笑って、
「男のロマンだ」と
胸を張る。
『男のロマン…かぁ』
―――父さんは? 母さんは?
『凄いね』
「フフ…ウフフフ」
『――…?』
“凄い”ということに反応したのかハルが心なしか不気味に笑った。
「フフ…実はな。夢だったんだ」
『え?』
「色んなとこいって、色んなもん見んの。コレ俺の夢その2」
『その2? …その1は?』
「もう叶ったもんよ」
照れ臭そうに、自慢気そうに。
『そう…』
―――凄いね。
青が広がる。
侵食に染まる。
なにもかもが。
「…海の色ってこんな感じ?」
『え?』
「俺ってば海の中、入ったことないんだよな。今メルと話してて思い出したけど…」
『え!? ハルって何処生まれなの?!』
「うっせぇッ! お前だって外出たことねぇくせにッ お合いこだろ!」
ハルにどやされるまま、メルシーはうっと身を引いた。
しかし、またハルは気分をコロッと変えて、
「んで? 海の中ってこんな感じじゃね? この空色」
と聞いた。
―――あぁ。
『そうなんだろう?』
―――海色。
「どうなんだろうって…」
あ、呆れ顔。
「まぁ、いいや。いつか行くさ…あッ、そーだ、メルの船で連れてってもらお」
『え…』
「何だよ。オレだって外に連れてってやってんだぞッ、それぐらいしてもいいじゃんかコノッ!」
『わッわッ』
ハルは身長が足りないながらもメルシーに掴みかかった。
『コラコラ、そこのいじめっ子、なにやっちょるか』
「俺じゃねェーもん。メルがケチィんだも――ん」
そう言って手を離す。しかしそうして次に突き出されたものは何故か小指。
「ぜってェー連れてってもらうッ、約束だかんなッ!」
半ば無理矢理交じあわせる。
何度か上下に振って、それを振りほどくがその後がちょっと痛い…。
「その分めんどーみてやるからよ」
ニッと笑う。つられて口の端が少しもちあがるのがわかった。
『冒険に?』
「冒険だよ」
ハルはそう言い捨てるなり歩足を進めて行った。
『…冒険かぁ…』
船中にいた時は考えもしなかったこと。
―――私は、何をしよう。
ふと息をつく。
青かった空気はそろそろ黒く暗く濃くなっていく気配を見せる。
侵食は過ぎた。
夜が来る。
[48] Re:エヌジアズ13
『んー…』
メルシーは複雑な顔をしながら手元にある地図を眺めた。
その表情は周りの者を少々不安にさせるそれだったが…。
『どうしたんだよ?』
『もうそろそろ着いてもいい頃かな…って』
夜空に輝く月はもう既に高くまで上がってきている。
歩き始めたのはまだ日が昇っている時間だった。
結構な時間がたっているはず。
人の足で1kmは約15〜20分程で歩ききれるものなのだが いっこうに着く気配をみせない。
とっくに見えててもおかしくはないのに…。
「どっかで、道、間違えた…とか?」
『…なのかなぁ…』
メルシーの表情はどんどんと不安なそれになってゆく。
さっきまでは冷や汗だけだったが今では顔に斜線が入っている。
次第に周りにあらぬものが飛び始めた頃…。
『ぁ…あれとちゃうん?』
ユネが一方向を指差した。
『どこどこっ!!?』
『だからあっち…』
よく目を凝らしてみると水面のようなものが確認できた。
『よっしゃーっ!!!着いたーっ!!!』
ハルは勢いよく飛び出しその水面に向って踏みこんだ。
『ぁ゛!!?』
―――水…じゃあない。
『うわぁなんだこれっ足つかねぇっ!!』
―――水の成分と土の成分が少々分離して水が表面に浮いていた…泥沼。
ズブブッ
『「ハルっ!?」』
07/04(Fri) 21:47:02 えせばんくる
[49] Re:エヌジアズ13
このまま埋まるか、と思えた瞬間。
グイッ
『!?』
突然強く引っ張られ、ハルは勢いよく後方に倒れこんだ。
衝撃に顔を顰めると同時に、誰に引っ張られたのかと顔を上げた。
しかしそこにいたのは彼が予想したどの人物でもなかった。
漆黒の長い髪と甘い垂れ目がちの瞳、浅黒い肌。耳には複数のピアス達。身長はハルよりやや高く、メルシーよりは小さい。年のころは、ハルより1、2歳上に見えるだけ。帯刀しているが、他に特別荷物は見当たらない。
知らない男だった。
「ガキ、大丈夫か?」
言葉とは裏腹な嘲笑うかのような口調。やや低めの、だがまだ何処か少年らしさの残る声。丁度、青年期に入る直前のようなソレ。
だがハルはそんな事は気にもしない。重要なのは、セリフ。
『俺様はガキじゃねぇ!!』
拳を握って素早く起きあがる。体力系と自負するだけあって、身体は丈夫らしい。
しかし男はその様を見て喉をくつくつと鳴らすだけ。まともには取り合わなかった。
『お前…ッ』
馬鹿にされていると感じたハルは、怒りに任せて拳を振った。助けられた事もすっかり忘れているようだ。
だが、その拳は掠る事無くかわされる。ハルは苛立ったが、男は違った。
少し驚いた様子で、突然ハルを掴みあげにおいをかぐ。
『!?』
変態か、と彼が思った時、男は手をぱっと離した。べしゃ、とハルが地面に落ちるのもお構いなしに唖然としている紫闇達の方に行き、彼等に対して順当ににおいをかいでいく。
なぜか、誰も動けなかった。
そしてぽつりと感想をもらした。
「…におうな」
一体何の事だかさっぱり解らなかったが、紫闇の目にとまったのは彼のつけているピアス。
見覚えのあるもの。
(『どこで見た…?』)
少し考えて、答えはすぐにでた。
今日も見たのだ。特徴的な色の違うピアス、そうそう忘れるものでもない。
『…リズ』
紫闇がついぽつりと漏らした声に、ピクリと男は反応した。
「リズ?」
『こんくらいちまくて、肌真っ白で、髪の茶色いこまっしゃくれたガキやねん』
ユネは話に調子よく入りこみ、手で高さを示して見せる。
その様子を見て、男はにやり、と不敵な笑みを浮かべた。
「…どうりで、におうわけだ」
小さな声だった。それが聞こえたのは魔族であり、聴力の優れた二人だけ。
『お前…?』
不審げな紫闇の声に、男は片方を上げたままでこう言った。
「俺は、アーク。太陽神アデュークから名前を取ってつけられた名前だ」
ありきたりだが、ご利益がありそうだろう?
自信に満ちた声だった。
07/05(Sat) 21:16:37 闇空鴉擁躬
[50] Re:エヌジアズ13
―――…どうりでにおうわけだ…
―――…?…
『俺は、アーク。太陽神アデュークから名前を取ってつけられた名前だ』
男はニヤリと口元に笑みを含む。
別に嫌らしいという感じはせず、なにか自信めいたものを相手に伝えるようなそれだった。
一体何に自信があるのかは知ったこっちゃないが…。
「…私はシアン…紫闇だ」
私は名を告げる。
相手が名を告げたのなら――それが名を告げるにも値しない腐れ人間だと判断しない限り――こうするのが礼儀というものだと思ったから。
『…俺ぁハルだ』
『メルシーです…』
『ユネ』
紫闇に続き皆己の名を口にする。
ハルはといえばムスくれながら…。
『…シ…アン…』
アークと名乗る青年は紫闇にもハルにも聞こえぬ大きさの声でそう呟く。
前に聞いた事のあるそれ、聞き覚えのあるそれ―――。
『……』
「…?」
腕を組みながら片手を口元にもっていった体勢――世に言う“考える人”の体勢だ――で青年はジっと紫闇を見据える。
何かを探るような、そんな目つきで。紫闇の全身を上から下までくまなく眺める。
紫闇はその不自然な視線に焦りを覚えるが決して態度には出さなかった。
『……はぁん…』
男は――これまた聞こえない位の大きさではあったが――呟く。
―――紫闇…ねぇ。
どうりで聞き覚えがあるわけだった。
満月のような金色がかった瞳に闇夜を思わせる濃紺の髪、エルフの様に長くはないが先の尖った耳、雪のように白い肌。腰に携えられた上等な細工の施された小刀。
名前が違ったので気付くのに多少の時間はかかったが彼女は…。
――――――――魔界の裏切り者。
だが今、男にこれといってどうするという気もさらさらなかった。
わかったところで今のところ自分に損得はない。
そして関係なかった。
だからその件で干渉する気は今のところなかった。
(ま、せいぜい己の身には気をつけることだ)
青年はふっと笑うと視線をそらした。
07/06(Sun) 23:42:29 えせばんくる
[51] Re:エヌジアズ13
『で、お前等どうしてここにいる?』
偉そうに、アークと名乗ったその男が問うた。
きら、とその特徴のあるピアスがきらめく。
『お前に言う必要はないだろ。
つか、ソレ言ったらお前だってどうしてココにいるんだってことになる』
先程の“ガキ”発言を未だに根に持っているのか、不貞腐れた様子でハルが応えた。
『あ?』
そんなハルを、軽く嘲りを含めてアークは見やる。
『俺は良いんだよ、お前等と違ってな』
根拠があるのやらないのやら。その態度・言動に紫闇は閉口した。
ハルは訝しげな表情でアークを見つめたあと、フンとそっぽを向く。
ゆっくりと一同の顔を見やり、アークはふ、と笑んだようだった。
『――まぁ何となく察しはつくが。』
…こいつ等は…――
あれと行動を共にしていたようだから。
『でなけりゃ、ここまでにおうはずもない』
くつくつと笑うアークを、わからない・といった様子で一同が見つめた。
先程からこの男の言うこと為すこと、ドコかすっ飛んでいる。
『…悪いが、私たちは急ぐんだ。仲間と合流しなければいけない』
ちら、とメルシーの持つ地図を横目で見、紫闇がアークに言った。
それは事実。…いや、リズは急いで来い、とは言わなかったが。
紫闇はこの男がどうも気に食わなかった。決して嫌い、などという類のものではなかったが…
故に、さっさとこの場を離れてしまいたかった。
『仲間?』
眉を片方吊り上げて、相変わらずにやにやと笑みを浮かべたままアークが問いかける。
今度はユネが明るく答えた。
『さっき言ったやろ。リ――…』
『ユネ』
メルシーが少し焦ったようにユネを制する。
見ず知らずの者に、あまり情報を流さないほうが良いと考えたからだ。
それにはユネもすぐに思い当たったようで、気まずそうに視線を泳がせた。
『あー…ちーと遅かったなァ…』
『リズ か』
ふわ、と黒髪が揺れる。
アークが小さく呟いた。
07/11(Fri) 18:28:29 うさぎばやし [Mail]