[39] エヌジアズ12
06/01(Sun) 00:07:31 えせばんくる [Mail]
さて、時は一月程経った頃。一行はアデューク大陸に上陸した。
大陸から大陸までの距離の筈、何故そこまでに近いのか。答えは簡単である。
ようは最短距離をいったからである。大陸から大陸、一番近い港で移動したからの他ならない。
『ん〜、今回の船旅は短かったねェ』
もうちょっと乗っていたかったとばかりにリズはめいっぱいノビをしている。彼――性別不明だが――曰くは船に揺られてのんびりするのが船旅の醍醐味・・・らしい。
『冗談じゃねェ・・・俺様はこんな船二度と乗るもんかっ』
不思議少年の後ろから白髪の少年が青白い顔――とはいっても地黒なのであまりわからない――でタラップを降りてきた。
少年の不満の原因は言っている通り船にあった。この船明らかに十年近く前に作られた船だった。少々ガタがきていた。よってよく揺れる。それはもう最高に。
『しょうがないよ、船長も言っていたじゃないか。あれは本来貨物用の船なんだって』
メルシーが酔いのまわっているハル――未成年なので飲酒ではない、それ以前にハルは酒が飲めない――を支え慰めながら共にタラップを降りてきた。
ハルを除いたメンバーは全員、貨物船とは言え船を降りた後もケロリとしている。
「世界一有名な少年よ、情けないな」
蒼黒髪の髪の少女はニヒルな笑みを口元にたたえながら少年を見上げていた。
言われた側の彼、本来ならこんな事を言われ黙っていられる性質ではないのだが体調不良により黙らざるをえなかったのだが――
『覚えてやがれェ・・・』
―― 一言だけ呟いた。だがそんな彼の口調はあくまで弱気なものだった。
[40] Re:エヌジアズ12
その国は、小さな王国イーザ。
海の恵み支えられた、アデューク大陸の中で最もリザイア大陸に近い国。
郷愁を誘う、懐かしい国。
「あー、懐かしいなぁ」
ぐん、と一つ伸びをしてから、さも気持ちよさげなその言葉。
隣にいる船酔い少年とは大違いだ。
吸い込む空気の潮の香りと、それに混じるリザイア大陸の微少な気配。
『なんや、ここと馴染みかい?』
「まぁねぇ、昔よく来てたからさ」
たかだか13、4才程度の子供の昔。
親が商人だったのだろう、とユネは判断する。
「…アデュークの元につけられし副神たる者、その名はルシー。かの者は海。リザイアの元につけられし副神たる者、その名はカイラ。かの者は空―――――――――まさにココはルシーの土地だね」
教会育ち、さすがに聖書はしっかり暗記しているらしい。
にこにこ笑いながら、さらりと口に言葉をのせた。
突然のそれに一行は首を傾げたが、いつもの事と割り切った。
「あ、そうだ。ボクしばらく抜けるよ。少し用事があるから」
少し歩を進めていた頃の、突然の発言だった。
皆、驚きを隠せないで居る。
ハルに至っては“やっと解放される!!”と顔に書いてある。彼は、この時紫闇のことを念頭から外してしまっていた。
『何言ってる!?』
驚きに声をあげる紫闇に、リズはごく普通の動作で何か書かれた紙を渡す。
「はい、コレ地図と少しの情報。やっぱ冒険と旅って言ったら宝探しデショ。ちゃんとそこ行ってよ? ボクも後から行くから」
一方的に紙を握らせて、「またね〜」と手を振り去っていった。
唖然とする一行が我に戻った時、リズはすでに居なかった。
06/02(Mon) 12:58:57 闇空鴉擁躬
[41] Re:エヌジアズ12
いつもの事――そういつもの事・・・。
そう割りきって考えるもののその後にくるのは脱力感。
「はぁ〜・・・」
手には強制的に握らされたとでも言うべき“宝の地図”と“ちょっとした情報”の二点セット。
それを握り締めながらがっくりと肩を落とす魔王の姿がそこにはあった。
『まぁまぁそないに気ぃ落とさんでも〜〜♪♪♪』
いつの間にかギターを片手に弾き語りを始めている男を横目に紫闇は麻紐を解き巻紙を開く。
はっきりいって―――――ボロい。
紙は角がポロポロになり程よく丸みをおびている。一部小さな虫食いの穴も見られる。
だがそれよりももっと深刻な問題が地図にはあった。
そんな地図にまたしても頭を痛めた紫闇から、まだ何も知らない白髪の少年が地図を取り上げシゲシゲと眺めていた。
『どれどれ・・・?』
だが興味の色に満ち輝いていたその瞳から一瞬にしてその色は消え失せた。消え失せると同時にその地図を紫闇に戻すではないか。いつも明るい彼の顔はどんよりと暗いものへと変貌していた。
『何・・・が書いてあったの?』
メルシーも気になるのかどこかそわそわした様子だった。紫闇は黙って例の地図を手渡した。彼は紙の古さに多少驚きはしたものの、手にした紙をくるくると開いてゆく。
『ぇ・・・』
何、コレ。
「見ての通りだ」
その地図にはたいして文字など書いていなかった。まぁ地図だというのだから地形が描いてあるものが当たり前なのだが・・・。
それもない。
『これは、ちょっと、難航しそう、だね・・・』
『ちょっと、じゃ、ねぇよ・・・』
こんなんでどうやって解読しろってんだ?
地図には地形も補足の文字も何もない。
特徴、手がかりとなりそうな紋章も何も。
まっさらな白紙――多少黄ばんではいるが――。
地図と言われ手渡されたその巻紙には何一つとして記入されてはいなかった。
3名が頭を抱えていると弾き語りのさすらいの吟遊詩人が弾き語る――もとい口をはさんだ。
『♪♪♪ そういう白紙っちゅ〜のはあぶり出しにでもしてみるのがええんとちゃいますん〜〜〜? ♪♪♪』
異世界でいう“ラップ”のようなノリで金髪の吟遊詩人は語る――もとい口をはさむ。
「歌いながら語らんでもいい」
だがそれもひとつの手、か・・・・・・。
紫闇たちはひとまず荷物の中から火打石を出し、手近にあった枯葉を拾い集めてくる。枚数にして三、四十枚程。ハルは手際よく石をうちつけ火をつけると小さな焚き火ができた。
「よし・・・あぶるぞ・・・」
ゴクリ。一同の喉がなる。緊張の一瞬。
紫闇は紙を火の上にかざす――決して燃えない程度の高さをたもちながら。
数分経った、が・・・。
一向に何が現れる様子もない。
『何か別の方法なんじゃないかな』
焚き火によるあぶり出しが駄目。ならばとばかりに出た提案は
『透かしをためしてみよう』だった。
天に地図――らしき紙――をかざし試したもののコレも駄目。少してこずりかけた頃、紫闇がふと一つの事を思い出したように告げた。
「あ、そういえば巻紙、二つもらってたんだ・・・」
しかも“ちょっとした情報”っていっていた巻紙が―――。
そんな紫闇の発言によってその場の雰囲気が一気に沈没した瞬間だった。
06/03(Tue) 00:18:52 えせばんくる [Mail]
[42] Re:エヌジアズ12
リズの抜けた一行が紙を炙り出したりしていた頃。
街の外、森中。
「あー、自分からとは言え…またこの大陸来ちゃったよ…」
当分くる予定なかったのになぁ。
そうどこか途方に暮れたような声で一人呟いたのは、茶色い頭で大きなリュックサックを背負った子供――リズ。
そのまま歩いて森の奥深くへと進んでいく。
どれほど歩いたころであろうか、突如として森が開けた。
否、森の中に泉があるのだ。
たちこめる水の匂いが鼻をつく。
そしてリズが感じたのは、微かな他者の気配。
気配の側を振り向く事もせずに、そっと口を開く。
「…リィ、どうしたんだい?」
誰もいない泉に声が妙に響く。
鳥の羽ばたく音もしない。
静寂。
そしてその冷たい沈黙の後、どこからともなく声が届いた。
「いえ、こんなにも早くにあなたがこちらへいらっしゃったので、驚いただけです」
男の声。低くすぎもしない、高くもない、テノール。
それに答えるのはもちろんリズ。
見た目同様の、子供の独特の舌足らずな声音に、
「…そりゃぁ、ボクもこんな早く来る予定じゃなかったさ」
どこか嘲笑を含んだようなソレであった。
06/05(Thu) 21:35:35 闇空鴉擁躬
[43] Re:エヌジアズ12
ハル達がもう一つの巻紙に気付いたのはもう夕方近くだったろうか。異世界――地球(チキュウ)でいう16時くらいか。
大体アデューク大陸に辿り着いた時間からして遅かった。太陽は既に真上を通りすぎて傾いていた。
広場でいつまでも阿呆な考えを巡らしていても落ちつかないとのことで、一行はひとまず近場の飲食店に入っていた。かれこれ1時間半程か。
メルシーが“ちょっとした情報”と暫しの間にらみ合い、解読した内容を告げる。だがその表情はあまり明るくはない。
『ココの文章を訳すと“南ノ屁ガ舞ウ”…に、なるけど…』
「はっきりいって意味不明だな」
紫闇の目は既に半目になりつつある。訳すことに暫し嫌気が差しつつあるという感じだ。
『訳し方違ってんじゃねーの?』
そんなハルの言葉にメルシーが反応した。それもその筈、今まで訳すことに何も口を出していなかった人間――もとい魔族――に自分の作業を無駄だ――そこまでは言っていないがある意味そいういう風に言われたのだ。黙ってはいられないだろう。
『そう言うんならハルが訳してみろよ』
『俺ハ体力仕事担当ナンデ〜』
自分は関係ないとでもぬかす少年。宝探しに興味があるという点では関係あるのだが、彼にいわせると自分は体力仕事担当なのだそうだ。
あくまでそれは彼の勝手な言い分で、それを堂々と棒読み調でぬかす少年にメルシーはそれ以上何も言う気にはなれなかった。
そうこうしているうちに日は落ちる。
紫闇はなかなか解読できない白地図に苛立ちを覚えながらもにらみ合いを止めない。
「こんな簡単そうな地図に見えても案外結構にひねくれてんのな」
皮肉混じりで彼女はそう呟く。
『もーぇえんとちゃう?今日は解けそうになさそうやし、ひとまず何処か適当に宿取ろや』
ふぁぁと眠そうに――正確には気だるそうに――目を擦りながら背もたれに体をうずめる青年の姿。
確かに眠い。朝からずっと貨物船に揺られ、不規則な揺れに体が少々まいってたりするのもまた事実――船酔いしていたのは実はハルだけではなかった。さすがにハル程の重症者はいなかったが、それなりに皆まいっていたのだ――。
「そうだな…。ココにでも泊まるか?丁度ここ、宿だし…」
06/06(Fri) 00:11:48 えせばんくる
[46] Re:エヌジアズ12
紫闇がそう呟いた丁度その時、横で思考活動を停止させていた少年が何かを発見したように『あ、』と声を洩らした。
何かこの白紙を見て思いついたコトがあるのかと皆が期待の視線を彼に向ける。
『コレさ、コレさ。魔力に反応したりして?』
あぶり出しと似たような発想。
「またあぶり出し法というわけか?」
彼の返答を待つ。
『そうはそうなんだけど、この“ちょっとした情報”には何かそれっぽいコトが書かれてるみたいなんだよな』
それを聞いた時メルシーが首を傾げた。
『さっきまで私、考えていたけどちっともそんなコト書かれているようには見えなかったけど…』
チッチッチと舌を鳴らせ、人差し指を口元で左右に振ると彼は自慢気に口元をにやつかせた。
『それがそうでもないんだな〜。これさ、よく見てみろよ、一文字づつ飛ばして読んで見ると、ちゃんとした文章になったりするんだぜ?』
そういわれてみればそういう風に見えるな。
「よくそんなのわかったな」
彼は昔、何処かでそういったひっかけの本を見たコトがあったと言う。それに同じような仕掛けの問題が出てたそうな。
『リズだったらそういうトリックめいたイタズラ好きそうだなと思って読んでみたら、まさにその通りだったというわけ』
一同成る程と頭を上下に振り黙ってうなずいていた。
紫闇がその紙に手を当て気を集中させるとすぅっと絵――地図が現れた。
紫闇は現・死神ではないものの元その職についていたこともあり、体内にはまだその頃の魔力が少しは残っているのだそうだ。派手な大技は出せないものの、かすり傷の治癒程度なら今でもできるのだそうだ。
その“地図”を見てみると、そこに記されているのは現在地から5km程の距離を南下した場所だった。
どうやら小さな泉がそばにあるようだ。そのような図も描かれている。極海の30分の1程度の大きさのそれ。湖というより泉という方がずっとあっている、そんな程度のちんまりとしたもの。
“地図”には細かく道の特徴が記されていたので迷う事はないと踏んだ一行は、既に夕方だったにも関わらず店を出て目的地を目指すのだった。
06/07(Sat) 15:27:02 えせばんくる