[33] エヌジアズ11
04/25(Fri) 23:05:02 えせばんくる [Mail]

  老いては死なぬ――・・・

  だが殺せば死ぬ――・・・

そして最後に奴が言った言葉。

―― いらないんだよ ――

これだけの情報では真相はまだわからない。
自然ともう少しの間様子を見た方がよいという気持ちになりかけた。
それは一行の誰しもが共通に感じたことだった。
不自然な笑みを浮かべているリズを除いて、は。

『コイツ…コイツだ』
ハルはこの肖像画の人物こそが自分が先ほど木の上から見つけた女性だと言い張って聞かない。
「この女性は――?」
落ちついた声で紫闇は自分と同じ名を持つ者――シアンに訊ねる。
ハルの言っている事が本当だとしてもその彼女がどういう人物かなのかまでは知るわけがない。
よって真実だろうがガセネタだろうが聞いてみるという選択肢しか手元には残っていなかった。
このシアンが正直に全ての事を打ち明けてくれるとは思えないが・・・。



[34] Re:エヌジアズ11
「どうでもいいよ」
 突然口を挟まれ、紫闇達ははっと後ろを振り向く。
 そこには何故か悠然としたリズ。その隣には“シアン”。
「どうでも、いいんだよ」
 どこか無感情な、畳み掛けるような声。
『何で“どうでもいい”んだよッ!?』
 食ってかかったのは勿論ハル。
 確かに気になるもの――それもかなり衝撃的な――を“どうでもいい”と言われれば、怒るのは道理だ。
 しかしリズは相変わらずの、どこか妙な笑顔で対応するだけ。
「不老不死の伝説なんて、ただ、とある魔族が不老で超長生きってだけの話。その女の人も、その種族の一人だった、ってだけ」
 手をパタパタさせて、あははは、と笑って見せた。
 それはただハルを激昂させるだけで。
 ハルは怒りの勢いそのままに、リズの胸倉を掴み上げた。
『だから何なんだよッ!!?』
『ハル!』
 紫闇の制止も聞かないで、ハルはそのままギリギリとリズを締め上げる。しかしリズはへらへらと笑ったままでいる。
「紫闇ちゃん、いーのいーの。
 ハル坊、いいこと教えたげる。
 人間達が大陸にそれぞれ散って、同時に魔族はリザイアへと移動した。彼等の中の一人がある時、困っていた創物神リザイアを助けた。彼女はそのお礼をしようと申し出た。それに対し、その魔物は“老いない身体”を求めた。だから彼女はそれを与えた。特殊な生き方をするその魔族は、上手くすれば果てしない時間を生きる事ができたから、それはある意味不老不死にも見えた」
 一気にそう言ったリズは、ハルの手を軽くはたいて離してもらう。
 そのまま出口の方まで歩いていき、振りかえる。


「さぁ、みんな行こう。次は、アデューク大陸にでも行ってお宝捜しでもする?」
 あと、“自称シアン”クン、またね〜



04/26(Sat) 14:02:39 闇空鴉擁躬
[35] Re:エヌジアズ11
リズはあっさりと旧友――なのかは置いといて――に別れを告げ一行と共に塔を後にした。
一行と共に―――そう思ったのだが・・・。

『ねぇ・・・ハルが見当たらないんだけど・・・』
これは私の気のせい―――?

それを聞いた瞬間メンバーは一斉に口を開いた人物――メルシーに視線を向けた。
そして人数確認を指差しで確認したところ確実に足りない。
リズ曰くの好奇心旺盛自信過剰な白髪の真っ黒ボウズが・・・。
「あんの馬鹿ぁあ――っ!!!」



ハルはただ一人塔の中をほっつき歩いていた。
今頃リズ達にはバレているだろうなと内心思いつつ―――ただ思うだけなのだが。
リズが色々と並べ立ててくれた言葉は覚えているが、そんな言葉だけでは足りないという彼の好奇心に対する欲求が彼を動かしていた。
“多分”何処かに手がかりのようなモノがあるような気がしてならなかった。
あくまで気がするだけなのだが。
『そういやあの肖像画の女は塔のてっぺんの部屋にいたんだよなぁ・・・とりあえずそこでも目指してみっか』
仲間にとっ捕まえられる前にめぼしい物は見つけてしまわないとっ・・・と―――――?。
『仲間と共に塔の外へ出たのではなかったのですか』
『!?』
バッと後ろを振り向くとそこには塔の主――シアン――が無表情に立っていた。
『勝手な行動をとられては困りますね――』
そういうとシアンはゆっくりと腕を真上に上げる。
次第に上げた手の平を中心に未知の光が集っていく。
暗闇の中光の粒子がどんどんと大きくなっていく様は手にとるようにわかった。
一定の大きさを超えるとソレは放電をはじめる。
『かわいそうですがそういう者には仕置きが必要ですね』
『―――っ!!!』
そういうと同時に彼はハル目掛けてその光球を放った。



04/27(Sun) 22:47:24 えせばんくる [Mail]
[36] Re:エヌジアズ11
 ヤバイ、そうオ思った時にはすでに遅く。


 来るべき衝撃に備えて、せめてもと歯を食いしばった。


 が。


「こぉのバカ猿―――――ッッ!!!」


 ドゴッ

    べしゃっ



 ハルは勢いよく“飛ばされ”、顔面で床とご挨拶していた。
 光球は的から外れて途中でその質量を跡形もなく霧散させた。


『………』
「ふぅ〜、疲れた疲れた」
 腰に手をあてて、いかにも一仕事あと、と言った風情のリズ。
 呆れてそれを見るのは“シアン”。
 未だに床と挨拶を続行中のハルは、ぴくりとも動かない。
『……あれは、別に当ってもなにもならないのだったハズが…』
「いーのいーの。ほら、演出ってやつ」
 手をぱたぱたとさせてから、彼だか彼女だかわからん怪しい子供は、自信だけはたっぷりの、しかし今は動かない(と言うか動けない)少年をずるずるとひっぱって「お世話さまでした〜」と呑気にその場を後にした。



04/28(Mon) 16:35:12 闇空鴉擁躬
[37] Re:エヌジアズ11
リズは、気を失ったままのハルを乱暴に引きずりながら、そのまま階段をおり始めた。
いくらなんでもその痛さにぱっと目を覚ますと
『いてぇ・・!!何すんだッ』
そう第一声を発した
『それはこっちの台詞だね』
ハルを見てからもうすぐ其処にいる皆に手を振った
『連れて来たよー』
その声に皆が振り返る・・と皆の目が驚きに豹変した
帰ってきた二人のうちの一人“ハル”に何か一言言ってやろうと思ってた紫闇もがハルをくいいるように眺め
『爆音がしたから何かあったと思ってたら・・』
『なんや凄いコトになってたらしいなぁ』
ユネもハルを見て今度は吹き出しそうになっている
『何がおかしいんだよッ』
笑われる当人は面白くない。顔を膨らましているようだが、
「・・凄い顔・・」
メルシーはいてもたってもいられなくなってそう言ってしまった。それに続いて皆が笑い出した。
それは今階段で引きずられて出来た痣や擦り傷が顔中に走っていて、ものすごい事になっていたからだった。

さっきまでの雰囲気が変わってやっと落ち着きを取り戻した仲間は、とりあえず塔から出た



05/01(Thu) 20:32:19 摩緒
[38] Re:エヌジアズ11
 一行が塔から離れるのを遠めに、久しく登った塔の一室の窓辺に腰掛けた。
「まったく、抜け目ないね」
 白髪の少年――ハルの怒るような声、賑わう声が未だ聞こえる。
 魔族と人間と、そして―――…



 ―――いらないんだよ。



 自分が口にした言葉。
“いらない”。
 何か頭に残って繰り返すほど、自嘲されてしょうがない。
 苛立つような笑えるような、
 やけくそ?
 俺も成長してないね。
 彼女さえ少なくとも変わっていたというのに。
「まぁ、あれは反則だと思うけど」
 風が吹く。
 忌々しい熱さを奪って、共にローブがフッと音をたててなびいた。
 下に視線を戻すと、もう彼等は森の木々に隠れて見えなくなってイ多。
 隠す事もなかったけれど……
 髪をかきあげると同時にその布をはらう。
 いや。
「やっぱり後が煩そうだしねぇ」
 ―――好奇心旺盛な子だから。
「いいなぁ、あのパーティー」
 楽しそう。
 少し微笑して立ち上がって伸びをして。
「さぁて、俺も帰らないと」
 俺にも大事なパーティーがいるんですよ。
 そう肖像画の止まったままの美女に告げた。
 それは偶然に集まった人達で。
 それも可笑しいパーティーで。
 何をしているわけでなく。
 ただ好き勝手やってます。
 ジオサイトなんて呼ばれて、
 中々有名になってるけど…
 俺は元気で楽しい毎日を―――
「さようなら」
 毎日送っています。
 ―――お母様。


 不老不死と呼ばれた吸血種族が滅んだのはずっと昔の話。
 魔王と呼ばれたその者の妻が病魔にあたって死んだところで、もうそうの命運はつきたのだ。
 王もすぐ、その後を追った。
 期待を背負った王子は惟独りでに消えたのだと言う。
 魔王―――“シキ”は未だ見つからない。
 唯一、この塔の主人である。



05/07(Wed) 16:37:00 メケ太代理の闇空