[24] エヌジアズ10
04/07(Mon) 23:56:13 えせばんくる
ローブの者の紅い双眸が自分の目を捕らえた。
「シ・・アン・・だと?」
――そう、“シアン”――
そう言った奴の双眸が細くなる―――笑ッテイル。
布を深く被っていて表情が見えないとは言えそれは間違いない。
―――奴は笑っている。
「・・何が可笑しい」
紫闇は苦虫を噛み潰したような顔になる。
おかしい・・・。
依然気配が感じられない。
この静けさも気になる。
そしてこの笑み――。
紫闇の額には知らぬ間に脂汗がうっすらと浮いている。
紫闇は焦る気持ちに自身をのっとられないよう意識をフルで集中させ、感じられない奴の“気配”を隅々まで探ってみる。不可能な事ではナイ。だが―――――。
何故だ、何故感じないっ!!
やはり感じられない。
自分と同じ名だというだけならば然程気にする事でもなかっただろう。世界は広い。一人や二人、同名の者が存在していてもおかしくはないだろう。
だが――奴の気配は“無”。
そんなもの・・・ありえるわけがないっ。
絶対に何かあるにきまってる。
奴が何者なのか、まったく不明というわけではない。
自分の知っている知識の中にはいくつか、当てはめようと思えば当てはめられるものも存在する。
<ドッペルゲンガー>も一つのいい例だ。
だがこれがそうだという確証はない。事実顔など見えないので確認のしようがない。
あくまで可能性の一つに過ぎないが。
奴はいっこうに口を開こうとしない。
紫闇は自分と同じ名だと名乗る者と対峙しながら焦りを覚えていた。
[25] Re:エヌジアズ10
あれれ。
やっとでてきたよ、この人。
遅いよね〜。
おかげでメルシーくん怪我しちゃったじゃんよ。
と言うかボクがわざわざ治療するハメになったんだよねぇ。
まぁこの面子で治癒できんのってボクくらいだろうから結局はやったんだろうけどねぇ〜
「リザイアの恵みはいらんかね?」
少し皮肉も混ぜて。紫闇ちゃん、焦ってるけど。まぁ無視って事で。
だいたいキミも紛らわしいマネしてくれるよねぇ。
『…誰だ?』
あ、そんな無感情な。
ちょっと酷いよね。
「あれ、ボクの事、わからない?」
まさか忘れた?
反応薄くない?
ほらユネ、興味津々って顔に書いてあるけど、そんな顔でボクを見てないでヨ。
「…リズ、って言ったらわかるかな?」
お、考えてる考えてる。
ところでキミって本当にさぁ。
「……全然変わってないよね」
結構時間経ってるハズなんだけど?
やっぱ流石だね。
あ、そろそろ気付いてくれたみたいだね。
頭に電球光ってるみたいだよ、おニィさん。
『…………あなたは、とても変わりましたね』
退化してますよ。
そんな上から下までしっかり見てから言わないでヨ。
しかも敬語。
珍しいって言うか何て言うか。
っつーかね、キミさ、それ。
「…キミも、大概失礼だよね」
ニヤリと笑って言ったら、微笑み返された。
あぁ、やっぱりキミは大して変わってないらしい。
04/08(Tue) 13:11:28 闇空鴉擁躬
[26] Re:エヌジアズ10
「『……?』」
全く理解不能。
なんで知ってんの?てか知り合い?
皆そんな顔してるね。
…してるとも。
今の皆の思考はリズの言葉の意味をそれぞれなりに解釈するのに忙しかった。
04/09(Wed) 21:54:52 えせばんくる
[27] Re:エヌジアズ10
意味ありげな言葉を交わし、かつにやりと微笑みあう二人のその様子は、
少なくともハタから見ているものには奇妙以外の何物でもない。
“シアン”と名乗る、無の存在と。
女神の名を持つ存在と。
視線と。殺気と。
無い気配 と。
『リズ―――知って、いるのか?』
紫闇が少し掠れた声で問う。額には未だ汗が滲んだまま。
彼女の問いにリズは軽く振り向いて、あまりにもこの場にそぐわない穏やかな微笑を浮かべた。
『カナシイことに、あちらはボクのこと忘れちゃってたみたいだけどねぇ』
まぁ仕方ないのかもしれないけど〜、などと呟きながら、リズはもう一度微笑んでみせる。
『どうしたの、“紫闇”?』
『―――…ッ…』
『ちょぉ待ちぃや。
なんや――…ソコ勝手にハナシ進めんなや?』
軽いため息をつきながらユネが頭を掻く。
この殺気の中、これだけ堂々と発言できるのだから、やはり彼も只者ではない。
『魔王はんもタンマ。リズも。
せっかく手出し止めてくれたんや、代表格っぽいお人も出て来てくれたみたいやしな?』
そう言いながらさりげなく紫闇を背に回す。今の、この状況は彼女には…良いとはいえない。
メルシーが不安げな顔でユネを見つめた。
『勝手に領域侵したんは詫びる。俺らが浅はかやった。
…俺らも行かなあかんトコあるんや。ここはこの』
そこで言葉を一旦切って。
リズの肩を掴む。
『…子の顔に免じて、見逃してくれへん?』
戦うのなら、そちらも無傷ではすまない、と。その目が語る。
04/11(Fri) 23:09:39 うさぎばやし
[28] Re:エヌジアズ10
「…許す?」
答えは早かった。疑問を含め発した言葉に―――怒りはない。
「いやいやいやいやいや…許す?
アハハハハハハッあ―――なるほどね。ってことは君達…なぁーるほどねぇ――」
『はぁ?』
誰だコイツ。
「ハハハハハ…クックックックッ…」
『な、何を…』
何をそんなに爆笑するのか。
と、言うかそんなキャラなのか!?
色々な意味でまた混乱を隠せなくなっている。
それはとうの紫闇だけではない。
長い、長い絶句である。
『ほ、ほんで…良いんスかね?』
「はぁッ!?」
それはこっちの台詞なんだが。
『あ――…と、リズくんちょっと』
ユネは肩を持ったままぐりんと後ろに向きを変え、
『コノ人お友達?』
と心なしか小声で話した。
『友達って言うかなんてかねェ…』
リズの表情は混乱というより呆れ入ったと言う様子である。
『もしやコレ?』
ユネは腕に注射を打つような仕種をする。
しかも真顔。
『いや…』
違う。
そんなわけはない。
しかし…。
「クックックッ…フフフフフ」
『微妙…』
もうそろそろこの混乱が恐れに変わりそうな雰囲気である。
いや、真実ビクビクと怯えているメルシーの姿が視界のはじに写っていた。
気配を感じない云々ではなく……。
「フフッ…ハァハァ笑い…すぎて片腹が…」
―――このキチガイが。
『あのさー。その1人で飛ぶ癖ぐらい変えようよ。話、進んでないんだけど』
「あ―――…そうい…」
「だぁいニンキボ―――――…」
天空をさく音がした。
『あ』
「ん?」
「イッ ハル様だぁ――――ッ!!」
グシャッ
『…あ』
生々しい音がした。
「悪ィ」
『馬鹿かお前はッ!!』
「…んなッ 早く降りてコイっつったのはテメェだろうがぁ」
『下も気にせず飛び降りる奴があるかッ』
と、言うかお前は…ッ
お前って奴は!!
『あ、あの…大丈夫ですか?』
「アハハハ、いや、元気だねェ」
なんで間の悪い奴なんだよ。
紫闇は仕方のない事を分かっていながらもその言葉をおさえ、それ故顔の赤らさが怒りなんだか恥ずかしさなんだか…。
性にもあわず、手をばたばたとふるだけ。
下唇を噛んだ。
「事故だよ事故」
かえって冷静なコイツがムカツク。
「それよりも、見つけたんだって!」
『はぁ!?』
自然にもその口調にはまだ力がこもってしまう。
落ち着け自分。
「塔だよ塔ッ。…いやあれは城だな! 兎に角あったんだよッ」
「…塔?」
「あぁ、不老不死伝説の城だッ…てか、何? お前新メンバー?」
『違うッ!!』
すかさず紫闇の鉄拳が食らわされた。
『やっぱ、お前分かってへんかったんな…』
「何だい。伝説を探していたのかい?」
『何かわかんのかッ!?』
「案内するさ」
またくすりと笑う。
その姿が闇に溶けるその前にハルは森に飛びこんだ。
04/16(Wed) 17:53:23 メケ太代理の闇空
[29] Re:エヌジアズ10
「あ〜あぁ。行っちゃったよ」
そう言いながらも、リズは困った様子もなくハルに続く。その様から、最初から予想していたであろうことがよく解る。
その後を少し遅れて紫闇、ユネ、メルシーと続いた。
「この辺からだとー、あと15分もすれば着くねぇ」
ハルの横に並びながらリズはブツブツと喋り出す。
「前に来た時は雨季だったけど…」
前に来た。
つまり、この場所をすでに知っていたと言う事になる。
『!? お前前に来た事あるのかよ!?』
「あるよ」
即答。
しかも“何当たり前の事きいてんの”と言わんばかりの声と表情。
ハルのこめかみに、血管が浮き出た様に見えた。
『じゃぁ、場所もしっかりばっちり知ってたのに教えなかったのか!?』
「うん。だってキミら訊かなかったから」
訊かれてもいないのに答える必要はない。
情報は、立派な“商品”でもあるからだ。
だから“彼”と知り合いでも、城の場所を知っていても、訊かれてもいないのに答えたりはしない。それどころか、訊かれても答えない事も可能なのだ。
『………ッ』
拳を握って頭を狙った。
無論、避けられたが彼は拳を振りまわす。
「うわっ、危ないよ坊!」
『坊じゃねぇッ!!』
二人の(不毛な)押し問答は、結局城に到着するまで続いたそうである。
04/17(Thu) 14:28:34 闇空鴉擁躬
[30] Re:エヌジアズ10
『…っから、坊じゃねぇっつってるだろーが!』
『あははは相変わらず気力体力有り余ってるねェ。
まだまだ若い証拠だよ〜だから“坊”。』
『違うッ…』
本日何十回目の反論の口を開こうとしたハルは、眼前にドンと現れた城を見てそれを止めた。
ずささー…
ついでに足も止め、その隣にリズ、そして紫闇・ユネ・メルシー…と並ぶ。
『や、来たね。』
どこからかぬらりとした声が響き、それが“シアン”のものだとわかるのにさほど時間は要らなかった。
ふと、ハルは首を傾げる。
『そーいやアイツ誰?』
『遅ッ!』
思わずツッコミを入れてしまったユネを一瞥し、再びハルはきょとんとした。
紫闇は少し額を押さえ、ため息をつく。
先ほどまで思いっきり対峙していた相手に、これほどまでに簡単についてきておいて、今頃そんなことを言うのか…。
『まぁいーや。』
へら、とハルが呟く。
ずっ、と古典的にずっこける音が彼の背後から聞こえたがあまり気にしてはいけない。
自分で問うておいて勝手に自己完結。
そんなことにいちいち目くじらを立てていては身がもたない、と紫闇はため息をついた。
『それで、どうするんだ?』
紫闇の問いに、一同は一瞬瞠目する。
『そりゃ、城に突入だろ?何てったって不老不死伝説城だし。』
あまりセンスの良いとはいえないネーミングをして、ハルが口を開く。
せやけど、とユネが割って入った。
『塔…やない、城か…。とにかくこン中には、誰かよくわからへんお人がおるんやろ?』
『何の用意もなしに入ったら危険じゃないかな…』
メルシーもおずおずと言う。
よく考えれば、(肉親の手によって)強制連行させられたり、怪我したり、一番気の毒なのは彼なのかもしれない。
なるほどもっともな言葉にしかし、ハルはふんと胸を張って答える。
『何言ってんだ、この俺様を誰だと思っている?』
そしてお約束のアレを叫んだ。
『世界で一番知られている超――――〜大人気ボーイ、ハ〜ル様―――っ!!!』
『『……』』
『…だぜ?』
ふふんと異様に誇らしげに皆の反応を待つ。
04/21(Mon) 22:29:23 うさぎばやし
[31] Re:エヌジアズ10
サムイ、サムイよ坊!
毎回毎回毎回毎回!!
ちっとも誰にも知られてないじゃないかっ!!
知名度低いってばッ!
いや、ボクは知ってたけど。
でも皆知らなかったじゃないか!
きっと、この森の子達に聞いても大半は知らないってば。
そりゃ“彼”繋がりで知ってるのがいるかもしれないけど……。
いなさそうだな。
うん、きっといない。
いてもほんの、極小と言っていいくらい少ないのは明白。まさに火を見るより明らか!
マイナーなんだよッ!!
そんなリズの心情など露知らず。
当の自称“世界で一番知られている超大人気ボーイ、ハル様”は自信満々意気揚々。
案内されるより前に城内に侵入した。
呆れた様子でそれについていく順番はいつも通りと言うかなんと言うか。
やはり隣にはリズ(自称行商人)、その後ろを紫闇(他称魔王)・ユネ(自称吟遊詩人)・メルシー(苦労人)が続くのであった…。
04/22(Tue) 16:32:34 闇空鴉擁躬
[32] Re:エヌジアズ10
重く、目の前に鎖すはずである大きな門は開け放たれていた。
開けたのか、それとも開けられたのか。それは定かではないが、門の大きさから言って何人かの者が集まってそれを開けていったのだろう。
しかし―――…
「あいつ、俺達が来ること知ってんだ」
“あいつ”。
この城の持ち主。
『招かれた客…てな』
万乗たる不老不死の存在とは一体、何者なのだろうか。
怖畏にも興味がわかないことはない。
紫闇は響き立つ鼓動を静めて、ただ城内に蟠る闇を見据えた。
ガラス張りの大きな窓にこの開けた門からもれる陽光がその暗さに飲み込まれるように思えた。
「たのもぉ――ッ」
―――…
響き渡る声さえもその尾久へと消えていった。
「ずっと昔のことさ」
「…え?」
シアンは群集をわって一人、前に歩き進めた。
そして向き直る。
「ここにはもう誰一人居やしない」
息をつくたびに寒冷な空気を感じた。
ここは陽の当らない場所である。
『それは伝説の者はいたのだということか?』
大間から枝分かれするように続く回廊の数。
「捏造される所はある。しかし…いたころは確かだよ」
何処に進むかわからない。何処に行くのかわからない。
ただ歩いているだけなのか。
『不老不死だと云う事は確かなのか?』
単刀直入な話だと思った。
後から考えれば、まるで自分が最も求めているかのような聞き方である。
くすぐったい気分にもなる。
けれども―――…
『有り得るのか? 死ぬ事など』
「死なない訳じゃないさ」
『不死じゃねぇってことか?』
足音に声が重なる。
それが何処か意識される。
―――不死…じゃない?
「前にはこの森…いや、魔物・魔獣となる存在の統括者とばっていた。不死ではないが不老であるため、その蓄積が意図せずともそう云わせていた…わかるかい?」
ハルはそのフードを見上げる。
目は合わない。
『“老いて死なない”。そういう事だよ』
今まで黙って一点を見つめていたリズが不意にそう口を挟んだ。
『殺せば死ぬさ』
―――それが伝説。
『…滅んだのか?』
「さぁね」
紫闇は何故か腑に落ちぬ動向に襲われた。
「ただね」
…―――何故 神サマは。
「いらなかったんだよ」
「あッ」
突如にして声をあげたのはハル。
早足に、シアンを追い越しとある一室の天を仰ぐ。
「コイツ…」
見上げたそこの場にメルシーが続いた。
「コイツだ…」
白肌の赤い瞳が覗く繊細なかたち。
長くした白髪の女性の肖像画だった。
立てかけた壁の上で薄く微笑んでいた。
04/23(Wed) 17:49:54 メケ太代理の闇空