04/03(Thu) 14:15:27 えせばんくる
目的地は森の中―――。
『――って、範囲が森っちゅーたらリザイア大陸全土探さなあかんちゅー事に繋がるんやろ?なんか他に目印になりそなもん見てへんかったん?』
『だからさっき言ったじゃんよ。森の奥の方にふっるい塔があったんだって』
ハルはユネに“話ちゃんと聞いてた?”という顔をしながら再び説明した。
『しょうがないやん。こっちかてそん時丁度考え事しとる最中やったんやから』
ユネは両手を腰に当てながら苦笑いした。
世の中わかんない事なんてない―――
世の中わかんない事なんてない―――
――か。
紫闇はあの時ユネがメルシーにもらした言葉を何度か口の中で繰り返した。
だが果たして本当に、世の中わかんない事なんてないなんて事あるのか。
それは少し疑問だった。
まぁ自分にとってみれば世の中わかんない事だらけだからというのもあるのかな。
ま、メルシーにはそれがわかったんだろうな。
じゃなかったらんな事言わんな。
「とりあえず。とっとと着替えだ。そっち側の壁とこっち側の壁とに向いてさっさと着替えよう」
早く行きたいのならな。
『なんでんなめんどい事すんだよ。別に普通に着替えりゃいいじゃん』
『ハル…っ』
メルシーが慌ててハルの腕を引っ張り引き寄せ、部屋の隅で耳打ちした。
何処かで見覚えのある光景。
『ハル…。紫闇が女性だという事を忘れたの?』
『あ…』
まただ…すっかり忘れてた。
というか現時点では、もう森の事で頭いっぱいで、他の事を考えている余裕なんて今の思考回路の中何処にも存在などしてはいなかった。
ハルは後に来るであろう頭に対する衝撃に身体を固くした。
だがいつになってもそんな衝撃きやしなかった。
恐る恐る振り返ってみると紫闇は拳を振るう仕草もせずただ苦笑いをしていた。
「別にいいよ。てか気にしろって方が可笑しいな。このパーティー自分以外全員男だし。私だけの為にんな事強制するなんて、なぁ?」
そういうと彼女は即座に身に纏っていたリーマン風衣装――そんな物がなぜこの世界にあったのかは気になるところだが、この世界には機械国もあるそうだし、そういうところからリズが調達でもしてきた代物なのだろう――を脱ぎ始めてしまった。
背広、ネクタイ、そしてボタンを次々と外そうとする紫闇を慌ててユネが背後から止めた。
『止めい止めいっ。んなガキみたいな事ですねんなや』
「誰が何時すねた?私はただ自分だけが特別対応を受けているという事実に気付いたからそれを解消しようとしてだな」
ユネめ…私の事をガキだとっ!?私は至って正気だっ!
『…いいんじゃない?本人がそう言ってるんだし』
『『リっ…リズっ!?』』
突然割りこんできた声に、声を揃えて目を丸くしたのはメルシーとハル。
完全に驚きを隠せていない様子。
『だって本人が言ってんじゃん。“自分だけ特別対応なんて嫌だ”って。それにココでそう言う事をちゃんとしておくのも大切じゃない?だってじゃないとこれから先ずっと気にしていかなきゃならないんだから』
今こういう形にでもはっきりしといて正解正解。
『そ…そうなのか?』『そ…そういうものですか?』
そ、そういうもの。
「そういう事だ。これからは私だけわざわざ女性だなんて特別扱いせんでもいい」
[15] Re:エヌジアズ9
そうして紫闇は再びその服を脱ぎにかかる。胸元がちらりと肌を見せ、その白さがあらわになる。
『・・どうした?』
しかし、その瞬間紫闇に背を向けたのはハルだった。
『気にするなといっただろう』
それはどこか厳しさの篭った云い方。
『意識するな』
「はぁ?何、勘違いしてんだよ」
そういうの自意識かじょーってんだ。
ハルはそう後ろ姿で悪態をついた。
『何?』
「別に、特別扱いしてねぇし。その前に特別じゃねぇし」
『じゃぁ、何故後ろを向くんだ?』
「俺様が向きたいんだから向いてるだけだっての!」
『はぁ?』
気が抜けた言葉が思わずこぼれた。肩をすくめるハルはただ、駄々をこねている子供であった。
「だいたい、特別なのはこの俺様だけで十分だっつーんだよッそれに、女が特別とか女に全然一欠けらも見えねェお前が云える事か」
『・・なッ』
「お前なんか、ただ凹凸があるだけじゃねぇか。いや、それもねぇのか。だっておまえなんかよりカゲ姉のほうが・・」
『ハル・・』
「うっせぇなッともかく、もうちょっと女扱いされたきゃ女ってもんを磨きやがれ。他の女に失礼なんだよ!」
『あの、ハル・・』
「あー、もうッだからうっせぇって!今、俺様が女ということをだなぁ・・」
メルが引っ張るのを振りほどき、視線を向けるが何故か月明かりをバックにして自分に覆い被さるような影に気付く。
「・・あ」
『その前に、貴様の男を磨いてやろうか?』
邪気。いや、殺気。
まさしく魔王は再びこの地に降臨したのだった。
『歯ぁ食い縛れ―――ッ!!』
その夜、何処からかの叫び声は絶えなく闇夜に鳴り響いていたのだと言う。
04/04(Fri) 01:36:05 メケ太
[16] Re:エヌジアズ9
『う〜、気持ちい朝だねっ』
1人爽やかに伸びをして森を先頭で歩くのは、魔王こと紫闇。
その表情といったら、それはもう爽やか。これ以外どう表現すればいいかわかあらにほど、爽やか。
それに続くのはリズ、ユネ、メルシー、そしてハル。最後尾の彼の表情は、実に陰鬱。さすがに一番じゅう殴られれば気分も悪くなるだろう。
しかも。
先頭をとられている。
そして考えてみればみるほど、災難続きだと今更ながら気付く。
リザイアに渡る時、なぜか妙なガキ商人がくっついてきた。
船からおりたらおりたで、いつのまにか人が増えた。(しかもその中の一人は強暴魔王だ。)
おまけに最近(と言っても数日しかないが)殴られ放題だ。
挽回せねば、とハルが意気込んだその時。
「紫闇ちゃんってさぁ〜、肌白いよね」
その発言に、一同ぴたりと動きを止めた。
特に、言われた本人の驚きといったらこれはなかった。
『な、なな!? 何言ってるんだよ!!』
お前の方が白いじゃないか!
…だが、最初の方が驚きのためどもっている。セリフだけ見たら、下手すると挙動不審に見えなくもない。
「いや、ほら、何て言うの? 健康的な白さって言うの? 肌そのものも綺麗だし。まぁそれは若さもあるからなんとも言えないけど。
ボクの場合は、さ。何か病的な白さなんだよね〜」
自分の腕――長袖なうえ手袋なので肌は直接見えないが――をしげしげと眺めてながらのその言葉は、なるほど。的を射ていた。
『確かにな〜、綺麗な白い肌やねぇ。んでリズ……』
二人を見比べて、批評(?)述べていくユネ。
リズの顔(正しくは肌)を見て。
『…ホンマ、青っちろいわ』
やや困ったような表情だった。
04/04(Fri) 10:15:07 闇空鴉擁躬
[17] Re:エヌジアズ9
「とりあえずその話は修了っ。先進むゾ」
気付けばぎこちない早口でまくし立てている自分がいた。慣れない話題で――しかもその矛先が自分だったのだから――緊張していた。
『魔王はーん、足速いでー。皆ついてけへん』
はとして振り返ると自分以外の者が全員10mくらい離れた位置に立っていた。
赤面してうつむく紫闇にユネは、彼女の肩に手をあて苦笑しながら一言呟いた――というよりは“言った”の大きさの方がぴったりと当てはまるが――。
『しっかりしてやー?』
今だ胸の鼓動が収まらない。
紫闇は普段そのような話題で指摘されるという経験があまりないので、突然――しかも突拍子もなく――“白いね”などと言われた事に驚いた様子。
リズの発する一言一言にはいつもビビらされる。今日のこれだって例外ではない。
確かに自分はハルよりは白い。(比べる対象が真っ黒すぎなのだが…)
だが今まで自分が白いなどと気にかけた事あまりなかった。というか隊の中の他の者の方がずっと白かったと思った。
そんな人達に囲まれて生活していたおかげで、どっちかというと自分は色黒なのだなぁと感じていたのに…。
ある日突然こんな事を言われた。驚きを隠せるわけない。
先までの爽快さは何処へいったのか。今の彼女は静かに――いや、ただたんに黙りこくってしまっただけ――皆と同じペースでトボトボと歩いていた。
ふと昨晩の月の事が頭をよぎった。
昨夜の月はおそらく満月――あれだけ綺麗な影がはっきりとハルに覆い被さったのだから。もちろんちゃんと自身の目で満月を確かめたのだが。――。
――という事は新月が近いということか。
満月なのだから、あとは欠けてゆくのみ。
覚悟しておかねばな。
04/04(Fri) 18:33:23 えせばんくる
[18] Re:エヌジアズ9
『お〜い、どんな感じなん?』
「ちょ、待てってッ」
ハルは調度良い枝に手をかけて更なる上を目指した。
『本当に大丈夫なのか?』
「ごちゃごちゃうるせぇなッあれは大きい塔だったんだよ!この上からなら絶対・・」
―――見えるはずだ。
村から離れ、取りあえず森の奥に進んでみたは良いがリザイアの雄大な大きさにただ草木が続くのみで、とうとう足を止めたのはちょうど5分ほど前のことだ。
『けどなぁ、木上から見たって距離感覚ってもんがあんやろ』
『どうだろな。まぁ、馬鹿と煙はなんとやら』
『っていうか、もうすぐなんだけどね』
『はぁ?』
気付けばリズはその木の下に寝転んでいた。
『今、なんて?』
『いや、もうすぐなはずなんだけどって。その塔・・てか、正確には城か。そこ、もう見つかっても良いはずなんだ』
『えっ・・もしかして・・あの』
『あの〜・・?リズさん?』
『ん?』
『場所、知ってたりして?』
『・・うん。』
「っこらせッ!」
太さ的にこれぐらいで限界だろう。そのぐらいまで登り詰め、気付けばそこは結構な高さだった。空が、近い。
「・・・」
森の中では感じない、風。顔を撫でては髪の間から抜けていく。そういえば木の葉で見えにくかった空も今は丸見えでものすごく晴天であるのが解る。ハルは一息深呼吸した。そして目を凝らす。90℃。180℃。その視界を広げて。緑ではない、この頭の中に鮮明にして実感の如く浮ぶ映像を探した。当てはまるものならそれが――――。
「――あ」
城壁。
それは森の木々を掻き分け、置かれたようにそこにあった。木より高く全体的に森から少し出かけたその大きさ。見えるのは古い古い塔。いや・・城?どちらともいえない。ここから見えるのは、ただ―――・・
天辺の部屋。
窓。
窓。
「・・・ッ」
人ガ居タ
04/05(Sat) 02:17:25 メケ太
[19] Re:エヌジアズ9
『なんだかなぁ〜・・変だよねェ』
『なにがだ?』
『あれ?気付かない?』
リズは勢い良く上体を起こした。
『ここは魔族の森だよ?マイヤだよ?』
『あ』
その一言で空気は一瞬にして凝り固まった。
『“あ”じゃないよ。なんで僕等のような部外者が入ってきて何もないわけェ?これはそんな忘れたとか知りませんでしたとかの問題じゃないよ?』
『あー・・めんどくさかったデスってのは?』
『却下』
――気持ち悪い。
『居るんだよ・・誰かが』
今、この森に。
04/05(Sat) 02:37:44 メケ太
[20] Re:エヌジアズ9
誰か居る――。
塔の窓辺に。そう、誰かが―――・・・。
ゴンっ。『いだぁっ!!?』
その誰かに気を取られていた数秒間の間に頭に何か固い物が飛んできた。
固さから考えて―――・・・石っ!!?
ハルは後頭部で石の当たった部分を押さえながら飛んできた方向と思われる方―――つまりは下を覗く。
かなり高い位置まで登っているので少し葉がかかっていて下の方を見るには見通しがききにくいが。
だがハルの視力をもってすればこれくらいの事どうってことない。
『いってーな…紫闇かよっ!!』
「戯けが、とっとと降りて来い!!」
私達の他に何者かがいるかもしれないんだぞ!!
よく目を凝らしてみると、紫闇の表情がいつもよりもこわばったものになっていた。
「いいからとっとと降りて来いっ。話は後だっ!!」
『坊〜、はやくしないとね〜、おいてくよ〜?』
こわばった紫闇の声とは反対にリズのそれはとても穏やかなものだった。内容も相手を怯えさせるようなものではなかった。その次の言葉が出るまでは。
『別にさ〜、死んでもよかったらどんだけでもそこにいていいよ〜』
その言葉にハルは鳥肌がたった。リズが今まで言った言葉、冗談ではすまされない事もしばしばだったからだ。
ひとまず降りよう。そう決心した。
―――その時。
『うぁ…っ!!』
メルシーの小さなうめき声が聞こえた。彼の肩口には一本の矢が深々と突き刺さっていた。
04/06(Sun) 18:45:58 えせばんくる
[21] Re:エヌジアズ9
「──ッ!!」
『メルシーッ!!』
矢が放たれたことをきっかけに、周りを取り囲む気配が一気に強くなった。
人間ではない、怒りと殺気に満ちた気配。
それはそこに居る全員に向けられたものだった。
『…くぅ…ッ』
『大丈夫か、メルシー…?』
『ん、なんとか大丈夫…』
血の流れ出す傷口を押さえながら、心配させまいと小さくも笑みを作るメルシー。彼を囲むように背中をあわせて辺りに視線を巡らせる。
気配は痛いほど伝わってくるというのに、相手の姿は暗闇に紛れて確認できない。
『…怒らせちゃったみたいだねぇ?』
場の雰囲気にそぐわない、しかしいつも通りの態度で言ってのけるリズ。
「んな、軽く言えるコトかい。」
『しかし、話し合いで解決というわけにもいかなそうだな…」
お互いその場から動かずに睨み合いが続いている。
時間が経過するごとに空気が張りつめていくのを肌で感じられる。
周りの草むらからは、いくつもの言葉が混じり合ってザワザワと聞こえてくる。
「なんや…?」
低い声、高い声、人間の言葉でも無いものもある。
《出テイケ!》
《ココカラ立チ去レ!》
《サモナクバ殺ス!》
耳を澄ませてやっと聞き取った言葉は、どれも決して穏やかなものではなかった。
『…なんなんだよ…』
未だに木の上から降りられないハルも、下の雰囲気を少しずつ感じ取り始めていた。
「…あちゃー、随分気ぃ立っとんなぁ…」
ポソリと呟いた言葉に、紫闇が小さな声で訊く。
『相手の出方を伺ってみるか?』
「…いや、その必要もないんとちゃうかな?」
『こっちの言うコトなんて、聞いてくれそうな雰囲気じゃないもんね』
「ま、そーいうことやね。」
話し合いが終わり視線を相手に向ける。
雲が流れ、隠れていた月が相手の姿をうつし出した。
04/06(Sun) 20:02:34 如月暁人
[22] Re:エヌジアズ9
「まぁそれはともかく、メルシーくんどうにかしないとねぇ」
まるで独り言の様に呟いてから、リズは普段通りに歩いてメルシーの隣に行く。
何をしだすかと思われた、瞬間。
「…よっと」
『うぁっ!!!』
リズは矢を、引っこ抜いた。
当たり前だが血が溢れ出す。
無論、やられた方は相当な痛さをくらっている。
皆――森に潜んでいる者達さえ――何も反応できないでいた。
『お前なにやってんだよ!?』
少しして反応できたのはハル。しかし彼の叫びなど気に留めず、リズはカバンからごそごそと小さな包みを取り出した。それを手早く開けて、中から出てきた緑色の餅のような物を傷口に塗りつける。
続いて手を傷口にかざしボソボソと何事かを呟き始めた。
その手から淡い青緑色をした光が漏れ、リズが“呟き”を止めると同時に消えていった。
「…こんなもんかな」
パシパシ、とメルシーの傷口の部分を叩く。しかし叩かれた方はきょとんとしていて、痛がる様子は欠片もない。
『…今のは……?』
不審がる彼に、リズはあくまでも陽気。
「ん〜、魔法療法ってやつ?」
ニコニコにこにこ。
焼いても煮ても食えそうにない笑顔だった。
一方森に潜んでいる者達は、皆一様にざわめき立つ。
《今ノ光ハ……!》
《間違イナイ!》
それを耳にした一同は、その怯えた様子の彼等に疑問を抱く。 なぜ、今のことで彼等が怯えるのか?
確かにリズが治癒魔法を使えたのは驚きだ。
しかし、別にそれを行なえる者は数多い。教会の神父達がいい例だ。
構えを取りながらも疑問を浮かべる紫闇達に対して、リズはどこか冷え冷えとした笑みを浮かべていた。
どこか空恐ろしいまでの、外見との違和感が激しい“表情”。
漏らす言葉は聞いた者の心を底冷えさせるような――
「…これでもキミ達は、ボクを相手にするのカナ?」
――…絶対零度の氷の波紋。
04/06(Sun) 20:49:47 闇空鴉擁躬
[23] Re:エヌジアズ9
「そんな顔、しないでくださいよ」
ガッ!!
『な・・ッ!?』
鈍い音がしたかと思うとその闇に潜んでいた辺り一面が何処からか光を発した。目を潰すような閃光。しかし、それは目を被う一瞬で終る。
『・・・?』
そして後には何もない事に気付く。
突き刺す視線。
気配。
殺気、そのもの。
『・・なんや?』
なにも、ない。
「こんなところでなにを?」
それは不自然なほど。
静寂が、ワザと作られているように。
「テリトリーをご存知で?」
『・・・』
何故。
『・・あんたは』
何故?
『あんたは何者だ?』
―――コイツの気配が感じない。
「あなたは?」
低い、しかし澄んだ声が響く
『・・ハッ、名乗るもんかいなぁ?』
『・・私の名は紫闇だ』
草木を別ける音は、確実に寄ってくる音。
次第に闇にいた存在は輪郭を表していく。
「ああ、偶然だな」
『?』
「僕も、シアンっていうんだ」
ローブを深く被り、表情が見えない。
しかしそこからは薄く白い肌と
紅い瞳が覗いていた。
04/07(Mon) 11:25:15 メケ太