03/28(Fri) 23:33:27 えせばんくる

『おめぇなんか変じゃね?熱でもあんじゃねーの?』
なんだかリズを取巻いている雰囲気がいつもの様に明るいモノではなかった。
それを動物的直感でとらえハル。彼は今までの旅を見ていて気になったコトは聞かずにはいられない性質(たち)だろう。
『そんなコトないない。だいじょーぶダヨ』
わざと造り笑いしているのはバレバレ。大分ばてているご様子のようだ。
皆口に出していなかっただけで、既に入浴前後のリズの体調変化には気付いていた。
いや――気づかない方がおかしいだろう。
「リズ、今日は外出禁止。」
ドアの前で腕を組んで仁王立ちする“魔王”の存在。
――トオサナイ――
口を棒にして、でんと構えるその様子を見れば誰でもそう連想するコトが出来るだろう。本人もそう言わないで態度で示しているわけなのだが。
リズは男にしたら華奢―――女性かもしれないが、それはココではおいておくとしよう。―――な体つきをしているが、紫闇もどちらかというとそんなに変わりはしなかった。(“魔王”などと呼ばれてはいるが、いちお彼女は女性である。)
もちろん見るからにリズの方がヒョロっとしているのだが。
それを除いたとしても紫闇との力技勝負でリズに勝ち目はないだろう。
なんせ紫闇は馬鹿力…いや脅威の怪力娘なのだから。
実際まだお目にかかった事はないが、彼女の話によると彼女自身武術には長けているらしい。(というか“魔王”が君臨した時の彼女の威圧感は並大抵のモノではない…。)
そんな彼女がドアの前で「ダメ」と言っているのだ。
あいにくこの部屋に窓なるものは見当たらない。
風呂場も使えない。
そこにも窓はあるのだがどう考えても人間が立派に通れる大きさ、広さを満たしていないのだ。
それ以前にそこの窓ははめガラスで、押したり引いたりで開くような物ではないのだ。
つまり脱走口は無い。
リズは口をへの字に曲げながら紫闇と対峙する。
『ちょっとふざけた真似しないでもらえる?ママ僕の事待ってるし』
正確には待ってる“かも”なのだけれど。この際細かいことはいっていられない。
だが紫闇の態度は一行に崩れる様子を見せない。
「だーめ。明日にしなさい。てか年上(?)の言うコトくらい素直に聞け」
『なんだって君にそんなコトをいう権利があるわけ?僕別に大丈夫だっていってんじゃん。わざわざ拘束する権利がどこにあるっているんだい?聞かせて欲しいものだね』
屁理屈人間…なのかなんなのか。
人間拘束される時ほど屁理屈を垂れたがるものだが、リズもまた―――筋が通ってんだか通ってないんだかわからないが―――屁理屈を並び立てていた。



[2] Re:エヌジアズ8
「別に? 君くらい簡単にどけられるよ」
 どこか残酷そうな表情で、リズはふっと手を上げた。
 何事かと思って見ていても、はたからは何も起きているとは思えなかった。
 しかし、リズはニヤリと笑って悠々と扉を開ける。
 外に出て行く直前、振りかえってこう言った。
「後で酒場きてねぇ〜」
 にこにこと、底の見えない笑顔。
 紫闇は、動けなかった。



『…っ!』
 リズが出て行った瞬間、紫闇はがくりと床に膝をついた。
 その顔には脂汗まで浮いている。
『どないしたん?』
 心配そうにユネが声をかけるが、彼女は反応しない。
 否、できない。
 リズが手をあげた瞬間、紫闇は動けなくなった。
 どんなに動こうとしても、リズを止める事はできなかった。
 心の底からの恐怖だった。



03/29(Sat) 19:53:11 闇空鴉擁躬
[3] Re:エヌジアズ8
 ――なんで、こんなにも違うんだろう?
賑いのある辺りに目移りしながらハルは歩を進める。見覚えのあるはずの酒場への道が夜闇に惑わされては違って見える。街灯が灯る町でも明かりの殆どは店からこぼれるそれであり、眩しさよりも暖かさが篭る。若者の賑いは一変して大人の甲高いような低いような声に変わって、これも何だか違う。
『・・ハル?』
「ん?」
沈黙のハルにメルシーがいつもの小声で呼び掛けた。外に向けていた視線をメルシーに寄せるが視線は合わず、メルシーはただ横目で紫闇を覗いていた。その視線を追ってハルにも同時にユネといつも通りに話している紫闇の様子が写る。
『あの・・紫闇、どうしたのかな?』
「・・知らね」
一瞬、思考を戻して記憶を探ってみるが、それは自分自身何回も考えていたことなので何か今更な面倒臭さがあった。確かに、あの時の紫闇は変だったけれど・・。気にならないと云うならそれは嘘になるけれど・・。何も、なかったし。
ハルはまた窓越しに見える賑いの中に視線を移した。
メルシーは一瞬、困ったような顔を此方に向けたがそっれきり閉口したままだった。大体、自分にそんな答えが見つかるわけないのだから、そもそもの期待は的外れに過ぎない。言葉が続かない事には当然の結果、だが・・。
「いいじゃん。喧嘩じゃなかったし」
答えじゃなくていいのなら、云える事は沢山有る。
「俺、喧嘩になると思ったもん」
――リズが、手を挙げたから。
正直、あの時ハルの胸の鼓動は一瞬にして高まったのだ。相手を思うが故の行動に、起こった不満。そして口々にこぼれる愚痴のような言い争い。それで、そんで・・。
強張ったリズの顔を見た。
手を挙げた。
俺はそれが
それが振り下ろされると思って

「なんか、怖かったし」
マジ、嫌。
『・・うん』
メルシーは小さく相槌を打った。
今は、一体何処を見ているのだろう。



03/31(Mon) 14:01:20 メケ太
[4] Re:エヌジアズ8
酒場は予想通りの賑いだった。しかし、それは昼間に比べての事で道中で見てきた店と比べると客の入りがやはり違う。
『おぉうッやっほー』
そこでこの場に似合わぬ甲高い声。それは思いつくに唯一人しか居ない。リズである。カウンターに座りながら手を振る。先ほどの女性と話していたようだった。
『あら、坊やもまた来たの?』
「来ちゃ悪ィかよ。だいだい・・」
このリズは坊やじゃねぇのかよッ!!
と、指を指す前にユネがいつものように口を塞いだ。
『いやぁ、マセ餓鬼やねんな〜。ホント』
そしてリズの隣にそそくさと座り、
『おねェさん、水割りv』
と、鼻の下を伸ばした。
「この色恋野郎・・ッ!!」
ハルは怒りを抑えながらもどかどかとユネの隣に座った。その後にメルシー、紫闇も続く。
『坊やは何にする?』
「あ?んじゃ、それ」
バーカウンターの女性は薄っすらと笑いを浮かべてハルの顔を覗き込んだ。しかし、当のハルはこの女性がめっきり気に入らないようで何処か不機嫌そうに品目の解らない、ただ棚に並んでいたものの1つに指を指した。しかし、それを見て女性は尚更笑みを浮かべる。
『あらあら。これはジュースじゃないのよ。坊やにはまだ早すぎるんじゃなくって?』
「うるせぇッ坊や坊や云うな!俺だってもう立派な大人だぁッ」
『はいはい。そちらの二人は?』
女性は呆れたような、いや、楽しんでいるのだろう。そんな様子でハルを見た後、二人にオーダーを振った。

『ところで、リズはこんなとこで何してんねん?』
『何って商売だよ。商売』
当たり前でしょ?とそんな小生意気な目付きを向けてへへっと笑った。
『商売ねェ』
一体何売ってんだか。



03/31(Mon) 14:36:21 メケ太
[5] Re:エヌジアズ8
そんな簡単すぎるほどの疑惑。こんな子供が何の為にどんな理由で・・?そしてこんなところまで、一体どこまで通じていると云うのだろうか?しかしこんな事を問うたところで
『まぁ、色々ね』
そう、こうやってはぐらかされ続ける。
『ははは』
まぁ、いいさ。
ユネは飲みかけて持っていた水割りの中の氷をカラカラと揺らした。
『まぁ、こういう所で売るのは物だけじゃぁないけどね』
『ん?』
よいしょっと。そう腰を掲げてカウンターの下に置いてあったリュックの中からデカイ本を取り出した。
『それに今日は買いに来たの』
『この本を?』
『いいや』
そう云ってかぶりを振る。
『これは取引の品。あいつ標本マニアなの』
ずいっとユネにその本を向けた。
―――【標本図鑑】。
『ママ。地下借りるよ』
『はいはい。っていうか・・この子どうするの?』
そういってママは面白そうに“この子”を指差す。
『はぁ?』
リズがゆるゆるとユネの肩越しにその先を見ると・・。

「俺様1番!俺様最強ッお前等ついて来い!!」
『・・なにやってんの?あの馬鹿』
すっかり色んな意味で出来上がったハルが居た。
『ってな、コレってバイオレットヴィズ・・!?』
『ジュースだと思って飲んじゃったみたいvV可愛いわぁ』
『・・ママ』
嘘付け。
この人、完全に遊んでる・・。
「この世で1番知られている大人気ボーイッハル様だー!!」
『は、ハル・・』



03/31(Mon) 14:59:49 メケ太
[6] Re:エヌジアズ8
「バカハル、いい加減にしろッ」
 がっこーん、と言う見事な音ともに、ハルの頭に酒瓶がクリーンヒット。
 目を点にしているのはメルシーだけではない。紫闇も、ユネもだ。
 勿論被害者のハルは酔いも手伝ってか、物の見事に昏倒。
 しかし加害者であるリズは何事もなかったかのように爽やかだ。
「さて。君らも一緒に地下にくる?」





 結局皆で仲良く地下室に下りた。(ハルはメルシーに担がれている。)
 薄裏い階段を下りた先、妙に重々しい扉が現れる。
 だがその扉には鍵がないどころか、ノブさえついていない。
『…この扉、どないなってん?』
 ユネが素直に疑問を口にする。紫闇は今だにリズを警戒しているようで、無言であった。
「あはは。やっぱこうゆーのは“言葉”がいるんだよ」
 ニコリといつものように笑って、リズは扉の前で何やらブツブツと唱え始めた。
 何やら淡い光が漏れた…かと思うと、独りでに扉は開いた。
 メルシーはそれを見て、どこか感心した風に、
『リズって魔法使えるの?』
 と訊いた。
「ん〜、ちょっとぐらいはね。嗜み程度だよ」
 食えない笑顔。
 紫闇にはそれが不気味に思えて仕方ない。
(『あれ、が、“嗜み”程度の魔法?』)
 しかし彼女の思考はこれで止まる。


 開かれた扉の向こう――そこには。

 見事なまでの“標本”達が並んでいたのだった。 



04/01(Tue) 08:34:45 闇空鴉擁躬
[7] Re:エヌジアズ8
リズが手を振り上げたその瞬間紫闇は目を離すことができなかった。
まるでそのまわりから出ている何かに身体を捉えられたとでもいっらいいのか。
そんな感じ…だったのか。
リズと目があった瞬間最悪の映像が見えた。
   
 ――手を出した瞬間ヤラレル――

そんな錯覚まで覚えたほどだった。
「くそ…っ!!」
紫闇はそう小さくうめくと額に浮いた脂汗を手の甲でぬぐった。


馬鹿ハルが酒にのまれリズに一発かまされた後。
リズに案内された部屋とはいいがたい部屋という物。
標本―――そう、あらゆる種のそれがそこにずらり、と。
普通の本になっている標本はもちろんのこと、昆虫、草花をはじめ、石などの収集物そのものを収めたタイプの標本もそこには見られた。
それだけじゃない―――。
部屋の隅の方――なかなか薄暗く一番奥の方などは入り口付近からでは見えない――には鳥獣類、人体と思われるパーツが液漬けにされた不気味なモノまで暗闇の中目に付く。
「中々悪趣味な集め物をしていらっしゃるコト」
そればかりではないが。
紫闇も標本というものにはなかなか興味がある。
中にはあまり見た事のない不思議な生物、植物をお目にかける事ができる機会だってある。
だがココに置いてある人体標本などは収集許可がなければ、ただの趣味による収集であるならば法に違反する重大な罪になりうる。
そういうところは白黒はっきりしていた方がいいのではないのだろうか。
紫闇は心の隅の方でそんな風につぶやいた。
『ぅ…ぁっ…!?』
急に隅の棚を覗いていたメルシーが小さな叫び声をあげた。
「どうした?」
『これ…』
そう指差した先を辿ってみるとひとつの標本――この部屋にあるのはほぼ標本くらいな物だが――が目に付いた。
が、それはにわかに信じられる光景ではなかった。
「動いてる…っ!?」
そう、液漬けになっているモノがヒクヒクと、中の液を小さくピシャピシャと跳ねさせながら痙攣する様に横たわっていた。
隣りのモノに目を向けてももちろん動いている様子はない。
少なくとも人体…のモノではないようだが。
なんとも薄気味悪い。



04/01(Tue) 23:59:37 えせばんくる
[8] Re:エヌジアズ8
「おー、怖い怖い。ママってば結構悪趣味〜」
 口ではそう言いながらも、なぜか顔は笑いながらリズはそう言った。
 そうかと思えば巨大なリュックをださりと床に下ろすと、そこをがさがさと漁り始める。自分のバックを漁ると言うのも可笑しな話しだが、その表現がピッタリである。
『…何探してる?』
 ハルを担いだまま、おずおずとメルシーが問いかける。それを興味津々で見ているのは無論ユネ。
 しかしリズは見てりゃわかるよ、とまともに取り合わなかった。

 紫闇は、カバンを漁るリズを、どこか疑いの眼差しで見つめていた。
 否、見つめていたと言うより“監視”の方がしっくりとくる。
 子供なのか大人なのか。
 答えは勿論子供。
 だがたまに、その言葉で片付けてしまうには、とてつもな違和感を抱かずにはおれない時がある。
 それはふとした時の表情だったり、動作だったり。
(『…妙だ』)
「紫闇ちゃん? どうしたの?」
 突然かけられた声に、はっとした。
 思考に浸っていてぼうっとしていたのかもしれない。
 声をかけてきたのは他でもないリズだったが、その姿や表情はどこをどう見てもただの年相応の子供だった。


『…で? 結局これは何やねん』
 じと、とした疑惑の目でユネがリズの手に持つ“それ”を指した。メルシーも不思議そうに覗きこむ。紫闇も興味心に負けたのか、おずおずと見ている。
 手にされている、それとは。
「あー、これはねぇ『うわぁぁぁぁぁぁっっ!!』
 目の覚めたハルの絶叫が、部屋に響き渡った。
 彼はメルシーに担がれており、目を開けた瞬間リズが手に持っていたものを見てしまったのだ。
『うるさいっ! 店に響いたらどうするんだ!!』
 紫闇の拳が、見事に舞った。
 そこからは無論、口論が――ちなみにこれに不毛な、ともつくのだが――始った。
「…まぁここ防音きいてるからいいけどね」
『それはともかく、結局ソレは何やの?』
 再度ユネによる質問。さきほどの答えをハルのせいで聞き逃したため、どこか不機嫌そうだ。
『そうだよ! ソレ! どうして持ってるんだよ!!』
 口論から無理矢理抜けてきたハルが、ここぞとばかりに不満の声をあげた。ユネの視線などまるで無視だ。それどころか気付いていないのかもしれないが。
 そして続くはハルの問題発言。
『その、…魔族の目玉を!!!』



04/02(Wed) 11:16:41 闇空鴉擁躬
[9] Re:エヌジアズ8
「魔族の目玉…」
―――か。

そんな厄介なものがココにあった。
それがかなり高価な値で取引されている事は知っていたが、あまりよろしい方法で取引されていないという事もまた知っていた。
世に言う闇市で密売される代物なのだ。
しかも犯罪レベルがハイランクに記されている代物。
この事実を知っている者は表世界では少ないだろう。
ただの魔族の者ならば人間の人の価値とさほど変わりはしない。
普通の魔族の瞳なら別に闇市で売る程の事する必要もない。
だが売買する目玉というのだからそんじょそこらの目玉ではない。
それなりに価値のあるものでなければ闇市の棚になど並びはしないのだ。
それに闇市で売りに出されるものとなれば暗殺されてくりぬかれた目であろう。
魔族の中には膨大な魔力を秘めた者もいるという。
これは人間にも言えることだが。
だがそれを持つものが生まれる確率は魔族の方がはるかに高いらしい。
その溢れんばかりの魔力を半永久的に目玉に留める方法。
その為には生きたまま本人の息の根を止める必要がある。
つまり“殺人”。
そういうことにもなる。

自分の知っている『魔族の目玉』についての知識はこれくらいなものだが。
まぁ今では多少事実・事情は変わっているのかもしれないが。
なんせ自分がこの知識を頭に叩きこんだのはかなり前の事だったから。
それは死神職をやっていた頃頭に叩き込んだ内容だった。

―――死神か。

そういえばそんな職もあったものだ。
今ではそれに追われる身だがな。


とりあえず今は自分の私事など関係ない。
そう割りきって考えることにした。
今考えなくてはならないのは“ココにある『魔族の目玉』”なのだから。



04/02(Wed) 23:50:25 えせばんくる
[10] Re:エヌジアズ8
 その瞳は赤黒い光りを未だ保ちながら揺ら揺らとその溶液の中に沈んでいた。今まで己の本体のなかで何を見つめてきたのか、そしてそこから離れた後でも何を見つづけているのか・・。
まだ、この中の目は生きている。

『タリズ・・だっけなぁ』
『え?』
『この目の持ち主。魔族の中のアサシンだったんだけど・・その道ではちょっとは知られていた奴なんだけどねぇ』
リズはぽりぽりと頭を書きながら叩き込んである膨大な情報の中からこの目の情報だけを引き出していた。
『ああ、タリズ・ヴィンランド・・だ』
それに答えたのは紫闇である。
少しばかり微笑するように
『ちょっとは・・ねぇ』
と呟く。
「なんだ?紫闇、こいつ知ってんの?」
こいつと言っても今は目玉だけの個体1つであるが、ハルは不思議そうな視線を紫闇に向けた。・・未だ、メルシーの背の上で。
『なんちゅーても、その俊足さで名を馳せた一族だからなぁ。ハハ、“ちょっとは”っちゅう評価はヴィンランド家に失礼やないの〜?』
「・・お前等・・なんでこんな事に詳しんだよ」
ハルは一人、この会話の蚊帳の外だった。勿論、ハルの下にいるメルシーこそ、同じであるが。
『いいんだよ。そんな事は今、問題じゃないしー。今問題なのはこれがどれほど役に立ってくれるかってとこッ』
そう云いつつ、リズは勢い良く蓋を開けた。
そして呟くような小言。
『さぁ、僕等にお前の知る知識をおくれ』
すると突然にその目玉はリズを、見据えた。それは意図して動いたかのように・・いや、それは動いたのだ。
まだ、この中の目は生きている。
赤黒い瞳孔にはリズの姿が写っていた。



04/03(Thu) 11:13:24 メケ太
[11] Re:エヌジアズ8
 その直後である。手元が一瞬にしてぐら付く。
「なっ・・ッ」
『ぐッ』
『わあぁッ』
『うッ』
それは同時に、薄くなる意識の中で全員がその反応を示していた事に気付く。頭が痛い。熱い、苦しい。頭が痛い。狭くなって行く視野のなかでリズが薄笑いを浮かべ、ただ、立ち竦む。それがハルの見た最後の光景であった。


『汝、何を望む』
ただ、自分は虚ろいているように思えた。
『何故に真実を知る』
気付けば自分はあらゆる白さに囲まれていた。
『意識の世界』
自分の足が見える。
この場所ではなんと不純な色だろう。
『求めるのは自己であるか』
嫌、マジ嫌。
『欲するモノは未来か』
俺が欲しいモノ?
望み。真実。意識。自己。未来・・
真実。俺が欲しい真実。
その声は、届いていく。

ああ、頭痛ェ・・。
度重なる実感。
何処に居る?
お前は何処に居る?
『全ては汝の中に』
・・気色悪ィ。
ハハハ、早くよこせよ。
俺が知りたいのは・・
知りたいのは、伝説の・・
そう、伝説の真実。
不老不死の真実。
最強の、魔族の・・

『欲するモノは過去か』

       ・・・・うるせぇ。

『全ては汝の中に』



04/03(Thu) 11:41:05 メケ太
[12] Re:エヌジアズ8
 「全ては、俺の中に・・?」
『はぁ?』
「うわッ!!?」
ガシャー―ンッ!!
「お、お前人の眼中デカデカと飛び出してくんじゃねェよ!」
『何、そんなに驚いてんの?超挙動不審なんだけど』
その姿はリズだった。
『てか、妄想気味じゃん?薬中じゃないの〜?』
クスクスと笑いながら、立ち位置から見下ろす。なんだかその様がムカつく・・。けど、けれど実際、自分の額にはまるで悪夢でも見たかのようにビッチリと汗を掻いていた。
『どうだ?何か解ったか?』
「は?」
『意識、流れてきただろ?』
解ってんのか?そんな顔であるが、自分の脳裏には確かに紫闇が
倒れて行く様も写っていた。
「お前は・・何ともないのか?」
『何とも?あんなのただのショック現象だろ?』
・・ショック現象?
『頭ん中、直接流れてくんやて。そりゃぁ身体も拒否症状起こすわ。あ〜、てかしんどかったなぁ』
どうやら、あの記憶は本当の事だったらしい。
頭の中に直接流れてくる声、そのもの。
『それで、どうだった?』
「不老不死の話し、聞いた」
――全ては汝の中に
「白かったんだけど、最後に色々見えた」
それはホント、起きる一歩手前で。
「森が・・」
『森?』
「奥に塔があるんだ」
その場所はひっそりと暗く、古い、古い塔が覗いた。その中には
何人かの魔族が居た。居たが・・視線は違う方へ。ただ、一直線にとある魔族に注がれて。その後姿が・・。
――ダレ?
「読めたぜ。真実」
そいつが不老不死の魔族。
伝説の存在。
ハルの口元には自然に笑みがこぼれた。
「行くぜ!そこにッ」

――全ては汝の中に



04/03(Thu) 12:08:00 メケ太
[13] Re:エヌジアズ8
――真実、か。
導き出された答え。
塞ぎ込んでいた念が、やっと答えの一歩を踏み始めた。
当然それは完全ではない。このアサシンの情報量だけの真実なのだ。だからこれを確信として動き出すにはまだ早い。
まだ早い。
『さ〜て、行きますか』
『もうここは用がないしね・・ユネ?』
『ああ、そうやな』
メルシーのどこか急ぐような仕草。標本室と言う異様な部屋でその気持ちは解らなくもなかった。
『あんたは何が見えたん?』
『え?』
『いやぁ、なんとなく気になるやん?そういうの。どんな真実探してたんかなぁとか、どんなモンが欲しいのかなぁとか』
『な、なんですか?いきなり』
『いやぁ・・ね』
ユネは瓶の中で内部から破裂した目玉をどこかシニカルな表情で見据えた。
『世の中、わかんない事なんてないな・・と思ってな』
まったく滑稽な話しだけれど。

その後、一同はその場を後にし一度宿屋に向かう事にした。当然ハルはその時点で森に向かう気満万だったのだが、まずユネや紫闇、そしてメルシーの服装が違うこと、そして武器やその他荷物を持っていないという事で紫闇に強制帰還を命じられたのだ。



04/03(Thu) 12:38:19 メケ太