[72] エヌジアズ7
02/09(Sun) 00:03:04 えせばんくる
ハルはそんな紫闇の形相に恐れおののいた。
ハルのその行動は別に普通の人間(まぁ彼の場合魔族だが)ならあたり前の反応だった。
それくらいに今の紫闇の表情には殺気がこもっていた。
「ムゥーッ」という表情をしたまま眉ひとつ動かさない。
眉間にはもちろんしわがより青筋が薄っすらと浮んでみえる。
こんな状況下で下手なことをしてみろ、命がいくつあっても足りたもんじゃない…。
『……。』
彼は口を開いたままパクパクパクと金魚のような動作を繰り返しつつ次の行動を考える。
だがどう繋げていいものやら。浮んでこない。
するとメルシーがハルの襟首を掴んだ体勢のままズルズルズルと後ろへ引っ張り戻した。
そんな彼の単純な行動のおかげでハルは命拾いしたのだった。
[73] Re:エヌジアズ7
そんなこんなしているうちに約束の時間が来てしまい、リズを待たせるわけにはいかないので一向は、一旦集合場所に向かった。そこにはやけに膨らんだ荷物を地面に置き、門にもたせかかっていたリズが待っていた。
『悪い、またせた?』
紫闇が、リズに走り寄る。
『ちょっとね』
リズはいいものが手に入ったのか笑顔のまま、
『で、何か良い情報あった?』
と、紫闇とその後ろの人達に聞いた
『無かったしッ・・』
ハルはそう言った後、言い出そうとした言葉をユネが口を塞いだ事によって止められた
『で、ちょっと考えたんだけど・・』
紫闇はリズに、話しかける
『どっかに洋服屋さんなかった?』
『んー、確か向こうにあったと思うけど』
首をひねりながら紫闇の問いに答える
『じゃあ、悪いんだけど案内して』
という事で、一向は洋服屋さんに向かった。ついたそこでは皆、紫闇の選んだ服に着替えさせられた。
「・・あの、これ・・」
『仮装大会かなんかやるんか?』
誰もがそういいかけた。ユネは赤と黒を基調としたスーツっぽい感じの服に着替えさせられ、メルシーは黒と白の暴走族くさい服で、着替えさせた本人もピッタリとした黒皮の服を身にまとっていた。はっきり言って良い雰囲気の服とはいえない代物だ。
『統一感が全く無いけどこの場合しょうがない』
紫闇はそのままいった
『飲み屋に行くよ』
「このカッコでですか?」
『ハイそこ!軟弱くさい“あの”とか使わない!』
メルシーに一括した。それを横目で見ながら
『あ〜もしかして・・たち悪そうなとこいくつもりなん?』
と、思った事を口にしてみた。
『ま、そこ行けば怪しい話なんだし聞けるだろ』
『おい!怪しいって・・しかも俺様は?』
リズとハルは着替えていない
『残ってろ。身長的に無理がある』
『お前だってそうは変わんないだろッ・br>
02/16(Sun) 11:36:41 摩緒
[74] Re:エヌジアズ7
そんな、ハルを無視して行こうとした紫闇だったが、
「ねぇ・・あ、おい。わ・・俺らってそこに行っくのはいいけど武器無いンだけど」
見た目悪そうなだが、中身はやっぱり変わらず心配性のメルシーが聞いた
『そおいや俺ら武器持ってけんな』
『・・・』
『やっぱ俺様必要だよな』
嬉しそうに紫闇を見る。仕方なく紫闇も丸腰の二人だけじゃ心もとないと思ったのか、一言も喋らず口をへの字にしている事を条件に、ハルを連れて行くことにした。
『リズ・・』
『あ、うんボクは平気荷物まとめてるよ。すぐそこの宿だから』
と、指を指す
『じゃ、また後で』
四人は怪しい飲み屋を目指して店を出た
02/16(Sun) 11:47:40 摩緒
[75] Re:エヌジアズ7
『つぅかそんな都合のええ飲み屋、すぐに見つかるんかいな?』
『大丈夫。こーいうの探すのには慣れてるんだ。』
至極当然な意見を出したユネに、紫闇はにやりと微笑む。
慣れてるって何なんですかと彼女に問い詰めたい者もいたことはいたが、流石にそこはスルー。
紫闇はちょこちょこと辺りを見回し、なにやら暗い路地裏を覗き込んだ。
『ほら。』
そして言葉通り、かなり目立たないところに――いかにも、な看板を見つけたのである。
店内は暗いが、ほのかに薄黄色のランプが灯っていて、辺りを見ることに支障はない。微かなピアノの音が響く。
まだ陽が高いせいもあり、客の数は圧倒的に少ない。
広いとは決して言えない店内に転々と配置されたテーブルと椅子も、今は埋まっている数より空いている数のほうが多い。
『…いねぇな。客。』
『ま、よぉ考えたら昼間やしね…』
『聞かないよりはマシだろ。そのあたりの人に聞いてみるか。』
紫闇がずかずかと店内に入っていく。それを、慌てて追う男3人。
『いらっしゃい。』
『あ、どもv』
カウンター越しに、主人らしき中年女性が声をかけてきた。
中年といってもまだ若々しく美しい人で、ユネはデレッとした笑みを浮かべて応える。
『そこの坊主には未だ早いんじゃないのかね?』
くすくすと笑いながら彼女はハルを顎で示した。
むっとして、反論しようと開きかけたハルの口を紫闇が無理矢理抑えて、代わりに身を乗り出した。
『すみません、放っとくのも心配だったんで〜。』
その隣でユネが、さも今思いついたかのように言う。
『俺らちょっと前にこの大陸来たばっかなんやけど。
そういやリザイア大陸ってケッタイな伝説あるんやね?
なんや……不老不死?とか何とか』
02/16(Sun) 13:03:43 うさぎばやし
[76] Re:エヌジアズ7
言いながらカウンター席に座り、適当な水割り頼むわ、などと注文までしている。流石に現役は違うものだ。
ちなみに自主的箱入り息子だったメルシーは現役には程遠い。
店主はああ、と軽く笑いながら応える。
『あんたらあの伝説信じてるのかい?』
『あの伝説って嘘なのか!?』
ハルが慌てて紫闇を振りほどきカウンターに駆け寄る。
嘘ってわけじゃないけどね、と店主はグラスを拭きながら首を傾げた。
『信じてる奴は少ないさねェ…――あ、でも…』
少し言葉を切って。
『確かそういう伝説を調べてる奴ならいたと思うがね。いわゆる学者連中さ。』
『学者…って…』
ハルが“???”といった表情をしているのを見て、うんと店主は頷く。
『この街の中央に、まァ他の国に比べりゃ規模は小さいけど…国立の大学があるのさ。
そこ行けば何人かはいると思うよ。ただそう簡単に敷地内には入れないけど。』
『そうなんですか…』
紫闇がふぅと小さなため息をついた。
一応の手がかりは見つかった。あくまで一応だが…。
ここからどうにか調査を進めるしかないだろう。
『夜、もう一度来ても良いですか?』
『私は別に構わないがね?
見たトコ――そこの兄さん二人はさておき――あんた等は未成年だろ。
あんまりこういうトコに来るのはお勧めできないねぇ。』
店主は呆れたように紫闇とハルに言う。
二人は苦笑いしながら、「水割りもう一杯〜」などと言っているユネと、それからメルシーを引っ張って外に出た。
当然ユネには、自分で飲んだものの代金くらい自分で払ってもらったが。
02/16(Sun) 13:04:09 うさぎばやし
[77] Re:エヌジアズ7
取りあえずと宿屋に戻った紫闇達。
「いやー、やっぱリザイアの土地はいいね!」
大きく伸びをしながらそう言うリズに、紫闇とハルは物珍しげな視線を送った。
『…こんな薄暗い?』
『湿った森だらけの土地がぁ?』
確かに、魔物や魔族にとっては住み心地のいい場所かもしれない。
しかし人間にとっては虫が出るわ魔物がでるわで、とてもじゃないが“いい場所”とは呼び難いものがある。
「うん、そりゃぁボクが育った土地だしねぇ〜」
生まれた場所は知らないけど。
「あ、そうだ。ボク今夜もちょっと出かけてくるね〜」
そう言ってベットい顔を埋める。どことなしか、上機嫌そうだ。
『どこ行くんだ?』
素直に疑問を述べたハル。
しかしリズは、
「どこでしょう〜?」
これである。
あまりにも飄々とした態度に、短気なハルはすぐに手をだしてしまった。
「ぐぇっ」
なんとも言えないうめき声。
勿論声の主はリズ。
襟首を掴んでいるのはハル。
『……き、昨日の夜は森にいってましたよね』
しどろもどろになりつつも、メルシーは勇気を振り絞って尋ねてみた。
答えるわけないだろ、とはハルの思い。されど相手はリズ。
この子供は、そこそこに天邪鬼であった。
「うん、そう。だから今日は馴染みの酒場…って言ってもヤバイ感じのとこだけど…に行くんだー
ちなみに場所はそこの道具屋の脇にある路地の裏でねー、これまた目立たないんだー。
商売する気あんのかねぇー…ってちょ、ぐぇっ」
『てめぇ俺様にはまともに答えなかったくせに何あっさり答えるんだよ!!?』
「あ、なに? ヤキモチ?」
『んな訳ねぇだろっ! 俺にもまともに答えろっつってんだよ!!』
果たして彼はリズの首を相当に締め上げている事に気付いていないのだろうか。心なし、リズの顔が青い・br>
02/16(Sun) 20:20:57 闇空鴉擁躬
[78] Re:エヌジアズ7
。
『あ、あの』
『しゃーないなぁ。ほなぼっちゃん離したりぃ』
助け舟をだしたのはユネ。苦笑いしながら手をヒラヒラ。
渋々と言った風にハルは手を放す。途端リズは大きく咳き込んだため流石に少しあせったが、すぐに「なーんちゃって」と言われたために感情は怒りに変わった。
1人静かしていた紫闇は、リズが言った“馴染みの酒場”が気にかかっていた。
その酒場の特徴・場所。
明らかに、先ほど紫闇達が入った酒場であったのだ…。
02/16(Sun) 20:21:23 闇空鴉擁躬
[79] Re:エヌジアズ7
紫闇はリズ達のやり取りを聞きながら、
やはりリズに多少の違和感を感じずにはいられなかった。
別にはたから見ていれば普通の子供なのだが…。
だが何処となく違和感を感じてしまうのは気のせいか?
(普通のガキが酒場に入れるってのには完全に違和感があるが…。)
ひとまず…。
「せっかく宿に泊まってんだ、風呂の一つや二つ入らにゃ損だ。
ってなわけで私は入るが…他はどうする?」
既に入る支度を調えている紫闇。
ココの宿屋の風呂は一部屋に一つ設備されているのみで
露天風呂や大風呂などの大勢で入る式の風呂はなかった。
『じゃあ僕次入るヨ。綺麗にしてから行った方が気分いいしネ。』
その後の順番はそれぞれの話し合いで自然に決まった。
紫闇、リズ、ユネ、ハル、メルシーといった具合だ。
ハルの前にユネが来たのは『先輩に先風呂は譲るもんや』
という彼の勝手な言い分からだった。
メルシーは自分から一番最後でいいという控えめな発言。
ハルがユネの前に割り込めるハズもなく
結局最後から2番目という結果に収まらざるを得なかったのだった。
02/17(Mon) 00:00:24 えせばんくる
[80] Re:エヌジアズ7
一通り順が決まると紫闇は先程からひょっとして
リズの馴染みの酒場と自分たちの行った酒場が
同じ所ではないのかという疑問を思い出したので
試しに訊ねてみることにした。
「リズ、一つ聞くがお前の馴染みの酒場のカウンターにいるのは女性か、男性か?」
そりゃカウンターなんか日によって変わるだろうが。
『ん、女性だヨ。若く―――はないけど結構な美人さんだね。それがどうか?』
「あ…いや」
ビンゴ。
水の跳ねる音で部屋が満たされる。
ふわっとした湯気が身体に纏わりついてくるがそれもなかなか心地よかった。
髪に付いたシャンプーを流し終え、ふぅと一息つくと浴室の窓に気がついた。
こんなところに窓があったのかと思いつつそれを開けてみると
綺麗に欠けている三日月と鉢合わせした。
ちょうどその月は綺麗な曲線を描いていて…笑顔を思わせる形をしていた。
紫闇は思わず即興で考えてしまった詩をこれまた自作の音譜にのせて歌ってしまった。
月ノ様ニ
空ノ上カラ物事ヲ
眺メルコトガ出来タナラ
私ハ笑ッテイラレタノダロウカ
己ノ犯ス罪ニ
モット早ク気付ケタノダロウカ
……自分で云ってて笑えた。ソノマンマ。
02/17(Mon) 00:03:09 えせばんくる
[81] Re:エヌジアズ7
「あー、気持ちいい…」
湯船につかりながらぼんやりと外を眺める。
小さな窓から覗く月は、随分と大きく見える。
今頃彼等はどうしているだろうか。
勝手に1人で行動しているけれど。
どれほどの月日がたっただろうか?
自分の、平らな身体。
凹凸と言ったら腰にある程度。
もしも奴が。
奴が。
「…………っ!!」
思い出しかけて、勢いよく湯船からあがった。
湯が滴り落ちる音が空虚に響く。
上気していたはずの顔色は随分と悪くなっていた。
02/17(Mon) 19:42:37 闇空鴉擁躬
[82] Re:エヌジアズ7
「…どうしたん?なんや随分気分悪そうやないか。」
風呂場から出てきたリズの顔色に気付いたユネは、すれ違いざまにポソリと呟いた。
『…ん、平気だよ。』
小さく短く言葉が返ってきたものの、リズの様子はいつもとは少し違っているように感じた。
一瞬足を止めるが、リズはそのまま通り過ぎて部屋に戻っていってしまう。
「………」
自分の思い過ごしだったのだろうか。
深く追求してもどうせ上手くはぐらかされるだろうことはなんとなく目に見えていた。
今は気にしないことにして、温かい風呂を楽しむことにした。
着替えを用意して脱衣所に入る。
隣接している風呂場からの湯気と湿気と、微かな石鹸の香りが漂ってきた。
床には既に冷たくなっているいくつもの水滴。
上着を脱ぐと、想像していたよりも気温が低く、小さく身体を震わせた。
早く湯に浸かってしまおう。そう決め込むと、残りの2枚のシャツをまとめて一気に脱ぐ。
と、その瞬間、脱衣所の扉がいきなり開いた。
ガラッ
「ッ!!!」
勢い良く扉の方向に振り向くと同時に、反射的に持っていた服で胸を覆い隠す。
視線を向けた方向にはハルが立っていた。
「…な、なんやねんハル。」
『“なんやねん”はこっちの台詞だぞ。なに1人でビビってんだよ。』
ユネの反応にハル自身も少なからず驚いているようだった。扉を開けた姿勢のまま怪訝そうにユネのことを見つめている。
…見られたか?
…いや、まだ見られていない。
服で胸を押さえたまま、一歩後ずさるように風呂場の扉に近付く。
「…ビビってなんてあらへんて。それよかお前、なんで入ってきてんねん。」
『んだよ、入ってきちゃ悪いのかァ?俺は便所に来ただけだっつの。』
「……便所?」
ふとみると、風呂場とは反対側の壁に“WC”と書かれた扉があった。
風呂場とトイ・br>
02/17(Mon) 23:35:37 如月暁人
[83] Re:エヌジアズ7
風呂場とトイレは脱衣所を通して繋がっているようだ。
「…ドア開ける前にノックぐらいしぃや。」
『そんなもんいらないだろ。男同士なんだし。』
げんなりとした様子で答えてくるハル。
…怪しんではいないようだ。
…こいつなら、大丈夫か。
「いやぁ、俺かて花も恥じらう思春期の男の子なんやでぇ?そんなに見られたら恥ずかしいわぁv」
『はァ!?』
ふざけたように言うと予想通りの反応がきて、いつもの調子を取り戻す。
ついさっきまで焦っていた自分が少し馬鹿みたいに思えた。
『ざッけんなよ気色悪ぃ!風呂入るならとっとと入れよ!』
タオルを投げつけられると、それをキャッチして風呂場の扉を開けた。
ハルも反対側の扉を開ける。
「…なぁ、リズの奴なんかあったんかなぁ?」
『…え?あいつがどうかしたのか?』
「んーや、なんでもあらへんよー。」
『なんだよそれ…』
やはり気のせいだったのだろうか。
それとも気にしてはいけないことだったのだろうか。
今日はもう考えるのはやめにし謔、。
身体を暖めて、明日のために早いうちに寝ることに決めた。
「…覗かんといてねv」
『誰が覗くか!』
02/17(Mon) 23:36:23 如月暁人