01/13(Mon) 03:18:16 えせばんくる
「ん…。」
重たい目蓋を明けると自分の右斜め上に位置する出窓から心地よい朝日が入りこんでいて自分を照らしていた。
知らない天井、知らない寝床、知らない匂い。そして何より知らない顔が2人も増えてる。彼の仲間なのだろうか。自分のベッドの左側にも同じサイズのそれが置いてあり、2つのそれの間に白髪の彼は寝ていた。何者かと格闘した傷跡が身体の数カ所に見られた。
―――追っ手に遭遇した…?
『んぁあ…。』
丁度その時彼も起床。大きくのびをするとこちらの視線に気付いた。
『あー。てめーもう起きてのかよ』
まだ眠そうなその目を擦りながら彼はこちらに話しかけてくる。
「ぁあ、ところでその傷は…」
すると彼は『ぁあコレ?』と自分の身体に残っている痣などを見て口を尖らせる。
『昨日の晩お前をそこに寝かせたからベッドが足りなくなったんだよ。それでコイツと格闘したが挙句の果てに負けた』
もう一つのベッドに眠っている人物を親指で指しながらぶすっとむくれるその顔は普通の少年そのものだった。
『こいつ貧弱そな餓鬼に見えて底力あるからな、てめーもせいぜい気を付け―――』
『だーれが貧弱?』
その声を聞いた瞬間少年の肩が引きつる。言ってはならない台詞だったのだろうか。
少年の向こう側、もう一つのベッドにあぐらをかいて座っている少年――否、声からすると少女か――は組んだ足の上で頬杖をつきながらニヤっと笑っている。彼女のベッドの横には大小さまざまなモノが置いてある。よく見かけるようなポーションから妖しげな物体まで…。少女は首をかしげながらこちらに向って口を開いた。
『それよりもう大丈夫かな?まぁ薬が効いたみたいで落ちついたけど…』
「あんたが薬を…?」
『そ、このリザイアの恵みの薬だよ』
そういって彼女はビンを軽・
[37] Re:エヌジアズ 4
くふる。が、どことなく奇怪な色をしたそれが本当に発作をとめる力があったのだろうか…。
「ほんとにそれが効いたのか…?」
というかそれを飲まされたのか。私は…。
『失礼な、これはいわゆる霊薬と呼ばれる万能薬の一種なんだよ。
どんな傷でも病気でもなんでもござれ〜ってね。
普段は一滴15万Mくらいで売ってるんだけど特別にタダであげちゃったよ』
「はぁっ!?」
15万Mっつったら1年と3ヶ月も普通に生活できちまうじゃねーかっ。
「そんな薬よかったのか?私がもらっても…」
『少なくともそこにいる“バカ”にくれてやるよりマシだよ。
もっともそこにいる“バカ”に使う機会がくるかどうかも妖しいとこだけどさ』
『てめぇさっきから聞いてりゃこのクレバーなハル様に向って好きかって言いやがって』
『自分でクレバーという言葉は使わない方がいいよ。逆に“バカ”っぽいから』
『なにぃっ!?』
『まぁまぁふたりとも早朝喧嘩はよせって…』
突然赤毛の髪の男が間に割って入る。年恰好は自分より年上か。だがそんな彼の口調は彼等の前では弱々しい。中々の苦労人だな、こりゃ。
それよりそんなにも不思議(且つ奇妙な)薬を持っているというコトは薬剤師か商人か。まぁいい。それよりも―――。
「名前…。なんて呼んだらいいんだ?」
自分がそういうと目の前で争いになっている3人の動きが収まった。
『俺様は―――』
『ボクはリズ。
商人で、珍しい様々なモノを取り扱ってるよ。
キミもリザイアの恵みはいかがかな?』
かぶっても一行に気にせず。リズと名のる少女はとんとんと自分の紹介を終わらせた。間に割り込まれた少年は肩を振るわせながら怒りを堪えていたが爆発させる事はなかった。
『俺様は前にも言ったが世界で一番知られている超大人気ボ―イハル様だ』
『ハル・br>
01/13(Mon) 03:20:20 えせばんくる
[38] Re:エヌジアズ 4
坊でいいよ』
『ハル様だ。』
即答で自分に様付け…こいつ天然か?
「で、そっちは?」
赤毛の青年に目配せすると彼は一言『メルシー』とだけ答えた。
『じゃあ今度はこっちだね。キミの名前は?』
すると彼女は少しためらった表情を浮かべたがすぐに返事を返した。
「…私は紫闇だ」
高くもなく低くもない声で紫闇と名のる少女はそう答えた。
『ん、紫闇だね。じゃあ紫闇。
目、覚めたコトだし汗まみれでしょ?
ボク旅してるから何着かはもってるし背丈同じくらいだから貸すよ。
お風呂入って着替えなよ。
そいういうわけだから男性諸君は出ていきたまえ。』
『なんで出てかなきゃなんねーんだ。別に女じゃあるまいし』
彼は腕を組んで椅子に座っていた。なんだか偉そうに。
『これでも?』
『なぁっ!!?』
何を思ったかリズはハルの手を掴むとそのまま紫闇の胸部に触れた。男性には無い、女性特有の柔らかな感触が布を通して伝わってきた。ハルは思ってもみなかったその感触に耳の先まで赤くなる。だが触られた方も触られた方でこめかみに青筋を浮べながら声を荒げた。
「なっ!?戯け者がっ!!何処を触っているっ」
思いがけない少年ハル(+少女リズ)の行動に思わず手がでる。見事に己の拳は少年の頬にヒットした。
『坊、彼女を女性だと見ぬけなかった己の洞察力の無さに後悔するんだね。
さ、出てった出てった』
そういうと彼女は男性陣二人を部屋の外――廊下へと追い出した。
『さて、キミのあの発作。ボクの知識によると病気によるものじゃないんでしょ?』
リズは椅子に反対向きにこしかけると口を開いたが、その内容に驚いた。まさかこんな子供が気付くなんて。
『あ、今なんでわかったって顔したね?わかるさ。ボクだからね』
そういうリズの顔は根拠のない笑顔に満ちていた。
01/13(Mon) 03:21:44 えせばんくる
[39] Re:エヌジアズ 4
―――彼女なら、リズなら信用できるだろうか。
「お前を信用しての話しがあるんだがいいか?」
『ん。なんだね?』
リズは軽く返答する。彼女はその後『商人は個人情報を守る義務があるからね』と付け加える。まだ幼さが残っているわりにちゃっかりした少女だ。
「私は死神だ。“元”と付け加えた方がいいが…」
『ふんふん…』
「さっきの発作は呪いによるもの、それはあんたでもわかるな?」
『うん。』
「あれは新月の日にもっとも効果を発する呪いなんだ。
普段は時々の発作だけなのだがいつでるかはわからない。
だが新月の日になると朝から晩まで、1日中胸を貫くような痛みが走るんだ」
『ぁー。あの呪いか』
―――っ!?
「知ってるのか?」
そう問いただすと彼女は言いにくそうに口を開いた。
『あれはやっかいなコトに、術をかけた術者じゃなくちゃ解けないんだよねぇ…。』
そういうと彼女は椅子を立ち大きなリュックをあさり始めた。
「そう…か。」
彼女は自分が座っているベッドのシーツを掴んで握り締めていた。そうして紫闇がうつむいていると足元でリュックをあさっていたリズが服を出してそれを紫闇に手渡した。
『お風呂に入ったらそれに着替えて。たぶん丁度いいハズだから』
01/13(Mon) 03:22:19 えせばんくる
[41] Re:エヌジアズ 4
なんでこう――。
「なんでこう性別不明者が多いかね?」
ハルは追い出された部屋のドアの前ですっかり膨れ上がった頬を撫でながらそう誰に問うわけでもなく一人ごちた。
『ははは・・』
「お前もだよ。馬鹿」
そう、隣にはメルシーがいたが当然問いの答えをこいつに求めているわけがない。なんせあの二人がオトコオンナならこいつはオンナオトコだ。笑えた立場じゃないだろうが。
「あーッ畜生!なんで俺が殴られなきゃいけないんだよッ俺は好きであんな・・」
あんな・・。
あんな行為が、そしてその胸の膨らみがまた脳裏に甦る。到底、触れる事が無いだろうあのふくらかな感触。
『顔・・赤い』
「なッ、バカ!このバカ!!」
ハルは勢い良く拳をメルシーに向けた、が。
「のぁあッ!!」
――バタンッ
『・・なにやってんだ?そこで』
突如ドアが開き、戸がハルの顔にメガヒット。ハルは言葉にならない痛みに鼻を抑えてうずくまる。メルシーといえば自分は難を逃れたのも束の間、心配性が働いて今度はハルの事態におろおろする結果となっていた。
『・・おかしな奴ら』
というか、変人。こんなやつに一瞬でも頼った自分の追い込まれようといったら凄いものだったのだろう。呪いの効力も素晴らしいほどだよ。
01/13(Mon) 04:17:44 メケ太
[42] Re:エヌジアズ 4
『はぁ・・』
まったく溜め息なしじゃやっていけねぇ。
「オイ」
『なんだ?もう回復したのか?』
「うるせぇッそれよりお前何処行くんだよ」
『風呂だ。覗くなよ』
「覗くかッ!!このオトコオンナッ」
陰険に向けられた言葉にそう返してみたがどうやら効果はなく完璧無視を決め込まれ、ただ反応すらみせない背が遠ざかっていくのが見えた。
「〜ッ畜生!!」
―――バタン
「だぁああッ!!」
『何?こんなところにいたの?』
またもや戸からふいの攻撃。
リズの呆れ顔が部屋から覗いた。
01/13(Mon) 04:28:56 メケ太
[43] Re:エヌジアズ 4
どうしてこいつはいっつもいっつも!!
そうハルは思わずにはいられない。
会ってからそう時間はたっていないのに、その短期間の間でどれだけ被害を被ったことか。
だいたい。
『お前男か女かぐらいはっきりしろっ!』
扉の直撃を食らった顔面を片手で押さえて、あまったもう一方の手でリズをビシッ、と指さした。
「……ボク?」
『それ以外に何があるってんだよっ』
コイツトシャベルトツカレル
彼の中での結論はこのようなものだった。
おろおろしているメルシーは、何かを考えているような仕種のリズに気がつかない。
「…仕方ないなぁ」
小さな呟きに『はぁ?』と思ったのもつかの間。
リズはごく自然な動作でハルの両手をとる。
小さな、華奢な手。
そんな事を考えていたハルだが、次の瞬間そんな余裕はなくなった。
『…っ!!!??』
『!?』
二人の顔が真っ赤になっている。当のリズは至極冷静。
そう、リズは片方の手を自分の胸に。もう片方を自分の股にやったのである。
『なにさせんだよっ!!』
真っ赤な顔で手を振り払う。リズの手は簡単に離れた。
「わかったかい?」
どこか子供には不釣合いな笑顔を浮かべた、少年とも少女ともつかない存在。
「よく考えてみたら?」
その言葉を残して、リズは階下へ行ってしまう。メルシーも慌ててそれについていった。
『………』
残されたハルは、呆然と自分の両手を見つめる。
リズの胸には、紫闇のソレのような柔らかな感触は無かった。要するに、平だった。
しかし、股には男としてあるべきものも無かった。
『何なんだよ…』
途方に暮れるしか、なかった。
01/13(Mon) 09:04:48 闇空鴉擁躬
[44] Re:エヌジアズ 4
ハルはまだ痛む顔を押さえながらその場で壁によっかかったまま、ボーッと考え込んでいた。女?でも、胸が無かった。男?いやいや・・
『う〜〜ん?』
ハル様はお手上げだった。
その頃、階下にはリズとメルシーが丸いテーブルに向き合う形で座っていた。メルシーはリズの事が気になってついて来たんだが、この男には聞く勇気が出なかった。
リズはついてきたメルシーは何か聞きたかったんだろうと予測、気を利かせて話しかけた。
『どうしたんだい?ボクになんか用?』
「えっと・・最終的にきみはどっちなの・・?」
『あはは。キミも調べてみる?』
と、笑みを浮かべた。
メルシーは慌てて頭をブンブンとおもっきり振ったちょうどその時ハルが上の階から降りてきた。
『あぁ、ちょうどいいじゃない。聞いてみなよ』
『・・ひぇえ?』
まだちょっと考えていたハルが間抜けな声を上げた。
「どっちだったの・・?」
頭をおもっきり振って目が回ってたせいもあってか普通に話しかけた。
『えっとぉ・・どっちでもいいじゃん?!俺様は男だし、お前も男。あんの紫闇とかゆうヤツは女』
な?!そう言われると、メルシーは訊きなおせなかった。
リズはその光景を面白そうに眺めていた。
『何やってんだ?あんたら』
リズを眺めては首をひねるハル、自分の荷物を整理してるリズ、ボーット考えてるメルシーを見て言った。
見事なまでに違う雰囲気の3人。ここまでよく来たなと思いながら見れば解る言葉を口にするしかなかった。
01/13(Mon) 20:52:48 摩緒
[45] Re:エヌジアズ 4
思い当たる事はたくさんある。しかしそれがどうも繋がらない。
ボクという一人称。
当然、これだけで男と決めるほど自分は愚かではない。なにせ俺様は・・いやいやいや、そうじゃなくって一人称は飽く迄、自分を呼ぶだけの機能であってそれによって判別区別を付ける役目はない、ということだ。例え作用があったとしてもそれは極々普通の過程で見た場合であって女が自分をボクと呼ぼうが俺を呼ぼうがそれはそれで良い事なのだ。逆に男が私と云おうがいちいち構うことではない。そう、
『?』
メルシーのように。
しかし、こいつは完璧男だ。
最初は名前のこともあって聞いてみたが・・あれは愚問だった。あんなタンクトップを着といて胸が目立たないわけがない。そう、胸が・・
胸が。
『おい、コラ』
「うおおぉうッ!?」
『ったく、人が帰って来てあたかも質問してるというのに何、ボーッとしてるんだ。少しは反応しろよ』
「う、うっせぇ。俺は思案に浸ってるんだよッ」
『紫闇に浸ってるんだよ?』
と、メルシーが横槍。
あれ?俺、今なんか変なこといったか?
「・・?あ、ああ・・そうだよ?」
てか、なんかメルシー、違う気がする・・。
ハルとメルシーは二人して首を傾げた。
『はぁ・・』
この馬鹿どもが。
『ねぇねぇ』
溜め息を漏らし伏せかけた視線の先にリズ。
『それでこれからどうするさ?』
そう云って商品を詰め終わってパンパンに膨れたリュックを音を立てて床に置いた。
01/13(Mon) 23:02:42 メケ太
[46] Re:エヌジアズ 4
これから―――。まずは追っ手を巻く事を考えなければ。となるとリザイアに長くはいられないか……それより。
「私が一緒に同行しててもよかったのか?」
自然な疑問。追っ手に追われている身で足手まといだと思われているかもしれない。
だがそんな紫闇の思考を否定する返答が返された。
『ぁ?別にいいんじゃねぇか?』
小人数でいればいるだけリズからのツッコミはいってくるし…。
他のメンバーにも目をやるが皆意見は同じようだった。
『そんな身体で行く宛てあるの?
突然発作きたって君一人じゃなんにもならないでしょ?』
にこっ。
リズはあどけなさの残る笑みを浮べる。その笑みに紫闇は安心し胸をなでおろした。
『で、どうするの〜?
もうちょっと行けばリザイアの中心都市あるけど〜。
そこ行く?』
―――あっ。
ハルはその時自分の初めの目的を思い出した。俺様はリザイアの不老不死の伝説を探しにわざわざきたんじゃないのか?
『俺様はリザイアの伝説を探すぞ』
突然伝説とかなんとか。
「そんなものが存在するのか?」
すると彼は自慢げに不老不死伝説の話を話し始めた。秘密をそんなにもたやすく披露してもよかったのだろうか…。
一通りの話を聞いた後、紫闇の顔が以前より生き生きとしていた。その変化にいち早く気がついたのは真横にいたメルシーだった。
『?どうしたの?』
すると彼女は口元をニヤっとさせながらハルに向って口を開いた。
「それ、面白そうじゃねぇか」
『…?はぁ…。』
力の無い声を洩らすメルシーを横目に彼女はビシっと人差し指をメンバーの中心に立てながら一言。
「決めたっ。私はハルの意見にのる」
―――ぁあいいさ。追っ手がくるならこっちも向えうってやろうじゃねぇか。完膚なきまでにしてやる。
「――って私一人で言ってても仕方
01/14(Tue) 00:25:37 えせばんくる
[47] Re:エヌジアズ 4
が無いのだが?どうするんだ?」
紫闇は隣に座るリズに尋ねると彼女は腕を組んだままの姿勢で今後の進路を発表した。
『ん、じゃあひとまず中心都市の方向わない?
せっかくリザイアにきたんだし。
紫闇が追っ手に見つからない程度に探索しない?』
すると彼女は自分の事を心配していってくれた言葉にもかかわらず反論をのべた。
「別に見つからないようにする必要はない。
相手がでたら完膚なきまでに叩き潰してやる」
―――こいつホントに元が女かよ。
そんなハルの視線に鋭くも紫闇は気付いた。
「ハル、何かいいたそうだが?私の何処か可笑しいか?」
『…いや、別に』
ハルは思わず視線をそらす。そうしないと先程の出来事がまた鮮やかによみがえりそうで…。
『紫闇に浸る〜』
そこでリズはボソリと先程のメルシーの言葉をリピートした。明らかに字が違うぞ。
『リズ馬鹿なことぬかしてんじゃねぇっ』
『ぇ?キミの心中を代弁したつもりだけど?』
『……』
駄目だマジ疲れる、こいつといると…。
『まぁなんにせよココをひとまずでようか。でないと何もはじまらないね』
リズとメルシーは一度部屋に戻って荷物の忘れ物が無いか確認する事にし、ハルと紫闇は先に外で待っている事にした。外はきれいに晴れていて雲一つみあたらなかった。太陽の日差しが結構まぶしい。
『…』
「…」
二人は宿屋をでてすぐ側の木陰に腰を下ろしていた。だが会話は一つとしてなかった。
…う〜ん気まずいぞ。
ハル様は柄にもなく悩んでいた。ココ最近悩まされる事が急速に増えた気がするのは気のせいか?いや気のせいなんかじゃないだろうな。絶対に増えてる。
それにしてもこいつと二人。なんて気まずい組み合わせで残されたんだろう。あんなことがあった後だからなおさらなのだが―――。
そ
01/14(Tue) 00:26:13 えせばんくる
[48] Re:エヌジアズ 4
う考えているとまたしてもあの時の事が脳裏に浮ぶ。ハル坊まだまだ童(わっぱ)。まだ生まれてこのかた14年の少年には刺激がつよかった。
「なぁ…」
突然隣で座っていた紫闇から話しかけられハルは思わず裏声返事になってしまった。そんなハルを見ながら彼女は笑う。
『あ…。』
笑った。昨日からこのかた彼女が笑った顔を見たのは今が初めてだった気がする。なんだ笑えば普通な奴じゃん。女に見えるわけはないが。
『なに?』
「昨日は私を助け出してくれてありがとう」
今になって改めてお礼を言われたせいかハルの顔がほんのり染まる。
『ん…まぁ。倒れて無抵抗の人間を
そのまま目の前で野ざらしにできる程非道な人間
(もとい人間じゃないんだけど)にできていないんでね』
照れを隠すようにそっぽを向きながら言った。視線の先にはまだぼんやりと薄く残った月の影。空がすんでいるので今でも見えた。
「そんなお前に私は救われたのだな」
『………よせやぃ照れるじゃねぇかっ!!!』
そういうとハルは一息おいて思いなおしたように大声で言う。
『そうだよ俺様のおかげだっ。だから俺様の恩を忘れるなよっ!?スーパーボーイな俺様の恩は安くないんだからいつか返せよ』
「あぁわかったそうするよ」
―――変な奴とは思ったが案外気があうかもな。
彼女が最後にそう呟くと彼は一言いつもの迷台詞を吐いた。
『それから俺様は変な奴じゃあなくて、
この世で一番知られている大人気ボーイッハル様
っていう素敵な名前があんだよ』
―――そこんとこ重要。忘れんなよ?
01/14(Tue) 00:27:51 えせばんくる