01/09(Thu) 21:33:07 うさぎばやし


 船から降りた人々もやがて港から去り、残されたのは3人。所在無げに立っているメルシー、辺りの様子を見ているリズ、水平線の彼方へ去っていった船を見つめるように、海を見やるハル。ちなみにリズに関しては、港から出て行く人たちにお決まりの台詞で話しかけ、幾らかの稼ぎを得ていたようである。相変わらずちゃっかりしているものだ。
 ハルはなんとなく空を見上げた。…空でアホウドリが舞っている…

『さて、どうしよっか?そろそろ陽も落ちるけど。』
 にっこり笑ってリズが問う。
 ハルはぎろりと、メルシーは困ったような顔をして、ほぼ同時にリズのほうへ視線を向けた。
『宿探す?それともお金節約してどこか厩でも貸してもらうとか?野宿って手もあるけどね。』
『野宿は止めといたほうがいーだろ。』
 ふ、とハルは小さなため息をつき、ぴんと背筋を伸ばす。メルシーもそれに同意を示し、今まで開かなかった口を開いた。
『…リザイアは、魔族が。』
『あぁ、そっか。そうだよねぇ。魔族ねぇ…』
 リズはようやく思い出したといわんばかりにぽんと手を打った。リザイア大陸はそのほとんどが森に覆われ、魔族が多く暮らしている。人間が住むのは、主に中心部の都市のみだ。彼らはお互いにお互いの領域を侵さぬことで共存している。…一応、常識だ。
 ハルはまぁ、魔族なのだが…
『…なんかもぉお前らと行動すること決定してるみたいだし。』
 人間と行動する以上、ハルもそれなりの覚悟(?)をしなくては。…特に、“仲間”でない人間なわけだし。つぅかだいたいなんでこんなことに…俺様のサクセスストーリーが…この超〜大人気ボーイハル様が…何故…
『あはははは今キミが何考えてるか手に取るようにわかるなぁボク』
『……。…てめぇ少しは遠慮しろ―――ッ!』



[25] Re:エヌジアズ 3
『…あの、宿…』
 一応言ってみたものの、当然のことながら二人ともメルシーの言葉など耳に入ってはいない。
『………』
 もう日没なんですけど。メルシーはそう言いたかったが、どうにもそんな雰囲気ではない。彼は天を仰ぎ、心の中でちょっと泣いた。



01/09(Thu) 21:35:05 うさぎばやし
[26] Re:エヌジアズ 3
 結局そのまま日は暮れて、ボクらは港の宿をとることにした。
『…なんでこの俺様がこんな事に……』
 ぶつぶつとぼやくのは、自称《超〜大人気ボーイハル様》。彼は見ていて飽きない。はっきり言って爆笑ものだ。さっきからぶつぶつと暗い表情で言ってたと思ったら、突然顔をあげて叫んだりを繰り返している。
『すいません…』
 心底申し訳なさそうに謝るメルシー。彼は本当に気が弱いのか、内気なのか。別に気にするような事でもないのに礼儀よく謝る。(“礼儀よく謝る”って表現も変だけどさ。)
 取りあえず部屋はとったから、何も問題はないわけさ。
 だから、ボクはちょっと散歩にも出てこようか?
「おーい、ハル坊」
『坊じゃねぇっ!!』
 おぉ、素晴らしい反射神経。すごい勢いで首が回ったけど、大丈夫なのかね。あれは。
「ボクちょっと出てくるから、部屋で休んでてよ。明日には戻るからさ」
『は? 何言ってんだよ、ここの夜は危険だって知ってるだろ!?』
 心配してるのか、ただ単にお人好しなのか。それとも普通におバカなのか。坊呼ばわりされたこともすっかり忘れているし、勝手についてきたはずのボクに言葉をかける。
『ここは魔物も出るって言うし…』
 こっちの青年サンはしっかり心配してくれちゃってるよ。嬉しいねぇ。
 でもね、せっかくボク帰ってきたんだから、ちょっとは夜の外に行ってもいいでショ? ココの夜空は最高なんだから。
「だーい丈夫、だってボクだしね!」
 言ってみたけど、こりゃ聞いてる方にしてみれば根拠の無い言葉だね。ま、ホントのことだから信じてよ? …無理な話だけどさ。
「そんなわけだから、また明日ね〜」
 手を振って、呼びとめるような言葉は軽く無視して走った。
 晩御飯のお金、一応渡してあるから彼等が例え一文ナシでも平気だし



01/10(Fri) 09:46:56 闇空鴉擁躬
[27] Re:エヌジアズ 3
。部屋は最初から二人部屋しかとってないし。
 さぁ、森に行ってこないとね。



01/10(Fri) 09:47:29 闇空鴉擁躬
[28] Re:エヌジアズ 3
部屋を出、宿を出ると二階の窓から下を見ていたメルシーにリズはブンブンと手を振ると、意気揚々と森に入っていった。夜の森はやっぱり昼より薄暗く寒くて湿っぽかった。
『あーー寒い!!』
ある程度予想して入ってきたが予想以上だった。“ハーッ”っと息を出す。いつも持ち歩いてるカバンを背負い(持ち?)なおすと目的の物(所)に向かっていった。

その頃、同じ部屋に残った二人・・イヤこの場合、ハルは何をしようか考えていた。もちろんメルシーはいつ出て行こうか伺っている様だったが、ハルにはもうすでにある一つの意見が浮かび上がっていた。オジサンにも頼まれたぐらいだし・・メルシーと話す事にした。
『なァ?メルシー?これから一応、一緒に旅する訳だし、ちょっと色々と話しよーぜっ』
「え・・」
予想道理の反応が返ってくる。別に話す事なんてないんだが,ここまで暇になるとつまらない。そのまま続ける。
『一応オジサンに頼まれてる事だし〜』
「何で・・オジサンは私を君と一緒に船から降ろしたの?」
・・立場が逆になってしまった。しかも、コレには回答できない。
『さ〜あね。お前にいろんな事経験させたかったんじゃん』「け・・経験?だって・・機械技術の経験は・・」
『機械だけじゃねーっつーの!』
お前のその他人恐怖症みたいな内気を治したかったんだよ。まあ、そう簡単に治りそうな代物でない事は確かだった。
『お前、夢とかねーの夢。俺様は伝説の代物を探してみたい!』
「・・・」
折角一人で盛り上げたが、やっぱりこいつが相手じゃあ盛り上がらない。でも、そういえばほぼいつも一人で盛り上がっていたような・・。そう思った後メルシーが口を開いた
「メティシア・・に行ってみたいな」
一応行き先の選択肢にそこが加わった。



01/10(Fri) 22:28:24 摩緒
[29] Re:エヌジアズ 3
 夜は更けてゆく…のだが…。普段は早く感じるそれが今この男にとってはとてつもなく遅く感じる。その原因は目の前で窓の外を見つめている男にあった。
―――会話続かねぇ…っ。
 ハルがひっきりなしに話しのキャッチボールを試みるのだが、一言二言でそのボールは場外へ。全然話しになってない。
―――この際“あいつ”でいいから戻ってきてほしいかも…。
 そう“あいつ”。この真夜中にフラフラと出かけて行った大馬鹿者。(まぁ俺様の知ったこっちゃないが…。)この世で超〜大人気ボ―イハル様のコトをこともあろうか“坊”呼ばわりする命知らずな奴、“リズ”だ。
 でもこの状況が改善されるならそれでいい…。早く帰ってきやがれよ…。
 人気ボーイハルもピンチに陥っていた。最大の敵はこの静寂。何も音の無い空間。カーペットを歩く音でさえ耳をすまさずとも聞こえる。それから必要品以外何も無い部屋。
―――退屈。
これは静寂以上に手強い敵。恐ろしい程に退屈。しかも運の悪い事に眠くない。眠ければ寝て暇を紛らわす事もできるのだが、あいにく船で爆睡してしまった。もうこれ以上寝らんないってくらい…。
―――だぁあああっ。
『決めた』
 ガタっと音を立ててハルは椅子から立ちあがる。今まで音の無かったその部屋でその音はかなり大きな音となって赤毛の青年に伝わる。青年は突然の行動に目を丸くして『何を?』と問いかける。すると彼は息を吐き捨てるようにしながら言葉を吐き捨てた。
『外行ってくるわっ』
 その答にさらに目を丸くするメルシー。頭をぶんぶんと横に振りながら彼を説得しようと口を開くがハル曰く、
『この俺様が襲われるなんてありえない。
襲われたら逆にその命知らずに後悔させてやるさ。』
―――“あいつ”じゃあるまいし俺様に限ってそんなことありえねぇ。



01/12(Sun) 00:26:50 えせばんくる
[30] Re:エヌジアズ 3
 そう言うとハルは後ろでに手をヒラヒラと振りながら部屋を後にしてしまった。
『ホントに危ないかもしれないのに…。
分かってはいたけど自分勝手な奴だな…』
 赤毛の青年はお手上げといった態度をドアに向って示したがドアは何も答えてくれない。
『じゃあ私は今のうちに道具磨きでもしてるかな…』
 彼は自分のかばんに手をかけ工具一式を取り出した。



01/12(Sun) 00:27:31 えせばんくる
[31] Re:エヌジアズ 3



新月ですっかり暗くなった森の中を小柄な人間が全力で駆けている。だがかなり足取りはおぼつかない様子で駆けるというよりは引きずると言った方が正しいのか。
「はっぁ…っくぅっ…っ!!」
 激痛が胸を走る。だがこんなところで止まってはいられない。追っ手が…来る。
「ぅうぁっ」
 ギリっと胸を締め付ける。息が……。
 これ以上走り回っていてもらちがあかない。逆にこのままでは自分が不利になる一方だ。どこかに休めるところはないものか。
―――あのコは…大丈夫なのだろうか…。
 自分の中に一つの心配事が浮ぶ。
「…っはぁっ」
 だがこの苦しみがそれをかき消す。時を増すごとに痛みが増してくる。
―――どうにか巻かないと…っ。
 そう思った時、目の前の茂みが動いた。
「っ!?」
―――追っ手かっ!?
 闇に溶け込みそうな程黒い肌の男。だが髪は闇に反発するくらい真っ白でまだ若そうだ。
 だが追っ手は追っ手だ。このような若僧でも上位の者かもしれない。
「…っは。早いお出ましだな」
 腰に差していた脇差に手をかける。どんな敵にも今気の緩みは許せない。油断すれば命は―――――無い。
 だが目の前にいる少年は目をクリっと丸くさせながらこちらを見つめる。そして口を開く。
『なんだテメー、誰だか知んねーがヤルのか?この俺様に立てつく気か?この世界で一番知られている超〜大人気ボ―イ!!ハル様に。てめぇも命知らずな野郎だなぁ』
 



01/12(Sun) 00:28:49 えせばんくる
[32] Re:エヌジアズ 3
なんて態度だ、コイツ。それより知らない…?こいつ…私の事を。
―――何故だ?
「お前っ…ハァっ…死神じゃ、ハァ無いの…か?」
 奴は先程から腕を組んで偉そうな態度を取りつづけているがその体勢のまま口を開く。
『はぁ?なんだよ、それ。このスーパーボーイの俺様でも知らねぇぞ』
―――っ!?な、に…?
「お前違う…の、か?」
『違うも何もそんなん知らねぇよ。お前こそなんなんだよ。
苦しんでるかと思ゃ突然刀抜こうとするわ。何モンだよ』
 はっ、お前に言われたく…は、ない…ぞ?その言葉。…だが今はそんな事、言ってる…場合、じゃ、ない…な。
「その言葉信じて、ハァっいいの…だな?」
―――それに賭けるしかないか。もぅこの身体、もちそうも無い。
 ずるっ。
『――!?ぉっおいっ!?』
 謎の少年は力無くハルの腕の中に倒れこんだ。呼んでも一行に返事はない。
『なんなんだよぉ…。』
 少年完全に困った様子。普段寄せない眉間も寄りに寄って3本もの筋が入っている。腕には小柄な(とは言っても自分よりちょっと低いくらい)の少年。なんか追っ手がどうのこうの言ってたな。
―――つれて帰っていい…んだよな?
『このハル様の助けは高くつくぜぇ…?』
 息荒く目を閉じている少年を背にしょうと宿へと踵を返した。



01/12(Sun) 00:32:52 えせばんくる
[33] Re:エヌジアズ 3
 嗚呼、ここは気持ちがいい。
 この風が大好きでたまらない。
 湿った、暗く冷たい空気。
 この大陸独特のソレ。
 ――“自分”の場所。
 だが行かなくてはならない。一箇所には留まっていられない。
 嗚呼、誰かがこの森の静寂を破っている。
 私の静寂を、破っている。
 迷える子羊……否、漂う死神。


「たっだいまーっ!!」
 宿の部屋を勢い良くあけて、その妙な子供は帰ってきた。時刻は深夜。予定より少し早いお帰りである。
『…てめぇ……』
 お前がいない所為でどれだけ俺様が苦労をしたことか。
 と、ハルはこれまた随分と身勝手な事を考えている。
「おや? そこのお嬢サンはどちら?」
 寝台に横たわる者――現在メルシーが看病している――を見て、リズは疑問の声をあげた。
 しかし、発言に問題があったらしい。
『…こいつ、どう見たって男だろ』
「はぁ? キミなに言ってんの? どこからどう見たって女の子じゃん」
 キミの目節穴?
 嫌味ももれなくプレゼント。態度も大きいものだから、それは大層ハルの神経を逆撫でしているものだった。
 しかし、怒りに打ち震えるハルなどまるで無視して、リズは寝台の住人に近寄る。
 どうやら彼女は胸の発作を起こしているらしい。苦しそうに息をしていた。
『さっきからずっとこうなんですよ』
 メルシーがそう説明して、横にいるはずのリズを見ようとした。
 が。
『『……………………』』
 彼等二人の見ている前で、リズは自らのカバンの中を漁っていた。
 だが問題なのはそこではない。
 何かを取り出そうとして、そのカバンからでてくる余計な物――これが、問題だった。
 その中には正体不明の瓶や、一体何の肉だか判らない干し肉、どうやってカバンの中に収納されていたのか皆目謎な杖、等などエトセトラ。
 二人が・br>


01/12(Sun) 09:13:22 闇空鴉擁躬
[34] Re:エヌジアズ 3
見守る中――正しくは、彼等はただ単に固まっていただけなのだけれども――リズは一つの小瓶を取り出した。
 いかにも怪しげな緑色の液体が入っている。
 そして何を思ったが、リズはおもむろに寝台に寝ている少女の口を開けて、その小瓶の中身を三滴飲ませた。
『『!??』』
 驚いたのは他でも無い、見ていた二人。
『お前なにやってんだよ!? そんなわけわかんねぇもん飲ませるなッ!!』
『な、な、何を飲ませたんだ……!?』
 掴みかかるハルに、おろおろするメルシー。しかし事の原因とも言えるこれまた謎の子供は、随分と余裕綽綽である。
「何やってるって、そりゃ薬飲ませたんだよ。見ててわからんかったの?」
『解るに決まってんだろッ! それよりあの緑の物体はなんだったんだよ!!』
「あー、アレはねぇ、超高く売ってる薬なのさー。特別サービスで、タダであげちゃったよ。本当ならあれ一滴で十万Mはくだらないのに」
『んなこと訊いてねぇ!!』
「そうなのか。まぁいいや」
『よくねぇっ!』
 どうどん話の反れていく二人の会話に、おずおずとメルシーが口をはさんだ。
『あの…、結局はどのような薬なんでしょうか』
 声に反応して、二人は勢い良くメルシーに向き直る。はっきり言って、やられたほうは相当コワイ。
「アレはねぇ、一種の霊薬。ボクはリザイアの恵みを受けた万能薬〜って言って売ってる。病気も怪我もなんでもござれ〜ってね」
 あっさりとリズは答えた。
(『何で俺様にはまともに答えねぇんだよ…っ』)
 青筋を浮かべて怒っているハル――心なし頬も引きつっている――など全く気にせず、リズはほら、と寝台をさす。
『…あ』
 確かに、その少女は寝息も正しく気持ちよさそうに眠っていたのだ。
「ほら、すんごい効き目でショ?」
 襟首をハルに掴まれたまま



01/12(Sun) 09:14:14 闇空鴉擁躬
[35] Re:エヌジアズ 3
、リズはニッコリと笑ってそう言った。

 ちなみにこの後、残り二つの寝台をリズとハルで争って(メルシーは最初からその争いには参加せず、毛布を借りてきてすぐに床で寝ていた)、結局リズが勝利して寝台で寝る事になった。



01/12(Sun) 09:15:00 闇空鴉擁躬
[40] Re:エヌジアズ 3
暖かな陽光に新鮮な空気が潤う。どこまでも浸透したこの空間が好きで堪らない。それは、何処で燗ッじで些か賑やかな都会でも朝型は不思議に透き通って感じる。しかし無音なわけではない。五月蝿くもなく静か過ぎるのでもない心地よい雑音。薄い意識の中で自分よりも先に起きた者の気配が安心を揺さぶっていつか、いつか自分が気にかかってその手を・・。
触れる。
「ッグエェ!!」
『お?』
眠気をいっきに覚ますような激痛が腹に起こる。それは切られたのでもなく、ましてや腹痛の類ではない。嗚咽を漏らすに相応しい捻れるような踏まれたような・・。いや、“ような”ではない。これは・・
『悪い悪い、踏んだ』
「いわんでもわかるわ―――ッ」
本当に踏まれたのだ。
ハルは激怒に腹を抱えていたその態勢を崩し、その張本人に対峙するようにして飛び起きた。
『なんだ元気じゃないか』
平気平気。そういいながらにこやかに肩をポンポンと叩く。そういえば――
「〜ッ痛ェ・・・」
まだ痛かった。
叫んだせいでその痛さがまだジンジンと響く。
『ところで・・ここは?お前の家か?』
「あ?違ぇーよ。ここは宿」
腹を摩りながら上目使いに答えるが、こいつこの状況見て俺に他にするべきことはないのか・・?そう一瞬考えたが本当にそれは一瞬で終った。
『じゃぁ、悪かったな』
「オイッ!!」



01/13(Mon) 03:36:26 メケ太