12/17(Tue) 17:45:05 闇空鴉擁躬
「運命なんて、もともとねぇ。俺達だって人形なんかじゃねぇ。確かに神に『作られた』身体だ。でも今こうしてアルと一緒にいるのも、てめぇらの相手をするのも、結局は自分の意志だ。
…てめぇらに、人形扱いされたくなんかねぇんだよ」
っつーか、結局はてめぇらも最初は“アルのためだけに”つくられらんだよ。
そう言うが早いか、ベルは目の前のリヴァイアサンに飛びかかった。
《お前が私を倒すだと?》
嘲る声に、ベルは同じように“嘲って”言葉を返した。
「…俺がどんな存在かも忘れた龍なんて、ちっとも怖かねぇんだよ!」
剣を、一振り。
それだけだった。
エルクは、目の前の光景が信じられなかった。
彼女を守護する存在――リヴァイアサンがもがき苦しんでいる。
何か薄い膜に覆われて、だんだんとその姿を小さくしていった。
最後に残ったのは、小さな小さな透き通った色をした丸い『珠』。
『…え?』
「お情けだ」
ベルが珠――リヴァイアサンが閉じ込められているソレを、エルクに放った。
慌ててそれをキャッチした途端。
目の前の風景が変わった。
否、遠くなった。
隣にはリグ達。
彼女は『戦場』から、除外されたのだ。
『そんな…!!』
「…おい、餓鬼。特別に、俺がどんな存在か教えてやる」
『そ、んなこ、と、知って、る…!』
ベルは、『護人』だ。アルを護るための存在だ。
しかし彼はノアの言葉などまるで無視して、靴でノアの頭をつついた。
「俺は、何よりも誰よりも強い存在として作られた。この意味が、解るか?」
『………』
「何よりも、だ。強いやつが現れたら、俺は勝手に強くなっちまう。俺の意思なんてお構いナシだ。…アイツは、あの傍迷惑な神サマは、俺をそうゆーふーに、作った」
だから俺は何よりも、誰よりも、強い存在に
[14] Re:αβ15
なる。もちろん、アルよりも。
「俺は、てめぇの種族がキライだ」
淡々とした口調。しかしその青い瞳は怒りに満ちている。
「あつらは勝手に俺らが神の使いだなんて思いこんだ。神なんて、とっくのとうにお寝むだってのによ! それで自分達の立場が追いやられたからって、俺達を妬んだ。自分達が神に愛された種族だと思い込んで、つけ上がってやがった!! それで、なんだ? あいつらはアルに攻撃をしてきた。俺は、そいつらを殺した。それだけだ。お前を殺したのは、お前がアルを攻撃してきたからだ」
述べられる真実に、ノアは耳を塞ぎたかった。
だが、ボロボロの身体では、それさえも出来なくて。
頭の中に、昔のことが溢れかえってきて。
目の前の剣さえ、遠く感じた。
12/17(Tue) 17:45:48 闇空鴉擁躬
[15] Re:αβ15
エルクの最後、消えゆくその瞬間。
手を伸ばした彼女の姿は
あの頃の、あの時の君に何処か似ていて――。
『ノア』
深い深い意識の底で叫んだ声は、本当に俺を呼んだものなのか。名前など知るものか。何故?誰?俺を呼ぶのは――。
赤い月に黒い土。移ろいの中、はっきりとしない意識にたった1人、まだ光り輝く命を見つけた。歳は遥かに幼く、白くあまりに身軽な軽装の井出達で、それはあまりにもこの場――血みどろの吹き溜まりには似合わない。そろそろと近寄ってくる君の瞳と髪の色が印象的だった。
―――死なないで。
彼女はただ泣いていた。なくしたものは一体なんだい?それさえも今は見つからないか・・。バラバラでズタズタで。その形を捉えられるかい?失ったものは一体なんだ?
泣いてはいけない。
そう、君にはまだ・・。
それは・・俺じゃなくとも・・。
――俺じゃ、なくとも?
ド・・ッ!!
「――――――」
――君は?
ああ、そうか・・。
ノアは目に写る白き雪の如きを、虚ろに見据えて宙を仰いだ。その花びらにただ身を沈め、純白を赤く染めながら。
12/17(Tue) 19:07:43 メケ太
[16] Re:αβ15
そしてとうとう
かみさまがこのほしからさるひがきました
かみさまはこれからどんどんひとがふえ
くうきがしぜんとよごれることをしっていました
『しそ』がそのようなせかいになってもくるしまずにすむようにと
じぶんがもちえるすべてのちしきとわざを
『しそ』と『もりびと』にあたえました
そうやって
かみさまはこのほしをさっていきました
こうしてわたしたちのすむこのせかいから
かみさまがいなくなったのです
12/17(Tue) 19:11:12 闇空鴉擁躬
[17] Re:αβ15
世界は――全て壊れていった。
『終りだ。餓鬼』
ベルはこの腹部に深く貫いた剣を抜き、ただ一言そう呟いた。昔と同じ、同じ顔、同じ表情。風に弄ばれるように空に舞った花だけが過去と今の堺を保っていた。しかし、そんな風景もブラインドがかかったかと思うと、すぐにも変わってしまった。天界からもとの世界へ・・。気が付けば、あの瓦礫と化した街の只中に居た。そして―――。
『ノアァッ!!』
聞きなれた声が、その見なれた姿が俺を捕えた。
『ノアッノアッ!!』
駆け寄り、この身を抱え、何度も俺の名前を呼んで・・。
―――ああ、やっぱり。
「エル、ク・・」
やっぱり、君だったんだ。
栗毛の・・。
「ごめ・・ん、な」
忘れていたんだ。俺はずっと、ずっと君の事。本当はもっと前から、生まれ変わる前から君の事を知っていたのに。君を・・。
―――死なないで。
あれは君の言葉。君が俺に向けた、最後の言葉。そう、俺は君の・・・龍だった。
『嫌だッ嫌だ――・・ッ』
泣いてはいけない。
あの時もいっただろう?
ノアはそっと手をエルクの頬に寄せて、その涙を拭う。しかしそれを堰きとめる事は出来ず、ノアの手からそれは腕へと伝って行った。
なにもかも、君は変わっていない。
俺が消えた、あの時から。
『くり・・繰り返さないって、そう・・そう、云ったじゃないか』
ああ、もう繰り返さないよ。
これで終りだ。
“願い”は――叶った。
12/17(Tue) 20:00:32 メケ太
[18] Re:αβ15
『…ノア…?』
駄目。
駄目。消えないで、独りで。また、独りで。
あのときと同じように、一人でゆくつもりなの?
『…ゃ…』
駄目だよ。
だって、だって さっき僕は…
『一緒にっ…いるって―――』
これは僕の我侭なの?
君は望んでいないの?
僕は君と一緒にいたいのに。
如何してひとりでいくの。
どうして ?
またひとりで。
僕は ?
12/17(Tue) 20:14:42 うさぎばやし
[19] Re:αβ15
ただ、答えが見つからなくて。夢であるように願っていた。生きている自分が、生かされている自分が、全て目の前から消えてしまえば良いと・・。終れば良いと思っていた。不安など、不幸など・・全て役不足だ。もっと絶望を、もっと堕落を。闇の全てをこの手に寄越せ。幸せなど――いらない。
だから君など、いらなかった。邪魔だった。剛情で、破天荒でかといって泣き虫で、いつも一直線で向こう見ずで、俺の邪魔ばかりして。本当に馬鹿がつくぐらい諦めが悪くって。そんな君が愛しくて・・。共に過してきた光の時の記憶がいつも俺に付き纏っていた。だから、君を見るたびに君の優しさに揺れていた。君はずっと俺になる前の光を求めていたのだと思う。だけど、俺は、俺のままで・・。光じゃなくって、俺が――君を、愛していた。心から愛しかった。だから、ごめん。一度も優しく出来なくて。素直に好きだと云えなくて。君を殴った感触がまだこの手に残っているんだ。ごめん。
「ごめん」
最後まで悲しい想いさせて。君が最後に云ってくれた、ずっと一緒だと・・。でも、もういいんだよ。もういいんだ。
ありがとう。
エルク。
「エ・・はぁッ・・エル」
『・・え?』
――エルク。
『何?ノアッ?!』
「 」
『ノア・・?』
――嘘でしょ?
『ノア?ノアッ!!何?聞こえないよッノアぁッ!!』
崩れ掛けた廃墟から陽が差し込み。辺りは次第に光りに満たされていく。そして風が一陣通りぬけたかと思うと、そこには花が。草が生え、木が再生し風の国が生命を取り戻して行った。風が吹くたびに舞う花々は鈴蘭の匂いがした。
12/17(Tue) 21:20:38 メケ太
[20] Re:αβ15
こうしてわたしたちのすむこのせかいから
かみさまがいなくなったのです
「世界は変わる」
ぽつり、とあの独特の中性的な声で呟く。
小さな涙の雫が、白陶の肌を滑り落ちた。
廃墟と化していたそこは、その瞬間に夢から覚めた。
足元中心に光が広がった。
風の国は瞬時に今までの姿を取り戻す。
遠くで、人々の声が聞こえ始めた。
『え?』
エルク達の、素っ頓狂な声。
「…奇跡じゃぁないが、な。ちょっとした謝罪だ」
光が、ふわふわと舞う。それはもう、美しく。
やがてその光はエルクの腕の中にある亡骸――ノアをつつむ。 ノアの身体が、だんだんと光に溶けていく。
『ノア!?』
「…彼の魂は、二度も死んだ」
せめて心くらいは、空に戻る。
ねぇ、アナタ達は、これからどうするの?
12/18(Wed) 14:10:26 闇空鴉擁躬