12/15(Sun) 20:14:52 えせばんくる
『運命を繰り返そうとする事よりも無為な事ではないわ』
純白の衣を纏った女性は刀を携える青年を見据える。
『繰り返す事などしない』
青年も女神もお互い一歩も譲る気配が無い。
ノアは構えた体勢で静止している。
エルクは―――。
ノアの後ろに立っていた。
僕はどうしたらいい
今この時
僕は何ができる?
僕は―――
僕は僕のこの手で
自分の愛しい人を護る。
たとえその行動が、
始祖に逆らうことが
禁忌だとしても。
―――失いたくなんかない―――
[2] Re:αβ]W
『っつ・・』
リグは酷く打った背中をゆっくりと地面から離し、その痛みに唇をかんだ。息が漏れる。
『リグッ!!大丈夫?!』
『なんなんだ・・』
リグはまだ状況判断が出来ない。なにせいきなりの事だ。いきなり・・・そう、いきなりエルクの影が見えて、そしてその先には光が居て、そんで・・この有り様だ。その間に何があったかなんてまったくの皆無でただ瓦礫に埋もれるようにしてこの場に転がっているという結末しか今はない。
『僕等は・・見届ける方に回ったみたい』
『はぁッ!?』
―――はぶかれたのか。
いや、この場合ははぶかれたというべきではないのかもしれない。この状況に対して自分は選ばれなかっただけなのだから。
『エルクがいる』
リゲルはふと微笑んだ。憂いを込めた目はほんのりとした寂寥を感じさせる。エルクは・・――選ばれたのだ。
『僕達、やれることやったよね』
確かめるように問いたその台詞をはいて、瞬きもしないうちにその瞳からはボロボロと涙の雫が落ちて行った。
『ああ』
リゲルはリグの胸の中でただひたすらに涙を流す。嗚咽するわけでもなく。
――だいじょうぶだ。
そう声をかけて、暗闇に閉ざされた空の上を見据えた。そこから何が見える?お前は・・今、一体どんな運命にあるのだろうな。
世界の終りに、何処へ――。
『もう、終りだ』
『・・・・』
ヴツカは暗闇の小部屋で居座るドウトウにそう云った。赤く燃える月が両者の顔半分を照らし出す。
――もう、終わりにしようぞ。
我等の事も。
12/16(Mon) 00:02:18 メケ太
[3] Re:αβ]W
「…ノア。」
少女は口を開いた。
名を呼ばれた当人は何も返さない。
「君は彼等を、アルとベルを殺すの…?」
その言葉を聞くとノアは小さく反応した。
そしてそのままの体勢を保ちつつ口を開く。
『今更何を言ってるんだ、エルク。』
彼は手にしている刀をチャキっと構え直すとそのまま駆け出した。
『種族を失い家族を失い。
そして自らの命まで失ったこの気持ち…っ。
その身をもって思い知るがいいっ!!』
『……馬鹿が』
爆音が辺り一面に響く。
煙がもうもうとたちこめる中ギチギチと金属擦れるの嫌な音が聞こえる。
ベルも己の剣を抜きノアの一撃に耐えていた。
お互い一歩も譲らない。
『運命を繰り返す事などしない。お前は俺が倒す!!!』
『戯けが』
ベルは片手を剣から離すとその手の平をノアに向け
そこから丸い球状の発光体を放った。
『ぐぅっ!!』
「ノアっ」
ノアは数メートル先まで飛ばされた。
そのあとを鈴蘭の花びらが舞う。
『お前の種族の元へ送ってやろう』
ベルは口の端を吊り上げながら
手の平に先ほどの数十倍の大きさの球体を創り上げている。
『!!』
辺りが眩い程の光に包まれると共にまたしても爆音が響く。
だが先程よりも規模は明らかに大きい。
―――ゴメン クロウリー。
僕約束護レルカナ。チョットワカンナイヤ。
無事ニハ戻レナサソウ――――
12/16(Mon) 15:43:57 えせばんくる
[4] Re:αβ]W
『―――っ!!』
眼を開けるとエルクが自分を抱えていた。
彼女は自分を見るとふっと笑う。
「ノア…。大丈夫だった?怪我、してない?」
エルクは眼を細めながら微笑んだ。そして力なく自分にもたれかかる。
「僕、は大丈夫だから。気にしなくて、いいよ」
そういうものの息は荒い。小刻みに肩も震えている。
「ねぇ。繰り返さないんでしょう?
今こんな風にかかっていったって運命は繰り返される。
前に仲間を失って君が悲しかったように
君を失えば今度は僕が悲しいよ。
ねぇ繰り返さないんでしょ!?」
そういうとエルクはそのままノアの首に抱きついた。
「僕の龍。君を簡単に手放す事はしない…絶対に。」
12/16(Mon) 15:44:03 えせばんくる
[5] Re:αβ]W
『しそ』はたいへんかなしみました
じぶんをおいてみないなくなってしまうと
そこでかみさまは『もりびと』をつくりました
『もりびと』はやはりひとのすがたをしていましたが
じぶんがいなくなっても『しそ』をまもれるようにと
つよいからだとちからとちしきをあたえました
また『しそ』のついになり
いつまでもともにあれるようにと
『だんせい』のからだと
けっしてしなないからだをあたえました
それはまた、ひどく滑稽な事に思えた。
勘違いをしている龍と、それをかばう少女。
(…人間くせぇ)
だが、それは当たり前の事。
なにせ彼等は『ヒト』である。自分達もまた、取りあえず『人間』ではある。
神が愛したのは、大きく分けてたったの二つ。
一つは、自分が生み出した世界とそこに住む生き物。
もう一つは、自分に似せて作り出した、1人の『人間』。
どちらかと言えば後者の方を溺愛していたように思う。
「…てめぇらが思ってるほど、『神様』ってのは慈悲深くも万能でもねぇんだよ!」
思イ違イモ 大概ニシロ
あぁ。
そう自分がいくら思っても、行動を止める者がいる。
たった1人。
誰よりも何よりも愛しい、守るべきヒト。
けれど彼女に被害が及ぶなら、止められても何されても、従うつもりはないんデスよ。
なぁ?
《あの時》みたいにな………。
12/16(Mon) 17:01:47 闇空鴉擁躬
[6] Re:αβ]W
「・・エルク」
もたれ掛るその背に手を回すと確かにべとりと生温いものがこの指に振れた。それはまさしく赤く――。
「ああ・・」
――なんてこと。
『こら、餓鬼が』
「――?!」
ガッ!!
ノアとエルクに影が圧し掛かるかと思えば、その本体はノアの顔を蹴り上げた。ノアは当然その反動で後ろに倒れ掛かる。
「が、がはッかは!」
『ベルッ!!』
それを止め様とし、叫んだのはアルだった。しかし、その言葉の続きはない。ベルが――アルを見据え、その思考を止めたのだ。どんな顔をしていたのか、また、彼のそれには何が込められていたのだろうか。それさえも解らないがエルクはまた行われるだろうベルの仕打ちを思い、ノアを庇いつつベルの後ろ顔をねめつけた。視線はやはりすぐさま此方に戻され、エルクとベルは睨むようにお互い目が合った。しかし、ベルのそれはすぐさま嘲るようなものに変わる。
ガッ!
「ぐぅッ」
『やめ・・ッ』
視線を払い、エルクの主張する事とは裏腹にベルはエルクの庇う間を抜けて円滑にノアに一撃をくらわした。
『邪魔だ。女』
エルクはノアを庇おうと抱きかかえるが、ベルによって簡単に引き剥がされエルクは土の上に転げる。すぐさま、視線はノアの方に向かうがそこには足蹴にされるノアの姿が――。
『やめてッ!止めてよ!!』
しかし声は届くはずもなく、ノアの喘ぐ声が絶えなく聞こえる。エルクは視界のはしに入る赤い・・アルの姿を捕え、視線を投げ掛ける。しかしそれは容易くかわされた。思わず下唇をきゅっと噛締めた。
『僕は―――』
土を命一杯踏みしめてその上に立つ。
『僕はッ!』
『ああ?』
『僕は逆らわない』
殺さない。戦わない。血など流さない。
『だから』
―――返して。
12/16(Mon) 21:42:31 メケ太
[7] Re:αβ]W
『これか?』
ベルはノアの髪を掴み自分の目線まで持ち上げる。ノアは意識があるのかないのか、いや、その狭間でさ迷っているのであろう、小さなうめき声を上げるがそれ以上、なにも抵抗を示さない。
『お前も飽きない奴だな』
『もう、傷付けないで』
―――殺さないで。それは・・。
『こんな欠陥製品、何処が良いんだ?』
『ノアは・・』
―――僕の。
『ノアは、僕の龍だ』
僕のもの。ねぇ、リヴ。
『これ以上、傷付けさせない』
彼が、僕の龍だよ。
12/16(Mon) 22:13:16 メケ太
[8] Re:αβ]W
「僕の龍をこれ以上傷つけるような事したら
僕は貴方を、貴方達を絶対に許さないっ。」
貴方達にしてみればただのクズでちっぽけで
太陽に立てつく小さな星くらいの程度でしかないかもしれない。
でも僕にとってはその星のようなモノは月とも同等になりうる。
ぅうん太陽にだって引けをとらない。
「欠陥製品なんて物じゃないっ。
彼はノア。僕にとって大切な“人”なんだっ。物で呼ばないでっ」
そう啖呵を切るとベルは鼻で笑う。
『こんな“モン”のどこがいいんだか。
―――そらっ。』
ワザと“モン”という声に力を込めながらエルクを嘲け笑った。
≪がすっ≫
『ぐはぁっ』
髪を掴んでいた手を放すとエルクに見せつけるかの如く
それのみぞおちを蹴り上げ少女の方へ投げやった。
「ノアぁああっ!!」
『え…ルク』
エルクは急いで駆けより力なく地に横たえる彼の頭を抱える。
その大きな瞳には大粒の涙が溜まっていて今にも零れ落ちそうだった。
≪ぎゅ…っ≫
下唇を噛み締める。
彼の身体には至るところに傷ができていた。
アザ、擦り傷、切り傷、打撲、火傷跡……。
こんなになるまでやる奴が許せない。
何故こんなにも力量に差があるの。
神はこの騎士に力を与えてしまったの。
姫を守る為に。
姫を守る為だけに。
僕の龍はどうなるの。
あの騎士が自分の姫を護りたいのと同様
僕だって彼を護りたい。
自分の無力さが毎度憎らしい腹立たしい。
騎士に彼の命をどうこうする権利なんか無いっ。
少女はボソリと、大粒の涙と共に自らの意思を言葉にのせた。
「運命なんて…変えてやるっ」
12/17(Tue) 01:01:45 えせばんくる
[9] Re:αβ]W
そう言った瞬間彼女の内から今まで感じられなかった力が一気に涌き出てきた。
次から次へ、と。
手に取るように分かる。
リゲル、リグ、ヴツカ、クロウリー、キトラー、にゃ助…。
僕は自分の目的を今までもって旅をしてたと思ってた。
けどまだはっきりしたものはもってなかったんだ。
でも今はっきりと分かった。
僕は自分の龍を
――――彼を護る。
ノアはそんなエルクの様子の異変に気付き立ちあがる事を試みる。
「ノア。立てる?」
エルクはそんな彼に肩を貸す。
『!?』
彼女を見上げるとその背後に恐ろしいものを見た。
今まで見てきた筈だったが今までのそれとは桁外れの魔力が感じ取れる。
「君と生きていきたい」
今まで以上の大きさの龍―――リヴァイアサン。
それが背後にいた。
ただの水龍の域は完全に越えている。
今のこの龍は―――
―――神龍の域にまで達している。
そう同族の直感で感じた。
二人はお互いを支え合いながら
前に平然と存在している二つの“人形”と対峙した。
12/17(Tue) 01:01:50 えせばんくる
[10] Re:αβ]W
彼女の瞳の奥はだんだんと銀の光を取り戻しつつあった。またその角も、絶えず感じられるその波動もより一層強く、眩い光を発している。コレが・・エルクの力。龍と血を結びまたその命を共にする異端なる血。そしてこの血は龍族にとって大きな力を引き出す要になる。そう、今のリヴァイアサンのように・・。
「・・・」
ノアは改めてこの力に息を呑んだ。
戻れる身体はなくとも元は龍である。いまだその血は変わらず本能もまだこの規則に根付いている。エルクの力がそんな今のノアを惹き付けていた事は確かであった。持つ者、持たない者。与える者、奪う者。飼う者、飼われる者。それは何かを補うかのようにある相反のサークル。その中で今、自分は確実に後者である。所有せず、与えられ、手懐けられる。まるで呼ばれているように動かされる。心まで――犯される。
『ノア』
彼女の視線が自分を捕えた。真剣な、しかし何処か細く笑む目元。銀の瞳、銀の角。肩で切りそろえた髪が視界になびく。それは栗毛の―――。
―――栗毛の?
「・・エルク?」
『覚醒しやがったか』
――めんどくせぇ。
彼はそう悪妻をつき、表情はまた嘲るそれとは違い睨みをきかしていた。
『死ぬぞ。女』
『死なない』
例えそうなったとしても、もう無くすものなど何もない。恐れる事など何もない。
12/17(Tue) 02:26:08 メケ太
[11] Re:αβ]W
古代竜使いの血を引く幼い少女は自分の護るべき、
ともにあるべき己の龍を見つけた。
昔…自分が幼かった頃、誰かにこんな事を聞かれた事があったな。
―――お前達は自分の龍を見つけたら力でねじ伏せ服従させるのか。
確か何人かの者は『当たり前』とか『逆に洗脳される』とか言ってたっけ。
でも僕はその時なんて―――あぁそうだ、笑いながらこう言ったんだ。
「自分だけの龍が見つかったら僕はそのコを大切に大切にするよ。
一緒にお風呂だって入るし、ご飯も食べるし、
悲しませたりしないよ。一緒に笑ったり遊んだりするの。
だって自分だけの龍に逢えるってことは運命でしょ?
無駄になんかしないよ。
僕は僕の龍とどんな時だって一緒にいると思うよ。」
「僕は君になんか殺されはしない、死にはしない」
『何を根拠に―――っ』
≪グワっ≫
光のような速さで今までエルクの背後に待機していた神龍が動き
蒼髪の青年に向って咆哮をあげた。
それは空気を振動させ超音波をつくり、
その超音波はベルに向って襲いかかる。
ベルは突然の攻撃に焦ったが命の危険を感じる程のものではなかった。
胸の前で指をすばやく組み印をつくり
小さく呪文を唱えると眼前に大きな魔法の盾が現れる。
それは自分とその後ろにいたアルを護った。
「神龍。少しの間ベルとアルをお願い。すぐ参戦するから」
エルクは神竜にそう告げると神龍は任してくれとばかりに
雄雄しく咆哮をあげた。
ベルはそんな行動をとる少女を軽蔑の目で睨みつけた。
『おい女。そんな龍一匹でどうこうできると思ってんのか。
―――――なめんなよ』
―――だが少々厄介だな。
奴が覚醒したとなると。早々に蹴りをつける必要がありそうだ。
それは赤眼の女性も同時に思った事でもあった。
12/17(Tue) 15:32:12 えせばんくる
[12] Re:αβ]W
エルクは自分に寄り添うようにして立っているノアに視線を向けた。
その前にはリヴァイアサンが立ちはだかる。
≪今ノ我ガ相手デハ何カ不服カ?≫
リヴァイアサンはベルを正面から見据えると不敵に笑う。
『っは。役不足も役不足。せいぜい苦しまないよう解体してやる』
≪笑止ッ≫
そう言うと同時にリヴァイアサン対ベルの戦いの幕が上がった。
『まずはお前から血祭りにあげてやる』
「ノア君はどうしたい」
君が復讐を望むなら今の僕は君に力を貸そう。
共に戦おう。
「君は今どうしたい」
僕はもう君のもとを離れない。
いつでも一緒にいるよ。
自分の龍だけを死なすような事はしない。
死ぬ時も一緒だよ、
一人で逝かせなんてしないから―――――。