この時エルクはどんなに安心した顔をしていただろうか。
 
 待ち望んでた人が傍にいる。今はそれだけでいい。一緒にいる事以上に何も望まない。今これ以上に幸せな事は無いから。

「ところでさ。何処行くつもりなの?」
 エルクは鼻の頭を赤くしたまま問う。
 威勢良く“ついて行く”と発言した彼女だったが実際次の予定までは判らない。今はもう予定の時刻を通り越しているので暫くは火の賢所の宝珠を襲おうとはしない…はず。
 とりあえず次は何処へ行くのだろうか。何をするのだろうか。僕は返事を待つ事にした。

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メケ太
(修正:1) ここは火の国。しかし街ではなく、そこから幾分か離れた高山の中腹部辺りの森に今はいる。あれから陽は昇り、葉の隙間からはキラキラと木漏れ日が差した。ノアとエルクはそれを避けるように、幾つも立ち並ぶ木々の一つである大木にもたれて座り、エルクはノアの座る横で何時しかそのまますやすやと眠っていた。

『ところでさ。何処行くつもりなの?』
飛ばされた高山の頂上からは火の国の街である山の全貌が明らかになった。そして目前には子猫のような好奇心をたたえたエルクの姿がある。ノアは口を紡いだ。そしてその顔から自ら背くと振り返り歩き出した。
『ねぇーってば』
それでもエルクは当然の如く付いて来る。足を引きずるような音がした。
『ねぇ、何か云ってよぉ』
沈黙が続く。この静けさを護ろうと尽くしているわけではない。しかし、語り掛けるべき言葉が出ない。
――くそ。
始祖の顔が頭を過る。どこまで邪魔をしてくれるのか。
「?」
背後から服をひっぱられた。それは疑うまでもなくエルクのやったことである。
『ねぇ』
強い眼差しでまたも視線を捕えられる。ノアはそれを振りほどこうと手をあげるが――止めた。エルクはビクりと身を縮めるが、その手は未だ服を掴んで話さない。何も変わっていないと、そうふと思った。
『うあぁッ?!』
引きずる足が面倒だったのでそのままエルクを抱きかかえノアは森の中へと移動した。

昔、といってもそれほど過去のことではない、つい最近の事だ。それでも幾分かの距離を感じ、昔と呼んだほうがしっくりとくるような気がしたので自分では十分に昔と認識されている。その昔にもエルクはこんな感じであった。何に対しても意思を曲げない少女。明るくて優しくて、どんな時でも強く、そしてふとした所が繊細で傷付くとすぐ泣いた。そんなところがまったく変わらない。自分――が変わりすぎたのか。隣にはかくかくと首を上下に揺らして舟を漕ぐエルクの姿が合った。ふと久しぶりに笑みがこぼれた。よほど疲れたのだろう。国をあんなに越えてきたのだから――。ノアはいつもエルクの気配を近くに感じていた。それは火の国のことだけではない。水の国でも、森の国でも。探す近くにいつも居た。ときに変な期待を抱きながら、いつも近くでエルク達を見ていた。周りにはごくわずかなシールドを張った。きっと魔物はでないだろう。だから――ゆっくりと休みな。ノアはエルクの肩にそっと触れて自分に寄り掛からせた。エルクの安らかな顔が見えた。あの時に叩いた頬の赤さが目に入る。ノアはそれに触れようとするが、その触れるか触れないかの直前で動きを止めた。空を掴むようにして手を下ろす。自分には傷を癒す力などない。ボロボロになった華奢な手や、痛めた足を直す術がない。
「悪い・・」
だからそう、少しでも届くように口に出して云ってみた。
02/10/24 01:48 『修正』

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えせばんくる
 陽はもう12時の位置まで昇ったのか。真上から心地良い木漏れ日が差込み暖かい。いや、暖かいのは木漏れ日の所為だけでは無いのだろう。懐かしい人のぬくもり。横を向けば君は幼い顔でくぅくぅと寝息を立てている。
 ノアは内心微笑んだ。まったく昔と変わっていない。この寝顔も、この諦めの悪さも、そして………この優しさも。
「ん……」
 銀眼の少女はようやくうつつの世界に戻ってきたようだ。眼をごしごしとこすり空を仰ぎ、陽の位置を確認すると急にあたふたとしはじめた。
「はぅ!?なんかめっちゃ寝てた!?寝てた!?」
 別に慌てる必要もないのに。何をこの少女はこんなにも慌てているのやら。
『ははっ』
「???」
 横にいるノアに必死に問うエルクだったが返ってきたのは予想外の微笑みだった。
「何?何?僕また変な寝言かなんか言ってたの?」
 よく昼寝してる時に寝言言っちゃって、ジェドとかにからかわれたんだよなとエルクは昔を思い返す。
『いや。なんでもないよ』
 慌てる必要のない時でも慌てて必死になっている彼女がなんだかけなげで愛らしかった。
「よかった…」
『?』
 今度はノアがきょとんとした顔つきでエルクの方を向いた。エルクはそのまま言葉を続けた。
「目が覚めたときにね。君の姿がなかったらどうしようって…寝る前のその時も、寝てるときも頭のどこかにかならず纏わりついてたんだ。でも今眼を開けたら君がいた。また置いてかれるんじゃないかって不安だった」
 エルクはにっこりと笑いながらそう呟いた。
02/10/24 23:07 『修正』

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メケ太
「置いて行こうと思ってた」
『ええッ!?』
しかし、その受け答えは予想を遥に越えたものだった。エルクの表情はそれによって一変する。
『ホント?冗談?』
「本当に」
ノアは真顔でそう云った。エルクは肩をがくりと落す。
『じゃぁ、もうちょっとで僕は置いてけぼり?』
「ああ」
『でも、今の今までは待ってくれてたんだよね?』
「ん?」
ノアはふとかぶりをふる。エルクはそれを上目使いに見ると突如、視線をぐっと上げた。そしてその目には期待を含めた光りがこもる。
『あ、何?やっぱり待ってくれてたの?』
「聞きたい?」
ノアは意地悪そう目を笑わせて顔をぐっと近付けた。
『う、うん』
あまりに近い顔に少々赤面しながらも、エルクは答えを求めた――が。
「聞いたら帰れよ」
『あ――――ッちょっと待った!!』
エルクはノアの口を慌てて抑えた。
『何それ、ずるいッ』
「ずるい事あるか。これが条件ってものだろ?聞きたくないのか?」
ノアはエルクの手を振り解き、またもや意地悪く云う。
『知りたい、でも帰らないもん』
「なんだそりゃ」
ノアは眉をハの字にして笑った。複雑さがよく解る。しかし、エルクにしてみれば真剣なことで共に譲れないことだ。笑うノアにたじろき、下唇を思わず噛む。
『だって』
「足、大丈夫?」
『え?』
ノアはすくっと立ち上がった。
「ここ等は魔物が出る。もう移動してしまおう」
――次は、水の国だ。
ノアはエルクに手を差し伸べた。
――あ。
ふと思い出す。昔の光景。確か前にもこんな事があった。それは――。
『うん』
それは出逢った時の事。差し伸べられたその手を取ったら自分の立つ勢いに二人共倒れてしまった。
『うわぁっと』
しかし、今はノアのたくましい腕に引かれて、その身は心なしか大きい胸に受けとめられる。そして足を気遣ってかノアはエルクをまたも抱き上げた。
『いいよ、光ちゃん。僕』
「重くないって云ってるだろ」
記憶が重なる。
『う・・ん』
その首に腕を回した。ぎゅっと落ちないよう、離れないよう。
――覚えてたんだ。
前に自分をおぶったことを。その時も自分は気を使って――。
――覚えてたんだね。
曖昧になる。はたして今のノアは光なのか。それともノア自身であるのか。元からノアと光とは別なのか。なら、この温もりは何なのか。
『光ちゃん・・』
「?」
――君は誰?
『・・なんでもない』
――誰でも良い
『愛してるよ』
――傍に居て。
エルクはそのまま再び目を瞑った。

02/10/25 02:21 『修正』

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えせばんくる
(修正:1) 『リ…ル…。リゲ…ル!リゲルっ!!!とっとと起きろ!またあの破天荒娘がいなくなった!』
『えぇっ!!?また!?』
 おもいきりリグに往復ビンタされ叩き起こされたリゲル。だが突然のその言葉に息を飲んでしまい叩かれた頬の痛みなど吹っ飛んでしまった。
 たしかにまわりを見てもエルクも光もまったく見当たらない。奴の陰もさっぱり消え去っていた。
『かはっ…げほっげほっ』
 突然ヴツカが咳き込みそれと同時に眼を覚ます。そちらに眼を向けるとおびただしい量の血液が。
『ヴツカ!!?大丈夫―――っ?!』
 リゲルはあわてて立ちあがろうとする。が…。
【がすっ!】
『がっ!?』
『―――いったーっ』
 真上でリゲルをのぞきこんでいたリグのことをすっかり忘れていて起きあがった拍子に彼の顎におもいきりつっこんでしまった。ふたりは痛さに身悶えしているといつも通りにヴツカの声が響いた。
『――汝等いつも何をそう楽しそうにやっておるのだ?』
『えっ。ヴツカ傷は?大丈夫なの?』
『むっ?』
 彼も慌てて自らの肉体を確かめるが切り傷どころか擦り傷さえない。血も一滴すら流れていなかった。
『じゃっ…じゃあこのおびただしい量の血液は一体…?』

―――安心なさい―――

『えっ!?』
 聞き覚えのある声。鈴をころがしたような美しく艶のある声。だがどこか特徴的でリゲル達はあの者達以外でこんな声をした人物を知りはしなかった。
『アル!?』

―――それはヴツカの血液だけれどもう傷は完全に完治させたはず。あとエルクは無事よ。それから光も―――

『何処にいるの!?判らない!?』
 リゲルは必死に見えない空間に向って問いかける。

―――それは貴方達自身の足で探しなさいな。貴方達には知恵もあるし十分過ぎる体力も備わっている。でも今はふたりをそっとしておやりなさい―――

『でっでも…』
『まてリゲル。始祖の姫君よ、そなたは我々に今まで通り賢所を回って行けと言っておるのだな』

―――時はまたやってくる。貴方達はその時を逃さなければまたエルクに遭えるわ―――

 そう言い残すと半壊した賢所に一陣の風が吹き込み、そして去っていった。


「ところでノア」
 僕はノアの首に抱きつきながら彼に問う。
『?なんだ』
「さっきの置いてかなかった理由って?まだ僕聞いてないよ」
『聞いたら諦める?』
 彼は前を向きながら口元を少し吊り上げる。そんなこと言ったって諦めるわけが無いのははなから分かりきった事なのに。
「ずーるーいーっ!言ってよぅ」
 僕はポカポカと彼の背中を叩いた。
02/10/25 23:03 『修正』

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メケ太
(修正:1) 『そっとしとけってか』
全壊は逃れたのもの、壁やら床やらのあっちこっちが崩壊した賢所に聞きなれた声が響く。
『あ、クロウリーじゃねぇか』
『よぉ、なんやこの有様わ』
そう気楽に手を上げて挨拶をするなり皮肉混じりの笑いを浮かべた。本当のところ、賢所が被害にあったという現状だけでも大きな驚愕を呼ぶ所だが、事情を知っている――しかも、普通ではない人の間ではこんな事は驚愕の内には入らないのかもしれない。
『一緒に行ってもうたんやなぁ。ええのう、若いいうのは』
『云ってる場合かよ』
『まぁ、そこまでは人事やから。ちゅーか、自分はなんやの?責任あんのは自分のほうやろが。情けないわぁ、女一人、護れんのかいな』
『な・・』
正論といえば正論である。
『ったく、大魔法使いが聞いて呆れるな』
『あ?』
リグはあからさまな顔をする。クロウリーはそれを見ると、はぁとため息をついた。
『まぁ、ええわ。ここからはよ、金の国に行けや』
『え?でも、次は上弦だから水の国じゃ――』
『阿保。あそこはもう崩壊してもうたんやろ?なら、今言っても間に合わへん。先回りして、情報でも集めとくとええ。チャンスならいくらでもあるやろが』
そうクロウリーはいい、手をぱんと合わせた。そして短く言葉言葉を繋げて呪文のように唱える。
『うわッ!?』
『なぁッ?!』
『むッ?!』
気が付けば、リグ、リゲル、ヴツカの立っていた場所だけにぽっかりと穴が開き、落ちるように引き込まれて行った。
『頑張って来い。若いのッ』
そう云う、クロウリーの声が遠く遠く、穴の向こうから聞こえて消えた。


02/10/26 00:02 『修正』

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えせばんくる
(修正:3) 『あだっ』
『…』
『!?』
 3人は暗い縦穴をどんどんと落ちて行く(正確にはおそらく別空間に繋がってるだけなのだろうが)と下で何故か分岐点があった。そして重力にまかせて進んでいたらその中間の分かれ道にぶつかり3人は右の道に落ちていった。最終的にある場所に放り出される。見渡せばそこは足場のあまり良いとはいえない少しドロっとした土で満たされている地上だった。あたりの他の国々とは全く異なる景色に一行はとまどった。森もなにもあったもんじゃない。。
 クロウリーの話を思い返すと彼女が送りこんだのは“金の国”のはず。
『えーっと。とりあえず…ここって“金の国”…なんだよね…?』
『どこどう見たらココが“金の国”なんだよ。どう見たってココは“土の国”だ!クロウリーの奴間違えやがったな』
 おそらくあの分岐点が原因だなとリグは呆れた。あそこを左に落ちていなければ“金の国”には行けなかったのだ。
『えーっ!じゃあどうすんの?僕等目的地は“金の国”だったんでしょ!?』
『まぁ辿り着いてしまったものはしかたがない。どうにかこうにかするしかなかろう』
 3人はひとまず賢所を第一目的地と決め山を下りはじめた。
02/10/26 14:37 『修正』

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えせばんくる
「わぁーあっという間だねぇ…」
 ノアにしてみればこれくらいの移動朝飯前。もう既に火の国の端の方まで戻ってきてしまった。
「でもさ。こっからどうするの?海だけど」
『エルク。ここから飛べそうか?』
「はい?」
 ノアはエルクの翼を使って水の国まで飛んで行こうといっているのだ。本人が出来れば、の話だが…。
「うん!僕できることならがんばるよ」
 そう言うとエルクはノアに抱きついた。ノアはこの不思議な行動に驚く。
『なんで抱きつくんだ?』
「え?だって一緒に飛んでくんでしょ?だったらくっついてないと飛びにくいし大変だし」
 エルクは顔を上げノアを見上げる。彼は不思議な顔でエルクを見ているが彼女はおかまいなし。
『俺を運ぶ必要はないよ。自分で飛べる』
 彼は陰を召喚した。だが彼女の腕は緩まない。
「いいの。今度は僕が頑張るから」
『だが…』
「いーって言ってるでしょーが。さっきまで僕をわざわざ抱いて運んでくれてたんだから今度は僕が運ぶよ。交代交代☆」
 エルクはさらにノアに抱きついた。
――ここまで言い出すとエルクは引っ込まないからな…。
 ノアは諦めるとエルクの背に手を回した、そして抱きしめる。
『疲れたら代われよ。無理はするんじゃない』
「わかったよ。じゃあ行くよ!?」
 エルクとノアは高く高く飛揚した。
02/10/27 12:44 『修正』

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うさぎばやし
(修正:1) 土の国グレイドは、その名のとおり国土の殆どを土に支配された国である。火の国は赤茶けた岩が目立っていたのに対し、グレイドは黒っぽく軟らかな土が多い。水っぽい泥になっているところも少なくなく、普通に歩いていても、その泥濘に足を取られてしまう。もし重力に従うまま地面に倒れ込めば、全身泥だらけになる事は免れない。それだけは何としても避けたい事態だった。

『…ぅあ!?』
『リゲルッ!』
がくんと前につんのめったリゲルを、前を歩いていたリグが支える。ぐちゃ、と足の下から音がした。何処からか湧き水などが湧き出ているのだろうか、ここらの土は総じて水っぽい。
『あ、ありがとう…リグ。』
『気をつけろよな、全く…』
そう言いつつもリグは、自分も気を付けねば先ほどのリゲルと同じことになる事を理解していた。リゲルの後ろを歩いていたヴツカは、少し辺りを見回す。
「大分下ってきたようだな。」
『ああ。』
リグは相槌を打った。山を降り始めて1時間弱、殆ど木々の生えない山だから地上を見下ろすのも容易だ。勿論木々が生えていないせいで、水っぽい土を固定するものがなく、余計に滑りやすいのだが。眼下に広がる景色の端には、ポツンと人工的な色が混じっている。恐らく人の町。人がいるなら、賢所の位置もわかるだろう。
『とりあえず急ごーぜ。クロウリーの言う通り、金の国で情報を集めとくに越したことは無ぇんだ。』
「うむ。…しかし、火の国はまだ良かったか。…我等の足ですぐに着ける所に賢所があれば良いのだが。」
『そうだね。山を降りて、それから乗り物なんかに乗るとしても…賢所が遠ければ、その分時間がかかっちゃうわけだし…』
一向はそんな会話を交わしつつ、足を踏み出す。下山完了は間近だ。

時刻は午後を少し過ぎた頃。
02/10/28 16:15 『修正』

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えせばんくる
 下の方には小さな小島が点々と小さな円をつくるのみで他には何もない。雄大な海原があたり一面広がっている。島々はかなり小さくなってる。つまり僕等はかなり上空まできてしまったのだ。風も冷たい。でも今のっているこの風はとても飛ぶには適した風だった。今のうちにできる限り距離を稼いでしまわないと。
『エルク。大丈夫か』
 ノアはしきりに心配してくれる。その言葉だけで頑張れそう。
「ん。だいじょーぶだよ。この風すごく飛びやすいから今のうち少し頑張っとくよ」
『気をつけろよ?頑張りすぎて海のもくずにはなりたくないぜ?』
 エルクはわかってますよーと返すと飛ぶ事に集中した。突然の突風にあおられても困るから。
 だいぶ進んだ頃前方に薄暗いくもがかかっていた。雨雲だろうか。
「嵐…かなぁ」
 僕は少し高度を下げながらそう呟いた。
02/10/28 22:27 『修正』

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管理人
「…なにやってんだ、あいつらは」
 大きな鏡を覗きこみながら、ベルはそう呆れた声を漏らした。
 鏡には、翼を出して飛ぶ少女と、それに捕まる少年。
 エルクと、ノアである。
「いくら龍族っつったって1ヶ月はかかるぞ」
 ゲートを使わずに国を巡ろうとしたら、とてつもない時間がかかる。船だと早くて1年。悪くて5、6年はかかる。
「…あの子がいるから、瞬間移動とかそのうちするんじゃないかしら」
 後ろからかけられた声に、ベルはゆっくりと振りかえる。
 アルはただ寝台に横たわり、ただベルを見ていた。
「……調子は?」
「まぁまぁね」
 寝台に座って、赤い髪に指に通す。さらりとした感触が心地よい。
 そのまま軽く口付けをして、ベルは立ちあがった。
「…ベル、あの時みたいに1人で変な事しないでね」
 静かにかけられた声に、ベルはただ笑って答えただけだった…。
02/10/29 18:19 『修正』

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えせばんくる
 エルクの予想はみごと的中した。酷いモノで雨風が横殴りに吹き付ける。海は先程までの穏やかさを失い今や怒涛さかまく大海と化していた。
―――はやく休めそうな小島でも見つけないと…。
 エルクは雨水で視界が悪くなる中あたりを見まわしながら飛ぶ。この嵐のおかげでどんどんと無駄な体力をすり減らしている。
―――やば…目がかすんできた…。
 どうやら本当にいそがなくてはならないらしい。先程から頭も軽く殴られるように痛む。この風だけでもやんでくれたなら。
「ノアっ、どっか安全そうな小島ある!?」
 雷が鳴り響く音に負けないように大声で問う。彼はもう少しいったところにありそうだという事を告げる。
―――もう少しっ…もう少しっ。
 ふたりは小島の横穴洞窟に着地する。だがその時エルクの腕が急にズルリと緩んだためノアは洞窟に放り投げられるようにして着地するはめになった。
『エルク、大丈…』
 ノアは後ろに倒れこんでいたエルクに手をのばす。彼女は自分の傍に近づいてきた手をとる。――熱い。
「ごめんノア…。ちょっと気ぃ緩んだみたいでさ、放り出しちゃってごめん」
 ノアは聞き流しながら急いで彼女の額に手を当てた。やはり自分のと比べてみても熱い。
「さっきからさぁ…目がかすむわクワ〜ンって感じだしさ…嵐なければ全然よゆーで行けそうなんだけどなぁ…」
 熱だ。体温と症状を見て容易にわかった。
02/10/29 20:12 『修正』

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うさぎばやし
(修正:1) 魔法で傷を癒す、ということは、傷口を塞ぐ…もしくはそれに加え失った血液や身体の一部を元通りにする事なのだろう。……では、病気の場合は?

『あ…はは〜…何ていうか、情けないね…』
『とりあえず、静かにしてろ。』
横穴は思ったより奥行きがあるようで、ノアはエルクを抱きかかえて風の入り込まない場所まで移動した。土と岩が入り混じり、お世辞にも良い寝床とはいえないが、この際仕方がない。ノアは静かにエルクを横たえて、ありったけの知識を総動員させて発熱への対処法を考えていた。
確か、熱は他の病気を治すために上がっている…とか何とか聞いた覚えがある。発熱によって雑菌やウィルスを殺している…?もしくは発生を抑制しているのか。だから熱は下げれば良いというものじゃない。
だが、熱は苦しい―――ある程度の処置は取りたい。そういう時身体を温めて頭を冷やせば良いというのも聞いたことがある。
そこまで考え、ノアは自分の着ていた衣服をエルクに掛けた。その端を裂き、外の雨に濡らしたものを固く絞って、エルクの額に乗せる。
『…っと、頚動脈に触れる部分を冷やすんだったか…?』
首の付け根や脇の下、足の付け根などがそうか。ノアは再び衣服を裂いて濡らし、今度はエルクの首の下に敷いた。

『あとは、水分補給を充分にして…』
『―…なんだか、ノアって色んなこと知ってるんだねぇ…』
かすれた声で、エルクがそう呟く。一瞬鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして。ノアは苦笑した。
『…睡眠をとること。』
02/10/29 21:37 『修正』

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*** この記事は削除されています
02/10/31 01:58

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*** この記事は削除されています
02/10/31 16:25

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えせばんくる
やるだけの事はやった。頭も濡れ布で冷やしているし、体の方も自分の服を掛けてやった。だが先程からエルクは震えている。
『どうした?』
 すると彼女は平気だよと答える。いつもの――いつも程の明るさは無いが――笑顔で。だが先程から小刻みに震えているのがよくよく見ていてわかる。
『エルク、ちゃんと言わなきゃわからない。治るモノも治らなくなるぞ』
 ノアは彼女の首の下の布を取り外の雨水にひたしに行く。これで何度目だ?額の布や他の個所にも何枚か敷いているので多少の往復はしかたないとは思っていたが。
 あいもかわらず外は大雨。一体いつになったら止むのやら。こんな悪天候ではエルクじゃなくとも移動は至難の技だ。自分の陰をもってしてもあまり期待はできない。
 ノアは濡れ布を片手に戻ると彼女は起きあがっていた。上半身のみだったが壁にもたれながら。手にはいくつかの木や枯葉。どれも湿気てて使い物になるのかが不安なところだが。
『なにやってんだ、病人が起きあがってんじゃない』
 彼はエルクをまたもや横にしようとするが彼女はそれを拒んだ。
「まってまって…。ちょっと試してみるから」
 彼女はすぅっと息を吸い込むと【ファイア】の呪文を木々に放った。湿気ていたので無理かとおもいきや少しずつ端の方からジワジワと広がっていく。
「これで火は確保できたね。服乾かさないとノアも冷えるし…」
 するとエルクは自分の手を息で温める。
「僕自身も寒いから」
 へへっと微笑むが顔色も唇もいつもの健康的な色をしていなかった。指先も触れば冷たい。
 考えてみれば自分の服も濡れたままだった。多少絞ったとは言えこんな洞窟の奥だ。気温が低ければそれにともない服に含まれた水分も冷たさを増す。
 ノアは彼女に掛けていた服を取ると焚き火の傍に置く。エルクも多少恥ずかしかったが乾かさなければ寒い事この上ないので上着を脱ぐ。タンクトップだけでやはりどの道寒い事に変わりないが少しマシになった気がする。
「…?」
 エルクは突然のできごとに少し驚いた。ノアはエルクを抱きかかえる。
「な…何?」
 動揺を隠せないでいるエルク。そりゃそうだろう。なんせ若い男女ひとつ屋根(屋根と言えるのか?)の下でしかも自分はもろ下着一歩手前。ハズイのだろう。
『そのままじゃ風邪こじらすだけだから』
02/10/31 21:04 『修正』

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うさぎばやし
(修正:1) 『―――――――――――――――――――――………………う、うん…ありがと…』
かなり長い逡巡の後、エルクは素直にそう呟いた。人肌というのは思いのほか暖かい。

『燃やすもの…探しとかないといけないね――…木とか燃え尽きちゃいそうだし…』
『ん…』
ぼんやりと、自分に言い聞かせているのか、ノアに話し掛けているのか、よくわからない口調でエルクは言う。熱のせいか、頭がぼぉっとする。正直、喋っていたら頭に響いて辛いものもあるのだが。ノアもそれがわかっているのか、小さく相槌を打つ程度にとどめてくれている。
『…雨やまないねぇ』
『あぁ―――』
ぽて、とノアに身体を預ける。
『早くやめばいいのにね。』
『……そう、だな。』
そしたらまた飛んでいけるもんねぇ、とエルクは微笑う。その表情を見て、ノアは少しだけ眉をひそめた――勿論エルクに気づかれない程度に。
エルクはわかっていない。今自分がどんなに高熱を発しているのか。その微笑さえも、全く力ないものであること。

  …結局何もできない   ?

否。
(『…しない、のかもしれない』)
恐れている。畏れている。
何を?エルクを失う事は恐ろしいこと。
けれども――――

『…エルク?』
微かに呼びかける。返答は無い。
…小さな寝息が聞こえた。

相変わらず炎は揺れる。ちらりちらりと揺れて、そしていつか消えてなくなるのだろう。今は天に向かって伸びているけれども。
02/10/31 22:45 『修正』

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メケ太
土の国の街につくと、案外賢所は早く見つかった。しかし、その有様は他の被害を受けたモノと変わりない。貧相な土の国を皮肉にも一層、効果的に印象させる。水の国の後、さっそく被害にあったそうだ。森の国の前であるからこれは防ぎ様もなく、しょうがないと目を瞑るしかない。しかし、リゲルはそれをバネに金の国は絶対守ってみせると呟いた。少しずつ、強くなって行く姿が見て取れる瞬間だった。人が元々少ないのとそんな事も重なって、一同は賢所を素早く通りぬける事が出来き、気が付けばそこは街が螺旋状に続き、天に伸びる一本の塔になるという――金の国である。やっとあの土から抜け出せた事と、この場に着いたと云う安心感もほどほどに、一同はそのあまりの高さにいきをのんだ。この国では賢所などの三殿が一番下に置かれ、そこを囲むようにして螺旋状に一本の道が続く。それは高く高く・・。上を見上げれば円状に区切られた空が見えた。
『すっごーい・・』
実際、今まで国巡りなどした事が無いから、特別この国だけでなく、驚き胸を躍らせる景色に幾度も出会う事が出来た。
『こりゃすげぇな』
だから目的なんてものは無くても、歩んで行くことが出来たのかもしれない。
『行くぞ』
しかし、今はその目的が明確になっている。ヴツカは感動も終りさっさと道を歩き出してしまった。リゲルは戸惑いながらもその後を追った。戸惑う事なんて今は必要がないことなのだが・・。

金の国は単純そうな作りをしておきながら実はかなり入り組んだ作りをしている。一本の道がただひたすらに上を続いているだけではなく、その途中に幾つか分かれ道があるのだ。そこを入っていくと、店が並び、また曲がり道が幾つか見つかる。それが何回も続く。歩いても歩いてもそれは同じ光景で繋がって行く。そして――。
『あ――ッなんなんだよココはッ!!』
と、迷う結果となる。
『結構、奥行きがあるよね・・』
――いつからだっけなぁ。
リゲルそう云いながら思わず座り込む。長い旅で足が痛い。
『いつから止めたんだっけ。天の塔の工事』
今や歴史の教科書に載っているぐらい昔の事、人々は神に逢いたかったのか天に続く塔を建てようとしたらしい。しかし、神はその増長を怒り
人々に厄災を齎した。そこで計画は無くなったとあるがそれが、その天の塔こそ、この塔なのである。塔はそれから金の国の街として再利用された。しかし、上に作ることが出来なくなった塔は人口が増える度に今度は横に面積を足していったのだ。無駄に入り組んでいるのもその計画性の無さからきたもので、どうも今は性質の悪い迷路と化してしまっている。本では見たことがあるが、こんなにも重症だとは思わなかったとリゲルはため息を漏らした。
02/11/01 19:34 『修正』

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うさぎばやし
(修正:1) 疲労困憊、とまではいかないにしても、よくよく考えれば土の国から歩き通しの3人はかなり体力を消耗していた。しかもその上にこの…天の塔。
『こんな迷路みたいになってるなんて…』
『つーか人探しどころじゃねぇよな。キトラー・アリスだっけか…』
小さく溜め息をつきながら言うリゲルに、吐き捨てるように呟くリグ。情報を集めるにしても、とヴツカも頷く。
「元来た道を帰ることは出来るが、これでは効率良く情報を集める事など…」
『…ちょっとまった。』
「む?」
『“元来た道を帰ることは出来る”だぁ?』
「当然だ。我は今まで歩いてきた道順など覚えているぞ。」
『…』
なんとなく、リゲルは力が抜けた。そういえばヴツカは目が見えないのだ。視覚に惑わされることなど無い。
『でも…どうしようか、これから。』
『急ぐに越したことはねぇだろ…』
リグがもっともな意見を口にした。それは確かにそうだ、他の二人も重々承知している。しかし、矢張り目の前にあるのは迷宮。賢所の近くに行こうとしても、だんだんと遠ざかる。気付かぬうちにそういう道へ入ってしまう。
『この街に詳しい人とかいれば良いんだけど―――』
「凡人を捕まえて案内させるのは賢い方法とは言えんな。」
『じゃあ一体どうするんだよ。』
時間には限りがある。刻限は確実に迫っているのだ。
02/11/01 23:19 『修正』

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えせばんくる
3人が右往左往しているその場所に、ひとりの女性が通りかかる。肩口で切りそろえた紅色の髪、張り艶のある肌。服装は……他の国であまり見たことのない姿。首に鍵付きのチョーカー。胸元は紐で止めてあるだけでかなり大きく開いておりかなり艶かしい。艶やかな美貌は見るものを魅了する魔力を秘めているようにも思える。そんな女性が一行の前を素通りして行こうとしていた………。
02/11/02 19:34 『修正』

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メケ太
目が合ったその瞬間。それだけで運命とは容易く動き出すものだ。いや、そう容易いもので十分でなのである。運命の輪は織り成すごとにグルグルと廻り、巡り、そして毎日が新しく目の前にあるべきだ。だから――これは運命なのよ。

「貴方達、私の白馬の王子様になってくれないかしら?」
『はぁ?』
突如、全く面識もない女性からの言葉である。ふと目が逢ったかと思うとつかつかと歩み寄り、一同の一歩手前で止まると腰に手を当て、偉そうにそう云ったのだ。それに唖然としたのは云うまでも無い。リグは思わず、声を漏らした。
『なんだ・・お前』
「あら、貴方がリグちゃん?その声、とても素敵だったから覚えてるわ。当然貴方達もよ」
『え?』
リゲルは疑問の声を投げかけるが、その赤髪の女性はふと悩ましげに笑い、理由は後でね坊やとリゲルの唇に触れた。
「今はそれ所じゃないのよ」
『今はって・・』
「私、捕らわれの身なの」
『捕らわれの身ィ!?』
「だから一緒に来て欲しいの」
『なっ・・』
そう笑い、彼女は立っていたヴツカの手を取り走り出した。
『ちょっと・・待てよッ!!』
2人は咄嗟に立ち上がり、後を追うがリグの言葉に彼女は軽やかな笑い声をたてるだけだった。
『待てぇッ!!』
しかし、その後リグの言葉に続き、同じ事をいう別の声が背後から聞こえる。かと思えばその途端、獣の声が近寄ってくるのを感じた。いや、感じるなどではなく、それは確かに獣の姿である。
『でぇえッ!!?何だこいつ等ッ』
獣は猛スピードで加速してくる。
『追えッ!逃がすなッ』
『ちくしょーッなんで俺等がこんな目にッ!!』
一同は巻き込まれつつ、また奥深い塔の奥底に迷い込んで行った。
02/11/02 21:08 『修正』

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えせばんくる
 それにしてもなんて逃げ足の速い女だろう。先ほどまであれだけ近かった連中を引き離していく。だがとたんにスピードを緩める。そして振り返りリゲル達が来ているのを確認までする。するとまた連中が接近してきてそれを間一髪でかわしまた走り始める。まるでこの状況を楽しんでいるか、スリルに喜びを感じているのかといった感じだ。
『どこまで行く気なんだーーー!!(怒)』
『とりあえずついていらっしゃい王子様』
『誰がだーーーーーっ!!』
 どんどんと奥まで行く。こいつにはたして計画なんてものがあるのかどうか…。それに何故こんな連中に追われているのかも謎だった。それ以前にこの女―――誰だ?
『お姉さん…なんで…あんな…人達に…追われてる…のーーー!!?』
 リゲルは息とぎれとぎれでがんばって問う。彼女はあれだけのスピードで走っているにもかかわらず息一つあがっていない。一体どれだけスタミナがあるというのだ。
『とりあえずついていらっしゃいな。話はそれからよ子猫ちゃん』
『こっ…子猫ぉ!?(@□@;)』
 彼女は艶やかな声でリゲルに指示したが当のリゲルははじめていわれたそんな言葉に動揺を隠せなかった………。

02/11/02 22:22 『修正』

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メケ太
『はぁ、はぁ・・もう駄目』
随分と走ったが、今だ獣は後を追う。しかし、リゲルの体力はそう長くは続かなかった。胸が抑えつけられているかのように痛み、酸欠で頭がぐらぐらする。足取りが次第に重くなりリグとの差も開いて行く。
『おい、大丈夫かよッ!――っくそ』
完全に止まってしまったリゲルを横目にリグは獣に向き直った。
『リグッリゲル!如何したのだ!?』
『リゲルがもう限界なんだ。逃げるままじゃ切りもねェッやるしかねぇだろッ!』
そう云い獣に向かい剣を構えた。
『ちょっとまて女!我も加勢に』
「フフ、その必要は無いわ」
『何?』
彼女はヴツカの手を放し、ザッと音を立てて向き直る。そして、そのその拍子に手の平に指を当てそれを離して行くとその後に光りの筋が走った。短い、言葉を発する。その言葉の群れの中に今、自分の名が入った気がした。その瞬間だ――。獣の気配が消えた。否、獣がではない。性格には自分がその場から消えたのだ。前通り、キトラーとリグとリゲルはそこにいるはずなのだが・・。
『あ、あら?』
リグの拍子抜けた声がした。どうやら自分だけでなくリグも、恐らくはリゲルもその状況に気付けて居ないらしい。
『なにを――』
「そんな事どうだって良いじゃない」
『良くねェよ!!なんだよさっきから曖昧な言葉ばっかり返しやがってッ』
リグが思わずキレる。しかし、そう云いたいのは誰も同じである。このままでは拉致があきそうもない。この人は一体――。
『貴方は・・誰・・なんですか?』
未だ息の切れかかるリゲルの様子を見て、彼女は顔をギリギリの所まで近付けた。
「運命的に出会ったのよ。貴方達もそう思うでしょ?」
――知ってるはずよう。
飲み込まれそうなほど黒いその瞳に、艶かしく動くその唇に、リゲルは思わず赤面するが、彼女はそれを伺うと尚、愉快そうに目を細めた。
『汝、もしやキトラーであるか?』
『何ッ!?』
そう聞くと彼女はけたけたと笑った。
『じゃぁ、本当に貴方が』
キトラーと思わしき女性はリゲルを見据える。
「そうよ。でもね、坊や」
――違うのよ。
『え?』
「生き物には音階があって、名前なんてその一つの番号にしか過ぎないわ。キトラーは音・・。私ではないのよ」
――フフフ。
「解った?」
『はぁ・・』
癖のある奴――。そうクロウリーの云った言葉が脳裏を過る。彼女は未だ悩ましげに微笑むばかりだ。
02/11/03 00:12 『修正』

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えせばんくる
 外の雨は少しやんできている。雨音からなんとなくそんな気がした。腕の中にはあいかわらず眠りこける少女がひとり。自分に身を預けている。気持ちのよさそうな寝息さえ聞こえてくる。ノアはエルクの柔らかい髪に指を通しながら考える。
――――いっその事このままおいてくか。
 いや。多分無理だろう。今置いて行くのは光の方が黙っちゃいないい…。無論自分とて具合の悪い者を置き去りにするような真似はしないつもりだ。
 あいかわらず熱く火照った身体。熱は下がる気配をみせない。
「むにゃ…りげ…る。ヴツカぁー…むにゃ」
 エルクは途切れ途切れ寝言をつぶやく。しっかり寝ているはずなのだが。
「んー…ノぁア?だぁーめだって…」
『…?』
 突然少女の口から自分の名が出た事に驚く。一体どのような夢を見ているのか。
「まぁーた…そんな…ねぇ〜?」
 それにしてもよくしゃべる。今日は特に。これも熱の所為なのか?すると突然声が止む。ノアはエルクの顔を横から覗く。その瞳には一粒の涙。
「光…ちゃん、戻って…きて…ね」
『…っ』
 さっきまでとは全然違う夢を見ているのか。それともさっきまでのは寝ているとの見せかけで、これをさりげなく言う為にやっていたのか。それにしてもどうしてそんな夢を見る。別に自分に害は無いのに。何故わざわざ危険をおかしてまで俺――光を追う。
<ぱきっ>
 最後の薪が音をたてて朽ちた。 
02/11/03 15:58 『修正』

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メケ太
人々の混濁、混乱。気の迷う、犯されるそんな野望が渦巻いてこの闇の広がりはいつまでも断たれる事はない。道は続く――。
『あの、ところでココは?』
「さぁ」
問うてみても誰として知れない。
『あのなぁ、お前がココに転送したんだろ?』
「場所指定なんてしてないもの」
何処として情景は変わらず、思い描く物はどれとして違うともいえないし、合っているともいえない。
「歩きましょうよ」
それは―――混乱しているということなのだろうか?

ただ、出口を探しているのかそれとも迷い込んで行っているのか、道を歩いているのか、それとも道が進んでいるのか、それさえも感覚として掴めなくなるほど閉鎖的な空間に言葉数も少なく、悶悶と足を動かすという行為を続けていたが、どうもそういう錯覚を覚え始める自分に酔ってくる。リゲルはそれに歯止めを利かそうと口を開けた。
『あの・・』
変哲の無い事だけど
『なんで追われていたのですか?』
何も聞こえないよりはまし。何も無いよりは――。
「私が咎人だからよ」
彼女は軽く、笑うように云った。別に笑える事などではないはず。
『異端者ってことか?』
リグも話し始める。
「いいえ、異端でもその存在を否定する事は出来ないのだけれど――」
異端者でも隠居して、身を隠せは大概は平和に生きていける、けれど――。
「なんか、壊してしまいたかったのよ」
02/11/04 17:45 『修正』

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えせばんくる
<ぴくっ>
『?』
 突如エルクの指が――身体が引きつる。そしてパチッと目を開く。その瞳はどこを見ているのか分からない、うつろな状態だった。
『どうした?』
「…いる」
『…?何が?』
「いるよ、近くに。いる」
 それしか繰り返さない。一体何がいるというのだ。何も気配など感じない。
「真っ暗で混沌が渦めく闇の世界」
『?』
 そう呟くとまた目を閉じて寝息を立て始めた。


『なんか、壊してしまいたかったのよ』
 “何を”かはわからないが彼女の表情からしてあまり良い出来事ではなかったのだろう。微妙にではあるが眉をしかめたその姿は先ほどまでの彼女からはあまり想像できない顔だった。
『ねぇキトラーさん。貴方はどうやってクロウリーに出会ったの?』
 リゲルは少し聞いてみたかったことを口にする。“何か”はまたあとでゆっくり聞けばいい。少しつらそうだったから。
『ふふっ。聞きたい?』
<コクコク>
 リゲルは素直に首を縦に振る。
『そうねぇ…。あれは…何年前の事だったかしら。私は国からの命で火の国に赴いたの。とある理由でね。身体を張った仕事だったわねぇ』
 そう言うと何故か艶かしい眼差しをリグに向ける。リグは何かが背筋をはう感覚に襲われる。
『なんなんだその目は』
『それで火の国での任務をはたそうとしたときにちょっと、ネ。それがあの人との初対面だったかしら』

02/11/04 22:41 『修正』

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メケ太
―――お前が必要としていると思って。
フフ、貴方は何時までたっても変わらないのね。いつか貴方が私に云った言葉、覚えてるかしら?何一つ変わってないわ。

『お前が必要としていると思ってな』
「何をよ?」
任務は火の国に大量に発生している魔物の駆除という至極単純な事。その時も私は数人の国の付き人――って言えばまだ聞こえが良いわね。所詮、見張りとして付けただけのそこそこな人間よ。しょっちゅう人が変わるから名前すら覚えてもいないわ。でも、その時はどうも危険度が高くてそいつ等は山の外で待つ事にしてたの。私は1人、雑魚相手に淋しく探索よ。
『あたしや。あ・た・し』
「誰も呼んでないわよ」
『なんやかっわいくない奴やなぁー』
だけど、そんな中、貴方が突然現れたのよ。
「こんなとこに居ても何にもならないわよ。無断で魔術を乱用すれば貴方も捕まっちゃう結果になるし?」
私はいつもの様に笑いを含めて行ったけど、貴方はそれを笑い返して
『なんや、それだけはごめんやな。金の国なんてあたしの居場所にしては狭すぎるわ』
ってほざいたわ。それもそうね。だって金の国は私のような者を隠すためにあるようなものですもの。フフフ・・。

「ねぇーえ、貴方達には譲れないものってあるかしら?」
『え?』
リゲルは意外そうに眉を顰めた。
「揺るぎ無いもの、変えられないもの、信念でも希望でも何でもいいわ」

―――お前、生きとるんか?
そして貴方は私にそうも云ったわよねぇ。どこからどう、この話しに発展したかなんてもう覚えていないけど、こんな事云うの貴方が最初で最後よ。きっと。
「生きてるわよ。足だってちゃんとあるわよ?見えない?」
『そないなこと云っとんとちゃうねん。お前、本当にそのままでええんかっちゅー話しや』
「何が?」
『操り人形とちゃうんやぞ。なにが悲しゅうてそない指図されっぱなしでいなあかんねん』
――人間、願う事忘れたらそれまでや。

「世の中の99%から否定されても、譲れないモノよ」
――私は持っているわ。
この人間の無意味な欲が生み出した混乱としかいいようがない産物の中では、それは隠したくなるほどの醜い真実、神に近付く異端なモノが――。混濁が渦を巻く。今、歩いているこの道のりの深さはその業の深さと相対している。いずれにしても闇に違いはない。私はその闇の中に葬られた混濁の一つよ。けれど――。
02/11/05 01:27 『修正』

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メケ太
『もうすぐ、お前のとこにつくと思うで』
――お前が必要としていると思って。
フフ。余計なお世話よ。だってもう大丈夫だもの。

『あ』
曲がり角を行くと視界が突如開かれる。眩い明かりが目に刺さる。それは確かに――。
『外だ・・』
出た場所はあれからどう歩いて来たのか頂上だった。風が当たる。
『随分と歩いたはずだな』
青い空が近い。
「・・外に出たいわ」
『え?』

もう大丈夫よ。だって私は願いつづけているもの――。

「私、自由になりたいのよ」
――それが譲れないモノよ。
だから何時までも逃げ続けてやるの。私を捕えようとするあいつ等の手から。たとえ、自分の力でこの場から出られなくても、それだけは願い続けて――。
「さぁ、私を連れてって頂戴。王子様達」
この砦から私を助けて。


――裏切り、者だ。
その者達よりももっと高く、それを眼下に見据える者が1人。否、人であろうか。その姿はあまりに違う―――。
『許さな、い。許さない』
間を阻む大きな窓ガラスに爪を立てた。ギギと僅かな音を立てるがそれと同時に起こる肉の擦れる音の方が遥かに不快感を覚えさせられる。
『逃がさない』
――誰一人として。
02/11/05 01:58 『修正』

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えせばんくる
 ガシャンというガラスの割れる音。それとともに近づいてくる足音。追う者と追われる者。所詮彼等にとって私はモノでしかないのかもしれない。追われて追われて追われて。私は逃げ惑う。逃げ道なんて限られているのに。息もあがる、足ももつれる、吐き気もする。でも私は捕まりたくなかった。捕まったら決められた運命のレールの上に置かれてしまうから。そして終点は『死』。その前の駅がたぶん『犠牲』。どんどんと増えてゆく人の気配と鎧の擦れる音。耳障り。私は暗がりに隠れ身を潜める。奴等は行った。その後を私は駆け抜ける。奴等は当然気付く、そして私を追う。気付いたら私は崖っぷちに立っている。うしろは下が見えないくらいの斜面。このまま身を投げてやろうかと思ったその時とうとう捕まった。否、私は観念した。どうせ逃げたところでこの狭い領地。逃げ場など存在しない。命を捨てたところでどうなるというものでもない。最後の最後まで悪足掻きをする為に私は命を残した。
「んー」
 大きく延びをしながら僕は起き上がる。するとガスッと拳が何かにあたる音。
「?」
 振りかえる。後ろに何かあっただろうか。おかしいなと思いつつ後に目をやればそこには頭を抑えている青年の姿が。
「わっ!?ノァ!?」
 そんなに勢いよくあたったわけではないのでうずくまってはいないがジト目でこちらを見ている。僕はいそいで謝ると乾ききった上を着る。彼の方も自分の物を取ると身支度をした。
 外は既に晴れ上がり鳥のさえずりも聞こえてくる。先ほどまでのあの雨からは考えられないくらいに澄んだ空に穏やかな海。飛ぶ前よりもずっとずっと綺麗に思えるその風景。
「よし!行こうか」
02/11/05 12:33 『修正』

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えせばんくる
 ふたりははじめの倍くらいの速度で飛行をはじめる。遅れた時間を取り戻さなくてはならない。
 途中様々な島が目についたがその中でも特に目につく島があった。大地が大きく盛り上がったその島は天にも届きそうな、そんなイメージを持たせた。そしてエルクが特に気に入ってしまったのは一面中が花畑という事だった。
「ねぇちょっと寄りたいけどいい?」
『いいわけないだろ。時間無いって事はお前もよく知ってる事だろ』
「ぇ〜……ちょっとだけ、ネ☆」
 えへへと苦笑いをしながらスススと島へ近づいて行く。飛んでいるのは彼女、つかまっているのは自分。
『エルク。そんなにここに寄りたいか?』
「うん」
 するとノアは不敵な笑みを浮かべる。何?と思ったエルクはそれをそのまま口にする。彼の返答はこうだった。
『だったらここでお別れだな』
「はぁっ!?」
 もうすっかり元気そうだし、置いていっても自力でどうにかできるだろう。いざとなったら始祖の奴がどうにでもするだろ。
「えぇっ、そんなのヤダぁ」
『でも行きたいんだろ?』
「くぅ〜」
 するとエルクは腕でしっかりとノアをはがいじめにする。
『?』
「いーもんこのまま連行だから!!」
 多分彼の力をもってすればこのくらいのはがいじめいつでも解ける。いつでも僕を置いてゆける。これは少しの抵抗のつもり。
 でも彼は何も言わなかった。なにも抵抗しなかった。なんでかはよくわからない。なんかノアになってから考えてる事があまりわからなくなった気がする。やはり別人格になったっていうのもあるのかな。少し不思議な感じだった。


 そこは一面中が花畑。うっとうしいほどのその量はリゲルを喜びで満たしていた。彼はそれらを手にとり観察したり、その上にパフっと寝っ転がったりとその場所を堪能していた。ヴツカもリゲルの横で彼に付合っている。リグはいつになったらその場を動けるのかとイライラしているご様子。キトラーはというと自分の近くにくる虫に悪戦苦闘していた。

02/11/05 12:57 『修正』

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管理人
 そんな風に久方ぶりの休憩らしい休憩を満喫していたリゲルの目に、ふと小さな玉が目にとまった。
 手にとって見ると、それは少し温かい。大きさは直径およそ6cm、色は薄い水色。
『どうした?』
 不思議に思って眺めていると、リグから声がかけられた。
 彼はリゲルの持っている球体の謎の物体をしげしげとながめてみる。
『…なんだこりゃ』
『……わかんない…』
 そんな様子の二人の間に、とうとう虫との格闘も放棄したキトラーが顔をつっこんだ。
『なによ、それ』
 言っておいて、自分の記憶の戸棚を探り出す。
 直径およそ6pの薄水色の球。
 どこかで似たようなものを見たきがするのだが、うまく思い出せない。
『あ』
 リゲルの驚きの声に、一気に現実にもどされた。
 例の謎の球に、ひびが入っていたのである。
 一体なんだと思っているうちに、ひびは大きくなっていき、突然そのひびから『尻尾』が生えてきた。
『…!!?』
 その尻尾はまるで『龍』。しかしそれだけでは終らない。
 次の瞬間にはまさに猫の頭が球から生えていた。ついで、両脇から小さな足が計6本。
『……龍猫虫』
 唖然とした声が、キトラーの口から漏れた。
 生で見るのは初めてだった。
『りゅうびょうちゅう?』
『稀少な魔法生物の一つさ』
 焦った様子のリグの質問に、さらりと答えてやった。
 一方リゲルの手の上にいる『龍猫虫』は短くて小さい足をばたばたと動かしてもがいている。もちろん、呆然としているリゲルの手から落ちた。
『あ』
「ふにゅっっ」
 落ちた瞬間殻が完全に割れて、その生まれたばかりの龍猫虫の全景が顕になった。
 猫の頭に、てんとう虫の羽、そして龍の尻尾。
 まさに『龍猫虫』。
『……………』
 その姿にショックを受けたリグが、恐る恐るリゲルを見やる。
『……かわいい』
 頬に手を当てて、目を輝かせて。リゲルはそう言ってのけたのである。
 ある程度予想はしていたが、リグはやっぱりショックだった。
 救いを求めてキトラーを見やったが、逆効果だったと後になって気付いた。
 彼女は目を輝かせて――リゲルとは違う意味で――、こう言った。
『なんて嗜虐心をそそられるの〜?』
 とてもうっとりと。そしてご丁寧にも鞭を構えていたのであった…。