僕等はその叫び声の響いた方へと急いだ。途中何度も滑りかけ命がけでその場へ辿り着くとやはり女性がいた。それと共にいたモンスター。まわりに炎を纏っていて人型をとっていた。その頭から生える2本の太いねじれた角、それとその雰囲気からしてただの雑魚モンスターでは無い事が手に取るようにわかった。威圧感が比べ物にならないくらいすごい。
『我ノ邪魔ヲシニキタカ。愚カナ人間ドモヨ』
『助けて――!!』
 女性はそのモンスターの手からのびた炎の鎖によって全身捕らわれている。
「何をしているの!?」
『見テ判ラヌカ。生贄狩リニ決マッテオロウ。乙女ノ魔力ハ底知レナイ力ヲ与エテクレルカラナ』
『あぁぁぁ…』
 しゅぅうという空気が抜ける音と共に彼女から鎖を伝ってみるみるうちに魔力が抜けていっているのが判る。魔力が抜けきると言う事は生命力を失うと言う事、つまり死を意味する。
『やめろ!』
 リグは剣を異次元から出現させるとダンッと一気に踏み込みそれを奴の脳天に叩きつける。だが奴は指1本で彼の攻撃を受け止めてしまった。
『!?』
『我ヲ誰ダト思ッテオル。コノ“デーモン”ヲ』
―――デーモン…ッ!!?
 皆即座に頭の中の魔物辞典を開く。目次を確認せずともわかる。デーモンと言えばかなり高位のランクに入る魔物だ。初心者の冒険者パーティーならば即座に地獄へと引導をわたせるであろう敵が目の前にいる。
 これは厄介な事になった。短時間で蹴りをつけるつもりでいたがそうもいかなくなったようだ。
―――ノア。絶対今度こそ会うんだから。こんなとこでへばってなんかいられない!!

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うさぎばやし
(修正:3) 『もしかして』
唐突にリゲルが呟く。視線はデーモンに向けたまま。
『リゲル?』
『昔何かで読んだことがあるんだ。
アイニとかアイムとか、ハボリムって呼ばれることも
あるんだけど、炎に関係するデーモンで…
“美しい男の体に、蛇と人と子牛の3つの頭を持つ。
大きなマムシに乗って現れ、火のついた松明を手にする”。…もしかしたらそれかも。』
この手の伝承は大抵ある程度の脚色がなされているものだ。なるほど見てみると、デーモンの頭から生えている角は牛のそれに近い。
エルクは小さく頷き、リゲルを見やった。
『弱点とかは?』
『そこまでは…――…でもアイニかどうかはさておき、
見た目からして炎の魔物であることに間違いはないから…さっき貰った火竜の鱗を活用すれば、何とかなるかもしれない。』
普通に考えて、炎と相対する属性は「水」。
エルクにも水の魔法は使える。
そこに炎を無効化する火竜の鱗。
―――何とかなるかもしれない、じゃなくて。
『…何とか、するしかないっ』

光ちゃんに、ノアに、会わなくちゃいけない。
話したいから。
会って、とっ捕まえて、
しっかり話をしなくちゃいけないから。

急がないと間に合わなくなってしまう。

『先ずはあの人を助けなくちゃ』
エルクはスピア・ロッドを握り締めた。
02/10/16 18:23 『修正』

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メケ太
(修正:2) 湿気を帯びた生ぬるい風が通り過ぎ身体を纏う黒い布がはたはたと云った。彼はそんな風に砂っぽさを感じながら、とある向こう側を見据えていた。頂上であるその場所は視界を遮る物がなく、なるほど眺めはいいだろう。しかし、眺めた所で面白い物などなに一つ有りはしない。そこに広がるのはだた、漠然とした荒野なのである。と、いっても彼が今、崖に腰掛けつつ見据えているモノはその景色などではない。そこにはないモノ。常人には見えないモノ。それは“気”である。目の内の第一の
瞼を閉じ、第二の瞼を開けると光り輝くモノが見える。今、彼の見据えているのモノはその中でも一段と光る4つの光りである。

『おおおおッ!!』
リグは剣を構え身を下げて走り出す。ヴツカが向かい、身を引くその直後を狙ったつもりであったがデーモンはそもそも態勢を崩すほどの動きをとっていなかったせいか、簡単にあしらわれる。バリアのようなモノを張られ、大きな衝撃を受けて跳ね返された。リグはそれを受け流すことも出来ず、不安定なまま手を付く。
『アイスッ』
エルクは呪文を唱えるがデ―モンが手を差し伸べた瞬間にそれは裂けてしまう。やはりリグやヴツカとの時のように周りに何かしらのバリアが張ってあるのだ。どうやら動きを見るに手を差し伸べて発動させるものであるようだが、どうにせよそれでは魔術も通用しない。
――どうしよう。どうしよう。どうすれば。
どうすればいい。身体を打つ衝撃に声を上げる以外になにも口にしないが、共に考えている事は同じである。どうすれば勝てる。どうすれば攻撃が当たる。思案は戦いのなかで行われる。決してない余裕のなさがまた頭を鈍らせる・・気がする。気がするだけか。勝てるのだろうか。疑いは次第に不安を呼ぶ。勝てるのか?
『アイスッ』
それでもエルク達はがむしゃらになった。今はこうしているしかないのだ――生きなければ。生きなくては死ぬ。
『っぁああッ!!』
『アイスッ!!』
『ヌウゥッ』
そう思った瞬間、リグの剣がデーモンの腕をしたたかに傷付けた。緑の血が飛び散る。アイスは――どうやらバリアされたらしい。しかし、この様子に目を見張ったのはリゲルだった。
『ヴツカ!エルクが唱えた瞬間に入って!!』
『え?』
エルクはリゲルの突拍子のない言葉に驚きの色を露骨に見せた。通常、誰かが敵に向かっている時に魔法は繰り出さない物である。それでも効率良くいくために大抵はその直後の間を縫うものだが、それを意図的に合わせるとなるとこれはまず危険である。仲間にも被害が及ばないとはいいきれない。しかし、リゲルは真剣な顔付きである。
『え、え?でも』
『早くッ!』
――相手が傷付いている間に。
このデーモンはあの手じゃなくてはバリア出来ないのだ。だから属性の悪いエルクのアイスを受けないが為にリグの刃を仕方なく受けた。これならいける。ヴツカはそんなリゲルを悟ったかのように、にっと笑うと走り出した。エルクも呪文を唱え、その力を発動させた。
02/10/16 19:38 『修正』

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えせばんくる
「えーい!!ヴツカ気をつけてよね!アイスッ!!」
『心配無用!』
 エルクはさらに魔力を上乗せし大きめの氷を相手に叩きつける。デーモンはバリアでそれを防ごうと試みるがヴツカはそれを上回るスピードで呪文のあとに続いた。
『はぁあっ!!』
 ヴツカは飛揚するとそのままの勢いを殺さずに足を氷の上から叩きこんだ。
『グァアッ!』
 それはエルクの呪文によって弱まったバリアに直撃しそのまま奴の脳天をとらえた。その隙を見計らってエルクは少女を救い出すべく駆け出した。
『ソウハサセルモノカ!!』
 ギラッと赤く眼を光らせるとデーモンはエルクの足元で炎を発火させた。高温のそれが彼女を取り巻いた。
「うぁっ!――っくぅ、ウォータ!!」
 彼女は水の呪文を唱えると頭上から大量の水が降り注ぎ身体を覆っていた炎を瞬時に消し去った。
『チッ』
「なにすんのさ!危ないでしょ!?早く彼女放しなさいよ!」
「アイス!!」
 彼女の近距離属性攻撃はもろぶち当たる。これには奴も少々油断していたようで動作がかなり鈍っていた。
『うぉりゃあぁああ!!』
 そこへリグが奴に振りかぶる。緑色の体液が舞うと同時に奴の腕も床に落ち跳ねる。デーモンは苦痛の声を上げるとよろめいた。エルクはこの間に先ほど失敗した救出に再度挑戦した。今度は奴も相当のダメージを食らっておりエルクの行動を即座に静止させる事はできないようであっさりと救出に成功した。
「大丈夫ですか!?」
 意識はない。かなりの魔力を吸収されているようで息もすでに途切れ途切れ。
「リゲルっ!彼女をお願い!!」
 エルクはリゲルに少女を預けた。すると後方から腹に響くような怒声が洞窟内に響き渡った。
『我ノ邪魔ヲスルナ!』
「きゃあっ!!」
 突然彼女は足首をなにか紐のような物で絡め取られその場に転倒した。そしてズルズルとデーモンの元へ引きずられて行く。よくよく足元を見ると紐だと思っていた物は蛇で奴の背からのびていた。
「はぁなせーっ!!」
 じたばたともがいたところで奴には無意味だった。腕も後ろに同じようにしてしばられてしまった。
02/10/16 22:58 『修正』

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えせばんくる
『モウ奴ノ魔力ハ殆ド吸イ尽クシテヤッタ。貴様二ハ先程カラ酷イ目ニ遭ワサレテイルカラナ。ソノ魔力償イトシテ我ニ捧ゲテ貰オウカ!!』
「馬鹿なこと言ってんじゃない!!誰がお前などにやるもんかぁー!!」
『笑止!』
「うああぁぁっ!」
 先刻少女に纏わりついていたような炎がエルクに巻きついた。同時にどんどんと魔力を抜いて行く。
―――心臓がどくどくと脈打つのがわかる。どんどん心音が速くなってる。頭の頭痛もさらに酷くなる。それも秒刻み、それよりも速いペースで。
『エルク!!』
『我ニ立テツイタ事ヲアノ世デ後悔スルノダナ!!』
「ああぁああぁっ!!」
―――もうだめだ。ノアに魔力を吸い取られたときとは状況が違う。彼は僕の身を心配しティアにもらった力のみを吸収したがデーモンの奴はどうも同じようにしてくれるとは思えない。
―――意識がもうろうとしてきた。僕、この場で死ぬのだろうか。ノアっ、光ちゃん。……そうだ。僕はまだ死ぬわけにいかないんだ。
『ナッ…ナニ!!!』
「うぁああぁああ!!」
 エルクは全身から蒼くまばゆい光を放った。そして一行の目の前にあらわれたのは銀竜――リヴァイアサンだった。
「いっけ―――!!!」
 彼女の叫び声と同時にリヴは高らかに咆哮を上げデーモンに向って体当たりをかました。
『グアアァッ!!!!!』
 デーモンはとてつもない勢いで壁にたたきつけられる。それと同時にエルクに絡み付いていた炎は消え去り彼女はそのまま放り出された。
02/10/16 23:16 『修正』

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メケ太
(修正:1) 光りが増した。今までの輝きを一層に、闇をどんどんと吸収して行く。それは――白銀の光り。ノアは、はと目を開いた。目前にはただ荒れ果てた荒野が写る。しかし幾らか時間が過ぎたせいか天に合った筈の太陽はもう山間に沈もうとしている。暗闇にあったはずのその視界は外に出るより尚、明るさに馴れてしまっていた。あの陽よりも輝かしいとはなんという光りか。これこそが竜女の光り。
「・・・・」
身体がうずく。あの光り――いや、今はもう光りとして見るまでもない溢れ出したその“気”が肌にビリビリと感じる。その“気”が竜の血を異常なまでに騒がせる。此方に来いと急き立てる。――しかし。ノアはすと立ち上がる。このままだと危ない。“気”が――溢れすぎている。

『オノレ・・』
デーモンは地面に爪を立て這いつくばりながら、白銀の竜を従えた少女を見据えた。その感じられる力は先ほどまでのモノとは桁外れだった。魔力を吸い取ったはずなのに今はそれ以上の魔力を発している。そしてデーモンはその者の正体に気付いた。
『この、腐れデーモンッ!許さない!!』
しかし、そう彼女が云った途端に壁がピシと音を立てた。その音は徐徐に増えて行く。
『なんか、ヤバ系?』
リグがそう呟いた途端、今まで踏みしめていた地面がもの凄いスピード裂けていくのが見えた。その亀裂がエルクの股の間を通りぬける。
『ああああああ』
――崩れる。
『リゲル!その者を』
『う、うん』
ヴツカはそういうとリゲルに任せておいた女性を抱きかかえた。走らなければ、早くこの場から去らなければ。
『っきゃぁ!?』
エルクの足がまたしても捉えられる。エルクは背を向けていたこともあり、酷く頭を打った。
『エルクッ!』
その瞬間、天井が崩れる。視界が降り注ぐ大小の岩岩で遮らせった。そのままぴくりとも動かなくなったエルクがだんだんと見えなくなる。
『フハハハッミチズレトナルガイイ』
『畜生ッ!起きろエルク!!』
『危ないッ』
ヴツカがリグを付き飛ばした。大きな岩が音を立てて地面に叩きつけられる。
『今は走るのだッこの場で全滅しては意味がない!』
『っちくしょ―――ッ!!』
―――エルクッ!
02/10/17 20:34 『修正』

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メケ太
(修正:1) 『アアアアアアッ!!』
ガレキの積もる音に掻き消されながらも、苦痛に訴える断末魔と生生しく肉の飛び散る音がする。血を噴いて、デーモンの腕が飛ぶ。
「汚れた手で」
――触んじゃねぇ。
その場には漆黒の陰を煽るノアの姿があった。
『キサマモソノモノノ――グアァッ!!』
「下手に勘ぐると寿命が縮むぞ?」
まるで悪鬼の如き笑みをたたえて、ノアは残酷にもデーモンの傷口を踏み潰す。息を荒上げ、声を漏らして、自由を失った四肢を無力にデーモンは身体を捻る。ノアは汚らしいモノを見る目付きをし、デーモンから足を退けエルクに向き直った。
「出て来い。白き竜」
しかし、その相手はエルク本人ではなく、その中に潜むリヴである。
「エルクの力なしでは出れないか?主の死をそのまま見届けるか」
――お主に云われる筋合いはない。
声が届く。リヴ自身の声が頭の中にダイレクトに語り掛けて来た。
「なら、その役目を果たせ」
――力が足りぬわ。まだ未完成だ。
召還師として、この血族の者として。今でれば、竜そのものを繋ぎとめようとするエルク自身が危なくなるのだ。
――我はそれを恐れているのみ。
この娘を失ってはならない。
「俺が力を貸そうか」
――良くモノを云う。若造が。
『フハハハッヤハリソノモノハショウカンシデアッタカ!ナラバキサマラハソレニコウベヲタレルオロカモノナリ!!マモノノカザカミニモオケヌハッ』
背後から耳障りな声。ノアは微笑し振り返った。
「消えろ」

なんとか出口が見えて、外に出た。しかしその出口も、ものの数分で塞がれてしまった。3人はその跡にただ現実を受け止められなかった。リゲルは我を忘れたかのようにその降り積もった岩を退けている。涙を流し、彼女の名を何度も叫んだ。2人はその姿を痛々しく見つめていた。捉え難い、あまりに残酷な瞬間。しかし――。
リゲルの運ぶ岩岩がカタカタと音を立て始め、地響きの如き音が大地を上下に揺らす。地震――ではない。それは目前で起こっている何かだ。
『あ・・ッ』
全員は声を揃えた。大きな衝突音と共にそこに現れたのは山をぶち抜き空に飛び立つリヴの姿であったのだ。
02/10/17 21:48 『修正』

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うさぎばやし
(修正:2) どすん、と音を立てて、リゲルの手にしていた小岩が地に落ちる。震動は既に収まっており、落石も落ち着いていた。ただ、天には白銀の竜。
『……あれは、エルクの…』
目を丸くして、リグが呟く。それに対する返答はない。
竜は滑らかに、宙に弧を描いて地上へと方向転換した。きらきらと鱗が光る。ゆっくりと地面に近づき、徐々にその体の色が薄くなっていく。やがて完全に消失したとき、その場所にはエルクが横たわっていた。
『エ――――…ル…っ…』
リゲルは半分吐き出すように、声にならない声で彼女の名を呼ぶ。
先ほど叫びすぎたのか声は枯れかけているし、顔も涙でぐちゃぐちゃだが、リゲルは心底嬉しそうに笑みを浮かべた。残る二人も、エルクを抱き起こすリゲルを安堵したように見つめている。
気を失ってはいるようだし、大分体力を消耗しているようだが、命に別状はないようだった。

と。
『え?』
『な、』
「!」

ぞわり。

気味の悪い感触が背をつたう。
ビクリと体を縮め、反射的に3人は天を仰いだ。
そこには、ただただ青い空が広がっているだけだ。
『な、に?これは…』
『わかんねぇ…けど…』
リグは眉をひそめる。今の自分の言葉は偽りだ。
わかっている。本能的に、これが何なのか。
「―――…去ったようだな。」
語調こそ平然としているが、苦い顔をしてヴツカが呟いた。
リゲルは彼を見、そして緩慢な動きで視線を落とす。
エルク。彼女が目覚めてなくて良かった…のかもしれない。
(『矛盾してるけど…』)
今会いに行こうとしている相手。
(『わからないけど』)
エルクに危害を与えはしないだろう。恐らくは…そう、余程のことがない限り、あのひとはみすみすエルクを傷つけるような真似はしない。きっと…
(『それでも』)
それでも、彼女が目覚めていなくて良かったのかもしれない、と思ったのだ。
02/10/17 22:53 『修正』

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えせばんくる
「……ぁ?」
『目覚めたようだな』
 耳に届くヴツカの声。眼前には真っ赤に燃えている太陽。もうそんな時刻なんだ。
―――さっきデーモンがなんか言ってたよね?それで…もう一つの気を感じたけど…。
 誰かまではわからない。でも恐ろしい殺気に満ちていた。
『エルクー心配したんだよー』
 ぎゅっとリゲルがエルクの首に抱きついた。本人はまだ起きたばかりで何が何なのかよく把握できていない。
 ただ無我夢中に叫んで残った魔力を奴にやるくらいならと思ってそれを放出させたらリヴがでてきて。デーモンをフッ飛ばして。またこりずに僕を道連れにするとかなんとか言い出して。そこで記憶は絶たれていた。それで今まぶたをもちあげたらこの景色。
「急がないと時刻に間に合わなくなるね」
『おぃ。起きたと思ったらいきなりそれか?お前さっきあんだけ魔力抜かれてて動けんのかよ』
 起きて早々何をいいだすか、この小娘は。リグの問いはもっともだった。通常あれだけの魔力量を消耗したらそれなりの代償はあるはずでエルクもそれを身をもって体験した。だが―――。
「ん。なんか抜けきる前よりピンピンしてるよ?」
『はぁ?』
 試しに立ち上がり飛んだり跳ねたりしてみる。
「頭痛も治ったみたいだし」
 おそらくリヴァイアサン召喚の影響だろう。失いかけた魔力量の部分をリヴの魔力でカバーし補修したのだ。
「逆に全身気力で満ちてるよ♪」
 集中させてみればいとも簡単に気を纏うことができる。彼女はふぅとため息をつくと溜めた気を解いた。
『まぁ…何はともあれ快調でなによりだ』
『でも無理は禁物だよ!エルクってば無茶しすぎなんだよ!!』
 リゲルは指先をエルクの鼻先につきつけた。
「へへへ。ごめんねぇ」
 日没まであとどれくらいなのだろう。タイムリミットがせまってる。数少ないチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。数少ないチャンスの中で何回遭遇することができるのだろう。
 それは――未来はおそらく始祖のみが知ることであろう………。
02/10/17 23:42 『修正』

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メケ太
道を行き、坂を登り、洞窟を超え、すると空はすっかり暗くなった。それでも上を見上げれば明かりがぽつぽつと見えている。つまりもうすぐ中腹部なのは確かなのだ。そう思うを足取りは軽い。明日の夜6時に賢所に付けば良いのだから、その途中に何かなければ今日のような順序を辿るだろう。ならば心配する必要はない。十分いける。それに、今日中に人の居る所にいけるなら、この人――助けた女性を安心して誰かに任せられる。彼女はヴツカの背で未だすやすやと眠っている。元々の力量など知れないが多くの魔力を奪われた事には変わりない。当分は目覚めないだろう。
『ヴツカ、大丈夫?』
『心配はいらん』
あれからずっと背負ったまま。リゲルは気を使うが当の本人はまったくというほど支障はないらしい。
『ヴツカってなんでそんな力持ちなのかね』
エルクはふとして当り前な質問をする。
『それは――』
――そう作られたからだ。
『作れるものなんだね』
強靭な腕力。剛力な脚力。力。
『うむ』
人間の医学というものは尽く発達している。命を奪う事かと思えば救いもする。かとすれば生み出す事もその手に掴んだ。一個の細胞、また生物から無性生殖的に増殖した生物の一群。または遺伝子組成が完全に等しい遺伝子、細胞または生物の集団。栄養系。小枝系。クロン。今は何と呼ぶのだろうか?いや、今もあるのだろうか・・?自分のような存在が。ならばもう完全なのだろう。失敗は有り得ない。
『羨ましいなぁ』
―――?
エルクは別に星を何気なく見据えながらふとそんな事を口にした。
『僕もそんな力持ちだったらいいのに』
『なにを云うか』
だってぇとエルクは無邪気に顔を向けた。
『自分一人でも多くの人を支えられる力になるじゃん』
――支えられる力?
ヴツカは一瞬であるが、見えない目を見開いた。考えてもみなかった事だ。この力の意味など。それは作られたからこうなっているのだとしか思う事で止めていた。そういえば、自分のこの尋常でない力は何の為なのか。エルクの言う通り、多くの者を支える為の力なのであろうか?
『支える力は羨ましいのか?』
人間は。
『そりゃぁ、僕等は非力だもん』
相手のことなど護れやしない。人間は非力だから―――。
――ああ、なんと。
あの時の事を思い出す。自分は一体、何者なのか?完全なる人と答えた者が居た。完全とは何なのか?それを語ったその者は夢を語る者に見えた。どうせ理想よ。この力もそれの一部か。
『なんと自分勝手な話か・・』
ヴツカはそう一人云ちた。
02/10/18 03:18 『修正』

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えせばんくる
「あ!明かり明かり!!宿宿!!御飯御飯!!」
 眼前に広がるのはいままで行ったどの国よりも細く殺風景な店々が並ぶ道。どれもこじんまりとしていて活気はない。まだ賢所までは距離があるらしくそこまでにぎやかでない。
『エルクうるせぇ。それくらい見りゃー分かんだろうが』
 時は20時頃か。他の街ならもう少しにぎわっている時間帯だが人はポツリポツリとしか見当たらない。まぁ山越え谷越え洞窟抜け。そこまでしてこのような町まで来るのは余程の理由のあるものくらいだろう。
『まぁまぁリグ。エルクだって少し休憩とるとこあって嬉しかったんだよ。リグだって平然としてるけどかなり眠いんでしょ?』
『…。ぁ?何言ってやがる』
 少し言葉に変な間が開いた。リゲルは内心ニヤリと笑う。リグはあくまでもしらんぷり。リゲルは少しからかってやろうと口を開いた。 
『え〜?しらばっくれるの?僕見ちゃったもんねー。リグが立ちながら舟こぎかけててつまずいて転んだの』
「うそぉ。どんな風に?」
『ぇっと…こんな感じ?』
「はははっ☆」
 リゲルはこくりこくりとその時のリグを再現してみせる。その仕草が妙にリグを想像させエルクは腹を抱えて笑った。が、それにリグは切れた。リゲルの襟首をおもいきり引っ張り引き寄せた。
『てめっ!』
『ワワワッ!痛いよリグぅ』
「リグってばカルシウム足りなさすぎー。もっと牛乳とらなきゃダメだよ?」
 そこへ突然ヴツカが割り込んできた。光を知らぬはずのその瞳をギラッと光らせながら。
『汝等この少女の預け場所を探す気はあるのかっ?』
『「あ…。はい」』
 その圧倒的威圧感には一同口を揃えてyesの回答を出さざるをえなかった。
02/10/18 17:54 『修正』

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管理人
 エルク達がたどり着いたその小さな『町』に、2人の人影が舞い降りる。
 いつもの旅装束に身を包んだ、アルとベル。
 フードを深くかぶり、その美貌を隠している。


《何がために生きるか》

 彼女は意地悪そうにそう言った。

《…生きていることに、特に理由はいらないわ》
 あっても別にかまわないけれど。

 私はそう答えた。

《命令とかじゃなくても、俺はこいつと一緒にいたいから生きる……それだけだ》

 彼はそう答えた。

 確かに、理由はいらない。
 あったらあるでそれでいい。
 愛する人達や、大切なものがあるから生きる。

 それで、いい。

 別に、構わない。

 ……私達に『死』の選択はありえない事ではあったけれど。


「無理するなよ」
 ベルが、小さく呟くようにそう言った。
「大丈夫よ。薬も飲んだもの」
 答える声は淡々と。
 2人は並んで歩いていく。
「元気な『破天荒娘』にも会いたいから」
 あと、『人工人間』サンにも会いたいから。
 その声は闇に飲まれる様に。
 けれど2人は確実にその存在に近づいていた。
02/10/18 18:53 『修正』

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うさぎばやし
(修正:1) 『あ、宿屋じゃない?』
エルクがそう言って一軒の建物を指差したのは、それから少し経ってのことである。こじんまりとした古臭い建物だが、木で出来た看板が掲げられていた。
『この人、この町の人なのかなぁ?』
ちらりと、エルクはヴツカの背の女性を見る。元々色白なのだろうが、しかしその顔は更に青白い。とにかくゆっくり休ませて、適切な処置をしなければならない。この町の住人であるなら話は早いのだが。
『どうだろうな。とりあえず聞いてみたら良いんじゃねぇの?』
そう言うとリグは、汚れた扉を押して宿屋の中に入った。他の面々もその後に続く。

店内はぼんやり明るく、いかにも≪小さな町の宿屋≫といった雰囲気だ。置いてあるランプの光が時折揺れる。お情け程度の全然広くない広間には、これまた古い長椅子が並べられており、その向かいに勘定台。その中に店主は見当たらなかった。
しばらく辺りを見回していたリゲルが、ボソリと呟く。
『…留守?』
『まっさかぁ…あのー、誰かいませんかー!?』
そう言いつつも、エルクは少し自信なさげである。
しかしありがたいことに、奥の方から何か、もぞもぞと声がした。今行きます、という男の声。どうやら店員らしく、バタバタとこちらに駆けてくる音がした。
『はいっ、いらっしゃいませ!』
ばさりと暖簾をかきわけ、勘定台の向こうに一人の男が現れる。
『お泊りですか、ご休憩ですか?』
『とりあえず御飯っ…じゃないや、この人のこと知りませんか?洞窟の中で…んと、魔物に襲われてて、たまたま会ったんですが。』
エルクがちょいちょいと女性を示した。店主らしき男は不思議そうに彼女の顔を覗き込むと、たちまち目を丸くして、声を上げた。
『西の家の娘さんじゃないか!』
『西の家?そこの人なんですか。』
この町の人だったんだ、良かった…と、エルクとリゲルは微笑みあう。しかし男は少し気まずそうに言葉を濁した。
『ええ。ですが少し…いえ、何と言うか…』
「何かあるのか」
問うたヴツカを見て、男は余計焦って目を泳がせる。
『何かあると言うか…行ってみればわかりますが…』
『?』
何のこっちゃ。
エルクは首を傾げて、とりあえずその家に向かうことにした。男は相変わらず、曖昧な態度をとっていたが。
02/10/18 22:00 『修正』

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えせばんくる
 一行はその“西の家”を見に行ってみる事にした。いくら男に問ったところで曖昧な返事しか返ってこない。そんなこんなしているうちにリグの怒りメーターもだんだん満ちてくるし、時も刻々と過ぎてゆく。
 家は文字通りこの場所よりも西に行ったところにポツリとたたずんでいた。だがその家を目の前にしたとき4人は愕然とした。家が…。家が全面びっしりとツタや木、あらゆる植物で埋め尽くされミニチュアジャングルと化していた。
『男が言いたかったのはこういう事だったのだな』
『みたいだね』
 とりあえず手分けをして入り口を探ってみる。気をつけないとツタで足を取られるし、刺で皮膚を傷つけてしまう。
『〜〜〜〜〜っ。だー!うっとぅしぃ!!』
 プツっとなにか紐のようなモノが切れる音がすると同時にリグの怒りはMAXとなった。手は傷だらけ、足は取られる、おまけに入り口はおろか中に入る為の道すら見つからないこの始末。
 リグは異次元から己の剣を取り出すとおもむろに構えだした。
『こんなうっとうしいもんぶった切ってやらぁ!!』
 エルクとリゲルがふたりがかりで彼に飛びつきリグの動きを懸命に抑える。ほぼ無意味に近いのだが。
『えーいお前等邪魔だ!』
「わー!リグ落ちつけー!!早まるなー!!」
『何がだ!こんな作業ちまちまやってたら本当に光に遭えなくなっぞ!?』
 その言葉にエルクはたじろいだ。さすがにそれは困る。せっかく2つも国をまたぎ、山まで越え、デーモンに襲われまでしてこの地に赴いたのになんの収穫も無しでは泣くに泣けない。
――それだったら…。
 エルクはおもむろに手をリグから放し真剣な顔で向き直った。
「ねぇ。いっその事燃やす…?僕“フレイム”の呪文使えるけど…」
『エルクー!!君までそんな事言い出さないでー!!ヴツカ助けてー!』
『お前なかなかいけるくちだな』
「いえいえ御代官様程では…」
『汝等なに非常識極まりない事を抜け抜けとほざいておる。そんな事言っておる間に入り口などできたわ!』
 見よとばかりにヴツカはぽっかりと口を開けたツタの入り口を指した。即席、と言う言葉がしっくりくるまさにできたてほやほやのその門。ヴツカの手を見ると刺を無理に裂いて強引に道を開いたのがわかった。まだ赤々としたたる血が地に円を描く。
――こんなになるまで…。
 そんな真剣な彼を見ていたら僕はリグ達とふざけ合ってた事が申し訳なく感じた。彼は真剣に背中に担いだ少女を助けようと、しかも時間内収まるように努力しているのに。僕等がそれを引っ張っているというのが現実。
「ごめんヴツカ。“ヒーリング”」
 僕は彼の手に自らの平をかざすと回復の呪文を唱えた。傷は淡い光に包まれ暖かな感覚とともにふさがってゆく。完全にふさがりきるとエルクはヴツカの手をとって握り締めた。
「ちゃんと時間内に預けられるように頑張らないとね」

02/10/19 00:25 『修正』

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メケ太
(修正:3) 『で、では私はこれで』
『ええぇ?!』
そういうなり宿屋は躓きながらも走り出して行ってしまった。残されたエルク達は呆然とそれを見送るが何をそんなに慌てる必要があるのか。
しかしリゲルは部屋に踏み入れた途端、その謎を解消したかのように声を上げた。
『ねぇ、ちょっと見てよ』
―――これは。
一同は目を見開く。そこには驚くほどの風景が広がっていた。一見こじんまりとした一間の部屋の真中には大きなツボのような鍋。それにも関わらず、その下には釜土ではなく魔方陣のようなものが描いてある。壁にそって並ぶ棚には本や生物などがはいっているビンが幾つも置いてあるがそれが正常なモノでないことはなんとなく解る。
『ここは――』
一見、窓もドアもない、蔦に絡まれ閉ざされた家。しかしそれは意図的なものだったのかもしてない。
『サバトだ』
サバト――それは魔女の儀式を行う魔宴の場。
『っつーことはだ』
全員の視線はおのずとヴツカの背にいる女性に集まる。
『この人・・魔導師?』
一同は言葉を失った。魔導師とはエルクのような召喚士とは違い、もっと高等な魔術を扱う本格的術者のことである。しかし、それを世は魔女ともいう。つまり――異端者である。大変な事が起きた。

『・・・』
『あ』
彼女はふと目覚め、重い瞼を開けると一人の見知らぬ少年が自分を覗き込んでいた事に気付く。少年は大層驚いた様子で短く声を漏らすときょろきょろとして誰かの名を呼んだ。すると少女が1人、少年が2人、誰として記憶にない相手だった。
『誰やのん。あんたら』
『あ、あの僕はエルク。それでこっちはリゲルで』
そう全員の名を云って行く。彼女を聞きながらも状態を起こした。
『ごめんなさい。勝手にはいったりして、でも真っ青だったし寝せといた方がいいと思って』
リゲルと云う名の少年はおずおずとそう云った。
『かまへん、かまへん。それよりもあん時――』
あたしはどうしたかな?確か山を下ろうとしていた途中でデーモンに掴まったんだったな。そんで――。
『あんた等が助けてくれたんか』
『うん。まぁ・・』
飽く迄も相手の態度はぎこちない。それはきっと知ってしまったんだろう。あたしの正体。大体、この部屋に入れたのだからあの奥にある部屋を見なかったことはあるまい。彼女はまだ重い頭を支え、笑い雑じりのため息をついた。これは面倒なことになった。
02/10/19 17:56 『修正』

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えせばんくる
(修正:2)  干渉していいものなのかいけないのか…。相手は魔女――異端なる者。世から忌み嫌われている者なのだ。おそらくこの儀式や魔女だという事はまわりに気付かれて無いのだろうがいずればれたらこの者は恐らく公開処刑にかけられる事となるだろう。
 エルクも魔術が使えるのだがこの世界には大まかに分けて魔導師と禁術師というふたつの部類にわけることができる。エルクはこの魔導師の方に属している。この中には白魔法、黒魔法、その他色々な分野があるのだが…。禁術師はそのなの通り禁術を土台として成り立っている。この少女はおそらくこの禁術師の分野に含まれるのだろう。けっして行ってはならない魔術。この部類の中でもさらに沢山に枝分かれしているので彼女がどの部類の術師かは判らない。白の禁術師かもしれないし黒の禁術師かもしれない。だが禁術の酷いものでは悪魔と契ったり、魔界と契約を結んで大きな力をモノにしようとするものもある。いくら良い効果をもたらすものが禁術の中にあるとしてもそれは神によって禁じられた呪術。よって神の掟に背くもの、それが禁術師なのだ。
「これ、お茶入れたから飲んで」
『おおきに。そないに気ぃ使わんでもえぇんよ?もっとくつろいでくれて結構やのに』
 少女は金眼にくすんだ葡萄色の髪の毛。ややタレ眼をしていてリゲルのように小さ目の丸渕眼鏡をかけている。外見のみ見ればただのおっとりまじめ少女なのだが…。
「ん、大丈夫だよ。それにしてもよかったよ。眼覚めてくれて」
『わりと回復速かったな』
「ね。そうそう、この人ね。君の事すんごく心配してたんだよ〜」
 そう言ってエルクはヴツカの方を肘でツンツンと指した。彼は少し照れくさそうに眉をしかめそれを隠すように手で彼女の肘を払った。 
02/10/19 21:43 『修正』

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メケ太
(修正:1) 『ほんで、あんた等は何でこんなとこおんねん』
彼女は落ち着いた所で早速そう問い始めた。エルク達は少し惑う。その様子を見て彼女は少し笑った。
『ええんで。云いたくなかったら云わんでも。ここには何かしら理由があって居るもんばっかりや。でもな――』
――もう、こっちとしては隠し立ても出来んさかい。
そう云うと尚、その顔をにっとさせて笑った。だから――。だから痛み分けをしようと、そういう事だろう。
『あんた等には助けてもらったことやし、ええ奴等やという事は十二分に思ってん。しかしな。此方とてそれだけじゃ世の中渡れきれんねん』
『ぼ、僕達は云ったりません!』
リゲルは戸惑いながらもそう主張した。
――わかっとるよ。
少々困り顔になって魔女はそう返すが、まだ考えは変わらないらしい。
エルクはおずおずと口を開いた。
『僕等はノアを探す為に旅をしています』
話すことにした。全てを。事情は違っていても神の領域に踏み込んでしまっていることには共に変わりはない。始祖と出会い、国神と話し、尚この世界の真実までも知ろうとしている自分達はもう立派な――異端者なのだろう。きっと彼女はそれを知っての事で聞いているのだ。
『堪忍な』
そして一言そう云った。

時間はもう22時を回った。あれから約2時間あまりこれまであった事
を包み隠さず話した。真実も、自分の知っている範囲の事を。しかし、彼女は一瞬一瞬、考えるそぶりを見せたりしてなんとなくだが自分達よりも理解している部分が多いようにも見えた。
『ほな、あんた等はそのノアを止めるいうんかい』
『うん』
『そっか』
これで痛み分けは終った。ある一種の契約のようなものが今、彼女と自分等を結ぶ。裏切りはご法度だ。
『まぁ、あんま気にせんでもええよ。なんや、ここにはその類が溢れとるさかいにな。こういう事はよくあることや』
――ただ、それを避けて干渉しない者ばかりだけど。
彼女の言った“何らかの理由”が思い出される。この火の国とは意外に恐ろしい所なのかも知れないと思った。一見すればただの寂れた国であるがそこのは人の目を避けて隠れ住む異端者が居る。きっと数多く。
『でも、あたしもいっつもこんなん風に喋くっとる訳やないんやで。今までだって1回や2回ぐらいしかない。あの道具屋の娘ぐらいやなぁ』
『道具屋?』
『あら?見てへんの?』
覚えがある。あの眼鏡の少女だ。
『いや、見たけどよ。あいつもかよ』
リグはなんとなくエルクの顔をじっと見た。どこかの破天荒娘に良く似ていた事が印象強く残っている。
『フィリアいうてな、自分ではなんやまったく自覚しとらんけどなぁ、あれは聞けば聞くほど異端な奴やで。賢者の石を作りおんねん』
『ええぇッ!?』
賢者の石――それは物質を金に化したり万病を癒したりする力をもつと信じられた物質であり、それを作るというのは世界各国の錬金術師達の捜し求めていた力なのである。
02/10/20 00:35 『修正』

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メケ太
『あいつ結構な熱中型でな、なんや一度やりだすと止まらなくなるらしいんよ。んで、そんなあいつがまず興味をもったのが賢者の石で』
『ついに作っちゃったと』
『まぁ、そればかり作っとったからどうも他のは作り辛いなんてことぬかしとったけどなぁ』
魔女はそうケタケタと笑うが、エルク達はひたすら唖然とした。と、いうことは彼女にとって賢者の石を作るよりも火竜の鱗を練成するほうが
難しいということなのだろうか。
『だからあいつはここに連れ込んだのもそのお師匠サマやねん。そんなん作れるもんがいたら政府が黙っとらんからな。心配しとんねん。今はなんや薬草学なんてもんにハマっとるらしいから胸を撫で下ろしてんやろな。でも、あいつ天然だから何しでかすか予想つかんやろ。あたしも結構気にはしてんねん。だってあいつとこう云う事を話すきっかけになったのもあいつが菓子の詰め合わせを持ってきたからなんやで』
『はぁ?!』
『引越しのご挨拶ちゅうて』
またもやエルクに視線が集まる。なにかその情景がもの凄くリアルに頭に浮んでならない。
『なんでさっきから僕を見んのさッ!』
まったく自意識に欠けているところもまた似てる・・。
『でも、ええ子なんやわ』
――正直な子や。
そう魔女は優しく微笑んだ。あまりにも異端とは思えない顔で。いや、実際はこういうものなのだろう。犯罪者が全員一概に悪党と云えない様に人には人の事情というものがある。下手に客観し言葉による偏見に騙されて行くのは人間の悪い癖である。
『あたしだけじゃないで。村の連中もそうや。薄々気付いてんねん。でも、いわんでおいてくれてる』
恐れていると思ったが宿屋もそうだったのだろうか。見てない知らないとそう言い聞かせたのか。そう思うとエルク達は気持ちが和んで行くのが解った。いくら信者といえ、殺す事はないと見守ってくれているそんな心が温かい。
『あの、ところで名前は・・』
リゲルはこの機会を待っていたかのように尋ねた。それは皆、疑問に思っていた事だがあえて名乗らないのは彼女自身だ。なにか訳があるに違いはなかった。でも、今ならいいだろう。
『そうやね。そろそろ教えよか。あたしはクロウリー。クロウリー・アレイスターや。以後よろしゅう』
『え?!』
リゲルは声を漏らした。いや、実際はヴツカ以外の者は全員、目を見開く結果となった。
『なんだ?汝等知っておるのか?』
『いや、知ってるもなにも有名な人だよ』
――まさか、こんなところに居たなんて。
クロウリー・アレイスター。その正体はほとんどが不明であるが、最大の魔術師の1人に数えられ、魔術を扱う者なら誰でも1回は聞く名である。実際、その手のものを多く執筆しているがそれらは簡単に理解出来るものではない。しかし、多くの実績を積んで来た研究者や実践者等には、素晴らしい知識や洞察の宝庫であると評価されている。その当の本人が今、まさに苦笑いをしながらコップをエルク達に渡しているのだ。
02/10/20 00:32 『修正』

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管理人
「禁呪が何か、知ってる?」
 驚いていたエルク達に、突如としてそんな声が飛んできた。
 その声には聞き覚えがあり、なおかつこんな『突然』を平気でできる者は彼等は二人しか知らない。
『…アル?』
 訝しげな問いに答えるように、その場に微風が起きて人影を現す。
「久しぶりね、クロウリー」
 いつも通りの旅装束で、アルがフードを取って声をかけた。
「突然来ちまって悪かったな」
 ベルもアルと同じようにフードを取って、詫びを述べる。
 驚きに目を見張るエルク達をよそに、クロウリーは頭を深く下げて敬意を示す。
『お気にせんで下さいな』
『!?!? 知り合いなの!!??』
 アルとベルとクロウリーの3人を順番に見て、エルクは混乱しながら皆の心を代弁している。
 だが返ってきたのは、
「…まぁ、な」
 珍しく曖昧な返事。
 2人はそのまま空いた席に座る。あまりに自然な動作である。
 クロウリーは大して気にした様子もなく、お茶を注ぐ。だされた2人はそれに礼を述べた。
 唖然とその光景を見つめる4人に気がついて、クロウリーは少しばつが悪そうな顔をして説明をした。
『…この方達は、うちにいろんな知識をくれたんや』
 彼女はその『知識』が何かは、言わなかった。
 しばしの沈黙。
 破るのは、始祖の姫君。
「…禁呪、と言うのは、本当はありえないのよ」
 静かな口調に、思わずエルク達は息を呑んだ。
「そもそも神はそんなもの定めなかった。行なってはいけないことはたった2つ」
 指を2本突き出す。
「一つは、死んだ人間を生き返らせること。もしくはそれを行なおうとすること」
 そして指を1本折り込む。
「もう一つは、世界を壊す事。もしくは世界を著しく乱すこと」
 神が定めたのはそれだけで、世間一般で言う『禁呪』など教会が勝手に定めたこと――神の名を、騙って。
02/10/20 18:13 『修正』

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えせばんくる
(修正:2) ―――禁呪などいつ誰が定めたのだ。別に我等禁術師の中でも人々の為に役立つ術師もいるのに。全てが悪しき者だけではないのに。禁術師とは区分の名だけで魔術師の中でもっと呪術を深く学びたい者達が自らの知恵を深める為におこなっているだけなのに。自らの命を魔術の学問に捧げる事はいけない事なのか?どうして自らの進みたい道に進めない?自らの未来は自らで開いて行くものであろう?―――

『始祖の姫様、護人殿よぅこんな辺境の地まで来てくれはったな』
『アルでいいわ。それにしても元気そうでなによりね』
『そんなことあらしまへん。つい2、3時間前くらいまで寝とったんよ?』
 エルクは彼女が洞窟でデーモンに襲われていた事やそれからの出来事を簡潔に述べた。アルもベルもクロウリーに入れてもらったお茶を静かにいただきながらその話に耳をかたむけた。2人とももう既に知っている事なのだが。
 話を一通り終えるとエルクは3つ程席の離れたところに座っているアルの前まで足を進めた。皆不思議な顔でエルクを見つめた。護人はいつでも対応できるように姫の方を向いている。
『?』
 姫君は優しく微笑みながら彼女に無言で訊ねた。
――何?
 するとエルクは無言でアルの首に抱きついた。初め彼女は少し驚いたが少しするとエルクの柔らかい栗毛を優しく撫でた。何かを言いたくても言い出せない子供を優しく包む母親のように。
「アル…会いたかったよ」
『つい先日あったばかりでしょう?何故そんなに不安な顔をしているの?』
「…」
 エルクは無言でアルに抱きついていた。不安定な心を落ち着けたい。そんな気持ちが何故か今自分の足をアルへと向かせていた。
02/10/20 23:10 『修正』

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メケ太
全能とはこういうことなのだろうか。どうしても自分の劣等感に怯え、失敗に恐れ始めると、完全な“確か”が羨ましくなっていく。だから、神がいるのか。エルクは泣きたくて仕方がなかった。
『不安でしょう』
アルはそっと囁いた。なんと優しい声だろう。なんと優しい心だろう。辛い事も苦しい事も弱音を吐くのが嫌いな僕等、だから心の蟠りはいつも深くて果てしない。それを察するだけで全て受けとめ些細な矛盾も苛立ちも許す事が出来るのだ。なんと凄い事だろう。
『辛いでしょう。でも、頑張るの』
そして明日への兆しをくれる。
『うん』
エルクは下唇を噛んだまま、そう答えた。アルは解ってくれていたのだろうか。頑張れ、そのたった一言が今のエルクが欲しかった唯一の言葉だという事に。知っていたからくれたのだろうか。多くの言葉はいらない、ただ自分を受けとめて許して欲しかった。甘えでも、それが支えになる事なのだ。我侭な僕の為のヒーリング。
『アル、光は俺等に任せてくれ』
リグはそうふいに云った。アルは微笑したままリグを見据えた。
『もし、あいつが禁忌を犯そうとも』
それはこの世界の崩壊、神殺し。
『それは俺等が止めて見せる』
『ええ』
――貴方達の決心に触れはしないわ。
アルはそう悲しそうに呟いた。危険な道とは気付いている。アルはふとヴツカを見た。なにか訳ありの視線がヴツカを捕える。それには当のヴツカも即座に反応した。
『なんだ?』
『いえ、ただ』
――生きなさい。
『え?』
『これだけ伝えたかったの。死に急いではいけないわ』
アルの表情は尚、影を落とした。消えて行く人々が溢れるように思い出される。その瞳からは一筋の涙が零れ落ちた。
『アル・・』
何故消えて行く。何故そんなにも儚い命か。全ては自然のサイクルの中に生き、その身体は何時しか土の帰るから。創生神はそう云った。しかし、皆は土塊であろうか?そんなはずはない。誰もが美しい者達だったと、土に戻ったであろう今でもそう思う。時間の波にさらわれても未だに覚えている数多くの人が居る。この記憶は流せない。例えそれが辛くとも人の時間を狂わせる事は禁忌であるから、この手の中には戻せない。生き返らせる事は出来ないけれど、だからこそ生き急ぐことはしないで。そのままでいて欲しい。なによりも当然なことであるこの言葉、それでも何かのきっかけでそれは破られるから。過去に戻れるならば、ヨウ、イン、貴方達にも伝えたい。
『ヴツカ、真実など全て生きていく道のたった一つにしか過ぎないわ』
『真実だと?我に何か見つかると?』
『それはいえない』
人の時間は狂せない。辿りつくそこまでは貴方が歩いて行くものなのだから。ヴツカが更に問い掛ける前にしたたかな風が彼女等を消した。再びその場には普段通りの空気が流れる。
02/10/21 07:47 『修正』

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えせばんくる
 ――死ニ急イデハイケナイ――
 
「ありがとうクロウリー。僕等そろそろいかないと、また昨日みたいにアクシデントあった場合間に合わなくなるから」
『こっちこそありがとな?あんなんに襲われてたとこ助けてもらっといてお茶出すしかできひんかった。すまへんなぁ』
 リゲル達4人は席を立つと入って来た入り口の方へ行く。後からクロウリーもお見送りに来てくれている。
『そっちの“火炎林”抜けてくのが一番賢所までの近道なんよ』
 金眼の魔女は町の入り口とは反対に位置する真っ赤な森を指差した。
『あんま初心者の冒険者には勧めとーないルートなんやがな?デーモンぶったおしたあんた等ならなんとかなんやろ。でもフィリアからもらった“火竜の鱗”はなしちゃいかんよ?見たところ…』
 そう言うとクロウリーはリゲルの方へ向き直った。
『あんたがもってるのが一番よさそやな。リグは体力ありそうやし、ヴツカも同じくなんとかなんやろ。エルクは自分で水ぶっかけてでも対処のしようがありそうやしね』
『ぁ……ん、分かった』
『別に足手まといだからとかそういう意味で持たせとるんとちゃうよ?』
『え?』
 魔女はリゲルの心中を読み上げたかのように口を開いた。
『死に急ぐな。この言葉守ってや?大切なものを失うくらいなら自らの命投げ出していいて思う気持ち、分からんくもない。でも自分死んでもーたらその後どないすのん?死んで終わりやのーてちゃんと生きなさい。たとえ辛くても多少の事で命を粗末にしようとすなよ?』
 
02/10/21 15:07 『修正』

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メケ太
『そや、あんた等な、もし金の国に行く事になったらこいつに逢っとくとええわ』
そういうなりクロウリーは戸棚にあったメモ帳の紙を一枚破き、それを4つ折りにしてリゲルに渡した。
『これは?』
『あたしのちょっとした友人がそこに住んどるんだわ。癖のある奴やけどそない悪い奴やないで。そら保障したるわ』
『はぁ・・』
リゲルがその紙を開くとそこにはキトラー・アリスという名と住所が書いてあった。
『あいつなら絶対あんた等の力になる。っつーよりも・・あいつがあんた等を求めとんのかな』
『は?』
『訳ありなんよ』
クロウリーは思わず苦笑いした。

森はかなり深い。木が生茂り空を隠している。今の時刻はもう明日を廻って3時になってしまっている。それでも先ほど休憩が入ったのでちょっとは疲労が回復している・・ように思えた。
02/10/21 18:51 『修正』

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えせばんくる
「うぉーりゃっ!!っと」
 僕は手に持ったスピアロッドで相手の脳天からつま先まで真っ二つにかち割った。赤黒い液体とピンク色の物体が宙を舞い重力にしたがい落ちる。
「ぁーあ相変わらず何度見ても慣れないなァ…」
 グロテスクに飛び散った肉片を横目にエルクはロッドを振ってついた血を払う。
 出会った敵は数知れず。宵だというのに敵は遠慮なく湧き出でる。そんなに登場機会狙わなくてもと思っても相手はおかまいなし。でも雑魚ばかりなので登場機会を狙ったところで戦闘終了しか描いてもらえないかなしき雑魚の宿命は逃れられないようだ。
 空を見上げ月を確かめ様にも月の明かりすら届かないこの森。エルクはかなり広範囲にわたってライトの呪文をかけざるえないが、それが返って敵の襲撃を容易なものにさせているのだ。
『だがそろそろ賢所のある街入り口についてもよい頃だと思うのだが…』
 多少小走りぎみに森を進んで行く。速く着くに越した事はないのだから。月が確認できない今、頼れるのは自らの体内時計くらい。
『急ごう。次こそ捕まえないとね』
「もちろん!とっ捕まえなきゃだよ!!」
 エルクは自分の右拳を左の平でパシッと受け止めた。
02/10/21 23:05 『修正』

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メケ太
陰暦、26夜の月の出の刻。頃は夜半。空にはまるで闇に切れ込みをいれたような、そんな細長い月が浮んでいた。その位置はそろそろ南の天を仰ぐ所に差し掛かる。この夜に今あるのはその月光りだけである。しかし、この夜の色は深い青のような空気に満ちていた。夜明けが近い。明けの宵が辺りを一面の青に染める。まるで海のような月光浴はいつもなら赤茶けた土色さえもその色を染込ませ、それが続く荒野をまったく違う景色に変えていた。まだ空気は乾燥し、生ぬるい温度を含んでいるが、それでもその目の錯覚が涼しい水の温度を記憶により喚起されて、いささか気持ちが良い。何時もなら黒をイメージさせるノアもこの時ばかりは月光りを受け、景色通りの青に馴染んでいた。
――30分。
6時までのカウントダウンはもうそろそろ終わりを継げる。待ちわびたか、それとも――。ノアは微妙な気持ちで月を見据えてた。あれから、ずっとココに居た。日が落ちて、夜が来て、そして夜が明けようとしているこの時まで。ここからは街の全てが見渡せる。あそこが麓、そこが中腹部で、あれが森。なんていう名の森なのかは知らない。しかし、それなりの名はついているのだろう。あの人がいる。誰かにそそのかされてか、とんだ節約を決め込もうとあの森を通っている。さっきからどの程度の気が発せられただろうか。その気配は近付いてくる。これもまた微妙な気持ちだ。疎ましいのかそれとも――。いかにせよ、そんな答えを求めなくてもいいのだけれど・・。ノアは腰を上げた。ここから少し歩けば賢所である。広い頂上のど真ん中にポツンとその三殿は佇む。その調度真中。そのわずかな道を一歩一歩進んで行った。
―――ギイイイィィ。
鈍い音を立てて大きな扉を開く。月光がその隙間から漏れ出して、暗い通りを照らす。ノアの影が通りに伸びた。その通りを目で追うと目前には国神の姿―――。
『よぉ、久しいな光』
『光ちゃん・・』
それを守るように彼の人々は立ち並んでいた。ノアは無表情に口元を歪ませ――微笑んだ。
02/10/22 17:31 『修正』

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うさぎばやし

月光が眩しい。

月が、何故今夜はこんなにも明るいのか。
異様なまでに白く白く、輝いて、目に痛い。
(『顔が』)
見えない。
(『光ちゃんの顔が』)
逆光。
目が暗闇に慣れていたからだ、きっと。エルクはきゅっと口を結び、右の手で目を擦った。そしてすぐに視線を戻す。視線を外したら、またいなくなってしまいそうだ、と思う。在り来たりな言葉ではあるけれど、本当にそう感じた。

『光ちゃん』
反響――静寂。
しんと静まり返った空間に、エルクの声が木霊して…消える。震えそうになる声を何とか抑えて、エルクは彼の人を見つめた。
『ノア』
相変わらず返答はない。
会いたかったのだ。本当に、会って、話したかった。言いたいこともいっぱいあったのだ、本当に。それが全て吹っ飛んでしまった。
この静寂がたまらなく嫌だった。逃げ出したいほどの恐怖―――否、これは…緊張、それに身を震わせる。だがそれ以上の感情が、今のエルクにはあった。
(『かおが見えない』)
目を細める。あちらからは、自分たちの表情はきっちり見えているのだろうか。何となくそんなことを思う。
こんなことしてる場合じゃないと思うのだけど、…早くしないと、また何処かに行ってしまうかもしれないのだけど、光――ノアは一向に動く気配がない。まぁ彼のことだから、そんな兆しがなくてもすぐに行動できてしまうのだろうけど。とにかくそのせいだろうか、エルクはぼぅっとした表情でノアの方を見つめる。

相変わらず、かおは見えない。


『――――…エルク』
たまりかねたようにリグが小声で彼女を呼んだ。エルクは、は・として頭を振る。
『…ごめん。』
それは、誰に向けた謝罪であったのか。
02/10/22 21:06 『修正』

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えせばんくる
 どれだけ…どれだけ待ったんだろうこの刻を。実際刻はほんの少ししか動いてない。だけど今この刻までの一瞬一瞬がものすごく長く感じて。
 会いたかった。いままでは大声で叫んだって君の耳にこの叫びは届かなかった。それは空白をただ滲ませただけで虚しく心をかき乱すだけだった。でも今君はここにいる。同じ刻、同じ場所にいるんだ。
 でも僕は何を言いたかったんだろう。会ったら絶対とっ捕まえて―――ってずっと思ってた。でも僕はノアを捕まえて何を言いたかったの?
―――きっと。
 きっと僕は―――。
「淋しかった…」
『『?』』
 僕は沈黙を一つの呟きでやぶった。そう、僕―――。
「淋しかったんだよ?」
『――エルク?』
 リゲルが不思議な顔で僕を見てた。僕はリゲルの手をとって握った。今は少しでも一言一言言っていく勇気が欲しかったから…。
 僕はうつむき加減だった顔を上げ真正面を見据える。やはり顔は月明かりではっきりとしない。
「ねぇノア。あんな酷いことされたんだ。アルとベルに復讐したいのは判るよ…でもさ――」
 リゲルが横でがんばれと視線を送ってくれてる。ありがとう。
「でもね、死に急がないで。無理をしないで!」
『死に急いでなんかいない』
 この場で初めて彼は口を開いた。短い言葉。だけど懐かしい響き。
「復讐したって何になるっていうの?そんな事で君の失った時の悲しさが埋まるの?」
―――僕は、……僕は君の死なんて見たくないんだよ。
「僕できる限りのことは君にしてあげたい。ううん、するつもりでいる。でもね、世界を壊すことだけは許さないよ。絶対止めるから」
―――世界ガ壊レタラ未来スラ無クナッテシマウカラ―――
02/10/23 00:08 『修正』

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メケ太
『解ったか光、そう云う訳だ。それだけは許せねぇんだよ』
―――許さない?ああ、そうだ。
「許さなくて良い」
『え?』
ノアは笑いを含めてそう云い、そして歩み始めた。それに合わせてリグは姿勢をとる。エルクはその姿をただただ見据えた。
「エルク、君にも揺るぎ無いモノを教えてあげよう」
ノアはそう云うと片手を上に掲げた。するとノアの影がそれに従って宙に浮く。また、あの陰が冷たい凶器と化す。
「そう、例えば――」
『うわぁああッ!?』
エルクの背後から声が聞こえた。それはまさしくリゲルの声だった。エルクは、はとして向き直るとリゲルは床に広がる陰に捕らわれていた。足から腰の当たりまで巻き付くように締めつけられ、リゲルは声を上げて悶える。
『リゲルッ!!』
エルクは助け様と駆け出すが、足が全く動かない事に気付く。エルクもまた足のくるぶし辺りまでを捉えられているのだ。
『こ、このぉッ!』
どうにか動こうとするがそれはびくともしない。
―――ダァアアアンッ
壁が崩れる音がした。土煙を上げるそこにはリグが横たわる。ノアは手のひねる。すると陰は未だ立ち上がらないリグを捕え、宙に浮かせた。
『リグッ!!』
『はぁあああッ』
すると背後から今まで控えていたヴツカがノア自身に襲いかかろうと加速し、拳を振り上げた。
―――バシュウッ
しかし、リグを捕えていた陰が無残にもリグを地に落とし、ノアを護る壁となった。
『くっ』
ヴツカは身を引き、改めて姿勢を立て直す。
「エルク、どう思う?」
『あ、あ』
――駄目。
ヴツカは大きく飛躍し、咆哮を上げる。
――行っちゃ駄目、止めて。
『止めて――――ッ!!』

『・・な』
――どう思う?エルク。
『あ、ああ・・ッ』
そのヴツカの身体からは確かに黒い液が零れ落ちた。ボトボトと生々しい音がこの耳に嫌らしいほどに響く。
『あああああッ!!』
陰がヴツカの腹を貫いた。ヴツカは気を失うようにそのままノアにもたれ掛る。エルクはその場でしゃがみ込み頭を抱え――叫んだ。解き放たれても尚、力なく項垂れるリゲル。地に転がり動きを無くしたリグ。そして身を突かれ血を流しながら横たわるヴツカ。その全てがありえない光景。血と砂臭さが漂う。
「俺をどう思う?エルク」
ノアは返り血をその身に浴び、滴らせながらもエルクに歩み寄り、そう問うた。
――憎いだろ?
意地悪そうにそう云った。
「これが揺るぎ無いモノだよ。エルク」
02/10/23 17:24 『修正』

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えせばんくる
――――パシィィッ!!

 エルクは思いきりノアの顔面を張り倒していた。肩でおもいきり息を吸ったり吐いたりしながら。涙が止めど無く流れ落ちる。
「どうして!?なんでそんな事するの!?リグ達関係ないじゃないか!!揺るぎ無いもの!?何がさ!!光ちゃんはこんな事する子じゃな―――」

――――バシィィッ!!!!!

「!!?」
 エルクはおもいきり横にすっ飛んだ。ノアの素手によって頬をすっぱたかれた。
 震える手で叩かれたところを抑えながら視点をノアに合わせる。すると彼は鋭い眼光で冷たく言い放った。
『言っただろう?俺はもう光ではない。ベルによって命を奪われたノア自身なんだ』
「――――っ」
 もう視線を合わせてる事できない。エルクは視線を床に向けると下唇を噛み締めながら大粒の涙をぽろぽろとこぼしていた。ここまで変わってしまっていたなんて…。
『甘ったれてんじゃない、エルク。俺は生半可な決意で行動を起こしてるわけじゃないんだよ』
 ノアはうつむいてしまったエルクの顎をしゃくると自分の方に向かせる。その顔は涙でくしゃくしゃだったが怒りと不安と悲しみの色が銀の瞳を満たしていた。
「ノアっ。やめて…。これ以上は…もぅ。関係の無い人達まで苦しめないでよ。僕だけでいいよ」
 エルクはノアの腕をつかんで力無く揺さぶる。
「僕、君と一緒に行くよ。今の君は憎い。本当に憎いよ。でもね」
――――絶対に光ちゃんは君の中にいるから。今はまだ戻りそうになくてもいつか絶対…絶対に戻ってくると信じてるから。これだけは譲れないんだっっ!!!
「リゲル達は回復呪文かけてココに残していくよ。君についていく!」
02/10/23 19:24 『修正』

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管理人
 エルクが叫んだ途端、傷ついたヴツカ達が不可思議な淡い光に包まれた。
『!?』
 ノアは驚いてエルクを見たが、彼女も驚きの表情を呈していた。この現象を起こしているのは、彼女ではないのだ。
 では、一体誰が?
 そんな疑問をよそに、淡い光はそれぞれの傷口に染み込んでいき、やがて消えた。
 光が消えた後には傷一つ無くなったヴツカ達。
『…ちっ』
 軽い舌打ち。
 エルクが振り返ると、ノアは苦虫を噛んだような顔をしていた。
 だがそれをじっと見ている暇など与えないかと言うように、彼女の脳裏に声が響いた。
《行きなさい》
『アル!?』
 問う声に返る答えは無く。
 次の瞬間、ノアとエルクの2人は見渡しのいい、否よすぎるほどの空間――山頂にいた。
02/10/23 19:42 『修正』

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うさぎばやし

『―――…また…』
やられた、と言外にノアは呟く。エルクは呆然としていたが、しかしこの唐突な出来事にも、アルとベルに関わっているうちに慣れていた。
『…月…明るいはずだね。』
エルクは小さく笑った。涙は未だその瞳を濡らしている。
満月の次の月“十六夜”だ。殆ど完全な円形に近いその月の異称の一つに、“不知夜月”がある。一晩中月が出ているので「夜を知らない」の意かとも言われている。更に言うなら“いざよい”は躊躇うという意味もあるらしい。

『ノア、僕を軽視しないでね。』
相変わらず君は冷たい目をしてる。
僕は、君を憎いと思う。君はノアであって、光ちゃんではないと、君は言う。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないし。
『僕は君についてくって言った。』
光ちゃんは優しかった。エルクって呼んでくれた。
君は、その光ちゃんじゃない。
『アルは僕に行きなさいって言った。』

それなら何で、君は僕のコトを呼んでくれるの?
何で僕の名前を呼んでくれるの?
何で殺さないの?

(『君は光ちゃんじゃないんだ』)

手加減してくれてるの?
殺しても意味がないから殺さないの?
殺そうと思えば殺せるのに。
今ここで殺してしまったほうが絶対君に有利なのに。

(『ノア、きみはだれ?』)


『僕は君が憎いよ、本当に。皆を傷つける君は憎い。』
確かに僕は甘ったれだね。君は賢所を襲ったし、みんなを殺しかけたし、自分でもそう言ってるんだから、君はもう僕の知ってる君でないとそう考えたほうが良いんだろう。
本当に甘い人間。
『でも』
そんなのわかってるよ。
わかってる。嫌って言うほどわかってる。…少なくともそのつもり。
『僕は君を嫌いにはなれない。』
こういうのを“希望的観測”って言うんだっけ?前、光ちゃんが言ってたもん。“ぽじてぃぶ”っていうのも、これなのかなぁ。それはよくわからないけど…。

『だからついてくよ。自己犠牲は美しいとか言われるかもしれないけど。僕は君についていきたいの。』
02/10/23 20:38 『修正』