食後。
ジェドはこの時、それなりに不機嫌でした。
それと言うのも、彼の妹のジャムのせいだ――と彼は思っています。
よりにもよってエルクと一緒に行くなんて。
(『…ずるい』)
違うだろ、だなんてつっこんじゃぁいけません。彼は真剣です。
エルクが承諾した後、インは――やはり無表情で――「よかったわね」とジャムの頭をなでていました。ジャムはインの無表情など欠片も気にせず、随分となついていましまっている。
『…あんの能面女』
呟いてしまったのが運のつき。
「それって私の事かしら」
「ずぅいぶんと失礼な子供じゃのう」
『ひっ!?』
突然後に『他称・能面女』ことインと、『自称・陽気で永遠の少年』ヨウ。
『お前等、何時の間に…っ』
「気にしなくていいわ」
…無理です。
「祭が楽しみじゃぁ〜」
そこ、すぐにどこか行っちゃわないで下さいよ。
言っても、無駄な事ですが。
そんなわけで、途方に暮れるジェドを残して、二人は部屋に行ってしまいました。
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メケ太
―――の・・能面。ふっははは。
食後に皿洗いの手伝いをしていた光はひょんとその話しが聞こえ、思わず笑いが込み上げた。頭にあの福笑い的な顔が溢れ返る。本当は歌舞伎なのだけれど・・。
『光ちゃん。手伝ってもらって悪いわねェ』
「いや、構いませんよ」
――ジャムの面倒よりましだ。
子供は嫌いじゃあない。しかし、疲れすぎたのだ。光は意識を能面から放そうと意識した。
「それにあさってまで置いといてくれるのですから、これくらいしないと気が休まりませんよ」
『いーえ。ジャム一人見てもらうだけで大助かりだわ』
――確かに。
妙に納得してしまう。
『明後日はご馳走にしますからね』
「そういえばフィスティバルって何をするんですか?」
聖霊会の事は聞いている。しかし、フィスティバルとは・・。
『聖霊会の為に国王が街を通って神殿に行くのよ。その時のパレードとか・・』
「国王?国神じゃなくてですか?」
普通ならココでもう、光は異常だという事に気付くだろう。国に王がいることも知らない国民がいるものか。否、国民でなくっともこれは常識の範囲であろう。しかし光は“知らない”ではない“居ないと思っていた”のである。
『何処の国にも国王はいるわ』
しかし、それでも旅先の話――つまり、光の事情を心得ていたおばさんは飽く迄もやさしく答えてくれた。
「でも、城なんて・・」
―――あったか?
いや、ないだろう。街の中には・・
―――あッ!
『城は街の外にあるわ』
つまり街の中には三殿を置き、外に城を置いているのである。ということは風の国は森の中で、水の国は・・海の中?いや、海の上か?
「王はどこに居るのですか?」
『北の国の果てにいらっしゃるわよ』
「国の果て?」
『ココからじゃ遠過ぎて見えないけど、国は壁に囲まれてるのよ。その内の西と南と東は昔、ゲートに使われていたのだけれど今は印門が出来てめったに使われてないわ。北には壁と同一化したような城があるの。』
桶の中の水に絵を描く様にしてそう説明した。
「そんな遠いとこからわざわざ来るなんて大変ですね」
そうするとおばさんは一瞬きょとんとしてから笑った。
光の言った事が意外だったのだろうか・・。
『でも、王は不思議な力を持っているといわれてるわ』
「不思議な力・・?」
『さて、なんでしょうね』
今度は意地悪そうに笑い、そう言った。
02/09/25 17:47 『修正』
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えせばんくる
「ひゃぁ〜つかれた〜;」
ばふっとベッドに仰向けになると素直な感想を述べた。部屋にはひとり。光はというと母の手伝いで皿を洗っている。先に部屋に行ってるように言われたのだ。
「ん〜。この使い込み具合がなんか懐かしい感じする〜。」
ベッドでごろんとしながらそのしなり具合を感じる。スプリングの弱さ加減が使い込んだ感じがする。宿のものとはまた違った。
『悪かったな。あいにく新しいの買うほど小遣いないんで』
「じぇ…ジェド!?なんであんた僕の部屋あけてんの」
『元はと言や俺の部屋だよ。それに声聞こえたんでいんのかなぁって』
「はぁ…」
そう言うと部屋に入ってきてベッドのすぐ脇のイスに後ろ前に腰掛ける。
「…で、なんで和んでんの?」
『いいじゃねーか別に。ここに居ちゃ迷惑か?』
「んん。別に…」
そこでふたりはだまりこんでしまったが先に口を開いたのはジェドだった。
『なぁ。ほんとにジャムと行くのか?聖霊会。』
なんだそのことかとばかりにエルクは笑う。
「もちろんだよ。僕も行きたいし、ジャムちゃんだけ家で留守番なんてねぇ」
そんな些細なエルクの動作がジェドの心をイラつかせる。
―――なんでジャムなんだよ。そりゃジャムはひとりだけどよ…。
どうしようもない虚しさが心を濁らせる。
『エルクって好きな奴とかいんのか?』
「え?ん。いるよ。」
―――な、なにぃ!?
『だれだよそれ。』
「えー。別にジェドに言わなくたっていい事でしょ?」
―――そりゃそうだけど…。
「でも、そうだね☆光ちゃんとか。」
―――えぇ!?あいつ女だろ!!?やっぱエルクそういうケが…;
「リグも好きだしリゲルはもちろんイン・ヨウ・ヴツカにジャム・おばさん・おじさん、まぁあんたも好きだけど?」
その言葉を聞いてがっくりと頭を垂れる。
『エルクっていつもそうだな。ウチと初めて会ったときも平等に気にかけてくれて…』
「光ちゃん。もう終わったの?」
『ぁあ。それにしても疲れた。早く寝ない?それとももうちょっと話してる?』
そういうとちらりとジェドの方へ視線をやる。かっちり視線があうと彼はプィっとそっぽを向き
『俺もそろそろ行くわ。おやすみおふたりさん』
と二言のこし部屋を出ていってしまった。
―――あちゃ〜。じゃましたか?俺。
光は少しばつの悪そうな顔でその後姿を見送った。
02/09/25 23:09 『修正』
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メケ太
(修正:1) それは朝の和やかな時間の事・・。
『光くーーんッ起きてッ!!』
「だぁあッ!!?」
光はシングルベットから派手に転落した。そして――
「いってぇえッ!!」
派手に頭を打った。この声、このテンション。そして目の前に能面――ではなく、イン。この組み合わせといえば当然
『ジャムちゃんッ!?』
『エヘへ。エルクお姉さんおはよッ』
隣に寝ていたエルクはその突然の襲来に跳ねるように飛び起きた。
――――このジャムがッ!!!
低血圧という身につけ足して、この目覚めの悪さで頭を押さえながら今にも堪忍袋が切れる寸前。光は怒涛を一発かましてやろうかと顔を勢い良く上げた。が。
『おはよッ』
目の前には輝かしいほどの笑顔。そしてよしよしと頭を撫でる。
「・・・・ッ」
光は出鼻をすっかりと挫かれ落胆した。子供の力というのは本当に卑怯である。そう常々思うのだった。
頭が痛い。痛い。痛い。痛い。頭痛。頭痛か?光は一通り落ち着いて食卓に向かう途中、また頭の痛みに悩まされた。これはさっきの振動からじゃぁないのか?それにしても芯から痛む。・・後遺症になってんじゃねぇよな。そんな事まで考えるから気分まで暗い。
『よう。おはよ・・ッ!?』
「おはよう・・?」
『こ・・光ちゃんッ』
エルクは人差し指をめくじらに当てる。
「あ、悪い。その・・頭痛がな・・」
『あぁー、なるほどな』
リグは顔を引きつらせながらもなんとか納得した。光の今の顔といえば生きた亡霊、祟り神、石地蔵。つまり酷く険しい顔をしていたのだ。疲労からなのか気苦労なのか眼の下に隈まで出来ている。
『光ちゃんって一人っ子?』
その様子に気付いたのか――否、コレで気が付かない者はそうそう居ないと思うが――そう、問い掛けた。
「ああ、そうだよ」
『だよね。なんていうか馴れてないって感じだし・・』
「ウチは家族が居ないし」
エルクの話しをわって光は付け足す様に言う。
『え?』
「ウチは孤児だからな」
たんたんと言う。エルクはその言葉に一瞬にして酷く狼狽した。あからさまに動きが止まる。
「気にする事はない。よくある事だ」
そう笑った。その様子にも十分狼狽させる要素がある。
――なんで?
なんでそんなに平気なの?エルクはいうこともいえぬままその場にたたずんだ。光といえば視線をジェドに向けている。昨日のことを思い出している様だった。
『ねぇ、エルクお姉ちゃん』
『え?』
エルクの混沌とした感情をジャムがせき止めた。
「今日ね。明日の支度で街が色んな事やってるから見にいこ?」
そういつものように袖を引っ張った。
『う・・うん。そうだね』
それでもまだ切り替えが出来ない。光の背中が何故か遠く見えた。
02/09/26 00:47 『修正』
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えせばんくる
(修正:1) 少し曇った空の下聖霊会支度は行われる事となった。もちろん催しもこの曇り空の下。でもジャムはそんな事一向にお構い無し。インの手を引きどんどん軽やかな足取りで進んで行く。
朝からすでににぎやかで皆が待ちに待っていたというのがよくわかる。だがそんな楽しそうな声が行き交うなかふたりは一言も話せずにいた。……そう、“あの話”を聞いてしまってからエルクの心には動揺がうずまいていた。珍しく光とはしばらく一言も口を交わさずにいた。
なぜ光はあんなにも平然とそんな事が言えるのか。平気じゃないのだろう。でもああ言うしかなかったのかな。でもなんで顔色も変えずさらりと言えるの?どうして…どうして…
“どうして”という言葉を連呼してしまう。色々と考えることに一杯で周りを見ていられなくなっている。
「……」
『どうしたのエルクお姉ちゃん。さっきから黙り込んで。気持ち悪いの?』
「えっ…」
自分がずっと暗い顔をしていたことをようやく知らされる。考える事で手一杯だということに今の今まで気づかなかった。突然声をかけられ少し戸惑いの色を見せた彼女だったが
「うぅん。大丈夫だよ。姉さんどこも悪いわけじゃないから……。」
そう、どこも悪いわけじゃない―――。でもそれは半分嘘だった。今の自分の心は病んでいた。悩みという病魔によって。確かに少し気持ち悪い。だがそれは物質的なものからではなく心の問題なのだ。こればかりはどうしようもない。
『そこに茶屋が臨時でてるみたいだからそこで少し休んでくるといいわ。光もだいぶ困憊しているようだし。私とジャムは少し先にある店のあたりを見てくるわ。』
目をころんとさせながらエルクはインを見つめる。インの顔はあいかわらずの能面――いや、無表情。だが瞳の中には一切の曇りがなく透き通っていた。
―――素直に言葉に甘えていいんだよね。
「ありがとうイン。えっと、行進が始まるのっていつだっけ?」
『エルク…行進は明日よ。今日はまだ準備だと聞いたでしょう。』
「あ…ははっ。そう…だったね」
これは思ったよりも重症のようね。彼女は他人のことをなんでもかんでも気にする子だから…。
インはそんな彼女等を珍しく気遣いこの場をさりげなく去っていく事にした。
『2時間くらいしたらまた迎えにくるから…』
「うんわかった☆それじゃあ―――行こう。光ちゃん」
エルクは久しぶりに光に話し掛けた。
『ぁ、ああ。』
ふたりは気まずい雰囲気の中店に入る事になった。
02/09/26 19:18 『修正』
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メケ太
(修正:1) 飽く迄、臨時の茶屋だから中は到底広いと言えない。キャンプを張ったような作りをしているから当然、床もない。床どころか壁もない。屋根と椅子と机だけである。調度、何かの行事に係の人が控える為に作ったそれを思い浮かべてもらえば良いだろう。とにかく、そんなものだから人もあまりいない。二人は言葉なく空いていた席に座り、温かいお茶を頼んだ。来てからもその温かいお茶を手の中に持っているだけである。
「なぁ、エルク」
『えっ?!何?』
エルクは不意をつかれ戸惑った。
「ウチ、ちょっと今日気分悪くって・・それで口数も減ってるだけだからさ。あんま気にしなくてもいいからな?」
『う・・ん』
――――そんな事じゃないよ。
エルクは意気消沈した。さっきの事についてかと思ったからだ。もしそうであってもそれはそれで怖かったのだけれど・・。さっきからの沈黙もそれを守る為だ。何をどう考えているというよりも、悩んでいるのは
光のことよりもこれをどうしておけば良いかと言う事・・。もとより光自身の事を自分などにどうこう言える権利などないのだ。しかも、いまさらである。しかし―――気になってしまう。関係ないといっても流す事など出来るわけがない。少なくともエルク自身、知らない顔など出来るほど大人ではない。出来るから大人といえるのかは解らないが――。ともかく無理なのだ。解決の方法がなく、さりとて自分自身の事ではない傷に曖昧となる。そう言う時に光に話しかけてもらうのが怖い。なんて言えば良い。どう見れば良い。光の事を・・。自分でさえ手に負えないというのに。だからこのまま静寂を守る。そして時間が解決してくれるのを待つのだ。そうすればいつか
――解決できるの?
忘れられる。こんな気持ちもなくなる。
――そんな事
『嫌だよ』
「?」
――何も出来ないから忘れるなんて。
「エルク?」
エルクの目からはポロポロと知らない間に涙が流れた。辛い。耐えられない。こんな気持ちにもこんな自分にも。
「エルクッ大丈夫か?気分でも悪くなったのか?」
光が心配そうな顔で覗く。光はどうやって乗り越えてきたのだろうか?
一番辛いはずなのだ。“忘れた”のだろうか?“解決”したのだろうか?それであの顔なのだろうか?
――忘れられたの?
こんな気持ち。深い傷。
『ご・・ごめ、ごめんね』
「え?」
――ごめんね。助けてあげられなくって。
まるで無力で、こんな事しか口に出来ない。泣いても泣いても涙しか出ない。
『ご、ごめんね。・・ごめんね』
嗚咽まじりにいうエルクの言葉に光はさらに混乱した。呼び掛けてもエルクはそう言い続ける。否、それしか言わない。なにが彼女をこうさせたのだろうか。まるで自分が傷付けた様で切なくなる。
「解ったよ。もう何も・・」
――いわないでくれ。
辛くなるから。解り合えていると思っているのに。強い絆を信じて傷付く事を知っていてもそれを切る事の出来ない自分自身を、そう知らしめないでくれ。
02/09/27 01:04 『修正』
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管理人
《なぁ、死ねないっつーのは、どんな気分?》
昔、そんな事を言われた。
《…別に。他の生き物とは違う事を思い知るだけよ》
確か、そんな事を答えた。
古い記憶だ。
でも、よく覚えている。
何も忘れていない、自分が不思議だった。
きっとこれからも、自分は何も忘れない。
……否、忘れられないのだろう。
そのように、創られたのだから……。
02/09/27 10:51 『修正』
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メケ太
光は一人茶屋を出た。エルクとではない。エルクはすっかり泣き止んだが、それからも気を落したままだった。
――距離を取った方が良い。
そう思ったのだ。エルクが自分の為にああなっているのは少なくとも明確なのだ。――少なくとも。それ以外、何も解らないが。だから何処となく歩いた。エルクにはイン達を探してくるといったが元々居る場所なんて解らないのだから、何処となく歩いているのと変わりはなかった。
中央広場にある噴水。曇り空には寒寒しい水が音を立てて流れている。
『どうしたの?』
「!?」
振り向くまでもない、噴水の水に映ってそれがインだと言う事が解る。
それでも眼中に入っていなかったのか、光は大袈裟に方をびくつかせて驚いた。
『何を驚いてるの?』
「そ・・そりゃぁ後ろからいきなり話し掛けられたら・・」
いきなりではない。確認は出来たはずだ――唯。唯、意識が集中できていないだけで・・。エルクのことで今は頭がいっぱいだったから。
『そう』
それでもインは納得したようだった。いや、してくれたのかも知れない。
『それでエルクは?』
「いや・・」
『置いてきたの?彼女を』
「ああ、インを探してこようと・・」
『逃げたのね』
―――何?
「何?」
思った事が口を付いた。何故そうなる。
「何故そうなる。ウチは唯エルクを落ち着かせようと思って距離を置いただけだ」
『逃げたのじゃない。言葉を変えただけ何も変わらないわ。あなたがそんなだから彼女が哀しむはめになるのよ』
インは冷たい目で光を見据える。何が言いたい。
「何が言いたいッウチがエルクを哀しませてるっていうのか?」
『今ので聞き間違えが出来たの?』
沈黙。何も言える事がなくなった。もっともなのだ。否、光でさえその哀しみの根源などわかるわけがなかったのだが、そこに光自身がからんでいるのは確かなのだ。確かだが・・解らない。交錯した糸口が見つからない。
『あなたの言葉はいつも中途半端なのよ』
「?」
『たった1つの感情をぶつけて終わりなんてありはしないわ』
――たった1つの感情?
『何故エルクが好きなの?何故ジェドを良い人だと思うの?何故?』
「そんな事・・ッ」
――そんな事。
なんだ?好きだから好き。いや・・なんだ?
『そんな事・・?』
インは口元だけでふと笑った。口元だけが上に唯、吊り上がる。
『エルクはあなたが孤児だった事を気にしているのよ』
そう、ほくそえんだ。
――そんな事。
光は一人茶屋へと走り出した。
02/09/27 14:44 『修正』
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えせばんくる
気持ちは落ち着いた。でもまだ重たい氷が心の奥底を冷やしてゆく。
―――不安。
ただそんな言葉が僕の中で揺らめきその正体を明かさない。いや。その外見だけはぼんやりと知っているのだ。光ちゃんの過去を聞いてからこんな気持ちになってる。光ちゃんには正直悪いと思った。自分のこんな姿を見せたら光ちゃん自身、もっと辛くなる。
でも自分に見えるそのモノは外見のみで“真実―本体―”を知らない。しかも見えるとは言っても唯薄っすらと。ぼんやりとしか見えない。
手が届きそうだけどはたして自分からその手をのばしてもいいものなのだろうか。触れられたくないものは誰にだってある。それだけでも一生跡の残る傷になりうるのだ。手が届きそう…でもその手はためらっている。よって空気しか掴めない。
ひとりクルクルと色々な思考をめぐらす。でも結局はまたひとつのふりだしに戻る。糸を手繰れど手繰れど同じ場所へと繋がっている。そんな時、ふと…あの懐かしい歌を思い出した。
歌詞のないメロディー
少し。また少し。口ずさんでみる。
「―――。」
歌詞のないメロディー。でも胸の奥にはしっかりと刻み込まれている。どこで聞いたのだろう。よくは思い出せない。ホント。過去の事をあまり思い出せない。でも今は自分のことなどどうでもいい。
唯口ずさむ。何の為。そんな事知ったこっちゃない。唯、ただ口ずさみたいだけ。今はそんなの理由なんてない。
「―――。」
ぼーっと。そしてゆっくりと歌を繰り返しているうちにひとつの足音と鞘の音。だんだんとこのテントへと近づいてくる。
その顔を確認するまでもなかった。僕はなんとなく、その足音の人物が誰なのか、判っていたから。
「――光ちゃん」
02/09/27 18:25 『修正』
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メケ太
(修正:2) 正直であれば良いと思った。好きな事も嫌いな事も。実際、いつか手から離れて行くモノであれば尚更、躊躇する必要はないと思っていた。だから母も自分を置いて行ったのだ。
――そんな事。
『――光ちゃん』
「エルクッ」
はぁはぁはぁ。息が荒い。頭痛。こんな時に。
『光ちゃん、ぼくは』
「好きだ!!」
エルクは言葉を断たれた。いや、自分で断ったに等しい。何でそうなるのかが良く解らない。それでも光は肩で息をしながら続けた。
「エルクの事が好きだ!優しいとことか、平等なとことか・・え〜とあとは・・」
『え・・なっ――』
「つまり“そんな事”なんだよ。ウチの過去なんてのはッ!」
エルクはぽつんとしたまま光を見つめた。なにがつまりなのだろうか?
「エルクのように忘れてしまっても何も変わらないんだよ。何もなくって、何も――」
――好きなものすらなかった。
「ウチはエルクが居れば良いんだ・・」
掴むモノも、掴もうとするモノも、唯空気のように手に余る。砂のように零れ落ちて行く。そんな日々がどんなに空虚な事だろうか。暗闇で目覚めた気分を思い出すのだ。
「戸惑いながらでも良い、嫌なら嫌といってくれ、だから――」
――もう俺を。
「ウチの事で哀しむなんて事しないでくれ。“そんな事”よりもエルクが大切なんだ」
自分の考慮ない気持ちが君を傷付けた。母と同じ――自分を傷付けたように。君を傷付けていた。こんなはずではなかった・・。胸が痛む。どんなに気持ちが伝わっているか不安になる。街のノイズがそれさえかき乱すような気がして・・
『バカモノッ』
カー―ン。
いきなり後方から飛んできた缶ジュースの缶が光の頭にメガヒット。光はその場に崩れ落ちた。後方には――つまり缶を投げた犯人はヨウだった。そしてその横にはインとジャムも居た。
『そういうのは二人っきりの時にやれとゆーとろーがッ』
『本当・・脈絡もなければ順序もない。品がなければひねりもないわ』
さっきからの一部始終を聞いていたのか、クソミソである。まぁエルクも意味がわからなかったのは確かであるが。
「・・・ッ」
光は声も出ない様子で涙ぐみながらインを見上げた。
『私のいっている事がまだ解っていないようね。あなたがやっていることは唯、一方的な気持ちを更に増やしていってるだけじゃない』
悔しいのか恥かしいのか、それとも痛さが優先しているのか光の顔は真っ赤になる。インはもうやってられないわときびすを返した。
―――そんな。
『ア・・ハハハハ』
――エルク?
『解った。伝わったよ。光ちゃんの気持ち』
「え?」
エルクはしょうもないという顔をして光にかけより手を貸した。
『しょうがないなぁ。光ちゃんは』
置きあがる反動で身を寄せる。
『しょうがないなぁ』
『・・ったく。あいつらは結局あれかい』
『良いじゃない。“あれしかない”のよ』
――人間だもの。
3人はすっかり蚊帳の外だ。
二人といえば言葉に出来ない思いを暫し噛締めていた。
02/09/28 01:52 『修正』
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えせばんくる
ようやく糸口が見つかった。手繰り寄せるとそれは結局光ちゃんへとつながってる。距離を少し離して悩んでみたって結局は同じところへ戻ってくるのかな。
―――大好きだよ。
正体―真実―はぼんやりと見えるくらいにしか判らなかった。でも精神―心―は通じたから。だからいいんだ。別にもう。
これ以上悩んだってしかたない。そのせいで彼女を苦しめる結果になってはもともこもないから。
―――笑顔でいよう。
それが今一番僕がしなきゃいけない事のような気がして。苦しくたって、辛くたって、今は笑っていよう。それだけで光ちゃんの苦しみを取り除けるなら。
『エルクってほんと不思議な奴だな』
「えー?それってどう言う意味で言ってんの?」
『ん?さ〜な』
「あぁっ!そうやってはぐらかしてぇ。」
『ところで…』
「わぁっ!?」
突然わいて出たインとヨウ+ジャム。ジャムはいつのまにか頭にどことなく和風な花の髪どめをつけてる。インに買ってもらったのだろうか。
『そろそろ戻らない?あなた達がここでたらたらした事してる間に向こうの方の店、全てまわってきたわ』
いっ…いつの間に!?
『ウチらまだだから先戻ってていいよ。ジャムの事ちゃんと送れよ?』
『エルク置いてくような奴にんな事忠告される筋合いないわっ』
「ヨウ!もういいんだってんな事。」
『とっ、とりあえずウチらはもう少し見てくから』
そう言うともうコレ以上インヨウの口を開かせないよう足早にテントの外へと向かった。
02/09/28 18:51 『修正』
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メケ太
(修正:2) その笑顔が愛しくて、いつの間にか依存する。胸の鼓動が伝わるぐらい抱き合うたびに何が起こっても君だけはと思う。あの時からの俺はなんだか大人だったみたい――。
『ねぇ何処行くの?』
「さぁ、決めてないな」
勘定を済ましてから、繋いでいたエルクの手を引っ張って何処となく歩いた。走ってもよかった。
『なにそれ』
クスクスとエルクが笑う。このままずっと二人で歩いていたい。二人でいたい。光もつられて笑った。例え――
『そこのお二人さん。神の祝福があらんことを――』
例えもとの世界で何かがあってこの隙間が埋まっても満足なんてしないだろう。そうふと考える。
『エヘへ。ありがとうッ』
エルクは街に溢れる吟遊詩人の一人に手を振った。自分達の為に歌われる歌はなんだか恥かしい。それでもその清々しいメロディーは風に流れて何処までも行く。世界の何処まで届くのだろう。
『ゴメンね。なんか自分一人で泣いちゃったりして』
「ウチこそ」
飽く迄も笑顔――もう悔やむ必要なんてない。
「答えがいつもそこにあるモノなら笑う事さえ意味がなくなる」
『え?』
光はほらと雲に隠れてしまった空を指す。
「曇りの日に青空が恋しくなるのはそう願っても適わないからだろ?それと同じ、エルクとの距離も淋しい時間も手に入れないから感じるものだと思う」
――あっていいんだ。辛い事も悲しい事も。その度に君を大切だと思い出すから。その空をもう汚しはしない。あの雲のように閉ざしはしない。
「さっきのような事だっていつかは過ぎて行くものだ。過ぎ去れば・・きっと“そんな事”に変わる」
目前のエルクがそんな事よりもっと大事なモノになるから。
『そんな事?』
そしていつか全ての哀しみが君と共に“そんな事”にできたら良い。
「そ、悲観してる暇なんてなくなんだよ。エルクに夢中になっちゃって」
光にとって最後はギャグのつもり。自分でもちょっとクサイと思いながらも言ってみたのだが・・。エルクは当然、予想出来る反応はしてくれない。まばゆい笑顔で文学者みたいと笑った。そうなったら光は赤面するしかない。まるで外したお笑い芸人のような恥かしさを感じた。
『夕日、また見にいこっか。きっと見れるよ』
「え?・・まぁいいか」
明日の為の露店を見歩くという目的だったが、今はそれすらも怠ってしまってる。ならばもう何処へいっても同じだろう。路上を歩きながら帰りには夕日を見て帰れるよう、そう歩を進めた。
02/09/29 06:51 『修正』
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管理人
エルク達とは離れた場所、やはりそこも祭りと言う事で賑わっていた。
店を覗く人々に紛れて、何か『違った』雰囲気の二人連れがいた。
萌葱色の一般的なローブを目深に被った、男女と思しき2人組。
明らかに他と違うのに、誰もその2人に振り向く事はない。
「…さすが、だな」
男の方が、ぽつりとそう漏らした。低い、自信に満ちた声音だ。
「当たり前よ。『あの人』が教えてくれた“おまじない”よ。聖職者以外には有効だわ」
女の美しい艶のある声に、男は「確かにな」と納得したようであった。
2人はそのまま通りを歩いていく。
その“誰も気付かない”二人に、声をかけるものがいた。
その風体からして、まさに『聖職者』であった。
『旅のお方ですね』
にこにこと人のいい笑顔でそう言った。しかし2人は何も答えない。
『神のご加護を…』
その聖職者に対し、男がフン、と鼻で笑った。聖職者は眉を顰めて不快を示す。
『…?』
「神、ねぇ」
「きっと今頃、どこかで寝てるわ」
それだけ言い残して、2人は歩いて行ってしまった。
02/09/29 18:54 『修正』
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メケ太
ジェムははしゃいでいた。それもそうだ。行けないと思っていたフィスティバルに行ける事になったのだから、その歓喜はそうそう抑えらるモノじゃない。インに買ってもらった髪飾りを未だに身につけ――勿論それをおばさんやおじさんに自慢する事も忘れずに、さっそうと明日の予定をいうのだった。
『ジャムね。最初に芸を見に行きたいの』
『神殿に向かってからよ』
そんな会話が食後の食卓でされていた。ジャムはいささか面倒臭そうに頬を膨らます。
『で、俺等はどうするよ』
『明日は僕等も向かわなきゃ駄目なんじゃない?』
今日はリグもリゲルも、そしてヴツカも各々休みをとって自由行動をとっていたのだが、案の定、街には出なかったらしい。茶を片手にジャムも入れて明日の事について話し合う事になった。なにせ世界、総まとめの行事なのだ。それなりに参加せねばなるまい。
『向かうって何処にだ?』
素朴な質問がヴツカからされた。光を抜かし一同はああそうかと頷く。
『国王が来る昼の間に一度神殿に向かって秤をしなくっちゃいけねぇんだよ』
「――はかり?」
『この1年の罪を免除してもらうじゃ。その為に銭を秤に乗せ――これは喜捨というのだがな、それで聖祭に罪を告白する』
『罪は犯したことでも自分の願いでもいいわ。神に託すのよ』
なにか十六世紀ヨーロッパのルネサンス時代のようだと光は顎を摩る。
『あとはそこに署名して終り。これやんないと後が酷いんだ。たちまち異端扱いだぜ』
そういうとリゲルはぐいっとお茶をがぶ飲みした。
――異端?
なんとなく解らないでもない。世界中で信じている神を否定すれば全国の信者を敵に回す事がある。それは何処の世界でも同じらしい。実際、光の世界にも異端諮問というものがあったのだ。異端と決められれば――つまり魔女になるのである。
『リグ・・』
リゲルが大層ばつが悪そうにリグを見上げる。当の本人は踏ん反り知ったこっちゃぁないと言う感じであるが、他の一同の顔をみればその――魔女の運命が伺われる。たぶん、死なのであろう。ジャムが陽気な声で沈黙を破るが会話は途切れてしまっている。
『んじゃぁ俺はそれが終った後はずっとココに居っから。お前等はどうすんだよ?』
『えーッ!リグ兄ィはいかないのぉ?』
『いかねぇ』
悲しそうに言うジャムにも容赦ない。飽く迄もきっぱりと断言するのだった。
02/09/29 21:33 『修正』
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えせばんくる
今日の朝はいつもとやはりどこか違った。皆朝早くから起きだし身支度を整えているのが目に付く。僕もまた皆と同じように身なりを整える。
『何をつけているんだ?』
「あぁコレのこと?」
光ちゃんももう支度は済んだみたい。僕はそういうと胸元に止めた赤い花を指差す。
「参拝に行く人は(皆行くけど)皆この花を身体のどこかに付けるのが決まりなんだよ」
『その花を通じて神に言葉が通じるとかなんとかいう話もあるしな』
「あ。ジェドおはよう」
向こうからも陽気な返事が返って来る。いつにもなくニコニコとした雰囲気。
「なんかいい事でもあんの?(もしくはあったのかなぁ?)」
『ん。いや別に…』
そう。ならいいや別に。僕はふぅんと聞き流すと光ちゃんに赤い花を渡す。
実はこのときジェドの機嫌が良かったのにはひとつの理由があった。エルク(達)と一緒に行動できるからである。はじめは友人と行くと言っていたが昨日になっていきなり告られその彼女と行くと言い出した友人のおかげなのだが。
『光君おはよー☆』
きゃ〜♪という黄色い声とともに光ちゃんに飛びつく小さな影。ジャムしかいないだろう。
(『またか』)
光ちゃんの困った顔を見てたヨウが前みたいに疲れさせても困ると珍しく気づかい、コアラのようになったジャムを光ちゃんから引き剥がそうとする。
『いや。なんでヨウ邪魔すんの!?』
(『ワシだけ呼び捨てかい』)
『イデデデデ…』
ジャムは光ちゃんの首に絡み付きその腕を緩めようとしない。このままでは光ちゃんの絞首刑…。
『ジャム!光ちゃんになにやってるの!』
そろそろ止めないとやばいなぁと思ってるその時横からおばさんの声。
『きゃ〜怒んないでぇ〜!』
パタパタと走り去る彼女を横目で見ながらおばさんはふぅとため息。
『ごめんなさいね光ちゃん。いつも迷惑かけちゃって』
『コホッ…いえ別に大丈夫ですよ』
――ほんとは全然んな事ないんだけどね…。
一歩家を出るとまるで別の国に迷い込んだかのような景色だった。いつもとまったく違う。街の形がかろうじてココがティアだということを物語っていた。
『やっぱり聖霊会の力ってすごいね』
『ぁ、そうだな』
『リグ…大丈夫?なんか変なものでも食べた?』
『お前なぁ。昨日からずっと一緒にいて変なもの俺が食べたか?』
『ぇ…いや。ん〜と、食べてない。と、思うけど…』
『じゃあそう言う事だ』
なんだか見てて今日のリグは少し機嫌が悪そう。いつも結構短気なところあるけど今日はさらに短気さ増量中って感じ。
『リグ。汝何をそうイラついておる。』
そう皆が思っている事を尋ねたのはヴツカ。だけどそんな事にいちいち返事をくれてやる彼でもなく黙ったままリゲルの横を歩いていた。
02/09/30 16:26 『修正』
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メケ太
(修正:2) 『何を罪とし、何を報えるか訴えを』
賛歌の歌が流れ、神殿では門前で秤をしている行列があった。
『世界の平和を』
頭を下げてエルクはいう。
『汝は?』
光も同じく傾かないよう秤にコインを乗せる。
――えっと・・。
「大切な人を守れる力を」
エルクは光を見た。
『七つの秤、六つの光があなたの罪を救い、その傷を和らげるでしょう。・・祈りなさい』
光とエルクはちらっと目が合うと幽かに――笑った。
『ねぇねぇッ!あそこあそこッ』
なんとか全員の秤を終えてさっそくジャムはインの腕を引っ張り動きだした。
『じゃぁー・・僕等はどうしましょ?』
「昼にはパレードが始まるんだろう?じゃぁ、それまで・・」
――ジャムに付いてくか。
そう光は言おうと思ったが、視線を泳がせるとそこにはジェド。
――こいつ・・。
光は口を紡ぐ。一昨日の夜の事、そして今思えば自分が軽率にも聞いたあの台詞。――ジェドはエルクが好きなのだ。きっと自分がいう好きという部類ではなく・・愛情のほうで。ならば・・
「俺は一人で回る」
ここは人肌脱ぐべきだろう。ジェドの為、そしてたぶんエルクの為、義理高き、いち日本人として。
『え?なんでよッ皆で回ろうよう!』
「エルクッ!これは真剣な話しなんだッ」
光は勢いよくエルクの肩を掴んだ。
「いいか?今ジャムに付いて行ったら確実にはぐれる。なんせあのジャムだ。インとヨウは大丈夫としてあのペースでここ等をグルグル回られてみろ。ジャムは小さいから小回りがきくがウチ等はまずどっかでつっかえてしまうだろうとウチはみたッ!!これはヴェルマーニの法則というんだ」
――なんじゃそりゃ。当然嘘である。しかし光は心のなかで自分をつっこみつつも続けた。
「そこでだッ!この場合、男と女でペアで居ると迷わないという説がある。これは応用物理学で証明されているんだよ。つまり!!ジェドッお前だ―――ッ」
お次はジェド。ジェドは軽くヒィッと叫びをあげるが光はジェドの肩をまたも同じように掴んだ。
「お前だッお前がエルクとペアになれ!!」
『・・え?俺?』
「そうだよッお前だよ!お前しかいねぇよ!!インディアンは嘘つかねぇよッ」
『い・・インディアン?』
日本の伝統的ギャグが通じないのは少々痛い。
『で・・でも、光ちゃんは誰と組むの?』
妥当な質問である。
「ウ・・ウチはヴツカと組むよ」
――あいつ・・男なのか?
ふと疑問が浮ぶが今は考えている暇はない。
「じゃあなッ!お前、エルクに何かあったら承知しねぇからなッ!おーいッヴツカ―ヴツカ――ッ」
それでも少しジェドとエルクのことを心配しながらヴツカを探すふりをして、極々自然によくある当たり前の風景をそこに作りつつ光はその場を去った。なんとも上手い芝居だろうか。これで騙されない者は誰も居まい――素晴らしい。
02/09/30 19:18 『修正』
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えせばんくる
ひゅーっとなんとも言えない複雑極まりない風が僕等の間を通り抜けて行った。は…離れ離れになる恐れがあるから少人数で行動するのは納得いくけどなんでその相手がジェドなの…?しかも“う゛ぇるまーにの法則”ってなんのことぉ!?光ちゃーん!?
で、これからどうするのだろうか。僕等は神殿の傍の路地に取り残されていた。
『とりあえず街の方の店でも見に行くか』
「ぇ。うん、いいよ」
どこって行く当ても無かったし、店でも行こうかなぁって丁度思ってたところだし。
そう返事をした瞬間突然ジェドが僕の手を取り走り出した。
『早く行こう!お薦めの店知ってんだ。売りきれる前に!』
そんなの口実。そのときジェドはそう思っていました。もちろんお薦めの店も知ってる。でもこの時のそれはエルクの手を自然に取る為のただのきっかけにすぎなかった。
「な…なんで走んのー?」
『だから人気なんだってば!早くいくぞ!!』
そう言うと僕等はなだらかな下り坂を風を切りながら駆け下りていった。
「うっわぁ…こりゃ分かれて正解だったかもねぇ…団体じゃまず無理だ」
人ごみがすごい。ほとんど密着状態の移動だ。人口密度高すぎて死にそー…。
『こっちだよ。手ぇかして』
僕が手を延ばすと、彼はそれを握りしめグィッとそちらの方へ引っ張りよせる。でもつっかかっちゃって通れない。
『どうしたんだよ。早く』
「待ってよ。通れないんだから仕方ないでしょ?」
突如横の人が動き僕は急にすっぽりと抜ける。でもその反動のおかげで僕はジェドの胸にダイブしてしまう事となった。そして密度の高いこの場所。完全に抱き合ってる状態。
光ちゃんのときはお互い女同士っていうのがあるから別に照れるけど恥ずかしくは無い。でも今回は別物だ。相手はお年頃の男性。がっしりした胸が僕の胸と重なる。僕は自分の胸の鼓動が一段と高くなるのがわかる。
「もうちょっと離れてよぅ」
ほんとこんな機会めったにないから免疫なんてもんあったもんじゃない。
『んなこと言ったって無理に決まってんだろ…』
そりゃそうだけどっ…。
そんな時彼がグイッと僕の肩を更に引き寄せ耳元に顔を近づけた。
「なっ…」
『エルク。今日の祭り終わって家に帰ったら丘の手摺のとこで待っててくんねぇか?ひとつ話したい事あるから』
「え?別にいいけど…。でもあんまぴったり引っ付かないで。はずいじゃん…」
『あっごめん…。』
そう言うとジェドは僕の肩を離した。
02/09/30 23:15 『修正』
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メケ太
光はいささか込み合う人込みを抜け、小道に入った。ここなら人もあまりこない。
――はぁ。
人込みは好かない。今頃二人はどうなっているのだろうか・・。やはりなんだかんだいって心配で胸につかえる。
――頭痛。
何考えてんだ俺は。手で空を仰ぐように目を伏せて路上に座りこんだ。今日も恒例の頭痛。元々低血圧であるし馴れてはいるのだが、こう毎日毎日続くと気までやつれていく。そうふと横目で小道の奥を見る。
―――?
ローブ?・・に紛れて赤い髪が見えた。小道を曲がっていく。ひらりと・・あれは――。
「――あいつらッ」
鼓動が高くなる。あの髪。あの赤い髪。光は素早く立ち上がると走り、その小道を抜けた。
「アルッ!!」
――いない。
『ふぉふぉっふぉ。なんだね騒がしい』
しかしそこには一人の老人が座っていた。
「あの・・いまここに」
『誰も来ておらんがのぅ』
――ふぉっふぉっふぉ。
そう老人は髭を摩りながら愉快そうに笑った。
『地霊にでも騙されたか』
「――ち・・りょう?」
『そうじゃ。色々な形に化けては人を惑わす』
――心の隙をつくのじゃて。
そう持っていた杖で光の胸をついた。
「ウチに隙などないよ」
杖をはたく。
『ふぉっふぉっふぉ。誰にでもあるわい』
――戦争の傷。愛した者を失った傷。
追い求めれば隙になる。
『しかしお主は良いのう』
「何がだ?」
『忘却に放り投げた者に傷などありゃぁせんからのう』
「?!」
――おお、妬ましい。妬ましい。恨めしいのう。
「貴様は一体」
『おっと後ろに・・』
「?」
そう老人は杖で指すが後ろには誰が居るわけでもない。
「何を・・」
――いない。
「忘却・・?」
あの老人。アル。ベルの言っていた言葉。
アナタハタダオモイダセバイイ
自分が―――解らない。
立ちすくむ光を頭上から見つめる影はふと笑った。
02/10/01 00:33 『修正』
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えせばんくる
街の人ごみ。五月蝿いほどのにぎやかさ。
――うざい。
俺はさっきから、掻き分けても掻き分けても通るに通れない道と悪戦苦闘していた。
『おいリゲル!ついてきてんのか!?』
『ちゃんといるよ!』
リグに付いて行くのはかなりハードなものだった。なぜ?理由なんか明白だ。自分勝手にどんどん一人進んでいく。そしてこの人・人・人…。
『リグぅ。もうちょっと速度落としてくんない?速くて後引っ付いてまわるのがやっとだよ。』
するとリグは片手を頭にあててはぁっとため息ひとつ。本当にため息つきたいのはこっちの方だよ…。
『なんでそんなにもキリキリしてるの?いつものリグとちょっと違うよ?』
『うるせぇな。んな事お前に関係ねーだろが。』
などといっていつもの如く無視。
『いつもそういってばかり。今日はちゃんと話してよね。』
リゲルはさらに食いついてくる。今日は特にこの行動がうっとうしく感じる。リゲルもエルクも、どうしてこんなに他人ごとに首を突っ込みたがるんだ。
『ねぇ聞いてる!?』
声が大きくなる。人のざわめきがボクの声を阻む。リグは前方を向きながらまた足を速める。
『話ならもうちょい落ちついた場所でしろ』
『リグっ。』
イライラする。リゲルのいつも以上に高くなった声がさらに勘に障る。自然と歩幅がどんどんと開いて行く。
『リグっ。待ってよリグ!!』
リゲルの叫びなど今のリグには聞こえない。ただリグはこの場から一刻も速く出る事だけを考えていた。
そうこうしているうちにどんどん2人の距離は離れて行く。今の心の距離もこんなものなのだろうか。がんばって追いかけて、手を延ばしても拒否され振りほどかれる。
『リグっ!!』
最後に小さなリゲルが人波を掻き分け必死に追いつづけたリグは豆粒ほどの後姿だった。
02/10/01 23:34 『修正』
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メケ太
『ハーッハッハッハッハッ!!』
昼になりパレードが始まった。大通りの人込みはすっぱり別れてその中を行進するぬいぐるみや綺麗に布を纏う美女。そしてその中央に笑い声というか雄たけびというべきか、奇声を発する男。
―――何者。
アレがたぶんこの国の国王である。近くにはアレとはうって変っておとなしい美女が座っている。王女であろう。あれも魔法というやつなのか
アラジンのように魔法の絨毯に乗り、フアフアと浮いている。普通でないのはそれだけではない。耳が長いのだ。調度――リグのように。ヴツカはパレードを見る観客に混じり、揉まれる事も気にせずに、淡々と目を見張っていた。
フィスティバルは夕方頃に終る。一同は各自バラバラに家に戻った。最後に帰ったのは、ヴツカだった。
『お前、遅かったな』
誰もが意外そうにそういった。どうやらあの込合うだらだらとしたパレードを最後の最後まで見ていたらしい。
『それって素晴らしい根気だぞ・・』
『うむ。中々であった』
ヴツカはヴツカなりに満足したらしい。なんだかんだいってこの世の中を誰よりも楽しんでいるのはヴツカではないだろうか・・?ジャムといえばインとの想い出をおじさん、おばさんに万円の笑みで話していた。
―――痛ェ。
光の頭痛はあれから一層増した。顔も随分やつれ、早く帰った光の顔を見ておばさんは酷く心配した。大丈夫だと云いきるが光自身、きっぱりといえた状況でない。しかし聖霊会は誰もが出なくてはいけない。そうそうダウンしている暇ではないのだ。だから光は聖霊会が始まるまで2階の部屋で寝ることにした。動いているよりは良いと、おばさんが気を使ってくれたのだ。
「う・・」
―――月。
そして今、目が覚めた。昼頃に帰ってきたというのにもう外は暗くなり始め、窓からは調度薄っすらと月が浮いていた。一体、今何時なのだろうか?光はゆっくりと上体を起こした。
――っつ。
まだ頭が痛む。そういえばエルクとジェドはどうしただろうか・・?もう下にいるのかもしれない。そう、光は思いながら開いた窓枠に手をついた。
「あ・・」
―――エルク?
丘の手摺りにぽつんと一人エルクが立っていた。
02/10/02 00:51 『修正』
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えせばんくる
人って不思議だ。他人事は判るのに自分の事になると思考回路に不具合が生じるものだ。
「ジェ…ジェド?」
それもこれも今僕の背中に手をまわしている彼――ジェドの一言が引き金だった。
――手の届かないところへ行くな!俺の傍に居てくれ…っ。
いきなりの出来事に加えこの台詞。何が何なのか…。
そんな風に眉をしかめ黙っている僕にとうとうしびれを切らしたのか彼はいきなり…ほんとうにいきなり唇をかぶせようとしてきた。
「ぃやだっ。離してよジェド…っ。」
僕は声を荒げる。ジェドはこんなことするような奴じゃない。なにが彼をここまでさせてるのか。
僕は首を横にひねってそれをかわすが彼の腕は緩まない。それどころかはずれる気配さえない。
「ジェ…ジェド!?本当にジェドなの?ジェドはこんな強引なことしないよ。君らしくないじゃないかっ。」
『エルクっ。もう旅に出るな。離れていかないでくれ…』
「そんな事言われたって僕等は旅に出る理由がそれぞれあるんだから。これは命の次くらいに大切なものだから曲げるわけにはいかないよ」
『じゃあお前の理由とやらはなんだよ』
「えっ…。」
そういえばなんだろう。よくよく考えてみればあるのだろうか。がんばって熱でヒートアップしそうな思考回路をフル活動させてみる。
「じっ自分の居場所を見つける為だよ」
それくらいしか思いつかない。この状況が悪い。こんな状態で頭がはたらく者がいるならぜひ会ってみたい。
『それなら俺のところにいろよ。絶対にお前を悲しませたりしないっ』
自分の一言で墓穴を掘ってしまった。この先どうしよう。言葉がつまって出てこない。
「返事って今じゃなきゃいけないの?今晩中に考えておくから。明日の朝またココで…ってダメ?」
必死に訴えかける。だんだん息があがってきて苦しくなってくる。
その願いが通じたのか彼の腕が緩んだ。僕はスルリと、正確にはフラフラと彼の腕から出ることができた。彼の顔を正面から確認できたが渋い顔をしていた。
『じゃぁ…明日の朝日が昇る頃。またココで。』
「うん。判った。ありがとう」
『いや…俺も衝動的になってごめん』
気まずい雰囲気。何を話していいのかまったく思い浮かばなかった。
「僕聖霊会の支度してくるっ」
そう言うと家の中へと駆け込んだ。それくらいしか今あの場から離れる理由が見つからない。
―――はぁっはぁっはぁっ…。
【バタンッ】
とにかく部屋に駆け込むと即座にドアを叩きつけるように閉めた。光ちゃんが目をまるくしてベッドの上からこっちを見つめているが全然気にならなかった。
乱れた気持ちの整理がつかない。唯息が上がるだけ。安心感からじんわりと涙が目頭に滲み出てくるのがなんとなくわかった。
02/10/03 00:10 『修正』
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メケ太
(修正:1) 月明かりの照らす暗がりで、エルクはドアに寄り掛かったまま座り込み膝を抱えた。深い恐怖心がエルク自身を不安にさせる。そして目前に光がいることが――何故だか嫌だった。膝に頭を埋めて震えた。あの感触が今でも背中にのこっている。静寂の中、ひたひたという足音が光が近付いてくるのを知らせた。
―――嫌。
ごめん。今だけはほっといて。怖い。そう思った瞬間、柔らかい毛布がエルクを包んだ。思わずエルクは顔を上げると光は薄っすらと笑っていた。そして、大丈夫か?と頭を優しく撫でた。
「泣きたい時は泣いた方が良い」
エルクは激しく慟哭した。光は何も聞かず、そんなエルクを許してずっと頭を肩を抱いていた。
聖霊会は皆が賛美歌を一斉に歌い、賢所についたところから始まった。当然、人で溢れ返り、中に入れない者も居たがエルク達は中で聖人の言葉を静かに聞いていた。スタンドグラスに写る月。未だ色は白い。しかし時がたつにつれ、その異変に気付く。薄っすらと色が濃くなってきているのだ。国神の隣にはあの国王の二人が並んで座っていた。光は教会にあるような横伸びの椅子に座りながら一人、鼓動が高くなっていくのを感じていた。少々の頭痛もあり決して熱くはないこの場所で油汗が流れた。あの月を見ると、どうも変な気分に駆られてしょうがなくなる。意識が飛ぶ。最初に居た暗い部屋。ガラにもなく元に居た世界の事を思い出す。それから・・・。それからは。
―――なんだ?
何かが頭を過る。過去がまだあるような気がした。自然に考え込んでしまう。そうしている間に月はいよいよ赤くなる。何があった?質問はすでに現実のものとして核心に迫ろうとしていた。頭痛と心臓の音がシンクロしてこの空間に鳴り響いているような錯覚すら覚える。聖人の言葉が聞こえた。
『この地は余りにも深く、天には大きな印が現れた』
――私は覚えている。それは神に作られた子。
『一人の女が身に太陽をまとい、月を足の下にし』
――そして護神を従えた。
『“誠実”および“真実”と呼ばれて、正義をもって裁き、また戦われる』
――そして闇は生まれた。そして私は・・
「・・・ッ!?」
胸が痛い。唐突な激痛で胸を抑えた。
――血?
「うわぁああッ!?」
手にはドロドロとした感触があった。光は思わず叫び、立ち上がる。エルクや他の大勢の視線がいっきに集まる。それでも誰も助けようとしない。こんなに血が流れているというのに。光は椅子の列から抜けて通りに出ると痛みに耐えきれず跪く。顔を前に向けると慌てる聖人とその背後には国神と赤い月。
「く・・ぁあ」
――カミサマ。ソウセイシュ。
光の中で何かが砕け散った。エルクの声が聞こえる。エルクが見える。
いや違う、君は・・聖女だ。
「エルク・・」
全てを思い出した。
「私はこの世の闇だ」
02/10/03 19:43 『修正』
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えせばんくる
賢所は暫しの間混乱とざわめきとが交差していた。突然胸から血を流し苦しみ喘ぐ少年――もとい少女なのだが――を目の前にして誰も、何もしてやる者はいなかった。
彼女が出ていってもまだ暫くの間賢所は静まる事はなかった。
『皆さん静粛に。まだ神への祈りの途中です。大丈夫、彼はきっと神が救ってくださるでしょう。さぁ私達は彼の分まで祈りましょう。』
だがこの聖人の一言で場は元の厳かな雰囲気へと戻った。
『光ちゃん…。どうしたのかな。』
光とはかなり離れた位置に座っていたリゲルは状況がわからない。唯叫び声からその人物が光だという事しか。
『さぁ…な。』
一言で片付けてしまったリグだったが内心色々な不安が過っていた。
『そう言えば…エルクがいないな』
リグ達とは離れた席。エルク等の斜め右後に座っていたヴツカとイン・ヨウ。
『のぅヨウ?…?』
首を傾げながら横の人物に問い掛ける。だが居るはずのインとヨウの小さな姿が見つからない。唯席が2名ほど主を失ったままの状態をポツリと保っていた。
02/10/03 21:48 『修正』
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メケ太
(修正:2) ずっと昔の話だ。
なのに何故、俺は未だここに居る?
神の唄が俺を呼ぶ。
『光ちゃんッど・・どうしたの!?』
光は賢所の階段の途中で立っていた。その周りには中に入れなかった人が野次馬のように人垣を作る。エルクはそれを掻き分け光の腕やっとの事でを掴んだ。
『光ちゃん!!』
「思い出したよ・・」
『え?』
ふと此方を向く。どこか悲しげな顔だった。その途端だ――。
影が広がった。赤い月が光の影を作る。その影は広がって賢所をすっぽりと覆ったのだ。光はエルクの手を握りながらゆっくりと放すと、歩いて中に入り始めた。
『あ・・あなたは』
「退け」
光は国神に向かって進む。多くのざわめきが再度起こった。
「もう一度いう。退くんだ」
『汝、神の救いを』
「神などいない」
光は手を振り上げると、聖人の首が――飛んだ。
『光ちゃんッ』
多くの人が一斉に外へと逃げ出す。エルクは前に進もうとするが外に出ようとする人並みに掻き戻され叶わない。しかし、その前でインとヨウが光に対峙する様が見えた。
『うぬ・・やはり覚醒であったか』
『今に生きてどうするつもり?』
「この世を元に戻す」
その瞬間、インとヨウはそろって身構える。
『うぬの好きなようにはさせぬわッ』
――無駄だ人形。
光の声が響いたかと思うと、ヨウの足が何者かによって掴まれた。インも共に束縛される。それは地から出てくる闇の形態だった。光は無表情のまま国神に振り返ると、次はそれを壊した。大きな音が鳴り響きその中には小さな宝珠が見える。
『光ちゃんッ!何してんの!?』
エルクはやっと人の群れから抜け出た。
『テメェ、光!!お前どういうつもりだッ』
そしてここにはもうリグとリゲル、ヴツカなど馴染みのメンバーしか残っていなかった。光はその宝珠を取り上げる。
「国王もこの月じゃ力が出ないだろうな」
王と王女はその場で動けないまま固まっていた。
『貴様ッ!その宝珠を』
「ああ、こんなものはいらない」
ヨウがそう言いかけたときだ。光は素手でその宝珠をこなごなに潰してしまった。そしてその瞬間――。
―――ピシッ。
賢所の天井が音を立てて、今にも崩れ始めようとしていた。
「エルク・・」
『光ちゃん何でこんな事したの!!僕、本当に』
「エルク、一緒に来てくれ」
『え?』
光はそういうとエルクに手を差し伸べた。
「全てを思い出すんだ」
02/10/04 00:12 『修正』
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管理人
(修正:1) 「残念賞、神唄の子供」
外に出ようとした光達の前に、人々のざわめきと共に突如として美しい女が現れた。
鮮血のような髪と瞳の女――アル。いつもの旅人じみた服ではなく、ゆったりとした薄布を幾重にも重ねた神々しい服装だ。
「神はいる。ただ、ここにはいないだけ」
ゆっくりと言い聞かせる様に言いながら、胸元から何かの珠を取り出す。
水色の、透明で美しい――宝珠。
『なっ!?』
さっき壊したはずの宝珠はどこにもなく。
アルの手元には輝かんばかりの美しい水の宝珠。
「宝珠がそう簡単に壊れるわけないだろ」
いくら神唄の子供であったとしても。
アルの隣に現れたのは、いかにも昔の『騎士』の格好をした青い髪と瞳の青年――ベル。
2人の様はまるで、『姫君と騎士』。
「国神は常に宝珠とともにある」
唄うような呟きと共に宝珠は輝きを増し、そこから不可思議な青年が姿を現す。
髪も瞳も、雰囲気さえも水色の、麗しい青年だ。
息を呑んでそれを見つめる光達を尻目に、青年はうやうやしくアルに頭を垂れる。
《お久しぶりにございます、始祖の姫君》
青年が言った言葉は、エルクやリグ、リゲルにさえ聞き覚えのあるものではなかった。
皆が皆静まりかえり、そこは奇妙な空間となっていた。
だがアルはそれが普通だと言わんばかりに国神である青年に応える。
「ええ。本当に久しぶりね、ティア」
《何千年ぶりでしょうか。護人様も、お元気なご様子でなによりです》
「そうだな。あんたも全然変わってねぇしな」
安心した。
3人の不可思議な会話は、まるで長年の知己でもあるかのようでっあた。
光はぎり、と歯軋りをする。
その様子を見たベルが、にやりと笑った。
「お前は、少しお勉強が足りないみたいだな」
言うと同時に、光は勢いよく祭壇まで吹っ飛んだ。有り得ない力によって、祭壇の一部に穴が開いた。中が、空洞になっていたのだ。
2人の力の差は歴然。ベルは何でもない事のように力を加減して、放つ。傷は最小限。その余裕なところが、光には悔しくてたまらなかった。
『光ちゃん!?』
あわててエルクが走るが、それは無駄な事だった。目の前に、インとヨウが立ちふさがったからだ。
『!?』
「今こそ真実を明かす時!」
美しい声も高らかに、アルが宣言した。
「始祖たる私の存在を抹消せんとした、教会の不正を暴く時!
人々よ、お聞きなさい!
本当の過去を!
真実を!
その胸に刻みなさい!!」
02/10/04 15:53 『修正』
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管理人
かみさまはそれがさいしょのひととして
けっしてしなないからだをあたえていました
02/10/04 16:02 『修正』
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メケ太
(修正:1) ―――間違っている。
大きな音がしたかと思うと、光の上に覆い被さるガレキがいっきに弾けとぶ。黒い幕のような影が光の周りを囲む。
―――はぁはぁはぁ。
口端から流れる一筋の血を拭った。アルはそれを見ると幽かな笑みを見せる。目が合う。あの赤い瞳が光をしっかりと映し出している。あの時のように・・。
それからかみさまはほかのうごくいきものを
たくさんつくりました
それは遠い昔の頃。人より先に生まれた種族達・・それは動物だけではない、今では幻のように生きている――龍や亜種。彼らは高い知能を持ち、共存し、時には争いを起こしながらも生きてきた。――人間など生まれる前は。神があのような土塊を創らなければ・・。愚かな人間は龍を殺した。亜種は人間との共存を選んだが、龍はそれでも争いを戦いを余儀なくされた。そして―――敗れた。龍は奈落に落とされた。人を選んだ者の手によって。人を欲したあの者によって。
我等を生んだのは貴方であろう。神の啓示を伝え、その力を分けた使いではなかったのかッ!それをあの土塊の為に・・。あのような小娘の為にッ・・!!我等を殺したというのかッ
光は影を高く飛躍させる。ベルが動くこともなくそれを弾く。すると目前にはすでに光自身が突っ込んできていた。剣を大きく振りかぶる。しかし――
「貴様にもらった傷、未だ覚えているぞ護人ッ!!」
『そりゃどーも』
お互い、剣の刃をギチギチといわせながら対峙した。
「笑止ッ!!」
光はそのままの状態で再び影を出す。ベルとの距離はあまりにも近い。
さっきのインとヨウのように影に捕らわれてしまうかと思ったが、ベルは光と未だ対峙していながら剣を片手に持ち替え片手で光りを発した。
影は左右に飛び散る。
『ジェドッ!!』
エルクの叫ぶ声が聞こえた。飛び散った影は偶然的にジェドに向かって走っていたのだ。
――何故こんな所に。
リグやヴツカが走り出すが間に合わない。
『いやぁーーーーッ』
エルクの声と共に影が壁に衝突する大きな音が鳴り響いた。
『!?』
しかし、その場にいたのはジェドをガードして影を張る光だった。
『・・光ちゃん』
「・・・」
光は肩で息をしながら、ばつの悪そうに顔を伏せた。そして――最後に次は必ず殺してやると言って消えた。その場は一瞬にして静寂に包まれた。
02/10/04 23:56 『修正』
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管理人
「ごめんなさいね」
静寂を破ったのは、『始祖』と言い、呼ばれた、アルまさにその人。
ゆっくりと歩いて、エルクとジェドの元まで行った。
ジェドの無事を確認して、優しく微笑む。それはまるで『母親』を思わせるものだった。
『……アル』
「なに?」
俯いているエルクは、今にも泣きそうな声でアルを呼んだ。彼女はゆっくりと返事をしてエルクを覗きこむ。その表情は、やはりどこまでも優しい。
『光ちゃんは、なに…? どうしちゃったの?』
それはエルクだけの疑問ではなかった。リゲルやリグやヴツカ、そしてその場に居る者全員が、不思議でたまらないことだろう。また、アルとベルが何者かも疑問であった。
「…ごめんなさい、それはまだ話せない」
『なんでっ!!?』
「私はこの世界の事は全て知っている。けれどこの問題は、光が自分から話すべきこと」
「あのガキはな、いつまでも“勘違い”をしてるんだ」
それだけ言うと、ベルはアルの手を取る。
「ティア、すまないが後を頼む。アルの体に限界がきてる」
《はい、仰せのままに》
やはりうやうやしく頭を垂れる【国神】に、ベルは感謝の礼をのべて、アルを抱えて消え去った。
02/10/04 18:57 『修正』
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メケ太
(修正:1) 何も見えない
何も聞こえない
唯 したしたと水滴の落ちる音がする
水をうがつが如くこの額をつたう
夜毎 夜毎この額を濡らす
どれくらいの陽が落ちて
どれくらいの夜が死んだか
私は唯 檻に囲まれ
己の臓物を抱える
胸から出る泥を堰きとめる
夜毎夜毎夜毎・・・
それは昔の話。私はいつまでも縛られていた。己の血の強さを恨み、死に急ぐように衰えた。神には逆らえない。生むのが神であるなら、殺すのも神なのであろうか?私はその神の手によって今、すでに果てようとしていた。しかし私は忘れまい。その貴方の傲慢さよ。私から光りを奪うなら、私がこの世の闇となろうぞ。
闇のよう、黒き少年はとある塔の最上階の一室にいた。明かりのない暗い部屋だが、壁一面の窓ガラスからはまだ赤さを留めたままの、まるで切り傷のような三日月が見える。月の光は今は乏しい。その部屋の主は部屋の中心でただ、うずくまる。クッションのような床。ペイントされた壁。様々な所に転がる複数のマットや人形。まるで子供部屋の如きこの空間。主は口の開く。
『あ・・たしと』
舌足らずな、耳障りな声。
「ああ、解っている」
少年はその主である少女の頭を撫でる。
――――ア・ソ・ン・デ。
「そうだね。何をして遊ぼうか?ドウトウ」
赤い月が満たされて行く。
02/10/05 00:34 『修正』
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えせばんくる
「こぅ…ちゃん。光ちゃん。光ちゃん!!もぅなにがなんなの!?僕は何も出来ないの!?見てるだけなんてもう出来ないのに何も助けてあげられないの!?そんなのもうやだよ――――!!!」
瓦礫の転がる床に拳を打ちつける姿はなんとも悲壮だった。打ち付けるたびに手袋が裂け次第に皮膚を傷つけ鮮血が流れる。そんな事も気にせずエルクはずっと叩きつづけていた。だが暫くするとそれがやむ。
「っつぅ…!!」
手を押さえながらうずくまる。痛いのではない。どうすることもできない自分が恨めしい。
『エルク。』
「な…にぃ?ティア。」
僕は座りこみながら顔を上げる。月をバックにしながら彼が立っている。
「ねぇティア。僕きっと今この状態じゃ光ちゃんの元に駆けつけられてもきっと返り討ちだと思う。今だけでいい。力を分けてくれませんか…?」
言い終わるとエルクは頭を床につかんばかりに曲げ土下座する。
『エルク、頭を上げなさい。確かに今のあなたでは神唄の子には到底かなわないでしょう。』
―――やっぱり…。
『今が言うべき時なのでしょうか始祖の姫君よ…。』
彼は天を仰ぐ。言い終わると彼は前以上に真剣な面持ちでエルクに向き直る。
『エルク、あなたには今は亡き古竜使いの血が流れています。あなたの角は今はまだ魔力が少ない水色の状態ですが、あなたの潜在能力を私の力で一時的にですが引き出せば今以上の力量が得られるでしょう。ですがそれは同時に命を危険にさらすと言う事。その覚悟がありますか?』
「それでもいい。たとえこの身滅び様と光ちゃんの笑顔がまた見たいから。僕は行きます!!」
どんなことがあろうと僕は彼女を助け、元に戻してみせる。
『では行きますよ…。』
僕は立ちあがり、コクリとうなずく。ティアは僕の顎に触れるとその唇を僕に重ね魔力を流し込んだ……。
02/10/06 01:30 『修正』
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えせばんくる
ティアの魔力が僕の中の何かをこじあける感じがする。
「あぁあああっ!」
ティアが僕を放すと同時に僕自身も彼から飛びのくように離れる。身体が熱い、熱い、熱いっ。
胸がぎちぎちと言うのが本当に聞こえるようで。僕は自分の身体を抱きしめながら必死に痛みに耐える。でもそれはどんどん広がるばかりで和らぐどころじゃない。
「うぁあーーーーっ!」
びくんと身体が仰け反る。次の瞬間真っ白な光に包まれた。なんだか角の召喚呪文と似た光景だけどこっちの方が断然輝きが強かった。
【シュゥゥウゥ…】
―――はぁっはぁっはぁっ…。
光も弱くなり皆ゆっくりと瞳を開く。輝きの中央にいたのはやはりエルク。だが今までと雰囲気がまったく違っていた。
瞳は両目とも銀で角は金色の光を放っていた。翼もひとまわりくらい大きくなったようだ。瞳の方はどうやら潜在魔力を無理やりこじ開けたため両目の色が銀に変わったようだががそれはじきに元に戻るとの事だった。
『いいですか。あまり無理はしないで下さいよ。あなたは今臨界点すれすれにいるのですから。』
「わ…かったよ、ティア。ありがとう」