光ちゃんがまた新しい事に心の鍵を解き放ってくれた事がなにより嬉しかった。光ちゃんにしてみれば全ての事がきっと新しくて全然わかんない事だらけでその中でもがんばってきてるんだ。
 そんな中、心の扉のうちのひとつを開けられるというのは正直言ってすごいと思った。
 
 エルクは光に回っている手に少し力をこめた。顔は雨上がりの空のように透き通って晴々としている。
「光ちゃん。これからも大変な事お互い一杯一杯あると思うけどそのときはお互いに助け合って頑張り抜こうね。光ちゃんの帰るべき場所を見つける為にも――」
 最後の一言をエルクは最後まで言い通す事が出来なかった。光が帰るべき場所…すなわち“別れの時”を意味するのである。
「――だからその時まで全力でお互いがんばろ?よろしくね、光ちゃん」
 少しばかりの空白でつないだ言葉を言いきるとエルクはその柔らかい唇をそっと光の形の良い頬にあてた。もちろん挨拶というつもり。はたから見ていれば別に男女同士のキスに見えるだろうが。
『…………。あぁ。そうだな。がんばろうな』
 暫しの間光は突然の出来事に言葉を失ってしまった。まさかエルクの方からそんな事してくるなんて思ってもみなかったから…。

『おうおう宵だからと言ってうぬ等お熱くなってるようじゃなぁ〜。そういうのは部屋で2人きりの時にしてもらいたいのぅ。』
 突然聞き覚えのある冷やかし言葉。ん?と思い眉をしかめ光の肩口からヒョコっと見てみるとニヤニヤとしながら突っ立っている坊主が一人。その傍には小柄な少女も一緒だ。
『まったく、ヨウもそうやって他人事に首突っ込むの、好きね』
 ワンピース姿の少女はさりげなくヨウと呼ぶ少年につっこみをいれる。
「もーヨウったら。いつからそこにいんのよ!?」
 突如の事に彼女は頬を桃色に染める。“照れている”どう見てもそうだった。 
 光の瞳にはそんな彼女がなんだか可愛らしく映った。少しからかってみたくなった彼女はエルクを少し引き寄せると今度は彼女の頬にキスをした。エルクの顔は耳の先まで染まっており、目は真ん丸な状態だ。
『ここまで仲良いの見てたら少しうらやましかっただろう?』
 ヨウの方に振り返る。彼は少し呆れた顔で口を開く。
『ほんと、お熱いの。一線超えないようにせいぜいきぃーつけーよ?(気を付けろよ)』
 これが彼に言えた最高の皮肉だった。
 

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メケ太
(修正:1) そのままエルクと光はヨウ等と【子猫の料理亭】に向かおうとするが、
ヨウの言うには、まだ一人として集まってはいなかったいらしい。考えてもみればさっきまでの出来事があり、まったく休憩と言える休憩をとっていなかった事に気付く。時間が有り余っている様に思えた。なのでエルクの提案で4人で【子猫の料理亭】に向かう道すがら店によることになった。最初、ヨウは渋々としていたのだが、自分だって服をかったくせにとエルクからの鋭い指摘を受けて珍しく何も言えないようだった。【子猫の料理亭】は宿から少し離れた所にあり、これも大通りぞいにあるらしい。目の前に大きな神殿の見える大通りは夜になると店の明かりが付き、賑わいを見せる。
「これがいいんじゃないか?」
『こっちの方が良くはないかのう』
「いや、しかし・・」
4人もその賑わいにのってか、エルクの服選びに入った店では光とヨウのエルクの服についての口論が絶えなかった。あれの方がかわいい、こっちのほうがエルクらしい・・。様々な理由を付けて自分の意見を押し通そうとするが、一番大変なのは着せ替え人形状態にされているエルクである。ついにはインが二人の優柔不断さ・・もしくはセンスの悪さかもしれないが・・・に強を費やしたかツカツカと前に出るや否や、一発で決めてしまった・・。その後は光の武器を買いにいったが、今度はエルク対ヨウで口論が始まったのだった。最初は剣がいいか、棒がいいか、それとも槍がいいか・・。これは光の意見で即、剣に決まったのだが今度はどんな剣がいいか・・これが軽い、これが使い易い、これには殺傷力がある・・。ついには二人が使うわけではあるまいにもっといいのはないかと伝説の剣という物まで出てきてしまった。これもゆくゆくはインが決める事になったのは言うまでもない。柄は黒く、鞘は鮮血のように赤い。形はシャープで・・いうなれば日本刀に近いだろう。なにやらパラコーティングというものがされているらしく、拭かなくても血は残らないという代物である。光は半信半疑であるがこの世界のことである。そんなこともありえてしまうのだろう。
『さて、そろそろ行くかの』
すっかりくたびれた感じにヨウが首を回す。返ってエルクと光はご満悦である。エルクは買ったばかりの服を着て、光は剣を後ろに背負った。
『なんという対偶じゃよ』
つくづく不満そうである。
「なによー。さっきまで自分だって楽しんでたくせにさ」
『誰が』
そして飽く迄毒付く。しかしそんな光景も見慣れて光は返って安らかに感じる。
(「仲間らしいよな・・。」)
最初はこの二人を敵だとも思っていた自分が今では可笑しく思えた。きっと昨日、今日の話しである。館のなかにいたのだから正確にはどれくらいの時間を過したのだろうかも解らないが、色んなことがあって、色んなこと考えて、この風の国に来たのは確かなのだ。光は風の絶えないこの街で撫でるような感覚を肌に感じながら路地を歩いていた。目の前にある神殿を何気なく見据えながら。
02/09/10 01:08 『修正』

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管理人

 くすくす、と何かの笑い声が聞こえた。
『…?』
 光はばっと振りかえる。
 しかしそこにいたのはインとヨウの2人っきり。その2人は不思議そうに光を見返すだけだった。
(『…気のせいかな』)
 再び前を向いて歩く。気のせいにしておかないと、自分の精神が変になるような不安を覚えた。


 さいしょにつくられたそれは
 ほんとうにうつくしいいきものでした


『!?』
 ばっと、振りかえった先。やはりそこにいるのはインとヨウだけで。
「血相変えて、どうしのじゃ?」
 あくまで『邪気のない笑顔』でヨウが問う。しかしその瞳はどこか無機物を思わせる空恐ろしいものだった。
 隣のインは半分瞼を伏せて、無表情のままだ。
『…お前、その唄……』
『どうしたの、光ちゃん?』
 光が言葉を言い終わる前に、少し先まで行ってしまったエルクが呼びかけた。
『い、いや、なんでもない』
 慌ててかぶりをふって、光はエルクに並んだ。
 結局この時、光は質問をすることはできなかった。


「…やはり、あれがそうか」
「…そうみたいね」
 ヨウとイン、2人、小さく声を交わす。
 それは、闇に溶ける様にひっそりと交わされた会話だった。
02/09/10 19:14 『修正』

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えせばんくる
 フッと柔らかな風が足元をすり抜けて行く。それと同時にエルクの緋色の服がフワリと持ちあがる。
 緋色の服の裾部分には金縁がついており時折キラキラと光をはねる。いつものスパッと素肌を出した服装とは打って変わって、今回のものはロングスリーブだった。二の腕のあたりがベルトで締められている。丈は長く太ももが半分ほど隠れる長さでその下にはうっすら水色がかった白い長ズボンをはいている。ハイネックで少し暑そうにも見えたが思ったより生地自体わりと薄かった。胸元には縁と同色のリボンがついている。
 この衣装を見た瞬間インとエルクは「これだ!!」と直感し即買いだった。ヨウや光よりもインの方がやはり女性なので(…光もいちお女性ではあるが)ファッションの見る目はあったようだ。
 光やヨウが選んでくれる服ももちろん悪くはなかった。けど少し好みがどこかずれていた。

 一行が足を進めて行くとある店が目に付いた。なにやら騒がしい。
「なんだろ?」
 蒼色の瞳をちょっとばかし輝かせながらそちらの方へ歩幅をのばす。“野次馬”というやつか。
『この香は癒しの効果があるこの地方じゃ珍しいモンで森の国シェイにいかなきゃ手に入んねー代物よ!』
『ほぅ。なかなか良い香りだな』
『お一つ御土産にどうだい?魔封じの指輪もあるがこれは一回限りの代物でな。相手の魔力を一定時間封じてまうっちゅーすんぽーよ!』
『うむ…この店なかなか色々とそろっているようだな』
『じっくり見てってくれや!!でもはやくしねーとどんどん売れるぜ!』
 ねじりはち巻きをつけた威勢の良い男が黒髪の少年に声をかけていた。少年はまじまじと品を手に取りながらそれらに興味を向けている。
「ヴツカ!?」
 “ヴツカ”と呼ばれる少年は振り返ると見覚えのある顔が目に飛び込んでくる。
『おぉ。光達ではないか。何をしているのだ?』
『うぬの方こそこのような八百屋で何見入っておるのじゃ』
『うむ。なかなか趣深い物が色々とそろっておるようだ。この魔封じの指輪をひとつ頂こうか』
 ヴツカはおやじにひとつの指輪を手渡す。
『がははっ!おめーさんとの会話おもろかったわ!特別半額にまけたらー』
 彼は言い終わるとまた暫しの間豪快に口を開いて笑いヴツカの背中をバンっと叩く。
『かたじけない。ではありがたく頂く』

02/09/10 23:20 『修正』

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メケ太
ヴツカも長く眠っていただけの事はあり、やはり久しぶりの外に興味がわくのだろう。指輪を買った後でも少し目を外せば店の前で足が止まってしまっていた。そのたびにエルクやヨウが注意するがなかなか動かない。これにはほとんど同じ立場である光にもヴツカの好奇心には感心した。しかし、光には別に気になる事があったのだ。唄だ。あの唄が頭から離れない。・・・一体・・・。


02/09/11 03:10 『修正』

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えせばんくる
「はぁ…よーやく【子猫の料理亭】だぁ…」
 僕だって買い物は好きだよ?でも…ねぇ?さすがにあんなにずっとひっぱりまわされてちゃ、いくら好きでも飽きて来る。やっぱり何事もほどほどがいいんだねぇ…。
『どりあえず入ろう。せっかく席予約してたんだし…』
 そういって光ちゃんはドアを押す。覗いて見るとけっこーにぎわってるっぽい。予約入れといて正解だったなぁ…。
『よぉエルク。遅かったじゃねーか。女湯でなんかあったみたいだが?』
 すでに席についていたリグが僕らの姿を見つけ声をかけてきた。
『別になんでもないぞ』
 その質問に答えてくれたのは光ちゃんだった。光ちゃんは僕の言いたい事とか案外いってくれてる。それ以上に時々彼女は僕が言って欲しい言葉をかけてくれるときがある。このパーティーはじめての普通(?)な女性だからかなぁ…僕は結構彼女の事を気に入っている。
「それより見てよ♪服新調したんだよ☆どぉ?」
 その場でくるりと回って見せる。
『ん?いいんじゃねーのか?それより早く席つけよ。もうすぐ閉亭らしいから注文しといた』
 僕的にリグはお兄ちゃんみたいな感じで好き。でももうちょっと何か言って欲しかったかも…。
『何を注文したのじゃ?』
『“シャイニング・デラックス・ディナー”とか言うヤツだよ。なんか良くわかんないけどおいしいかなぁって思って。値段そんなに他のと変わらなかったし…』
 全員が席についたら丁度のタイミングで食事が運ばれてきた。
 目に飛び込んできたモノは…別に普通のオムライス。
『どうみても普通だな』
『まぁ食べてみればわかる事だわ』
 インのその一言を合図に僕らは一斉にスプーンを口に運ぶ。次の瞬間目に☆が飛ぶかと思うくらいのまずさが口の中を襲った。
「……」
 何この味;こんなの注文する人いんの?
 僕は水を一気に流し込んだ。
『な…なにこの料理…?常人が食べるもんじゃない!』
 ガンッとコップを叩きつけながら一喝したのは光ちゃん。やぁっぱ思う事は同じだね;そらそうだ。
『これ一体何で作ったらこんな味になんだよ!?』
 リグはそばを通った店の料理長らしきおじさんにくってかかる。
『そ…それは一種の挑戦者料理でして…;あんな隅っこに小さく書いてある料理なんか誰も注文しないですよねと思いまして…』
 いわれてみればメニュー欄の右隅に豆粒文字で小さく書いてあった。
『ところでコレは何肉なのだ?』
 ヴツカの手にしてるスプーンに目を移すとオムの中のまっずいお肉が乗ってる。うげっ…見たくもない、あんなの。
『あぁ。これはここらじゃちょっと山に入りゃとれる“ジャイアント・ワーム”だよ。普通の人はあんま挑戦しないほうが良いとおもうんだがなぁ…』
「だったらはじめっから載っけないでよー!?食べちゃったじゃん!」
『そ…それは御客様の問題でして。とにかく料金は返金できませんのでご了承下さいませ』
「そ…そんなぁ」
 うぅぅ…そう言われちゃうと食べざるえないじゃん;

02/09/12 23:20 『修正』

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メケ太
(修正:1) こうして7人は引き下がる事も出来ない状況下に追い込まれるのだった。皆青い顔をするばかりで手が一行に動かない。
「・・なぁ、エルク。これって不味いよな?」
『当たり前じゃんッ!!こんなの食べれないよぉ〜』
エルクは半泣きで答える。しかし、光はそれを見ると逆に安心するのだった。まず、光はこの世界に来て1回も食物といえるものを口に運んでいないのだ。今までずっと緊張状態にいたからということもあるだろう。だから、料亭についたとき店内に漂う匂いで初めて自分が酷く空腹であったということに気付いたのだ。しかし、コレはどうだろう・・。
自分の世界でも食べた事のない不味さだ。そこで吐気を覚えながらも思ったことは唯一つ・・。
(「これが普通なのかと思った・・」)
光が思うに自分のいる所は国が違うというような生易しいものではなく世界ごと自分が移転しまったものだと考えられる。・・だとすれば、味覚が違っても可笑しくはない。もし、ココの世界がこんなクソ腐った味覚をしているのだとすれば、光の未来はもう決まったも当然・・“死”である。生きていけるわけがない・・・。いや、こんな物を食って生き長らえるのなら死んだほうがマシだ。
「ちょっと、悪い・・」
『えぇッ光ちゃん何処行くの!?』
「外の風に当たってくる。飯は食いたかったら食っていいぞヨウ」
『んなもんいらぬわッ!!』
ヨウの怒涛を背に受けながらも光は口を抑えながらも前押しのドアをくぐり、外に出た。味だけではない。一度スプーンを通して中を開いてしまったから匂いも溢れ出して半端ではない。エルクには悪かったがここは回避するしか他ない・・。負けず嫌いな光も折れる、文句なしのジャイアント・ワームの余裕勝ちであった。

光はああエルクに伝えたもののどうしようかと暫し悩んだあと、宿屋に変える事にした。道すがら、もう時間が時間なのであろう。さっきまで華やいでいた街はいっきに静まっていた。にぎやかなのもいいが、これはこれでいいかもしれないと明かりがぽつぽつと灯る路地を歩きながら思った。風は相変わらずそよそよと絶えない。気持ちが良いが、もう少し水を飲んどけば良かったと口の中に残る口臭を気にしながらモゴモゴとさせる。その時、上目使いに目の前にあった神殿を見る。満月が動き調度よくそれをバックから照らす。しかし・・何か変だ・・。
「?」
光は立ち止まり目を細めるが暫くして、驚く様に目を見開く。それは神殿の中央にある屋根の先端。細く天に掲げられたエンブレムの上。
「!!」
その姿を確認した途端、光は走り出した。宿屋ではなく神殿に。その姿は月光を浴び陰になって正体こそ解らないものの、黒く縁取られたその形は紛れもない人であった。
02/09/13 00:08 『修正』

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管理人
(修正:3)  塔の上――そこに居たのは光にとって見知った2人だった。
『お前等、そんなとこでなにしてんだよ!?』
 呼びかけられた2人――ヨウとインはとくに気にした様子もなく、ただ髪を風に躍らせていた。
『飯はどうしたんだ?』
 先ほど出た時にはまだヨウもインもテーブルについていたはずだし、なにより食事中だったはずだ。
「あんな不味いもんくっておられるわけがないじゃろ」
「…それに、ヨウと私の場合、なにも食べなくても平気だから」
 あんな美味しくないものをわざわざ食べる必要はないの。
 言われて、光は納得する。明らかに彼等が『人ならざる者』だと実感してしまった光は、特別疑問を持たなかった。…持たないようにした、の方が正しいかもしれないが。
 だがしかし。
 なぜヨウとインはあんなところにいるのだろうか?
 悩んで二人を無言で凝視する。
 だがどこにも答えは見当たらない。
 少なくとも、光には見つけられなかった。
 どれくらい時間がたったころだろうか。
 それは一瞬だったかもしれないし、何分もたったころかもしれない、奇妙な時間。
「…来られたわ」
 小さく呟かれた、謎の言葉。
 しかし光が何か尋ねるよりも早く、2人は忽然と姿を消してしまった。
『イン!? ヨウ!?』
 辺りを慌てて見渡すが、2人の姿はどこにもなく。
 そのかわり、ヨウとインが立っていた場所には、別の2人。
 ヨウとインよりも大きい陰。
「よう、神唄のガキ」
 聞き覚えのある、力と自信に満ちた男の声。
「こんばんわ、神唄の子供――それとも、光、と名前で呼んだほうがいいかしら?」
 聞き覚えのある、淡々とした、けれどインとはまた違った感じの女の声。あえて違いを述べるなら、インよりも艶っぽいことであろうか。
 そして2人はこう言うのだ。
「ようこそ、この世界へ。私のことは『アル』と呼んでくれていいわ」
「よく来やがったな、がきんちょ。俺のことは『ベル』って呼んでも構わない」
02/09/14 19:50 『修正』

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えせばんくる
「ぐはっ…くそまじかった…」
 そう言うとエルクは机に突っ伏した。言動からしてぎりぎりにさらにギリギリを足して食べきったという感じだ。
 水を片手に倒れこむエルクを横目で見ながら俺は一言。
『そんなん言うんだったら最後まで食うこたねーだろが。』
 だがエルクはあごを机につけたままジト目でこちらを睨んで来る。
「だぁってもったいないでしょ〜?」
 そう言ってはいるものの慌てて口を押さえる。断崖絶壁…飽和状態だな。
『ごめんね〜。ボクがこんなの注文しちゃったから』
 そっちに目をやるとてへへといった具合にリゲルの奴が後ろ頭をかいている。ほんとだな。ったく。
 だが俺はあえてその事を口には出さなかった。出したところでなんになる。
『そろそろ俺らもいくか。光もイン・ヨウもいちおどっかしっかりしてっからどーにかこーにか宿に辿り着くだろ。』
「ん。そうだね。先に戻るか。」
 だが俺はその時あまり良い予感がしなかった。特に光に、だ。イン・ヨウの奴等もいない。最近のあいつ等の行動はどこかしら奇妙な点が多すぎる。
『何もなきゃいいんだがな…』
『なにか言った?リグ』
『いや、なんでもない』
「なにしてんのふたりとも。行くよ〜?」
 金をくそまじぃメシの為に捨てる事が腹立たしかったが、とりあえず俺達は金を払うととっととこの店を後にした。

 どれくらい時間がたったんだろう…僕はひとり部屋の端にあるふたりベッドに大の字で寝ている。
「……。」
 ごろりと壁の方を向く。なんだろう。胸騒ぎが止まらない…。だんだん胸が苦しくなってくる。
 光ちゃんがなんかの事件に巻き込まれて無いと良いと願う。でも…でもなんか胸のつっかえがとれない。やりきれない気持ちだ。
「……あ゛ぁーもぅ!!!」
 がばぁっと上体を勢い良く起こしベッドから飛び降りる。どくんドクンと僕の心臓は脈打つ。
 光ちゃんを迎えに行こう。そう決心した。
 僕ははじめこのままこっから出る気は無かったので白いズボン脱いじゃったけど上着の丈が長いからスカートになってる。別に気にはならない。もとよりスカートとしても使えるかなぁって思いながら買ったんだしね。
 素足にワインレッドの靴をつっかけると僕は外へと飛び出した。
02/09/13 19:55 『修正』

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メケ太
(修正:1) これをなんというべきだろうか?
デジャヴのような正夢のような感覚を。

「一体何者だッ!ヨウとインを何処にやったッ!?」
『今は交代しているだけよ。フフフ、貴方が気にする事ないじゃない』
大きなフードで顔を隠し顔が見えない。しかしそれでも風でゆれる髪がさらさらと火の粉のような赤を撒き散らすのが見える。妖艶な口びるも血のように赤い。見れば見るほど光の心臓は何故か激しく脈を打つ。あの甘い声が頭に響く。
『そろそろ化けの皮をはいだらどうだ?餓鬼』
「なんのことだ?」
『貴方がココに来た事よ』
―――何を言ってる――――――。
「ウチの意思じゃない」
『嘘ね』
間を入れずアルがそう言った。
「・・・どう言う事だ?」
“嘘”?何がだ?何が“嘘”だと?
『貴方はお呼びじゃないのよ』
「ウチを殺るというのか?」
光は手を背にある剣に忍ばせる。
『あら。勘違いしないで頂戴。私達は忠告しに来ただけだわ』
「忠告?」
『貴方がそのまま知らないふりをするか・・それとも本当に忘れているかも知れないけど?まぁ、どっちにしても私達に邪魔にならなければいいのよ』
邪魔?何が邪魔だと?
『そのためにも・・といってもなんだけど』
強く一陣の風がふいた。
『あのエルクって子と別れなさい』
光は目を見開く。それはアルの言葉だけにではない。風がアルとベルのフードを仰ぐようにして脱がした。そしてそこには赤の目と青い目。光にとってあってはならない顔。目。視線。

夢を見たのは何時であろうか?
見始めたのは何時であろうか?
本当の目覚めは何処にある。
ああ、眩暈が・・頭痛が・・あの唄が
起きろ起きろと急き立てる。

『はぁ・・も〜、光ちゃんどこいったのさ〜』
その時エルクは走って走って、もう閉店してしまった【子猫の料理亭】の前にいた。ブロックの路地を明かりの灯る道に従って探してみたが中々見つからない。今やすっかり息が上がってしまった。額には汗が浮ぶがそのせいで吹く風が気持ち良い。しかしそれでもエルクの胸騒ぎは止まらない。何かに急き立てられるようにして焦りが増す。
『光ちゃんッ!!』
この声が届けば良い。叫んで届くなら近所迷惑なんてどうでもいい。もう嫌な感じで泣きそうになった。
『う〜〜〜・・・。誰かぁ〜』
助けてよ。そうしゃがみ込んだ瞬間だった。風が吹いた。いや、ココでは何時でも風が吹いているが今のは違う。強い風・・・。
『・・あ』
エルクは突然、とあることに気付いた。風がずっと一方方向に吹いてるのだ。風の行く道・・それは神殿だった。調度、月を背負った神殿に風は飲まれる様にして進んで行く。そういえば光ちゃん・・
『神殿見てた・・』
エルクは走り出した。
02/09/15 15:09 『修正』

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管理人
(修正:1) 「…冗談よ」
 慟哭に目を見開いていた光に、あっさりっとアルはそう告げた。あまりにもあっけらかんとした口調は、ある意味見事だ。
『なっ!?』
「慌ててるんじゃねぇよ、がきんちょ。どうせからかっただけなんだしよ」
『がきんちょ言うなぁっ! だいたいなんだよ!?そのタチ悪い冗談は!?インとヨウはどうしたんだよ!?』
「ただの冗談なんだから、そんなに怒るなって」
 本気で怒る光に対して、おちゃらけた様子でへらへらとした様子のベル。アルは傍観を決め込んでるようだった。
「ま、そんなにヨウとインに会いたいなら、ここにいるけどな」
 そう言って後を顎で示す。すると、なんとアルとベルの後からヨウとインがひょっこりと頭をだした。
「…この子達は、まぁあえて言うなら意志を持った人形といったとこかしら。かわいいでしょう?」
 言いながら、アルはインの頭をなでてやる。インは少し恥ずかしそう――無表情ではあるが――にアルにしがみついている。
 光はただ呆然とその光景を見つめるしかなかった。
 一体どうなっているというのだろう。
 ヨウとインが人形――これは、納得できる。なんせ以前にインに殴りかかって大変な目にあった前科がある。
 では、あのアルとベルと名乗ったあの二人は――?
『…なにを、知ってる?』
 用心深く、焦る気持ちを抑えて、あくまで慎重に、光は尋ねた。あの奇妙な2人は、“全てを知っている”気がした。
 だが2人は何も言わず、ただそこに立っているだけで、何も答えない。ヨウとインもそれにならって無表情でそこにいるだけだった。
「…たくさんの事」
 無言の世界に、唐突に小さい呟きが紅い唇から漏れた。それにあわせるかのように、風が吹く。
「古の、出来事」
 続くのは、ベル。
「星の歴史」
「膨大な量の記憶と知恵」
「そして知識。あらゆる事を、私達は知っている」
 風が、急に勢いを増した。2人のローブがその拍子に大きく翻り、フードを取り去った。二人は隠そうともなかった。
 1人は、鮮血を思わせる紅の髪と瞳。艶めかしいまでの、美貌。
 もう1人は、深海を思わせる蒼い髪と瞳。自信と力に満ちた、男としての美しさをもつ、誇らしげな顔。
 共通することは、何事をも見通すような鋭い眼光、神々しささえ伴う、近寄りがたい雰囲気。
「あなたは、ただ思い出せばいい」
 その言葉に、光が息を呑んだ――その時。

『光ちゃん!!』

 息をきらして、そこに1人の少女が、光の名を叫んだ。
『…エルク?』
 名を呼ばれた異世界の者は、ただそう呟いた。
02/09/14 19:48 『修正』

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えせばんくる
(修正:1) 「こんなところで何してんの…!?全然っ…帰って来る気配…無かったから…ほんとに心配したんだよっ!?」
 エルクは肩で息をしながらウチに叫ぶ。額には汗がにじみ出ておりその姿を見ていれば彼女がいかに必死だったかがよくわかる。
 そんな時ふと彼女は視線を塔の上のふたりへと上げる。まるで見なれないものを見るかのような目つきのそれへと変わる。
「アル!?ベル!?」
『よぉ、久しぶり…ってほどでもないか』
『今晩は、と言いたいところだけど今は…少し邪魔ね。』
 アルはそう呟くと手のひらをエルクに向けて何かの呪文を唱える。
「!?きゃっ」
 次の瞬間何か目に見えない波動のようなものが彼女を襲った。エルクは数メートル先の草むらに倒れこんでいる。そしてぴくりとも動かない。
『少しのあいだ眠っててもらう事にするわ。そぅ…』
『俺達がこの場から消えるまでな』
 彼らの口調からすると眠ってるようなので命に別状はなさそうだ。
――アノエルクッテ子ト別レナサイ――
 先刻のアルの言葉が繰り返される。冗談だと言っていたがどこかひっかかる。本当にあいつら冗談で言ってるのかそれとも本当に…。
『エルクと別れとっていうのは本当に冗談で言っただけなのか!?』
 風が両者の間をすり抜ける。ベルは月明かりで鈍く光を放つ髪をうっとうしそうにかきあげながら口を開いた。
『さぁな。お前が思いだしゃそれで済む事なんだ』
『すべてはあなたにかかってるという事ね』
 はたして答えになっているのかなっていないのか。
『エルクはあのままで自然に目を覚ますんだな?』
 さっきから指一本として動かない。その場だけまるで時が止まっているようにも見える。ウチにとってココは、魔法というものは不思議でしかない。いくらゲームでの知識はあるといっても本場では役に立つとも思えない。
『あぁ。まぁアルはまず失敗なんてしないからな。叩き起こしゃすぐ目覚めるだろ』
 アルが突然苦しそうに咳き込んだ。その場に肩膝をつく。ベルは慌ててアルの肩を支えたがその口もとからなにか…赤い一筋のものが流れていた。
――血だ――
『今はもう時間がないようですね』
『無理しすぎんなよ。ただでさえ危ない身体なんだ』
『分かってるわ』
 そういうとスッと立ち上がる。
『そろそろこの場を離れることにするわ、神唄の子』
『あばよ』
『…!?』
 激しい突風が巻き起こる。舞いあがる物からガードする事だけで精一杯だった。
 風がやみようやく目を開けるくらいになるが、もうその時にはふたりの姿は無く、インとヨウの小さな後姿が町の方へと消えて行くのしか見えなかった。
『エルク!』
 急いで寝転んでいる彼女の元へとかけよる。瞳は両方とも閉じている。でも寝息が聞こえるので本当に寝ているだけのようだ。
「ん…。光…ちゃん。大丈夫だった?なにも変な事されなかったよね?」
02/09/15 00:22 『修正』

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メケ太
(修正:2) 「エルク・・・」
エルクはまだ目を半分閉じて意識が朦朧といていた。魔法がまだ完全にとけていないのだろうか。光には酷い罪悪感が押し寄せる。
「悪い・・ウチのせいでこんな」
自分が後先考えず動いたせいで・・。あのケルベロスの時だってウチは慎重に動く事も忘れて唯ひたすら倒す事に精一杯で、そんな時エルクが心配してくれたのを足手まといだと思われていると忌々しくも感じた。でも・・そんなこと自分の我侭にしか過ぎないじゃないか。光は自分がいかに子供だったかを知った。エルクを護ろうとして危険にさらしているのはいつも自分。エルクが自分の事を考えてくれていたのも解らないで。エルクの気持ちなんて全然解ってあげてないじゃないか。
「悪い・・悪かった・・」
光はエルクの肩を抱きながらはらはらと泣いた。この世界にきて初めての涙だった。エルクは薄っすらと笑いながら手を光の頬に置き、涙を拭く。大切なものを護ろうとしてもいつも最後は君に救われてばかりで酷く胸がいたくなる。唯一の闇に浮ぶ月はそんな苦しみも取り去ってくれないで二人をただ傍観するだけだった。

光はエルクを背負って帰る事にした。当然エルクは大丈夫と反対したが力が入らなくて起きあがるのも辛そうだった。だから、この場合はもう無理矢理。
『ねぇ、重くない?』
耳元で小声ながらもエルクはいうが
「大丈夫だよ。重くない」
と意地でも言い返す。実際重くも感じない。
『なんだか恥かしいなぁー』
「いいじゃん。もう、誰もいないし」
路地には人っ子一人見当たらない。今は一体何時になったのだろう。
「なぁ・・エルク」
『何?』
「好きでいてもいいよな?」
『何いってんのさ』
今の光には大真面目な質問だったのだが、エルクに即答され、言い出した光が恥かしくなって赤面する結果となった。エルクが笑いだして・・光も笑った。アルとベルは何故あのような事をいったのだろう。エルクの鼓動と熱を背中に感じながら光は“別れる”と言う言葉を酷く理不尽なものに感じた。何故そんな事をしなくてはならない?共にいる事に何があるというのだ?この世界に来て疑問など何一つわかった事はない。唯、考えなくなったのは答えがあったのではなく狂いを抑えるための自己消去にすぎない。しかし、気にしなければ気にしないほど答えがない、誰も答えてくれない謎にたどり着く。波紋のように広がって行く。
アルとベルは何者なんだ?
何を知っている?
私は・・?
私は何者なんだ?
一体何を忘れていると?
曖昧なものに満たされて自分さえ見失いそうだった。
02/09/15 14:54 『修正』

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管理人
 そこは光に満ちて、まるで『楽園』のような場所だった。
 たくさんの緑に、清らかに輝く水。多くの小動物。
 そんなどことも知れない場所に、アルとベルはいた。2人とも黒いローブは着ていない。
「お前、無理しすぎなんだよ、アホ」
 言いながら、アルに薬を手渡す。それを素直に受け取りながら、どこか不本意そうな顔をしてみせる。
「……いいじゃない、死ぬわけないんだし」
「そーゆー問題じゃねぇだろ。また痛い思いてぇのかよ」
「……………したくない」
 小さく言葉を発して、手渡された薬を飲む。
 目の前を小鳥が飛んで行く。様々な色で着飾った美しい小鳥だ。
「…冗談だったのにね」
「なにが」
「……エルクと別れろって。本当にただの冗談だったのに」
「お前が言うと冗談に聞こえねぇんだろ」
「そうかしら」
「そうに決まってんだろ」
 はぁ、と一つ溜め息をついて、ベルは頭を掻く。
 この2人の会話をエルク達が聞いたらなんと思うだろうか。少なくとも光は大層憤慨するに違いない。“なんでそんな事を言ったんだ”と。
「……確かに、あの種族は少なくなってきてるしな…なんかあって死なれちゃ困るかもな」
「そうね。神唄の子供はほっといても平気そうだけど。リゲル達はどうするのかしらね。“本体”がこのまま黙ってるとも思えないし。あとヴツカは……本当に、どうするのかしらね」
 2人にしか理解できない会話は、他の人間が聞く事もなく。
 何も知らないのは一体誰か。
 それはエルクに他ならない。
02/09/15 15:24 『修正』

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えせばんくる
 僕はポフッとベッドの上に下ろされた。
「光ちゃんありがとね〜?重いのに…。」
 ほんとにそう思う。僕身長の割りに重いよねぇきっと…。
『さっきから何回も…。大丈夫だっていってるじゃないか』
「あは、だってぇ…」
 身体の調子が良くなってきたら急に聞きたい事が頭をよぎった。
「ねぇ光ちゃん。アル――もしくはベルの奴なんて言ってたの?」
 すると光ちゃんの表情が一瞬動揺の色に揺らいだ気がした。でもここで僕が追い討ちをかけてみたところで光ちゃんを苦しめちゃう結果になるかもしれないし、あえて聞き返す事はしなかった。
『…エルクと別れろ、だって』
 光ちゃんは窓辺からこちらを見ながらそう、ふいにポツリと呟いた。
「ぇ…?」
『まぁ冗談だのなんだの言ってたけど…ね』
 そういうと彼女は窓の外を眺める。
 (まだ目が赤い…。)
 僕は彼女の瞳がまだほんの少し涙にぬれているのをみつけてしまった。もうこぼしてはいないがやはり少し湿っているよう。
 僕は無言のまま近寄ると彼女の肩をそっと抱いた。そしてポンポンと2回ほど、光ちゃんを落ち着けるのもだけど自分自身も落ち着けるため、背中を叩いた。
「大丈夫だよ。僕はココにいる。よっぽど何か無い限りどこにも行きはしないよ」
 ふと、本当に不意に自分の旅の目的を思い出した。
――…僕の居場所って、きっと皆と一緒にいることなんだよね――
 小さな声で、ほんとうに自分に言い聞かせるように呟いた。そういやあっという間に時が流れリゲル・リグ・ヴツカ・イン・ヨウとどんどん新しい仲間に出会って、いろんな冒険して、瀕死にもなったし…。
「それにこの前光ちゃんに会ったばかりじゃない。せっかく友達になったのに別れろなんていうの許すわけないでしょ?いくら相手がアルだろうとベルだろうと…関係ないっしょ?」
 あぁ駄目だ。熱いモノが中からこみ上げてくるのがわかる。泣いちゃいそう。
 案の定次瞬きした時一粒の涙が僕の頬を流れた。そんなの我慢できないよ。僕のんきで元気に見えても本当は弱いんだから。全然強くなんて無い。
「―――っ。」
 駄目だ、ホントにだめ。また涙止まんないや。僕は光ちゃんにしがみつく。本当につらいのは言われた本人の光ちゃんのはずなのにね…。
 背中に光ちゃんの手がまわってくる。彼女の乱れた鼓動も胸越しに聞こえてくる。
『……っ』
 ポタッと何かが僕の濡れた頬の上に落ちてくる。肩から顔を上げて彼女を正面から見るといつもは自信まじりな凛々しい顔もまた僕と似たような顔をしていた。多分僕ほどなさけない顔じゃないけど。
『いつも最後はエルクに救われてる』
 微妙に嗚咽まじりにそう告げる。そんな事ないよ?
「そんなのお互いサマだよぉ。僕なんか皆から助けられてる気するし」
 僕たちは顔を見合わせてへへっと笑うとギュッとお互い強く強く抱きしめあった。お互いココにいるんだ。そんなことを確かめあうみたいに。
「光ちゃん」『エルク』
「『大好きだよ』」

 
02/09/15 21:16 『修正』

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メケ太
(修正:1) 小さな私は一人でいた記憶しかない。いつから記憶し始めたかもさだかではなく曖昧なものだけれどそれだけは覚えているつもり。それはいつまでも変わらない風景であったから。目前には人・人・人・・。人が群がるが私の周りには誰一人より付かない。そんな私を誰かが孤独だと、そう教えるように呼んだが、私は笑うだけ。微笑、冷笑、嘲笑った。そうやって反発するのが好きだった。みんな嫌い。大嫌い。あなたも君も神サマだって嫌い。神サマなんて大嫌い。

陽光が前に建つ家の屋根からこぼれだし、窓を通して光の顔に当たった。そしてなんだか外は騒がしく人の声が聞こえ、光は不快感に目を覚ます。
「ん・・」
日を眩しがり手で遮りながら目をあけるが目前にはエルクの寝顔が見えた。大きなシングルのベットで寝ていた為、本当に目前。光はなんだか昨日の事を突然に思い出し恥かしくもなるが心地良く寝入っているエルクを見るとさっきまでの不快感が安心感に満たされた。
(「あのまま疲れて寝ちゃったんだな・・」)
身を起こすとエルクは寒いのか少し丸まって寝ていた。光は自分のぶんの毛布をかけたしてあげ。このまま起きてしまう事にした。そしてこのまま外の空気を吸おうと部屋を後にした。低血圧気味の光は階段をフラフラしながらも降りると下には数人の人がいた。もう、そう早い時間ではないのかもしれない・・・。時計がないから今の時刻などはわからないがどうも昨日は遅く寝てしまったようだ。くしゃくしゃに髪をかきながら旅をしている身というのになんだかんだいってのんきな自分ににため息がでた。
02/09/17 13:56 『修正』

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えせばんくる
 「守護の者」。そんな言葉が頭の中でこだました。なんでそんな言葉が出てきたのか僕には理解できない。でも繰り返される。 
――嫌だ…怖い――
 ただただそんな感情しかその言葉はもたらさなかった。なんか思い出したくない嫌な記憶をえぐりだされるようで…。
 暗く冷たい。なんでこんなところにいるのか分からない。
――なんだろう…――
 目の前に薄暗く光るふたつのモノがあった。何かの瞳…。目を凝らして見てみるとそれは竜。
 僕とそれは瞳があった。リヴじゃない。怖い。暗くどろどろした念が僕の中に入り込んでくる。
――いやだ、こないでっ――
 抵抗してもその念はとめどなく流れてくる。誰か助けて…。
 このコがなんなのかまったく知らない。でも怖い。それだけしか言い様がなかった。

「いやぁあぁぁー――――!!」
 はぁっはぁっと肩で息をしながら僕は目を覚ました。横を見ても光ちゃんはいない。たぶん先に下りていったのだとおもう。
 なんなんだろう、あの夢は。なんなんだろう、あの竜は。
 疑問は疑問を呼び解決の糸口を隠してゆく。もとより解決の糸口などあるのかさえ怪しいものである。
 寒い、苦しい。今はなんだか誰かのそばにいたい気持ちで一杯だった。理由はわからない。でも心細い。
 
 僕は階段を下りて行くと皆そろっていた。
『エルク遅いぞ。寝坊か?』
 ヨウが朝ご飯を“待て”された犬のようにいらついていた。実際朝ご飯はメンバーがそろわねば食べられないのだが。
「ご…ごめん」
 でも僕は曖昧な返事しかできなかった。
『どうした?顔色が悪いぞ?』
 リグがはじめに僕の異変に気づいてくれたようだ。僕は無言でリグの手を握った。
『光となにかあったのか?』
 少し真顔になりながら静かに聞いてくる。あくまで落ち着いた態度で。
「うぅん。光ちゃんとは何も無いよ。ただ…」
『ただ?』
「ん…少し、怖い夢を見たんだ」
 少しじゃない…。怖かった。二度とみたくもない夢。あんなに怖いの久々だよ。
『そうか』
 リグはそのまま僕の手を静かに握り返してくれた。

『さて、これからどこへ向かうか。だな。』
 ヴツカは皿の上の目玉焼きを切りながらたずねる。やっぱりこの宿のおばちゃんの作ったご飯の方が昨日の料理亭のよりずっと、比べ物にならないくらいおいしかった。
『そうね。どうするの?』
「う〜ん、ひとまずティア行ってみない?そこなら行った事あるから」
 僕は言いながら町を思い出した。水が立ち上る町。活気に溢れてて、町の皆も優しくて。
『ティア…って?』
 ヴツカと光の言葉が重なる。そう言えば二人は知らなかったんだっけ。
「うん、水の国って言われてるところでココに負けないくらいきれいなんだよ♪」
『ボク達そこで出会ったんだよね』
「そうそう。あとアルに最初にちょっかい出されたとこ!」
 そんなこんなで話し合いはどんどん過ぎていく。
 
02/09/16 21:47 『修正』

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メケ太
(修正:1) 水の国ティアはこの風の国から北西にあるらしかった。何故ティアかというと・・はエルクに教えてもらったが、つまりはこの世界は精霊信仰があるらしい。自然に溢れたこの世界をみて光は深く納得する。自分の世界にも精霊信仰や山岳信仰たるそれらの類が数多くあるが、そんなものは坊主か修道院か・・はたまた阿舎利ぐらいしかやらないだろう。しかし、このように世界が共通して自然こそが神だという思いがあるのなら自分の世界のように荒れ果てる事はなかったように思う。荒らそうとすればそれは神に対する冒涜となるのだから・・。街中から離れるたびにステンドグラスが張られる教会が増えてくる。そしてその道は賢所へと続いて行った。水の国にいくとしてもすぐにいくわけにはいかない。門をくぐる前にこれから通行許可書・・つまり手形を発効してもらわなくては行けないのだ。
「入るのは自由なのに出るのは手形がいるのか?」
『ううん。これから行く門は印門(いんもん)っていとこで他の国に行く為の通路なんだよ。ちなみに私達が入ってきたのは天門(あもん)でこれは王国の外に出入りするための門』
『印門のほうが他の国に行くのには一番安全で早くいける。しかし、政府のやつはなにかとうるせぇからな。入る度にこれだよ。』
手形を登録するのには時間はかからないがどうやら発効に時間がかかるらしい。まるっきり教会のような建物の中、フロントではヨウとインが登録の手続きをしていた。本当にこういうことは二人まかせである。
『どれくらいかかりそうだって?』
『う〜ん。はっきりはしないんだけどだいたい20分ぐらい』
二人に付き添っていたリゲルが時間を伝える。
『じゃぁそれまで自由行動だな』
『うわ〜〜〜い!じゃぁ僕、この建物探険してくるッ』
はしゃぐエルクとリゲルに遅れるんじゃないぞ、人に迷惑かけるな、などリグが忠告をいれる。その様子に思わず光は吹き出してしまうのだった。
02/09/20 01:08 『修正』

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管理人
 さて、居残り組はリグ・ヨウ・イン・ヴツカ、そして以外にも光。
 光とヨウ・インは3人一緒に展示されている立体の世界地図を見ている。
『珍しいな、光がエルクと一緒に行かないなんて』
 不思議そうに呟いたのはリグ。
『…確かに、不可解だな。だが納得もできる。エルクよりもイン達の方が、この世界には詳しそうだからな』
 どこか意味深に分析をしたのはヴツカ。リグは意味がサッパリ判らず、首を傾げるだけだった。


「あれが、ティア。この世界の国の名前は、それぞれの国神様のお名前がつけられているの」
 インが立体世界地図を指差しながら説明をする。
「国神様はまぁ、それぞれの属性の精霊…その王様みたいなものじゃ。さらにそれらを統括するのが『神』。創世神じゃな」
 補足をするのはもちろんヨウ。
 聞き手は無論……光。
『…創世神?』
「そうじゃ。そこらにたぁっくさん神殿があったじゃろ?あそこでは国神様と一緒に創世神様も奉っておる。…もっとも、神唄の子供のお主は、今この世界が創世神を奉ることがどういう意味かは……わかっておるじゃろうけどな」
 最後のほうは、聞き取れるかどうかも危うい、小さなな声だった…。
02/09/17 19:24 『修正』

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えせばんくる
 リゲルと一緒に探検ごっこをするのは久しぶりだった。最近は光と一緒に行動する事が多かったからあまり、リゲル・リグと行動がとれなかった。そんなこともあってエルクはリゲルとの自由行動が楽しみでならなかった。
「早く行こう!!20分しかないよ!」
『そうだね♪』
 ふたりは手続きをしているイン達には悪いとおもったがさっさとここを後にすることにした。
 ふとリゲの足が止まる。エルクが不思議そうな顔で理由を尋ねると、光も連れて行こうとの事だった。
「光ちゃんも行かない?探検。」
『ん。ウチはいいや。ここで待ってるよ。』
 するとエル・リゲ組はちょっぴりしょんぼりとした顔で残念そうにしていたがリグに『早く行ってこねーと時間無くなるぞ』との忠告を受け、駆け足でこの場を後にした。

 やっぱりここはきれいな場所だな…。風の国。たしかウィアラっていう神様が奉られているんだよね。どんな神様なのかはわからない。でも国がこんなに美しいんだ。神様もきっと美しいよね。
『見てるだけで癒されるね、この賢所。』
「うん…あ、見て見て。祈りの祭壇だって。ちょっとだけ祈っていかない?僕らの旅の再出発を祈願して。」
『あ、いいね。それ。ひとつお願いしてこっか。皆の分までしとかなきゃね』
 ボク達はそう一致すると壇に一歩、また一歩と足を進めた。一番上まで来ると(とはいってもそんなに高さはなく、せいぜい5段くらいなんだけど)眼前にはさきほどのステンドグラスがいっぱいに広がっていた。
『わぁーきれいだねぇ』
 本当に正直な感想。ため息がもれそうなくらい。日の光がちょうどさしこむ感じでキラキラ輝いてる。
「んじゃいっちょ祈ろっか♪」
 
――この旅で皆それぞれの目的が果たせますように。――
 ボクは静かにそう願った。ふと、神様に聞いてみたい事があった。
――ボクはなんでこんなに足手まといなの?もっとリグ達の助けがしたい。支えになりたい。でも…一体どうしたらいいのでしょう…。――
 ボクは答えを待った。でもいっこうに答えてくださる気配がない。
――ボク…強くなります。もっとリグの事を支えてあげられるように。支えられてばかりじゃ、それこそただの足手まといだから。最悪の時は捨て身覚悟で皆を助けたい。――
 
『…ジャスト20分だな』
 ヴツカは自分の持っていた懐中時計を取り出していた。エルクも自分の懐中時計を手に握っている。
「へっへーん♪新しく買ったんだよ〜♪ちゃんとコレ気にしながら戻ってきたんだから。」
 ちょっと自信有り気に彼女は笑った。
「そうそう!皆の旅の祈願も僕らがしてきたよ。」
『あ。じゃあもう旅ははじめからトラブルに巻き込まれたも同然じゃな』
「ちょっとそれどういう意味よ!?」
『それより手形が発行されたわ。印門へ行きましょう。』
02/09/17 20:03 『修正』

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メケ太
(修正:1) 印門は賢所の地下にある。14階ある賢所は地下が3階まであるのだ。その一番下にあるフロアが印門である
「門なのに地下にあるのか?」
素朴な疑問である。しかし、この世界には素朴な疑問などもったら先に進めない事ばかりだ。だから、あえて口にはしないほうが良いのだが、つい、問い掛けてしまう。
『門とは所詮入り口の事。地上になくてはならないと誰が決めたのじゃ?』
いつものようにヨウは先頭につつ、後ろを振り向いて答えた。
『ふぇぇえ・・おっそいなぁー』
『機械に怒ってもしゃーねぇだろうがよ』
手形をもらったエルク一行といえばエレベーター・・といえるのだろうか・・?立ち位置についてボタンを押すと一瞬で目的地に移動できるという・・いや、移動というよりもこれは転送といったほうが正しいかもしれない。そんな万能機の順番待ちをしていた。これでないと印門に続くフロアにいけないんだとか。そんな中ヨウは光の質問に答えたまま・・光を見たまま、さっきまでの事を思い出す。それはエルクが来る間もない頃、光とインとヨウで立体の地図を見た後のことだ。

“風は世界の源である。この世の力、精霊の生命をすべての物に伝える
橋渡しである。そしてそれは我等の存在でもある。生を吹き込み死なれば他の者に未来を伝えるだろう”
礼拝堂にいる巡礼者に神の言葉を教える男。
「あの人は神父?牧師?」
『いや、聖人といわれておるよ。精霊の言葉を聞き皆にああいうようにして説くのじゃ。精霊の言葉は常人では聞けぬという話じゃよ』
『聖霊会(しょうりょうえ)が近い時期だから、今は毎日のようにああしているのよ』
巡礼者は言葉を聞きながら頭を垂れる。その前には聖人。そして・・神サマ。ステンドグラスの前に掲げられる様にして置かれる女神像。外の光が後ろから差し、それが後光のように見える。
「聖霊会?」
『その日になると月が無くなるのよ。赤くなってからだんだん欠けていくの。月と太陽は精霊の力の源といわれていて、それが無くなれば力が弱ってしまう。だから・・祈るのよ。世界が崩れない様に』
「祈る・・ね」
光はそういって冷笑した。たぶん、巡礼者に向けられたものだろう。祈ってもどうなる事でもないというのに・・。そう言う顔。しかし、何も言わず口元だけで笑う。
「創生神はいるの?」
『何?』
「創生神はまだ生きているのかい?」
ヨウとインは唖然として光に向く。含み笑いを抑える様に片手で顔を抑えている。しかしそれでも指の隙間から未だ神を見つめる。
寒気がした。

『ヨウ?』
インに呼びかけられハッとする。
『な・・なんじゃ?』
狼狽を隠そうとするが、それでもインには見透かされる。
『気にしてはいけないわ』
『・・わかっておる』
皆に背を向けて元のように向き直り視線を避ける様にして顔を伏した。
『私達はいわれた事だけをすればいいのよ。行動を起こさない限りは関係のないことだわ』
『わかっておる』
前に並んだグループが去り、エレべ―ターのドアが開かれた。
02/09/18 15:07 『修正』

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えせばんくる
 【シュンッ!】
「ぉお速い☆」
 エレベーターに乗り込むとあっという間に地下3階へ移動することができた。はっきり言ってここまで画期的なものに乗る機会は少ない。
 下りてすぐあたりを見まわすとまずギョッとした。地下とは思えないほど明るかった。おそらくなにか魔法のような力を応用使用しているのだろう。だが驚いたのはその事ではない。先ほどまで行列していたグループが人っ子ひとりいない。それどころか見当たりすらしない。
『行きつく先はひとつなのにね…。なんでいないのかな』
 リゲルがそう呟きながらキョロキョロとする。するとすぐそばにあった管理人窓口らしきものの窓が突然開いた。
『おいそこの一行。次のグループがもう到着するからさっさと通ってくれ。混雑はできればまぬがれたいと思うのは誰もが思う事だからな。』
 ……。人形がしゃべった。窓の内側にはひとつの小さな人形が机の上に座っているだけで他には何も無い。
「…。(=|=)」
 【すこーん】
『な…なんの真似だ!』
『わー!エルクよせー!(涙)』
 エルクは得体の知れない人形にロッドをぶち込んだ。とは言っても力無くそのまま重力に任せて落としただけなのでたいして大事にはならなかった。
『とっとと進めー!!(怒)』
『わぁあ〜〜〜〜!!(><;)』
 一行は転がるようにしてゲートに飛びこんだ。
02/09/19 19:57 『修正』

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メケ太
ゲートが火花をあげ、眩しい光に包まれる。
『だぁっと!!』
エルク一行はその中から崩れる様にして出てきた。
『いったぁーッあの人形め〜』
『あの人形じゃァねぇよッ!!お前があんなことすっからこうなったんだよッ!』
エルクは置きあがり文句をいうがリグに叱られてしまった。
「ここは・・」
光も顔をあげ置きあがるがどうみてもそこは元いた場所。明るい部屋に
向こう側が突き抜けた大きい門。
『皆様、さっさとおどきください』
ふと気付くと倒れこんでいる一行の前にはさっきと同じ人形。やはり何も変わらない。
「え・・?ここは」
『ここは水の国ティアですが・・。もしや、目的地が違いましたか?』
「いや・・。でも本当に移動したのか?」
『この人形・・さっきのと口調が違わぬか・・?』
ヴツカも光と同じ心境なのだろう。まじまじと人形に近付く。
『次の方がいらっしゃいます。邪魔なのでおどきください』
『口が悪いのは一緒だけどね〜〜〜』
『うわっ!!止めろエルクッ』
リグが抑える中、エルクはまた怒りのこもった笑いで人形にロッドを向けた。リゲルもすかさず助勢に加わる。
「なるほど・・」
光はそれをしりめにゲートを見つめ、ふとある事に気が付いた。
「どこ○もドアか」

通路というから歩いて行くのかと思えば、これも転送機のようなものだったとはつゆ知らず、光はきょときょとしながらもエルク達に続き、予想通り水の国の賢所から出てくることになった。フロアになると、なるほどここが水の国だと一目で解る。内装が全く違った。白の代理石が御影石に変わっている。そして、奥にはまたステンドグラスの前に神サマ。これもまた女神像である。しかし、風に舞う様に衣をなびかせるウィアラ神とは違い、ティア神は膝を付く様に座りこみ長い髪を足の先まで垂れ流す。これも違う美しさがあった。しかし、光を受けていながらどこか暗い印象を受ける。
“水は我等そのものである”
そしてまた聖人の声が聞こえる。巡礼者の影が見える。またココも聖霊会の為に祈り続けるのだろう。精霊の言葉を聞きながら、エルク達はココを後にした。
02/09/19 22:09 『修正』

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えせばんくる
 僕等はサラサラと流れる小川を横目に赤や黄金に彩られた並木道の下を歩いていた。葉の色がもう秋だということを実感させる。
『この辺じゃない?ボク等が出会ったのって。』
 リゲルは不意に足を止める。よく周りを見渡すと見た事があるような気がする。
「って事は同時に僕がアルに後頭殴られて気絶したという別の意味で思い出深い場所なわけだ」
 たぶん顔自体は笑ってると思うんだけど、口元がちょっち引きつってるのがなんとなく自分でもわかる。
『それより宿屋はどうするのだ?』
『そうじゃのー。宿もだが少しどこか茶屋のようなものがあればいいのじゃがな〜。腰をおろしたいしのぅ。』
「もうちょっと先に行ったらもう町の方にでるけど…。なんなら僕先に行って宿取っとこうか?ちょっち気になる宿あるし…。」
 あの最初僕とリゲル達が泊まった宿だ。あそこに泊まってしまったその日から僕等は異次元に飛ばされてしまったし。宿のお姉さんもどこか怪しげだったし。
『じゃぁお願いできるかしら。』
 即決断を下したのはインだった。いつもながらテキパキとしてるなぁ。
「うんわかった。じゃあ先行ってるね!!」
『あ、エルク。ウチも行くよ』
「ん。じゃあね〜♪」
 僕等は皆に軽く手を振ると真っ直ぐ伸びる道を駆けて行った。
『…あいつら、待ち合わせどこのつもりなんだ?』

 行く先々声をかけられる。さっきもエルザおばさんが『エルクちゃん元気だった?』とか言ってくれたし。でもさすがにちょっと疲れてきた。僕ってこんな有名人だったっけ?
 ちょっとグロッキー気味な僕の後頭部に突然ポコッとなにかがぶつかった。「いたーっ…。」とぶつけられたところを撫でながら後を振り向く。
『ようエルク。久しぶりだな。少しは痩せたか?』
 チョップの手をしながら爽やかな笑顔でそう言ったのは武器屋の息子のジェドだった。年頃は僕と同じ位かちょっと上。
「もちろんだよ。旅でがんばったんだから」
 すると彼は僕のななめ後にいた光ちゃんに目をやり口を開いた。
『あいつ誰だよ。お前の彼氏か?』
 チャカした声で僕に耳打ちする。はぁ?何言ってんの?
「かの…」
 “彼女は女性”と彼の質問内容の誤解を正すために口を開いたのだがそれは光ちゃん本人によってさえぎられる。
『あぁ婚約者ってやつかな』
 いきなり肩を引き寄せられる。えぇ!?そ…そうだったの?
「ってんなわけあるかぁ!!光ちゃんも光ちゃんだよ。いちお女性でしょーが!なに変な質問に便乗してんの!」
 あ…焦った。いきなりのことに頭がくしゃくしゃになっちゃったよ。
『って事はお前等レズ……』
「馬鹿野郎くたばれ(ずがっ)」
 さらにおふざけを進行させようとした青年に鉄槌を下した。
02/09/21 14:43 『修正』

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メケ太
(修正:2) 「はは。悪い悪い」
エルクは怒っているのか恥かしがっているのか未だ顔を赤らめて光に攻め寄ってくる。ジェドはその後ろで痛てぇ痛てぇと頭を押さえていた。
「ところでこいつは?」
『え?うん・・幼馴染っていうか』
『俺の名はジェドだ。もう少し行った所で武器屋やってんだ。っつーてもオヤジがやってるんだけどな』
「ウチは黒檜光。まぁエルクとは旅仲間って奴かな」
二人は改めて握手を交わす。
『と・・いうかお前こんなとこで何してんのよ?』
『うん。宿を探してるんだ』
『はぁ〜〜〜〜〜?』
ジェドは首を傾げて、この野郎といわんばかりにエルクの髪をクシャクシャにした。
『何だよ。心気臭ぇ奴だな。それなら俺んち来いよ』
『えぇッ!!?』
エルク・・だけではない光も嬉しいやら意外やら、とにかく驚きの色を隠せずにいた。ジェドはその反応をみて何だよと一瞬、口を尖らすが手を招いて二人を家に導いた。

ジェドの家は街の小高い丘の上にあった。ジェドは親に許可を得るために家に入り、エルクは皆に知らせに行くといって走りだして行った。後に残された光は何もする事がなく、唯、丘の先端にある手摺りに身をもたれて下に広がる街の外を見ていた。風の国は街の外に出ると果てしなく森が続くが水の国は海である。果てしない海。その上には無数に孤島が浮ぶ。そしてそれを繋ぐのは簡単な橋橋である。上から見るとまるで蜘蛛の巣のように張り巡らされる橋の上には漁業が盛んなのかそれとも共通した趣味なのか釣りをしている人々が見えた。
『あれ?エルクは?』
「ん?今、皆を呼びに行ってるよ」
ジェドが歩み寄り、同じく手摺りに掴まる。
「悪いな。しかも大勢で・・」
『構わねぇよ。その代わり俺んちは汚ねぇから覚悟しておけよ』
そうウインクした。そして笑った。
「あんた良い奴だな」
『――――はぁッ!?』
ジェドは不意を付く言葉に赤くなった。光にとっては正直な気持ち。しかし直球な言葉はいつも誰かの困惑となる。
―――よかった――――。
光はジェドを見て改めてそう思った。ココは水の国。水の溢れる豊かな国は彼女が生まれ育った所。潮風が街の吟遊詩人の歌を乗せて吹く。いつか聞いた歌詞の無い歌。彼女が聞いて育った歌が。光はこの街に初めて入るときからエルクのいつもとは違う衝動に気付いていた。喜びを噛締めるように走る。そして人々は親しみを込めてエルクを呼んだ。
「お前エルク好きだろ」
『えええぇッ!?』
ジェドはを耳の先まで赤くなった。図星だろう。しかし、光はその様子をみて愉快に・・嬉しそうに微笑した。
「やっぱりな」
エルクはそんな人だから。誰かが呼びとめる度にふとエルクに見えた焦りの色。光は不審にそれを感じたが、どうやら気のせいだったらしい。
02/09/22 17:13 『修正』

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管理人
(修正:2)  光は、夢を見た。
 不思議な場所だ。緑が溢れ、水が清らかに流れる。鳥達は歌い、まさにそこは『楽園』であった。


 それは『ひと』とよばれるかたちのものでした
 またかみさまとおなじで
 『じょせい』ともよばれるようなかたちをしていました


 その唄は、聞きたくもないのに聞いてしまった『唄』の断片。
 真実を告げているであろう唄の断片。

 誰かが、何かを話している声が聞こえた。
 それはよく、知っているもので。


 時が巡る
 終りはいつまでもやってこない
 終焉への序曲
 しかしそれは最後までながれず、序曲だけを繰り返す
 終りの存在しないもの


(『ヨウ!? イン!?』)
 叫んでいるつもりなのに、声は欠片も届かなかった。


「星が巡る」
「時は満ちた」
 黒き少女と少年は、空を見上げてそう呟く。
「我等のすべき事は」
「私達のすべき事は」
 息を潜めて、視線を交わし、2人は声をそろえてこう言った。
「「残されし者をかのお方の元へ導く事」」

 時が巡る
 星が巡る
 時は満ちた

 さぁ、約束の場所に行こう。


 光は必死にヨウとインに近づこうとしたがそれは果たされず――体が前に進まなかった――、また声も届かなかった。
 【星が巡る】?
 【時は満ちた】?
 【約束の場所】?
 【かのお方】って、誰?
 疑問だけが、心の中で渦巻いていた……。
02/09/22 20:23 『修正』

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メケ太
(修正:2) 『光ちゃ―んッジェドォ!』
はとして背から聞こえる声に目を向けると、エルクが一同を連れて坂を上がって来ていた。光の回想は途切れる。此方に振られている手を笑顔で振り返した。
―――――痛。
『・・光ちゃん?どうしたの?』
「いや、なんでもない」
この頃になってからだ。頭痛が頻繁に起こるようになった。こめかみが痛い。疲れているのだろうか?そう思ってはみるが、それが唯の回避であることに光は自分自身気付いていた。そう、あの時からである。あの二人に会ってから・・・。アルとベルに。
―――憶測だ。
関係ないモノを関係させようとする手はよくある事だ。訳の解らないモノなど気持ちが悪いから返ってそれらデフォルメする。そして思考し、想像し――錯覚する。錯覚とはつまり模範造作のようなものではないだろうか。現実をいかにも洒脱なパロディやパロティーシュにする。それが作品なら良い。しかし、手にして組替えているモノは、とある本や骨董品ではない。現実だ。今であり、その全てだ。
――現実を組替えてなんになる。
光はそう思うのだ。実際、光自身稀に見る堅固な現実主義者であるからそう信じて止まないのかもしれないが光とはそういう奴なのである。ともかく、アルとベルの事に関しては振り切るしかない。錯覚するなら目を瞑る方がマシだ。否、元より関係などある筈もないのだから目を瞑るもクソもない。あの二人には唯――振り回されているだけだ。最近は夢にも出る。まるで祟り神。いい加減にして欲しい。そう自分が勝手に見ていることを棚に上げて光は再度こめかみを押さえる。疲労時における頭を使うという行動と頭痛は関係があるのだろうか?考える度・・二人を思い出す度に痛さが増していくような気がした。

『あらエルクちゃん久しぶりね』
まだ若い。実際そうなのだろうが一目そんな印象を持たせるジェドの母。満面の笑みを浮かべて向かえてくれた。また大柄な父も同様。
『何日でも泊まって行くと良い』
と豪快に笑った。そして、もう一人ジャムという6歳ほど妹。長髪で目の大きい可愛らしい子供であるが,ヨウはそのジャムが気に入ったらしくずっとくっついている。当の本人といえば少々うざったそうだった。
02/09/24 03:19 『修正』

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えせばんくる
(修正:1) 『エルクッ。一緒に海岸行こうよ』
「はぁ……?」
 丘の先端にある手摺とは反対側、家に添うようにして建っているテラスで一行+ジェドがティーカップを片手に話し込んでいるとそこへジェドの妹君のジャムが駆け寄ってきた。そして第一声がこれ。
 彼女の話だと今はもう秋だが海はまだまだ好調でにぎわっているとのこと。せっかく久々に会ったのだから思いきり遊びたい、と。
「う〜ん。皆せっかくだし行かない?」
 エルクは皆に意見を求める。ヨウはジャムが行くとの事で即同行。ヨウはしきりにジャムと遊ぼうと試みたりするが本人は…女性陣(もちろん光も含む)にべったりだった。ヨウが近づいてくるとうっとうしそうに逃げ回り、結局光やインの後に隠れるといった始末。
 インも光もジャムによって強制連行。特にインにひっつきまわっているのは気のせいだろうか。たぶん一番年齢的に近いしなにより一番女性らしいからなのだろう。女性陣のまわりを行ったり来たりしているジャムだが見ているとインの傍にいることが一番多かった。
 ヴツカもOKをだした。残るはリゲ・リグ。
『楽しそうだし…行こうよリグ?』
『ぁ〜。しょうがねぇな。行ってやるよ。』
「うん。じゃぁ皆行くって。」
 エルク等一行のOKを得たジャムは嬉しさで瞳をキラキラさせながらニコニコと笑い返した。

 とは言うものの海水浴用の水着など持ってるはずもない。だが何故か不思議なもので、そんな一行の中でインとヨウだけは準備万端整っていた。まぁ不思議なのはいつもの事。残りのものはそれぞれ私服を荷物の中から引っ張り出し着用する事にした。だが光は長ズボン一着しか持っていないのでどうしようという事になった。すると奥からジェドが昔はいていた膝丈のものを出してきてそれを貸してくれるという。
『やっぱお前って良い奴な』
 礼に弱いのか光に渡すとさっさとリグ等の方へ行ってしまった。

 エルクはいつもの短パンにハイネックのT-シャツ。ただグローブは外し、靴はジェドの母親のサンダルを借りる事にした。光は先ほど借りたジーンズに脚を通すが、タイトでもなければダボダボでもなくなかなか丁度良い。色も黒なのでシックな光にははまっていた。リゲルは自分のズボンの裾を少し折り曲げ上はやはり半袖のシャツ。いつも肩に羽織っていた服ははずしていた。
 リグとヴツカは水遊びをすることをあまり考えていないのかいつもの服装。まぁヴツカはコートを脱いではいたが。
 荷物やもう昼時なので昼ご飯を持つと一行は丘を下り海を目指した。
02/09/23 12:35 『修正』

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メケ太
(修正:2) 太陽でキラキラと光る海が眩しい。なるほどジャムがいうように海岸には多くの人がにぎわっていた。――――特にカップルが。子供もいるのだがどうにもそっちに目がいってしまう。
――なんと白昼堂々な。
足を踏み入れた瞬間にばつ悪く一同顔を歪めるがそれでもジャムは関係がないと無邪気。水着姿のジャムはエルクとインの手を引いて一直線に海の方へ走って行った。リゲルもその後を追う。
『ワシも行くかのぅ』
『止めとけって』
リグとヴツカはさっそく日陰のある石壁に背をもたれている。
『光君も来てーッ』
『彼女はお前よりも光をご指名だぜ?』
―――光君。
自己紹介の時にエルクによって解消されたはずのこれはジャムには未だ理解されてはいない。最初はおじさんやおばさんが呼ぶ度に注意をしてくれていたが、もう馴れた―――というより諦めたといったほうがいいだろうか。一向に理解してくれる様子もなかった。常々、子供というのは正直である。
『ほらッジャムが呼んでいるだろうが!はよぅ行け!!』
―――八つ当たりかよ。
光の背をバンと押して急かした。

『うっわー日に焼けたねー』
潮風と日にあたり続けた皮膚は見事に健康的な色となった。服をめくるとくっきりとした後がそれを物語る。昼飯を挟んで夕方までキッチリあそんだせいか疲労感も凄い。光は浜辺に寝そべる。
―――辛。
子供とは如何して中々こんなに元気なものか。自分にもこんな時はあったのであろう。しかし、今とは違う。ジャムの若さにもうついて行けなくなっている。
『光君ー。どうしたの?』
すかさずジャムが駆け寄る。まだ遊べど訴えて来る。
「おねぇさん、もう歳なんよ」
無理無理、もう無理。インも歩みよって此方を覗く。未だ冷ややかな顔である。リゲルもエルクさえも見た限り疲れているというのに。一体その持久力はどこからでるんだ?ああ、人形だっけ?光は疲れのピ−クで思考そのものを止めてしまっていた。こんな時は何事においてもどうでも良くなるモノだ。インを素で人形だと認めている自分が笑える。ははははは・・。それでも頭は痛い。しかし、コレは正真正銘の疲労から来る頭痛だ。酸欠気味なのだ。
『夕飯よー』
『あ、ママ』
丘に続く坂道を下りながら、エプロンをつけたままのおばさんがにこやかにいった。日が海に飲まれて行く海辺はもう人はほとんどいない。いたとしてもこれまたカップルがぽつぽつといるだけだ。つまりはここはデートスポットなのだ。これは何処の世界でも変わらないらしい。
『あらあら、これじゃぁご飯の前にお風呂ね』
ボロボロになった一同を見ておばさんはそう笑った。
02/09/24 16:22 『修正』

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えせばんくる
(修正:1) 「ただいまぁ〜♪」
 てへへと後頭をカリカリっとさせいたずらをした子供のように帰ってきたエルク達。リグとヴツカ以外皆砂まみれの海水まみれ。まぁリグ等も何度か襲撃を食らったのだからあまり変わらないか。
『おぅ派手にやってきたんだな』
 手もとの新聞から視線を彼等に移す。
『先に風呂行って来るといい。冷えても困るしな。』
『そんなこと私がもう先に言ってありますよお父さん』
『おぅそうか…;』
 お母さんにツッコミをいれられちょっと気まずそうに新聞で顔を隠す父を見るとなんだか可笑しい。
『イン・光君・エルク君一緒に入ろうよ〜。』
「『えぇっ!?』」『……』
 エルクはまた光ちゃんと入るという照れと無表情のインを指名したジャムへのちょっと驚きから、光はまだおチビさんの子守りしなきゃなんないのかと言う脱力感から、インは…あいかわらず無表情。
『ジャムと入んのイヤァ?』
 じぃっと上目使いで口を尖らせながら無言で訴えてくる。
『……』
『「『……』」』
 暫しの静寂が訪れる。が、あっけなくそれも崩れた。
『いいわよ。ね、エルク。神唄の子…いや、光』
 “神唄の子”のところは聞こえないような小さな声で呟いていたがただの言い間違いか…。
 そんなことよりもインがあっさりと承諾した事に驚きを隠せないふたり。
『イン姉さん大好き!!』
 きゅっとインの脇に抱きつくその姿はなんとも無邪気だった。そんな無邪気な笑顔に結局は丸く治められてしまったふたりもOKを出さざるえなくなってしまった。

02/09/25 00:00 『修正』

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メケ太
「こら、動くんじゃない」
光は濡れたジャムの体を拭こうと悪戦苦闘するが、なかなかジャムははしゃいで聞いてくれそうもない。――というよりそんな光の様子を楽しんでいるようにも見える。光は心底疲れた顔で項垂れた。
「ふぁっくっしゅんッ!!」
――俺の方が風邪ひくぞ。
風呂に入ると案の定、焦げた肌がチリチリと痛んだ。お湯の張った風呂につかるなり今までの疲れどっとが出るが、まだまだ、安息など得られるはずがなく、予想通りジャムは大はしゃぎ。風呂につかればお湯をばしゃばしゃ。体を洗えば泡をぶくぶく。そして―――体を拭けばこの始末。これで疲れが取れるわけがない。光は自分の事も厳かに髪も体も濡れたまま腰にタオルの姿である。
「このッ!!」
『きゃぁッ!』
こうなれば意地でも拭いてやるッ。と言わんばかりに光はジャムを捕まえた。その様子を見てインは楽しそうねと言い、エルクは笑った。
―――どこがやねん。

その後は男子が入り、食卓にやっとつけたのは20分後ぐらいだった。
それでも温め直したのか、料理は全て温かかった。本当に申し訳ない限りである。光はなんとなくそんな理不尽な思いに掻き立てられた。食事中は希望もあって旅先の話しをして盛りあがった。しかし、ちょっとした話しの合間を縫ってジャムが話題を変える。
『ねぇ、イン姉さんはいつまでココにいるの』
ジャムはそう袖を引っ張る。
『?』
『この子ったら、明後日に行われる聖霊会の昼にあるフィスティバルに行きたくってしょうがないのよ。だけど私達は仕事があるし、ジェドったら友達と行くとか言ってねぇ』
ジェドはばつ悪く顔を逸らした。ジャムは本気で行きたいらしく、ねぇねぇとイン――を通して全員に訴え掛ける。しかし、インは無表情だ。
そう易々と答えられる訳はない。これからの予定など決まってなどいないのだから何の支障もないのだけれど、全員が全員気にしているのは、自分意外の者の事だ。もし自分が良いなどといったら他の者がどういうかなど――解りきっている。その時のフォローが出来る自信がない。こんな時にリーダーが居てくれたらと誰もが思うのだ。そう、誰もが・・
『いいよッ!一緒に行ってあげる★』
「えぇッ!!?」
―――エルクッ!!
『おばさん、明後日までいていいですか?』
『ええ、それは構わないけど・・』
――いや、というか。
これでいいのか?光は酷く狼狽する。勘ぐっていた事が尽く外れてしまったのだ。否、壊されたといったほうが正しい。しかし、はとするとインが・・リゲルがヴツカが、リゲルさえも押し殺すような複雑な顔をしながらも口元が上がっている。微笑している。
『やったね。ジャムちゃんッ』
エルクが満点の笑顔で笑う。
―――あ。
光はふと思い出した。自分が助けられた日。はじめてあった日を。あの暗い場所でエルクが泣いてくれた事。
―――ははは。
いつも惑わされながらその笑顔に癒される事。エルクらしい事。
「まったく。やられたよ」
光は小さくそう呟いた。