夢を見た。

それは日が昇り、朝が来ると共に
全て忘れていってしまうのだが
幾度となく繰り返される

夜毎夜毎・・・

私の魂は2つに解れ
螺旋状に交差して
下へ下へと落ちて行く。

夜毎夜毎夜毎夜毎夜毎夜毎夜毎
夜毎夜毎夜毎夜毎夜毎夜毎夜毎

私は一つになる日をずっと
待っていたというのに・・・。

私の運命は輪を成さないまま
廻り始めるのだ。


暗い闇に一筋の明かりが見えた。

ドアの向こうはまた唯唯、闇が広がるばかりだった。
クリスタルに灯した小さい光は溶けこむ闇の底まで届かず
部屋の全貌が確認出来ない。その為、不安が胸を押す。
この先になにがある?魔物、怪獣、ゾンビ、トラップ・・。
エルクはロッドを握る手に力を入れた。
『危険だな』
『ライトしよっか?』
このままでは危険過ぎる
『リゲル、クリスタル持ってて』
『あ・・うん』
『いくよ』
肩の力を抜き、集中する。
やはり、落ち付いた環境の方がやりやすい。
『!?な・・ッ』
その時である。目の前にいたリグの様子が可笑しい。
『ちくしょうッ誰だ!?』
『え・・何、何?』
『うるせぇッ早く明るくしろッ!!』
『う・・うんッ』
リグに恫喝されながらも、途切れそうだった集中力を繋ぎなんとか
エリクはライトを唱えた。すると部屋はたちまち明るくなり、
皆はある一点に視線を集める事になった。
そこには黒髪の小柄な一人の少年が居たのだ。
歳はエルク等と同じくらいだろうか・・・。
『てめぇ・・ふざけやがって。何モンだッ!』
どうやらリグはこの少年に後ろから闇討ちにあったらしい。
彼の手にはそれを表すかのようにパイプのようなものが握られていた。
『クソッやるってのか?』
リグは不意を付かれた事もあり、完全に怒りに達してしまっている。
しかし、“やる気”があるにしては様子が可笑しい。どうみても
そんな勢いではないのだ。どちらかというと怯えている様にも
見えなくはない、そんな顔をしているのである。
『ちょっと、リグ。なんかあの子、様子が変だよ?』
『あぁッ?』
リゲルが様子に気付きリグに言うが・・・もう構え始めている。
どうやらもう、そんな声さえ届かないらしい。
そして・・
『誰なのッ!?君』
エルクが声を上げた。そしてつかつかと前へ出た。
『えっ・・ちょっと、エルク』
この状況が目にはいらないのか?
・・というより何でいつもこうなのか・・。
リゲルはあらゆる場面でこういうエルクを見てきたが、
その度にこう思わされるのだ。エルクだけではない。
今のパーティーの殆どもエルクに負けぬほど互いに個性大爆発な
連中ばかりだ。・・アルもベルも入れて・・。
だが、それ故に皆が皆、『この中では自分が一番“普通”なのだろう』
と思っているのだ。リゲルがそう思っているように・・。
『ねぇ?だぁ〜れ?』
リゲルが呆れ返っていることもお構いなしに当のエルクは
つかつかと歩を進める。
『あ・・危ないッ』
相手がいくら怯えていそうな・・そんな顔を浮べていたとしても
緊迫した空気を帯びている事は確かなのだ。
それを・・しかも、相手はパイプを構えているというのに、
そんな無防備に飛び出したら、危険に決まっている。
しかし、そんなリゲルの心配はその少年自身に打ち砕かれた。
エルクの思いもよらない行動に抑えていた恐怖が頂点に達したのか
パイプを捨てて後退ったのだ。

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えせばんくる
(修正:1) 「あ。まって!けっして怪しいものじゃありません!」
『ばか;(呆)鉄パイプにぎった相手に不用意に近づく奴のどこが普通の奴なんだ。どっからどー見ても変な奴だろうが;』
「(^ー^怒)」
『(Σ−□ー)』
 リグはエルクのロッドを一太刀あびてうずくまる。まぁ仕方のないことだ…。“急所”にいれられたのだから…。
 そんな蒼髪の少年と一風変わった少女のやりとりを見た少年はさらにおびえた表情を見せ後退する。
「ぁ…遅れたけど ≪ライト≫…」
 少女が唱えた瞬間瞬時に部屋が明るくなる。
「はぅあ;まぶしっ;」
 少年はそんなチャンスを見逃さなかった。エルクが自分の放ったライトの効果で眉をしかめたその時、床に落としていた鉄パイプを足で拾い上げ一気に間合いを詰めた!
『エルク!』
「ほわぁっと!」
 危うく一太刀くらうところだったがリゲのとっさの一言でしゃがみ太刀を頭上にやり過ごす。一振りすると彼はまたポンッと後ろにバックする。少しはできる相手のようだ。だが手は少し震えている。
「もお〜怒ったよ!僕なんにもしないっていったのに!!」
【銀の名において、我が身の隠されし姿を現さん】
『!!?』
 彼女が不思議な呪文を唱えると同時に彼女自身が淡い光に包まる。次の瞬間彼女は現れたが異形な形をしていた。とは言っても顔形が変形しているわけではない。だが今までついていなかったはずの角と翼がはえていたのだ。これはどう見ても人間ではなかった。
『おっ…お前何者だ!!』
「召喚士サマですよーっだ!」
 ベーッと舌をだしながら反抗する姿はどうみてもタダの女の子にしか見えなかった………。

02/08/31 17:25 『修正』

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メケ太
(修正:2) 「召喚・・師?」
少年はさらに困惑したような顔を浮べた。
目は明らかに翼と角の生えたエルクに釘付けである。
「・・魔女」
『はぁ?』
意外に高めの声で発せられた一言にエルクは・・いや、
エルクだけではない、全員があっけにとられたような顔をした。
「いや、魔女なんかじゃないそんな・・角と翼・・やっぱりお前等は魔物だッ!!」
声高らかにそう締め括る。
『ちょ・・ちょっと待ってよッ』  
02/08/30 18:40 『修正』

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えせばんくる
(修正:1) 「魔物とは何よ、魔物とは!」
  【がくっ】
 彼女のその一言にリグはうなだれた。
『そっちかよ!?(呆)』
「もち!!(びしっ)でもなんでそんな声高いの?(驚)男の子なのに…珍しいね。」
『……魔女に言われたくない。』
 彼はボソリと、意外にも高い声でそう呟くとパイプを肩にかつぎあげ一言。
『ウチは女だ、まぁ別に…そう言われんの馴れってっからいいけど』
「へ?そうだったの?」
 コクリとうなずく彼女。見ようと思えば女にも見えるが、だがたいていの人々にはどうみても整った顔立ちの細身の男性にしか見えない。
 3人があっけにとられていると、彼女はかついでいたパイプをエルクの目の前までまるで距離をとるかのようにスッと下ろし固定する。
『それよかあんたはだれ?ショウカンシとか言ってたけどあのゲームとかなんとかの?それとも魔女?なんなんだよ!?』
「もぅ。召喚士って言うのは召喚獣を召喚し操る人のことだよ」
『お前もついこの前しったばっかだけどな』
「うるさいほっとけ;(−ゞー)それよか“げ−む”って?普通のゲームの事?皆でやる賭け事とかの?召喚術で賭け事なんて聞いた事ないけど…」
『だぁからあんただれって聞いてるんだけど!?』
 ギリっとパイプを握る手に力がこもっているのが少しわかる。
「ぼ…僕はエルク・イーファだよ?で、こっちが…」
『リゲルだ。だがこいつもリゲルなもんでな。俺の方はリグだ。勝手に決められたんだがな。(呆)』
『ボクはリグから紹介があったリゲル・アーリア。見かけない衣装を身にまとっているみたいだけど…あ、ところで君の名前は?こっちが自己紹介したんだしそっちもするのは礼儀だよね?』
 最近出番が少なく久しぶり(?)のリゲル君はにこりと笑顔を見せると相手の言葉をまった。

 
 
02/08/31 17:26 『修正』

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メケ太
「ココは何処だ・・・」
一人つぶやく様に声を漏らす。怯えはもうなくなっているのか、しかしその顔には新たに辛そうな・・どことなく悲しい表情を浮かばせた。
3人はただ返答を待って、この見慣れない雰囲気を持つ少女を見守るばかりである。そして、何かに思い至った様に少女は顔を上げた。
「ウチは黒檜光だ」
『くろび・・こう?』
リゲルは何度も口の中で繰り返した。不思議な響きだった。
「ウチは自分がなんでこんな場所にいるのか解らない。記憶喪失でもなければ健忘症なわけでもない・・でも、気が付いたらこんな暗いトコにいて・・お前達が来た。」
光はそういうと一言
「悪かった」
と付け足した。
気が付いたら暗い中で一人きり、不安でどうしようもなかっただろう。
そう考えると、フッと少女の怯えていた顔が頭によぎった。
「言葉は通じるが人種的には全然違うというこ・・」
『もう大丈夫だよッ!!』
『そうだよッ僕は君の仲間だからーッ!』
「え・・いや、あの・・」
エルクとリゲルはもうもらい泣き状態。リグはまたこいつらは・・と呆れ顔であるが一番呆れたいのは光のほうである。
『僕と一緒に来なよッもとの場所へ返る方法が見つかるかも知れないッ!』
エルクは身を乗り出すとそう光にいった。しかしリグは聞き捨てならない。
『ちょっと待てまるで捨て猫を拾うかのようにひょいひょいパーティーにいれんじゃねェーよッコイツだってまだ・・』
『う・る・さ・い――――ッ』
またもやエルクの一発。・・と思ったら今回ばかりはリゲルも加勢にはいっているらしい。その後はもう罵倒・暴言の的である・・。
『ともかくッ光ちゃんは絶対連れてくのッ!!』
・・ちゃん?っと普段ならツッコンだトコだろう。しかし・・
「エルクッ」
今の光にはそれどころでもなく、エルクの手を掴るなり
「ウチはエルクが好きだッ!!」
・・と、思った事は単刀直入に伝えるという悪い癖が出てしまっていた。暫しの間、そこだけ時の流れが止まった事は言うまでもない。

02/08/31 13:04 『修正』

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えせばんくる
リゲ:『…。』
リグ:『呆』
エル:「…?(\−△ー\;)」
 光と名乗る少女の突如の告白にエルクはたじろぐ。そんな反応に光はハッと気づき慌てて補足を入れる。
『ぁ…!いっとくが同性愛者とかそんなんじゃなくてだな…;』
 その言葉で「あ、そういうことか」とエルクは理解する。
「僕も光ちゃん大好きだよ!!一人ぼっちで淋しかったよね!?だいじょーぶ僕がなんとか説得してみるから」
 先刻までのあの張り詰めた雰囲気や魔物だなんだと喧嘩していたのはどこえやら。今ではすっかりそんな事お構い無しだ。
 エルクは大好き〜!というと同時に光にキュッと抱きつく。よくよくエルクの顔を見てみると瞳のあたりがほんのり赤くなってる。それはリゲルの方も同じであった。
(『いきなりあらわれた見ず知らずの奴に涙流すなんて…』)
 そんなふたりの姿をみていると胸の奥の方が少し熱くなった。それもつかの間…。
『ぁあ゛?勝手に決めんなよ?お前パーティのリーダーかよ?足手まといになるかもしれない奴増やしてどうするってんだよ』
 だがそう言いつつもリグは心の中ではそんな事あまり思ってもいなかった。先ほどのエルクとのやりとりを見ていて異世界からきたらしく亜人や魔物を見なれていないらしいが、パイプの一太刀一太刀には切れがあり剣や棒を持たせたら結構な手ダレになることは間違いないだろう。
 だがリグの意地が光のパーティー入りを許そうとはしなかった。
「ちょっとリグ…。まだそんなこと言ってるの?」
 エルクは光から離れるとリグに向き直る。
「そんなに意地っ張りにならないでよ。もし僕達が光ちゃんをここで置き去りにしていったりしたらまた光ちゃん一人ぼっちじゃないか。そんなの……淋しいよ…。」
 最後の一文を口にした時エルクはリグの服の裾をつまむと少しうつむいた。表情が少し暗い…。エルクは普段は明るく天真爛漫な少女だが、時折この様な淋しげな一面を見せる。昔なにかあったのだろうか…。
『リグ。光ちゃん一緒に連れていって後でヴツカやアル達に相談すればいいんじゃない?』
『…』
『ねぇそうしようよ?返事してよリグぅ』
 リゲルもつんつんとリグの服の裾を引っ張る。すると彼はとうとう観念したように腕でエルクとリゲルの手を払いのける。
『あ゛ーうっとうしいな。しょうがねぇ。こんなとこ置き去りにして、後で化けて出てこられても成仏させようなさそうだしな。その代わりメンバーに入れる入れないはヴツカ達の意見も聞いてからだ。いいな?』
 エル・リゲの表情はパッと明るくなり、光の手をとって3人で万歳をする。リグはそっぽ向いて呆れかえっていた。光は驚きを少し隠せずにいたがこうして無事、臨時パーティーメンバーとして認めてもらえたのだった。
「よーっし!!次の部屋行ってみよう!!!(びしっ!)」
02/08/31 17:23 『修正』

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管理人
 エルク達が出て行った後の、ヴツカ達。
「……」
「……」
『……』
『……』
 異様なまでの【静けさ】が、その空間を支配していた。
 はっきり言って、その様は気味が悪いほど。
 屋敷の主は不機嫌オーラばしばしでお茶を啜っている。
 ベルはベルで相当不機嫌な様子で椅子に座っている。ヨウの身体でのその表情は、あまりにも不釣合いで、違和感がにじみ出ている。
 アルはただ耳を澄まして、静かに座っている。
(『…はて、どうしたものか……』)
 瞳は光を映さないが、その分気配には敏感なヴツカ。これからどうしようかと思案する。
 リグ達が、戻ってくるのを待つか。
 それとも強引にここから出て行くか。
 一番楽なのはここで待つ事。なんせ、いればいいだけなのだから。
 強引にでていく――今の状況では、容易いことに思える。
 屋敷の主はなるほど、かなりの魔力の持ち主だ。しかし『アル』と『ベル』には及ばないのか、その魔力を封殺、もしくは無効化されているようだ。そのような状態で、この明らかになよやかな青年を無視して外に出ることは難しくはないだろう。
 問題は、『アル』と『ベル』がどうでるか。
 考えていたその時、空間に動きが出始めた。
「…来たわ」
「…だな」
 意味不明の言葉を発し、アルとベルの2人は立ちあがった。
『なにがだ?』
 あまり正確には答えてくれなさそうだが、取りあえず聞いてみる。
 問われた2人は顔を見合わせ、意味深な微笑を湛えた。
「来たのよ」
「神唄のガキ、がな」
 案の定、2人は“意味深”な答えをよこした。
 やれやれ、と言った感じでヴツカも立ちあがる。
『!? どこにいくつもり!?』
 屋敷の主、慌てて立ちあがり、反論(?)。
 しかし、アルとベルは悠然として、
「そりゃぁ勿論」
「神唄の子供に、顔合わせしに行くのよ」
 と言った。ベルはおまけとばかりに「ついてきてもいーけどな」とも言った。
「…それに、今この屋敷の主導権は、誰にあると思ってるのかしら?」
 インの顔で、ふてぶてしく、意地悪く、彼女はそうつけたした。
 2人はそのままさっさと部屋を出て行った。その後にヴツカが続く。
 残された屋敷の主は、悔しそうに、それでも3人の後に続いた…。
02/08/31 21:17 『修正』

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えせばんくる
『…ないね』
『ねーな』
「……」
『?』
 これまで開けてきた扉の数およそ99。だがいっこうに見つからないしまだ扉数はかなり残っている様子。とりあえずこの階の扉らしきものはすべて探索した。だが変わったものはひとつとしてない。
「趣味の悪そうなのはいっぱいあんのにね〜」
『そーだねぇ』
 光はリゲ・エルのやりとりを見つめながら彼らが何を探しているのか考えていた。彼女はエルク等の後をひっついていきながらすべて見てきたが、理解不能な呪文を使うし棚はひっくり返すしおまけに開かずの扉とくりゃ素手でこじ開けようとする奴もいるし…とにかく彼女にとって彼等の行動は意味不明な事だらけだった。
(『ほんと、ここどこなんだよ…』)
 だがこうしてついて行くだけではなんにもわからないし、手助けすらできないのでとりあえず聞いて見る事にする。
『ねぇエルク…ウチ等なにしてる…』
 『ウチ等なにしてるの?』と聞こうとしたときリゲルがその言葉をさえぎった。
『あ、新しい扉!』
 4人が最端の下りの階段にさしかかろうとしたとき丁度目の前の壁に少し切れ込みがあるのをリゲルが見つけた。
「ほんとだ!リゲルよく見つけたね〜」
 薄暗い中切れ込みを指でなぞる。だが隅から隅まで眺めても取っ手が見つからない。何回も上から下まで舐めるように4人で探したが見つからない。
「無いし…」
 エルクは壁に手をつきながら沈む。そんなエルクの役にたてないか光は頭の中の情報をがんばってフル活用させる。するとひとつだけ考えられる事があった。だがそれは彼女の現実主義的考え方からいうとまったく180度反対の結論だった。だけど少しでも力になりたい。
『ねぇエルク。扉を呪文で開けたりとかってできないの?ひらけーごま!っとか。』
「う〜ん。ひらけーごま!は知らないけど………。」
 彼女は額に手を当て≪考える人≫のポーズをとりがんばっておもいだそうとしている。少し時間がたったのちひとつの呪文をおもいだす。
「あ!!そーだあったあった。“ノック”っていうんだけどね」
『それをさ、扉に使って見たら?』
「あ!それすっかり忘れてた!!ありがと光ちゃん!!」
 ひしっとエルクは光にしがみつく。
(『少しは役に立てた…かな?』)
 そんなことを考えながらエルクをみつめる。彼女はすでに光から離れており呪文発動体勢にかかっていた。
「やーっぱ呪文使うとき翼と角でてると違うみたい。魔力の流れが体の中でもス−っとわかるや♪」
 彼女は両の手のひらを扉の中央に向けて精神を集中させる、と同時に呪文を解き放つ!
「≪ノック≫!」
 するとドアがズグゥオォっととてつもない音をあげながら開く。次の瞬間中でなにか2つのものがギラッと光り光の矢の如く鋭い爪の先制攻撃が舞う。それは一番先頭にいた無防備のエルクの右肩から左肩にかけて引き裂く。
『……!!!』
 光が立ち尽くす目の前、血しぶきが舞う中エルクはその場に音も無く崩れ落ちた……。
 
02/08/31 22:43 『修正』

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管理人
 くすくす…

『だれだ!?』
 突然頭上から聞こえた声に、リグはとっさに身構えた。
「ひどくなーい?それ」
 上から聞こえた声――しかし後には突然イン。否、アル。しかもその隣にはヨウもといベル、ヴツカ、そして不機嫌ばりばりの屋敷の主。
『お前っ』
「あーらら、瞳黒くしたまんまあんなことしたから…」
 リグの言葉などまるで無視してアルはエルクに近づく、が…。
『……』
 無言で彼女の前に光が立ちはだかった。明らかに、光は突然現れたアルを警戒している。エルクを守ろうとしているのかもしれない。
 しかし、そんな光に対してアルとベルは検閲するように彼女を眺める。
「ふ〜ん…」
「こいつか…」
 周りにとってかなり意味不明な言葉をはいてから、光を無視してエルクの方へ向かおうとした。
『お前等、なんだよっ………っ!?』
 いきり立つ光、しかし彼女はアルに軽く触れられただけで、3mほど吹っ飛んでしまった。
 アルは自分のやったことなのに我関せず。エルクのそばまできてしゃがみこむ。
「…結構やられたわね」
 そう言って、帯に差されていたあの水晶の『花』を取り出した。
 なにかの呪文をぶつぶつと唱えると、その『水晶の花』は光と化し、エルクの身体を包み込んだ。
『…?』
 リゲルの助けで起きあがった光は、エルクが光っている様に見えて、慌てる。
 床に打ち付けられて痛む身体を無視して、アルを退けようとした。
 しかし。
「ガキは、まだ大人しくしてな」
 ベルに阻まれた。ヨウの錫杖を光の前に出し、制止をかけたのだ。
 光が反論としようとした時には、すでに光は収まって、エルクが身じろぎをしたところだった。
『う…?』
「もう平気よ。瞳の色も治ったわ」
 言うだけ言って、アルは立ちあがるとベルと目配せをする。
 うなずくが早いが、二人の身体は床に崩れ落ちた。
『!?』
 その場にいた物達が、目をむく。そんな一行に、頭上から声が響いた。

 神唄の子供さん、また会いましょうね
 今度は本物の身体で来てやるぜ

 そして、消えた。
 唖然としている一行を尻目に、身体を乗っ取られていた(?)2人はむくりと立ち上がって服をはたく。
「行かれてしまったわね…」
 と静かな、淡々とした口調で、イン。
「そうじゃのう…ベルさまは身体の使い方が大雑把でいけんのう」
 肩をぐるぐる回しながら、ヨウ。
 この時光が、ものすごい形相でインとヨウの2人を睨んでいた…。
02/08/31 23:24 『修正』

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メケ太
光の殺気を帯びた視線は二人に向けられつつ、それでもエルクが気になって仕方がないのだろう。少し間を置いた後、何かを振りきるようにエルクの所に駆け寄る。
「エルク、大丈夫かッ!?怪我は?痛くないか?動けるか?」
露骨に不安な顔を見せるなり、エルクに質問の嵐だ。当のエルクは知らない間に怪我が癒え、どうしたのか謎が頭をよぎるが今は目の前の光に
答えなければとそれ所ではない。
『だ・・大丈夫だよッ平気平気!』
エルクは少しでも心配させてはいけないと元気いっぱい満点の笑顔で答えた。これで光も安心してくれるだろうと・・。しかし、そんな姿が光には酷く辛かったのだ。
「よかった・・ッ!!」
光はそういうなりエルクを力の限り抱いた。
『ちょ・・光ちゃん?』
「ウチは・・エルクがもし死んでしまったらどうしようかと・・」
胸が痛かった。胸が痛い分エルクを抱くその手に力を入れた。
「・・ホントによかった」
そしてまたそういうなり、エルクから手を放し、またヨウとインの方に向き直る。ますます殺気にのこもった目付きに変わる。そして、それに
ヨウとインも気付かない訳がない。
『なんじゃ。ワシ等が居ない間に彼氏でも作っとったんかい』
しかしヨウはそれでも冷静に、そうふざけ込む。
『・・おい、挑発すんじゃ・・』
リグの忠告も遮り、光が声を張り上げた。意外に冷静だった。
「これ以上エルクに触れるな」
『・・十分な物言いね』
「次に何かあったらウチは躊躇いなくあんた等を殺す」
『光ちゃん!?』
誤解・・そう誰もが解っていた。あれはヨウでありヨウでなく、インでありインではなかったのだ。光は確実に勘違いを起こしている。エルクに危害を加えたのはあの二人・・インとヨウだと。しかし、当の二人は誤解をどうこういうよりも今の光の発言が気になって仕方がないようだ。
『殺す・・じゃと?』
ヨウは笑いを含めた感じにそう首をかしげた。
「エルクはウチが護る」
次こそは・・そう自分の無力さに強く語り掛け、光はパイプを聞き手に持ち変え二人に向ける。次こそは・・負けはしないと。
02/09/01 01:52 『修正』

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えせばんくる
『やぁあ゛ぁあ゛!!!』
 光はパイプを振り上げるとそのままヨウの方に向かって行った。
『ぅおっとっと!なぁにするんじゃー!?』
 シャンっと錫杖で攻撃を受け流す。いつもの事ながらかなり身軽だ。
『ちっ…!』
 ザッと距離を取り直すと今度は右から後ろに回りこんで左脇腹に棒を叩きこむ!だがこれもあっさりヨウにはかわされる。
『うっとうしい奴だのう。何をそんなに怒っておるのだ!?』
 ヨウにはさっぱり光の怒りの原因がわからない。だが光はそんな事知ったこっちゃ無い。
『うるさい!エルクにこれ以上手だしさせない!』
 そう言いきると渾身の一撃を叩き込む!
 ヨウは逃げない。また受け流しもしなかった。錫杖を頭上にかまえ真正面から対峙する。ギチギチと金属がこすれ合う嫌な音がする。
「光ちゃん!ヨウ達がやったんじゃないよ!」
 エルクが口を挟むが光の耳には届かない。
―――エルクを護らなきゃ―――
 今光の心の中にあるのはその事だけだった。思った以上のヨウの力量に余計な事を考えている余裕がない。
『イン!』
 突然ヨウはインの名を呼ぶ。すると彼女は離れたところから笛を取り出す。そしてそれをおもむろにかなではじめたのだった。
 するとその音色はとても心地よく光の中に浸透していった。
『…!な…なにを…』
 最後の言葉を言おうとする前に光は両膝をつき…倒れた。
「光ちゃん!?」
 エルクが心配そうにリゲルの肩をかりて光に駆け寄る。
『大丈夫。眠らせただけだから。すぐに目覚めるわ…』
 
02/09/01 11:39 『修正』

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管理人
 その言葉通り、光はすぐに起きあがった。早いにも程がある。
 起きあがった彼女の目の前には、無表情なインのどアップ。
『――っ!?』
 ずざざざっ、と思いっきり光は後ずさった。しかし、立ち直るのは早く、すぐさまパイプを握った。
「さすが“神唄の子供”じゃのう。元気元気」
「…ヨウ、兆発しないの」
 からからと笑うヨウに、たしなめるイン。ここまでは、エルク達にとって見なれた光景。しかしその後が問題だった。
「うぬはわし等を殺すと言ったのう?」
 挑発的な問いかけに、光は視線で『是』と答える。
「…無理じゃ」
『なっ!?』
「絶対に無理じゃ。うぬのような人間では、わし等を殺める事は絶対に不可能じゃ。…なぁ、イン」
 怒りに震える光を尻目に、ヨウは横にいるインに同意を求める。
「…えぇ。神唄の子供と言っても、あなたは人間。それにきっと、あなたでなくても、今ここにいる方達では、私達2人を殺す事はできないわ」
 静かに、淡々と事実だけを告げるイン。それは時に残酷で、人々の心に陰をおとす。
 その場にいる者は皆、インとヨウの言葉に疑問を抱く。
“殺せない”とは、どのような意味?
『ぬかせっ!!』
 光だけは、そんな事信じないと言わんばかりに、パイプを目の前にいたインに振り下ろした。エルク達の制止の声は、届かなかった。

 ガキィィン!!

 あるまじき音が、その場に響いた。
 ヨウとイン以外の全員が、目をむいた。
「…でしょう?」
 静かなインの声。
 彼女は、避けなかった。
 長い漆黒の髪が、ふわりと揺れただけだった。
 パイプは見事に肩に当たったはずなのに。
「わかったかの?」
 いつもの調子で『無邪気に』話しかけるヨウは、この場にあまりにもそぐわないモノだった。
02/09/01 14:53 『修正』

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メケ太
(修正:1) 光は腕を押さえ思わずパイプを落した。せせら笑うヨウの声とパイプが床に当たった渇いた音が廊下に響く。手がギチギチという。パイプを通してその固さが伝わり光の腕やその手には大きな負担として振りかかった。何故だ・・。そんなはずはない。そんなはずは・・。震える腕を抑えながらインを見据える。そして
「・・アンドロイド?いや、そんな・・」
また化け物を見るそれへと変わる。
『神唄の子。何をそんな恐れる事があるのじゃ』
光はジリジリと後退り、廊下の壁に背中を付き、身を任せた。顔を下に向け、今までのことを整理したかった。
「知らないだと・・?解離性二重人格者か?アンドロイドがか?いや・・」
その口からは自然にブツブツと言葉が漏れる。頭の中で思考を抑える事など出来ない。
「・・いや、そもそもアンドロイドなんてあるわけが・・。」
『神唄の子よ・・』
「うるさいッ!!」
『光ちゃんッ』
エルクが止めるが、光は脂汗を流しかなり過労してしまっていた。受け止められない現実に体と思考がついて行けない・・。光はぐう・・とその場に頭を抱えうずくまってしまった。夢であればいい・・こんなもの・・。そこへおもむろにエルクが近付き静かに光を抱き寄せ・・泣いた。光は顔を埋めたままで死んだように動かない。しんとなる静寂の中
それでも未だに光の中には想い出の様に懐かしい歌が流れた。

ああ・・それでも私に見えるのは闇ばかりだ。

02/09/01 22:24 『修正』

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えせばんくる
『お前なんであんなこと言ったんだ?』
『なにがじゃ』
 ヨウはあっさり答える。今の空気はもうさほど重いものではない。が、さっきの言葉がひっかかる。
――『あなたでは殺せない』――
 いくらつわもののインとヨウでもそこまで断言できるのか?何を根拠に言っているというのか。
『ぁ?さっきのだよ』
『おぉあれか。まぁいずれわかること』
『星の調べに任せておきなさい。』
 ヨウの返答にインが付け足す。
『?』
 リグには彼等が意図しているものがかわからない。だがこれ以上問い掛けても何らかの形で受け流されるであろう。ひとまず頭のすみにでもおいやるか…。

「光ちゃん…」
 エルクは通路の隅に座り、光の頭を自分の足の上にのせている。時折彼女の額ににじみ出てくる汗を屋敷の主人に用意してもらった濡れタオルで拭う。
 彼女は苦しそうな顔をしている彼女の髪をなでる。少しでも楽になれば…そう思いながら。だがいっこうに回復のきざしは見えない。
「………くすん」
 目じりが熱くなる。体の奥からこみ上げてくるものを必死にこらえようとするがそれも虚しく彼女の頬を流れる。
 するとエルクはあるひとつの歌を思い出した。歌詞は無い。ラだけで歌う、ただリズムだけの歌なのだが苦しいときにこの歌を思い出すとなんだか心が落ち着いたのを覚えている。彼女はトン…トン…と光をやさしく落ち着けるように叩く。ゆっくりとしたリズムでその歌ははじまった。
≪トン…トン…トン…トン…≫
 エルクは叩くリズムに合わせてゆっくりと歌う。あまり蒼の国の方で聞く歌ではない。聞きなれない歌だ。やさしく、そしてどこか淋しげな。おそらくどこかの地方の歌なのだろう。
≪トン…トン…トン…トン…≫

―――光ちゃん…早く瞳さまして…―――
 そんな彼女の願いを込めた歌はただ虚しく廊下の闇へと消えていくのだった。
02/09/02 04:07 『修正』

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メケ太
(修正:1) あれからどのくらいたったのだろうか。エルクの膝の上で光の意識が戻ったのは。皆は思いのまま様様な事をやり、時間を潰していたが唯リゲルとリグはエルクを囲む様にして座っていた。だから今思うと寝顔を見られたと思って光には少し恥かしさが残る。目が覚めて上体を起こすとしばらくして皆が集まって来て、皆は色んな事を聞くが光は半場、ほうけた様にうつむく。エルクもそう心配そうに顔を覗き込んで来るが目を自分で直視する力も出てこない。唯
「・・悪い」
と呟く。そして
「済まなかった。ありがとう。大丈夫だ・・・」
と単語で途切れ途切れにいった。感謝も謝罪も何もかもを。それは囁く様にしか聞こえなかったかもしれない、それでも今の光には一生懸命の
答え方だ。無論、この気持ちが伝わらなかったものはいないだろう。光は目を隠す様にして顔を手でおおう。疲れは未だ取れない。しかし、それでもまだ頭の中は落ち着いていた。
「エルク・・」
『え?何?』
「ウチはまた狂い出すと思う・・・そしたら」
エルクだけではない、エルクを通して皆へと語りかける。
「また歌聞かせてくれん?」
手をどけ、微笑してエルクを見た。
『・・え?なんで光ちゃんそのこと・・』
エルクは今頃になって恥かしくなったのだろうか顔を少し赤く染める。
「実は、あん時な1回起きたんだ。でも、エルクが歌ってくれてるしもうちょっとだけい〜かなぁ・・・って」
『つまりは二度寝したということか』
そうヴツカが横槍をいれた。
『ちょっと光ちゃん!!』
エルクはそう怒ったような恥かしがってるような複雑な顔をした。しかし光はそれでも
「歌上手いじゃん」
と微笑んだ。歌のような、それとも鳥の囀りのようなメロディーはとても心地よく、光は自分自身が癒されるのがわかった。狂って行く自我を抑えて今ココに呼び起こしてくれたのだ。
『まぁ、音痴じゃない分よかったってことよの』
『そしたら眠ったまま二度と起きられねェもんな』
そうリグとヨウはケラケラ笑う。エルクが怒りリゲルが止めに入る・・。この場にはまた少し安らかな笑いが生まれたのだ。
光は何故だか安堵に包まれた。
「不安に思うことなんて何もないのかもしれない・・」
『え?なぁーに?光ちゃん』
リグと未だ言い争い合うエルクが、立とうと身を起こす光を見上げる。
「いや、なんでもない。先を行こうか」
そう手を差し伸べた。



02/09/02 06:12 『修正』

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えせばんくる
「…うん!」
 彼女は光から差し伸べられた手を取ると勢いをつけて立ち上がった。だが問題はそこにあった…
『うぁっ!?』
 あまりにも反動をつけすぎたエルクに光が引っ張られ彼女の上に倒れこむ。
「くはっ!!」
『え…エルクっ!?大丈夫か!?』(光)
『…ドジ』(リグ)
『おぅおぅ、白昼(?)堂々お熱いの〜♪』
「戯け!!今日こそ成敗してくれる!(>△<;)」
『そんななまくらな拳があたるとおもっておるのか!?』
「くっそー;ちょこまかとぉ〜;」
 エルクは即座に立ち上がるとヨウに蹴りや拳を叩きこもうと悪戦苦闘する。だが闘とはいっても二人の間に悪意や憎悪といった空気はまったく感じられない。まるで兄弟喧嘩をしているといった感じだ。
 そんな雰囲気を見ていた光はこの二人、仲は悪いがエルクにとって危険な感じはしないと、あくまで少しだが思った。
(『もう少し様子を見て、やっぱり危険ならヨウの命はウチが絶つ。エルクを護んなきゃだな。』)

 ひとしきり二人の喧嘩がおわり行動を開始した。少々の時が経った後、エルクは屋敷の主人に先ほどの危険な獣の部屋について尋ねてみた。彼いわく、あの部屋は屋敷の番犬なるものの部屋らしい。あの部屋からは直接奴の部屋に通じているので危険極まりないとのこと。最近少し狂暴化したので直接えさをあげるのは危険と思いあの扉を封したのだという。
『ほんと危険な館だな…』
 光がそうつぶやくと主人はくるりと向き直り『館じゃなくあくまで屋敷です』と訂正の意を求めた。
『どっちだって同じじゃないか、なぁエルク』
 彼女はエルクの耳元でささやく。するとクスクスと笑い声が返ってくる。
 一行は主人に連れられ彼がかすかに覚えているいくつかの扉に向かう。どうやら予想はあったようだが言ってしまっては皆が自分のもてなしを受けてくれないと思っていたようだ。だが本当に確かな場所は覚えてはいないみたいだ。
「〜〜〜〜♪」
 エルクは少し気分がいいらしく先ほどの歌を鼻歌まじりに小さな声で歌う。やはりこの歌を聴くと心が安らぐ。そばで聞いていた光もだが歌っている本人もそうなのだ。
『〜♪… 〜〜♪… ♪』
「…?」
 エルクは歌が2重奏になったのに気づき「あれ?」と耳をすます。すると横にいた光が途切れ途切れではあるが彼女の歌を口ずさんでいた。
 エルクがきょとんと見ていると光はそれに気づき
『エルクも続けて』
と継続を求める。彼女は少し口元に笑みをうかべながら続きを歌い始める。
「〜〜〜♪」
『〜♪… ♪』
 すると今度はリゲルもウズウズしだしついに彼も加わった。
 先刻、エルクの歌は虚しく響きわたったが今は幸せな調べを廊下いっぱいにあふれさせ3重奏で奏でるのであった。
02/09/02 16:07 『修正』

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メケ太
(修正:1) 『ここか・・』
案内人に連れられ、皆は一つのドアの前にいた。
リグは上から下までそのドアを触り様子を見るが、別になにも異常はなさそうだ。
『この扉の向こうが出口ってわけだね』
リゲルはそういうとドアノブをひねる。
(「こんな規模が大きいのに出口はこんなに小さいのか?」)
そう光は疑問に思うが、ドアは音を立てて開き始める。
すると、皆の目の前に想像を絶するモノがいたのだ。それは犬・・世にも大きな犬である。全長2mほどのがっしりとした一つの身体にその顔はなんと三つに分かれ、口からは牙をむき出して体ごと横を向けていた。これはどうみても・・
「ケ・・ッケルベロスッ!!?」
光は思いっきり声を上げる。
『あれ?光ちゃんこの犬知ってるの?』
知っているも何も・・そう顔を引きつらせながらまだ続きが残っていたゲームを思い出す。そっくりそのまんまなのだ。
『ちょ・・テメェッ!ここにも番犬がいるじゃねェかよ』
リグはそう案内人に怒鳴り込む。しかし、案内人はそんなものは効かないと言わんばかりに冷静に
『扉の前に番犬を置いておくのは当たり前だろ』
といった。なるほど番犬の後ろには大きな扉があった。しかし番犬を家の中に普通入れて置くだろうか?いや、それよりも
『じゃぁなんでさっきは番犬がいるからって回避したんだよッ!?』
『僕がいったのは“番犬の餌やりようのドア”だっていったんだよ。そして、ココは帰り道ようのドア。どっちにしてもいる事には変わりないんだからドアを開けて目の前に入るよりは良いでしょ?』
『・・・ッ!!』
リグはもう怒りのあまり、声も出ないと言った感じだ。
『おい、いつまでも言い争いをしている暇はないぞ』
ヴツカは部屋の中を見据え、リグに忠告を出す。気配が高まり空気が重い・・。そう、光の大声が悪かったのか、はたまたリグの怒涛のせいか番犬がこちらに気が付いたのだ。唸りながらそろそろと近付いてくる。
『ちくしょうッまたこれかよ!』
リグは無事では済まない自分の運命をつくづく呪った。いや、リグだけではない、ココに居る全員が同じ気持ちだろう。そして息が合ったかの様に一斉に姿勢を変え構える。群れを成す魔力の力と闘志からなる気の力で空気が激しく対流するかとも思えた。一陣の風が舞う。
「エルク、ウチ等が前線を切る。だからエルクやイン、リゲルは後ろでサポ−トに回ってくれッ」
『で・・でも・・』
力が弱いエルクはまず接近戦を好まない。それは自分でもよくわかっていた。しかし、その為に光などが前にいくのはとても危ないことだ。一概には賛成できない。しかし、そんなエルクに光は振り向きざま、笑みを浮べていうのだった。
「これがゲーム攻略の基本なんだぜ?」
と。
02/09/02 18:57 『修正』

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管理人
「ま、そういうことじゃが、光。そんなことしておると遅れをとるぞ?」
 にっ、と笑って、ヨウが風のように走っていった。負けじと光も続く。
『あ…』
 エルクが小さな声をだした。居残り組(?)はエルク、リゲル、屋敷の主、そしてイン。
「気にする事はないですよ。やれることをやれる者がやる。無理して出ていっても、何一ついいことはありません」
『そうだよねぇ〜。ボクは絶対に肉体労働なんてごめんだよ』
『……』
 インと屋敷の主は感想(?)を口にする。しかしリゲルはすこし悲しげに俯いている。
(『僕は、なんの役にも立たないのかな…』)
 割れた眼鏡をはずし、リゲルはそんなことを考えた。
02/09/03 19:42 『修正』

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えせばんくる
『ひゃっほぅ!』
 パーンッ!と助走をかけたままケルベロスの真上まで飛び上がる。人間並みの脚力ではないのは目に見えていた。くるりと空中で身を翻すと『うりゃっ!!』とばかりに錫杖を獣の頭のひとつに叩きつける。そしてそのままの勢いをいかしつつメンバーの元へ戻ってくる。スタッといういい音とともにヨウは着地。
 三つ首の獣は今の打撃で少し足元がふらついた。だがそれはただの衝撃によるものであろう。首をブンッと振るうと瞳で一行をとらえる。
『来るぞ…!』
 リグが緊迫した声で戦闘開始の合図を出した。彼の手には光が見たことも無いような剣が握られていた。いつ出したのか、彼女にはわからなかったが異様な気配が伝わってくるのだけはわかった。
「みんなー!!エンチャントウェポンかけるよ!!」
 エルクは皆に呼びかけると呪文の詠唱にはいった。呪文がかかるとおのおのの武器からさらなる力が感じられるようになる。
『サンキューエルク!』
 そういうと今度はリグの攻撃。一気に踏み込み奴とのすれ違いざま切り込む!手応えはある。だがあまり深手を負わせられたとはあまり思えなかった。
『くそっ!なんて皮膚してやがんだ!』
『やぁあぁ!』
 リグとの入れ違いで光が飛び出す。
『ばっっ!馬鹿!!待てっ!!!』
 リグは静止を叫ぶがすでに時は遅し。奴と彼女との戦闘がはじまっていた。光はヨウと同じく飛揚すると身を踊らせる。パイプの先端を真下に向けるとそのまま重力に任せて落下する。ズブッという鈍い音と共に獣の頭から赤黒い液体が溢れ出す。
『リグどうだ?一匹殺ったゼ!?』
 そのままの視線・体勢でリグに言葉を飛ばす。だがあまりにもあっけなさすぎる。
『光!後ろだ!!』
 ヴツカは奴の気配を察知しすばやく教えるが少し遅かった。
『くぅっ!』
 奴の拳がすぐ後ろにまで迫っていた。即座に受身をとり致命傷はまぬがれるが数メートル飛ばされ壁にたたきつけられる。
「光ちゃん!!」
 パイプが落ちる。その傷口がリゲル達の方まで見えた。
――ゼンゼン傷二ナッテナイ
『そん…な!?』
 カハッと咳き込みながら声を絞り出す。
 確かに手応えはあったのだ。それがなぜ…
『だから安易に飛び込んでいくなって言ったんだよ…!!』
 見ていられないという顔でリグがいう。ヴツカも似た顔つきをしている。
『全力で突っ込まず、まずやつの様子を見ながら徐々に力を上げていけ。自滅しかねん。』
 口で言うだけなら簡単だ…光は唇を噛み締める。リグ・ヴツカ・ヨウの運動能力が並外れているのだ。
『光ちゃん大丈夫!?』
 リゲル・イン・エルクの3人がかけよってくる。いや、性格には2人。インは後から物静かについてくる。
『ぁあ…なんとかな…』
 ふらつきながらも立ち上がる。
「やっぱ光ちゃんここにいて。僕今度かわりにいってくるよ!!」
02/09/03 21:24 『修正』

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メケ太
(修正:3) エルクは遠ざかり、光はよろよろと手を着き立ち上がろうとした。しかし、それを見てすぐさまにインの忠告が入った。
『無理はしない方が良いわよ』
心配というには程遠く、光を無情の視線で刺す。
「このまま・・弱い奴は倒れてろって言うのか?」
光は皮肉交じりに口元を歪ませた。本当はこんなことさえ言いたくはなかった。しかし、そうは思っていても光は明らかに侮蔑を表すこの視線にたえられるほど利口ではない。反発する気持ちを隠しきれない。
『そうよ』
「ふざけんなッ!」
思わず怒鳴った。それでもインは普段のまま表情一つ変えはしない。光とインは顔を見合わせたまま暫しの沈黙が続いた。・・そんなことは解っている・・。今までの事からも見て、やはりココの世界の者との力の差というものはかなりあるということ、それは個人差があるもののスピードや力はたぶん誰と比べても自分が一番下なのだろうと・・そんな事は解っているのだ。だからインの言いたい事も光には十分過ぎるほどに伝わっていた、解らないわけではない。たぶん・・たぶん皆だってそう感じている。足手まといだと。しかし・・
「そんなんで納得できるかよ」
インは目を細める。
「・・認めたくない訳でもない、でもそれをなんとかしなけりゃいけないじゃんか。認めたら終りなんだよそこで。ウチは・・」
前方では未だ番犬との戦闘が続いていた。光は少しふらつきながらもインから顔を反らし歩み始めた。
「・・ウチは・・強くなんなきゃいけないんだよッ」
もう振り返る事はしない。インはもう何も言わずに唯、光を見据えているばかりだった。

意識は遠い。体はギシギシと軋み、今にも悲鳴をあげそうでならない。それでも一歩踏みしめるごとに気を高めていく。もう武器であったパイプさえも、今や番犬の足元に転がって行ってしまって届きそうもないがそれでも番犬の首を打つ事だけを考えた。何処を打てばいい・・?何処に隙がある?・・少し頭痛がした。色んな事を思い出しそうでならない。ココの世界にきて、そしてみんなに出逢って・・エルクに逢えて・・。目の前で戦うエルク。ウチはね・・
(「仲間だって言ってくれたじゃんかよ」)
ウチは君を護りたかったんだ。

番犬に傷が付けられない・・。リグやヨウ、ヴツカも積極的に踏み出すが、状況は変わらない。一体何故・・?エルクは呪文を唱えるべく少し離れた後方に寄った。すると、後ろから黒い影が・・。それは控えているはずの光であった。
『光ちゃんッ?!』
危ないッ。なんとか堪えている様だがどう見てもその傷は体を蝕んでいる。今いったら今度こそは唯では済まないだろう。エルクは止めに入ろうと手を伸ばすが・・光の目に光がない・・。思わず手を止める。いつもは笑ってくれるはずだ、なのに笑ってくれない。嘘でも大丈夫だと言わない。エルクの手をすり抜けて光は番犬のもとへと進んで行く。
『光ッ!!?』
ヴツカがその気配に気付き声を上げた。
02/09/04 00:15 『修正』

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*** この記事は削除されています
02/09/04 18:18

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メケ太
一瞬の出来事だった。ヴツカが叫んで、ヨウが気が付き、リグが走りより、エルクが・・・。エルクが最後に光の後姿を見て終った。そして気が付いたら外の世界にいるのだ。目の前にはもう暗くなりかけている空があっただけだった。清々しく、エルクはぱちりと目が覚めた。
『・・・あれ?』
上体を起こすと傍らにはインが立っていた。
『あら、気付いたのですか』
インは淡々と言い、スタスタと、向かおうとしていた方向に歩みを進める。その方には木に身を寄せて眠っている光がいた。エルクはハッとする。あの後姿が頭に浮ぶ。一体、何が起きたのだろうか・・。
『よう、どうした?』
怪訝な顔をするエルクにリグが後ろから話しかける。
『あ、リグ、あの・・』
『知らん』
『え?』
『知らねぇよ。何が起こったかなんて』
どうやらリグも同じ事を考えていた様だ。
『・・じゃぁ、リグも・・?』
意識が途切れたというのか?益々エルクの中で謎が深まった。リグの話しによると、ヨウとヴツカとリゲルは廻りの様子を調べに言っているらしい。
『あの館からはでられたのかなぁ?』
『そうらしいな』
リグとエルクの視線は自然と光の方へと向かっていた。
『お〜い』
すると、後方からリゲルの声が・・。旅用の水筒を掲げながらこっちへ走ってくる。ヨウもヴツカも一緒だ。
『あったよ。川が近くに』
そう言うとインにその水筒を渡す。
『ちなみにその近くには街もあったぞ』
ヴツカがそう付け加える。やはりココはもう完全に外の様だ。
『街!?宿屋あるかなぁ〜?』
エルクは自然に嬉しくなる。
『まぁ、待てい。まずはこやつを起こさんと話にならんじゃろうが』
ヨウはそういうとインに目配せをした。そうするインは水筒を持ち、
『起きなさい』
といい・・思いっきし光に水をぶっ掛けた。
『・・・ッ!?』
すると光は声もなく思いっきり目を見開き・・
『な・・何?!』
お目覚めとなった。エルクは可愛そうに思いながらも前にヨウにタライいっぱいの水をぶっ掛けられた事を思い出す。これが二人式の起こし方というものだろうか・・。エルクだけではない、思わず皆が苦笑いをする。
『ねぇ、あの・・光ちゃん』
『お前、何したんだよ?』
エルクはおずおずと聞き出すが、リグが横槍をいれる。光は濡れてまとまった髪の一束一束の先端から水の雫をぽたぽたと垂らしながらリグの目を見上げるがその目はいかにも怪訝そうである。そして、
『こっちが聞きたいよ』
と眉を吊り上げた。
02/09/05 23:33 『修正』

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管理人
「あら、外に出ちゃた」
 地上であり、地上でない場所から、その者はそう口にした。
 鮮血を思わせる紅い髪と瞳。その瞳は大きな鏡からエルク達を見ていた。
「…なにが『あら』だよ。最初からそのつもりだったくせに」
 横からつっこみをいれたのは、真っ青な髪と瞳の青年。
「しかも風の国になんて送りやがって……あそこは神殿とかもやたら多いんだぞ? あの神唄のガキはもう気付いてるかもしれねぇが、他のやつらが知ると随分と面倒じゃねぇのか? あとこの間の水晶はどうした?」
 少し眉間に皺をよせて、その青年は鏡を小突いて見せる。
 対する彼女は、くすくすと笑って見せた。
「水晶は少し小さいのよ。他の事は、ベル、わかってるでしょ?」
 相手への途方もない信頼からくる、余裕の言葉。これくらいわかっているでしょうと、意地悪く言って見せる。
 青年――ベルは1つ溜め息をついたが、その表情はひどく楽しげでもある。
「…まぁ、な」
 そう返事をして、2人は鏡の中に映る不思議の者達を、ただ見ていた――……。
02/09/06 15:58 『修正』

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メケ太
エルク達は知らない解らないの一点張りである光への質問を諦めて、ひとまず今日泊まるための宿探しをするべく街に向かった。リゲルやヨウ、ブツカに案内されながらしばらく歩くと何やら大きな門が見えてき、二人ほどの兵が駆け寄ってきた。簡単なチェックだといって、皆の事をチラチラと見る。光のところで少し止まったものの、怪訝な顔をしただけで特に何もなかった。光は思わず安堵の息をつく。しかし、街の中を見ると、次は歓喜の息をこぼした。
『すっげぇ・・ココってなんてトコなの?』
『風の国じゃよ』
前に歩いていたヨウが振り向きざまに答える。風の国・・実に、その名の通りの街並みだった。レンガ作りの建物の屋根には風車が建ち、風見鶏がクルクル回る。街の真中や、道の端には花が咲き乱れ、まるで花の道を通っている様に思える。暖かな春風の様にさらさら風と風が吹くと
木や草の花が舞って実に美しかった。光はまるで風を見て取る様な心地に襲われる。きっとこの街では風の流れがわからないということはないのだろう。やわらかな風が吹いても動かぬモノなど何一つなかった。
『あの奥にある建物は?』
光は街のずっと向こう、大通りの果てを指差す。この街は入ってから中心部があり、そこから四つの大通りの分かれる。正しく言えば、一つは入り口であり、出口である門に繋がる道。そして、後の三つの大通りはちょっと変わった大きな建物に繋がっていた。
『あれは神殿だよ。あとの2つは賢所、王霊殿』
エルクはそういいながら、右をから左に指を動かせた。
『かしこどころ?』
『えっとねぇ〜・・』
するとごにょごにょと考え込んでしまった。エルクも知らないらしい。
その様子を見てヨウは呆れ顔で説明に入る。
『三殿の一つで、この国の神が宿る場所じゃよ』
『じゃぁ・・』
『ちなみに王霊殿は王霊を奉ってある所。神殿は神を奉る殿舎じゃ』
光の質問が終る前に言葉を付け加え、さっさと終わらせたいという顔でまた歩き出してしまった。
その後エルク一行は大通り沿いにあった大きな宿屋に泊まることにした。光はお金がない自分が申し訳なく恥かしい気持ちでいっぱいになったがエルクは心優しくそれに答え、そのかわり旅費削減と言う事もあって部屋は一緒にすると笑った。パーティーが多くなると、その分旅費も多くなって大変である。エルクと光だけではない、他の人も部屋を分け合って泊まる事となった。当然ヨウはここぞとばかリインを指名した。リグは
『ぬけぬけと女と一緒に泊まろうとしてんじゃねぇよッ!!』
とつっこむがヨウはインに抱きつき
『光だってエルクと一緒ではないか』
とキスをした。それにはリグも・・そして、未だ勘違いされ続けている光も、もうどうにでもしろという感じになった。こうして部屋は狭くなったが、夕食も露天風呂もあるということで、旅は一転、風の国にて楽しい旅行気分へと変わったのだ。
02/09/06 19:19 『修正』

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えせばんくる
 一行はまず旅の疲れを癒すために少し早いが温泉につかることにした。早いとは言うが話し込んだり町に見とれてたりとでいつのまにか日が落ちてきており薄暗い。部屋割りは光の部屋≪エル・光≫風の部屋≪イン・ヨウ≫緑の部屋≪リグ・リゲ・ヴツ≫といった具合に分かれる事にした。
 イン・ヨウのふたりは少し町を堪能してみると言って一足先に去っていった。
「ヨウ達も温泉楽しんだらいいのに。ただでさえ埃っぽくなってるのに…」
 そんなエルクの誘いを
『だぁから先にいっとればよかろう?わしらは宵の月を眺めながら入ると言うとるぅに。それに…』
 ふいに言葉を切るヨウの話の続きが気になる彼女は
「それに?」
とたずねる。すると彼は皮肉っぽく、だがそれでいてやはり「邪気の無い」笑顔で
『うぬの裸など仮に見えたとしても嬉しくもなんともないし、野郎どもとむさくるしく入るのもどうかと思うし、それになによりインといたいからのー』
「ばっ…馬鹿!!だれが見せるか!!」
 彼女は赤面しながら憤る。ヨウは言いたいことを言い終えると最後に
『【小猫の料理亭】で集合じゃ。入浴が済んだらそこで食事をとってあとは自由行動。じゃっ!』
と一言付け足して足早に去っていってしまったのだった。
「待ちなさいよー!」
 だが彼女の声は虚しく風をきるだけで彼までは届かなかった。

さて、風呂に入る事にした4人(ヴツカも少し風にあたるといい町の方に行ってしまった)は料金をはらうと脱衣所の方へと足を運ぶ。
「それじゃまたあとで♪そこの広間で待ち合わせね。」
『あ…あぁ。』
 リグの返事が少しあいまい。エルクは「何?」とたずねると彼の返答はこうだった。
『なんか光が女湯って考えらんねーって…』
『ははは…』
「リグってば失礼なんだから!!もぅ。光ちゃん行こっか?」
 そして二手に分かれて入場した。
02/09/06 22:53 『修正』

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メケ太
(修正:1) 失礼とはいったものの、リグの言う通り光が女湯に入るのはとても違和感があった。エルクは光をチラチラと見る。
「?」
『い・・いや、なんでもないよッ(まったくリグが言うからあんなこというから)』
エルクもなんだかこれから光と風呂に入ると言う事が恥かしく思ってきてしまった。心にもなく少し赤面する。
「ははは・・なんだか、こうやって露天ブロとかにはいるのも久しぶりだな」
光がエルクの心情を察したかのように話題をふった。
『そうなの?』
「うん。ウチって男顔じゃん?だから、向こうの世界でも間違えられる事が多くて、それに風呂なんていったら・・・ねぇ?」
苦笑いを浮かべてエルクを見る。光なりのエルクへのフォローのつもりらしかった。エルクは実際この脱衣室でも入ったとたんに先客から受けた光への視線を見て、妙に納得する事になった。
02/09/08 15:50 『修正』

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管理人
 一方、ヨウとインは、街から少し離れた丘に来ていた。
 2人の格好は、この時すでに最初のものと変わっていた。
 ヨウは髪を後で1つに軽く結い、服装は着物ではなく、騎士を思わせるような格好だ。上衣・下衣ともに黒で統一されている。
 インの髪はそのままで、服装はシンプルなワンピース。色は淡いピンクだ。
 この2人、いくら物流の大きい風の国だからと言っても目立ちすぎるので、先ほど服装を変えたのである。買った訳ではないし、盗んでいるわけでもないのだが。
 心地よい涼やかな風が、肌を撫ぜる。空には無数の星々と、丸く肥えた月が1つ。
「のう、イン」
「何?」
 座り込んでいるインは、ぼうとしながら空を見上げている。
「アル様達は、どうするつもりかのう。風の国なんかにわしらを飛ばして」
 イン同様、空を眺めながらヨウが疑問であり、疑問でもないような、しいて言うなら確認を取るような口調でインに尋ねた。
「…さぁ。私にはわからないわ。でも、神唄の子供がきて、この国に飛ばされたのだから、きっと彼等に真実を見せようとしているかもしれないわ」
 それっきり、2人は何も言わずに空を見上げていた。
02/09/07 13:10 『修正』

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えせばんくる
(修正:2) 『おいそこのにーちゃん!安くしとくぜ!』
 そう言いながら大根を振り回すのは八百屋のおやじ。かなり中年真っ只中で頭にはねじりはちまき。
 このおやじが威勢の良い声をかけたのは言うまでもなく一人で行動しているヴツカだ。だが彼は盲目。ゆえだれにかけた言葉かあまりわからずそのまま前を過ぎ去ろうとした。だがこのおやじ、しつこかった…。
『そこの黒髪に赤いコートの兄ちゃん!ちょっと見てきな!良い品そろってるぜ!!無理にたーいわねーが見てくにこしたこたねーと思うぜ!さぁよってらっしゃい見てらっしゃい!今日も安いよ!!』

「ひ…っろーい。僕ここまで広くてりっぱなの入ったことないや♪」
 エルクは体を洗う用のタオルを前にあてながら風呂場へと入って行く。
『ウチもここまで広いのは流石にないな』
 光もこれには驚嘆する。大理石で造られた浴槽や洗い場。タイルを敷き詰めた床。内風呂がここまですごいんだ。外はもっとすごいとおもう。
「さっさと洗って温まりに行こう!!」
 そういうとエルクはちゃっちゃと場所取りを開始した。まだ早い時間帯だと言うのにもかかわらず割りとにぎわっているこの温泉。早く場所を取るにこした事はない。
『そだな』
 光もエルクの後に続いて場所を決める事にした。

「ふーすっきりそうかい!なんだかんだ言って旅の最中敵の血とか自分の血とか汗とかでペタペタだったからすごいすっきり♪」
かわいい笑顔で敵の血とかなんとか言ってるあたり少し怖い。まぁ冒険者なら普通の事だが。
 外はやはり想像以上のモノだった。中央には小さなつぼを担いだ女神像の噴水が建っており月をバックにしてさらに神秘さを増していた。あたりはすでに暗くなっている。少しはなれた町の方も明るくにぎわっている様子。それと隣の男湯も。
『それにしてもようやく外の空気が吸えて安心した』
「…やっぱ僕達と居るだけじゃ不安だった?」
 少し頭を垂れ上目ずかいに話すエルク。なんとなく遊んでもらえなかったときの子犬のようにシュンとしている。
『全然。あの時あそこに居たからエルクに会えたんだしね。』
 その言葉を聞いたエルクは顔に笑顔を取り戻す。
「光ちゃんやっぱ大好き!!そういえば光ちゃんいつも鉄パイプ使ってるけどだいぶボロボロになってきたよね?」
『あ…あぁそうだね。とくにケルベロス戦でね』
「僕も新しい服とかあとでみるからそのときにいい剣あったらかってあげるよ!友達の印♪それに光ちゃんお金もってないでしょ?」
 すると光はうれしさのあまり弾けるようにエルクに抱き着いてしまった。
『エルク!!やっぱりウチ エルクの事好きだ!!!!』
だがそれが間違いだった。
「わゎっ光ちゃん!?」
 風呂場だけによく滑る。入り口に≪滑りやすいので注意してください≫の看板がたっていたくらいだ。ただでさえトラップによく引っ掛かるエルクなのに突然光に抱きつかれたらもう対応がその時点で遅れる。2人はそのまま引力がなすがままに倒れてしまった…。
02/09/08 13:29 『修正』

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メケ太
(修正:1) いきなりだが、光は平均より胸がないほうである。そして、これも今更になってのことがだ、ジャニーズを思わせるほどの男顔である。光が今まで男と思われていたのはおもにこの2つが原因であった。そして唯一のよりどころの声色は、あのエルクは意外に高いと気付いてくれたが、声変わりがまだという解釈を持てば普通になってしまうのである。それはこの世界でも変わりがない・・・。それが今の状況を悪化させていたのは言うまでもなかった。
『キャー――――――――――ッ』
たちまち、女風呂に悲鳴が木霊する。
『この変態ッ!!』
『何処から入ってきたのよッ!』
そしてそれに気付いた女性はここは同類の結束の見せ所といわんばかりに、罵倒を浴びせ、いっきに桶などを投げる。そして、その的とも言える人物、それとは・・・。光であった。もとはと言えば光が悪い。悪い癖を改善する事が出来ず、本能のままエルクに抱き着いてしまったのだから・・。しかもエルクは滑り、光が押し倒すような形になって・・。つまり、この時見ていたのが入ったばかりの客である。どっからどう見ても女風呂に侵入した男が大胆にも女を襲っているようにしか見えなかったのだろう。胸がないと言ってもそこまでないわけじゃあないのだから・・と思っても、光のその時の姿はタオルを胸まで巻きつけた姿。疑う余地なんてありはしなかった。桶は光に見事に命中。しかも、普通の人間が飛ばす桶ならいいものの、考えてみればここは別世界。力量は光が身をもって知っている事。つまり、かなり痛いのだ。
「?!・・がぁッ」
エルクはこの事態にたじろき、弁解し様と叫ぶがその声は届かない。この変態!と桶や椅子を投げまくる。
「ウチは男じゃねぇ―――ッ!!」
光は必死になって避ける。が
『うるさいッこの後に及んで・・』
と、全く話を聞いてくれそうにもない。
『あんたもそいつから早く離れなさいッ!!』
一人がいうがエルクはそれ所ではない・・いや、もう桶や椅子を当てられ逃げ回る光を見て限界である。
『いいかげんに・・・』
光はハッとする。エルクを纏う空気が色を変えている。そして・・
『いい加減にして―――――――――ッ』
ロッドもなしに放出した魔力は大きな音を立てて広がった。そして女神像が割れ、お湯が天に向かって噴射される。露天である為、それは高く高く上がり、静まったころには露天風呂のなかに残されたお湯は殆どなくなっていた。他の客は思い思いに身構え自己の姿勢を保っていたが、その傍ら、防御しきれず壁まで飛ばされていた光がいたのはいうまでもない。
その頃男湯では・・・。隣で起こっている事態になんだなんだと騒ぎたち、リグとリゲルは嫌な予感を十分なほどに覚えているのだった。
02/09/09 23:20 『修正』

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えせばんくる
(修正:1)  まさか自分の魔力がここまで成長していたとは思わなかった。でも結果は暴走。感情が臨界点を超えると制御がききにくくなる。いつもの事だけどやはりとっさのコントロールがうまくできていない自分に嫌悪感を覚える。
「こ…光ちゃん大丈夫?」
『う…ん;なんとか』
 エルクは光を助け起こす。そんなエルクに周りの女性陣のキツイ視線が刺さる。
『ちょっとどういうつもりよ!?一般人に怪我させるつもり!?』
『そうよ!それにあんたいちお女でしょ!?恥ずかしいと思わないの?男が入ってきてんのよ!?』
『ひょっとして頭おかしいとかぁ?』
 次々勝手な言葉が飛び交う。女性が口を動かすごとにエルクの肩がワナワナと震えているのがわかる。
―光ちゃんは変態でも男でもないよ…!―
 自分勝手な想像で人を判断しないでよ…。そんな気持ちが彼女の中でぐるぐると渦巻いていた。
『…エルク?』
 顔をそっとのぞきこんで見る。影になっててわかりずらいが彼女の顔には湯とはまた別の水がついていた。罵倒を浴びながら唇を噛み締めている。その唇の端の方がうっすらと赤くにじんでいた。
 いろんな意味でくやしい。別に光ちゃんみたいなコだって普通にいるじゃん。なんでこんな風な事になるの?
「…い…かげ…してよ」
 雑音−ノイズ−がうるさい。頭がくらくらする。なんなのよ…。
『エルク外に出よう。それから係の人にこの辺の事を相談しよ?』
 光は立ち上がるとエルクの二の腕を引き上げ様とする。その瞬間彼女は顔をあげて女性陣にくってかかった。
「もぅ!なんなのよ!光ちゃん女のコなんだからね!?かってな想像で変な事わめいてしかも光ちゃんに桶や椅子まで投げるなんて。これでひどい怪我してたら僕、皆タダじゃ済ましてなかったんだから!」
 嵐のようにまくしたてる。次から次へと言いたい事が頭をよぎる。
 女性達はいきなりの攻撃に目を丸くする。だがこれ以上口を開こうとする人はいなかった。
『エルク行こ』
 光はそういうとエルクを立たせる。
「…ごめん、魔力−ちから−暴走しちゃって…」
『…』
 光はかける言葉が見つからなかったがエルクの頭にポンと手をのせてクシャっとなでる。
 そのままふたりは気まずい雰囲気の中露天風呂を後にした。宵闇の空には高々と水が舞っている。見る位置によっては月が泣いているようにも見えた。

02/09/08 20:45 『修正』

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メケ太
(修正:2) 何もない、暗闇を見つめるのも不安であるが、始終のない虚ろにほおリ投げられるのも不安なものだ。
何が始まりで
何が終りであるのか
何を見せられているのか、何故見ているのか
それでも現実とはほどとも遠くはない。

光は宵闇に浮ぶ点灯の明かりを見ながらそんなことを考えていた。あの後は、宿主に事情を話すのが結構大変で、それでも最後は笑い話として丸く収まった。光は人の良さに感謝していたが、エルクはそれでも納得のいかないそぶりを見せた。宿主が笑う事が不満だったのだろう。
『なんで光ちゃんいわないの?』
エルクは膨れ顔でたずねる。
「ん・・?いいんだよ。馴れてる」
『馴れてるって・・』
まるで子供の様に下を向く。光はそんなエルクが何よりも愛しい。思わず肩をもって引き寄せた。・・馴れてなんていない、やはり女でありながら男と思われるのは何かと癪にさわる。でも・・・それはしょうがないとしか思うしかないじゃぁないか。少なくとも光のいた世界では笑い話で終るのだ。だから・・光にはエルクがそうしてくれるだけで十分な事だった。エルクが自分の為に泣いた事、怒った事、その事実だけで光の苦しみは報われる。光の口には自然に笑みがこぼれていた。
『?』
「いや、なんでもない・・」
人の気持ちでも読むかのように顔を覗いては不思議そうな顔をする。そんなエルクが益々、光の笑いを誘うのだ。
「・・ウチな、もう考えるのは止めようと思うんだ」
『何を?』
「いや・・、ウチって魔法とかって信じてなかったからさ。実はあのエルクが使ってた奴とかもプラズマの影響だー、とか思ってたし・・。あのドアが勝手に開くのもオートロックの一種なんじゃないか、とか思ってて・・」
『オートロック?』
やはりこの世界にはないらしい。エルクは首をかしげる。
「うん。でも、それも今日で止めッ!」

約束のない明日に憧れるが
明日さえない今とは同じことだろうか・・?
いきなり存在する自分。
これが夢ならば何時覚める?
覚めたならこの世界は何処へ行く?

「この世界を夢だと思う事も・・」
今日やるべき宿題を思い出す。
『わぁッ!?』
「はははッ」
光はエルクいきなりを抱きしめた。君が消えてしまう前に、夢になって消えない様にと。光はエルクがいる事を確かめる様に回した腕に力を入れる。不思議と笑いがこぼれて、エルクもつられた様に笑ってくれる。・・何もかも忘れてしまえ。通りすがる人達をよそ目に二人は暫くの間、笑っていた。
02/09/09 23:18 『修正』