僕の背中の傷も完全に癒えたみたいだし
リグの意識も回復したしで
僕達の周りには幸せがあふれていた。
「う〜ん☆やっぱ健康ってイイね〜♪」
エルクは伸びをしながら思った事をつぶやく。
腕を思いっきり上げながらのび〜っと
伸びると彼女の服が吊り上った。
と同時にめくれ上がった裾のあたりから
ちらほらとウエストがのぞく。
よくよく気づくと裂けた背中の布の間からは
破れた下着も見えてしまっている。
『おいエルク…気を付けないと
上から…その…なんだ…;なぁリゲル?』
リグが言葉に困りリゲルに助けを求める。
だがとうのリゲルはそんな事に気づいてはいない。
『ん?何が?』
『だから…エルクの…;』
「僕がなに?」
エルクも自分の事なので気になりはじめる。
『だーから!その…
気をつけてないと…だ、
下着が見えんぞ。おまえ。』
するとエルクは耳のあたりまで一気に赤くなり
自分の身体を抱きかかえた。
「ば…ばかっ!なに見てんのよ!信じらんない」
『なっ…俺はお前のためを思ってだなぁ…;』
『リグ…そんな気持ちで見てたの?』
『こらリゲル!!そこで変な方向へ
話をもっていくな!!』
「やっぱそうなのー!?」
『ちっがーう!!(怒)』
エルクはいそいそと裾のあたりを
直し、その間にリゲルは
いきり立つリグの事をなだめているのであった。
(かーん)
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長すぎうさぎばやし;
『うぐ…そ、それじゃ行くよっ』
エルクのその一言から、
再び一向は歩を進める事にした。
周りは鏡のようになってはいるが、
前のように、映った自分が襲ってくる気配は無い。
『またぐにゃあ、って空間歪まないのかな〜』
『楽しそうに言うなよな。』
この状況を楽しむまでになったエルクに、
少し呆れながらリグが溜め息をつく。
それを見て、リゲルが苦笑した。
『良いじゃない。
気持ちが沈んで泥沼になるよりはね。』
『まぁな…』
リゲルの言葉に、リグは小さく相槌を打つ。
が。
『!』
次の瞬間ざっと前を見据えた。
リゲルとエルクも、リグより一歩遅れて構える。
『――…気配…人の気配だ。』
エルクが言うと、リゲルが頷いた。
『一人…かな。』
『気を抜くなよ。』
『わかってる。』
し…ん…
しばしの静寂のあと。
『…ねぇ、なんか…』
『ああ…』
まったく動く兆しの無い≪気配≫に戸惑う3人。
『俺が見る。』
そう言ってリグは、
壁越しにそうっと≪気配≫のほうを見やった。
『…!?あれ、は…??』
『なになに?何があったの!?』
リグの驚嘆の声に、好奇心が抑えられなくなったのか、
エルクが身を乗り出した。
その彼女も、一瞬自分の目を疑った。
『えっ…』
二人のその反応が気になり、
今度はリゲルが横から覗き込んだ。
『!人が…人間が、クリスタルの中に…』
先ほどの果実はクリスタルの中に入っていたけれど。
今度はそれとは意味が違う。
人間が、――おそらく14,5の…中世的な面立ちをした、
長い黒髪の人間が。
蒼いクリスタルの中で、眠るようにして入っていたのだ。
『誰だろう、この子…』
ぺた。
エルクはそのクリスタルの前に立って、
クリスタルの表面に手を当てた。
『あっ、コラ!無闇に触るんじゃねぇ!』
『えー?いいじゃん別に☆
減るもんじゃないしさ〜。』
『!エルク君はなれて!!』
『へ?』
――――かっ!!!!
白い光が、辺りを覆う。
…だがそれは一瞬の事。
すぐに光はおさまり、3人の視界が開けてくる。
『…大丈夫、エルク君、リグ!』
『ぅあー…』
リグは気だるそうに目を押さえ、
ゴシゴシと擦った。
『…ゥラてめぇっ!だから言った…』
エルクに文句を言おうと開いた口は、
すぐに閉じる事となった。
代わりに心底面倒くさそうに半眼となり、
『…言っただろうが。
まぁた面倒なことになりそうじゃねぇか…』
と呟いた。
彼…いや、彼女かもしれないが、
――を見つめ、エルクは呆然とした。
黒髪の少年(?)は、エルクの目の前に、
偉そうにふんぞり返って立っていたのだ。
赤い眼をしぱしぱと瞬きさせ、にやりと微笑んだ。
「我が名はヴツカなるぞ。
我の口から我の名を聞けたのだ。光栄に思え。」
02/04/22 23:33 『修正』
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梧
なんだこの偉そうな奴
それがリグのヴツカに対する第一印象だった。
「なんなんだお前?なんでこんなところにいたんだよ?」
02/04/23 00:24 『修正』
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うさぎばやし
むか。
ヴツカと名乗ったその少年は、
リグの方を振り返り、
いかにも不機嫌そうに言った。
「なんだその口調は。我の事を、お前、だと?
まったく、これだから俗人は……」
むかむか。
ヴツカの言葉にリグが青筋を立てる。
その様子を、ただおろおろとリゲルが見つめた。
『人の質問には答えろよな。
こっちはお前を伸すことくらい、
楽勝なんだぜ?』
『!リグ!』
エルクが、首を横に振って反対の意思を表す。
大丈夫・本当に攻撃したりしない。
…向こうが攻撃してこない限り、と、
リグの代わりにリゲルが言った。
「ところで」
ヴツカが辺りを見回す。
「今は一体≪いつ≫なのだ?
汝らを見る限り、我のいた時代とは
かなり異なっているようだが。」
と、自分の真っ赤なコートを
つまみながら言った。
『今って…年号のこと?
だったら蒼の国でいえば、
善緋(ぜんひ)の1564年だけど…』
エルクがうーん、唸って言った。
蒼の国<王国ティア>にいたときに、
町の民に聞いたのを思い出したのだ。
しかしヴツカはどこか驚いたような顔をして、
額に手をやり考え込んだ。
「…ぜんひ…蒼の国……
ぜんひ1564年?蒼の国????」
『蒼の国って、王国ティアの別名なんだけど』
リゲルが悩むヴツカに補足する。
それを聞いて、ヴツカは余計に眉根を寄せた。
「ティアだと?……………」
……
「…まずいな。予想以上に時が流れている…
この調子では文明の一つや二つ、
容易に飛び越しておるな…」
『えええええ?
…って、それじゃキミ、
いつからあそこにいたの?』
エルクがびしっとクリスタルを指差した。
しばらく、ヴツカは黙っていたが、
やがてエルクに向けてゆっくりと言った。
「おそらく、何万年とか
そんなものではないようだな。」
02/04/23 18:45 『修正』
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えせばんくる
(修正:1) 「何…万…年…ですか;」
エルクは力無くそういった。
リグは次第にヴツカが何故あんなところに
いたのかが疑問に思えてきて聞いてみる。
『お前はなんでこんなクリスタルの中にいたんだよ?』
だが聞き方が悪かった。
ヴツカは少し眉を吊り上げて一喝した。
『おのれ…先ほど言うたばかりであろうが!
我の名はヴツカ。汝に“お前”呼ばわりされる
覚えなぞさらさらないわ!』
2人の言い合い合戦が始まりそうな予感がした
リゲルは、いそいでリグとヴツカの間に立ち
あたふたと代弁し始める。
『あのっ!彼の言った事…
気になるかもしれないけどあまり
気にしないでね…?たぶん、悪気は無いとおもう…』
すると黒髪の少年ヴツカはため息をもらし、
『…しかたない。今回だけは汝の友に免じて
見逃してやろう。だが次に言った時は容赦せぬぞ。』
とリグに言い放つとエルクに向き直る。
『さて、話の要件はなんだったか…』
「あ。なんでキミ(あっ;)…っとヴツカが
クリスタルの中にいたのかって事なんだけど…」
エルクは間違えかけた言葉に訂正をかけながら
質問した……
02/04/24 01:59 『修正』
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長いようさぎばやし
(修正:1) 「ふむ。よくぞ聞いた。」
ヴツカはこくんと頷いた。
「我ともあろう者が、情けない話なのだが。
…我はあの鉱石において封印されておったのだ。」
エルクはちらりとクリスタルを見て問うた。
『一体誰に…何のために?』
「話したら長くなるがな。
…我は<完全なる人間>を目指し創られたのだが…」
『かんぜんなるにんげんだぁ???』
そんなの創って一体何の意味が、と呟くリグを
じろりと一瞥し、ヴツカは続けた。
「…理由は、我自身もよくは知らぬ。
我を創造した者は、<完全な人間>である
我が動くのを見て、すぐに息絶えたからな。
しかし我は未だ<完全>ではない。」
『どうして?』
「我の目をよく見てみるがいい。」
エルクはじいっとヴツカの目を覗き込んだ。
なんだかのっぺりとした赤い眼が…
『!!!』
「気付いたか。」
瞳孔が無かった。眼球の中が、
やけにすっきりして見える。
『瞳孔が無かったら、
ものを見ることはできないんじゃ…』
リゲルがそう聞くと、ヴツカはうむ、と頷いた。
「まぁさして問題も無いのでな。
我とてある程度の気配は読むことができる。」
だがヴツカはとたんに
苦虫を噛み潰したような顔をした。
「これは我がまだ制作中の時に、
何者かが我をいじった証拠。
もう犯人の目星はついておる。
其奴が我を封印したということもな。」
ふぅ、と一息つき、ヴツカは再び口を開いた。
「其奴の名は―――」
『『『名は…!?』』』
02/04/24 21:33 『修正』
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えせばんくる
『まぁいい。
いずれ言う事にする』
「『だぁあぁぁぁぁ…;』」
一番気になる話の最中で切られたエルクと
リグは脱力しまくりで床に突っ伏せる。
そう、あえていうならば
ヒマラヤというどこかの国の
山の頂上から雪崩でもってふもとまで
突き落とされたかのような
気分だったに違いない。(笑)
『でもさ?瞳無くて悲しかった事…ない?』
床とヘッドバットをかましている2人組の事を
ほっといてリゲルはヴツカに視線を向ける。
『先刻言った通り、我はある程度の気配は
読む事ができる。だから別に悲しむ必要などない』
『違うよ?“モノを見たい”と思った事ないの?』
リゲルがおずおずと尋ねると、
ヴツカはあごに右手を持っていき考える。
『昔は…そんな事を思った時もあったやもしれぬ…
が、今我はそのような事で悩んではいない。
それよりも早く“奴”を見つけ出し
我の一部を取り戻すことのほうが重要だ』
『そっ…か』
リゲルは声を落とす。
心なしかその返事は悲しげだった。
『汝が我の事で気落ちする必要は無かろう?』
『え?』
『汝の声を聞いていれば
今どのような事をおもっているか、
少しくらいはわかる』
『ヴツカ…』
するとヴツカはきびすをかえし
今だ床にヘディングをかましている
エルクとリグを光の入らない瞳で捕らえる。
『汝ら…;いつまでそうしているつもりだ…?』
02/04/25 01:18 『修正』
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管理人
(修正:1) そう、ヴツカが言った時、外から音が聞こえてきた。
『……む…笛の音…』
ヴツカの言ったとおり、笛の音が聞こえてきている。そしてそれと、何か金属同士のぶつかる音とからころとまた奇妙な音。気配は二つ。
それら二つはだんだんと4人のいる部屋に近づいてくる。
近づいてきて…部屋のすぐ近くで、止まる。
4人、一斉に身構え出口を睨む(約1名を除くが)。
音が止まる。そして出口から二つの顔がひょこりと出てきた。その顔に、エルク・リゲル・リグの緊張感は一気に吹っ飛んでしまった。
出てきた顔の一つは少年。黒い髪の毛を一つにに結わえている。猫のような大き目の目はいかにも『少年』らしい好奇心でいっぱいだ。もう一つの顔は、少女。大きな黒曜石のような瞳に、長い漆黒の髪。雰囲気は少年とは打って変わって静かそうなもの。
その二つの顔は4人を確認するや否や出口から出てくる。それを見て、身構えた3人はまたしても脱力する。
2人のの格好は、また奇妙な物だったのだ。
少年の格好は青い着物に半ズボンのような物、足元は下駄で手には錫杖。少女の方は赤い着物に手には鉄笛、足元はやはり下駄。
少年は呆気に取られているリゲル達を「ひーふーみー」と指を指しながら数えると、
「アル様の言うた通りじゃ!青いのと黒いのと茶色の角つき!!…あり?なんかもう1人ちごうのがふえちょる。赤い目の奴なんて聞いておらんぞ?」
とこれまた珍妙な言葉づかいで喋り出す。しかも内容がかなり失礼だ。
「…ヨウ、アル様言ってらしたじゃない。ここには『いる』って」
とは少女。可愛らしい声音で少年に情報を伝える。
「あぁ! そういえばそんなこと聞いた気がするのう」
『おい、お前等何者だ』
とうとうリグが無視して喋りつづけそうな少年に対して(キレ気味に)尋ねた。
「わしらの事か?わしはヨウ」
「私はインです。アル様とベル様にアナタ方に付き添う様にと言いつけられたのでございます」
2人は簡単に自己紹介をすると、お辞儀をした。
02/04/26 21:56 『修正』
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えせばんくる
(修正:2) 「は…はじめまして?」
『よろしく…?』
エル・リゲは突然の自己紹介に
驚きながらもあいさつくらいはする。
『エルク。アルとは何者だ?』
ヴツカはアル・ベルに
会った事が無いので当然知らない。
「う〜ん?アルはね、
口調でいうなら落ち着いた感じの人。
小柄な人だよ。んで、
もうひとりベルってのが
いるんだけどね〜…
そいつは超ぶっきらぼうで
愛情不足なのか
しょっちゅうアルに絡んでんの。」
『…まぁだいたいの事は解った』
エルクがヴツカに右手の人差し指を
ピッと立てながら説明していると
突然錫杖の少年が手にしていたそれを
おもいっきり回しながら
説明に対して抗議の声をもらす。
というかぶちまけた。
『こ〜らおぬし!
そんな説明で軽々と納得しちょるな!
それから角の女!!
おぬしもベル様の誤解を招くような
紹介のしかたをすんじゃな〜い!
アル様が怒らなくとも
わしが許さんぞ!』
「え…だってほんとのことだから
訂正のしようが無いんですけど…;」
エルクの本音の一言に
少年<ヨウ>の怒りは
そのゲージをどんどん満たしてゆく。
肩をぷるぷると震わせていると
小柄な少女<イン>が
ヨウのあいている腕をキュッと掴む。
『ヨウ…少し落ち着いたら?
口論ならまた後で存分にできるよ。
それよりも彼女達の挨拶の方が
さきでしょ?一緒に行動をするにあたって
名は必需品だよ』
彼女が動くたびに黒い髪が
さらさらとなびく。
彼女のくりっとした瞳は口調とは裏腹に
まだどこか幼さが残っているようにも見えた。
エルクは彼女に自己紹介を要求されたので
ひとまず口を開く、
「え〜っと。僕はエルク。
エルク・イーファって言うんだよ。
(ヨウに向かって)角の女じゃないんだからね!
なんで角が生えてるとかは
まだよくわかんないけど召喚獣が使えるみたい…
ところでアルとベルのふたりは?
見当たんないみたいだけど……?」
02/04/27 15:31 『修正』
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うさぎばやし
(修正:1) 『アル様もベル様もお忙しい方なんじゃ。
そうそうおぬしらにかまってばかりはおれんわ。』
ヨウは錫杖をしゃん、と鳴らして言った。
『だから私たちが来たのです。
私たちにアル様とベル様の代わりがつとまるとは
露ほども思ってはおりませんが。』
ヨウの言葉を引き継ぐような形で、
インが静かに目を伏せる。
ふぅん、とエルクは何か考えたようだったが、
すぐに頭を切り替えてリグたちのほうを振り返った。
『リゲルたちも、自己紹介したら?』
『あ…えっと、僕はリゲル。
リゲル・アーリアだよ。こっちはリグ。』
そう言ってリゲルはリグを指差す。
リグは青い髪をかきあげながら、
気だるそうにヨウとインを見た。
02/04/27 01:08 『修正』
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梧
「仲良くするんだよ?」
リゲルが横からリグの顔を覗き込む。
「…ったりめーだろ…」
なにも話さないうちから
注意され、リグの顔は
ますます不機嫌なものになった。
『ケンカしちゃだめだよ?』
横からエルクがニヤニヤ笑いながら付け足す。
「………するかよ…」
何故かいきなり自分のやる気がなくなったのを
リグは痛いほどに感じていた。
02/04/27 10:22 『修正』
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管理人
「まぁアル様もベル様も特別忙しいって訳ではないじゃがのう。ベル様は何時もアル様と一緒におられるぞ」
「そうね。この間なんて丸々三日間お部屋から出てこられなかったわ」
顔を見合わせながら喋る二人。それを聞いてエルク・リゲル・リグは顔を赤くした。
『…結局、アルとベルとは何者なのだ?』
ヴツカは顎に手を当てながら尋ねた。疑問なのは当たり前。ヴツカはまだあの2人あった事もなく、どのような存在なのかもわかっていない。
ヨウとインは顔を見合わせる。その様は視線で会話をしている様にも見える。
「アル様とベル様はと〜〜〜ってもお偉い方達じゃ。うぬらよりもよっぽどお偉い」
『何故だ?』
すかさず反応したのはプライドの成せる技か。そのためかヴツカの表情は不機嫌そうだ。
「アル様とベル様はとてもお強い方じゃ。それにアル様は何と言ってもし」
「ヨウ」
インがヨウの言葉を遮った。
「喋りすぎ」
静かな物言いだった。
ヨウははっとして口を押さえた。
「あ〜っちゃぁ〜。まぁたやってしもうた」
そうヨウは言ったが、ヴツカにはなにがなんだかサッパリわからなかった……。
02/04/27 13:16 『修正』
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えせばんくる
『まぁここにずっといても
そう何が起こるって事もなさそうだから
先に進んでみる?』
リゲルは先刻ヨウの言った言葉の続きが
気になりはしたものの
聞いたところでろくな返事が
返ってこないだろうと予測し進む事を尋ねた。
「そだね☆ここにいつまでいてもねぇ」
『進むか』
『そうだの』
4人+2人はヴツカに出会った部屋から
とりあえず出る。
すると驚いた事に初め来た時と
今現在の通路がまったくもって変わっていた。
今、6名の目の眼前にあるもの。
それは少しアンティーク調の小さな船、
といったところであろうか。
椅子の大きさからして定員は4名ほど。
二名ずつが向き合う形だ。
ほかに通路らしき道はなく孤立した“場所”
になっている元通路に皆唖然とする。
『なんでこんなトコに船があんだよ…;』
リグは他に通路がない事を確かめながら
眉間にシワをよせヴツカの方に向かって言う。
『む…?我にそのような事を聞かれても
我が知るわけなかろうに』
『おま…ヴツカにゃ言ってねーよ;』
思わず苛立ちから“お前”と言いそうになる。
「ね〜。ところでなんでこの船さ、
“4人乗り”なわけ?
ふたり乗れないんじゃないのかなぁ」
『じゃあ残りのふたりは向かい椅子の間に
立ってればイイのではないか?[ヨウ]』
『あら。それだとたぶん重量オーバーに
なるんじゃないかしら、ヨウ。[イン]』
『じゃあどうしよう…。[リゲ]』
う〜んと悩んでいるとふとヨウに
ひとつアイデアがうかんできた。
『そうじゃった!!
うぬは確か角と“翼”をもっておったはずじゃ』
「それって…何が言いたいの?」
嫌な予感に眉を引きつらせながら
エルクは口を開く。
『つまり汝はエルクの翼で彼女自身と
残りの1人を運ぶ、そう言いたいのだな?』
『そのとーり☆』
その瞬間彼女は弾けるように反論した。
「そのとーり☆じゃないよ〜!?
なぜに僕がそんなことぉ〜;」
『でもエルク君しかそんな事できないよ?』
「う…;」
たじろぐエルクをよそに全員の同意は集まり
エルクの後にひとり、あとの4人は
船らしきものに乗る事にした。
「ところでさ〜、
誰が僕のうしろに乗んの〜?」
02/04/27 16:22 『修正』
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管理人
「……やっぱりいっちゃん軽いのが乗ればいいのじゃが」
そうヨウは言いながら周りの人間を見まわす。
「まずそこの青いのは明らかに重そうだから却下じゃのう」
眉間に皺を寄せながらそう言ったものの、言われたリグも眉間に皺を寄せている。
『…青いのってなんだよ』
「やはり一番軽いのはインかのう。小柄だしのう」
リグの抗議など丸で無視。ヨウは1人うんうんと悩んでいる。
『ふむ』
今まで傍観に徹していたヴツカが突然、インを抱え上げた。
「あぁぁぁっっっ!!!!」
途端に響いた叫び声は……ヨウの物である。
『なるほど、軽いな』
軽がると抱え上げられたインと言えば、ただ静かにされるがまま。声をあげるわけでもなければ、暴れる事もない。
「ぬぁにしておるんじゃぁっっ!!」
錫杖を降りまわしてヨウが暴れようとする。
『だ、だめだよヨウ君っ』
慌てて止めるのはリゲル。
『重さを量っておるだけだ』
淡々と告げるのはヴツカ。
蚊帳の外なのは……
『…僕だけ仲間外れ……?』
半ば呆然として、『蚊帳の外』のエルクはそう呟いたのであった。
02/04/27 22:48 『修正』
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えせばんくる
(修正:1) 『ってなわけでインをよろしくたのむぞ』
ヨウは先程の出来事に
まだ少しふくれっつらをかましている。
「ところでさ、ヴツカは結構身長あるけど
見た目軽そうだよね?何キロくらいあんの?」
『そんな事聞くくらいだったら
背負ってみたらどうなんだよ』
「いい?」
『む…?うむ』
了解を得るとおもむろにヴツカを背負う。
「え?重っ…」
『汝少々失礼だのう…
我は“人成る者”として創造されたのだ。
多少は重いはずであろうに』
「あ、そっか…」
そう返事を返すと
仕草まで合いの手をいれる。
エルクは思わず手を放し、
“な〜るほど”といった動作をとる。
すると当然の事ながら
背負われていたヴツカは
床に落っこちる事になった。
『おいエルク!我を背負っている事を
忘れていたわけではあるまいな!?』
「ぁ…忘れかけてたかも…;」
『おい…(怒)』
彼の瞳孔の無い瞳から怒りの視線が
痛いほどエルクに突き刺さる。
(「あぁ視線がぁ〜;」)
『おぃお前ら!?いつ出発すんだよ!?』
彼女がそっぽを向いていじけていると
あまりの全体の行動の遅さにしびれを切らした
リグがその拳を壁<クリスタル>に
叩きつけながら叫ぶ。
『そうですね、
そろそろ上がり始めた方が
良いかもしれませんね』
インもリグの意見に賛成の意を見せる。
『まぁ話なら船の中でもできるしね。[リゲ]』
船はゴンドラがたになっているので
外とも容易に会話ができる。
(ほんとにちっちゃい“船”なのだ)
エル・インの2人を除く4人は
船らしき物体に乗りこむ。
頂上らしき場所まではおよそ…
では推測できないくらいの距離がある。
先は遠すぎて目で捕らえる事ができない。
≪カチっ パチン パカっ カキン ヴゥン≫
ヴツカは我先に船に搭乗すると
おもむろに操縦ボタンらしきものを
操作し始める。
『おい、ヴツカ。
お前操作できるのか?』
不安そうなリグに目だけ向け
『汝じゃあるまい』
お前といわれた事を
不服に感じているらしく
横顔はムスっとしている。
≪ヴヴヴヴヴヴヴ……≫
『あ…!動き出したよ!』
リゲルは興奮ぎみに船から少し
身を乗り出す。
『うぬ、あまり身を乗り出しちょると
まっさかさまに落っこちるぞ』
『ちょっ…押さないでぇ〜;
ほんとに落ちる落ちるぅ〜;』
ヨウは思わず身を乗り出すリゲルの首を
もつとグイっと前に(軽く?)押す。
『ヨウ…イタズラはほどほどにね?
命を落とす寸前まではいいけど…』
疑問符の後の言葉は小さくて
あまり聞き取れなかったが
実はものすごい事を(しかもサラリと)
つぶやいていたのであった…
02/04/28 21:34 『修正』
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梧
「ぅわぁあっ!!」
とたん、リゲルの体がグラッと傾いたかと思うと、リゲルは真っ逆様に
「リゲルッ!!」
落ちる寸前に、リグにマントを掴まれ思いきり引っ張られた。
「わっ!?」
その反動で、今度は後ろにバランスを崩したリゲルが、リグの方に倒れ込む。
リグはそれを受け止めようとするが、
失敗してバランスを崩し
派手な音を立てて一緒に床に倒れ込んでしまった。
船が大きく揺れる。
「……痛ッ…」
「わっ!ごめんリグっ!」
リグは頭をさすりながら上半身を起こす。
どうやら椅子の角にぶつけたようだ。
「大丈夫…?」
リゲルは心配そうに、リグの膝の上から顔を見上げた。
「…痛ぇに決まってんだろ
…お前こそ大丈夫なのかよ…?」
リグが訊くと、リゲルは元気に答える。
「うん。僕は大丈夫!
それより頭…ごめんね…」
リゲルはリグが押さえている所をそっと撫でる。
少し貼れていたが、血は出ていないようだ。
少し心配になり、リグの顔を覗き込む。
「………気にするなよ、もう治ったから。
…お前も、もう落ちないように気を付けろよな。」
リグはリゲルを椅子に戻すと、自分も隣に座った。
リゲルは反省したようで、もう立ち上がろうとはしなかった。
深い霧の中を、船は進んでいく。
まだ誰も、リゲルの割れた眼鏡には気が付いていなかった。
02/04/30 01:05 『修正』
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えせばんくる
『いつ、“頂上”に着くんだろう…』
『さぁな』
リゲルの他愛無い一言に
リグは頬杖をつきながら返事を返し外を見渡す。
船は次第に深い霧に包まれていき、
今ではもう目と鼻の先くらいの距離しか
見えていない。
リグ・リゲル、ヴツカ・ヨウという組み合わせで
向き合いながら座る船の中では沈黙が続く。
この船は面白い事に手元で操作できる。
そのためヴツカはスイッチ片手に座っている。
なにか話題は無いものかとヨウが思い始めたとき
いきなりリグが口を開いた。
『ねみぃ〜』
船はカタカタと揺れていて
それがまた微妙な睡魔を誘うかのような
気持ちの良いものだった。
『リグ眠いの?』
『あ…?あぁ』
『なんなら僕の肩貸すけど…?』
そんな2人を見ていた前席のヨウが
皮肉げに“ネタ発見”とばかりに
にんまりと笑いながらリグを見る。
『おーおー熱々じゃのー(笑)』
『ばっ…!?なにいってんだよ!?』
『お?赤くなっとるぞ?』
『〜〜〜〜〜(怒)』
するとリゲルは強引にリグの頭を引き寄せる。
『リグ?眠い時は寝なきゃだめだよ?
身体が休息を欲しがってる証拠なんだし』
リグの頭を無理矢理肩の上に乗っけると
優しく彼の柔らかい髪を撫でた。
(『まぁそれもそうか』)
眠いのもあり思考回路が単純化したリグは
素直にリゲルの親切に甘える事にした。
前で冷やかすヨウはほっといて……。
「まだ続くのかなぁ?」
『どうでしょうね』
………
「見失わないようにしなくちゃなぁ」
『そうですね』
………
「はぁちょっちお腹すいたかも〜」
『……』
………
(「はあぅう〜;会話が続かないよぉ〜;」)
目にうるうると涙をためながら
“HELP〜!”とばかりになげくエルクをよそに
背中のインはおとなしくじっとしている。
(「あぁ…頂上が恋しいかも…(汗)」)
リグがスゥスゥと気持ちの良さそうな寝息をたてる。
彼を肩に乗せているとうのリゲルも
いつのまにか彼の頭に
自分の頭を重ねながら寝てしまった。
『スゥスゥ…』
『クゥクゥ…』
その姿はまるで仲の良い兄弟のようにもうつった。
ヴツカとヨウはただ黙って、
その幸せそうなふたりの寝顔を見つめていた……
02/04/30 19:08 『修正』
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管理人
しばらくして、船がガコンと言う音と衝撃をたてて停止した。
「到着したようじゃの。ほれ、起きんかい」
ヨウは軽くそう言うと同時に、すやすやと眠っていたリグの頭を錫杖で殴った。
ガコンッという見事な音と共にリグのうめき声があがる。
『…ってーなぁっ!!』
すぐさまヨウを睨んだリグは、動いた拍子にリゲルを落としそうになり慌てて捕まえる。
「お熱いのはかまわんのじゃが、もう到着しよったぞ?」
にやにやと意地の悪い笑みを浮かべながらそう言うと、リグの顔は真っ赤になった。ヴツカは何故か黙り込んで何も話さない。
軽快な足取りでヨウが船から降りる。続いてヴツカ、そしてリゲルを起こしたリグ。最後にリゲルが出て来た途端、船は水が蒸発するかのごとく消え去った。ヴツカの手にしていた物も同じく消えた。
『……』
ヴツカは瞳孔のない瞳で自分の手を見つめる。
降り立ったところは広場のような場所。床面もクリスタルでできているのか、なかなかに美しい。ただお盆のような状態なため、端まで行くと落ちる可能性も多大にある。
しばらくその広場を見まわしていると、やや遅れてエルクが到着した。
『つ、疲れた〜〜〜〜〜〜〜〜』
ぐったりとして床にそのまま倒れこむ。背中に乗っかっていたインは軽やかに床に降り立つ。カラン、と下駄の音が響いた。
インの元に素早く駆け寄ってきたヨウは、至極真面目な顔でこう言った。
「なんにもされなかったか?」
………
『…するわけないでしょっ!!!』
ってゆーかどうやってすれって言うのよ!
立ち直った(?)のはエルク。クスクス笑っているのはリゲル。
そんな一行に向かってくる『影』など、まだ彼等は気づかない―――…。
02/04/30 20:10 『修正』
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えせばんくる
(修正:1) 広場のようになっている場所。ところどころにはやはりクリスタルで出来た花が植木鉢に入っている。
ただ、不思議と他の壁や床、鉢などは透き通るほど透明だがその花だけはどれを見ても“黒”い色をした透明だった。だがキラキラと輝くそれは好奇心旺盛なリゲルとエルクのハートを射止めた。
『きれいだね♪』
「ほんと☆目に入れても痛くないくらいだよね」
『じゃあ入れてみよう(笑)』
唐突に現れたヨウは、バキッという音と共に一輪の花をつむぐとエルクにグイグイと押しつける。
「ぎゃ〜!(汗)なにすんのよ!?目なんかに入れたりしたら痛いに決まってるじゃないのよ〜;(涙)」
ヨウの手をはっしとつかみながら必死にエルクは抵抗を試みる。その瞬間抵抗していた彼女の手がクリスタルの花にあたり、かけらが一粒エルクの目に入った。
「っつ…!」
『あ…ゴメっ…!』
エルクは右の銀の瞳を押さえながらムッとヨウを見据える。
「もぅ。だからほんとに痛いっていったのにぃ〜」
『ごめんと言っとろーが;』
「ごめんって言われたっていたいよぉ?(うる目)」
『見してみて』
リゲルは痛がるエルクの頭をワシっとつかむと彼女の瞳を覗きこむ。
自分の目の前にいきなりリゲルの顔がアップで映る。
(「うっ…かわいいぞ…;(くらっ)」)
一生懸命破片をさがすリゲルがいたいげでちょっぴりかわいかった。
『う〜ん…ないみたいだけど大丈夫?』
するとエルクは首を縦にプルプルと振りながら答える。
「うん、大丈夫だよ。それよりありがとね」
にっこりと答えるその姿にリゲルは安心した。
『さて、これからどうするのだ?また辺境の地に来てしまったが…』
ヴツカはざっと気配が他にない事を確認する。すると突然曲が彼の後ろから聞こえてきた。はっと振りかえるとそれはインから発せられていた。
『あなた方が少しばかり緊張していたので少し和らげさせて差し上げようかと…』
インは鉄笛から口を離すとちょっとばかり首を傾げながらそう言葉を添えた。
『さて、ほんとにどうしようか…』
ヴツカは改めてし切り直した。インは相変わらずクリスタルの淵にちょこんと座りながら笛を吹いており、そのとなりにヨウが寄り添うように座っている。
『道はひとつあったぜ。向こうの方にうえに続く階段があった』
リグはすでに偵察済みとばかりに返答する。
『汝ら準備はいいな?』
「『はーい』」
一行はイン・ヨウに手早く声をかけると階段の方に足を向けた。
(「…っつ」)
一瞬。彼女の右目に痛みが走る。
(「おかしいなぁ。破片は無いらしいのに…」)
すると一度止めた足をまた動かし始めた。だがこの時彼女の銀の瞳にはまだ破片が刺さっており少しづつその瞳が黒に近づいているという事を彼女自身知らなかった……
02/05/01 20:43 『修正』
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管理人
(修正:1) 瞬間、足元が大きく揺れた。
みな一様に驚く。なにが起こったかは判らない。
しばらくして揺れが収まると、申し訳程度にあった壁が消えていた――否、消えたと言うより開いていた。
「あっちゃぁ、こりゃ床が傾いたら…」
「…落ちるわね」
感想を漏らした二人であったが、聞いた方はそう呑気にしてはいられない。しかも心なし床が傾いてきていた。
エルクとリゲルとリグの三人は焦って階段のほうへ走っていく。ヴツカはいたって平静で階段のほうに移動した。
しかし。
ヨウとインは動かない。
『何してるんだ!?早く来い!!』
リグが叫ぶが、二人は反応しない。
インはしゃがみこみ、あの黒い花を摘む。ヨウは隣でその様子を静かに見ている。
パキリと軽い音がして、花はインの手の中に落ち着く。
しかしその頃には、床はかなり傾いてきていた。階段に非難していたリグ達はいいが、この状態から2人が来るには難しい距離になっていた。エルクが助けに行こうとした、その時。
ヨウが、インを抱えて跳んだ。
信じきれないほどの脚力でもって階段のところまで跳躍したのだ。人間では決してありえない現象。少年達があのアルとベルに遣わされた者であることを、エルク達は失念していた。
やはり、ヨウとインも、普通ではありえないのだ。
ヨウが跳んだ衝撃で、傾いていた床は無残に下方に消えていった。
「よっ、と。じゃ、進むかの」
インをそっと降ろして、ヨウは進む様にと皆を促す。
何かひっかかるものを感じながらも歩き出した4人の後ろに、ヨウとインが続く。
「……ヨウったら、またあんなことしちゃって。アル様に起こられたらどうするの?」
そうヨウにだけ聞こえるような声で言って、インは手にしていた花に息を吹きかける。すると黒かった花は美しく透明に輝く白銀の花に変わった。
「大丈夫じゃ。第一そこまで大変にならんようにうぬはその花を摘んだのじゃろうが」
にかっと邪気のなさそうな顔で、断言する。
「…それもそうね」
クリスタルの花を帯に差しながら、インが納得する。
この2人の会話は、前方を歩いていたリグ・リゲル・エルクには聞こえなかった。ただ、ヴツカだけが耳を澄ましてその会話を密かに聞いていた……。
02/05/01 21:14 『修正』
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うさぎばやし
『…?エルク?どうかした?』
『―――−へっ!?』
気がつくと、こちらを不思議そうに見つめるリゲルの姿。
エルクは自分がぼぉっとしていたことに今更気付き、
アハハハと乾いた笑いをこぼした。
『うぅん、何でもないっ』
いけないいけない。
エルクは首をプルプルと横に振って、
そして軽く両手で頬を叩き、前を見すえる。
『何かあったら言ってよ?』
リゲルは少し不安そうにしながら、視線を元に戻した。
(『どーしたんだろう…なんだか頭がぼーっとする…』)
気のせいか、視界も少しかすんでいるようだ。
(『寝不足かなぁ…』)
あまりこの場にそぐわないコトを悶々と考えながら、
エルクはリゲルの後ろに続く。
今現在の隊列(?)は、
リグ、リゲル、エルク、ヴツカ、そしてヨウとインである。
皆が何気なく並んだ結果こうなったのだが。
そしてその場合、エルクの異変に真っ先に気付いたのは、
やはりそのすぐ後ろを行っていたヴツカだった。
――――…が。
「……」
彼は確かに気付いてはいたのに。
何もいわず、ただ歩いているだけであった。
それが後々厄介な事になるということを、
ヴツカは確実に感じとっていた、のだが。
02/05/03 00:06 『修正』
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えせばんくる
一行は階段を上り始めた。それは急だったが短かったため、すぐに上りきった。
上りきると目の前には装飾品をきれいにほどこした白銀の扉があった。その装飾の仕方から推測するに、どうやら扉の向こう側は祭壇のようになっているらしい。
ヴツカは片手で扉を押し開ける。するとやはり予想通り祭壇の部屋になっていた。昔何かを祭っていたらしい痕跡は残っているが、決して怪しげな感じは受けなかった。
天井からはどこからともなく太陽の光らしきモノが射し込んでおり、部屋の中央の祭壇を淡く照らしていた。
『おぅおぅ。なかなか神々しいのう』
とかなんとか言いながらヨウはひょいと少しホコリをかぶった置物を手にとり、まじまじと見てみる。ホコリの具合からしてまだそこまで日にちは経っていないようだ。
「だ〜;そんな普通に触っちゃダメだよ〜!!僕、その手の罠でいいことなんかあったことないんだから〜;」
するとヨウはにやっと笑いながらモノを戻す。
『うぬじゃあるまい』
「なっ…!?(かぁっ)」
『ベル様も言っておったぞ〜』
「えぇ!?なんて言ってたのよ…;(汗)」
『罠に好かれるドジだとさ〜♪(笑)』
「がーん|||」
彼女は最後の言葉にがっくりとうなだれる。最終的に床に“のの字”を書いているのだった……
『本当にきれいな場所ね…』
インは誰に言うでもなく物静かに口を開くがそれに答えたのはヴツカだった。
『我には見えぬが、なにか特別なエネルギーを感じる…良いモノかどうかは解らぬがな』
『いいモノだといいがな』
ひょっこりと現れたのはリグだった。リゲルはというとなぜかお祈りなんかしている。
(ブツブツ)『リグや皆が幸せになれますように…』
お祈りをしているといつのまにか横にエルクがいて、彼女も一緒にお祈りをしているようだった。
ふたりはお祈りがおわるとちょっとばかりおしゃべりをしていた。
『……そんな事があったんだ〜☆で?それでそれで?』
「でね、そのとき○○ってばね………っ!」
途中で彼女の言葉が止まる。どうしたのかと彼女を覗き込むと右目を押さえていた。
『まだいたいの?(おずおず)』
「う…ん。ねぇほんとにささってない?」
そういわれリゲルは確かめるべくエルクの銀瞳に手をのばす。彼女はそれにともなって押さえていた手を離す。するとリゲルは驚いた顔で口元を押さえた。
『エルク…?瞳の色…黒ずんでる…』
「えぇ!!?」
02/05/03 00:17 『修正』
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管理人
エルクの叫び声に驚いて、リグとヴツカも視線をそちらに移す。リグはリゲルの横に来て、エルクの顔を覗き込む。
『……黒いな』
ぼそりと、感想をもらす。
確かに、美しい銀色だったその瞳は、今や無残にも黒ずんでいる。
『えぇ〜〜〜〜っっ!!!?』
エルクはパニックを起こして顔を意味なくぶんぶん振る。ご丁寧に両手は頭を押さえている。
『…何をしておるのだ』
エルクの煩さに耐えかねて、ヴツカは軽くエルクの頭を小突いた…が。
そこはヴツカの馬鹿力。本人は軽く小突いたつもりでも、エルクにとっては普通の(?)突き。
『〜〜〜〜〜〜〜っっ』
目に涙を溜めて声にならない悲鳴をあげた。確かに静かにはなったが、これもどうか。
一方、ヨウとインとは言えば、祭壇の前でじぃっとそれを見ていた。
「…イン」
「何?」
「この祭壇は…」
2人、美しい祭壇を見上げる。
金色の金属のような物に、1人の髪の長い女性が描かれている。女性は目を伏せていて、何かを祈っている様にも、何かを願っている様にも見える。その周りには様々な種類の花々が咲き誇り、足元には水が流れていた。
「……『始祖』…」
ぽつり、とインが言葉をこぼした。
「…じゃな」
この世界の始まり。その始まりにいた人物――『始祖』。星…この世界と共に神が生み出したとされる、最初の者。人かどうかはわからない。
今ではもう、忘れら去られた神話の話。大きな国だったら、その聖書を保持しているかもしれない。…ただ、表にだけは出ない様に、厳重に、厳重に。
「…祭壇の実物を見るのは初めてじゃな」
そんな感想を、一つ。
2人の会話を聞いていたのは、ヴツカただ1人。
(『…<始祖>……?』)
池に投じられた小石が波紋を広げていくように、ヴツカの中でその疑問はまた別の疑問を持つという形で広がっていた。
02/05/03 09:41 『修正』
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えせばんくる
「〜〜〜(>□<;)」
『だ…大丈夫』
『じゃ、なさそうだな。どうみても』
いつまでたっても頭をかかえてうずくまっているエルクに心配の声をかけるリゲルにリグが言葉をそえる。
とうのヴツカはまたもや怪しげな話しをしているイン・ヨウの方に意識を集中させている。
「ぁ〜ぅ〜;」
『あ、しゃべった』
まだ大きな瞳に涙を浮かべながらも、ようやく口をひらく事ができるようになったエルクにリグが感心の声を(小馬鹿にしつつではあるが)もらす。
彼女のに気づいたヴツカは振りかえる。
『汝。まだそうしておったのか?』
『エルクくん!?』
頭の隅の隅ではあるが予想していた言葉をあっさり言われてしまい、慌てるリゲルの側でエルクはその場に崩れ落ちた。
『のう。汝らは<始祖>というモノを知っておるか?』
イン・ヨウに気づかれぬよう小声で尋ねる。
だが3人ともそんな言葉聞いた事も食べた事もないので、それぞれそろって首を横に振る。
『なら別に良いのだが…』
『なにかあったのか?』
意味深げなヴツカの様子をリグは察し尋ねる。
『うむ。インとヨウのふたりが何やら不思議な話題を話しておるので、な。少し気になって…。だがまぁ良い。いずれ解る事であろう。』
「それより僕の目。なにが原因でこんなになっちゃったんだろう;」
後頭をさすりながら彼女は皆を見る。それにいち早く答えたのはリグだった。
『あ?そりゃあの花が原因だろ?』
「でもどうしてこうなったんだろう…」
『…これはある一種の呪いだとおもうわ』
ずっと静かにしていたインが口を開いたので皆そちらに注目する。いきなり注目の視線を浴びることになったインはいたって平然としながら続きを話すのだった。
02/05/05 19:35 『修正』
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管理人
「あの花は、この空間に住む魔物の大好物なんです」
さらりと言われた新事実に驚きはしたが、それがなぜ?と思わずには居られない。
『でっ?』
当事者であるエルクは焦りながら問う。
「…あの花を体内に取りこんでしまうと、その花の特性を持ってしまいます」
インとヨウを除いた4人は、皆一様に『はぁ?』と言った表情を浮かべる。
「つ〜ま〜り〜、魔物が寄ってくるのじゃ」
にかっといつもの様に『邪気のなさそうな』笑みを二カッっと浮かべてヨウが告げた。
『えぇぇぇっ!?』
叫ぶエルクに、
『それってつまり…』
『エルクを追って魔物が続々ご登場…』
『と言うことであろうな』
解析をするリゲル・リグ・ヴツカ。
「…そういうことになりますね」
淡々とした調子のイン。
そんな調子でいたわけだけれども、どうしようもないので一行、部屋を後にする。問題は、それからだった。
『なぁ、どうすんだよ、こいつ』
エルクを指差しながらリグが誰にともなく尋ねる。
ヴツカは冷ややかな視線(?)でもってインを見つめるが、インは食えない可愛らしい笑顔で「何か?」と言うだけであった。
『もうっ!』
エルクが怒って手を振り上げた、瞬間。
ズドドドドドド…
『……?』
ヴツカが、音の聞こえた方向に顔を向ける。
次の瞬間、でてきたものに、インとヨウ以外、皆ギョッとする。
「おぉ〜、早速だのう」
なぜか楽しそうな口調。
廊下の遠い端っこから走ってきているのは、見た事もないような、肉食恐竜にも似た魔物達であった………。
02/05/05 21:04 『修正』
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うさぎばやし
『でっ…』
『ででででででで』
『出た―――――――――ッ!!!!』
エルクの悲痛な叫びが響き渡り、しかもその声のせいで敵さんは完璧に狙いを定めた。狙いは勿論…
…エルク。
『何で僕ばっかりこんなことにぃぃぃ!!!』
半泣きで、得物のスピアロッドを構える。エルクは魔物たちに罪はないんだけどなぁ、と思いながらも、やはり自分の命は惜しいので、攻撃態勢に入った。
『リゲル下がってろよっ』
『え?でも…』
リグもエルクと並んで、リゲルを背後に庇った。リゲルは不審そうな顔をしたが、すぐにヴツカにその手をひかれ、後方にまわされる。
「汝は我を守ることだな。あのリグとかいう小童は汝を傷つけたくないらしい。」
『…』
『それじゃ、ま、わしらも傍観と洒落こもうかの♪』
『…ヨウ…』
お気楽そうに言うヨウを、インが視線と語調で諌める。
が、ヨウはにこっと笑い、声をひそめてインに言った。
『わしらはあまり手を出さぬほうが良いのじゃろう?ならばわしらに今できるのは、ただ見守る事だけじゃ。』
『…そうじゃなくて。人の不幸を楽しそうに言うものじゃないわ…』
『他人の不幸は蜜の味と言うじゃろ?』
かっかっか、とヨウは楽しそうに笑った。
02/05/06 11:23 『修正』
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えせばんくる
(修正:1) ≪グルルルルゥ…≫
≪シュゥゥゥゥウゥ≫
≪シャガギャガギャ…≫
計3匹ほどの大型の魔物は口から液をだらだらとたらしながら3人と対峙している。どちらか一方が気を緩めた瞬間戦闘は開始される事間違いなしだ。
『さっきの話しからすると狙ってくんのは主にエルクだって断言しても過言じゃねーよな?』
ちらりとエルクに視線を送る。
『まぁ、そう言っても半分はおかしくないな…』
『つっまーり“エルクをえさにおとり大作戦!!”といいだいのじゃな?』
あくまで“無邪気”な顔をしながらヨウは話に加わる。遠くから…
『ま、そーいう事にもなんのかもな』
リグは相手とにらみ合いながら口を開く。
(「そ…それって僕、かなり危ない役柄じゃ…」)
エルクがそう思った時。彼女の身体がいきなり宙にういた。
「へ?」
下を見てみるとヴツカ。彼の馬鹿力を持ってすればたぶんエルクくらいは小石程度にしかならないだろう。(ほんとかよ…;)
『汝、武術の心得は多少はあるであろう?』
「う…うん。………はっ!?」
『よし。行って来るのだ!!』
「やっぱりですか―――――――→!!?」
そのまま返事をしてしまったエルクはヴツカの手によって引導を渡されたのであった。ちゃんちゃん。(…もちフィクション(嘘)ですよ;)
「ほぃさ!」
彼女は背後から迫り来る魔物の前足を間一髪でかわす。続いて第2弾が別の魔物によって下段の位置に叩きこまれようとしていた。
「きゃっ!?」
ぎりぎりセーフでジャンプするとそれは彼女のスネの位置を通りすぎ壁をえぐる。うすくではあるがそのまわりからは煙がでていることから威力は絶対ということが良くわかる。
「皆も早めに加戦してよー!?」
今の所の攻撃はすべてかわしながらエルクはぼやく。3匹とももはや1/3くらい残りの2人の存在を忘れかけていた頃の事だった。
『しかたねーな。加戦してやるぜ』
『そろそろな』
『うぬもへぼいのぉ?』
『エルクくん;』
『……』
「皆。もうちょっとはマシな言葉かけられないものなの…?」
リゲルとインはできるだけ遠くから彼等の戦いを見つめていた。
リゲルの観戦理由はリグいわく“あしでまとい”。インの理由はヨウいわく“おなごに怪我はさせられまい”。たぶんリグもヨウと似た意味でそう言ったのだろうが、その“あしでまとい”という言葉が前にあったあの出来事を思い出させる。
『ねぇ…僕。やっぱり足手まといなのかな…』
リゲはちょっぴりうつむきながらインに尋ねる。ヨウはほお杖を突きながらのんびり観戦を決めこんでいる。
『…そんな事ないとは、解らないので言えませんがリグさんはきっとあなたの事を心配して言ったのではないのでしょうか?』
眼前で繰り広げる戦いを遠めで見つめながらインは話す。皆まだ攻撃を仕掛けてもくらってもいないようだ。どうやらパターンをうかがっているらしい。
『そう…ならいいね…』
リゲルはその欠けた眼鏡ごしに彼らの幸運を祈っていた………
02/05/06 12:24 『修正』
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梧
エルク、リグ、ヴツカ、ヨウの四人と、
大型竜三匹。
『わきゃ〜〜〜!!!』
逃げ回るエルク。
《ドシンッ!ドシンッ!》
追いかけてくる大型竜。
『そろそろ攻撃にでるかの?』
ヨウがそう言うとリグたちもうなずき、
全員サッと武器を構えた。
「エルク!!こっちに来い!!」
『わかった!!』
リグが呼びかけると、エルクは全力でそっちに走っていく。
ヨウとヴツカはリグの後ろで構えている。
エルクが走ってくる。
そのすぐ後ろには大型竜。
「いくぞっ!!」
エルクをすり抜けて三人はバラバラになると、
それぞれ一匹ずつに向かった。
02/05/06 18:50 『修正』
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管理人
まずヴツカの馬鹿力によって魔物の一体が床に倒れ付す。
『…ふぅ、残り2体……ってヨウ!?』
汗ばむ額を腕で拭いながら、エルクは何か異常な物でも発見したかのような声でもって叫んだ。
その元凶であるヨウがいるところは……なんと、魔物の上。
「ひゃっほうっ!」
人ならざる脚力で裕に2m以上ある魔物の頭上まで跳躍したヨウは、なぜだかとても楽しそうに錫杖を振りまわした。
シャラン、と言う涼しげな音に相反して、その次に響いた音は『ゴスッ』。
錫杖は魔物の鼻辺りに見事にヒット。続けざまにもう3発いれる。
あっという間に魔物は倒れ付した。すたりと、ヨウが軽やかに着地する。
「よし!わしの『のるま』は終わりじゃ!」
得意満面に『邪気のなさそうな』笑顔でそう言うと、すぐさまインのところに戻ってくる。さも、2人で1つとでも言わんばかりに。
「おかえり」
相変わらず淡々とした口調でインが出迎えの言葉を口にする。その幼い可愛らしい外見とは裏腹に、インはとても『淡々と』していた。
02/05/06 19:13 『修正』
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梧
『……汝は何をやっておるのだ…』
ヴツカはヨウの所まで歩いてくると、腰に手を当ててヨウにつぶやいた。
『なんでじゃ?いけないのか?』
ヨウは不思議そうにヴツカに問い返す。
『リグの戦いに参戦しないのか?汝ならすぐに片づけられるのであろう?』
ヴツカはもっともな意見を投げかける。
もちろんこの会話をしている間も、リグとエルクは大型竜と戦っている真っ最中だ。
『あやつも男じゃろ?
エルクもいることじゃし。
大体水を差されたら怒るのじゃないのか?』
ヴツカは顎に手を当て少し考えると、口を開いた。
『確かにそうだな。それにまだ結構大丈夫そうだ。危なくなったら助ければいいことだしな。』
うなずき納得したヴツカは、自分も観戦モードに入った。
02/05/06 19:50 『修正』
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うさぎばやし
(修正:1) 『何であの二人はあんなに早く倒せるのさ〜!!』
『知るかよ!てゆーか、来るッ!』
『うきゃ―!!!!』
ドォォンンン!!!
地面が今までにないくらい大きく揺れた。
エルクとリグは何とかバランスを取り、エルクを追いかけてきた巨大な魔物を睨みつける。
『う…ぐ……デカイ…』
思わずエルクが呟いてしまうほど、他の2体よりも一回りは大きい、もう≪大型≫ではすまされないほどの巨大な魔物竜。
それは口からぼたぼたと涎を垂らし、それは美味しそうにエルクを見つめている。
『…モテモテじゃのぅ』
『誰のせーでっ!』
ボソリと言ったヨウの言葉を聞いて、思わずエルクが突っ込んだ。
その隙を見逃すはずもない魔物は、体に似合わない素早い身のこなしでエルクに突進する。今、彼(?)にはエルクは大好物の花に見えているのだから、まぁ仕方ない。
『ンにゃろぅ…!』
エルクはスピアロッドの先端部分に自らの意識と精神を集中させた。
『サンダっ!!!』
ぱしぃぃんっ!
竜の目に、一閃の鋭い雷が落ちる。
その痛みに思わず体を仰け反らせ、竜は足を止めた。
『リグッ!』
『おう!』
だんっ
リグは言われるまでもない、といわんばかりに、大きく踏み込んで高く跳躍した。その大きな剣を振りかざす。
『うりゃあああッ!』
どごぉ!
…勿論リグは『斬った』のだが、まるで鈍器か何かで殴ったようなその音が鳴ると同時に、辺りに赤い血しぶきが飛び散る。
トン…
軽い音を立てて、リグは無事着地。
エルクは大きく溜め息をついて、自分の不運さを――決して被害妄想などではなく、本当に不運なのだから――を呪った。
02/05/07 18:56 『修正』