「……何してんだよ、こんな所で」
 真央霊術院の裏手、人が滅多に通る事のない寂れた場所で、恋次は思いがけないものを見つけて足を止めた。
 何故恋次がこんな人気のない所にやって来たかといえば、それはかなりむしゃくしゃしていたからに他ならない。
 現在、恋次が身を置いている「真央霊術院」は、貴族の子弟が多く学んでいる学舎だ。能力があれば誰でも学ぶ事の出来るという前提はあっても、やはり貴族は貴族だ。恋次より明らかに力が劣っている奴が、貴族というだけで何かにつけ自分よりも優先されている。それが恋次にはたまらなく悔しく、腹が立って仕方がない。
 そんな時、どうしても腹立ちが収まらないときは、こうして人気のない所へとやって来ては、気分が収まるまで独りでいた。ただじっと空を見上げている事もあれば、手近な木や石に向かって憂さを晴らしたりしていたが、あいにく今日は先客がいた。
 その人物を、恋次はよく知っていた。―――知っていた、という言葉では足りないだろう。この十数年、恋次とこの少女―――先客は少女だった―――は、ずっと、いつも一緒にいたのだから。片時も離れることなく、家族のように。
「その言葉をそっくりそのまま返すぞ、恋次」
 いつものように偉そうな口調で少女は言って、ふん、と鼻で笑った。
「いや、私にはわかるぞ。どうせあ奴らに泣かされてイジケ場所を探しにきたのであろう」
「だーれが泣かされるってんだ、馬鹿なこと言うんじゃねえよ、ルキア」
 ケッと言葉を吐き出して、落ち葉を踏みしめてルキアに近付く。恋次の足の下で、落ち葉がガサガサと音を立てた。
「あんな奴ら、まともに相手してる方が馬鹿らしいっての。っつーか、お前、何してんだよ?マジで」
 ルキアの足元には、落ち葉がうず高く積まれ、そこからちょろちょろと赤い炎が見えている。横に目をやれば、きちんとバケツに水が汲んであるので、この火を付けたのはルキアだろう。
「……芋を焼いておる」
「……あぁ?」
 呆れてまじまじとルキアを見れば、真剣な顔で火を見つめている。長い木の枝で焚き火をつついては、「うむ、もう少しか」と呟いて腕を組む。
「いい所に来たな。もう少しで焼ける故、お前も食べていけ」
「……いいけどよ」
 しかし、こんな所で芋を焼くとは全く訳がわからん、と恋次は心の内で呟いた。今までにこんな事例があっただろうか?真央霊術院で芋を焼く。まあ、ねぇだろうな、とぼんやりと火を見つめながら考えた。
「……どうだ、試験の方は」
「あ?楽勝だぜ、あんなもん。お前ぇはどうだよ?」
「恋次に楽勝な試験が、私にとって難しい筈が無かろう」
 尊大に言い切って、ルキアは笑った。
「そうだな、試験は問題ではない。質問を変えよう……どうだ、『ここ』は?」
 束の間、ルキアの尊大さが消え、憂いるような色がその瞳に浮かぶ。
「別に……俺だっていつまでも餓鬼じゃねえ。無闇に突っかかっていってもしょうがねえしな。今だけだ、今だけ我慢してりゃあいいんだからよ」
「そうだな。死神になれば……生まれなど関係ない。力が全てだ」
 自らにも言い聞かせるようにルキアは呟いた。
 しばらく無言で二人は焚き火の火を見詰める。
 二人は南流魂街の78地区、「戌吊」と呼ばれるほぼ最下層の出身だった。それが貴族の子弟たちの気に入らないのだろう。ましてや二人には人並みはずれた力があった。故に二人は、事あるごとに様々な嫌がらせを受けていたのだ。
「……私はさっさとこんな所は出て死神になるぞ。お前を省みるつもりはないからな」
「何言ってやがる、先に死神になった俺を見て悔し涙を流すなよ」
 ありえん、と笑ってルキアは焚き火の中に枝を差し入れ、中から焼けた芋を取り出した。それを枝ごと恋次へと渡す。
「食え」
「このまま渡すか、フツー?」
「文句を言うならやらん。私が一人で食べる」
「はいはい、頂きますよ。ああ、ありがてーこって」
 焼きたての芋はかなりの熱さで、恋次は火傷しないよう気をつけて口にした。ホクホクとしたそれは、昔と変わらない甘さで、恋次は柄にも無く昔の事を思い出す。
 ルキアと暮らしていた日々。
「恋次は死神になってここを出たらどうするつもりだ?」
「あ?別になるよーになるだろ、その時になってみねえとわかんねーよ」
 熱い芋に神経を集中していた恋次は、深く考えずに質問の答えを口にした。それを聞いたルキアは、「ふむ」と頷いた後、真顔で恋次にこう言った。
「一緒に暮らさぬか?」
「ぶはあっ!!」
「な、どうした!?」
 ルキアの言葉に、驚いて芋に思い切り噛み付いてしまった恋次は、その熱さに口にした芋を噴き出してしまった。次いでごほごほと咳き込む。
「な、何を言っ……」
「?…何をそんなに驚いておるのだ?」
「驚くわっ!!」
「ここに来る前と同じではないか、一緒に暮らすという事は」
「あん時は二人じゃなかっただろう!!」
「そうだが……二人だと問題なのか?」
 恋次が答えに詰まっていると、ルキアは、つと目を伏せた。
「いや、お前が嫌ならいいのだ…今のは忘れてくれ」
 そこにはいつもの不遜なルキアの姿はなく。
 何となく小さく見える、頼りなげな華奢な身体のルキアが、視線を落として立っていた。
「……別に嫌じゃねーよ」
 むしろ願ったり叶ったり、という台詞は心の奥に仕舞い込む。
「本当か?」
 途端にぱあっと明るくなるルキアの表情に、恋次は目を奪われた。
 もう何年になるだろう?この尊大で生意気な、けれども人一倍孤独を恐れている朽木ルキアに心を奪われてから。
「ああ、構わねえよ。俺のが先に上に上がるからな、部屋ぐらい貸してやるよ、出世払いでな」
「その言葉、そっくりそのまま返してやる……どうしたのだ?」
 先程と同じ言葉を返して、ルキアは嬉しそうに笑った後、恋次の様子を見て首をかしげた。
「あ?さっき、まともに芋にかぶりついちまって、舌が……」
 いてて、と顔をしかめる恋次に、「火傷か?」とルキアは笑った。
「そんなに腹が減っていたのか、意地汚い奴だな」
 その笑う姿に、先程までの不安げな様子は微塵も感じない。いつもと変わらない、傍若無人なルキアそのままだ。
「うるせえ、元はといえばお前が妙な事言い出しやがったから……」
「どれ、見せてみろ」
 ぐい、と顎を掴まれて恋次は舌を出した。
「ふむ、完全に火傷しているな」
「そーらろ。おまえらろるれんれんらころいうらら……」
「何言ってるかわからん」
 そう言ってルキアはぺろ、と恋次の舌を舐めた。
「――――――っっ!?!?!?」
 ずざざざ、と飛び退る恋次を「?」とルキアは不思議そうに見つめる。
「ななななななななな」
「どうした、壊れたか?」
「―――何しやがるっ!?」
「治療だが……いつもお前がしてる事だろう、傷を舐めるというのを」
「な、な……」
「今回ばかりは自ら舐めるわけにもいかないだろう、だから私が……まずかったか?」
「不味くない、むしろ美味かった……って違うぞ、俺!!」
「何をそんなに慌てておるのだ?」
「いやその……何だ」
 ラッキー。
 心でガッツポーズを作る。
「とにかくだな、さっさとこんな所は卒業して一人前になろうぜ?」
「そうだな、全てはそれからだ」
 生真面目に頷くルキアに、恋次も頷き返す。
「ああ、全てはそれからだ」


 「早く一人前の死神に」。


 すべては、そこから始まる……









この話を別のところで読んだ!と言う貴女!!
またお会いできて光栄ですv

実はこれは別サイトで、別名義でアップしていたものです。
そこは他ジャンルのサイトだったのと、諸事情がありまして…ちょっと悲しい事がありまして(笑)
別にBLEACHサイトを立ち上げる事にしました。それがこの「MOON AND THE MEMORIES」です。

女の子が好きな子を無邪気に舐める、というシチュエーションが大好きです(笑)

2004.9.7 (2004.7.17)  司城さくら