二人で居る時、ルキアはよく「怖い」と口にする。

 幸せすぎて怖い、と言う。
 愛されすぎて恐い、と言う。

 恐らく手に入らないと諦めていたものを、手にしてしまった故の怖れ。
 孤独な月日に慣れてしまった故の怯え。
 
 そして目を伏せ、微かに震える声でルキアは言う。

 ―――夢ではないと、嘘ではないと、
 ―――如何か実感させてくれ。

 そうして、縋るようにルキアは俺に身を投げる。

 
 うわ言のように何度も俺の名前を呼ぶその声は、どこか泣いているかのように細く揺れる。
 灯りを消した暗闇の中、ただルキアの白い裸身だけが淡く光り、それは月の下に咲く花のように儚く脆く。
 夢ではないと、嘘ではないと、信じたくてルキアは必死に縋りつく。
 恋次、と。
 何度も名前を呼んでは涙を浮かべる。


 その不安は何処から来るのか。
 如何してそんなにも怯えているのか。
 何故、触れていなければ消えてしまうとでも言うかのように縋りつくのか。

 
 鎖骨に流れた汗の雫を舌で絡め取り、仰け反る身体を支えて仰向いた首筋に唇を這わす。
 一際高いソプラノの声を上げ、糸の切れた人形のように倒れこむルキアの身体を受け止めて、涙の跡を手で拭う。
 意識を手放し、それでようやく安堵の表情を浮かべるルキアを俺はただ抱きしめる。
 ルキアが怖れるもの、それが何かは解らない。
 けれど、
 その「何か」にルキアは渡さない。
 
『ルキア』 

 だから何度も名前を呼ぶ。
 不安を感じる必要はないのだと、
 ずっとお前の傍にいるから、と。







誘惑シリアス編。