☆ a happy new year. 2006 SSS




ガララララ。
重たく軋んだ音を鳴らせる浦原商店の扉を開けると、部屋の中は無人だった。

「あ? 誰もいねえじゃねえか。」

がらんとした店内を見渡しながら一護は頭を掻く。

「おい、ルキ・・・ぶっ!」
「なんだ? まだ誰も来ておらんのか?」

そう言って。
振り返った一護の頭を押さえつけたルキアは、その頭上から顔を覗かせた。

「いてぇじゃねえか!」
「そのくらいで怒るな。心の狭い男だな。」
「あァ?!なんだとコラァ!!」

怒る一護を宥めるように、「まあまあ」と二人の後ろにいた織姫は苦笑いを浮かべる。

「でも、ホントに誰もいないね。早く来過ぎちゃったのかなあ。」

長い髪を耳元で押さえた織姫は二人の後ろから店内に入り周りを見渡した。

「おい、ルキア。確かに浦原さんとこに集合なんだろうなあ?」
「うむ。恋次からの連絡では『浦原商店に2時』って言っておったのだが。」

ルキアの言葉に織姫は持っていた腕時計を眺める。
針が指す時間は確かに2時を少し過ぎた頃だった。
時間は間違っていない。

「うーん、おかしいね〜。なんで誰もいないんだろ。」

3人で首を傾げて見るが悩んだところで仕方がない。

「とりあえず、もう少し待ってみるか。」

そう言うと肩を竦めた一護は、どかりと店の上がり口に座りこんだ。




待っている間、織姫は店内に並ぶ駄菓子の数々を眺めていた。
綺麗に陳列されている駄菓子の中に自分が子供の頃に大好きだったお菓子を見つける。

「ああ!これ!アタシがすっごい好きだったお菓子だー!」

織姫の嬉しげな声にルキアが隣にやってきた。
眉をひそめて覗き込むと腕を組む。

「なんだ、コレは。」
「あのね、『マーブルチョコレート』っていってね。色とりどりの小さな丸形のチョコがいっぱい入ってるんだよ〜。」
「この小さな筒の中にか?」
「うん。」

嬉しそうな顔で織姫がルキアに説明していると出入り口の扉が開いた。

「おう。わりぃな一護、遅れた。」

顔を出したのは恋次と日番谷の二人だった。

「おせえよ。なんだ、他の連中はどうした?」
「あー。『腹減った』つって食いモン調達しに行きやがった。」

口を歪めて恋次が言う。
きょろきょろと中を見渡して「あれ、浦原さんは?」と一護を見る。

「いねーんだよ。 おい、恋次、ほんとにココであってんだろうな?」
「ああ? んだ、テメ、オレが今まで間違ったこと言ったことあんのか? ああ?!」
「現にいねえじゃねえかよ!」
「知るか!オレはココに集合って聞いたんだよ!」
「あわわわわ!黒崎くんってば!もー、ケンカしてる場合じゃないよー」

にらみ合う男二人に織姫がオロオロと一護の袖をひっぱった。

「・・・一生やってろ。」

日番谷は呆れたようにその光景を見ながら土間に座り込んでいた。




男二人がギャーギャー言い合ってる中。
ルキアは織姫が大好きだったというお菓子に見入ってた。
今まで気にも止めなかったが、棚の中には沢山のお菓子が並んでいる。

金色の包装紙に包まれた物や、棒状になったキャンディー。
見てると以外に面白い、と思いながら眺めていく。

ふと顔を上げたとき。
棚の横にあるレジの側に、織姫が好きだという筒状のお菓子が置かれていた。
その隣に、ぽつんと小さな飴のような丸い物が転がっていた。

ルキアは嬉しそうな顔をすると、指先でつまんで拾い上げ振り返る。

「井上、コレがさっき言ってた『まーるぶなんとか』というやつか?」

一護と恋次を宥めていた織姫はルキアの声に振り返る。
手に持っている筒状のお菓子を見て「あ、そうかな?」と曖昧に答えた。

「あれ?でも、なんで開いて・・・あ!」

織姫は首を傾げたがルキアは躊躇ぜずにその丸形の玉を、ぽいっと口の中に放り込んだ。
止める間もなく食べてしまったルキアを見ていた織姫が、ゆっくりと一護の袖を引っ張った。

「あ、あ、くくく、くろ、黒崎くん!」

織姫と同じく、ルキアの様子をただ眺めていた日番谷も「どうなってんだ?」と口を開く。

「なんだよ?!」

周りの様子に言い合っていた男二人も振り返る。

「!!!」

視線の先に飛び込んできたのは確かにルキアだった。
だけどルキアであってルキアでは無い。

「ル、・・・キア?」

何故だかルキアの頭には、猫のようなフサフサした耳がついていて。
肩の辺りまで伸びている黒い物体は尻尾のように見えた。

「にゃー」

周りが静まり返る中。 ルキアがその声を漏らした。
猫のようにしゃがみ込むと、手で顔を擦る。
ルキアはぴょんと跳ねると織姫を通り過ぎ恋次の胸元に飛びついた。

「うおぉぉぉ?!!」

驚いた恋次が奇声を上げるが、当のルキアは頬を恋次の胸元に擦りつけ、ちょこんと丸まり「みー」と鳴いた。

「あ、そっかぁ。猫って自分の居心地のいい場所で丸まるんだよね〜。」
「そんな暢気に解釈してる場合か!」
「あはは、そうでした。」

顔を真っ赤に染めた恋次がルキアを引きはがそうとするが動く気配は無い。

「よっぽど気に入ってるんだね。」
「つーかよ、なんでルキアが猫化してんだ?」
「オレが知るワケねーだろう!」
「もしかして、さっき食べたチョコ、かなあ?」
「チョコ? なんでチョコで猫になるんだよ?」
「わかんない。」
「おいおいおーい!」

3人で色々と考えて口論していると、奥の襖がガラリと開いた。

「いやあ〜。遅れてすいまっせ〜ん」

扇子を揺らして入ってきたのは喜助だった。
恋次の胸で丸まり抱かれているルキアを見て「おんやあ〜?」と声を上げる。
ルキアの黒い尻尾がユラユラと揺れた。

「あの〜・・・もしかして、朽木さん。 ココに置いてあった『薬』飲みました?」


「「「薬ぃ?!」」」

「いや〜、『人体の猫化』っていうお客様の要望でね。まだ試作品なんスよ、ソレ。でもちゃーんと耳と尻尾ついてますね〜。上出来!」
「『上出来!』じゃねえ!! なんつーモンを作ってんだよ、アンタは!」

笑う喜助に恋次が詰め寄った。

「あの、浦原さん。朽木さんはちゃんと元に戻るんですよね?」
「ああ、大丈夫ッスよ〜。試作品段階の薬の効き目はたったの5分ですから。」
「アンタなんでそんなヤバイもんをこんな所に置いてんだ!」
「いやあ〜、まさか飲む方がいるなんて思わなかったもんで。」
「大体元をいえばアンタが時間に遅れてこなかったら、  ルキアはこんな事にはなってねえんだよ!」
「しょーがないじゃないですか。『お客』が来たもんですから。」

そう言うと奥から客人が出てきた。

「・・・言い訳なら私が聞こうじゃないか、恋次。」

奥から引きつった顔で現れた白哉に恋次が真っ青になる。

「たたたた隊長!! なんでココに・・・」

恋次の胸の中で丸まるルキアを見て白哉は刀に手を置き霊力を高めた。

「そんな事はどうでも良い。今ココで散らせてやろう。」
「わーっ!!違うんスよっ!誤解ですって!」

あたふたと。
恋次は右手を大きく振りかざした。

その瞬間。

ぽん、と軽い音がして恋次の腕の中にいるルキアが元の姿に戻った。


「あ。薬が切れたみたいッスね。」


恋次の上で座り込んでいたルキアは不思議な顔で皆を見上げる。

「ん? なんだ? 皆、何で呆けておるのだ? なあ、恋、次?」

そこで言葉を句切ると自分が恋次の腕の中にいることを知る。

「よ、よう。」

至近距離で目があった恋次は、へらりと笑みを浮かべた。

「・・・なんで貴様が、私を抱いておるのだ!この戯け者が!」
「ぐわっ!」

見事に入ったアッパーで恋次が吹っ飛ぶと同時に、 店の扉が開いてコンビニの袋を持った一角達がやってきた。

「あー、現世は買いモンするだけで疲れるぜ。  ・・・って、あれ?阿散井? なにやってんだぁ、お前。」

店内の入り口付近で倒れている恋次に一角達は目をやると、 不思議な顔をして首を傾げたのだった・・・。


FIN

-------------------------------------------------------- 2006.1.1.了

a happy new year. 2006




y+のユメ様より頂きました!

猫ルキアですよ!!
恋次の胸に飛びつくルキア猫…。可愛すぎる…!!