明日の朝までの処置という白哉の言葉で、ルキアは六番隊の牢へと引き立てられた。
牢へと向かう人の影は二つ。……既に白哉の姿はない。
ルキアの後ろを歩くのは、恋次唯一人だった。
この期に及んでルキアが逃亡する筈もないこと―――万一そうしようとした所で、ルキアが恋次に敵う訳もないと解っている故か、恋次は一人でルキアを牢へと引き連れた。
時刻は深夜を疾うに廻っており、辺りはしんと静まり返っている。……その静けさを、金属の扉を開ける甲高い音が破った。
「入れ」
現世から帰って以来、恋次が初めてルキアに言葉をかけた。その冷たい言葉に怯みながら、ルキアは歩を進めていた間中、ずっと頭を占めていた思いを口にする。
「恋次―――頼みがあるのだ」
返事はなく、恋次の眉が「何だ?」と言いた気に跳ね上がった。その反応に更に気後れしたが、そんな場合ではないと気を取り直してルキアは恋次を見上げる。
「どうか―――現世に戻って、一護の傷を治してくれないか。あのままでは……一護の生命が、危ない」
血塗れの一護の姿。
あのままでは、間違いなく一護の生命は尽きる。
自分の所為で……自分が捻じ曲げた一護の運命、その所為で一護は命を落とそうとしている。
恋次に頼むのは筋違いだと解っている。致命傷を負わせたのは恋次ではないにしても、恋次は一護の命を奪うために斬魄刀を使ったのだから。
しかし、ルキアが頼めるのは恋次しかいなかった。
恋次ならば解ってくれると……自分の所為で誰かが命を落とす事になるのは耐えられないと、その思いを恋次ならば解ってくれるだろうとルキアは信じていた。
「勝手なことを言っているのはわかっている。だが、お前にしか頼めないのだ……お願いだ、恋次」
ルキアの懇願に、恋次はただ黙ってルキアを見下ろした。
ルキアを見つめる、恋次の瞳。
そのあまりの冷たさに、ルキアの顔は色を失くす。
「出ろよ」
「え……?」
その瞳の色に射竦められ、凍りつくルキアに苛立ったのか、恋次はルキアの胸倉を掴むとぐいと引き寄せた。
「てめえの霊力は、さっきの小僧の鎖結と魄睡を壊した時に戻ってんだよ。さっさとその胸クソ悪い入れ物から出ろ」
「れん……」
今まで自分に向けられた事のない、恋次の怒りの波動にルキアは愕然とするばかりで、何故、と視線で問いかけた。恋次は舌打ちすると、がっ、とルキアの額に気を放った。
「!!」
脳天を貫く衝撃に、ルキアの意識は遠くなった。が、無理矢理身体が二つに分かれるような異様な感覚に意識を手放す事も出来ず、次の瞬間背中に走った激痛に声もなく呻いた。
霞む目をかろうじて開く―――その眼に映ったのはゆっくりと仰向けに倒れていく自分の姿だった。
現世の服を着た―――数秒前まで自分だった身体。
義骸から強制的に魂魄を取り出され、そのショックで身体が上手く動かない。それとも動かないのは、壁に強く打ち付けた背中の痛みのせいか。
恋次の姿を求めて、歯をくいしばって上体を起こす。黒い死覇装の裾が揺れた。
「どうして―――」
ルキアの前に膝まづいた恋次は、腕を伸ばしてルキアの顎を掴む。力を入れて引き寄せるとその目を覗き込んだ。
―――闇のように暗い色。
「恋次―――」
「義骸なんかに用はねえよ。人形とやる趣味はねえからな」
口元に形作られたのは、笑み。
目に怒りを湛えたまま。
―――残忍な、笑顔で。
「俺が傷付けたいのは、お前だ」
「な―――何をするっ!」
何の躊躇いもなく、ルキアの胸元に手を差し込んで力任せに衣類を剥ぎ取られ、ルキアは一瞬茫然とした後、全身で抵抗した。何が起こっているか解らないまま、それでも何かが起こっているのだと感じて必死で恋次の腕の中から逃れようと暴れだす。
けれどもルキアの力では、恋次の動きを止める事など出来るはずもなく―――あっさりと手首を押さえられ動きが封じられた。
唇が重なる。
愛を伝えるためではない、ただ暴力的なそれ。
容赦なく恋次の舌がルキアの口腔に割って入り、征服し、蹂躙する。
次の瞬間、勢いよく恋次の唇が離れた。その唇からゆっくりと赤い血が滲む。
睨み付けるルキアに、唇の血を手で拭うと恋次はにやりと笑った。
「―――上等だ」
そのままルキアの身体を床に叩きつけた。
頭の中は、何故、という疑問符だけが浮かぶ。
一体何故。
如何して。
身体中を這い回る熱い舌も、
手首を押さえつけている大きな手も、
自分を見下ろす暗く燃えている眼も、
全てが悪夢としか思えない。
自分に何が起こっているのか、
恋次が何を考えているのか、
これからどうなるのか―――
白い頬に涙が伝って落ちた。夢ならいいと、何度も願った。
恋次がルキアの手首を開放し、ルキアの膝に手をかける。
その意図に気が付き力を入れて拒絶したが、難なくその膝は割られて、恋次の身体がルキアの膝の間に入り込む。
「……厭だ」
自分が言葉を発した事にも気付かず、ルキアは茫然と恋次を見上げた。恋次と視線が合う。
暗い、底の見えない瞳。
「厭だ……やめてくれ、恋次」
恋次の左手がルキアの肩を押さえつけ、右手がルキアの左足を抱え上げた。
こんなのは厭だ。
これは夢だ。
恋次が私に、こんな事をする訳がない。
何時だって私を護って―――どんな時も見守って―――
無意識に周りへと視線を彷徨わせたルキアの瞳に、倒れた自分の姿―――義骸が映る。見開かれた硝子の様な義骸の瞳に映るのは―――恋次に組み敷かれる、自分。
「厭だ……こんな、こんな事……」
自分を見つめる自分の瞳。
人形の眼。
虚ろな瞳は、義骸の瞳か、己の瞳か。
―――如何して!!
「う……うああああ……―――――!!!」
身体を引き裂かれる痛みに、ルキアは絶叫した。
背中に当たる床の冷たさをぼんやりと感じながら、ルキアは天井の木目を数える。
もう何も考える事は出来なかった。
自分の身に何が起こっているのか。
恋次が自分に何をしているのか。
考える事も放棄して、ただ恋次に揺さぶられるままに、突き上げられるままにがくがくと身体が揺れる。
下半身は麻痺して、数刻前まで感じていた痛みももう今は感じない。内股にとろりと流れる感触は、自分の破瓜の証なのか恋次の劣情の痕なのか、もうそれもどうでもいい事だった。
恋次は執拗に、何度もルキアの身体を抱いた。抵抗するルキアの腕を押さえつけ、力任せにルキアの中に侵入し、その純潔を奪い去った。荒々しいその行為に、ルキアが抵抗する力がなくなった後も、激しい感情を叩きつけるようにルキアを蹂躙し続けた。
もう涙も出なかった。涙の跡は渇いて、ルキアの白い頬に筋を残している。口から漏れる苦痛の声も、既に発せられる事はなかった。
恋次も、一言も、何も言わなかった。ただルキアを抱き続ける。尽きない欲望が命じるまま、ルキアの中に自身を埋没させる。
熱い息遣い。
冷たい心。
戻らない、時。
夢見たものは――――
想い描いていたのは、こんな事ではなかった。
――――いつか、こんな風ではなく、お前、と………
失われた時は、もう二度と戻らない。
上を見ている―――否、既に全てを見ることを拒絶したルキアの瞳に、一滴だけ涙が浮かび―――それは恋次がルキアの身体を突き上げた拍子に零れて、すぐに消えて行った。
外には朝を告げる白い光が、闇夜を吹き払う。
その清冽な浄化の光も、暗い牢の中には届かなかった――――
一万ヒット後初にアップした物がこれかよ…。
すみません、何かに取り付かれてます。
これまた物凄いスピードで書きました。
つまりあれだな、好きなんだな、きっと。(開き直り)
これは表の「紅煉」の続きです。
私は無理矢理、という行為はダメなんですが、両想い同士が誤解して……相手は自分が好きではないと誤解して、でも自分は相手のことを愛していて、他の誰も代わりにはなれなくて、苦しくて辛くて……相手を襲ってしまうのはOKです(長いよ)いやむしろ好物だ。
そんな訳で書いたのですが、すみません、原作と合わなくなります…。次の日笑って「変な眉毛だ、副隊長殿!」なんてからかう雰囲気じゃないなあ。
なるべく原作の流れは変えないようにしていたのですが、うう、これは私の煩悩が勝ってしまったんだよう。
嫌いな方ごめんなさい。
怒らないでね。
気に入ってくれた方はちらっとそう言って頂けると調子に乗ります。
でね、あのね。
嫌わないでね……特にオフで私と会う方々……。
とてもとても心配です…
2004.11.13 司城さくら