「何してんのよ恋次!早くこっち来て酒注ぎなさいよ!」
「こら下っ端!さっさと先輩の尺をしろってんだよっ」
 同時に浴びたその声に、恋次は仏頂面で酒瓶を持って立ち上がった。腹立たしい気分のまま、一斉に差し出された猪口―――はとっくの昔に「こんなちびちび飲んでられるかっての!」という言葉と共にコップに変わっている―――に酒を注ぐと、「よーっし」と陽気な声がした。恋次の気分など如何でもいいらしい。
「……阿散井くん、その、僕にも……」
 言いかけた言葉を、振り返った恋次の眼光で大慌てて飲み込んだ吉良に向かって「何だ?『僕にも』何だってんだよ?」と恋次は半ば八つ当たり気味に笑いかける。
「いや、僕にも……頂こうかな、と……せ、折角の現世風の集まりだし……」
「誰がお前らを呼んだんだよ?あ?」
「いや、僕は、別に、その、あの人たちに無理矢理。ねえ花太郎くん」
「え、はい。あの……すみません、阿散井さん。図々しく押しかけてしまって……」
「すみません恋次さん!恋次さんの気持ちも考えなくて……オレ、恋次さんのこと、誰より知ってるはずなのに…っ!」
 泣きながら一気飲みする理吉に「あのなあ」と溜息。
「なーによ恋次文句あるっての?」
「後輩の癖に先輩を邪魔者扱いする気か?不逞野郎だな手前!」
 再び同時に浴びせられる大声に、恋次は苦虫を千匹程纏めて噛み潰したような顔をした。
 松本乱菊と檜佐木修兵。
 恋次が頭の上がらない先輩方。
 その二人がタッグを組んで事にかかったのならば、恋次には止めようがないのだ。過去も、未来も、そして……今この瞬間も。
「ねえどう思う朽木?恋次が私たちのこと邪魔にするんだけど!」
「嬢ちゃんは俺たちのこと邪魔か?嬢ちゃんが嫌なら俺たちは帰るけどよ?」
 そう、乱菊と修兵の二人の間に挟まれ、共に酒を口にしてほんのりと頬を染めにこにこと笑っているのは。
「私はとても楽しいです」
 偽りなく嬉しそうに話すルキアに、恋次の口の中で苦虫が更に1万匹咬み潰された。
「ほうら見なさい!朽木は今のこの状況を楽しんでるのよ!!」
「下心満載の男に用はねえ!ほらあっち行け、仕事してろ!!」
 例の如く酒に酔った二人の勢いは止まらない。
 本来ならば、今日は二人で静かに過ごすはずだった。
 ルキアが現世の「クリスマス」をやりたい、というので待ち合わせたのが午後の7時。
 仕事を終わらせて、白哉の目を盗んで隊舎を出て、息せきって駆けつけたその場所、待ち合わせ場所に居たのはルキアだけではなく。
「よお恋次」
 にやりと笑った修兵のその笑顔で、恋次は全てを悟っていた。
「松本殿と檜佐木殿も一緒に『ぱーてぃ』をしたいそうだ。いいだろう、恋次?みんなでした方が楽しいからな!」
 嬉しそうに笑顔を向けるルキアの背後には、明らかに含み笑いをした九番隊副隊長と十番隊副隊長が恋次を見て親指を立てていた。
 そしてその場で檜佐木が呼び出した三番隊副隊長、ルキアが呼んだ四番隊七席、その七席と一緒にいた六番隊所属の少年も巻き込んで、恋次の家でクリスマスパーティならぬ酒盛りが行われているのが現在の状況。
「最悪だ……」
 額に手をあて呻く恋次に、ルキアは不思議そうな顔をしている。
 恋次、と立ち上がろうとしたルキアを何度となく乱菊は止め、その度にルキアを抱きしめ離さない。ルキアが恋次を気にすると、修兵が気を逸らせぬ話でルキアの注意をひきつける。さすが檜佐木修兵、女性が興味を持つ話題に事欠かない。延々とルキアの気を惹いて離さないその状況に、恋次は深く溜息を吐いた。
 この家は恋次の家で、頃合を見計らって、邪魔な有象無象に「帰れ」と一喝することも勿論出来た。
 けれどそれをしないのは、ルキアが頬を染めながら、「すごく楽しい」と笑ったからだ。
「私は、その……今まで大勢の人とこうして『ぱーてぃ』をしたことないから、とてもとても楽しい」
 邪魔者は追い返そうぜ、と耳打ちしようとした恋次よりも先に、嬉しそうにルキアがそう言ったから。
「……ホント、俺って……」
 ルキアが望むことを。
 自分の希望よりもルキアの幸せ。
 今も昔も変わらない。
 ふと顔を上げると、ルキアが心配そうに恋次を見ている。自分が突然予定を変えた所為で恋次がつまらないのではないかと気を揉んでいるのだ。それは事実なのだが、そうと知られれば折角ルキアが楽しんでいるこの状況に水をさす。
「おら飲むぞ理吉!!」
「はいっ恋次さん!!オレはいつだって恋次さんのお供をさせていただきますっ!!」
 半ば自棄になって酒を煽り妙なハイテンションで騒ぎ出す恋次を、ルキアは嬉しそうに見つめていた。


 時は過ぎ時刻は夜の10時丁度。
 ルキアの帰宅まであと1時間。
 既に朽木家の門限は過ぎているが、酔った勢いで乱菊が朽木家に連絡を入れていた。無理矢理ルキアの外出許可をもぎ取った乱菊の手腕に、恋次は内心尊敬している。
 さすがに日付が変わる前までに送らないとやべえよなあ、と考えている恋次の周囲はやけに静かになっている。
「恋次さん……不甲斐ない後輩ですみませ……」
「朽木さん、僕は朽木さんが……」
「雛森くん……日番谷隊長より僕の方が……背が高いんだから……」
 すっかり酔い潰れて床の上に雑魚寝をする面々に、溜息をつきながら恋次は布団や毛布を掛けていく。
 乱菊は長椅子の上に。流石に女性を床の上で寝かせるわけにもいかない。
 他の男連中は、とりあえず上に布団をかけて終了。
 そして有象無象と一緒になって眠るお姫さまは、抱き上げて自分の寝台へ。
「……んー」
「寝てろ」
「んん……でも、私だけ布団では……」
「お前が一番風邪引きやすいからいいんだよ」
「……でも」
「いいんだよ。ほら黙って寝てろ」
 布団の中に押し込んで、ぽんぽんと上から叩いてやると、ルキアは「ふふ」と幸せそうに笑った。
「……すごく楽しかったあ……」
「そうか、じゃ、また今度なんかで集まろうな」
「うん。……ありがと、恋次」
 あと一時間したら起こしてやるからな、と髪を撫でてやると「うん」と頷き直ぐに寝息をたて始めたルキアの髪を、恋次はしばらく撫で続ける。
「んん……」
 眠りながらも幸せそうに微笑むルキアの顔に苦笑する。
 こんな笑顔を見せられたら、また来年も二人きりで過ごせない。 
 この先何年も続く、何回も迎える12月24日。
 最初の数年、しばらくは騒がしい24日も仕方ない。
 それをルキアが望むなら。
 あどけない寝顔に口付けて、恋次は檜佐木たちの寝る居間へと戻った。
「…………あ?」
 誰もいない。
 布団はきちんと畳まれて、壁際にひとつにまとめてある。酒瓶やコップも全て流しへ運んであった。
 突然のしんとした部屋の中に戸惑いながら訳もわからず長椅子に近づくと、何か白いものが置いてある。首を捻りながら手にすると、それは一枚のカードだった。

『朽木隊長には皆であんたんちに泊り込んで酒盛りしてるってことにしてるから。明日の夕方まで皆で酒盛り。話し合わせなさいよ?』

 流れるような美しい文字で書かれたクリスマスカードを眺めて、恋次は苦笑する。
 持つべきものは、優しい先輩。
 明日の夕方までの自由時間という突然のクリスマスプレゼントに、さてどんな風に二人で過ごそうかと恋次は明日の予定を考え始めた。