エピローグ

 手続きをしている間、ルキアは俺の腕の中で顔を伏せ決して顔を上げようとはしなかった。
 それはこの場所が恥ずかしいというわけではなくて―――それ以前に此処が何処かはわかっていないだろう。とにかくルキアはその頭に生えた猫耳を誰にも見られないよう、気配を消し俺の腕の中にいる。流石にこの街中で抱き上げているのは目立ってしょうがないので、俺はルキアの肩に手を回し、俺の身体でルキアを隠しながら―――傍から見れば仲のいい恋人同士が必要以上にくっついているだけにしか見えないだろう。その密接具合も普通の通りならば目立つことこの上ないが、この流魂街1区の端にある歓楽街ではそれはいたって普通のことなので誰の目も引くことは無い。黒い猫耳は、俺の黒い死覇装に溶け込んで、一見で猫耳に気付く者はいないだろう。
 俺は一軒の、なるべく派手派手しくない店を選び入口をくぐった。ルキアは大人しくついてくる。昼間なのでこの通りを歩いている者は幸いなことに誰一人いず、俺たちは誰ともすれ違わずにこの店にやってくることが出来た。
 扉を開けて中に入ると、薄暗い中に受付のような場所がある。不安そうなルキアの肩を安心させるようにぽんぽんと叩くと、俺は小さな明かりの洩れる場所に立つ。すると小さく切り取られた空間から鍵が差し出された。それを掴みその鍵につけられたプレートを確認し、俺はルキアを促して歩き出す。
「にゃ、にゃんだ此処は?」
「あとで説明すっから」
 しんと静まり返った廊下を、ルキアの手を引いて歩く。照明はかなり暗く押さえられ、廊下には窓ひとつ無い。板張りの廊下を歩く時に発する音も、どこか秘密めいて聞こえる。
 鍵のついた番号と同じ部屋に辿り着いた。俺が選んだのは最奥の部屋、角部屋だ。重厚な造りの分厚い扉の鍵穴に鍵を差し込みゆっくりと回す。がちゃ、と重々しい音が静かな廊下に反響した。
「さ、入れよ」
 俺の死覇装の裾を握り締め、恐々と付いて来ていたルキアを先に部屋へと通す。そこは普通の家と同じ玄関があり、草履を脱ぎ、目の前に襖を開けると―――
「にゃあ」
 仔猫が驚いたような声を上げた。ルキアの背後から部屋の様子を見て俺は満足する。一番高い部屋だったんだからな、うん。
「にゃんだ、何処かと思ったらここは旅館だったのか」
 無邪気に笑うルキアに俺も微笑み返す。
 旅館ねえ。まあ泊まることも出来るけどな。
「ここなら誰も来ねえしな」
「でも、勿体にゃいだろう。こんな豪華な部屋、宿泊料金だって高いにゃん。私は……今日、泊まることは出来にゃいぞ、兄様が心配されるしにゃ」
「大丈夫、休憩にしといたから」
「にゃ?」
「3時間貸してくれるんだよ、だから宿泊より安い」
「そんにゃ便利な……って、そんなお客さんがいるのかにゃ?3時間だけ部屋借りてにゃにするにゃ?」
「寝る」
 ってかそれしか使用目的は無いんだよな、この手の施設はふつー。
「仮眠室かにゃ?」
 確かに布団しかにゃいにゃ、とルキアは笑った。これこそ本当の無垢だ。ルキアは世の中にこんな場所があるなんて想像したこともねえんだろうなあ。こんなあからさまにヤることだけが目的みたいな場所があるなんてよ。
「ここで薬の効力が切れるまで居ればいいんだにゃ」
 ほっとしたように呟いて、それからルキアは急に何かを思い出したように俺を振り返った。その目に微かに恐怖に似た感情を読み取って、俺は息を呑む。
 いや、こんな所につれてきたけど、そんな怯えたような顔しなくても……何も無理矢理する気は無いし、酷い事はしないし、さっき先輩が言ってた〇ェ〇だってまあいつかはして欲しいが何も今すぐにとは言ってねえし、ルキアが口にしたア〇〇〇〇〇スは俺は興味ねえし、ただバ〇〇はいつか使ってみてえなあ。媚薬もどうなんだろうなあ、ルキア許してくれるかなあ……そう、ルキアが許してくれるんなら是非顔〇もしてみてえな。すっげえ色っぽいだろうなあ、想像しただけでもうヤバい。オ〇〇〇〇〇〇スも絶対誰にも見られないならしてみてえし。ルキアのあの時の姿を他の誰にも見せる気ねえしな俺は。あと緊〇プレイ……ルキアが恥ずかしがったりする姿も燃えるなあ……死覇装着たまま!これは絶対ヤる!!なんつーか背徳感?『無垢』はもうそろそろ挑戦してみようかな、ルキアも大分慣れてきたしな……慣れてきたとは言え、それでも恥じらいを何時までも持ち続けてるのがまた可愛いんだよなあ。
 と考えていたのが顔に出たのだろうか、ルキアは目を伏せ、俺から遠ざかり、部屋の隅に座り込むと俺に背中を向けてしまった。
「ルキア?」
 恐る恐る呼びかけても、返事をせずにルキアは俯いている。やばい、ルキアに心の中を読まれたか。しかしそれは俺がどれだけルキアを好きかという証拠であって―――
「……本当は」
 小さな声でルキアは言った。聞き落としそうになるほどの、本当に小さな声。
「兄様より、他の人より、……誰よりもお前にこんにゃ姿を見せたくにゃかった。誰に見られても、お前だけには見られたくにゃかった、本当は」
 けれど頼る者も居なくて、それにお前の腕の中が心地好くて、ずっとお前と一緒に来てしまったけど。
 そう続けるルキアの声は―――驚いたことに泣いていた。
「ルキア?なんで泣いて―――」
「―――嫌いににゃらないでくれ」
「は?」
「こんにゃ―――こんにゃ変にゃ身体ににゃって、お前に嫌われるのが怖いにゃ……化け物って思われるのが、気持ち悪いって思われるのが怖いにゃ。だから本当はお前だけには見られたくにゃいと思ったにゃ……」
 ちょっと待て。
 つまりルキアは、この猫耳が生えた「自分」は随分気持ち悪いものだと考えているわけか?そんな気持ち悪い「自分」は俺に嫌われるかもしれないと?
 いやいやいやいや。
 興奮こそすれ、気持ち悪いなんて、嫌うなんてとんでもない。
「ルキア、あのな」
「―――だから、薬が切れるまで見にゃいで欲しいにゃ……お願いにゃ……」
 ってそれは!困るんですが!!
 せっかくの猫耳!!せっかくの二人きり!!
「―――ルキア」
 背後からそっと抱きしめると、ルキアはびくんと身体を震わせた。身動ぎして俺から離れようとするルキアの身体を俺は優しく、でも決して逃れることの出来ない強さでもって拘束する。
 頑なに背中を向けるルキアをゆっくり正面に向かせる。俯いている所為で、猫耳が俺の目の前にある。それに気付いたのか、ルキアは手を交差し、「見にゃいで……」と抗った。
「何で?」
「だって、気持ち悪いにゃ……」
「全然?」
「―――嘘にゃ」
「本当だって」
「嫌いににゃるにゃん、こんにゃ身体」
「ならねーよ」
「恋次は―――私を傷付けにゃいために嘘をつくにゃ」
 お前は昔からそうにゃ、と泣きながらルキアは笑う。
「気持ち悪いにゃ?」
「全然。可愛い」
「―――嘘にゃ」
「じゃあよ、お前は俺に犬の耳が生えたら、気持ち悪いっつって嫌いになるのか?」
 覗きこむと、ルキアは息を呑み、ううん、と首を横に振った。ああよかった。頷かれたらどうしようかと思ったぜ。
「だろ?俺だって同じだ。耳が生えようが角が生えようが、ルキアはルキアだ。可愛い」
 そして、駄目押し。
「―――愛してるぜ」
 ルキアの耳元に俺は低く甘く囁いた。ルキアは俺のこの声に弱いことは充分承知だ。俺もここぞという時にしかこの声は使わねえしな。
 案の定、ルキアの顔が赤くなった。心なしか身体の力も抜けている。それを隠すように俺の胸にもたれかかったルキアの肩に手を置いて、ほんの少しだけ俺の身体から引き離す。
 丁度良い距離。
 一度視線を合わせ、俺はルキアの珊瑚色の唇に唇を重ねる。ルキアももう抵抗することなく、俺の唇を受け入れた。甘い口付け、とろけるような刺激。
「れ……んじ……」
 ルキアの声が艶を含む。俺の襟元を掴んでいるルキアの手は、縋るように、ねだるように力が籠っている。
 俺は勿論内心大喜びで、ルキアの唇から首筋へと口付けを移動させる。仰向いたルキアの白く細い首が色っぽい。
「―――あ」
 再びルキアが小さく抵抗した。ん?と視線を向けると、「お風呂……入ってにゃいにゃ」と困ったように俺を見上げている。
「いいってこのままで」
 再びルキアの鎖骨に舌を這わせると、ルキアは「にゃ!」と声を上げた。か、可愛い。
「待つにゃ、だってたくさん汗をかいたにゃ……きたにゃいにゃ!」
「綺麗だから大丈夫。ルキアの匂いがする」
「や、お風呂入るにゃ!!」
 今の言葉は逆効果だったようで、ルキアは必死に俺にそう言い張った。いい匂いなんだけどなあ。
「じゃ、一緒に入るぞ?」
「うにゃ!?」
「時間ねえし」
「にゃんの?」
 薬の効力の、といいかけて慌てて言葉を飲み込んだ。ルキアにそれを言ったら怒られる。
「部屋借りてる時間の」
 そう言って問答無用で抱き上げた。そのまま風呂場へと連れて行く。風呂場への扉を開くとかなり広い浴室があった。抱き上げていたルキアを脱衣所で下ろし、俺は浴室に入って検分する。清潔な白一色の浴室。洗い場も浴槽も充分でかい。二人一緒に入ることを前提に作られているんだからそれも当然か。俺は思い切り蛇口を捻ってお湯を出し、湯船に湯を溜める。直ぐに湯は溜まるだろう。これもこんな場所では常識。
 脱衣所に戻ると、ルキアが文字通り飛び上がった。そう頻度は高くないが、何度か俺と一緒に風呂は入ってるのに何故、と思って直ぐに合点がいった。
 死覇装で隠している身体の奥に見える、ちらちら動く影。
「…………」
 何も言えずにまた泣きそうな顔になっているルキアとは逆に、俺の胸はかなりときめいていた。
 猫耳以外にも、そう、もうひとつ。
 尻尾が……っ!!
「さ、入るぞルキア」
「一人で入るにゃ……」
「何言ってんだ、ほら入るぞ」
「や、ちょっと待つにゃ……!」
 腕を引いて引き寄せると、観念したのかルキアは何も言わなかった。緊張してるように尻尾はぴんと立っている。うわあすげえ、ホントに生えてる。しかも動いてるし。十二番隊ってホントすげえよな。ありがとう十二番隊。 
「……こんにゃのまで……」
 ぴこぴこと動く尻尾を哀しげに眺めてルキアは言う。ここで「俺にも尻尾在るぞ、ほら!前にだけどな!」等と言ったら絶対殴られるから、賢明な俺は口にしない。
「さて仔猫を洗うかな」
「仔猫って言うにゃ!」
 両手に石鹸の泡を泡立たせて、白いルキアの肌を包む。丁寧に手で洗っていくと、ルキアは時折ぴくんと反応する。それに気付いても俺は気付かない振りで、ゆっくりとルキアの肌に触れる。全身が白い泡で覆われるまで、優しく隅々まで汗を洗い落とす。
 そんな中でも、尻尾に触れたときのルキアの反応は大きかった。「にゃ!」と声を上げ身を震わせる。俺の腕に、思わずと言った様子で爪をたて、そしてそれにすら気付いていないようだった。
 ―――もしかしたら。
 この薬、それ自体に媚薬の効果もあるんじゃねぇのか。よくよく考えてみれば、この薬を使う目的の殆どは、今俺たちがこうしていることだろうし、尻尾にもきちんと感覚がある―――しかも他の箇所に比べて敏感だ―――し、そう考えると成程ルキアの感じ方も普段より大きい気がする。
 洗いながらさり気なくその部分に触れれば、既にそこは水以外のとろりとした蜜で溢れている。
 く、と指先を軽く挿入してみると、ルキアは「にゃあ…っ」と背中を仰け反らせた。
 こ、これは。
 本当にありがとうございます十二番隊、いや涅マユリ様……っ。
「にゃ、恋次……っ!」
 ふるふると尻尾を揺らし、潤んだ瞳で俺を見上げるルキアは―――既に準備万端。








 ルキアの乱れようはいつになく激しいものだった。
 普段ならば、こんな昼日中、明るい内から身体を重ねることにまず間違いなく恥ずかしげに振舞うルキアが、そんなことを気にしている余裕が無いのか、俺の求めるままに全てを受け入れ、それ以上に俺を欲して動く。
「にゃ、にゃあ、にゃあああん!」
 今日は喘ぎ声も猫仕様。
 胸を舌で愛撫し、指を挿入しただけで、仔猫は達してしまったようだ。ぴくんぴくんと小さく痙攣するように身体を震わせ、そして脱力する。勿論俺はそれで終わらせる気はなく、ルキアの白い肌を、親猫のように舌で舐めていく。力の抜けたルキアの身体は、やがて再び反応し小さく声を上げ始める。
「れ、恋次……っ!」
 何かを考える状態ではないのだろう、ただルキアは俺の名前を呼んで、俺の与える刺激に従順に反応した。普段ならば恥ずかしげに目を閉じ、行為の最後の方の、理性が吹き飛ぶまでは決して見せない嬌態を、今日は最初から俺に見せてくれる。
 指じゃ厭にゃん、と甘くかすれた声で仔猫はねだる。
 そんな姿を見せられては、俺の余裕もなくなってしまう。布団に押さえつけ挿入しようとした時、ルキアの身体の下の尻尾を見た。
 何となく……痛そうだな。
 押さえつけていた手を離し、ルキアを抱き上げくるりと回転させる。「にゃ!?」と声を上げるルキアを四つん這いにさせた。目の前に黒い尻尾が揺れている。
「これで大丈夫だろ」
「や……っ!」
 流石にこの体勢は恥ずかしかったのだろう、普段のルキアが顔を見せた。今まで正常位しか俺とルキアはしたことがない。色んな体位があるということすらルキアは知らないだろうから、この獣のような体勢で、ルキアの心は戸惑いと羞恥で一杯だろう。
「にゃにをする気だ、恋次……!」
 暴れる仔猫の腰を支え、一気に俺はルキアの内部に突き入れた。充分に潤ったそこはすんなりと俺を根元まで受け入れて、ルキアはその刺激に声を上げる。
 そのままゆっくりと動くと、ルキアはあっさり理性を手放してしまったようだ。突き上げる度に「にゃ、にゃん、にゃあっ!」と甘い声がする。本当の猫のように四つん這いで俺を受け入れ、付いた手の中で白いシーツが皺になっている。俺の目の前では黒い尻尾がふるふると揺れて震えている。快感に耐えかね唇から零れる声は猫の鳴き声、突き上げる動きに揺れる頭には猫の耳。
「にゃ……!」
 ぎゅう、と掴んだシーツの皺に、ルキアが再び達しそうになっているのを知り、俺は自身をルキアから引き抜いた。登りつめるはずが、突然放り出されてルキアは「にゃんで……っ!」と悲鳴を上げる。泣きそうな顔がすごく可愛い。
「その顔が見られないのは勿体ねえなあと思ってよ」
「にゃに言ってるんだ……はやく、もっと、もっと気持ちよくにゃりたい……!お願い、恋次……」
 薬の所為か、普段ならば絶対に言わないそんなことをルキアは口にする。猫耳も尻尾も、俺を欲しがって震えているのが見えた。
「わかった、すぐに気持ちよくしてやるからな」
 ひょいとルキアを抱き上げ、俺は立ち上がった。先程の比ではなくルキアは驚いている。
「にゃ、にゃに!?」
「お前の顔、見てえんだ」
 向かい合い、俺はルキアのやわらかいお尻を持ったまま、俺自身の上にルキアを下ろした。不安定な体勢に驚き、ルキアの両手が俺の首に回される。
「にゃにをする気……にゃんっ!」
 立ったまま、俺はルキアの中に自身を沈める。ゆっくりと、重力に任せ―――ルキアの身体は俺のものを飲み込んでいく。
「にゃ……!」
 俺との繋がりだけでルキアの身体はほぼ宙に浮いている。落ちそうな不安感から、ルキアは必死で俺にしがみついた。「怖い、恋次、怖い……!」と縋る様は本当に仔猫のようでたまらない。
 ルキアの身体を左手で支えながら、右手は尻尾をやわらかく掴み愛撫する。下から上へ、上から下へ。時には強く掴み、時にはくすぐるように。やはりそこの感覚は敏感になっているようで、仔猫は俺にしがみつき声を上げた。回された手が肩に爪を立てる。目の前に、本当に至近距離に、ルキアの顔がある。快感だけに支配されたその顔。
「恋、次……!」
 ルキアの限界を悟って、俺は尻尾から手を離し両手でルキアを支え、その軽い身体を上下に動かした。その度にルキアの唇から色っぽい猫の喘ぎ声が洩れる。宙に浮かんでいる感覚なのだろう、落ちそうな不安感からか強く俺の身体にしがみついている。
「もう、いっちゃうにゃ……!」
 普段は決して口にしないその言葉を今日は口にし、一際高く「にゃああん!」と鳴き声を上げたルキアの中に、俺もようやく自分の慾を開放し―――仔猫はそれを全て受け取って、嬉しそうな笑顔を見せ。
「恋次、大好きにゃ……」
 そう呟いて、かすめる様な口付けをルキアから俺へ。
 そして、糸が切れたように、ルキアは俺にしがみついたまま気を失った。

  





 布団の上に横たえたルキアは、薬騒動の所為で疲れたのか、しばらく可愛らしい寝息をたてて眠っていた。
 これ幸いとルキアの耳と尻尾、それに綺麗な身体を明るい日の光の中で充分に堪能し、俺は時間が経つのを待つ。尻尾はルキアの意識がなくても、つついたらふるふると震えておもしろい。やがて、耳と尻尾は徐々に小さくなり消えていった。
 ありがとう猫耳。ありがとう尻尾。俺は君たちを忘れない。そしてまたお会いしましょう。
 ルキア、また薬飲んでくれねーかな。
 図らずも先輩の発した言葉からの脳内メモのひとつ、媚薬は本日クリアしたようだ。
 こうしてひとつずつ経験して行けたらいいんだけどなあ。
「ん……」
 小さな声を上げて、ルキアが寝返りをうった。そろそろ部屋を借りてる時間も終了だ。気持ちよく寝てるところを可哀想だが、俺は頬をつついてルキアを起こす。
「恋次……?」
「そろそろ時間だぞ、出る前に風呂入ってくだろ?」
 ここに入る前より汗かいただろ、というとルキアは赤くなる。自分の先程までの乱れ様は覚えているらしい。
「今日のことは忘れろよ?」
 そこでルキアは、自分の猫語が治まっている事に気が付いたらしい。両手で頭に触れ、猫耳もないことを確認して歓喜の表情を浮かべる。
「酷い目にあった……何故いつも私ばかりがこんな目に……」
 深々と溜息を吐くルキアに、俺は「可愛いからだろ」とにやりと笑う。
「猫耳、たまんなく可愛かったぞ。お前は『気持ち悪い』とか言ってたけどな、男からしたらもうたまんねーんだぞ?」
「……とても信じられん」
「ま、信じなくてもいいけどな、俺はとにかく可愛いと思った訳だ。それで」
 懐から紙に包んだそれを取り出す。
「何だ?」
「Cウィルス完全版。講演会会場で持ってきた。先輩に一つ使っちまったけど、あと4つ。……また使おうな?」
「厭だ」
 一刀両断された。
「ルキア……」
「いや、そうだな、お前が使うと言うのなら私もまた飲んでやってもいいが」
 お前の猫耳はどんな感じか楽しみだ、とルキアは笑った。絶対に俺は飲まないだろうと高をくくっているのだ。
 ……どうすっかな。
 本気で悩み始めた俺にルキアは呆れた視線を向けると、さっさと風呂場に行ってしまった。
 俺は慌ててその後を追いながら、脳内メモの完全クリアはまだまだ先のことだなと溜息を吐く。
 でもとりあえず。
「こら莫迦入ってくるな!」
「さっきだって一緒に入ったじゃねえか」
「お前が一緒に入ると時間がかかるんだ、絶対……」
「絶対?絶対俺が何するって?」
「うるさい、とにかく私一人で入る!」
 勿論俺はルキアの期待に応え……延長料金を払うことになった。







 




「だからお前と一緒に風呂に入ると遅くなるって言ったんだ!」
 すっかり日が暮れた道を、俺はルキアと並んで歩く。
 直ぐに帰ると隊長に言っていたのに、大幅に遅れてしまっていることをルキアはとても気にしていた。
 俺にしてみればもうルキアは子供じゃないんだし、遅いっつったってまだ7時前だ。夜も始まったばかりの時間だし。
「どうしてそうお前は際限ないんだ、いつもいつも」
「そりゃお前が可愛いからだろ」
 涼しい顔で俺は言う。こういう話題は俺が思った通りに口にすると、すぐにルキアは照れて口篭る。
「出来るならずっと一緒に居てえな。ずっとお前ん中で……」
 耳元で例の声で囁くと、夕闇の中で真赤になるルキアの顔が目の前にあった。
 そして、その時は知る由もなかったが。
「何処に居たいと……?」
 俺たちの前方に。
 夕闇の中、憤怒の焔を背負う―――
「た、隊長!!」
「兄様!?」
 同時に呼びかけられたその対象は、既に俺を殺る気満々なようで、千本桜は鞘から完全にその姿を現している。
「……手を出したら殺すと、伝えておいた筈だ」
 陰々と響くその声。
 ルキアを背後に庇いながら、俺はじりじりと後退する。
「いや、でも、ほら、好きな女と一緒に居たら、フツーそうなるでしょう!ね!隊長だってそうでしょう!?緋真さんと一緒に居たらそうなるでしょうがっ!」
「……私と緋真は、結婚まで清いままだった」
 マジかよ!?
 すげえなこの人。どれだけ自分を抑えることが出来んだ。
「死んで緋真に詫びてこい」
 下を向いていた千本桜の切先が、上へと振り上げられた。
 桜の花弁がひらひらと。
 それはとても幻想的な―――最後の最後に、夢のように幻想的な、それ。
 Final Fantasy。
「なんて言ってる場合じゃねえ、逃げるぞルキア!」
「ちょ、恋―――!」
 今日二度目の逃避行。
 俺はルキアを抱き上げると、背後のファンタジーから逃れるべく走り出した。
  









という訳で公約してました「猫耳で駅弁」です(笑)
本当に駅弁をしたら、女は落ちそうな不安さ、挿入の不自然さから気持ちよくないとの前田教授の講義で知りましたが、恋次くらいの腕力とルキアくらいの軽さだったら大丈夫ということでひとつ!(何をだ)

全5ページになりましたが、いや、ふっと気付くと裏の5話はあっさり一番量が多いんですよね…1〜4までは結構短かったのを「これじゃ短すぎる!」と書き足し書き足ししてたのですが、裏は書き足す必要が無いくらい最初から長かった…。
前振りがいつも長いんですけどね。

楽しんでいただけたでしょうか、今回悪乗りしてしまいました。びっくりどっきりメカとか(笑)知ってる人が居ることを祈ります。「やっておしまい!」「あらほらさっさー!」です。確か。違ったかな?
私、「わんと咆えりゃツースリー」の意味を最近知ったのでありました。そ、そうか!わんと1をかけてんだ!!と。鈍すぎです。
話が反れました。
何だか裏はいつもに比べて淡白です。やっぱり明るいHはあっさりになってしまいます、でへ。
物足りないと思われた方は大変申し訳ないです。いや私のレベルなんてこんなもんです、へへ。基本乙女だし(時々言わないと皆さんに忘れられてしまうから言っておきますが)。

では、読んでくださってありがとうございました!


2007.7.8  司城さくら