(この話は表ページの「さり気なく、言えたら」の挿入話です。「さり気なく、言えたら」を読んでいない方はまずそちらからどうぞ!)
本日通算5度目になるその口づけにやはり私は慌てるばかりで、その直前に口にしていた静止の言葉も気付けばすっかり頭の中から追いやられていた。
恋次の唇は私から離れたというのに、私は逃げる事も恋次を説得する事もできずにただ呆けていて、はっと我に返った時には私の身体は恋次の下にあった。
恋次は私の両手首を押さえていて、私の首筋にその顔を埋めている。つ、と移動する首に感じる暖かさが恋次の舌だとようやく気付いて、私は「ままま待てっ!」と裏返った声を出した。
「お願いだから少しだけ待ってくれ、話を聞いてくれ!」
すると恋次は私の手首を押さえたまま、「ん?」と埋めていた顔を上げた。膝を立てて私に体重を乗せないようにしている為に重さは感じないが、恋次の顔は私の目の前5cmという至近距離で見下ろしている。
「いや、突然こんな状況になってもだな、なんと言うか全く心の準備も何も……大体何をするかも私はわかっていないし、もう少しだな、事前に勉強してからの方がお互い良いような気がするのだがっ!」
「気のせいだ」
一刀両断された。
あっさりと私の説得?を却下して、恋次は再び私の首……どころか私のむ、胸へ顔を埋めている恋次に「だから待てといっているだろうが!」と叫んだ。
「んだよ」
「いや、ほら、私は松本殿のように、その、胸が大きくないし……きっとがっかりするぞ、お前」
「何言ってんだか……関係ねえよそんなもん。胸の大きさで好きになるわけじゃねーだろうが。俺は『お前』が好きなんだよ」
ぽっ、と頬が赤くなるのがわかった。
いやいやいや、喜んで流されちゃいけない。
「ほ、本気なのか?本気で続ける気なのか?」
「ああ、いい加減お前も覚悟を決めろ」
「覚悟って何だ!?」
「大体お前が煽るよーな事言うからだ、もう止まらねえ」
「煽ってなんかいないぞ!」
「あーんな可愛い顔で『私をどう思っているんだ』とか言ったじゃねーか」
「か、可愛くなんて言ってない!知らん、そんなのっ!」
「可愛い可愛い可愛い可愛い、ルキアは可愛い」
本日6度目。
恋次の唇を受けて、再び頭の中が真っ白になる。
「覚悟は決めたか?」
その言葉に、ぼうっとしながら頷いてしまった。
「よっしゃ!」
という恋次の声と共に、恋次の手は私の死覇装にかかる。脱がせようとするその恋次の手を、私はうろたえながら押さえつけた。
「ま、待て」
「待たねーって」
「いや、ほら、私、汗かいているし!草の上で寝てたし、きっと汚れてるぞ、だから……」
「大丈夫だ、綺麗綺麗」
「やだっ!お風呂……せめて、汗だけでも流させて……」
泣きそうになりながら懇願すると、恋次は「うー」と唸った後、「逃げねーか?」と私の顔を覗きこんだ。一生懸命首を縦に振ると、わかったよ、と恋次は私の上から退いてくれた。
「一緒に入るか?」
今度は必死に首を横に振った。振りすぎて目が回る。
先に入るか、という恋次の問いに、「あ・後でいい」と答えると、恋次はもう一度念押しするように「帰んなよ?」と言ってから風呂場へ消えた。
……どうしよう。
布団の上に座り込んだまま、私はおろおろと周りを見渡した。
尸魂界全体を巻き込んだ例の事件から数週間、その間に何度か来た事のある恋次の家だが、寝室に入るのは勿論初めてだ。
男の一人暮らしにしてはきちんと整えられた部屋。
その部屋の真中で、私はどうしていいかわからずにうろうろと視線を彷徨わせる。これからどうなるのか、これからどうするのか、全く先が見えずに不安だけが増大していく。
勿論恋次が怖いのではなく、この先自分がどう変わってしまうのかがわからなくて怖いのだ。
どうしよう。どうしたらいいんだろう。
立ったり座ったり歩いたり立ち止まったりしていると、「何してんだ?」と不思議そうな声が聞こえて私は文字通り飛び上がった。
「いや、別に、何も……」
何気なさを装って振り返った私は途端に「うわああああ!」と叫んだ。恋次は私のその声に「な、何だよ」と驚いている。
「ななななななんでもない」
恋次を見ないように壁伝いに蟹歩きで移動して、急いで風呂場に飛び込んだ。ばんっと扉を閉めてぺたりと床に座り込む。
恋次なのに、恋次じゃないみたい……だ。
子供の頃、夏にはよくしていた格好なのに……恋次の上半身なんて見慣れていたはずなのに。
いや、子供の頃はもっと腕は細かった。あんなに背も高くなかったし、あんなに胸も厚くなかった。
あの胸に、私は抱かれていたのか。
処刑の場から逃げ出した後、ずっと。
……って言うか。
この後、私はあの胸に……。
………………………………………。
どうしよう。
かあああっと頬が熱くなって私は両手で頬を挟みこんだ。
と、とにかく汗を流さなくては。
あいつの事だから、あまりここに立てこもってると勝手に入ってきそうだ。
髪は……洗ったらおかしいだろうな。
とりあえず私は丹念に身体を石鹸で洗った。
ごしごしと身体を洗う間中、どきどきする胸を、鼓動を静めるために自分で自分に問いかける。
―――私は恋次が好きなのか?
大好きだ、本当に大好きだ。
一護の家に泊まると言っても何の反応も示さなかった恋次に、自分は何とも思われていないのではないかと悩んだこの3日間、本当に哀しくて辛かった。
私は恋次が本当に好きなのだと、思い知ったから。
―――私は恋次とそうなるのが(どうなるのか実は良くわかってないのだが)厭なのか?
……厭じゃない。
さっきからの戸惑いは、そうなるのが厭なのではなくて……私は、恥ずかしくてどうしたらいいかわからないからなんだ。
―――ならば、私は?
大丈夫……恋次が好きだから、大丈夫。
恋次に任せればいいのだ、私は。
もう迷わない。
私はこの後、身も心も恋次と一つになるんだ。
「大丈夫」
私は自分に確認するようにそう呟くと、身体を包む白い泡を全て流して立ち上がった。
と、勢い込んで風呂場から出たのはいいが……。
……服は着るのだろうか。
多分この後脱ぐことになると思うのだが……恋次の待つ寝室まで、私はどんな格好をしていけばいいんだろう。
タオルを巻いただけで行くのか?
しかしそれはなんだか……やる気満々というか……変な風に取られないか?
でもまた服を完全に着込んでいたら、それはそれでおかしい気がする。
……わからん。
どうしたらいいのか……。
……とりあえず着よう。
タオル一枚じゃあまりにも心許ないし。
風呂に入る前と同じ格好で恐る恐る寝室の中を覗き込むと、布団の上で恋次は胡坐をかいて待っている。襖に背中を見せていたが、恋次は直ぐに私に気付いて振り向き、ほんの少しだけ安心したような笑顔を見せた。やっぱり私が黙って帰ることを心配していたようだ。
ちょいちょいと手招きされて、私はぎくしゃくと恋次の前まで歩く。
座る恋次の前に立つ私は、恋次を見下ろしている。
「……何でまた死覇装着てるんだ?」
笑う恋次に、やっぱり変だったかと赤くなった。困惑して俯く私の身体を、恋次の腕が包み込む。
「まあ、脱がす楽しみがあっていいよな」
はあ?
呆れて見下ろすと、恋次は言葉通り、私の死覇装の紐を解いていた。
突端に鼓動が速くなる。
耳に自分の心臓の音が、物凄く大きく聞こえる。あまりに大きすぎて、恋次に聞こえてしまっているかもしれない。
大きな手が襟元から入り込み、肩に触れ、すとん、と死覇装が落ちて……私の素肌が露わになる。
恥ずかしくて恥ずかしくて死にそうだ。
脈の速さは過去最高だろう。どくどくどくどく、と激しいリズムを叩き出している。
「……ルキア」
名前を呼ばれることなんていつものことなのに。
何故か、今はその声だけで……変な気分になってくる。
舞い上がるような、ふわふわした感じ。
恋次の手が私に触れる。そのままそっと、抱きかかえるように優しく布団の上に横たえられ、恋次はもう一度私の名前を呼んだ。
「好きだぜ、ルキア」
「うん。……私もだ」
小さく応えると、恋次の唇が私の唇に触れ……。
「……ちょっと、明るくないか?」
いや、今は昼間だから明るいのは仕方ないが……せめて窓を覆うとか、……現世で言うカーテンというものだな、それをして暗くしてくれるととても助かるのだが。こんな明るい中でははっきり全部見られてしまうではないか。
「普通明るくしてやるもんなんだぜ?」
「……そうなのか?」
「じゃなきゃ見えねえじゃねーか」
「そ、そういうものなのか」
「ああ、夜だったら明かりを煌々とつけてるしな、皆」
「は、恥ずかしいな……皆、よく平気でそんなことが出来るな」
信じられない。私は出来ればあまり見られたくないと思うのだが、世間ではそうは思わないのだろうか。
「本当にお前は何も知らないんだな」
「す、すまん」
「まあ俺が全部きちんと教えてやるから」
何か一瞬、恋次が……あまり性質の良くない笑みを浮かべたような気がしたが……気のせいか?
「隅々まで、きちんと見てやるからな?」
「…………それが普通なのか?」
「普通普通」
ならば仕方ない、と私は観念してせめてと目を閉じた。
恋次の手が、舌が、宣言した通りに私の肌の隅々まで辿っていく。
ゆっくりと焦らすように、私の反応を探るように、私の体の全てを恋次は征服していく。
緊張で最初は固まっていた身体も、恋次が触れるたびに力が抜けていく。
……なんだ、この感覚。
疼くような、くすぐったいような。
身体の奥が燃えるような……そんな感じ。
恋次がまるで林檎をそのまま口にするように、私の胸にぱくんと軽く噛み付いたときには、思わず小さな声を上げてしまって慌てて口を塞いだ。
「別に、思ったままを口にしていいんだぜ?」
「は、恥ずかしいぞ」
「そうか?皆してるぞ?感じたことは素直に言葉にするんだ、こーいう時は」
「そうなのか……」
何だか私にはとても信じられないが……いつか慣れる時が来るのだろうか。何か全てが恥ずかしい。
「で?どんな感じだ?」
「ん……何だか、くすぐったい……触られるとどうしていいかわからなくなるんだが、もっと触れて欲しい気もする……むずむずするし、でも『もっと』って思ってしまう……何が『もっと』なんだかよくわからないのだが……身体が熱いし……恥ずかしいし……頭がくらくらする」
「そうか、じゃあどんなのが気持ちいい?」
「……全部気持ちいい」
「ここは?」
恋次は私の左の胸の先端を口に含んで、そこを舌で転がした。右の胸は柔らかく揉まれて、「んっ!」と私は声を上げる。
「あ、……うん、気持ち……いいっ……」
気持ちよすぎて……身体が自然に動いてしまう。腰の辺りがじんじんして、私の腰は気付くと、何かを待つように震えている。
……んん?
「……なんか……おかしい」
「何が?」
「何か……足の間が……その」
「だから、はっきり言葉にするのがルールなんだからよ、ちゃんと言え」
「ええと……足の間が、なんか、ぬるぬるする……なんだ、これ?」
今までこんな事無かったのだが……しかも、随分たくさん身体から出てる気がする……。
恐る恐るそこに触れてみると、ぬるっとしたもので溢れている。
べたべたした液体が、指に絡みついた。
どうしよう。こんなの知らない。
「も、もしかして病気?」
ぐふっ、と頭上で妙な音がして、不安で泣きそうになった顔を上げると、恋次が必死で笑いを堪えていた。
「何がおかしいんだ!」
「お前ってホント何も知らねえのな……」
くくくく、と身体を震わせて笑う恋次に、どうやらこれは病気の所為じゃないと知ってほっとした。そんな私を見て恋次は更に笑う。
「笑うな!何も知らなくて悪かったな!」
「いや、何も知らないから嬉しい……お前は心も身体も純粋なんだなあ、と思ってよ……」
恋次は私の頭を撫でて、言葉通り嬉しそうに笑った。
「これは、お前が俺のしてる事が気持ちいいって思ってる証拠。だから病気じゃねえよ」
「そうなのか……」
一安心した私の上から恋次は下へと下りていき、私の両足を掴んで開こうとする。
「うわあ!何をする莫迦っ!」
「暴れんなって」
隅々まできちんと見るって言っただろ、と言われて、それが普通だといった恋次の先程の言葉を思い出す。
「という訳できちんと見せろ」
「……ううっ」
恥ずかしさに涙ぐみながら、力を入れて恋次を拒んでいた両足の力を抜く。恋次はあっさりと私の両足を左右に開いて、その部分に触れた。指がそっと、く、とそこを拡げる。
「…………」
恋次が息を呑む気配が伝わって、私はまた不安になる。
「ど、どこかおかしいのか?」
「いや……すごい」
「すごいって……何?どこか変?」
「綺麗な珊瑚色。こんなの初めて見た」
じっと視線がそこに注がれているのを感じて、やっぱり私は、いくらこれが普通の事だといわれても恥ずかしくて堪らない。
「もう、いい加減……足を閉じさせてくれ」
「まだ駄目」
ぺろりと舐められて私は飛び上がった。
「やだ!」
「やだじゃない」
「やだ、そんな所……汚いっ!」
「汚くない」
「やだやだやだ!!」
暴れる私の両足を押さえ込んで、恋次は「これも当たり前の事なんだぜ?」と言う。
「ほ、本当?」
「ああ、本当」
「皆してることなのか?」
「必ずやる」
それならば仕方ないが……これが普通なのか……思いもよらぬことばかりで困惑するばかりだ。
皆は恥ずかしくないのか?
私は恥ずかしくて仕方がないのだが、そう感じる私の方がおかしいのか?
恋次の舌が動き出す……その、私が気持ち良い証というその液体を、舌で掬い取るように、丹念に舐める。
「やっ……」
意識しなくても、声がこぼれる。身体ががくがくと震える。初めて感じる強烈な感覚に、私は気付けば大きな声を上げ、腰を恋次に押し付けていた。
「やだ、恋次っ!」
「やめるか?」
「やだ、やめちゃ駄目っ!」
「どっちだよ」
意地悪そうな恋次の声と共に、恋次の舌がそこから離れていくのを感じた。途端、身体中が疼き出す。先程の刺激を求めて身体は自然にくねり出す。
「やだ、やめないで!もっとして!」
「そうそう、いい感じだぜ、そうやってちゃんと口に出すんだぞ?」
「うん、だから、もっと……!」
「もっと?」
「……舐めて……っ」
「上出来」
そして再び与えられる刺激に、私は我を忘れて歓喜の声を上げた。恥ずかしいという気など見事に忘れて、恋次の舌の動きに合わせてはしたない声を上げる。
まるで自分じゃないみたいだ。
どれくらい声を上げ続けたのか、どのくらい時間が経ったのかわからないが、ふと恋次の身体が離れた。え、と目を開いた私に、恋次は安心させるように笑う。
「……そろそろいいか?」
「いいかって何が?」
「お前ん中に這入っていいか?」
「這入る?」
首を傾げて恋次を見た私は、驚きに息を呑んだ。
「な、なんだお前!!どうしたんだそれは!!」
「ん?」
「な、なんか形が……」
子供の頃、河で水浴びしたりお風呂に入ったので、恋次の裸は見たことがある。
けれど、どう考えても、ある部分が……その時とは明らかに形状が違う。
「四番隊に行こう!!なんかおかしいぞ、恋次!!」
「あのな、これはさっきのお前と同じなの。気持ちいいって証。病気じゃねえよ」
「……そうなのか?」
「そ。で、これをお前の中に挿れる」
「何ぃっ!?」
愕然とした。
「挿れるって……何処に?!」
「さっき俺が舐めてたところ」
「……無理、無理だ!!絶対無理!!」
「大丈夫だって、皆やってることだし。これは正真正銘の本当」
「……正真正銘?」
ごほごほ、と恋次が咳き込んだ。
「まあ、とにかくこれがメインなんだからな、これが無くちゃ終わらねえぞ?」
「だって……そんな大きいの、無理だ……」
「……まあ、お前身体ちっちゃいからな……」
「……痛い?」
「……最初はちょっと痛いって聞くな」
痛い、と言われて不安になったが……折角ここまで来たのだし……これをしなくては本当の恋人同士になれないようだし……。
「……いいぞ」
「……いいのか?」
「うん。……がんばる」
横になりながら私は目を瞑った。緊張する私の体に手を置いて、恋次が私の上に覆い被さる。
「……力、抜けよ」
「うん」
恋次のそれが、私に触れるのがわかった。
私の呼吸が速くなる。
ぐ、と恋次の身体に力が籠められたのがわかった。
恋次の一部が、私の中に……
「い゛っ………っ!」
たああああああああああい!!!!!!!!!!
「痛い、痛い痛い痛いっ!!ちょっとじゃない、すごく痛い!!無理だ、いたあああい!!!」
「こ、こら」
「無理無理無理、絶対無理だっ!痛い、莫迦、恋次の莫迦!!」
私の狂乱振りに、恋次は諦めたのだろう、ふう、と溜息をついて私の上から退いた。そのまま、涙ぐむ私を抱きしめて「悪かったよ」と頭を撫でる。
「痛かったんだぞ、本当に痛かったんだぞ!あんなの、あんなの絶対無理だ……」
ぐしぐし泣き続ける私を、あやすように恋次は頭を撫で続け、私はその胸の中で子供のように、駄々を捏ねるように恋次に抗議し続ける。
「そうか、悪かった。俺も初めての女とはやったことねえから、どうすればお前に負担がねえかよくわかんなくてよ……」
……………。
え?
「今、何て言った?」
がば、と顔を上げた私に、恋次は驚いたように目を見開いた。
「あ?」
「今、何て言った!?」
「何か言ったか、俺?」
「『俺も初めての女とやったことねえから』って言ったな今!」
「ああ、言ったけど何だ?どっかおかしいか?」
「初めてじゃない女とならあるのか!!」
私の言葉に、「あ」と恋次は呟いて……次の瞬間、紛れもなく、しまった、という表情を浮かべた。
「……あるんだな……」
地を這うような私の声に、恋次は「いやいやいや!」と手を目の前で大きく何度も振った。睨みつける私の前で、何度も「違う違う」と訴える。
「いや、すっげえ昔!お前と離れて自棄になってた若い頃だ、それに好きな女なんて居なかったぞ?やった女だってお前とどっか似てる奴だし!声とか髪型とか仕草とか、それか商売女か……兎に角、心から抱きたいって女じゃなくて、なんつーかただの処理、排泄行為だ、今おまえとしてるのとは全く別物、月と鼈、雲泥の差」
言い訳にしか取れないその恋次の言葉に、私は冷たい視線を向け、ふん、と顔を背けてきっぱりはっきり恋次に言う。
「……やめた」
「何ィっ!?」
うろたえる恋次を睨みつけて私はもう一度「やめた!」と宣言した。途端、恋次の顔が情けなさそうに歪む。
「いや、本当に好きなのは、抱きたいって思ったのはお前だけだって……そんな、もう二度としないなんて事言わねえでよ……」
「やめたのをやめたと言っている」
「は?」
「続きだ、恋次!はやくしろ!!」
「……いいのか?」
「煩い、莫迦っ!お前なんか嫌いだ、大っ嫌いだ!!」
ぽろぽろ涙を零す私を、恋次は「悪かった」と抱きしめた。大きな胸。この胸に、既に他の誰かが抱かれているなんて、思いもよらなかった。
莫迦莫迦莫迦。
ぎゅっ、と背中に手を回して抱きしめながら、「私が好きか?」と聞いてみる。涙声で、情けない声しか出なかったが。
「好きだ」
「本当に?誰よりも?」
「誰よりも何よりも。ルキア以外何もいらねえ」
「私を抱きたい?」
「お前が許してくれるなら」
「許さなかったら?また他の女を抱くのか?」
「もう一生誰も抱きません」
「誓うか?」
「ルキア以外、もう誰にも触れません。誓います」
生真面目にそう誓う恋次の胸に顔を埋めて、「……なら、いい」と呟いた。
本当は悔しくて仕方ないけど。
でも、恋次が私を好きだという気持ちは本当だとわかるから……。過去は過去、と思えるように。
だから私は、決めた。
「痛くてもいい。……続き、しよう」
「ルキア……」
初めて自分から恋次に口づけた。
恋次の頭を抱え寄せ、深く繋がるように舌を絡める。
最初は遠慮していたのか小さかった恋次の動きも、私の動きを受けて激しくなった。
そっと布団の上に横たえられ、目で「いいか?」と問いかけられ、私は無言で頷き返す。
恋次が触れる、先程と同じように。
ぐ、と身体を引き裂かれる痛み。
「……くっ!」
堪えきれずに、唇から苦痛の声が漏れる。
痛い。やっぱり痛い。引き裂かれてるとしか思えない。
「……やめるか?」
心配そうな恋次の顔が、私を覗き込む。それに向かって唇を噛み締めながら首を横に振って拒絶を表し、私は恋次の首に両腕を回した。
「力を入れるなよ。その方がつれえぞ」
うん、と頷くと、恋次の舌が胸を舐めた。先程の快感が甦る。ん、と明らかに苦痛ではない声をあげ、私は恋次にしがみつく。
「そう、いいぞルキア。そのまま……」
ぐぐ、と更に恋次が私の中に這入り込む。
再び痛みに硬直する。すると恋次は動きを止め、私の耳に舌を入れる。びくんと体が跳ねた。
そうして、少しずつ少しずつ、私の中に恋次は這入って来る。私が痛みを忘れるように、優しく色んな所を愛撫しながら、私の負担にならないように時間をかけてゆっくりと。
―――そうして、何度目かの繰り返しの後。
「……全部這入ったぞ」
その言葉に目を開ければ、幸せそうな恋次の顔。
額に口づけを落とし、頭を撫でて、そして恋次は自分の額を私の額にくっつけた。
「ああ、なんつーかホントに……幸せって感じ」
その、子供のような恋次の物言いに、私は思わず笑ってしまい、その途端身体を突き抜ける痛みに顔を歪めて、それでも笑い続けた。
「んだよ、笑うな」
「子供みたいだな、恋次」
「ずっと片想いだったからな、何だか夢みてえだ」
「片想いじゃないぞ」
そんな恋次につられてつい口走ってしまうと、恋次はそう言えば、と私を見た。
「お前、いつから俺が好きだったんだ?」
「え?」
「そういやお前、まだ俺の事好きだって言ってねえな?」
「そ、そうか?さっき言っただろう、うん、言った」
「さっきお前が言ったのは『私もだ』だ。その後は『大っ嫌い』だし」
「ええと、……まあいいではないか。同じようなことだ」
「いーや、きっちり言ってもらおうか。じゃなきゃこれは夢だ、夢に違いねえ」
「莫迦かお前は……」
「さあさあさあ」
「……こう、改まって言うのは……言い辛いんだぞ、莫迦」
「いいからはやく言えっての」
「うー」
「うー?」
「……好きだよ」
「聞こえねえなあ」
「好きだってば」
「え?何だって?」
「好きだって言ってる!!」
雰囲気なんて何も無く、怒鳴るようにそう言ったのに、恋次はやっぱり嬉しそうだった。ぺろりと私の鼻の頭を舐めて、幸せそうに笑った。
「悪ぃ、あと少し我慢してくれな」
「ん?」
「ちょっと動くけどよ、なるべく痛くないようにすっから……時間もかけないようにする」
「恋次がそうしたいなら、いいよ」
見上げながらそう言うと、恋次は何ともいえない顔をして、それからゆっくり動き出した。
その動きは、私の中に這入った恋次自身を抜き差しする動きで……それはやはり痛みを伴ったけれど、恋次は言葉通りに、なるべく私に苦痛を与えないようにしているのだろう、先程よりは痛くは無かった。
私の顔の横に両肘を付いて、私の頭を抱え込むようにする恋次の顔が、本当に目の前にある。その顔がどこかつらそうで切なそうで、少しだけ心配になった。
不安そうに見ている私に気付いたのだろう、恋次は小さく笑って、「大丈夫か?」と聞く。
「うん、私は大丈夫だ。それよりお前の方がつらそうで……」
「違ぇよ、つらいんじゃなくて気持ちいいの」
「そ、そうか?ならいいんだが」
「お前もそんなにつらくないんなら……大丈夫かな」
そう言った恋次の唇が、次の瞬間には私の唇を塞いでいて、私の舌を弄ぶ。同時に片手は私の胸に伸びて、快感を私の身体に送り始めた。
声は、恋次の舌に絡め取られて発せられない。
んん、というくぐもった音しか出ずに、恋次の肩をぎゅっと掴んだ。
どうしよう、どうしよう。
何か変だ……痛みもあるけど、何だか……気持ちいい。
恋次の唇が離れて、私の様子を伺っているのがわかる。上から見下ろす恋次の目と私の目が合って、それでも私は何かを言う余裕が無い。
「苦しいか?」
首を横に激しく振った。
「気持ちいい?」
うん、と頷く。
「声に出して言わねえと」
頭上で恋次が笑う。嬉しそうに幸せそうに、ほんの少し意地悪そうに。
「気持ち、いい……!」
「どんな風に?」
「わかんない、何が何だか、もう、全部気持ちいいから……やだ、何かおかしい……どうしよう恋次!」
「おかしいって?」
「や、変!なんか、あ、わかんない……や!わかんなくなる!あ、あ……」
あとはもう声にならなかった。もう何が何だか判らなくて、恋次の動きと共に、気持ちよすぎて意識が飛びそうだ。考えることなんて出来なくて、必死に恋次にしがみつくのが精一杯で。
「俺が好きか?ルキア」
そんな風に聞かれた気がするけど、本当に恋次が言ったのかはわからない。ただ、そう聞こえた気がしたから、私は何度も何度も、「好き、恋次が好き」と言い続け……。
気付いた時には、恋次が私の上に覆い被さって荒い息をついていた。
汗ばんだ恋次の身体が私にぴったりと寄り添って、私の頭を抱えて呼吸を繰り返している。どこかぐったりとしたようなその恋次の首に、おずおずと腕を回すと、「気付いたか」と恋次は微笑んだ。
「私……?」
「一瞬だけ意識が飛んだみてえだな。うん、よかったよかった。初めてでイけるなんて見所があるぞ?」
……何だかわからないが褒められた。
「あとな、言っとくけど俺は普段、こんなに早くねえからな?今日は特別だぞ、長い事待ってた瞬間だったからな、それに時間をかけたらお前がつらいと思ってよ」
言い訳じゃないぞ?と生真面目に言われたが、やっぱり私には何のことだかさっぱりわからない。
「……これで私達は、ちゃんとした恋人同士になったのか?」
首を傾げてそう言うと、恋次は「完璧完全な恋人同士、というより婚約者?」と笑った。
「そうか」
ほっと吐息を吐き出す。私はちゃんと出来たみたいだ。
「でも、やっぱり私には恥ずかしいと思うことが多すぎだ……私は普通の人と、考え方が違うのかな。明るい中ではやっぱり恥ずかしいし……他にも色々、恥ずかしい」
呟いた私の言葉に、恋次は何故か曖昧に笑った。なんなんだ、あの笑い方。何か裏がありそうな……?
「ま、他にもまだまだ教えなくちゃいけねえ事があるからな、徐々に覚えていこうな?」
「まだあるのか……」
「例えばだな、…………とか、…………とか」
耳打ちされて、私はぼんっ!と顔が一瞬で赤くなった。
うわあ、どうしよう。
「……しなきゃ駄目?」
「駄目ってことはねえけど、普通はやるんだけどな」
普通、という言葉を使われると……しなくちゃいけない気がする。あまり恋次に我慢させると、恋次は他の女に手を出すのだろうか。
それだけは絶対に厭だ。
「……他の女と、もうしちゃ駄目だぞ」
「絶対しない。ルキア以外女じゃない。全部かぼちゃだ」
なんだそれ、と笑う私に、恋次は「未来永劫、お前だけだからな」と囁いて、幸せそうに口づけた。
その後、恋次と布団の中で一緒に眠った。
あったかくて幸せで、そのぬくもりに眠りは深く、目を覚ました時はもう真っ暗で……慌てて飛び起きた途端、身体を突き抜ける痛みに呻いた。
「大丈夫か?」
私の声で起きたのか、恋次の声がする。
「あんまり大丈夫じゃない……」
眉を顰めて苦痛に耐える。痛い、ずきずきする。まるで、
「まだお前が中にいるみたいだ……」
「刺激的なこと言いますねルキアさん」
感心感心、と嬉しそうに呟いて、「じゃ、送ってくか」と恋次は立ち上がる。
私を抱き上げて。
「うわっ!」
「その前に風呂入ろうなー」
「やだ、一人で入るっ!」
「動けないくせに何を言う。俺がちゃんと洗ってやるから安心しろ」
「やだ!恥ずかしいっ!」
「これも普通の事なんだって」
「……本当か?」
「本当本当」
実際動けないのは本当だったので、結局私は恋次に身体を洗ってもらう羽目になり……丁寧に、まるで私がお姫様のように、恋次は私を甲斐甲斐しく世話をする。
どんな甘えも我侭も、全て叶えてくれる恋次に、私は困ったように心の内で呟いた。
……癖になりそうだ。
甘やかされて。我侭を言えば笑って頭を撫でて口付けてくれる。
子供みたいだけど、それがすごく気持ちいい。
重ねた身体の体温も、たまらなく気持ちよくて。
さっきの「恋人同士の行為」も、またしたいな、なんて思ってしまう私がいて。
恋次の言った、「一緒に暮らしたら足腰立たなくて任務どころじゃねえだろ」という言葉が、全く持って納得できることだと、心の底からわかってしまった。
という訳で「さり気なく、言えたら」の続きです、完全な裏バージョン(笑)
今までルキアのロストバージンは何度か書きましたが、この手のタイプは初めてで、書いててすごく楽しかったです。
普通ならば戸惑いがあるでしょうからね、ねえ?(誰に聞いている)
恋次は何も知らないルキアに、「これが普通だ」とある事ない事言ってますが、勿論信じませんよね、酸いも甘いもご存知の大人の皆さんは(笑)
いつかルキアにばれてものすごい怒られるといいと思います、恋次。
この話ではルキアが幼くなってしまいましたが……ルキアらしくないですか?
でもほら、ルキアは恋次の前だと甘えん坊になっちゃうから!!(寒い上に末期症状ですか私)
あー、楽しかった。「痛い!」ってルキアが我慢しないで言える初えっちが書けて楽しかったです。
これ、前回アップの「絲遊」と同時期に書いてたんですよ。正反対なロストバージンですな、ルキア(笑)
シリアスを書いてると、どうにも明るい話が書きたくなってねえ……。
明るい中で二人はイタシテルので、裏には珍しく背景白で(笑)
2006.4.25 司城 さくら