女子というものは、揃って昼食を取るものらしい。
 4時間目が終わってそろって誘いに来た彼女たちに断る理由もない。私は笑顔でその申し出を受け、校庭にある大きな木の下で、購買部で買ったパンを口にしている。
 空は青く、雲ひとつない。風は木々の間を通り抜けていく。
 ―――気持がいい、な。
 ぬけるような青空。日の光は強くもなく、弱くもなく、穏やかに降りそそいでいる。
「あー、気持ちのいい青空ねえ。こんな日はヒメと二人、開放感に任せて青空の下、青か……」
「うるさい、黙れ!こんな気持ちのいい空の下で下ネタを言うな!」
「これが下ネタだってわかるたつきの下ネタレベルも相当なもんよねえ」
「誰のせいだと思ってんのよ!!あんたのせいでしょ、あんたの!!」
 本気でない彼女たちの口喧嘩に、私はふと自分の過去を思い出す。
 目の前の少女たちと同じように、私も真央霊術院で……いや、それ以前からずっと、繰り返してきた悪口の応酬。
 その思い出は懐かしさと共に、つきんと私の胸を刺した。
 慌てて頭を振って、心細くなった弱気な自分を追い出す。しっかり今という現実を見なければならない。
 その思いを自らに植え付けるべく見渡した景色の中で、私は「たつき」の首に一筋の傷があることに気が付いた。薄く血が滲んでいる。
「どうしたんですの、この傷」
 そう尋ねると、たつきは「え?」と首を押さえた。本人は気が付いていなかったらしい。しばらくして「ああ、さっき木の間を通った時に出来たのかな」と笑った。
「鈍感ね、たつき。私が開発してあげましょうか?」
「……何をよ?」
「性感帯」
「黙れ、エロ女!」
 千鶴が言った言葉が何かは私にはよくわからなかったが、たつきは顔を赤くして怒っている。傷口を洗いに行く様子もなかったので、私はたつきを呼んだ。
「何?朽木さん」
 振り向いたたつきの傷口に、私は舌を這わす。
 その途端、たつきは何故か飛び退った。
「どうしました?」
「ななななななな、何!?」
「消毒ですが……」
「消毒う!?」
 たつきのあまりの驚きように、私の方が驚いた。そのたつきの横で「うっ!」という呻き声がして、次いで千鶴にがしっと両肩を掴まれた。
「朽木ひゃん、わらし、舌噛んじゃって……消毒、お願いした……ごふうっ!」
「黙れ、セクハラ女!」
 たつきの見事な蹴りが千鶴の鳩尾にヒットして、千鶴はその場に崩れ落ちた。あんなに綺麗に決まった蹴りを受けて大丈夫なのかと心配したが、呻きつつも起き上がった千鶴には慣れたものだったらしく、
「折角のディープキスのチャンスが……」
「煩い、万年発情女!」
 ディープキス、という言葉に私は唖然とした。舌を舐めるという事は、確かにそうとも取れることに今更ながら気が付いた。
 私は過去、それをしてしまっている。でもそれは「キス」ではない。あくまでも「消毒」だ。……しかし。
「……普通、しませんの?」
 私の言葉に、たつきは「しない、普通」と答えた後、「もしかして、今まで誰かにしてたの?誰かにそうするものだって言われてたの?」と険しい表情で尋ねてきた。
 答えは「その通り」だったのだが、とてもそれをいえる雰囲気ではない。
 ああ、しかし「友人」にはしないという事なのだろう、私はほっとしながら、
「いえ……あ、では家族では普通ですよね?」
 一縷の望みを込めて尋ねた返事は否、だった。


『ルキア!』
『なんだ、また怪我したのか?最近多いぞ』
『いやあ、何か喧嘩吹っかけられる回数多くてよ』
『しかも顔ばかり怪我しおって。ただでさえ人相悪いのに、これ以上悪くしてどうするのだ』
『そんな事より、早くいつもの頼むわ。自分じゃ届かねえんだよ、傷に』


「そういう事か、あの男……っ!!」
 思わず溢した素の声に、少女達が「え?」と顔を上げたので慌てて私はその場を取り繕うように微笑んで「何か?」と惚けた。
 上手く誤魔化せたようで、それ以上の追求はなく、私は胸を撫で下ろす。
 それにしても、あの男……っ!!
 きっかけはなんだったのか忘れたが、いつの間にか恋次が自分で届かない場所の傷の消毒は私が舐めるものだとなっていた。
 知っていたのか?あいつは。その行為が普通で無いということに。
 ……知っていたのだろう、恐らく。
 何故ならいつも怪我をするとやたら嬉しそうにしていたのだ。それはこういうことだったのか。
 ああ、そういえばこの行為を他人にはするなとやたら念を押していた。『家族にしか普通しないんだからな』といった奴の言葉に、『家族』といわれた事が嬉しくて、あの時の私は素直に『ああ』と頷いたのだ。


「……覚えておれ……次にあったその時、今までいい様に使ってくれた礼をさせてもらう」
 ぎり、と唇を噛み締めたその時、遥か遠い別世界で、奴が原因不明の悪寒に身を震わせているであろう事は、私には疑いようもなかった。








私は女の子が好きな相手の傷を舐めるというシチュエーションがものすごく好きなようです(笑)
今までにも違うジャンルでそういったシチュエーションを書いています。舐める場所や理由は違いますが。
つまり、新しく好きになるジャンルで必ず「傷を舐める」話は書かなくてはいけないのです。
……通過儀礼?(笑)


これも別サイトであげてたものです。

2004・9・7 (2004.7.25)  司城さくら