ソノ時、世界ガ軋ム音ガシタ。
しんと静まり返った広い白い空間、目の前に一人、私の背後に11人、その11人の後ろに無数の人々。
その無言の人の壁の前で、私は一人ひざまづく。
呪文のように低く発せられるその声を頭上に聞きながら、私は視線を床に固定したまま、その木目をじっと見つめていた。
時間は変わらず流れて行く。
何の異変も無かったかのように。
欠けた空間は直ぐに代理の破片をあてがわれ、機能は滞りなく、問題は何一つ無く。
私は唯一人、偽りの世界に生きている。
『―――おぬしは近い将来、儂の後を継ぐであろうな』
『は?』
『儂も安心して後を任せられるのはおぬししかおらんでの』
『恐れながら、それはご容赦願います』
『ほう?何故じゃ?』
『私はずっとお傍に―――ずっと共に在りたいと思います。夜一様』
『砕蜂……』
『夜一様のおられる所が私のいる場所。夜一様が別の任務に就くというならば、私も共に参ります』
『……そうか。おぬしに後を任せて、そろそろ隠居したいと思うていたのだがなあ』
『……何か、あったのですか?』
『いや?ただふらふらしてみたくなっただけじゃ。そうだな、ではいつか……引退でもした時は、おぬしと湯治でも行くかの。温泉三昧じゃ』
『お、温泉ですか……はっ、お供させて頂きます!』
『……本当におぬしは固いのう……』
物音一つしない。
如何してこんなにも静かなのか。
―――それはとても簡単な事。
私が世界を拒んでいる。
この偽りの、マガイモノのすべてを拒絶している。
何も見ない。
何も聞かない。
何も言わない。
何故なら、
私の世界はもう崩れ去ったからだ。
一目見たときから、心を奪われた。
憧れという言葉はあてはまらない。崇拝、それでも足りない。
貴女は私にとって『世界』だった。
貴女の為に私は在る。
貴女の為に私は生き、貴女の為に私は死ぬ。
貴女が私の世界。
貴女が私のすべて。
『夜一様――――?』
広い、物音しない空間。
いつも貴女がいたその場所には何も無く。
無機質な空気が、ただそこに在った。
何も言わず。
貴女は何も言わず、私に何も告げず。
あの男の為に罪を犯し、
自らの部下に追われる事になると知りながら。
それでもあの男を助けたいと――――。
その時、世界が軋む音がした。
それは、世界が崩れる音。
信じていた物すべてが潰える音。
絶望の心が叫んだ声音。
『夜一様………っ!』
「―――よってここに、隠密機動総司令官職並びに刑軍統括軍団長に命ずる。異存は無いか?」
私はひざまづいたまま。
無表情に目の前の護廷十三隊の長を見上げる。
隠密機動総司令官、刑軍統括軍団長。
欲しかった場所はこんなものではなくて。
望んだ物もこんなものではなくて。
欲しかった場所は貴女の隣。
望んだのは、貴女と共に在る事、ただそれだけだったのに。
結局、貴女は何も解かっていなかったのだ。
私の言葉は何一つ、貴女に届いてはいなかった。
ただ一言の言葉もなく、私の前から姿を消した貴女を私が許すとでも思っていたのか。
それとも、私の許し等必要無いと―――そう思ったのか。
私如きの想い等、取るに足らない些細なものだと。
貴女は。
貴女は――――。
「謹んで拝命いたします」
―――それならば。
私は強くなる。
貴女を凌ぐ力を得、貴女を超え、そして私は貴女をこの手にかける。
息絶えた貴女の身体をこの腕に抱きしめたその時に、この偽りの世界は終わる。
そして私は、
貴女という世界を取り戻す。
WJではまりました、砕蜂です!
かわいいです、もう最高です!
傷付いて拗ねてる砕蜂が可愛いっ!
次には明るい砕蜂を。
夜一さんにからかわれてる砕蜂を書くぞー!!
2004、12.4 司城さくら