恋次は神経を研ぎ澄ませ、目の前のそれを睨みつける。
 恋次がここまで真剣になることは滅多にない……張り詰めた緊張感、研ぎ澄まされた意識。目の前のそれに全神経を集中し、恋次は呼吸すらも忘れて全てをその一瞬にかける。
 びりびりと震える空気に、ルキアの手も震える。
 恋次は一瞬目を瞑り―――一気に手を伸ばした。
「勝ったぁぁぁぁぁっ!!!」
 揃った札を場に投げ捨て、恋次は感極まったように両拳を握り締めた。「よっしゃあっ!」と何度も呟く。
 対してルキアはといえば、その顔面は蒼白だった。手にした札がはらりと床に落ちる……道化師の格好をしたチャッピーの札。
「あ、ああ……っ」
 蒼ざめがくがくと震えるルキアを勢いよく振り返ると、恋次はにやりと笑った。
 悪魔の笑みだ……。
 ルキアの気は遠くなる。
「さ、約束通り着替えてもらおうかなあルキアちゃん」
「……っっ」
 その赤い悪魔から逃れようと後ろへ後ずさるルキアの細い足首を掴んで、恋次は「逃げられねーぞ」と含み笑う。
「負けた方が勝った方の言う事聞く約束だよなあ?まさか忘れちゃいねーだろ、たった15分前の話だぜ?」
「でも……っ!元はといえばお前があんな写真を隠し撮りしてるのが悪いんじゃないかっ!!」
「おやあ?負けてそんなことを言うなんて卑怯じゃねーか?ルキアちゃん?」
「く……っ!」
 掴んだ足首を辿り、恋次はルキアに圧し掛かるように身体の上に移動する。完全に恋次の身体の下に押さえ込まれ、見下ろす恋次のにやにや笑いに涙を浮かべて睨みつけても、恋次は全く気にした様子はない。
「さあ、着てもらおうか」
「……いやだ」
「ふーん?じゃあこの写真、仕方ねえなあ、誰に見せようかなあ…本当は見せたくねーけどよ、約束破るような奴にはそれ相応の罰がねーとな、うん」
 懐から取り出したその写真に、ルキアは「返せ、莫迦っ!」と手を伸ばす。その手は写真に届く数センチ手前で、必死なルキアを嘲笑うように遠ざかっていった。
「返せ、って元々これは俺のなの」
「そんなもの撮っていいなんて許可、私はしてない!」
 暴れるルキアを組み伏せて、恋次は何処吹く風だ。
 恋次の手にした写真、
 そこに映るのは、うさぎの格好をしたルキア。
 以前、恋次に半ば騙されるようにして着させられたうさぎの格好をしたルキアの写真だった。かなり肌の露出の激しいその格好を、泣く泣くさせられたのは一ヶ月ほど前。
 いつの間にこんな写真を撮っていたのか、何枚も何枚もあるその自分の消したい過去を突きつけられるその証拠の品に、ルキアは激怒した。
「捨てろ、莫迦者!!」
「誰がそんな事するかよ、俺のお宝だぞっ」
「黙れ莫迦変態変質者!!」
「……じゃあ、勝負すっか?お前が勝ったら俺はお前の言う事を聞く。俺が勝ったらお前は俺の言う事を聞く。どうだ?」
「…………胡散臭い」
「勝負の方法はお前に決めさせてやるよ。お前の得意なもので構わねー。圧倒的にお前が有利じゃねーか」
「……」
 ルキアは迷った。
 真剣に悩んだ。
 けれど、如何にかしてあの写真を手に入れたい。どうしても処分したい。あんなのが他人の目に振れたらと思うと卒倒しそうだ。
 勝負は私が選ぶ……つまり恋次がイカサマを仕様もない。純粋な勝負運だけだ。二分の一の確率。それであの写真が処分できるというのなら……。
「……わかった。約束だぞ?私が勝ったらその写真、ネガから全て廃棄させてもらう」
「おーし。じゃあ俺が勝ったら俺の言う事を聞いてもらうぞ。で、勝負は何だ」
 暫く黙り込み考えたルキアが決めたその勝負は。
「……ばば抜き」
「地味だなあおい」
「煩いな、いいだろう別にっ」
 そして場面は冒頭のシーンに続く。
「さーて誰に見せようかなあ。隊長だろ、浮竹隊長もいいなあ。あと檜佐木先輩と、松本サンと、そうだなあ一護にも見せてやろう」
「……鬼!悪魔!!」
「残念、死神でした。さーて、じゃ、ちょっとこの写真をばら撒きに……」
「ばっ、莫迦!止めろ、ふざけるな!!」
「……言う事聞くか?」
「…………」
「さて、行くか」
「わ、わかった!聞く!聞くからっ」
 観念したように頷くルキアの頭上で、恋次は悪魔の笑みを浮かべていた。




「ちゃんと着たか?」
「…………」
「おおっ、やっぱり似合うなあお前」
「…………変態」
「何か言ったか?」
「何も!!」
 ぷいっと横を向くルキアの衣装のコンセプトは、「黒猫」だった。
 黒い髪と一体化した黒い三角の耳。
 鎖骨はむき出しの、ベアトップ。肘の上まである長い手袋。やはりお臍は丸見えで、超ミニスカートから白い足が覗き、膝上の黒いブーツへと繋がっている。お尻には長い黒いしっぽ。素材は全て高級なベロア。首には赤い首輪に金の鈴。それはルキアが動く度にちりんちりんと澄んだ音を立てていた。
 その可愛さと妖艶さに恋次は大満足だ。
「今日は一日、語尾に『にゃん』って付けるんだぞ?」
「はあ?莫迦かお前は」
「さて、写真をばら撒きに……」
「くっ……」
「言ってみ?簡単だろーが。『わかったにゃん』」
「……」
 ルキアは屈辱に震えている。
 その姿すら恋次は楽しくて仕方ない。
「なんだったらその格好で外に連れてってもいいんだぞ?そーすっか、手っ取り早く皆に見てもらえるからな」
 まさか、と思った次の瞬間、恋次の肩に担がれてルキアは真青になった。暴れても恋次の力に敵うはずがなく、部屋から連れ出されそうになりルキアは悲鳴を上げる。
「……わかった……わかったから!言うから!外は厭だ!!」
「じゃ言ってみ?」
「……わ、かった……にゃん」
「聞こえねーなあ」
「わかったにゃん!!」
 せめてもの報復として、耳元で絶叫してみたが、たいしたダメージは与えられなかった。
 屈辱だ。
 今までこんな理不尽な思いはしたことがない。
 ルキアは怒りに打ち震えていた。
 そんなルキアを歯牙にもかけず、恋次は楽しそうに鼻歌を歌っている。
「なんか飲むか?紅茶淹れるぞ。それともジュースか?」
「……そんな気にはなれない……にゃん」
「遠慮すんなって。あ、そーか猫にはミルクか」
 悪ぃ悪ぃと恋次はルキアにミルクを持ってきた。
 皿に。
「さあ飲め!遠慮すんな」
「…………」
「ん?どうしたルキア?嫌いか?」
「まさかこれで……飲め、というのか?……にゃん」
「これが厭だってんなら、何なら俺のミルクを……」
 立ち上がっていそいそとソレを取り出そうとする恋次に、

 ルキアはぶち切れた。

「殺すにゃん!殺す殺す殺す、絶対殺す瞬時に殺す一気に殺す完全に殺す完璧に未来永劫永久無限に殺すにゃんっ!!」
 激怒しても律儀に「にゃん」を付けるルキアだった。
「うわ、どうした発情期か!!」
「煩い黙れこの変質者っ!!!……にゃんっ」
「そうか、そんなに我慢できねえのか……じゃ、とりあえずその発情を落ち着かせてだな」
「発情してるのは私じゃなくてお前だろうがっ!!……にゃんっ!?ちょっ、や、やめるにゃん……」
「何だかんだ言ってにゃん付けノリノリじゃねーか」
「失礼な事を言うにゃん!私は必死で……っにゃあんっ!」
 ベアトップを上にずらされ、ぱくんと胸を口に含まれてルキアは仰け反った。
「やあん!こら、莫迦止めろ恋次!」
「にゃん抜けたぞ。お仕置き決定」
「お仕置きも何もその気だったくせに何を言う、変態眉毛!」
「今度にゃん抜けたら今この状態の写真撮るからな。夜のおかずにしちゃる」
「ふざけるな莫迦っ!にゃ、にゃん」
「そうそう。ヤってる最中もだからなーがんばれルキア!」
「や、にゃんっ!」
 押し倒されて暴れても、やはりルキアの力ではどうしようもなく……猫の服は着たまま、大きく開いた背中や、首から鎖骨を舌で舐められて、剥き出しの太腿を撫で上げられて、結局恋次のいいように弄ばれてしまう。
「にゃん……っ!」
 くるりと身体を回転させられ、四つん這いにさせられあっという間に下着を取られてルキアは声を上げた。スカートがあるといっても、この短さでは役に立たない。逆に羞恥心が増すばかりだ。
「ゃあああ……んっ」
 強く腰を引き寄せ、恋次は一息にルキアの中へ自分を埋め込んだ。
 恋次を迎い入れたルキアのそこは、充分な潤いを湛えて、あっさりと抵抗なく根元まで恋次を受け入れる。
「うわ、すげ……」
「やあ……っ」
 自分の身体のその様子に、ルキアは真赤になって俯いた。
 どう言い訳の仕様もないその量に、いたたまれずに身体が震える。
 けれど、激しく動き出した恋次に、すぐにルキアの理性は飛んだ。結合部から聞こえる水音に、ルキアの声が重なる。ルキアはその格好と同じにまるで猫のように鳴き声を上げていた。
 突き入れる恋次の動きを支えきれず、四肢に力を入れる。猫と同じ姿勢。後ろから迎い入れるその体位に、既にルキアに羞恥はない。
 恋次が動く度に、首輪につけられた鈴が激しく響く。スカートにつけられたしっぽが恋次の目の前で揺れる。
「あっ!あん、あ、ああっ!」
 激しくなる息遣いに、突き上げる激しい快感に、ルキアは大きな声をあげ……そして猫のように背中を反り返し手足を突っ張らせると、次の瞬間、ルキアはくたりと床にうつ伏せに倒れこんだ。




 ふと目を開けると、ルキアは恋次に抱きかかえられていた。
 猫を抱くように、恋次はルキアの身体を抱えている。
 猫をあやすように喉を指で撫でながら、恋次は「気付いたか?」と笑った。
「いつもより速いじゃねーか。やっぱお前、ノリノリ……」
 全てを言わせず。
 全てを聞かず。
「煩い黙れこの変態っ!!」
 猫らしく。
 まさに猫のように。
 しなやかな動きで身を捻ると、ルキアは恋次の頬に思い切り深々と爪を立て―――
 容赦なく引っかいた。





 恋次の頬に刻まれたそのくっきりとした赤い線は、その後一週間消える事はなかったという。










なんだか自分で堕ちるところまで堕ちたな…という感じです。
売り渡してはいけないものを売り渡してしまったような。

…でも楽しかったからいいんです。
所詮こんな女なんです。

「けものみみバトン」の自分でした回答にときめいてしまい、ついついこんなものを書いてしまいました…

…誰か黒猫ルキア描いてください(うわあ)


2006.12.19  司城 さくら