cats-cafe

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猫って、

可愛くて

そっけなくて

気が強くて

それでいて、妖艶・・・

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「猫の死体でもと思って一護と捜したのだが、都合よく転がっていなかったのだ」

私は恋次と、現世の喫茶店で甘味を楽しんでいた。
破面の襲来に備え、現世で待機と言われてから個々に毎日鍛錬に励んでいる。
その合間を縫って、私は恋次を遊びに誘った。
今日は以前から約束していた外出だったのだ。

しかし何やら様子がおかしい。

恋次が「なんであれはぬいぐるみなんてもんに入ってんだ」と不服そうに言うから、
私は、あれ…つまりコンがライオンになった経緯を話してやっていた。
それにしても、現世の甘味は美味しい。
パフェの種類が豊富だという井上お薦めの喫茶店で、私はプリンパフェを食べていた。
和風パフェもあって恋次に薦めてやったというのに。
奴の口からは感想はおろか、美味しいの言葉も出てこない。

「あいつは自分が人形だってこと、絶対ぇ逆手にとってやがる!」

恋次はスプーンを握り締め抹茶のかかったアイスにそれを突き立てて、
さも面白くないといった顔でぶつぶつと文句ばかり言う。

恋次が一護の部屋に私を迎えに来た時、コンはいつものごとく私にまとわり付いていた。

「姉さ〜ん!!今日は一段とお美しいっす…はっ、さてはデートっすねえぇ〜〜!!!」
「やかましいっ」
「はぐ…ぁっ!!!ネ…ネエサン今日もナイスな蹴…ぶッ!」

こちらでの洋服は、さすがにもう一護の妹の物をくすねるわけにはいかず、
浦原に頼んだり、石田が作ってくれたものを着ていた。
今度の休みはちょっと出かけるのだ、と朝学校で石田に言ったら、
その日の放課後には羽織物とセットになったワンピースを用意してくれた。
あれの器用さとセンスには舌を巻く。
黒い透け感のある短い丈のパーカーに、同色のタイトなミニ丈のワンピース。
いつもと感じが違うが、着てみるとそれはとても品が良く見えた。
死覇装と色が同じだから、案外違和感なく着こなせているようにも思えて、
少しうれしかった。

恋次は褒めてくれるだろうか−−−。

そう思って押入れから出てきたところに、例によってコンが飛び付いてきたのだ。
毎日のように繰り返される応酬を、今日も消化していただけなのに。
窓から現れた恋次は、無言でコンを引っぺがして一護の机の引き出しに閉じ込めてしまった。
適当に私の話に相槌を打つものの、むすっとしたまま表情を変えない。

以降ずっとこの調子。

恋次も甘味は好きだから、絶対この店に連れてきてやろうと思ったのに。
奴は楽しくなさそうだ。

「恋次、食べ物を粗末にするな」
「あぁ?!」

溶けたアイスとグラデーションだった小豆やムースが、なんだかもう原型を留めていない。

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ルキアが今度の休みに出かけようと言うから、かなり楽しみにしていた。

一護の部屋に迎えに行くと、黒い服に身を包んだルキアが見えた。
見事なまでの、白い肌と黒い服のコントラスト。
いつものひらひらした感じの服と違って、体に沿う様な洋服。
膝が少し見える丈は制服よりも長いが、腰からのラインとつながって見えるため、
想像力を掻き立てるには十分だ。
羽織物を着てはいるが、彼女の肩や二の腕がうっすらと透けて見える。
丸見えよりも、透けて見える方が悩ましいのはなんでだろう。。。

しかし。

格好に見合わない見事な白打を繰り出すルキア。
原因は、あの義魂丸。
傍から見たらぬいぐるみと戯れている微笑ましい図なのだろうが、
中身はあのコンの野郎だ。
奴は、遠慮もなくルキアの胸に飛びつこうとして蹴り返されて、
今度は腰にしがみ付こうとするのを叩き落とされていた。

俺だってまだそんなに堂々と触れてないのに…

い、いやそんなことはどうでもいいが、とにかく面白くない!
俺は勢い良く窓を開けると、柔らかいコンの頭を鷲づかみにして適当な引き出しに放り込んでやった。
出てこないようにガムテープでしっかり塞いでおくことも忘れない。

「恋次、早かったな」

何事もなかったかのように、いつもの調子で迎えてくれるルキアにも、
なんだか面白くなかった。
それに…体の線がわかる彼女の格好を見ていられなかった。

「…行くんだろ」
「ああ、今日はお前と行きたいところがあるのだ」

ご機嫌なルキアとは反対に、店に入ってからも俺の中で不愉快さは消えず、
運ばれてきた抹茶ムースパフェにスプーンを突き刺すばかりだった。

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白を基調にした広い店内は、可愛らしく置物や花でディスプレイされていて、
席間も十分にあり、友人同士やカップルでくつろぐにはぴったりの雰囲気だった。
メニューも、食事物からデザートまで豊富にあるから選ぶだけでも楽しい。
自慢は39種類もあるパフェ。
中には受け狙いとしか思えない、ジョッキやバケツのパフェまであるのだから面白い。
楽しそうな笑い声や、カップルの甘い会話がこの店にはよく似合う。
似合うように、隅々まで演出が行き届いているのだ。

「お前はさっきから何なのだ?!
そんなに不機嫌全開にしているのなら帰ればよかろう!!」
「何だよ?別に俺は不機嫌なわけじゃねえよッ」
「嘘を言うな!貴様はずっと極悪人のような目付きをしているだけで
 ちっとも人の話を聞いてないじゃないか!!」
「聞いてるだろうが!」
「じゃあなんで私の方を見ないのだ?!」
「ぐっ…別にお前の顔なんざ見なくたって話くらい聞けらあ」

楽しそうな笑い声や、カップルの甘い会話がこの店にはよく似合う…

「ああ、これは失礼した!極悪人の ような ではなく元から極悪人目付きだったな!!」
「ああ?!てめぇ俺に喧嘩売る気か!」

似合うように、隅々まで演出が…

「先に売ってきたのは貴様であろう!!この面白刺青変眉毛!」
「ぁんだとこの野郎!黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!!」

…あぁ。

誰がパフェを食べながら、この火花が飛んできそうな会話を想像したろうか。
店内は天井が高く、広さもあるため声がよく通る。
今、ここに居合わせた誰もが事の成り行きを気にしつつも、
この場から逃げ出したいと思っていたに違いない。

一触即発。

少しでも空気が動いたら、殴り合いが始まるんじゃないかという勢い。
だから誰も動けない。

「失礼いたします」

いつの間にやら立ち上がって睨み合っていた二人は、声のした方を同時に振り返った。
多少引きつりながらも、勇気を持ってにこやかにお冷を注ぎにきた店員を見て、
ルキアと恋次は思わず固まってしまった。

ここはキャッツカフェ。

店員は演出と遊び心を込めて、猫耳としっぽをつけて仕事をしている。
黒いパンツの制服に、頭には黒い猫耳と、背中を見せれば腰より少し下に長いしっぽ。
ふと見渡せば、ホールの店員は男女問わず、皆このスタイルで働いているではないか。

「……」
「……」

どちらからともなく視線を合わせた二人は、そっと腰を下ろすと
黙ってパフェやお冷を口にした。

「お、お茶でも頼むか?」
「あ…ああそうだな。私は紅茶がいいのだが…」

すいません、と恋次が呼べば店員はしっぽを揺らして用件を聞きに来る。
店員のその様がなんとも言えずに可愛くて、ルキアはついに吹き出してしまった。

「可愛いな、ここの店は」
「なんだよ、わかっててここ来たんじゃないのかよ」

吹き出したルキアにつられて、恋次もようやく仏頂面を崩した。
今日初めて、まともに彼女の顔を見る。
黒い髪に白い肌。
残暑は厳しいが、室内にはエアコンが効いているため
羽織物がないと寒く感じることもある。
黒い布から透けて見える腕は、黒に引き立てられてさらに白く見えた気がした。
黒い髪。
黒い服。
…黒い、猫。

「お前も似合うんじゃねえ?」
「…?何がだ?」

あれ、と恋次が店員を指差す。
ルキアは一瞬驚いたように目を見張ったが、
「そうだろうか」と少し恥ずかしそうに笑った。
半分冗談めかして言ったつもりだったが、ルキアの反応に恋次はふと思いついた。

そういえば…こいつはうさぎのチャッピー然り、こういう物が好きなんじゃないか?

紅茶が運ばれてくる前に、とルキアが席を立った。
彼女が見えなくなったのを確認した恋次は、店員を呼んだ。
彼の要求に最初は困惑していた店員も、さっきの喧嘩を見ていたのだろう、
「特別に」と笑って奥へ下がって行った。

「お待たせいたしました」

戻ってきたルキアは、紅茶が来たものだとばかり思っていたが、
運ばれてきたのはビニールに入った黒いもの。

「あの…?」
「こちらは当店からの気持ちでございます」

差し出されたから受け取ってみたという風情のルキア。

「開けてみたらどうだ?」

恋次に言われて、そっと封を開ければ。

「猫…!」

店員が付けているものとお揃いの、猫耳としっぽ。
猫耳を広げて、しっぽを持ち上げて、ルキアはまるで子供の頃のような笑顔を見せる。
思ったとおりの反応に、恋次も笑みを浮かべる。

「これ、着けてもいいだろうか…」
「店ん中ならいいんじゃねえ?」

我慢できない様子の彼女に、恋次は苦笑とも見える顔で答えた。
そのはしゃいでいる様が、あまりにも可愛くて笑い転げたいのを噛み殺しているから
微妙な表情になってしまっているということを、ルキアは知らない。

「鏡を見てくる!」

と、猫セットをもって席を立ち化粧室に行ったと思ったら、ルキアはすぐに帰ってきた。
彼女の後ろでしっぽが見え隠れしている。

「どうだ?!」

ルキアは満面の笑顔でくるりと回った。

やっぱり彼女の黒髪に、黒い猫耳はすごく自然で。

いつものひらひらワンピースじゃない、
タイトなラインの向こうに揺れるしっぽは、しっかり存在を主張してて。

恋次は一瞬あっけに取られたが、次の瞬間、にやける口元を手で覆い隠した。

−−−俺は、新たな世界を垣間見てしまった気がする…。

「あー…まぁ、ドラ猫って感じ?」
「むっ!なんだと、お前が似合うと言ったじゃないか!」

運ばれてきたお茶をすすりながら、今日はこのあとどうしようかと話し合う。
猫スタイルにご機嫌なルキアは、このまま外へ出てしまいそうな勢いだ。
これを見せびらかして歩かれるのは、余計な視線を集めそうで、恋次的には御免被りたい。

「ルキア、お前店出る前にそれ全部外せな」
「う…わ、わかっている!」
「ほんとかぁ?」
「本当だっ」

さあ、今日は黒猫と何して過ごそうか?
猫が街を歩けば、気ままに歩を進めてしまうに違いない。
ぴんと立った猫耳と揺れるしっぽは、軽やかに街を散策するのだろう。
猫がどこかに行ってしまわないように、恋次は手を繋いで歩こうかと考えた。
そう考えた途端、彼は少し汗ばんだ手を何気なくおしぼりで拭いたのだった。









時期設定ですが、私はコミックス派のため、これは25巻直後のイメージです。
夏休みが終わって、残暑が厳しいころと思ってくださいまし。
25巻のあと、話がどう展開しているのかわからないので、
原作とズレていたらすみません。汗

ちなみに、この「キャッツカフェ」は実在しています。
週末には、店員さんが猫耳つけて接客してくれます♪
しっぽは五十嵐の妄想ですがw




五十嵐さま