「こら、それはまだ読んでないから悪戯しちゃ駄目だ」
 抱え上げようとする恋次の手をひらりとかわし、仔猫は縦も横も自分の体の倍以上ある本のページを器用に口でめくり、その紙面を小さな手でたしっと押さえた。訴えるように恋次を見上げにゃあと鳴く。
「……な?」
『技術開発局、新たな薬品開発』と書かれた見出しの「な」の字をたしたしと手で指し示す仔猫に、恋次は釣られてその字を読み上げると、仔猫は満足したように頷き同じように記事内の文字を押さえた。
「……に、を、……す、る、……ば、か、者……? ってお前本当に言葉がわかるのか!」
 仰け反る恋次に仔猫はにゃんと小馬鹿にしたように目を細めた。続いてたしたしと手が紙面の上を動く。唖然としながら恋次がその動きを目で追うと、「私がわからぬと言うのなら、お前との今後のつきあいを考えさせてもらうぞ」と解読できた。
 こんな言葉使いをする相手を二人知っている。兄と妹なだけに言葉使いはそっくりなのだ。けれど「今後の付き合い」を持ち出す相手となれば、それは。
「……もしかして――ルキア、か?」
 恐る恐る尋ねた恋次の問いに、にゃんと仔猫は――ルキアは頷いた。