紆余曲折・誤解・すれ違いなど色々あったものの、正式に吸血鬼・白哉さんのお屋敷に住む事になった魔女っ子・緋真さん。
 その緋真さんは朝からとても嬉しそうです。歌を歌いながらくるくるとお掃除に精を出しています。
 緋真さんがご機嫌な理由―――それは、白哉さんから緋真さんが使うお部屋を頂けたからです。
 ぐるりと見渡したお部屋はとても広くて上品です。白哉さんが緋真さんの為に整えてくれた部屋です。人間の振りをして街の業者を呼んだのでしょうか、女の子向けのピンク色でふわふわしたインテリアに、緋真さんは目を輝かせました。
 机や椅子、タンス、必要な家具も総て緋真さんのために用意された真新しいものです。中でも奥の部屋に用意された、女の子なら皆が憧れる天蓋付きのベッドに緋真さんはうっとりしました。
 でも、白いレースがふんだんに使われたそのベッドに、緋真さんはどうしても欲しいものがありました。
 それは―――うさぎさんです。
 うさぎさんのぬいぐるみ。
 たくさんのうさぎさんのぬいぐるみに囲まれて眠ること、それはもう緋真さんの夢の実現です。
 けれど、ここまで用意してくれた白哉さんに、更に「うさぎのぬいぐるみが欲しい」などと言えるはずもありません。
 でも大丈夫、心配ありません。
 緋真さんは魔女なのですから!
「……マクゴナガルさんに教えてもらったのは、ええと……」
 昔、村に立ち寄ったえらい魔法使いのマクゴナガルさんに、泊まるお部屋を貸してあげたお礼にと緋真さんは呪文を教えてもらっていたのです。変身呪文が得意なマクゴナガルさんは、緋真さんに物を別の物に変える初歩的な呪文を教えてくれたのでした。
 緋真さんは枕に向かって杖を振り上げます。
「うさぎさんのぬいぐるみになあれ!」

 

「きゃああああ!」
 広い屋敷の中に響き渡る緋真さんの声に、白哉さんは眠っていた寝台から起き上がりました。直ぐに緋真さんの部屋に駆けつけます。自分の心は緋真さんに捕らわれたと自覚している吸血鬼には、日の光も全く苦になりません。ただただ、愛しい人の悲鳴に、愛しい人を助けるべく、目にも留まらない速さで、愛しい人の元に駆けつけました。
「どうした、緋真」
 緋真の他に何者かの気配はありません。それにほっと胸を撫で下ろしながら、白哉さんは扉のこちら側からたずねます。
「何があった」
「な、何も……何もありません、ごめんなさい、うるさくしてしまって」
「何もない事はないだろう、あんな声を上げていたのに」
「あの、本当に何でも……そう、あの、コウモリさんがいたのです、それで驚いて……」
「蝙蝠は今の時間睡眠中だ。……何があった?」
 緋真さんの嘘など白哉さんは直ぐに気づいてしまいます。あわあわする緋真さんの気配を感じ、白哉さんは「入るぞ」とドアノブを回しました。
「だ、だめです、入っちゃ……!」
 緋真さんの制止の声を無視して白哉さんは部屋に入りました。
 そして絶句。
 扉を開いたまま、白哉さんは硬直しました。
「見ちゃだめですぅ……!」
 部屋の真中で、杖を抱きしめ泣きそうな顔で白哉さんの顔を見上げる緋真さんの頭には―――うさぎの耳。
「あ、あの……呪文が……うさぎのぬいぐるみに変身させようとしたら、スペルを間違えちゃったみたいで……あの、見ないで下さいっ」
 真赤になって泣きそうな緋真さんの身体の震えにあわせて、白くて長い耳がふるふると震えています。
 驚きの後に、白哉さんはくすくすと笑いました。
 本当に、緋真さんは白哉さんの意表をつきます。
 普段からこれ以上なく可愛らしいというのに、更に可愛くなってくれるなんて、白哉さんにとってとても嬉しいハプニングです。
 白哉さんは緋真さんの部屋に入って静かに扉を占めます。
「……白哉さま?」
 きょとんと見上げる緋真さんを腕の中に抱きしめて、―――ここから先は、良い子の皆さんにはお話できません。
 この続きは、みんながもっと大きくなってからにしましょうね。 







2009年4月頃発動予定の企画「朽木姉妹うさぎ化計画」前哨戦(笑)