真昼の夢




 身体に感じる陽射しの強さに、時刻はもう昼過ぎかと俺はぼんやりと考えた。
 それでも目を開ける気がしなかったのは、横になっている布団があまりのも気持ちいいからだ。
 昨日は一組の男連中と酒を飲みに行って―――勿論寮の中で、じゃねえ。外の店に行って散々かっくらって……どうしたっけ?
 俺の頭に残っている最後の記憶は、吉良の杯に酒を注いで、雛森の事が好きらしい奴に向かって男と女について解説してやったっていう記憶だ。
 そこから先の記憶はなし。酒なんて今まで飲んだ事ねえから(そんな余裕ある生活じゃなかったからな。下戸ってわけじゃねーぞ)自分の限界をまだ良く把握できていない。
 まあとりあえず自力で部屋に帰ってきたようだし、俺の帰巣本能も捨てたもんじゃねえ。ま、今日の休みは一日ゴロゴロしてることにすっか。こんなに寝たのは随分と久しぶりだ。 今まで眠れなかったのが嘘みてーにぐっすり寝た。
 とりあえず何か腹に入れてもう一回寝るとすっか。そう考えて俺は自分の体勢に気がついた。
 何か抱えてるぞ?
 こんなデカいもん、俺の部屋にあったか?ぽんぽん触ってみると、ふかふかした手触りだ。その上あったかい。そこで俺は眼を開いた。
 黒い髪、華奢な身体。その身体をぴったりと俺にくっつけて、俺の腕の中で可愛らしい寝息をたてているのは、
 ―――ル、ルキア!?
 何でルキアが俺の部屋に!?っつーか、何で俺はルキアを抱えて寝てるんだ?!ちょっと待て、落ち着け俺!って落ち着いてられっか!!!
 ルキアと一夜を共にした?ってことはもしや、俺達は昨夜一線を越えたというのか!?
 必死で記憶を辿るが、全く、これっぽっちも覚えていない。
 なんてこった!!折角の記念、俺の念願、夢にまで見た甘い夢!!それを覚えていない!!??
 一生の不覚。
 いや待て、まだ間に合う。幸い若い俺はいつでも準備OKだ。こうなったらもう一度。
 と、いざ事を起こそうとしたその時に、目の前のルキアの目がふっと開いた。
「……おはよう」
 なんとなく照れたように、微かに頬を染めてルキアは視線を反らしてそう言った。
 ……やっぱり俺達は超えたのか。一線を。
 おめでとう、俺!!
 くそう、何で俺は何も覚えていないんだ!!ルキアのあんな顔やこんな声やそんな仕草や……これっぽっちも記憶にねぇ。
「そんなに見るな。……何と言ったらいいのか解らぬ」
 俺の腕の中で可愛らしくそう言うルキア。……た、たまらん。
 第2ラウンド、開始だ!!
「ルキア、その、身体は大丈夫か?」
「ああ、大分休んだからな」
「……実はな、ルキア。俺、昨日の事は何も覚えてねぇんだ」
「……そうなのか?」
「悪い、本当にすまん。だから、もう一度俺にチャンスをくれねぇか?」
「チャンス?」
「あー、その、つまり……もう一度させてくれないか?」
「何をだ?」
「うー、お前と一緒に、昨夜みてぇに……」
 さすがに露骨に言うのは照れるもんだ。しかしルキアはあっさりと「ああ、一緒に寝る事か。まだ足りないのか」と言って「私は別に構わないが」と俺を見上げて言った。
 ぶらぼー!
 では早速、と俺は「男の責任」を取り出そうと、枕の下に手を入れた。今まで使う予定などなく、ただの無用の長物と思われていたソレの出番がやっと来た!待たせたな!!
 ……と、枕の下を探ったが何も無い。あ?と辺りを見回して俺はやっと気が付いた。
「……俺の部屋じゃねぇ」
「今更何を言ってる?」
 少し呆れたようにそう言うと、ルキアは「本当に何も覚えていないのだな」と笑った。
「昨夜お前は、外の樹を伝って窓からこの部屋に入って来たのだ。それから、独りじゃ眠れないからと言って、私の布団に入ってかーかー寝たんだぞ」
 昨夜の俺を思い出したのか、くすくすと俺の腕の中でルキアは笑った。
 もしかして。
「お前の布団で寝た?」
「ああ」
「……寝ただけか?」
「他にする事など何もないだろう」
 ……………………………………………………がく。
 まあな、おかしいとは思ったんだよな、そう巧くは行く筈ねぇよなぁ。
 しかし、馬鹿か俺は!?こんな美味しいシチュエーション、こんな美味しそうなルキアを前にして、ガーガー寝てただと!?俺は男なのか!?なんて間抜けなんだ俺はっ!!
「どうした?恋次」
 急に覇気がなくなった俺を見て、ルキアは俺の胸元をきゅっと掴んで小首を傾げて俺を見る。
 ああ、このまま愛の世界へダイブしたい。
 抱きしめたい、キスしたい、押し倒して以下自主規制!
「…………いや、もう起きるわ」
「そうか?まあ散々寝たからな、お互いに」
 ルキアは俺の腕の中から身体を起こした。その時何となく名残惜しそうに見えたのは、俺の未練のせいだろうか?
「そうだ、お前の上着を置いていけ」
「上着?……どうすんだよ、そんなもん」
「ただの嫌がらせだ。昨夜の迷惑料だ。いいから黙って置いていけ!」
 ルキアはプイと横を向くと早口で言った。心なしか頬が赤いような気がする。
「別にいいけどよ。じゃ、お前も俺に何かくれ」
「何故、私が……」
「お前の物があったら、お前の気配がして眠れるかもしれねーだろ」
 おそらく、と思ってそう言ってやると、ルキアが俺の上着を欲しがった理由はそれだったようで、ルキアは間違えようも無く赤くなった。
「…………仕方ないな」
 むうと呟いた後、「妙な事には使うなよ?」と念を押されて俺はまさに「妙な事」に使えるなあ、などと邪まな事を考えていた所だったので飛び上がった。
「みょ、ミョーなことって何の事だよ?」
 声が裏返ってしまった。
「八つ当たりの道具にしたり、雑巾代わりにしたりだ」
 そういうことか。
「しねーよそんな事」
「ならいいが」
 ルキアは窓の外の陽の高さを見ると、「何か食べる物を持ってくるか」と言って立ち上がった。
「いーよ、外に喰いに行こうぜ?」
「何言ってる、こんな明るいうちにこの部屋から出て行く気か?すぐに見つかるだろう、莫迦者」
 あ、ここは女子寮だった。俺がこの部屋にいる事がばれたら退学って事もあるんだな。
「じゃー、俺は……」
「夜までここにいるんだな」
 そう言ったルキアは、まぎれもなく嬉しそうで。
 こんな有意義な休日はねえな、と俺は思いつつ、またこの部屋に忍び込んでやろう、と誓った。
 そうしていつか、さっきまでの俺の夢―――それを現実にしてやる、とも。
「何を妙な顔をしているのだ」
 俺の魂の誓いに、ルキアはそんな酷い事を言いながら、二人分の食料を調達しに部屋から出て行った。








「Hypnotised」」の続きですー。
もっと露骨に書いてもよかったのですが(笑)一応所々ぼかして書いてます。引かれたら困るしね!!(笑)
恋次も男の子だからねえ、まあ、色々とねえ。
頑張って欲しいですねえ、なんて思いつつ、絶対一線は越えないだろうなあと思います。
越えるときは結婚した時でしょうか。
でも私の考えがどう変わるかはわかりません。
裏ページ作りたくなるかもしれないしー(え?)

裏があってもいいんじゃない、と言う方は拍手ででも言って頂けると、その気になるかもしれませんのでよろしく(ってことは既に充分書きたいって事か、自分/笑)

2004.9.3   司城さくら