呼吸一つでルキアは立ち上がり、窓へと向かって一気に走った。
同時に部屋へと雪崩込んでくる複数の荒々しい足音と叫び声。窓から身を乗り出し、飛び降りる寸前だったルキアの腕をその内の一つが掴み、別の腕がルキアの髪を掴み、もう一つの腕が首に回って引き摺り下ろした。
「……っ!」
そのまま複数の腕に押さえつけられ、ルキアは動きを封じられた。自由になるのは目の動きだけで、ルキアは怒りを込めて自分を組み敷く男達を睨みつける。
男達は4人……どれも、粗末な汚い格好をしている、一目でこの戌吊の住人とわかる男達だった。そのどれもが好色な笑みを浮かべて、罠に掛かったルキアを見下ろしている。
そして、ルキアと同じ死覇装をきた男が一人。この男はルキアを押さえつけずに、ただ流佳の後ろに黙って立っていた。
流佳が床に押さえつけられているルキアの前に腰を下ろし、つい、とルキアの頬を指で撫でる。
「……あんたが悪いのよ、素直に言うことを聞いていればこんな事にはならなかったのに」
「……下衆っ!」
「そうね、貴族のお嬢様から見たら私は下衆なのかもしれないわねえ……そうしたらこの男達は尚の事」
ふふ、と流佳は残忍な笑顔を浮かべて嘲笑する。
「その下衆な男達に、あんたはこれから散々弄ばれるんだけど。解っているのかしら?」
「よお姉ちゃん、こいつが貴族のお嬢ってホントかよ?」
抵抗するルキアの腕を楽しそうに押さえつけながら、茶色い髪の男は言った。
「そうよ。瀞霊廷の中でも4本の指に入る大貴族、朽木家の正真正銘のお嬢様よ」
ひゅう、と男たちの口から笛の音が漏れる。にやにやと哂う男達を、ルキアは絶望の色を浮かべて見上げた。
「すっげえな、お嬢かよ!」
「もしかして処女?」
「うわ、見てみろよ、この肌の白さ!やっぱ貴族は違うんだなあ、たまんねー!」
「どうする?誰からヤる?」
頭上で交わされる男たちの会話に、ルキアは必死で逃げ道を探した。
―――!
力では叶わない。けれど―――。ルキアは小さく息を吸い込んだ。
「口を塞いで!その女、鬼道を使う気よ!」
流佳の鋭い声に、ルキアの口は男の大きな手で塞がれた。ルキアの瞳が悔しそうに流佳を睨みつけた。
そのルキアの様子を、楽しそうに見下ろしていた流佳の表情が変わった。その視線は一点を見つめている。男達の手から抜け出そうと抗ったルキアの乱れた服から覗いた白い肌。流佳は男たちを押し退け、ルキアの上に跨りその胸元を押し広げた。
男達の歓声が上がる。
下品な言葉が耳に入り、男達の視線が自分に注がれているその屈辱に、口を塞がれ四肢を封じられたルキアは怒りを込めて睨みつける事しか出来ない。
白い、雪のように白いルキアの胸が、流佳と男達の目に曝されている。その心臓の上、左の胸に、雪の上に落とした血のように赤く紅く印された所有の証。
流佳の唇が噛み締められた。
昨日の、流佳が目にした光景の残滓。
そう、流佳は全てを見ていた―――恋次に熱く煽られた身体を鎮める為に、家まで待てずに人気のない場所を探して辿り着いたその場所に―――恋次は、ルキアと、居た。
声は聞こえなかった。
けれど、姿は見えた。
恋次の唇がルキアの唇を覆い、激しく求めていた事も。
その腕で押さえつけ、狂おしく抱きしめていた事も。
恋次の舌がルキアの肌を辿り、恋次の指がルキアの中に差し入れられ、恋次がルキアの心臓の真上に残した紅い痕も。
そして、ルキアが恋次の唇に、自ら触れた事も。
すべて、見ていた。
熱くてどうしようもなかった身体は、一気に冷え凍っていた。
全て悟ってしまった。
恋次が誰を想っているのか。
今までの自分は、唯の代替品でしかなかったと。
流佳に向けられた、あの恋次の狂おしいまでの愛情は、本当は唯一人、朽木ルキアへ向けられたものだったと。
耐えられなかった。
許せなかった。
それでも、全てが解っても尚、流佳は恋次を愛していた。
諦める事は出来なかった。
初めて愛した男だった。
打算なく愛した、初めての男だった。
眠れぬまま朝を迎え、何も考えられないまま、ただ身体がいつも通りに十三番隊への隊舎へと向かった。
そして、見たのだ。
ルキアが倒れ、浮竹隊長がルキアを総合救護詰所へと運んだのを。
その時、止まっていた思考が動き出した。
―――恋次は誰にも渡さない。
邪魔なものは排除する、今までと同じ様に。
流佳には解っていた。こんな時、浮竹はルキアに仕事をさせない。必ず休むように言うだろう。
そこからすぐに流佳は行動を起こした。
四番隊の隊員に声を掛け、阿散井と名乗りルキアへ伝言を頼んだ。
情報庁にいる手駒の男に声を掛け、必要な道具を揃えさせた。
そうして戌吊へと先回りし、適当な破落戸に声をかけた。
そして、今。
すべて思惑通りだ。
組み敷かれ、抵抗出来ずに絶望の色を浮かべる朽木ルキアを、哂って見ていた。―――ルキアの胸に残された、恋次の印を目にするまで。
「あんたなんかに―――渡さないわ、絶対」
胸に残る痕が、恋次の付けた痕が、許せない。
流佳は紅い印の残る肌に爪を立てた。抉り取ろうとするように、深く深く爪を立てる。ルキアの顔が痛みに歪んだ。
「―――傷をつけたら、拙いでしょう」
ただ一人、死覇装を身につけた男が、流佳の腕を押さえて言った。悔しそうに唇を噛んで、流佳はルキアの上から身を退ける。
「そうね。―――傷を付けたら、拙いわ」
幾度か息をつき、流佳は自らを静めた。目的はそんな事ではない。完膚無き迄に叩き潰す。それが目的なのだから。
それには傷を付けては拙い。ルキアがこれからすることが、強いられたものだと気付かれたら拙い。
「―――お嬢さま、これがなんだか解るかしら?」
流佳は懐から小さな硝子の瓶を取り出した。そこに満たされている透明な液体に、ルキアは押さえつけられた身体で視線を向ける。
「これはね、便利な薬。主に女郎屋で使われてるんだけどね。初めて客を取る女郎に飲ませるの。―――解るかしら?」
床に倒れているルキアの目の高さで、流佳は小瓶を振った。液体はとろりと瓶の中で波打っている。
「私は親切だから、あんたにこれを使ってあげるわ。これを飲むとね、初めての女もたちまち淫乱な女に早変わりよ。どんな小さな刺激にも敏感に反応出来るようになって、自分から腰を振って男を咥え込む事が出来るわ。考える事なんて何も出来なくなるわ。理性も何も無くなって、頭の中を支配するのは快感を求めること、ただそれだけ。これで何回でも何人とでも楽しめるでしょう?よかったわねぇ」
ルキアの身体が強張るのを見て、流佳はこの上なく優しく微笑んだ。頬に手を滑らせ、愛しそうに愛撫する。
「楽しんでるあんたを、自分から足を開いて男を欲しがるあんたの姿を、見えるかしら、あの映写機で撮ってあげる。それを皆に見てもらいましょうね。浮竹隊長と、志波副隊長と、朽木白哉と―――もちろん、恋次にもね」
今まで以上に激しく抵抗しだしたルキアを流佳は見下ろすと、男達に、ルキアが僅かも動けない程に押さえつけるよう指示した。下卑た嬌声を上げながら、男達はルキアの身体を押さえつける。
蓋を開けた小瓶を目の前に差し出され、ルキアは必死で顔を背けた。そのルキアの顔を、流佳が容赦なく掴み、仰向けにさせる。飲むまいと唇を固く結ぶルキアの鼻を押さえ、耐え切れずに口を開いたルキアの口内に布を押し込んだ。
「飲まさねえのかよ、姉ちゃん」
「呼吸が落ち着いてからよ。今飲ませても気道に入って吐き出しちゃうから、ろくな量も飲ませることが出来ないわ」
冷静にそう呟く流佳に、黒髪の男は「あんた、よっぽどこの女が嫌いなんだなあ」と感心したように言った。
ルキアの呼吸が収まった頃を見計らって、流佳は布で開くよう固定されたルキアの口の中へ、最後の一滴まで瓶の中の催淫剤を流し入れる。それと同時に布をはずし、男にルキアの口を押さえさせた。
「――――っ!!」
必死で暴れるルキアだったが、華奢な身体では4人の男の腕を振り解くことは出来ない。口を押さえられ、とうとう耐え切れずに口内の薬を嚥下した。
「―――いいわよ」
流佳の指示で、男達はルキアから離れる。ルキアは床に倒れたまま激しく咳き込んでいた。
「大丈夫なのか?俺達が離れても」
「大丈夫よ―――ほら、見てなさい」
床にうずくまるルキアの身体が、徐々にかたかたと震えだすのが男達の目にもはっきりと解った。ルキアの呼吸が早くなっている。
ルキアは、自分の身体が別の物へと変化していくのを、為す術もなく見守るしかなかった。
身体が熱くなる。
喉の渇きが激しくなる。
意識せずに、ルキアの口から声が漏れた。白い顔が上気している。頬に散る赤い血の色に、その唇から漏れる声の甘い響きに、周りの男達は唾を飲み込む。
―――恋次、恋次……っ!!
必死で名前を呼んだ。飲み込まれそうな大きな波に抗うために。
死覇装の男が映写機を構えた。かたかたという音が、ルキアの喘ぎ声と共に部屋の中に木霊する。
流佳は哂った。
これで、恋次は私のもの。
涎を垂らすような顔で、ルキアの乱れた裾から覗く白い素足を凝視している男達に、流佳は穏やかに声を掛ける。
「―――さあ、貴方達の好きにしなさいな」
その流佳の一声が合図となって、男達はルキアへ襲い掛かった。
NEXT---裸心
メールサーバーのご機嫌が悪くてなかなかアップ出来ず申し訳ございませんでした!!
そしてお待たせいたしました、奥様劇場です。
ようやく台詞が付いた浮竹隊長です(笑)地味なシーンで申し訳ない!
いよいよ本領発揮の流佳です。
頑張って悪役しています、突っ走ってます(笑)
それにしても鬼畜なシーンで続いてますねえ。すみません。
またこの先1ヶ月はお待たせしてしまうと思うのですが(笑)もうちょっと速めた方がいいですか?
それにしても、うわあ、今回は書いたのも疲れたけどアップするまでに疲れた(笑)
8時間待機だよ、ぐったりだ!
それでは、もしよろしかったらご感想くださいませ。
どうぞよろしくお願いいたします!
2005.3.14 司城 さくら