無事真央霊術院に入学した恋次とルキアは、クラスが違うので現世での虚退治の実習は共に受ける事は出来なかったが、どちらかが現世に下りればその時見聞きした珍しい物、面白い物をもう一方への土産話として用意していた。
 その日はルキアが実習から帰ってきたばかりだったので、いつものようにルキアのいきつけの甘味屋で二人は向き合って座っている。
「口上?」
 店内にいるのは若い女性客ばかりで、その客たちにくすくす笑われつつちらちら見られる事にもすっかり慣れた―――というより諦めている恋次は、汁粉の入った器を豪快に口元へ持って行きながら、そう聞き返した。
「そうなのだ、とてもかっこよかったぞ!」
 上品に、且つスピーディにあんみつを匙ですくって口元に運んでいたルキアは、いったん匙を置くと、
「なので、私はこれから虚と対峙した時は、こう名乗りを上げる事にする」
「へえ、どんなだよ」
 恋次が水を向けると、ルキアは嬉しそうに頷き、おもむろに、
「ひとつ! 人の世の生血をすすり!
 ふたつ! 不埒な悪行三昧!
 みっつ! 醜い浮世の虚を!
 退治してくれよう、我が名はルキア!」
 見得を切ってそう言ったルキアに、恋次は「おお、いいじゃねーか!」と手を叩いた。元々こういった派手な事は大好きなのだ。
「もう一パターンあったのだ。それは恋次にやる。共に『かっこいい死神』を目指すぞ!!」






「何だてめーは…!?」
「黒崎一護!てめーを倒す男だ!!」
 突然現れたオレンジ色の髪の男はそう恋次に名乗りを上げると、「で?てめーは誰だ?」と寝起きの虎のような不機嫌そうな目で恋次をねめつけた。
「俺か?」
 ふっ、と恋次は笑う。少し離れた場所から、こちらを注視しているルキアがいる。その視線を充分に意識しながら、恋次は一度、ひゅうっと蛇尾丸で空気を切り裂いた。
「…ひとつ!」
 虚と遭遇するたびに今まで何度も口にした、ルキアが恋次にと用意してくれたこの口上を、恋次は気障に口にする。
「人より力持ち!」
 ルキアの肩がびくっと波立ったのは、恋次の場所から遠すぎて彼には見えなかった。
「二つ!尸魂界を後にして!」
 一護の眉が跳ね上がる。それにも恋次は気がつかず、得意げに続けていく。
「花の現世で腕試し!」
 ルキアの肩の揺れはどんどん大きくなる。その口から、堪えきれずに声が漏れる。
「三つ!未来の大物だ!…天下の阿散井恋次!」
 一護は呆れたように、
「……おめーは『いなかっ○大将』か」
「ああ?何言ってんだ、おめー」
「あははははは!!間抜けだ、恋次!!」
「なんだと!?何で笑ってんだよ、ルキア!!」
「まさか本当に使ってるとは思いもしなかったぞ、すごいな、恋次!」
「だから一体なんだってんだ、っつーか、なんで隊長まで笑ってるんスか!?」
 顔は無表情を努めて装っているが、肩が小刻みに揺れている。笑いを堪えているのはここにいる誰の目にも明白だった。
「で?愉快なあんちゃんが『いな○っぺ大将』だってのは解ったけどよ、そっちの兄さんは誰だ?『にゃんこ先生』か?」
「……っ!に、逃げろ一護っ!!」
「……散れ、千本桜」
「うわ、大人げねえっ!っつーか、なんだよ『い○かっぺ大将』とか『にゃんこ先生』とかよ!誰か説明しろよ、おい!」
「ちょっと君達、僕のことを忘れてないか?」
「うるせえメガネ!おめーは寝てろ!」
「お前、いつも態度の割りにあっさりと負けるな?」
「君、それが助けに来た人間に対する台詞かい!?……うわ、出血がひどくなった!!」
「少し血の気を抜いた方がいいかもしれんな」
「それは黒崎の方だろう!!」
「『にゃんこ先生』も相当血の気が多そうだけどな」
「……卍解」
「うわ、本当に大人げねえっ!!」 


 この楽しいパーティー(?)は、ご近所の「うるさい!」という怒鳴り声が辺りに響き渡る5分後まで続いたという。
 ご近所さんの怒りの声に一護とルキアは慌てて逃げ出し、恋次は静かに怒る隊長を連れてとりあえず尸魂界に取って返し、雨竜は一人出血多量で倒れ伏し、通りすがりのOLに助けられるこことなる。




 






私は雨竜が好きです。
ええ、好きなんですとも。

背景に何置いていいか全くわかりませんでした(笑)
故に真白なのです。

しかし、若い人にはわからないネタかもしれません…。


2004.8.20  司条さくら