事の原因と言えば、コイツをWestBeachに呼んでしまった事が原因なので、自業自得と言えばそれまでか。
 いや、そんな筈はない。まさかいくらなんでも、そう誰もが思うだろう。高校生にもなった女が、そんな事をする筈がないと。
 俺だって思っていた。まさかいくらコイツでも、そこまで馬鹿じゃないだろうと。
 ――結果を言えば、はそこまで馬鹿だったのだ。



「――何だ、これは」
 琥一君の家に遊びに行きたいんだけど、いい?
 コイツにそんな風に小さく首を傾げて上目遣いにお願いされれば、大抵の野郎は内容も考えずに頷いてしまうだろう。勿論コイツのそんな顔を誰かに見せる気などさらさらないが、その「お願い」の威力に自覚のないコイツは、ごく普通にその兵器を使っている。その威力は凄まじく、年上だろうが年下だろうが、果ては女にさえ威力を発揮する恐ろしい兵器だ。俺でさえ知っているうちの学校の有名人、花椿カレンですらコイツのファンだと吹聴しているくらいだ。
 どうでもいい奴にさえその威力、それが「幼馴染」<? という関係である俺にとっては最終兵器だ。しかも俺が頷いた後には嬉しそうな、花が咲いた瞬間のような笑顔を見せるものだから、全く始末に負えない。
 で、だ。
 琥一君迎えに来て、という言葉に何の疑問もなくの家のインターフォンを押した俺の前に現れたのは、買い物袋を提げたと、その背後の。
「炊飯器だよ?」
 知らないの? と、きょとんと見詰めるに「知らねえ訳ねえだろう!」と一喝する。
「何で俺んち来んのに炊飯器が要るんだよ!」
「ご飯作るんだもん」
 大抵の奴が――男でさえびびる俺の一喝も、にとっては慣れたものなのか本気ではないとわかっているのか、けろりとそう返して「じゃあ行こう!」と家を出る。後ろ手に鍵をかけて重そうに炊飯器と買い物袋を持ち上げた。
「――ったく。ほら、貸せ」
「重いよ?」
「お前にとってだろうが。俺じゃ大した事ねえよ」
 ごめんね、と手渡された袋は成程結構な重さだった。両方持って歩き出した途端、一つ持つとが言い張った。別に両方持っても訳ないが、それではの気が済まないらしい。そういう所は律儀というか融通がきかないというか、まあ平気で男に自分の鞄も持たせる女は見習え。
 仕方なく袋と炊飯器、どちらが重いか確認してから軽い方の炊飯器を渡す。
「今日はね、ご飯を作るのです」
「これ見りゃわかるっつーの」
「それでね、ちょっと足りないものもあるから、琥一君の家に着いてからまた買い物に行ってもいい?」
「飯なんざ食えりゃいいんだよ。あるもので適当でいい、適当で」
「だーめ。ちゃんと食べていただきます」
 コイツがこんな事を言い出したのはわかった。何度か家に呼んだ時に、さり気なく台所を見ていたのだろう。遠慮がちに食事はどうしているのか聞かれ、琉夏が作るパンケーキか後はコンビニ弁当かジャンクフードだと答えると、は酷く難しい顔をしたのだ。
 別に飯なんて腹が膨れればそれでいい。栄養だ偏りがなどそんな言葉は全く意味を持たない。
 と俺はそう思っているのだが、は違うようだ。それがこの炊飯器と買い物袋なのだろう。
 軽口の応酬を続けていると、さすがに疲れてきたようだ。手に持った炊飯器が重くなって来たのか、の歩く速度が心なしか遅くなっている。手の痺れからか、右手から左手に炊飯器を持ち帰る瞬間にその手から炊飯器を奪い取った。
「買い物行くんだろーが。急ぐぞ」
「……ごめんね」
「別に謝る必要ねえよ」
「うん、じゃあ……ありがと、琥一君」
 またあの花が咲く瞬間の笑顔。真直ぐに俺を見詰めて全開の。
 ――炊飯器と買い物袋を持っている俺を見て、すれ違いざまに笑った野郎を殊更凶悪に睨みつけたのは、決して赤くなった顔をコイツに見られたくなかった訳じゃねえ。
 



 カウンター越しに楽しそうに料理をしているを俺はぼーっと眺めている。
 カセットコンロは一つしかないというのに、は器用に手際よく料理を作っていた。季節は夏なので、冷たい料理にしているのだろう。調理をしてはそれを冷蔵庫で冷やしていく。
 元は店舗だった所為で、調理場はこちら側からよく見える。リズミカルな包丁の音とぐつぐついう鍋の音、それがいい香りと共に俺の耳まで届いている。
 くるくる動いているを見ながら、俺はついさっきの、と一緒に行ったスーパーを思い出す。
 そこにスーパーがある事は知っていたが、今まで入ったことは一度もなかった。ここで買い物をしている奴と俺とじゃあまりにも世界が違う。で、外で待っていると主張した俺はに半ば強引にスーパーへと連れ込まれ、と並んで買い物する羽目になった。
 俺を見た主婦連中は皆一様にぎょっとした顔になるが、俺の横に立つを見てその表情を和らげる。――そして俺とを見比べて首を傾げるのだ。どういった関係か悩んでいるのだろう。不機嫌そうな俺と楽しくて仕方ないという、あからさまに普通でない雰囲気を醸している俺と小柄で明るく可愛い(俺の主観じゃねえ、客観的に見てこいつのルックスは飛び抜けている)と。
 周りの視線はともかく、一緒に買い物をするのはまあ――悪くはなかった。一緒に食べるものを一緒に選ぶという、そんな事が楽しいと思えてしまうのは――俺の柄じゃねえが。
 そんな事を考えていると、玄関(と勝手に言ってるが実際は従業員出入り口だった所だ)の開く音がしてしばらく後、ルカがひょいと顔を出した。調理場にいるに驚いた顔をする。
ちゃん?」
「あ、お帰り琉夏君」
「ただいま……って、え? 飯? 作ってくれてんの?」
「うん。もう出来るけど……すぐ食べられる? もう少し後にする?」
「すぐ!」
 やった、とルカは喜んで洗面所へと消えた。の料理の腕は調理実習後の差し入れで知っているんだろう。俺はその他にもチョコレートで知っているがその件についてはルカには言ってねえ。
 勉強も出来て運動も出来て流行にも敏感で気配りができて料理も上手くて可愛いって、コイツは一体どこの完璧超人だ。




 一言で言えば、夕飯は美味かった。
 ルカが手放しで褒めるのが当然な程の料理だった。普段食べない野菜をふんだんに、飽きさせない凝った味付けで数種類。その他にも俺たちの健啖を見越してがっつりとした肉料理。白飯に味噌汁。締めにスイカまで付いている。
 三人で馬鹿話しながら全部を平らげて、使った紙皿類を(三人分の食器なんて気の利いたものはこの家にはない)片付けて、冷たいお茶を配りながらが「美味しかった?」と心配そうに聞いてきた。琉夏は散々誉めていたが、俺は何も言わなかったので心配だったのだろう。美味かった、というと嬉しそうに笑った。
 それから三人で昔の話をしたり、トランプしたり――最初は馬鹿にしていたが結構本気になって真剣になって勝負して、ふと気付くと時計の針は10時近かった。
「っと、やべえ。、送る。用意しろ」
「え?」
「時間見ろ時間。帰るぞ、さっさとしろ」
「帰らないよ?」
「あ?」
 何言いやがったこいつ。
「今日はここに泊めてもらうの」
 琉夏君、いい? と尋ねるにルカは「いいよ」と気楽に応じている。
「よかったー! このソファ借りていい?」
「って何言ってんだ馬鹿かお前は!」
 一喝する。目の前で怒鳴った所為か、は一瞬びくっと見を竦めて恐る恐る俺を見た。
「だめ?」
「駄目に決まってんだろーがこの馬鹿! 親が心配すんだろーが、さっさと帰れ!」
「心配しないもん。だって今日家に誰も居ないし。私置いて二人で旅行に行っちゃったから。それにちゃんと友達の家に泊まるって言ってあるもん」
「友達ってな……俺たちだって言ってないだろ! 女んとこだと思われてんだよそりゃ! どこに男んとこに泊まるっつって許可する親がいるんだ!!」
「琥一君が悪いんだからね!!」
 突然キレたように怒鳴り返したの勢いに思わず俺は言葉を切った。はその勢いのままずいと俺に詰め寄る。
「こないだお化け屋敷で私を脅かすから! あれ以来、く、暗い所が怖くなっちゃったんだから! それなのに夜家に一人で居られる訳ないでしょおっ!?」
「……っ、」
「そりゃコウが悪いよなあ」
 絶句する俺の横でルカがにやにやと笑っている。完全に面白がっている。詰め寄ると不本意ながら押されている俺に面白がっている。
「責任とって、コウの部屋に泊めてやれよ」
「なこと出来るか!!」
「じゃあ俺の部屋に来る? ちゃん。ここのソファで寝たら身体によくないよ」
「ん、……そうだね、もし迷惑じゃなかったら」
 あっさりとルカの部屋へと行こうとするに、俺はこめかみを押さえて言った。ニヤニヤ笑うルカの思惑通り事が運ぶのに苦虫を100匹くらい噛み潰しながら。
「……ったよ」
「え? 何だよコウ、聞こえない」
「俺んとこでいいって言ってんだ! ベッド貸してやる!!」
 怒鳴る俺には目を丸くし、ルカはくくくっと悪魔のように笑いやがった。
 






「琥一君、怒ってる?」
「……怒ってねえよ」
「怒ってるじゃない……」
 しゅんとして俯くが抱いている枕は俺の枕で、乗っているのは俺のベッドだ。
 とりあえずシーツは替えた。枕カバーも替えた。無言でそれらを交換している俺の背中を見て、相当俺が怒っていると思ったらしいは、先程までのテンションは何処へやら酷く気落ちしている。
「迷惑かけちゃうから、私やっぱり琉夏君の部屋に……」
「行ったら本気で怒るぞコラ」
 ぎろりと睨むとがふにゃりと泣き顔になった。
「だって琥一君怒ってるんだもん……」
「まあ泊まるとかふざけたこと言いだしたのにも腹は立つが、平気でルカの部屋に泊まろうとしてる所が一番腹に据えかねる」
「何で?」
 きょとんと俺を見上げるは、つまり琉夏を男として見ていないという事か。っていう事はまさか俺もか。
「あのなあ、良く考えろ」
「え?」
「お前は女で、俺らは男だろうが。少しは身の危険を感じろ、この馬鹿」
 誰に聞いても、まさかいくらなんでも、そう思うだろう。高校生にもなった女が、男の部屋に自分から泊まりたいという筈ないと。
 俺だって思っていた。まさかいくらコイツでも、そこまで馬鹿じゃないだろうと。
 ところが、コイツは俺が思っていた以上に。
「危険? 何の?」
「――馬鹿か」
 の手首を掴んで無造作に押し倒す。の手首は細く、俺は片手での両手首を縫い止める。華奢な身体は軽く、造作もなくは俺の身体の下になった。が抱いていた枕が床に落ちる。の身を護るのは薄いTシャツ一枚だ。その襟首に手をかけて下へと引けば、大した力を入れなくてもその薄い生地はすぐに破れて形も残らないだろう。
 右足をの両足の間に入れる。これでは起き上る事が出来ない。逃げる事が出来ない。
 何度も夢想してるのだ、このベッドの上で――今のこの状況を。コイツに知られたらもう二度と、あの花が咲く瞬間の笑顔を見せてはくれなくなるであろう懸想、妄想を、俺は何度もこのベッドの上でしている。
 俺の下でが俺を見上げている。Tシャツの裾が乱れて白い肌が見える。下にルカがいるとか理性とか――そんなもんはもうどうでもいい。
 口紅を塗っていなくても綺麗な唇に、吸い寄せられるように唇を近付けた俺に――が言った。
「琥一君と一緒にいて、危険なんてある訳ないよ」
 ふわりと……笑った。
「だって、小さな頃からずっと護ってくれてたじゃない。――コウちゃんは」
 再開して初めて、は子供の頃のように俺を「コウちゃん」と呼んだ。
 見下ろすの瞳には怯えはなく、ただ純粋に俺を――
「コウちゃんのこと、信じてるから」
 確固たる自信を持って、はそう言い切った。
「…………」
 信じてるから。
 そう言われてしまえば、もう切れかけた理性を全力で引き止めるしか俺には手立てがなく――
「――お前みたいのを悪魔っていうんだな」
「あ、悪魔っ!? 琥一君、ひど……っ!!」
 ぎゃーぎゃーと批難するの手首の拘束を解いて、俺は溜息を吐きつつ起き上った。ジーンズの中では俺の本能が猛り狂って今すぐに出せと喚いているのを気力で抑えつけ、抑え込んでいたの身体から身を離す。
 ――そして俺は悪魔の本領を目の当たりにすることになる。
「えいやっ!」
 ぐい、と首に巻き付いた細い腕に、油断していた俺はベッドの――というよりの上に引き戻された。「ああっ!?」と目を剥くと「琥一君もここで寝るのっ!」と睨まれた。
「馬鹿か、お前何言って――」
「責任とってって言ったでしょ!」
「まだ責任とるようなことしてねえだろうがっ!」
「したでしょ! お化け屋敷で!」
 暗い所が怖いとか一人が怖いとか、そんな事を言ってはいた。言ってはいたが。
「――だって怖いんだもん。でも琥一君がいてくれたら怖くない」
 ぎゅうっとしがみ付かれてまた理性が焼き切れそうになる。タンクトップの俺の胸にの胸が押し付けられる。弾力があってしかもやわらかい。なんだこりゃ、嫌がらせか復讐かそれともなにか試験かこれは!?
「一緒にいて?」
 上目遣いの最終兵器。
 そして俺は――










「――何してんの」
「見りゃわかるだろーが」
 凶悪な視線でルカを睨みつけると、ルカは小さく笑いながら俺の横に腰を下ろした。俺の右手にあったバドワイザーを奪い取り勝手に呷る。
「お前の所為だぞ、ルカ」
「おかしいなあ、ベッドの軋む音が聞こえてくると思ったんだけど」
「こんなとこでするか馬鹿」
「ふーん?」
 一瞬ルカのことなど吹っ飛んでことに及ぼうとしていた俺のことなどお見通し、とでも言うようにルカは笑う。その笑顔が癪で、俺は立ち上がって冷蔵庫に向かった。
 今日はとてもじゃないが眠れない。素面でいられる状態でもない。
 はあのまま、俺にしがみ付きながら本当に寝た。俺を信じてる、という言葉通りに。
 俺としては信じてなど欲しくはないのだが。
 俺の背中に腕を回し、俺の胸に顔を埋めて、子供のようにあどけない寝息を立てているは――子供ではないのだ。
 やわらかな身体。俺の顔のすぐ下にはの頭がある。シャンプーの匂いなのか、花の香りのするにしがみ付かれたまま、俺は苦行僧のようにただじっとひたすら耐えていた。
 時折漏れる、悩ましげな声――「ん、」と上げる小さな声は行為の最中の艶めいた声を連想させ。
 そんな状態で眠気が訪れる筈はなく――逆に目は冴えるばかりだ。
 持て余す身体中を駆け抜ける欲求を吐き出すことは許されず、そんな俺が行きつく先は――酒に逃避するしかないだろう。
「天然だから始末に負えねえ……」
 ぼそっと呟くと、ルカがほんの少し同情染みた視線を俺に向けた。
 生殺し状態の俺を察したのだろう、そこはさすが兄弟だ。
「――朝まで付き合うよ?」
「当然だ」
 冷蔵庫の中にそれだけはいつも大量に置いてあるビール……次はハイネケンを取り出してルカに放る。
 耳を澄ますと波の音が聞こえる。
 の子守唄になるといい、と思った。














「何してるの、二人とも!」
 そんな声に叩き起こされ、重い瞼を抉じ開けると目の前に仁王立ちしているがいた。
 大欠伸をしながら横を見ると、ルカが同じように欠伸をしている所だった。「おはよお」と寝惚けた声でに応えている。
「おはようじゃないよ! 何この状況! 何で床で寝てるの! 何この空き缶の数!! 何この空き瓶の数!! しかもお酒って!! お酒は二十歳になってから!!!」
「あー……怒鳴るな頭に響く……」
「怒鳴らせてるのは二人でしょう!!!!」
 更なる怒鳴り声が頭に直撃して俺は思わず呻いた。隣でルカも頭を抱えて呻いている。
「こんなにお酒飲んで! しかも床で寝て!! 身体に悪いでしょうっ!?」
 怒りののお叱りの言葉はとどまる事を知らない。がんがん響くの声に顔を顰めていると、ずいとの人差し指が眼前に来た。そしてすぐそばにの顔。
「もうっ、人の気も知らないで……っ! 少しは人の気持ちも考えなさいっ! 私がどんなに痛っ!」
 言葉の途中でが悲鳴を上げて額を押さえ後ずさったのは、俺が人差指での額を弾いたからだ。一応手加減はしたが、充分には痛かったようだ。涙眼で「何っ!? ひどっ、痛っ!?」と混乱している。
「人の気を知らないのも人の気持ちを考えるのも手前だコラ。少しは俺のことも考えろ!!」
「えっ! ええっ!? 考えてるじゃない! いっつも琥一君のこと考えてるのにっ!! 琥一君のことしか考えてないよ私っ!?」
「あー俺部屋で寝てるから。痴話喧嘩するなら遠慮なくー」
 あーもう馬鹿らしいー、とぶつぶつ言いながら二階に上がって行くルカに、「え、何?」と戸惑ったようなの声が追いかける。
「痴話喧嘩って?」
「あー……もう、本当に天然は始末に負えねえ……」
 がしがしと頭を掻く。きょとんとしたの顔が目の前にある。はああ、と深い溜息を吐きながら俺はに「卒業までだ」と挑むように言った。
「卒業までは我慢してやる。だが卒業したら我慢しねえからな? 覚悟しとけよ?」
「何を?」
 首を傾げて俺を真直ぐに見るに再び溜息を吐き、俺は目の前のの髪をがしがしと掻き回した。
 





 
 その後は頭痛の所為で覇気のない俺たちに「部屋で寝てなさい」と怖い顔で追い出し、軽く寝ている間に部屋の掃除と買い物に行ったらしく、階下に降りると朝食兼昼食が出来あがっていた。二日酔い仕様で、シジミのみそ汁の純和風の朝食だ。
 その頃には頭痛も表面に出さなくても済む程度には回復していたので、を部屋に呼んで話した後に家へと送った。
 そんな悪魔の凶悪な置き土産が一つ。
「………………」
 シーツに移ったの残り香。
 鮮明に記憶に残る、の寝顔。
 耳に残って離れない、の吐息と小さな声。
 そんな状況で眠れる筈もなく。
「本当に悪魔だアイツは……」
 深い溜息を吐きつつ、俺はベッドの上で頭を抱え込んでいた。